社内新規事業のための人材をどう調達するか

村上恭一氏(以下、村上):sli.doの1つの使い方として、みなさまのほかのご意見でも「いいね」を押すと、上にどんどん上がってくるので、読みやすくなります(笑)。「いいね」の数を押していただくと(そのご質問を)採択したいかなと思います。

さて、社内新規事業です。人材調達は、どうされているんですか? よくある話で、現業からエース級を外すとなると事業部長が反対する、ということがあるかと思います。その辺りについて、上田さんからどうでしょう。

上田泰志氏(以下、上田):当然新規事業にもフェーズがあります。最初のうちにアイデアを温めたり、あとはPoCをやったり、というレベルではそんなに多くの人数はいりません。そういうタイミングでは、我々は事業開発を担う経営戦略本部に一定の人財プールを持っていますので、外部と連携しながらそのなかで回しています。

ただそのあとに、具体的にスケールさせなきゃいけないということになれば、当然人事部も巻き込んで、相当な人数を一気に連れてくるということが必要になります。この場合、必要であれば当然外部人財の方にそのタイミングで同じように仲間に入っていただくということもあわせて行いますね。

村上:なるほど。(現場の人材を)いかに薄っぺらくちょっとずつ引きはがしてやりながら、スケールの瞬間にドバッと突っ込むかという仕組みがちゃんとある。

上田:まだまだ仕組みと言うほど、「こういうふうに成功してますよ」と言える事例があるわけではないので、そんなに大きくは言えませんが。でも、そうしていかなければいけないと考えています。

村上:ありがとうございます。中垣さん、どうでしょう。

数合わせの人材調達には意味がない

中垣徹二郎氏(以下、中垣):そこはやはり、社内に関してはまだ整っていない会社さんが多いです。社外と連携するチームなどはできてきて、だいぶ予算を持たれている方が増えてきたとか。

社内の部分では、やはり……そういう会社全体の活動としては(新規事業を)応援しているけれども、いざそういうことができそうな人って、エースだったりするんですよね。

村上:そうそう。

中垣:これ(エース)をひっぺがされた瞬間に、ネガティブになってしまうということがまだまだあります。それも変な話、その人の分のノルマを(エースがいた部署から)減らしてあげるのか。完璧な人ではなくても、(エースの代わりに人材を)補填するというレベルの人事制度も整っていない会社が、実はまだ多いんです。そこはもう明確な課題としてあります。

エリアでやればいいだけの話ではあるんですけど、できていなくて。やはり、(新規事業を)立ち上げている方が二足のわらじを履きながらがんばって、少しでも成功事例を作って、会社の制度まで持っていこうという段階が、いまのところほとんどですね。

村上:そうですね。日本の会社の問題は、たぶんそこの内部リソースの転換・付け替えというものにすごく苦労されていることが多いような感じがします。その辺りについて、鈴木さんは客観的に見ていてどう思われましたか。

鈴木規文氏(以下、鈴木):イノベーション活動の人材調達は、数合わせじゃないと思うんですね。結局、案件とセットで不可分なので。そもそもなにかをやろうと思ったときは、その人にその案件がきちんと張り付いている状態じゃないと成功しないと思うんですね。

「その案件は3人必要だから、3人探してきましょう」なんていうことだと、ぜんぜんダメなので。まず、(人と案件が)セットになっていることが前提かなと思っています。なので、僕は正直、数合わせ調達はあまり意味がないかなと思っています。

中長期的に人材を育てるか、外の人材と掛け合わせる

鈴木:もう1つは、少しずれちゃうんですけど、アクセラレータをやっていてすごく気づくのは……いまいる既存の社員さんたちは、オペレーションを一生懸命やられています。真面目にコツコツやっていて、すごく修練されている。そんな熟練されたオペレーションをやっている方々を、イノベーターに変えようという発想自体、なかなか無理がある。

村上:(笑)。

鈴木:正直、そう思っています。当然、なかにはダイヤモンドの原石みたいな人がいるという体験も私はしていますが、確率論としては相当低い。むしろこういうイノベーション活動を通じて、中長期的にイノベーターが近づいてくる仕掛けを作らないといけないなと。

実は、アクセラレータもその一環だと思っています。アクセラレータをやると、やっぱり学生さんたちが「おもしろそうなことをやっている会社だな」「おもしろそうな会社だから入ってみよう」というふうに見るんですよね。それも中長期的には数合わせなのかもしれないですけど、やっぱり、そのくらいの視座の高さでやらないといけないんじゃないかなと思います。

中垣:海外のコーポレートアクセラレータだと、例えば10チーム開拓するとして、7チーム(の人材は)外で、3チームは社内からあえて(選出する)。そうするとレベル感はだいぶ違ったりするんですけど、アントレプレナーとして揉ませる。たしかキリンさんがそれに近いことをやっていましたね。

鈴木:はい。

中垣:それから、ゼロワン(ブースター)さんでもやられていたことがありました。ちょっとシニカルな言い方をすると、実は日本のいまのアクセラレーターの一部においては、大企業の方がイノベーターであり、アントレプレナーに「教えてあげる」というアクセラレーターが、まだ残っていて(笑)。

実際はそれは逆で、アントレプレナーから教えてもらおうとしてやった瞬間に、実は劇的に変換が起こると思うんです。学ぶ側になった瞬間に、アクセラレーターはもっと有効活用できる。そのあとに、まさに鈴木さんがおっしゃったようにイノベーターが生まれてくるということがあります。

村上:そうですね、「こことここの経営資金が足りないから貸してくれ」というほうが、よっぽどうまくレバレッジが効く。

中垣:はい。

村上:おそらく欠けているから、レバレッジというテコの原理で、どれくらい小さなお金でどれくらい動かすかというところなんですか。その辺りでなにか苦労されたとか。いやいやまだまだ、とか。本音の部分はどうですか。

社内に新規事業が生まれる土壌をつくっていく

上田:先ほどの人材調達と若干ずれるかもしれませんけれど、うちの場合、アクセラレータープログラムですとか、ファンドのみなさまがた、フューチャーキャピタルのみなさまからソーシングしていただくこととは別に、社内に「JUMP!!!」という名前の、いわゆる新規事業公募制度もあります。

何次審査かで選考していきますが、最終的に残った場合、「自分でやりたいですか、それとも事業開発部門に任せたいですか」ということもあらかじめ聞いておきます。そして、最終審査を通過すればやりたい人が自分でトライできる可能性がある、という制度です。

村上:なるほど。

上田:それ以外に、事業開発人財育成の研修制度もあります。何回かに分けて、チームに分かれて、実際に事業開発の卵を自分たちで作ってみる、ということをやっているプログラムもあります。

こうしたいくつかのものを組み合わせていかないと、1つのプログラムだけで全部を解決するのは難しいだろうなと思っているので、十重二十重に重ねていくことが大事かな、とは思いますね。

村上:土壌づくりのような感じですよね。土地を耕してやっていかないと、なかなかうまくいかない。

上田:そうですね。

鈴木:上田さんに質問が1つあるんですけど。

村上:どうぞどうぞ。

鈴木:当然いろいろな仕掛けをして……答えがないとは私も思っているんですけど。先ほど「社員に提案をさせて、自分はやらない」とおっしゃっていましたが、(自分以外の人に)「やってください」というもので、いいプランは出てくるんですか?

中垣:同じことですよ(笑)。

鈴木:あ、そうか(笑)。

(会場笑)

社内公募制度が組織の風土を醸成

上田:そもそも提案のなかには、「いまの業務を改善する」というレベルのものもあれば、「まったく0から1を生み出す」ものまで、相当幅はあります。実はそこも制度では、「改善・進化」というコースと、「0から1を作るんだ」というコースを分けてやったりしているんです。

一方で「任せます」というもののなかで、いいものがあるかどうかは難しいところです。ただ我々が思っていることは、その社内公募制度は、いい人財を見つけてくる・いい事業を掘り起こすこともそうなんですが、実は風土醸成という意味合いもすごく強くあります。

改善提案でもいいので、いろいろなことをどんどん会社に言えるという制度ですね。これを作っておくことが非常に重要だろうということで、いまはそういう制度にしています。ただこれにも、やっぱりいろいろな課題が見えてきているので、年々改善し続けていますから、また来年は変えるかもしれませんけど、いまはそういう取り組みとなっています。

鈴木:ありがとうございます。

村上:(場が)いい感じに温まっているので、私はモデレーターですから、ぜひ突っ込むところがあったらご自由に、という感じなんですが(笑)。

(一同笑)

私の経験で一番おもしろかったのは、社内のビジネスプランのコンテストをやるんだというもので。嫌々受けたんだけど、受けてよかったなと思ったんです。役員の前に出ていったら、オーナー社長がいきなり立ち上がって、「お前、ちょっとあとで来い」と言って、部長などを集めて。

なにを始めたのかと思ったら、「あいつがこうなったらこうなるだろ」というような、バイネームがバンバン表示されて、「お前、明日からその事業部の責任者だ。明日の朝までに誰と誰がほしい、何人ほしいのかをバイネームで言ってこい」と。

「えっ、いまの事業は?」と言ったら、「いまお前のところの部長と話をつけて、後任はこいつにするから」というような(笑)。

(会場笑)

「へ?」というか、やっているこっちのほうがびっくりして(笑)。「本当にいいんですか、これ」というような。(でも、クライアントは)「こんないい話はないだろう、村上先生ありがとう」というくらいにリードしてくれて。(その仕事を)受けてよかったんですね。

関西のほうにある、いろいろな商品をちょこちょこと出しては、失敗した商品も多い会社なんですけど……たぶんあれは学習代になっていると思います。やっぱり、(企業)風土というのはそういうものかなと思いました。

「儲かるか」ではなく「お客さまにとって本当に価値があるか」

村上:実は読み上げてはいなかったんですが、さっきから、ちらちらsli.doの意見を見ていました。一番多いのが、「新規事業創出のときに、予算計画と事業計画はどうしているんでしょうか」と。「成功確率が低いなか、収益目標や可能投資額でどういう工夫をしているのかを知りたい」ということなんですが。

事業計画などの関係は、上田さんのところでどうされているのか、ちょっとお話を(聞かせてください)。

上田:当然、なにもない状態のときにいきなり事業計画ということは有り得ないので。まずは実験(PoC)をして、これは本当にバリューがあるのかどうか、まずはそこを試します。最初の段階からいきなり「儲かるのか」という話だけを詰めだすと先に進めなくなるので、「まずお客さまにとって本当に価値があるのか」ということをやります。

それをだんだん大きくしていきますが、お金もそうですし、人も含めて増やしていくというタイミングには、当然「投資判断」が必要ということになりますから。具体的には申し上げられませんが、どのくらいのIRR(内部収益率)にならなきゃいけないんだというような、投資する時の一定の基準のようなものがあります。

ある特定のバーを超える時には、それを本当に超えられるだけの蓋然性があるかどうかということをかなり厳しくチェックして、それで投資をします。つまり、最初はある程度チャレンジ型でやるんですけど、あるタイミングを超える時にはけっこう厳しくやる。そういうメリハリですかね。

村上:小さなお試しをたくさん回して、その中からという感じですか。

上田:そうですね。やっぱりチャレンジをしないと、そのなかで本当にうまくいくものが出てくるとは思えないので、そういうトライは必要かなと思います。

村上:なるほど、ありがとうございます。日本だと、意外と逆の会社がけっこう多い感じなんですが。中垣さん、どうでしょう。

ゼロイチを作る感覚がないと、アイデアコンテストに陥る

中垣:私がある事業会社さんで、まさに社内新規事業の創出コンテストのようなもののメンターをやっていた時の話です。1次審査を終えて、一定の時間、とりあえず3ヶ月走らせよう、ということをやったときに、2次の採択でもう1回作りなおして、ちゃんと予算が組めるまでもってこい、という話になったら、結局誰もやれなかったんですね。

村上:ですよね(笑)。

中垣:それで、次はもうちょっと定性的なマイルストーン設定をしました。要は、ほとんど「課題が抽出できたかどうか」に(話が)尽きているんです。そこ(議題)が見えたらいいよ、という話なんですよ。

そういった時に、なにをもって課題が抽出されるかをもう1回チューニングしているんですが、それを間違えていたり。「プレゼンテーションに説得力がある」ということで終わっていることが多いんですよ。

これは、実はまさに新しい事業、ゼロイチの感覚を持ってない……すみません、ちょっと批判的になってしまいますが、その会社の役員さんが審査(員)だったりするときに、(そこを)わかっていないとか。そういう時って、結局1次審査も2次審査も最終審査も、アイデアコンテストにしかならないんですね。

村上:そうそう。

中垣:どちらかと言うと、1次から本格的にやらせるかどうかって、実は誰がやるかという話もすごく大事です。例えばその人が、まさにいま流行りのデザインシンキングでいうところで一番大切な「お客さまの声」を聞く。未来の顧客の声を聞いたり、ちゃんと見てくる。

どれだけ時間をかけて、どれだけのファネルに対して接触してきたか。そういうプロセスの中で、アイデアが微妙に変わってくることはいくらでもあるんですが、そこで生まれてきたものに説得力があるかが一番大事です。アイデアを磨くことだけで、「ヒアリングをどれくらいしましたか」と言うと、2ヶ月経っても「10件です」という人が(います)。

村上:(笑)。

中垣:「じゃあ、なにをやっていたの」と聞いたら、「アイデアをずっと練っていました」というような人は、もうその時点でアウトなんですけど、それを間違えているケースがすごく多い。

優秀な起業家ほど、きれいな事業計画書は書かない

村上:ありますね。これは言えば当たり前なんですけど、ちょっと補足させていただくと、旅行業はそもそもお客さまの協力がないと成り立たないんですよ。だって集合時間にお客さまが来なかったら、ツアーそのものが成り立たないとかですね(笑)。

つまり、お客さまの声を聞くことが当たり前になっている業種と、製造業のように研究開発所のなかでなにか(をつくる)というかたちだと、言っている文脈がぜんぜん嚙み合わないかもしれないので。(顧客の声を)聞かれたときの前提を普通にサラッとおっしゃっていますけれども、当然お客さまと一緒に作りこんでいって、どこでデカくなるかを見ている。

逆にそうではないところは、いまのようなことが起きるのですが、鈴木さんはそのあたりはどうですか。

鈴木:オープニングトークでも言った話ですね。ゼロイチの事業というのは割り切れないものなので、どれだけ精緻な事業計画を作っても、100パーセント外れることがわかっている計画じゃないですか。ただ、僕も大企業にいたので、大手企業がいわゆる事業計画を書かないといけないというのはよくわかります。書けばいいんですけど、みなさまが非常にそれに固執するんですよね。華々しくて、みんなが合意しやすい事業計画を作りたがるんですよ。

そこを目標化するというところが問題であって。優秀な起業家はみんな、事業計画をあまりきれいには書いていないんですよ。やっぱり、(資金)調達をする時に書かざるを得ないから書く、などということで書いているので。そんな感じですよね。

村上:500 Startupsのデイブ・マクルーアが日本にやってきたときに、「ris lies and bullshit against bullshit(やれやれ)」と言いきりましたからね。

「そんなもの(事業計画書)を書くのがうまいやつは、政治家か小説家になったほうがいい。どうせお前の欲望かウソしか書いていないんだから、我々は絶対にそんなものを見ない」と。見ているとすると、せいぜい「この規模のことをやりたいんだったら、どれくらいのコストがかかるのかということを、本人がどれくらい認識しているのか」(ということくらいだ、と)。

むしろそっちのほうが重要で、「売上? そんなものやってみないとわかんねーだろ」と(笑)。そんなウソみたいな書類は見ない、と明言していましたよね。

お客さまの声を聞くことに勝る説得力はない

鈴木:僕も社内の新規事業をやったことがあるし、独立して起業したこともありますけど、事業計画を作るのは、割り切れるから楽なんですよ。市場は割り切れないものなので。割り切れずにカオスの旅をするのはつらいので、やっぱりどうしてもなにか成果物がほしくなっちゃうんです。きれいな計画って、なにかやった気になってしまうんですよね。それは大変難しいなと思います。

村上:(参加者の書き込みに)なんだかみなさま、「苦労されているな」というのがつくづく(笑)。

(会場笑)

「上司の理解がないんですけど、どうしたらいいんでしょう」という、切実な(書き込みがあります)……(笑)。

(会場笑)

これが一昔前だったら、我々大学の教員が担当していて、〇〇大学の超偉い先生がやってきたから、社内で人事部や新規事業部を呼んできて、役員も前に揃えて、「〇〇先生に顔が立たないから、役員の方もスケジュール空けて!」と言って、そういう話を聞かせることがよくありました。

(上田さんはJTBの)役員さんでもあるんですけど、苦労されているんじゃないかと思うところがあるので(笑)。話せる範囲内でなにか、みなさまの参考になることがあれば。

上田:さっきの繰り返しなんですが、いい企画書や精緻な計画を作ることも大切ですが、やっぱり目の当たりにしてもらうことに勝るものはないと思っています。

例えば、我々からすると現在の旅行業モデルがどんどん外部から破壊されているわけなんですけど。具体的に破壊されているサービスを目の当たりにしてもらうことや、破壊的なサービスを利用しているお客さまの声を実際に聞いてもらうこと。そのことに勝る説得力はないと思うんですね。

外の力を使ってどうやって意識を変えていくかということは、当然会社全体にも必要ですけど、マネジメント層の意識改革でも不可欠なことなんだろうと思っています。

「上司の理解がない」ということの根深い問題

村上:なるほどね。よくあるパターンですけど……僕は百貨店にいたのでよくわかるんですが、ディスカウンターが出てきた頃はまだ「バッタ屋」と呼ばれていたんです。「品質が悪くて、ろくなものを売っていないからすぐに潰れるよ」と。歴史的に言うと、潰れたのは百貨店のほうじゃないかなと思うんですけど、その認識はしゃべれないな、という(笑)。

(会場笑)

そういうもので言うと、実際に行っているお客さまの声を聞くとか、利用してもらうということですかね。

上田:そうですね。

村上:中垣さんは、投資する側から見ていてどうですか。

中垣:先ほどの質問で「上司の~」という話があったと思います。これもまた、どちらかと言うと悲しい事例のほうになりますけど……。上司って、多くの場合は中間管理職の方です。ただ、まさにオープンイノベーションやコーポレートベンチャリングのような話をしているなかで、根本的にすごく苦しいことがあるんです。

さっきのJTBさんの第3の創業や、そのなかでビジネスモデルのイメージなども含めて、最初に言われたソリューションやスピリッツのイメージをちゃんと持っていることは、実はものすごく大事なんです。そういうものがないのに、なにをやるんだろうというのがあるんですけれども。

実は「トップのコミット」と言う人がいっぱいいます。それも当たり前なんですけど、コミットなので「オープンイノベーションやるよ」と言ったりするんですけど……。自分たちの会社が、10年後・20年後にどうなっているかをクリアに示せている会社さんが、実はまだまだ少なくて。

村上:そうですね……。

中垣:これ(ビジョンを示せること)が本当の上司のコミットであって。それがあれば、まずは総論として乗っているかどうかということがあって、あとは各論なり戦略の話です。(そのうえで)「これはいい、悪い」という話だったらいいんですけど。

これ(ビジョンの共有)がないと、そもそも嚙みあっていない可能性があります。もしその上司の方というか、会社にそれがないとすると、上司の問題というか、会社全体のマネジメントの問題なので、相当根深い。

ただ残念ながら、デジタライゼーションといった大きな変革の中で、ビジネスモデルを変換することとか、どういうかたちをとっていくかということについて、まだ悩んでいらっしゃる会社さんが、日本には非常に多いんです。だとすると、根深い可能性がある。上司の問題だけじゃないかもしれない。

君はどういう世界をつくりたいのか

村上:海外のスタートアップと話してきて思うんですけど、必ず出てきて、必ず答えなきゃいけないのが、「君はどういう世界をつくりたいのか」という質問です。これに答えられないと、誰も相手にしてくれない。逆に、去年Kaospilots(デンマークにあるビジネスデザインスクール)へ行ってきたんですが、やっぱり教育している内容も全部それで、どういう社会にしたいんだ、と。

ちょっと自分の経験から言うと……(笑)。彼は公の前で話しているから大丈夫だと思うんですけど、SXSWにいた某アバターを出すというプレゼンテーションをやったときに、そこ(のビジョン)なしでやってしまったんですよ。アバターのテクニカルな説明ばかりしたら、30何チーム中28位くらいで。

それで、あとから返ってきた質問が、ストレートに「お前はそれを軍事に使いたいんだろう」と。「そんなものをSXSWに出すって、どういうつもりだ」と言われたので、あわてて翌日のプレゼンを変えたそうです。

「いや違う」と。「我々日本は課題先進国だ」と。離島などでも現実に医者もいないので、そこにアバターを送り込んで、医者の代わりをするような世界を作りたいんだ、と言ったら、一気に3位くらいにジャンプアップしたという(笑)。そういう話をしていました。

そうした経験がなかったりすると、(ビジョンの重要性が)わからなくて、いきなり技術水準から話してしまう、という。その辺り、鈴木さんはどうですかね。

鈴木:これもオープニングトークで言ったんですけども、上司も含めて社内を全員応援者にするのは、不可能ですよ。なので、いかに……「邪魔されない」という言葉を使ったんですけど。

(会場笑)

いかに邪魔されない状態を作るかですね。とてもわかりやすくて、我々もよくやっているんですけど、やっぱり役員や上司の方にきちんと説明に行っているんですね。当然そこではぜんぜんアグリーしてくれないですよ。ただやっぱり説明に行くと、邪魔する力は弱くなるんですよね。なので、そういう手続きはやっぱりしないといけないし。

アクセラレーターやカタリストが周囲に与える影響

鈴木:もう1つ、アクセラレータ-は、社内を巻き込むものすごいツールなんです。とくにコンテストの時期と、デモデイですね。我々は積極的に、社内の人に「来てくれ」と言っているんですね。とくに役員に。

村上:あぁー。

鈴木:当然スタートアップの人たちをお披露目することも目的ですけど、実は明確にかなりの社員の方にメッセージしたんです。やっぱり、社内の方をこのオープンイノベーションの世界に巻き込もう、ということを一生懸命仕掛けています。

そうすると、みなさまもけっこう感動されますよ。やっぱり社内の方とこういう活動するのって新鮮で、実は心の中で望んでいたりするんですよね。みなさま喜ばれますよ。

村上:最近は運動会もやらなくなったので、社内のお祭りが少なくなっているから、ある意味お祭りにさせていく。……オマツリジャパンに頼んでみるとか。

(会場笑)

それは冗談として(笑)。関連する質問で、カタリストの選出とか、あるいはカタリストを含めたかたちの新規事業人材の人事制度について、なにか配慮しているかという質問が来ています。これはどちらかと言うと、上田さんと鈴木さんが中心になるかなと思うんですけど。人事制度上、どういうことになっているでしょうか。

上田:今回のアクセラレータープログラムでは4社を採択をさせていただき、各会社さまにカタリストを付けました。とくに人事制度でというのはないんですけれども、我々経営戦略部門の「間違いない」という人間です。

彼らには、仕事のミッションとして「事業開発」が一定割合のミッションとして明確に謳われています。その前提でやっているので、新規事業に時間を使うことはまったく障壁ではないということです。

ただ一方で、カタリストを介して既存事業側と連携しなきゃいけないんですが、各事業側にとってみると、「これをやることによって、どういう意味や成果があるんだろう」というようなことをちゃんと落とし込んでいくことが重要です。やっぱり、巻き込む力がカタリストに相当必要となっていますので。彼ら自身の意識改革にも大いに効果があったかと思います。

村上:なるほど。ありがとうございます、中垣さんからはどうですか。

中垣:うーん……いったん鈴木さんに。

(会場笑)

手を挙げられる場と応援してくれる仲間がいる組織づくり

鈴木:まず仕組みとしては、必ず手挙げ制ですね。自分でやってみたい(人にやってもらう)。日本人に限らずだと思うんですけど、正直、多くの方は自分から旗を振りたくないんですよね。むしろ応援したい人のほうがはるかに多いので。

(会場笑)

社内にも確率論としてはいますよ。ぜひ社外のスタートアップとイノベーションをやってみたい、なにか変わりたい、(という人は)いっぱいいるんですよ。(そういう人に)手を挙げてやってもらえばいい、ということが1つですね。

じゃあそういうふうに「やってみたい!」と言った人に対して、人事手続き的にいろいろ配慮する必要があるかと言うと、そもそも手を挙げたので実はあまり必要ない、ということが大きいと思います。

会社によっては、「スタートアップを連れていくのでカタリストをやってくれ」「自分の業務時間を10パーセント使っていいよ」というような人事的な配慮をする会社さんもありますし、まったくない会社もありますけれど、手を挙げているんですから楽しいんですよ。楽しいからやっているんですよ。内発的動機でやっているんですね。

そうなってくると、仲よくなると夜な夜な一緒に酒を飲みに行ったりとかですね。

村上:(笑)。

鈴木:夜中一緒にSlackを使って仕事したり、土日に一緒に展示会へ行ったりして、楽しくやっているんですよ。それで、「おもしろい」と言っているんですね。いいじゃないですか。

僕ももともと大手の人事にいたんですけど、どうしても大手企業は「人事的にどうだ」「労務問題がナントカ」と始まるんです。そんなことより、自分が本当にやりたいかやりたくないかのほうがはるかに大事で、そういう人たちをどれだけ巻き込めているかかな、と思いますね。

中垣:確かに僕もいろいろな事業会社の人と話をしていて、「なにかリスクを負ったことに対して、初めから明確なインセンティブを持たせてくれ」というような意見って、実はそんなに(聞かないんです)。よくも悪くも日本の文化なのかもしれないですけど。

それよりも、マイナスにならない、邪魔されない、というような話があれば、実はやりたいことをやらせてもらったり、チャレンジさせてもらえたりすること自体が(インセンティブになっている)。

たぶん過去数十年はそれができなかったからだと思うんですけど、ものすごくポジティブに働いていて。やらせてもらうこと自体をまずはインセンティブにできている、というケースは確かに多いです。あとはそれを継続的にやっていったり、もう一段押すためには、僕はニンジンがあったほうがいいとは思うんですけど。たぶん、次の段階にはいるかもしれないですね。

村上:むしろニンジンよりも、一緒に応援してくれる仲間がいるほうがすごく重要だったりするんじゃないかなと。そういう組織文化を作っていくということが重要じゃないかなと思いますね。

よく私も「村上先生って、それだけやっていて会社とか興さないんですか?」って、言われるんですけど。「興している人を応援している」と言ったら、学生がキョトンとしている。「でも、応援するほうを否定したら、お前がステージに立ったときに誰も観客として来てくれていないという意味だからね。そこはわかってる?」という話をよくしています。

まだまだ話したいんですけど時間もきたので、このあとシンポジウムに残られる方はぜひ懇親会で。これこそ本当に酒を飲みながら、ゆっくり語っていただければと思います。じゃあみなさま、ご協力ありがとうございました。

(会場拍手)