長さ60メートル、幅8メートルもの広大な地割れ

ステファン・チン氏:2005年9月14日、エチオピア北部の人里離れたアファール地方にて地震が発生しました。比較的小規模な地震ではありましたが、これを皮切りに群発地震が発生し、続く12日間で、ほとんどが微動ではありましたが100回以上の地震が観測されました。そして9月26日、近隣のDabbahu山が噴火したのです。

Dabbahu山の噴火は、初めて観測されたものであり、頂から数キロ離れた、山麓の平らな地帯で起こりました。噴火の大きな被害はなく、重傷者は出ませんでした。数百頭のヤギとラクダが犠牲になる程度でした。

しかしこの噴火により、大地には長さ60メートル、幅8メートルにも及ぶ、広大な裂け目ができたのです。わずか10日間のできごとでした。当然のことながら、この現象は世界中の地質学者の注目を集めました。

さて、非常にドラマティックな活動に見えますが、実はこの割れ目は、アフリカで進行中の大地変動のごく一部です。アフリカ大陸は、やがて真っ二つに割け、新しい海が誕生します。現在、東アフリカでは「リフティング」という地質プロセスが進行しています。これは、地殻と上部マントルから成るテクトニックプレート(プレートを指す)が、お互いから離れつつあることを指します。

マグマのプリューム(地球のマントル深部から生じると考えられているマグマ上昇流)が、マントル深部から上昇して、アフリカプレートとアラビアプレートを分離する運動を起こし、地表に裂け目を形成していているのです。こうして形成されるのが、アフリカ大陸東部に3,000キロメートルに渡って伸びる「大地溝帯」です。

アフリカを縦断する地球の裂け目「大地溝帯」

大地溝帯は、20世紀初頭ころから研究されています。発見者は、英国の地質学者ジョン・グレゴリーです。

プレート・テクトニクス理論が認められるのは50年以上も後のことでしたが、グレゴリーは当初からその重要性に着目していました。

大地溝帯はさまざまな年代に形成された裂け目の集合体であり、地震活動の巣でもあります。何トンものマグマが湧き上がる圧力が、2005年に観測されたような地震や噴火活動を引き起こしています。

2018年刊行の論文に掲載された研究において、エチオピアとエリトリアに、2つの地震観測網を設置されました。この地震計のネットワークが記録したマグニチュード2.0以上の地震は、2年間で5,000回近くにも上りました。このような地質活動は、多くの火山を形成します。ニアムラギラ山という火山などは、1894年から1979年の間に、15回もの噴火を起こしました。

アフリカの角は島になり、新たな海峡が生まれる

東アフリカで見られるような地質活動は、実は海底で多く見られるものです。マグマが上昇して、リフトを形成し海嶺と呼ばれる地形が生まれ、大陸プレートを移動させているのです。東アフリカの現象は、地質学者にとって、このプロセスを潜水艦なしで間近で観測する絶好の機会なのです。

さて、2005年の活動は、噴火に始まった分離方向への圧力により、広大な割れ目状態のリフトが、一度に形成されたことが明らかになりました。従来このようなリフトは、地表であれ海底であれ、長い年月をかけて少しずつ形成されるものと考えられていたため、これは驚きをもって迎えられました。最終的には、「アフリカの角」は、大陸を形成するプレートから分離し、離れていくものと考えられます。

大地溝帯は広大な部分が海面より低い位置にあり、海をせき止めているのは、エリトリアのごく一部の高地です。このまま分離が進めば、リフトに海水が流れ込み、「アフリカの角」は島となり、新しい海峡が誕生することでしょう。

一つ確実に言えるのは、「人類がこの新しい海を目撃する可能性はない」ということです。このプロセスは、3,000万年もの年月をかけてゆっくりと進行し、リフトが広がる速度は、年間平均でわずか2センチメートルです。つまり、スーダンからソマリアまで船で行くようになるまでには、何千万年もかかることでしょう。しかし、それまでの私たちは、地球の大変動を目のあたりにし、人類がいなくなった後の地球の姿の予告編を見ることができるのです。