ダライ・ラマやベッカムの通訳を経験
出口治明氏(以下、出口):田中さんのご紹介を僕がすることになっていて、みなさんご存じと思いますが、日本でも最高級の同時通訳のプロで、ダライ・ラマとかベッカムの通訳をされている、超優秀な通訳の方です。
田中慶子 氏(以下、田中):ありがとうございます。何かすごく出づらくなってしまいましたけど(笑)。
出口:でも、本当ですよ(笑)。
田中:ありがとうございます。今、ご紹介いただきました田中慶子です。よろしくお願いします。
仕事は通訳をさせていただいております。今はちょっと英語教育のほうにも興味を持っておりまして、この4月から大学院でそういった勉強もしております。今日は出口さんと対談ということで、非常に緊張して参りましたが。
出口:真面目に、こういう対談するのは初めてですか?
田中:初めてですね(笑)。何かいつもお酒が入った上でお話をさせてただいているので、大変緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。
いつも私、出口さんのお話をうかがうと、すごく何か安心するんですよね。安心するというと、ちょっと言葉が違うかもしれないですけども。
無駄に心配するのではなくて、心配することをちゃんと心配しようという、そんな気持ち。まさに楽観的にちゃんと心配しようというふうな、そんな気持ちになれますね。
それで、いろいろ私も教育とか学習とか学ぶとか、そういうことに興味を持ち始めて、最近、とくに日本人がなぜこんなに英語に対して苦手意識を持つのだろうということを、ずっと考えているんですけども。
なぜ日本人が、こんなに真面目な民族が、こんなにがんばって必修科目として英語を勉強して、なぜ日本人はこんなに英語が弱いって言われちゃうんだろうって、いつも思うのですが。
アホな人間を勉強させるには仕組みを作るしかない
出口:それは簡単で、大人が仕組みを考えないからですよ。まず、人間観には2つあって、「人間はどこまでいってもアホやで」という考え方と、「勉強したらけっこう立派な人になるで」という考え方の2つがあると思うのですが。
僕は自分自身を見ても、自分の友だちを見ても、ろくなやつがいないので、田中さんは別にして(笑)。だから僕は「人間はアホやで」という考えの持ち主なんですよ。
アホな人間が真面目に勉強するはずはないので仕組みを作るしかない。だから日本の英語力なんてあっという間に上げられると思います。まずセンター試験をTOEFLに変えればいいだけですよね。
例えば、TOEFL iBT80とかなければ、「センター試験落第やで」とか言ったら、高校の先生の発音が悪かろうが、教え方がむちゃくちゃだろうが、みんな勉強するんですよね。
あるいは、みんななんで大学へ行くかと言えば、良い会社に勤めたいぐらいが、せいぜい怠け者の人間の考えることなので、経団連の会長と全銀協の会長が記者会見して、同じように「TOEFL iBT 90持ってこなかったら面談しやへんで」と言ったら、みんなが勉強するのです。
そういう仕組みを上手に作ることができない社会が、英語は下手やということだけだと思うんですよね。
田中:なるほど仕組みということですね。私も常々人間って怠け者だなと自分で思うので。
出口:そこは一緒ですよね。
田中:もう怠け者代表をやってますので、常々思っているんですが、やっぱり英語ということで言うと、怠け者というか、一生懸命勉強はするんだけども、そこのゴールというか目指す報酬のところが、やっぱり良い大学に入るということになってしまうので。
よく出口さんが以前おっしゃっていた、私はどこからこれは変えればいいのだろうということをお聞きしたら、まずは企業が変わる。つまりは、優秀と呼ばれる人材の基準というものを、採用する企業が変わればいいんじゃないかとおっしゃっていて、私その考え方がすごく大好きなんですけども。
出口:だってみんな良い企業に入りたいということで受験勉強しているので、企業が変わったらコロっと変わりますよ。
田中:今日はHRカフェということで、日本中の影響力のある人事の関係の方が、勢揃いされている日ということなんですが。みなさん本当に何か具体的にこういったことをされたらいいみたいな、そんなことってあったりしますか?
出口:具体的にすべきことは人・本・旅で、みなさんが勉強されることと、採用する時は成績をちゃんと見るということに尽きると思います。そこから始めるのが一番簡単やと。
田中:まずは評価する側のみなさんが人・本・旅で勉強されるということですよね?
出口:だって「大学院卒なんてよう使わん」とかいうのは恥ずかしいじゃないですか。だって勉強して賢い人を採用したら得なのに、何でよう使わんかと思うかといえば、自分が勉強していないからでしょう。
田中:本当にまさにその通りですよね。
出口:そうでしょう。
田中:なので私もこれから人・本・旅。
出口:田中さんは今、大学院に行かれているのでもっと賢くなられますよね。
田中:本当にもっと勉強はしないとと思っておりますが。ありがとうございます。
風土を変えるには数で勝負する
田中:どうしましょう。恐らくご質問されたい方とかいらっしゃいますよね。
出口:じゃあ、みなさん自由に手を挙げてみてください。
田中:恐らく出口さんに聞いてみたいとか、あるいはこんなふうに考えてますという方がいらっしゃるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう?
質問者1:私は食品メーカーで働いています。今日は貴重な講演ありがとうございます。
出口:もう「ありがとう」は省略しましょう。
質問者1:会社の風土を変えたいなと思っていて、出口さんはこれどうなってるとおっしゃっていたんですけと、僕らぐらいもしくは、ちょっと上のミドルクラスマネージャーの意見はすごく大事なので、ロールモデルにはなると思いますが。
僕の周りを見渡すと、どうも定年という制度があると「俺は上がりだよ」「俺って中間の人よりつらいんだ。もっと労ってくれ」みたいな方が、すごくいっぱいいて。
出口:そんな人はどんどん蹴飛ばしましょう(笑)。
質問者1:出口さんが、そういうことを語ってくれると、がんばろうと思うんですけど。僕はそういう仲間をどんどん増やしたいなと思っていて、どうしたらそういう人の気持ちを変えられるのかなどいうのをアドバイスいただければなと思います。
出口:変な話ですけれど、1人ではなかなか風土は変えられないので、まず年齢はどうでもいいんですけれど、比喩的に言えば、みなさんより若い世代をみんな味方にすればいいんですよね。
みんなで集団交渉ではありませんが、そういう「もう上がりやで」「中間管理職でしんどいで」とか言っている、そういうおじさんをみんなで囲んで飲みに行って、がんがん責めればいいんです。
(会場笑)
やっぱり数は力なので、それが一番平和で良いと思います。
質問者1:ありがとうございます。
田中:あと平和かどうかわからないですけど、女性をどんどん巻き込んでほしいなと思います。
出口:絶対にそうです。
田中:はい。すごく個人的な意見なのですが、今おっしゃっているような仲間を増やしたい、そういう仲間になりたいと思っている人や、声を上げたい人、本当はもっといろんなことをやりたいとか、何で私のほうがぜんぜん働きたいと思っているのに、あのおじさんは、あんなところにいるのと思っている人って、たぶんまだまだ女性のほうが比率的に多いんじゃないかなという印象なので。
ぜひぜひ、そういうところには女性を巻き込んでいってほしいなと個人的に思います。
質問者1:ありがとうございます。
田中:ありがとうございます。
検証可能なデータとエビデンスからロジックを積む
司会者:他にはございますでしょうか?
質問者2:(私は)大学院生です。(冒頭の講演で)大学院生が扱いにくいという話だったんですけど、出口さんのお話をお聞きしていて、現実をどう見つめて、どうアウトプットしているかというところで、すごく関心を持ってお話を聴いていました。
出口さんが数字・ファクト・ロジックのみで考えると書かれていて、同時に出口さんの思考は、出口さん抜きには成り立たないと思った時に、実際に数字・ファクト・ロジックをどう組み立ててお話しているのでしょうか。そういうパターンや思考の方法をお聞きしたいなと思ったのですが。