HEROZ林氏が起業を決意した、羽生善治氏との対局

司会者:吉田さん。こちらのセッションの見どころを教えてください。

吉田博英氏(以下、吉田):はい、そうですね。昨日のデイ1で「今は2億円、3億円の資金調達はざらだよ」という話をしたんですが、(HEROZは)氷河期に起業して、今も生き残っていますし、さらに拡大しています。そのストーリーをぜひ聞いていただきたいと思います。

司会者:スピーカーをご紹介します。HEROZ株式会社、代表取締役CEO、林隆弘さんです。モデレーターはTechCrunch、木村が務めます。では、お願いします。

木村拓哉氏(以下、木村):HEROZに関しては、会場の皆さんの中に将棋好きの方がいらっしゃれば、「将棋ウォーズ」の名前でご存知の方も多いかと思います。スライドをご用意していただいているので、最初に林さんから事業の説明をしていただければと思います。お願いします。

林隆弘氏(以下、林):みなさん、こんにちは。(会場が)静かですね(笑)。HEROZの林と申します。簡単に自己紹介をさせていただきたいと思います。

私は大学を卒業して、ある大手の会社に技術開発職として就職しました。その後、2009年4月にHEROZという会社を創業いたしました。

ただ、ちょっと変わったところとしては、こちら(スライド)に写真が出ているとおり、僕自身、すごく将棋が趣味なんです。この写真は羽生(善治)永世七冠が、七冠だった時に、私と席上対局をしている写真です。(林氏が)2年連続で全国優勝をした時に、私がアマチュア代表としてこういう機会に恵まれましたが、将棋はやっぱり厳しいなと。なので、自分で会社をやろうという決意をした対局になりました。

木村:左の写真だと、右側が林さんですよね?

:そうです。もう1枚は左側が私です。この頃からオレンジカラーが好きだったんですね、たぶん。

木村:あ、本当にそうですね(笑)。HEROZのカラーにもなってますし。

「将棋で強くなりたい」という思いから生まれた将棋AI

:はい(笑)。これが後に、HEROZのAIに関わってきます。まず、頭脳系AIの歴史について簡単にご紹介したいと思います。

古くはチェスのAIです。IBMさんがディープ・ブルー(チェス専用のスーパーコンピュータ)を開発して、1997年にカスパロフ氏(当時の世界チャンピオン)に勝利したことがありました。

将棋AIでは、当社のエンジニア(が開発した人工知能)が、2013年にプロ棋士に勝利したことがございまして、「名人にエンジニアが勝った」と、話題になったりもしました。

もう1つは、囲碁AIというのがGoogleのDeepMind社さんから。

木村:これはたぶん、記憶に新しい方もいらっしゃると思うんですが。

:記憶に新しい方も多いと思います。完全情報ゲームというのに、ここで1つ区切りがついて、人間を超えていくという歴史を変えていったと。そういうところが、1つの記録なのかなと思っています。

木村:今はAIエンジンなどの開発だとか、提供をされていると。

:そうですね。もともと将棋のAIというのは、私自身が「将棋で強くなりたい」と思ったことがきっかけでした。将棋のAIを活用して、自分のトレーニングに活かせないかと昔から思っていました。それでAI関係のエンジニアとか、教授の方々と知り合うきっかけもできていって。当時から、活用する側でもあったということがあります。

では、どういうことをビジネスにしているかを話していきたいと思います。AIを語るときに、ABCを覚えておくといいかなと思います。料理みたいですけど(笑)。

AはAI、Bはビッグデータ、Cはクラウドです。(スライドを指して)まさにこの図がそうでございまして、一番上に将棋の棋譜データがあって、それをHEROZの「HEROZ Kishin」というAIに学習させます。それによって将棋AI、人間を超えるようなAIができる、というような流れがあります。

クラウド上のデータをAIに学習させる。この流れを覚えておいてもらうと、わかりやすいかなと思います。

「自分の人生を張るならIT分野」と思ってサービスを開発

木村:なるほど、ありがとうございます。創業時のことについて、いろいろとご質問させていただければと思います。最初にNECにいらっしゃって、起業されたのは入社してから10年後ぐらいですか?

:そうです。10年弱ですかね。

木村:入社当初から、起業されるおつもりだったんですか?

:そうですね。自分にはあまり(技術が)なかったんですが、入社した時からIT技術にすごく興味があって。「自分の人生を張るならここの分野かな」と思っていました。

木村:共同創業者の高橋さんとは、その時の同期だったと。

:そうですね。大学も一緒でした。

木村:大学も一緒だったんですか。林さんと高橋さんの仲の良さは、僕もいろいろなところからお聞きするんですけど(笑)。

:ええ(笑)。

木村:お聞きしたところによると、NEC時代に林さんが高橋さんの家に夜な夜な遊びに行って、人がいてもなりふり構わず、ずっとサービスの開発をしてたと聞いたんですが、それは本当ですか?

:それはよく言われるんですけど、本当なんですよ。

木村:(笑)。

:仕事以外で他の人が飲みに行ってる間とか、充実した休日を送ってる間は、だいたい開発をしていて。とにかく新しいサービスを作ろうみたいな感じで、ずっとやっていました。

高橋くんの家に誰かいるのは、だいたい想像がついているんですけど、空気を読まずに僕が(家に)突っ込んでいくっていう。

木村:本当に人がいても、ずかずか入っていって開発してたんですか?(笑)。

:はい。まあ、彼も僕の家によく来てましたけど(笑)。

木村:まだNECにいらっしゃった時に作っていたサービスは、iモードのサービスですよね。

:そうですね。まだガラケーとかだったので、モバイルサービスですね。

木村:当時、VCからそのサービスに出資したいというお話もあったと聞いたんですが、どんなサービスですか?

:診断系のサービスなどです。(診断の)結果を見て、ソーシャルメディアに投稿するみたいな。そういうバズるようなものを作る、量産するようなかたちでやっていました。仕組みを作っていた感じです。

木村:いろいろなサービスをガーっと作られてた?

:はい、そうです。

スタートアップ氷河期のなか、1億円の資金調達に成功

木村:その後、2009年の4月にHEROZを創業されますが、2009年といえばリーマンショックの真っただ中でしたよね。日本のスタートアップ業界も、今とは景色がまったく違ったと思うんですが、振り返ってみるとどうでしょうか?

とくに資金調達が難しくなるのかなと。融資も受けにくいし、VCマネーも少ない。そのあたりも、ぜんぜん違いました?

:それは本当に、ぜんぜん違う感じでした。2009年って本当に氷河期だったんです。私どもも出資を受けるときに、何社か声をかけさせてもらって。結果的には、ほとんどストレートに(出資の依頼を)受けてくださったんですが、各社で予算を凍結したりしてたんです。

私も、所属してたNECから出資を受けようかなと思ったんですが、本体がそれどころではない状況でした。それは各社がそういう状況にありました。リーマンショック後、設備投資などもされなくなっていたので、苦しい状況だったと。

当然、VCもそういう時期だったので、非常に資金調達も大変だったと思います。

木村:ただ、そのなかでも創業からわずか2ヶ月後に、ジャフコさんなどから1億円の資金調達を発表されています。ちょうど先ほど、モデレーターをしていた岩本(有平氏)が、当時CNET(Japan)というメディアにいて、HEROZの資金調達を伝えていました。

今でこそ、億単位の資金調達のニュースはよく耳にしますし、TechCrunchでも記事にしたりしますが、その時のCNETでは、「1億円という大型の第三者割当増資を発表」と紹介されていました。なので、当時からすると、創業2ヶ月で1億円を超える資金調達はすごく珍しかったと思います。

振り返ってみて、投資家のみなさんとお話しする中で、投資家はどういったところを評価して、資金調達を決めたと思いますか? 

創業2ヶ月で巨額の出資を受けられた2つの理由

:その時に言われたのは2つです。1つ目は、いろいろなサービスを作っていたので、トラックレコード(実績)があったということです。できて間もない会社ではありましたが、サービスは作っていて、1億PVを上げられていたりはしました。なので、(VCが)ある程度の見立てを立てることができたのかと。

もう一点は、後々になって言われたんですが、創業者の成り立ちというところです。僕はプレゼンテーション資料を作るのも好きだったので、120枚ぐらい作ったりしました。

今にしてみると無駄な資料ばっかりなんですけど(笑)。VCの方も「なんでこんなに作ってるの」という雰囲気があって、「10枚あれば十分ですよ」みたいな。読む方も疲れるし、今にして思えばそうなんですけど(笑)。

木村:(笑)。

:でも、後で言われたのは、「事業計画おもしろいですね」ということでした。インテルの元会長で、モバイル・インターネットキャピタルの西岡(郁夫)さんには、「林さん、将棋で世界とか日本で優勝してるし、なんとかなると思ったから出資した」と言われました。

木村:あー、なるほど。

:たしかに(自分の)話をあんまり聞いていなかったのは覚えてるんですよ(笑)。

木村:その資金調達をされた時って、もうすでに将棋AIという分野で勝負していこうと決められていたんですか?

:ぜんぜん、そんなことないです。そこまでは考えてなかったですね。

木村:「将棋と起業には通ずるものがあるから大丈夫だよね」という意味だったんでしょうか?

:たぶん、それぐらいの感覚だったんじゃないかなと。ジャフコさんにも「人にベットする、事業はピボットするから」ぐらいのことを言われたことは、すごく覚えています。