ゲスト全員との質疑応答がスタート

金亨哲氏(以下、金):石井さん、ありがとうございます。では改めて雅子さんと島津さんをお招きしたいなと思います。この後は石井さんから進めていただくかたちで大丈夫ですか?

石井遼介氏(以下、石井):はい。たぶん雅子さんは、「禅を科学的に見てみました」という話って、恐らく初めて聞いていただいたかと思います。

「科学的にこうですよ」とか「アメリカではこうだけど日本ではこうかも」という話に合わせて、「あっ、私がやってきたことって、ここに近いな」とか「これは違うんじゃない?」といったことがあればお聞きしたいです。

武田雅子氏(以下、武田):違うんじゃないかというのは、ぜんぜんないです。

私はクレディセゾンにいたころから、前野先生の「みんなで幸せでい続ける経営研究会」でお話を聞いていたことがあるので、今日のお話はとても自分とフィット感がありました。さっき挙げていただいた4つの因子も、異能のウエルカム以外は、前野先生のおっしゃっている4つの因子と重なるものもあるのかなと。

石井:なるほど、ありがとうございます。では、会場から質問をお受けしてしまってもいいですか? サイエンスのことでもいいですし、第1部でもっと雅子さんに聞きたかったとか、これだけは聞かないと帰れないとか、いろんなご質問があろうかと思いますので。

心理的安全性を感じる力は開発可能か

質問者A:お話ありがとうございます。心理的安全性の話をするときに、場を繕うという話がけっこう多いと思うんですね。場を繕うのにリーダーが必要だという話も理解しているんですけど、心理的安全性を感じるというのは、結局個人の主観になると思うんです。

人によって「それで心理的安全性はないと感じてしまうの?」みたいな人もいれば、なにがあっても心理的安全性だと感じている人もいて、個人差があると思うんです。その、心理的安全性を感じる力というのは開発可能なのかどうか。育成できるかどうかみたいな視点で、実践での経験も踏まえて、ご意見いただけるとありがたいです。

武田:人によって格差はあるんじゃないかと。たぶんそれって、今の研究のお話というよりは、普通にテーブルに着いていればわかりますよね。誰が安心してないか、この人はまだ緊張しているなとかって。ぜんぜん心開いてないでしょ、なんてわかりますから。

場合によっては、後で話を聞くかもしれないし、前もってそれがわかっているときや、逆に「ちょっと危険だな」といった場合には、先手を打つということもやります。

石井:場というかやり方の問題でいうと、日本人に対して、みんなのいるところで「手を挙げて意見を言え」というのはちょっとハードルが高い。でも「思っていることを紙に書いてください」と言って、第2ステップとしてそれをただ読み上げてくださいというと、上手く発言できる確率が上がったりします。

島津清彦氏(以下、島津):結局、不安というか心理的安全じゃない状態というのは、相手の気持ちがわからないというのがけっこう大きいと思うんですね。相手が何を考えているわからない不安ていうか。

人の気持ちがわかるようになるための感覚を磨くことに、僕はEQにすごく注目していて。相手の気持ちがわかるEQは後天的に開発できると言われているんですね。

たくさん論文があると思うんですけども、僕はその中でEQを高めていくためには、摩擦を起こしながらでも相手と距離を詰めていくということが1つ。もう1つは、禅とかマインドフルネスでEQが高まるということはわかってきているということで。それで開発できると思っています。

石井:お答えになってますでしょうか。

質問者A:はい。ありがとうございます。

結果を出したことではなく、参加してくれたプロセスに感謝する

質問者B:タスクについて、コンフリクトが起きても心理的安全性の場があれば、むしろ業績にはプラスだという研究結果があるというお話がありました。実態としてタスクのコンフリクトは、「Aがいいです」「Bがいいです」「Cがいいです」といったかたちで毎日のようにあります。

それで最後にAだと決めたときに、BやCを推していた人が、「自分の意見が採用されなかった」と思いますよね。自分は評価がされてないのではないかみたいな心理が働くこともあって、結果として、だんだん心理的安全性という場からどんどん遠ざかっていくという、リアルな場で今悩んでいます。それに対する処方箋というか、どうしていくのがやり方としていいのかについて、ぜひお聞きしたいと思います。

武田:絶対になにかを選ばないといけないわけですよね。リーダーが最終的には決断をしなければいけないと思うので、そのための材料はできるだけたくさんあったほうがいいし、そのためにはBもCもきっと必要だったと思うんですね。例えば、話し合いをしているプロセスで、BとかCとかその結論ではなくて、そのプロセスにどう関わってくれたかが大事だったりします。

感謝できることがあれば、そのことをフィードバックしてあげるのは大事です。コトとヒトって別だと、私は思っているので、「あなたがこのプロセスにいてくれたことで、すごく価値が生まれた。今回はたまたま結果としてAを採択したけど」って。ただ、Aさん、Bさん、Cさんそれぞれに競争心があってメラメラ状態だと、それはすでに安全な場ではないので難しくなってくるなと思いました。

最終的に「良いものをアウトプットとして出そう」ということをみんなで握れていて、そこが安全な場であればクリアできるんじゃないかなと思います。私自身もそうやってきました。なので、ちょっとコトとヒトをわけてみることですかね。

でも競争したいんですよね、みんな。やっぱり自分を優位に見せたいし。そういう人たちは確実にいます。ただ、なにがそこまで競争に掻き立てているのかというのは、面談とかで聞くと良いかもしれないです。けっこうつまらないことでメラメラしていることが多いので。筋肉って柔らかいほど柔軟に動いて力が出るじゃないですか。なので力を抜いてもらって。呼吸が浅い状態でこうやって会議に来ていてもあんまり意味がないよって、どこかでアドバイスしてあげると、もっと伸び伸びできるんじゃないでしょうか。

まわりを変えるのではなく、まず自分が変わる

質問者C:お話をありがとうございました。心理的安全性を作るためにリーダーシップが大切と話があったのですが、私は新入社員のペーペーで。でも、組織とかチームの心理的安全性を高めたいという思いもあって、今日のイベントに参加した次第なんです。ボトムからできる方法みたいなものがあれば教えていただければと思います。

島津:心理的安全性を構築する方法とか、手段みたいなところにすぐ話が行きがちですよね。でもその「どうしたら」「なにをしたら」みたいな手段にばかり走ることを実はとっても危惧しているところもあって。入社1年目の新人が「変えてやるぞ」と無理やり組織を変えようと思っても、これはやっぱり難しいわけじゃないですか。だから、まずは自分自身ができることから変わっていくと。自分が変わることでまわりも変わっていく、という話が先ほど雅子さんからもありましたよね。

まずは自分の中で、人との接し方だったり、考え方を少しずつ変えていくことから始める。急がば回れじゃないですが、 「自分ができることはなにか」を考えて、1つひとつやっていくのが大切だと思います。すみません。抽象的かもしれませんけど。

武田:その上司の方って、すごく怖い方ですか?

質問者C:いや、上司はそんなに怖くないです。上司も変えようとはしているものの、なかなかチームが変わらない状態で。自分もその組織運営に関わらせてもらっているので、モヤモヤモヤモヤしているんです。

武田:ほう、最高の環境じゃないですか! そういうときに1番良いのは「窮屈です」って言うんですよ。もっとできることがあるはずなんだけど、ちょっと窮屈なのを1年生として感じている。なので「どうしたら良いでしょう?」って聞いちゃえばいいんじゃないでしょうか。これってスキルとかテクニックとかの問題じゃなくて。自分の感じていることをそのまま相手に伝えるって原始的なんですけど、ビジネスのシーンでそれをしない人ってすごく多いんですよ。すごく大事なことなのにね。それを今から身につけたら最強になると思いますよ。がんばってください。

質問者C:ありがとうございます。

知ったかぶりをせず、一度きちんと絶望する

質問者D:ちょうど今のご質問にもあったのですけども、心理的安全性の判断基準というところで、自他ともにありのままの自分でいる状態だというところと、今お話にあったように、相手を変えることはなかなか難しいからまずは自分からだというのは、たぶん頭ではわかっている方は多いと思うんですよ。

変化に対する耐性のようなものがあって、一歩踏み出すにはなにかきっかけが必要だったりすると思うんですね。そのエネルギーとかモチベートされるものって、なにかあれば教えていただけたらなと思うのですけども。

石井:直接の答えになるかわからないですけど、「1回ちゃんと絶望する」って大事だなと思っていて。あまりできていなかったりしても、人ってプライドがあるので「いや、俺はできているし」みたいに装ったりしてしまうじゃないですか。「ぜんぜんできてなかったよ」みたいなことを認めてちゃんと絶望できると、それってもう自分で認めたことなので、いちいち「いや、俺はできますけど」とか言わなくてよくなるんですよね。

絶望するのはつらいんですけど、絶望しないまま、できたふりをしている人は役に立たないので。なにか上手くいってないことがあったら「それ、俺は本当はぜんぜん得意じゃない」とか、「それは僕にはできません」って言ったほうがいいんじゃないかと。ちゃんと絶望できると前に進めると思うんですよね。

島津:僕のおすすめのワークは、辞表を書くということですね(会場どよめく)。僕は会社員時代、辞表を書いてずっとカバンにしまっていたんですよね。なんでかって言うと、追い詰められて苦しいのは、自分の立場を守ろうとする執着が原因だったことに気がついたからなんです。結局辞表は出さなかったんですけど、いざ書いたときにはすごくスッキリして。次の日の難しい会議のときに、自分らしくボーンと発言できたんですよね。「あなた(上司)の考えは違うと思います」って。

相手の反応も変わっていったんですよね。辞表を1回本当に書いてみると、自分が執着していたことに気づけるので、けっこう効果はあると思います。だから、僕は実際にいつもカバンに入れていました。その後46歳で本当に辞めてしまいましたけど(笑)。

(会場笑)

武田:私はそれを「壁を触る経験」と言っていて、プールでターンするときをイメージしてほしいんですけど、ギリギリのところまでたどり着けていると、大きく動けるんです。一旦もう壁まできたんだから、次はどう行こうかとなる。壁を触った経験をした方というのは思いきりが良いし、すごくパワフルだし、判断も早いのかなと。

前職に入社したとき「これって誰の役に立ってるんだっけ?」ということを、あまり先輩は教えてくれなかったんです。だけど自分なりに考えて「ああ、こういうこと。ビジネスの仕組みってこうなっているんだ、誰の役に立っているんだということを、自分なりに腹落ちできるようにしました、自分で自分のためにやっている仕事って、たかが知れているんですよ。絶対に自分の身の丈以上にいかないんです。誰かのためとか、これに役立つんだっていう絵が描けると、びっくりするぐらいのパワーや成果が出てきます。

質問者D:ありがとうございます。

ミスしたらダメだと戒めても、ミスは絶対なくならない

質問者E:お話をありがとうございます。小さい組織とかスタートアップに関わる機会が多いんですけど、結果が出ない期間って、チームにおいて学習することが求められる期間だと思うんです。結果が出ているときってけっこうみんなハッピーに働いているので「あれもやったほうがいいんじゃない、これもやったほうがいいんじゃない」って、すごく心理的安全性が高いと思うんですね。だけど、結果が出てない期間に対してどう心理的安全性を活かしていくか、なにかお考えがあればお話を聞かせていただければと思います。

石井:そうですね、例えば世界レベルのプロスポーツ選手たちの話をしたいんですけれども、、スポーツの分野によっては「ミスしたら終わりだ」というスポーツをやっていますよね。でも、「ミスしたらダメだ」と思って取り組んでいても、別にミスってなくならないんですよ。それどころか、動きが固くなって、逆にスポーツに打ち込めなくなってしまう。

状況が悪いときにお尻を叩かなきゃ、詰めなきゃって人間は自然に思ってしまうんですけど、「それをやって成果が上がるんでしたっけ?」ってところからもう1度考え直したほうがいいと思いますね。状況がヤバイからなんとかしたいのは一緒なので、お互いにお前のせいだと罵り合ってもなにも解決しないよと。さっきの絶望の話とも近いですけど、「役に立たないから止めよう」というスイッチが入るといいんじゃないかなと思います。

武田:成果がまだ出てない期間ですよね。ミスが起きている状態ですか?

質問者E:ミスが起きていたりとか、ミスが起き続けることによって、なにをやっても無駄だなと思ってしまう状態ですね。チームが目の前の小さいことをやるのに集中していて、その状況をなんとかすることにあまり意識が向いていないということです。

武田:なるほど。ミスがいっぱい出ているのであれば、その分学びも大きいですよね。きっと手の中に残ったものはその対象物だけではなくて、例えばメンタリティだったりとか、いろんなものが副産物として絶対にあると思うんですよ。

前職でみんなの共通言語にしてもらったんですけど、「PDLA」、つまりPLAN、DO、LEARN、ACTIONです。どうしても成果が出ない期間って必ずあるもので、そのときの心理的安全性についてはリーダーが死ぬ気で守っていけばいいと思いますし、そういうときほどリーダーって未来を見るとか、楽観性が大事なんじゃないかなって思っています。

大事なことなんですが、座っているとそういう状況でも比較的ハッピーなんですよね。座禅をやっている人って、ちょっとテンション高いというか、感謝とかハッピー度の精査がすごく高いんです。普通のことでも普通以上にハッピーになれるんですよ。そのときにまわりの人たちにシェアしてあげるとか、フィードバックしてあげるのがリーダーの役割なんじゃないかなと思います。

質問者E:ありがとうございます。

たまにしか合わない関係性の人たちと心理的安全性を築くには

質問者F:貴重なお話ありがとうございます。私は、うちの経営層に心理的安全性の重要性を証明したいと思っていて。

武田:すごい頷いている人がめっちゃ多いですけど(笑)。

(会場笑)

質問者F:さっき武田さんがおっしゃられたように、スモールステップでスモールサクセスを作っていきたいと改めて思いました。1つご相談としましては、スモールサクセスでファクトを作っていくために、まず自分のチームだけでも心理的安全性を作っていって、会議を変えていったりして結果を報告しようと思っているんですけど。

さっき石井さんがおっしゃられていたような、紙に書いてあとは読み上げるだけの会議とか、どうやったらできるかが書かれたおすすめの本などがあれば教えてもらいたいと。また、1つ気になったのが、私の場合は社外の方とチームを組んで共同事業を行なう立場なんですけども、会うのは1週間に1回とか、多くて2回で、あとはチャットばかりなんですが、それでも心理的安全性のある良いチームを作りたいと思っていて。もしコツとか注意点があればお願いしたいと思います。

武田:(石井さん、金さんに向かって)私たち、実は会うの今日が初めてじゃないですか。それこそチャットだったんですよ。

:今日の場はすべてチャットでのやりとりで仕上がっております(笑)。

(会場笑)

石井:本とかがあるわけではないですけども、僕も社外のけっこう大きなプロジェクトを、メンバーと会えない中でやったことがいくつかあるんですけども。めちゃくちゃおもしろくて、めちゃくちゃ社会的意義のあるプロジェクトとかって、自然になにか生まれたりしますよね。できるかどうかわからないけども、「こういうことができたらすごくないですか? ちょっと一緒にやってみませんか? 障害も多いけど」みたいな感じで。

その人は官僚の方だったので、チャットというよりはメールベースだったんですけども、結果的には良いチームになれました。お互いに持っている情報を、「ここはこう押さえておくと上手くいきそうですよね」とかいろんな情報交換ができて、プロジェクトを前に進めることができたので、それはやる価値がありました。自分の人生を使う価値がある良いプロジェクトと思えるような、企画構想みたいなところからやるというのは、1つ手かもしれないですよね。

武田:メンバーの方たちは、それぞれのことをよくご存知なんですか?

質問者F:そんなに......。

武田:それこそ、前職でも現職でも私はやっているんですけど、強み診断とか例えば「VIA-IS」とかあるじゃないですか。ああいうのをみんなにやってもらって、表にしちゃって。この人はこういうアプローチで説明したがるとか、この人は判断が早いのねとかがわかると、一気に距離が縮まったりしますよね。無料ですし、おすすめです。

:そうですね。ありがとうございます。僕から1点だけ補足すると、チャットで良かったなというところなんですけど、雅子さんが最初に「(私のことは)雅子さんと呼んでくれ」とおっしゃったんですね。最初僕は「武田様」ってメールを送ったんですけど。

武田:そうそうそう。すごい気持ち悪くて。なにこれ!と、やめて!と 思って(笑)。

:いきなりタメ語は難しいと思ったんですけど(笑)。あと、仕事で小さいことでもなにか一つ成功を共有した後というのは、すごく心理的安全性が高まるなと個人的に思います。それでは最後に武田雅子さんから、ラストメッセージをいただけたらなと思っております。

武田:そんなすごいことは言えないんですけど。今日こちらにお集まりの方は、心理的安全な場を目指して、そういうもの手に入れたいなと思って来られている方たちだと思います。であれば、今日のこの場をスタートに、みなさんからいろんなストーリーを作っていただきたいと思います。ストーリーってファクトなので、集まるとやっぱりものすごいパワーがあると思うんです。

また明日も仕事の方がほとんどだと思いますが、そんな場を目指して、お仕事をがんばってもらえたらいいなって思います。私もがんばります。今日はありがとうございました。

(会場拍手)