2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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出口治明氏(以下、出口):田中さんのご紹介を僕がすることになっていて、みなさんご存じと思いますが、日本でも最高級の同時通訳のプロで、ダライ・ラマとかベッカムの通訳をされている、超優秀な通訳の方です。
田中慶子 氏(以下、田中):ありがとうございます。何かすごく出づらくなってしまいましたけど(笑)。
出口:でも、本当ですよ(笑)。
田中:ありがとうございます。今、ご紹介いただきました田中慶子です。よろしくお願いします。
仕事は通訳をさせていただいております。今はちょっと英語教育のほうにも興味を持っておりまして、この4月から大学院でそういった勉強もしております。今日は出口さんと対談ということで、非常に緊張して参りましたが。
出口:真面目に、こういう対談するのは初めてですか?
田中:初めてですね(笑)。何かいつもお酒が入った上でお話をさせてただいているので、大変緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。
いつも私、出口さんのお話をうかがうと、すごく何か安心するんですよね。安心するというと、ちょっと言葉が違うかもしれないですけども。
無駄に心配するのではなくて、心配することをちゃんと心配しようという、そんな気持ち。まさに楽観的にちゃんと心配しようというふうな、そんな気持ちになれますね。
それで、いろいろ私も教育とか学習とか学ぶとか、そういうことに興味を持ち始めて、最近、とくに日本人がなぜこんなに英語に対して苦手意識を持つのだろうということを、ずっと考えているんですけども。
なぜ日本人が、こんなに真面目な民族が、こんなにがんばって必修科目として英語を勉強して、なぜ日本人はこんなに英語が弱いって言われちゃうんだろうって、いつも思うのですが。
出口:それは簡単で、大人が仕組みを考えないからですよ。まず、人間観には2つあって、「人間はどこまでいってもアホやで」という考え方と、「勉強したらけっこう立派な人になるで」という考え方の2つがあると思うのですが。
僕は自分自身を見ても、自分の友だちを見ても、ろくなやつがいないので、田中さんは別にして(笑)。だから僕は「人間はアホやで」という考えの持ち主なんですよ。
アホな人間が真面目に勉強するはずはないので仕組みを作るしかない。だから日本の英語力なんてあっという間に上げられると思います。まずセンター試験をTOEFLに変えればいいだけですよね。
例えば、TOEFL iBT80とかなければ、「センター試験落第やで」とか言ったら、高校の先生の発音が悪かろうが、教え方がむちゃくちゃだろうが、みんな勉強するんですよね。
あるいは、みんななんで大学へ行くかと言えば、良い会社に勤めたいぐらいが、せいぜい怠け者の人間の考えることなので、経団連の会長と全銀協の会長が記者会見して、同じように「TOEFL iBT 90持ってこなかったら面談しやへんで」と言ったら、みんなが勉強するのです。
そういう仕組みを上手に作ることができない社会が、英語は下手やということだけだと思うんですよね。
田中:なるほど仕組みということですね。私も常々人間って怠け者だなと自分で思うので。
出口:そこは一緒ですよね。
田中:もう怠け者代表をやってますので、常々思っているんですが、やっぱり英語ということで言うと、怠け者というか、一生懸命勉強はするんだけども、そこのゴールというか目指す報酬のところが、やっぱり良い大学に入るということになってしまうので。
よく出口さんが以前おっしゃっていた、私はどこからこれは変えればいいのだろうということをお聞きしたら、まずは企業が変わる。つまりは、優秀と呼ばれる人材の基準というものを、採用する企業が変わればいいんじゃないかとおっしゃっていて、私その考え方がすごく大好きなんですけども。
出口:だってみんな良い企業に入りたいということで受験勉強しているので、企業が変わったらコロっと変わりますよ。
田中:今日はHRカフェということで、日本中の影響力のある人事の関係の方が、勢揃いされている日ということなんですが。みなさん本当に何か具体的にこういったことをされたらいいみたいな、そんなことってあったりしますか?
出口:具体的にすべきことは人・本・旅で、みなさんが勉強されることと、採用する時は成績をちゃんと見るということに尽きると思います。そこから始めるのが一番簡単やと。
田中:まずは評価する側のみなさんが人・本・旅で勉強されるということですよね?
出口:だって「大学院卒なんてよう使わん」とかいうのは恥ずかしいじゃないですか。だって勉強して賢い人を採用したら得なのに、何でよう使わんかと思うかといえば、自分が勉強していないからでしょう。
田中:本当にまさにその通りですよね。
出口:そうでしょう。
田中:なので私もこれから人・本・旅。
出口:田中さんは今、大学院に行かれているのでもっと賢くなられますよね。
田中:本当にもっと勉強はしないとと思っておりますが。ありがとうございます。
田中:どうしましょう。恐らくご質問されたい方とかいらっしゃいますよね。
出口:じゃあ、みなさん自由に手を挙げてみてください。
田中:恐らく出口さんに聞いてみたいとか、あるいはこんなふうに考えてますという方がいらっしゃるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう?
質問者1:私は食品メーカーで働いています。今日は貴重な講演ありがとうございます。
出口:もう「ありがとう」は省略しましょう。
質問者1:会社の風土を変えたいなと思っていて、出口さんはこれどうなってるとおっしゃっていたんですけと、僕らぐらいもしくは、ちょっと上のミドルクラスマネージャーの意見はすごく大事なので、ロールモデルにはなると思いますが。
僕の周りを見渡すと、どうも定年という制度があると「俺は上がりだよ」「俺って中間の人よりつらいんだ。もっと労ってくれ」みたいな方が、すごくいっぱいいて。
出口:そんな人はどんどん蹴飛ばしましょう(笑)。
質問者1:出口さんが、そういうことを語ってくれると、がんばろうと思うんですけど。僕はそういう仲間をどんどん増やしたいなと思っていて、どうしたらそういう人の気持ちを変えられるのかなどいうのをアドバイスいただければなと思います。
出口:変な話ですけれど、1人ではなかなか風土は変えられないので、まず年齢はどうでもいいんですけれど、比喩的に言えば、みなさんより若い世代をみんな味方にすればいいんですよね。
みんなで集団交渉ではありませんが、そういう「もう上がりやで」「中間管理職でしんどいで」とか言っている、そういうおじさんをみんなで囲んで飲みに行って、がんがん責めればいいんです。
(会場笑)
やっぱり数は力なので、それが一番平和で良いと思います。
質問者1:ありがとうございます。
田中:あと平和かどうかわからないですけど、女性をどんどん巻き込んでほしいなと思います。
出口:絶対にそうです。
田中:はい。すごく個人的な意見なのですが、今おっしゃっているような仲間を増やしたい、そういう仲間になりたいと思っている人や、声を上げたい人、本当はもっといろんなことをやりたいとか、何で私のほうがぜんぜん働きたいと思っているのに、あのおじさんは、あんなところにいるのと思っている人って、たぶんまだまだ女性のほうが比率的に多いんじゃないかなという印象なので。
ぜひぜひ、そういうところには女性を巻き込んでいってほしいなと個人的に思います。
質問者1:ありがとうございます。
田中:ありがとうございます。
司会者:他にはございますでしょうか?
質問者2:(私は)大学院生です。(冒頭の講演で)大学院生が扱いにくいという話だったんですけど、出口さんのお話をお聞きしていて、現実をどう見つめて、どうアウトプットしているかというところで、すごく関心を持ってお話を聴いていました。
出口さんが数字・ファクト・ロジックのみで考えると書かれていて、同時に出口さんの思考は、出口さん抜きには成り立たないと思った時に、実際に数字・ファクト・ロジックをどう組み立ててお話しているのでしょうか。そういうパターンや思考の方法をお聞きしたいなと思ったのですが。
出口:基本的には検証可能なデータをベースにとって、エピソードではなくエビデンスを集めて、その上に合理的にロジックを組んでいくだけなので、ごく普通のグローバルな考え方をしていると思います。
話し方は独特やとか言われるんですが、僕はずっとこういう話し方をしているので、普通だと思っているんです。僕は職場が日本生命、それからライフネット、それからAPUと3つきているのですが、どの職場でも飲み会の出し物に僕の真似をする人が生まれるんです(笑)。
(会場笑)
ひょっとしたら僕の話し方は変わっているのかなと思わないわけでもないのですが、僕は普段もこんな話し方なので、飲んでる時もそうですよね。
田中:はい。もうまったく変わりません(笑)。
出口:そうですよね(笑)。
質問者2:さっき美味しいご飯、美味しい人生のお話があったかなと思うのですが、今、出口さんがおっしゃったように、数値になっているファクトって、もしかしたら誰でも集めようと思ったら集められる美味しい食材なのかもしれないのですが。
何か出口さん流の上手い調理方法というのか、出口さんがやっている上手い思考というのが、要するにどういうことをやっているのかなと思って。
出口:それは考える力のことをたぶん聞いておられると思うのですけど。人間は賢くないので、考える力って調理方法と一緒なんですよ。どうやって調理方法を学ぶかと言えば、最初はレシピ通りに作るんですよ。それで塩辛いなと思ったら塩をカットするんですよ。実はレシピに相当するのが考える型なんですよ。考えるパターンです。
だから、もし考えることに興味があれば、今日は本も紹介しておいたのですが、(スライドを指して)ここの10番にあるんですが、小坂井敏晶という先生の本は考えることについて、思考の型とか発想のパターンをまず勉強しなければ、人間の思考力は高まらへんでと言われているので、たぶんこの10番の本を読まれるというのは、1つの参考になると思いますね。ぜひ読んでみてください。
質問者2:ありがとうございます。
田中:よろしいでしょうか。
出口:はい。どうぞ。
質問者3:大学の成績という話がチラッと出てきて、今の企業では大切だけど、そんなの重要視されていないという話だったと思うのですけど。僕は大学1年生で、まだ学問への意識が高くて。
まだ今年の前期しか授業を受けていないんですけど、自分なりにはがんばって、まだ成績は返ってきてないんですけど。まあそれなりに良い成績はとれたかなと思っている状態です。
そんな成績をとっても、大学に入ってからの学問って、これは本当に将来に活きてくるのかなという疑問が勉強するたびに起きてくるんですよ。とくに一般教養とか、今キリスト教の思想やイスラム教の歴史をやっているんですけど、別に活かせないことはないかもしれないんですけど。
僕は本を読むことが好きで、実学的な本を読んだりするんですけど、そういうことに時間を充てたいなと思うことが多々あるんですよね。その中で大学の学問と将来との関係について、出口さんがどのように考えているのかというのをおうかがいしたいです。
出口:めちゃシンプルで、実学的な学問というのは、役に立たない。今、ドッグイヤーになっているでしょ。ドッグイヤーってわかりますよね?
質問者3:いや、わかりません。
出口:世の中の技術的な進歩は、ものすごく速いので、今企業に役に立つような実学的なことは、今勉強したとしても、卒業したころには、もう役に立たなくなっているのです。
すぐに役に立つものはすぐに陳腐化するので、だから考える力というのはクラシック、つまり古典を勉強しなければいけない。実学的な本を読む暇があったら、プラトンとかキリスト教の歴史とかイスラムの世界のことを勉強するほうが、100倍人生の役に立つと思います。
質問者3:ありがとうございます。
出口:でも慶応にいらっしゃるんだったら、小坂井(敏晶)先生の新しい本は、めちゃ良い本だと思います。
質問者3:あっ、わかりました。それは読むようにします。
出口:わかりますよね。はい。SFCで本を読んでみてください。
質問者3:わかりました。ありがとうございます。
田中:他にはございますか?
質問者4:はい。学長先生、こんにちは。私はAPUの4回生です。就活が終わってまして、これから派遣会社に入ります。
学長先生のお話はこれからの仕事にもすごく役に立ちます。一応私は外国人なのですが、日本の課題で少子高齢化、例えば中国も今は少子高齢化が進んでまして、日本で働きたい外国人はこれからどうなっていきますか?
出口:日本で働きたい外国人は楽勝やと思います。
(会場笑)
質問者4:昔と比べるとこれからずっと増え続けていきますが、それか前と同じふうに......。
出口:これからもずっと増えていきますし、人口って簡単に増えないので楽勝掛ける2乗ぐらいに考えておいてください。
(会場笑)
田中:日本で就職されたいと思っていらっしゃるんですか?
質問者4:もうすでに日本の企業に決まりました。
出口:よかったですね(笑)。
田中:おめでとうございます。ちなみに何で日本の企業で働きたいと思ったのでしょうか?
質問者4:そうですね。私はずっとその問題を考えました。それで思ったのは、6年前に日本に来ました。やっぱり日本の環境とかに慣れてまして、例えば今、中国に帰ったらすごく慣れないんです。日本の環境に逆にすごく慣れました。それですごく日本で働きたい思って、日本で就職しました。
出口:それでいいと思いますし、働いてみて、ヤバいなと思ったら、また広い世界に出ていけばいいだけなので、ぜひがんばってください。
質問者4:はい。ありがとうございます。
田中:がんばってください。何かでもうれしいですよね。日本で勉強して日本で就職したいって思ってくださる方がいるのってすごくうれしいです。
出口:APU愛ってものすごくて。APUはおもしろい大学で、講演するとどこにでも大学生とか卒業生が来てくれるんですよね。
田中:それは国内に限らずという感じですよね。きっと。
出口:はい。
田中:ですよね。
出口:APU愛とか呼んでいるんですが。
田中:実は私、おとといにAPUを訪問させていただいて、在校生の方が案内してくださったんですけども、本当に私も入学したいくらい、すごく素敵な学校だなと思って。
やっぱり出口さんが「大学の商品は学生です」とおっしゃったのですが、学生の方があんなにうれしそうに、しかも誇らしげに自分の大学生活を語るというのは、本当にすばらしいと思いますし、ぜひ日本でがんばってください。
質問者4:はい。ありがとうございます。
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