企業経営には「ファイナンス思考」が不可欠

朝倉祐介氏:今日はお集まりいただきましてありがとうございます。シニフィアンという会社をやっております、朝倉と申します。

10人くらいしか来なかったらどうしようかと思って来たんですが、思いのほか多くの方にお集まりいただきましたね。ありがとうございます。

7月に『ファイナンス思考』という本を上梓しました。今日はそちらの本に書いてある内容についてお話をさせていただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

最初に、簡単に自己紹介をさせていただきます。昨年、シニフィアンという会社を設立しております。シニフィアンは新興企業の成長促進を通じて、新しい産業をつくっていくことを大上段のテーマとして活動している会社です。

活動の一環として、「Signifiant Style」というオウンドメディアも運営しています。上場して間もない新興企業の紹介や、上場前後のスタートアップ特有の課題、日本のスタートアップ・エコシステム等についての考察といったコンテンツを展開しております。よかったらぜひご覧ください。

今回は、丸善さんのイベントにお招きいただきましたが、今までに本は2冊書いています。今日お話しする『ファイナンス思考』以前、2年ほど前に『論語と算盤と私』というふわっとしたタイトルの本も出しています。こちらはぜんぜん売れなかったですね。

論語と算盤と私―――これからの経営と悔いを残さない個人の生き方について

売れなかったけど、けっこう良い内容を書いているつもりでいるので、もし『ファイナンス思考』を読んでご興味をお持ちいただいたら、ぜひ手に取っていただけるとありがたいなと思う次第であります。

私のバックグラウンドをざっとまとめると、もともと経営コンサルタントの丁稚奉公から始まりまして、数名程度のスタートアップの経営、不振上場企業の経営、投資や研究活動といったことをやっております。なにが言いたいかというと、決して財務の専門家ではないということです。

ファイナンスにまつわる本を書いてはいますが、私は銀行員でも証券会社の人間でもございません。大学も経済学部出身でもありません。一方で会社の経営にある程度携わる中において、ファイナンス的な発想、思考が非常に重要だなということを痛感することが多々ありました。

そうした自分自身の経験を元に、課題意識を言語化してまとめたのが、『ファイナンス思考』です。

多くの日本企業は「PL脳」にとらわれている

『ファイナンス思考』について、自分なりに特色といいますか、強調したかったところを3点まとめるとこんな感じです。1つはファイナンスの知識理論というよりは考え方を扱った本であるということ。一応、後半には会計・ファイナンスの教科書的な内容もまとめております。

とはいえ、私は会計・ファイナンスの専門家ではありませんし、基礎知識のまとめ方として上手いかどうかはわかりません。会計・ファイナンスについて突き詰めて学びたい方は、他にも良い本がたくさんあるので、そちらをお手に取っていただいたほうが良いと思います。

2点目はファイナンスを4つの機能に分類して定義していることです。後ほど詳しくお話しますが、これはおそらく新しい取り組みだと思っております。

あとは日本企業を取り巻く思考形態を『ファイナンス思考』と対比して説明しているところが、1つのポイントかなと思っております。お読みいただいた方はわかるように、日本企業を取り巻く思考形態として、「PL脳」という発想を挙げています。

多くの企業がPLをあまりにも偏重するような考え方にとらわれているがゆえに、大きなインパクトを出せていないのではないか、といった問題意識をまとめています。

さて、回りくどい話なんですけど、ファイナンスの話をするに当たって、「会社ってなんのためにあるんだっけ」ということを、事前に理解しておくことが非常に重要だと思っております。

なぜこんなことを言うのかですが、『ファイナンス思考』の執筆にあたり、事前に何人か学生時代の友人などに下見していただき、フィードバックをもらいました。そこで、「ファイナンスというテーマでお金をあまりにも前面に出し過ぎると、ものすごく拝金主義臭がしないか」ということを指摘されたんですよ。

こちらにお集まりの方は丸の内近辺にお勤めのビジネスパーソンが多そうですし、あまりそういった感じ方はしないんじゃないかとは思います。ただ、変な誤解を招かないようにお金に対する考え方というか、スタンスをはっきりしておいたほうがいいかと思い、くどいですけど、あえて本書で考えるお金の意味について、ここで触れておきます。

会社は「顧客・従業員・投資家」によって評価される

ミクロ経済学の授業でも出てくる話ですが、会社というものは3つの市場で評価されています。1つは財市場。顧客による評価ですね。みなさんが本を手に取っているということは、顧客として本や著者を評価していらっしゃるということです。

2点目は労働市場。働き心地の良い会社なのかとか、コンペンセーションがちゃんと利いているのかというような、従業員からの評価。

労働市場での評価が高い会社であれば、より良い人材が働きたいとたくさん集まってきます。評価が悪かったら人は集まりません。もう1つは、特に上場企業に関連する話ですが、資本市場。投資家による評価です。この3つの市場での期待にちゃんと応えていくということが、会社経営にとって非常に重要なことです。

会社は、顧客、従業員、投資家の三者の利益のバランスを取っていかなければいけないわけですが、その中でも絶対に欠かせないものが財市場。顧客による評価です。お客様を満足させていないのであれば、どれだけ従業員の人たちが働き心地が良いと言っていたり、投資家の人たちのとって良い金融商品であったりしても、会社が存在する意味はありません。会社というものはあくまで顧客、財市場を中心にして回っているものだと思っています。

それを非常にぴったりと表しているのが、ピーター・ドラッカーです。彼は、会社の目的というのは、顧客を創出してずっとその人たちをリテイン、満足させ続けることであると言っています。

あくまで会社というのは財市場で、顧客からの満足というものを中心に回っているものだという理解です。以上を踏まえて、お金とはなんなのかを考えてみると、お金とは顧客に価値を提供する見返りで得られるものです。

経済学の教科書の中で、貨幣の機能とは一体なんなのかという説明がありますが、1つ外せないのがいわゆる価値の尺度ですよね。どれだけ良いことをしていると思っていて、相手が喜んでくれていたとしても、そこにお金が払われないということであれば、ひょっとしたら実際には価値はないのかもしれない。

「もうその価値を提供しませんよ」といったところで「ああ、じゃあいいですよ」と言われるんだったら、それはやっぱり価値がないんじゃないかと(いうことになる)。回りくどいことを言ってますけど、要はお金というのは世の中に提供した価値の見返りであるという前提に立った上で、ファイナンスを考えていくことが重要なんじゃないかという前置きです。

BSとPLのつながりがわかれば、会計はこわくない

会社というのはお金を尺度にして評価されるわけですね。例えば事業の成果。過去1年度分の事業の成果は損益計算書、PLで通常計られます。

また保有する経営資源。どういったアセットを持っているかは貸借対照表を通じ、お金を単位にして評価される。お金は決して万全なものではありませんが、定量化できないものは評価できません。お金というのは経済活動、会社を見るにあたって、極めて便利なツールだと思う次第です。

今日お集まりの方がどの程度、会計・ファイナンスの知識をお持ちかどうかわからないので、ここからは財務3表の話を少しさせてください。会計の授業で出てくるような話です。

会計の勘所を掴もうとするなら、BSとPLがどういうふうに繋がっているかを理解することが極めて重要だと思います。まず右側のPL。これは非常にわかりやすいと思うんですが、収益、つまり売上ですね。売上から費用、コストを引いたものが利益になります。これは極めてわかりやすいですし、お小遣い帳と同じような構造と思っていただければ良いかなと思います。

ポイントはこのBSなんですよね。PLとBSのつながりがよくわからないというがたくさんいらっしゃるようです。正直に白状すると私も大学時代に会計の授業を落としていますが、いまいちBSというものがわからんなと思っていました。BSとPLの2つの表がどういうふうにくっついているのかを理解すると、非常にわかりやすくなると思います。

BSについて見てみましょう。右側、負債の部と純資産の部というのは、会社がどうやってお金を調達したのかを表現しています。銀行から1,000万円の借り入れがあったら、負債の部には1,000万円の借入として載っかります。資本金も同じく1,000万円であれば、純資産に1,000万円が載って、合計の2,000万円が資産の部に計上される。そういう構造になっています。

先ほどのBSとPLをがっちゃんこしたものが左側の図です。2017年度のBS。つまり2018年3月31日時点のBSと、2018年度のPL、つまり2018年4月1日から2019年3月31日までのPLをがっちゃんこする。もしもPLに利益が出ていたら、この利益が新たに純資産の部に加えられて、BSが大きくなっていく。

これがBSとPLのつながりです。これが理解できると、会計が極めてとっつきやすくなります。もう少し詳しくお知りになりたい方は、『財務三表一体理解法』という極めて良い本があるので、ぜひこちらを手に取ってお読みいただければと思います。

決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法 (朝日新書 44)

「ファイナンス思考」は企業価値の最大化を目指すもの

これは、今の説明をもう一度まとめたものです。BSとPLをまたぐ、ぐるぐると循環する図ですね。会社を巡るお金の流れをもう一度整理すると、会社が調達したお金が負債や純資産に計上される。これが1番の部分ですね。2番で調達したお金を事業に必要なものに投資する。

ひょっとしたら土地を買って工場をつくるかもしれませんし、研究開発に当てるかもしれない。お金がなにかしらの資産になり、その資産を通じて事業を行って利益を生んでいく。事業を通じて得られた利益は純資産に利益剰余金として計上され、BSが大きくなる。

こういった会社を巡る、ぐるぐるとしたお金の流れをどうやってマネジメントするか。これがファイナンスにおいて、もっというと経営において、極めて重要なことです。ここまでがファイナンスを考えるにあたっての大前提となる基礎知識ですね。

ここから少し本題に入りまして、PL脳と「ファイナンス思考」の違いについてお話ししたいと思います。まず、PL脳とはなにかですが、例えば売上や営業利益、当期純利益。

こういった損益計算書、PLといいますが、PL上に現れる指標を目先で最大化することを目的とする思考態度のことを、本書では「PL脳」と呼んでいます。そういったPL脳からよりファイナンス的な発想に考えを切り替えていったほうがいいんじゃないかと問題提起しているのが『ファイナンス思考』です。ファイナンス的な発想とは、会社の価値を最大化することを目指すような考え方を指しています。

ここで、評価軸、時間軸、経営アプローチという3つの観点から、ファイナンス思考とPL脳の特徴をそれぞれ挙げてみましょう。評価軸は先ほど申し上げた通りです。PL脳であればPL上の数字が最大化することが良しとされる。売上が大きくなったら良しとしよう。利益が大きくなったら良しとしよう。

こうした指標が大きくなること自体は決して悪いことではありませんが、そればかりを見て目的視していると間違いを犯すのではないかというのが、本書の問題意識です。一方で、ファイナンス思考の場合は、企業価値が向上しているかどうかを評価軸とします。