イヤホンのケーブルはなぜ絡まってしまうのか

イヤホンのケーブルって、よく絡まりますよね。僕はそんなとき、毎回イヤホンをかなぐり捨てて逃げ出したくなります。がっちり絡みついた結び目をほどくのは、なかなかに大変です。片づける時、きちんと収納したつもりなのに必ず絡み合ってしまいます。

さて、この現象について……いや、少なくともこの現象に「近いもの」について、科学的な研究があるのです。この研究によって、紐状のものは揺さぶられると自然に絡み合ってしまうことが判明しました。イヤホンが絡まって困っているのは僕だけではないことに、ちゃんと理由があったわけですね。

さらにうれしいことがあります。この研究結果は僕たちに、絡まったコードをほどく作業から永遠に開放してくれる可能性を示唆してくれています。この実験を「紐解く」には、2007年に遡る必要があります。カリフォルニア大学サンディエゴ校の物理学教授と学生が、紐がどのように絡まり合うのかを、正確につきとめようとしたのです。

結び目は簡単に形成されるという研究結果

まずプラスチックの箱の内部に、さまざまな長さと柔軟性を持つ紐を垂らします。それを、時間やスピードをさまざまに変えながら攪拌してみました。そして、できた結び目を「結び目理論」という数学理論を用いて、コンピュータ上で細かく分類しました。

「結び目理論」は物理学から生物学まで幅広く応用されていますが、単純に紐が絡まる原理とその過程の解析することにも優れています。

「結び目理論」においては、紐は常に「閉じた輪」として想定されます。そこでこの実験では、絡まった後に端を結び合わせて輪にされました。

3,400回以上の落下テストを含めた基礎実験の結果、研究者2人はいくつかの発見をしました。まず、結び目は簡単に形成されるということがわかりました。10秒間・10ローテーション以内の撹拌でも、垂らした紐の半数に結び目ができたのです。ですからみなさん、イヤホンが絡んでも落ち込む必要はありません。結び目は、必ずできるものなのです。

できる結び目は、決まって1つ結び

不思議なのは、こうしてできる結び目のほぼすべては、緩めの1つ結び(数学者が言うところの「prime knot」)のみであるということです。2箇所に結び目ができる「composite knots」にはならないのです。

この実験が行われなければ、双方の結び目の形成が可能なのだと思われるところでした。

しかし実際は、紐は何度でも同じ行程で絡まりました。

紐はまず、ループを描くようにとぐろを巻きます。

重なり合った紐は、交差した末に「こより」のような形状になります。

交差の数にもよりますが、11箇所くらいになると、絡み合いは非常に複雑になります。

さて、結び目の形成過程と原理はわかったわけですが、イヤホンが絡んでしまった被害者に希望はあるのでしょうか。

数学的に裏付けられたイヤホンの絡まり予防法

研究者によりますと、紐が長ければ長いほど、長時間揺さぶられれば揺さぶられるほど、結び目が形成される可能性は高くなるといいます。一方で、振り回されるスピードが速すぎる場合は、絡まる暇がないため、結び目ができる可能性は低下します。

紐が固い場合も結び目が形成される可能性は下がりますし、収納する箱を小さくして、紐を入れるスペースを狭くすることも、結び目の形成を防ぐには有効です。

医学においても、(へその緒に結び目ができる)臍帯真結節が頻繁には起こらないのは、羊膜腔が狭く、結び目ができるスペースが無いためだと考えられていることは、興味深いことです。

つまり、数学で裏付られたイヤホンの絡まり予防法は、イヤホンを小さなスペースにぎゅっと詰め込むことです。動かないよう何かに巻き付けておくのも理想です。

もしそれでも結び目ができてしまうようであれば、そこは開き直って、複雑な結び目に驚嘆してしまうのはいかがでしょうか。編み物がお好きな方であれば、きっとほどくこともできますよ。