楽天CPOが明かすサステナビリティ戦略

司会者:楽天のサステナビリティ戦略と「EARTH MALL with Rakuten」について、楽天の共同創業者で常務執行役員、CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)小林正忠より、ご説明を申し上げます。

それでは小林さん、よろしくお願いいたします。

小林正忠氏(以下、小林):みなさま、こんにちは。本日はお忙しいなかお集まりいただきまして、ありがとうございます。私の方からは、楽天のサステナビリティ戦略と「EARTH MALL with Rakuten」についてご説明をしたいと思います。

まずは「楽天市場」を含む楽天グループと、「地球にやさしい」とか、「EARTH MALL」といった響きがみなさんのイメージの中で繋がらない方も多いのではないかと思うので、冒頭で、楽天全体のお話をしたいと思います。

楽天は、ご存じのとおりインターネット上でいろいろなサービスを展開していますが、最初に始めたeコマースについては、現在4万6,000以上の店舗さんにご出店いただいており、非常に多くの事業者さんとともにビジネスを展開しています。

その4万6,000店舗さんに取り扱っていただいている商材、インターネット上で販売している商品のトータル点数で言いますと、2.5億点の商品を取り扱っております。かなりの規模があると思っております。そして、楽天の国内における年間の国内EC流通総額は、全体で3.4兆円の取り扱いとなっております。

ネット黎明期、楽天市場の苦境

1997年に三木谷と一緒に「楽天市場」を立ち上げた時には、インターネットでネットショップをやるなどというものは、なかなか理解いただけませんでした。「楽天市場」オープンにあたり、本当は100店舗ぐらいからスタートしようとしていたんですが、実際は13店舗しかお集まりいただけませんでした。

「インターネット」という言葉自体が、ほぼ新聞やテレビで取り扱われない時代。地方に行って、地域の商店など、いろいろなところにお邪魔しましたが、みなさんコンピューターもお持ちでない時代だったんです。

13店舗からのスタートではありましたが、我々のビジネスを信じてくださる仲間が増えていった結果、今では楽天グループ全体としてグローバル規模で約13兆円のお取り扱いをしており、グローバル規模でのサービス利用者数は10億を超える規模にまで成長しました。現在、国内におきましては、金融事業、銀行、クレジットカード、証券、保険、電子マネーなど、いろいろなサービスをご提供しておりますが、それだけではなくてデジタルコンテンツ、電子書籍なども取り扱いをしております。

1997年に楽天を立ち上げた時に、我々は「人々や社会を元気にしていこう」「エンパワーメントするんだ」という思いをもってスタートしました。

「地域で小規模の商いをやっていらっしゃる事業者さんが、成長・成功するためには、何が必要なのか」「地域の事業者さんが笑顔にならずして、日本が元気になることはない」、これを我々の課題と位置づけ、インターネットを通じて地域のみなさまに元気になっていただこうと思ってスタートした次第です。

私も正直、「エンパワーメント」という単語は三木谷に会うまで知らなかったのですが、大辞林を見てみますと3つ目に「よりよい社会を築くために、人々が協力し、自分のことは自分の意思で決定しながら生きる、その力を身につけていこうという考え方」という意味合いを見つけました。これはまさに、楽天がやってきたことだと実感しております。

事業者の思いの集合体が楽天である

この写真に写っているのが6人の創業メンバーです。三木谷と三木谷の妻もおります。一応紹介しておくと、右側にいますのが、髪の毛があった頃の私です。25歳だったので髪の毛はあったんですね(笑)。この6人で「楽天市場」がスタートしました。

今、楽天グループに従業員が1万7,000人以上いるんですが、ここまでこられたのは、ほかでもない、「インターネットで人々の生活が変わるんだ」という我々の仮説を信じてくださった方々が、徐々に増えていった結果です。

先日、Facebookでこんな投稿をしてくださった店舗さんがいらっしゃったのでご紹介します。京都で着物を販売していらっしゃる「きもの京小町」の村井さんという方の投稿なのですが、「楽天市場」に出店して14周年ということで、当時の思い出を書いてくださいました。投稿内容を読み上げさせていただきますね。

今日は「楽天市場」に出店して14周年。「楽天市場」に出店しようと決め、当時、六本木ヒルズにあった楽天のオフィスでの店舗オープン講座を受けにいく新幹線のなかでドキドキしてたのを今でも覚えている。

毎日着物を着ていること、海外にどんどんチャレンジしていること、物よりコトを売りたくなったこと、着物がより大好きになったこと、人のご縁に恵まれていること、そして頼もしいグループ会社に出会えたこと。おべんちゃらではなく、全て「楽天市場」がキッカケになっています。

この投稿を見た時に私は、本当にいいことをやってこれたんだなと、涙が出てきてしまいました。誤解を恐れずに言うと、「楽天=三木谷」というイメージでとらえていらっしゃる方が多いんですが、実は楽天はこういった事業者さん方の想いの集合体なんです。「楽天市場」もそのひとつで、我々の売場は店舗さまの想いでつくられています。

先ほど申し上げましたように、我々は「エンパワーメント」を企業理念として掲げてきましたが、これからもう1つ新しいキーワードとして、「サステナビリティ」も加えていきたいなと考えております。「サステナビリティ」を本気で考えていこうということです。

持続可能な社会をつくり上げていきたい、もっともっと明るい未来をつくっていきたい。そのためにできることはなんだろう、我々は何をするべきなんだろう、といったことを考えました。楽天を取り巻くお客さまであったり、店舗さまであったり、株主のみなさまだったり、我々の社員であったり、経営メンバーであったり。何千名かにリサーチをしまして、業界用語では「マテリアリティ」なんて言ったりしますが、楽天の重要課題を整理いたしました。

持続可能な消費を促進するために

楽天にとってもステークホルダーのみなさまにとっても重要と思われていることを整理して、このたび楽天にとっての重要課題を4つに絞りました。

1点目が「ソーシャルイノベーションを加速していくこと」です。「楽天ソーシャルアクセラレーター」という、社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)と楽天社員がパートナーシップを結び、協働するプログラムを行っています。志が高く、ビジョンもすばらしいものの、なかなかスケールできない、規模の拡大ができないという課題を抱えるソーシャルアントレプレナーの方々を、我々がサポートするプログラムを走らせています。現在、6つの団体をボランティアの社員がサポートしています。

3点目は「地域コミュニティを持続可能にしていくこと」です。創業以来、この理念は、全くぶれることなく、地域の小さな事業者さんが成長・成功しなかったら国は元気にならないと、私は本気で思っています。地域コミュニティがちゃんと持続可能になっていくためには、いったいどうしたらいいのか。この課題に向き合うべく、昨年まで10年間かけて、社員が全国の高校生のところに行って授業をする「楽天IT 学校」という取り組みをしていました。

高校生たちのデジタルリテラシーが高まっていることもあり、今年からは「Rakuten IT School NEXT」というプログラムに変えまして、我々が教えるのではなく、高校生とともに「この地域の社会課題は何だろう」ということを一緒に考え、解決していこうという取り組みを始めております。

そして4点目、「災害・人道支援への対応」です。楽天はこれだけ大きなプラットフォームを築くことができましたので、そのプラットフォームを通じていかに国に還元していけるのか、人道支援に対応していけるのかを考えます。

残念ながら今年も自然災害がこの国を襲いましたが、我々の災害・人道支援への対応、被災地のサポートとして、「楽天クラッチ募金」という、インターネット上で寄付ができるサービスを通じて、災害・人道支援を行っています。

この3点に加え、今般始めているのは、2点目の「持続可能な消費を促進すること」です。楽天は今までも寄付やボランティアをやってきましたが、やはり本業のビジネスアセットを活用するべきだと考えます。

我々がサステナビリティに本気で向き合うために、楽天が持つビジネスアセットを活用して、本気で社会課題を解決していきたい。持続可能な消費を促進するために、今般、「EARTH MALL with Rakuten」を立ち上げるに至りました。

「未来を変える買い物を。」に込めた思い

では、わかりやすくサービスをまとめたので、動画をご覧ください。

(動画が流れる)

小林:ありがとうございます。「未来を変える買い物を。」というスローガンで、「EARTH MALL with Rakuten」という新しいサービスをスタートしたいと思います。

動画の中で女性がコーヒーを飲んでいましたが、動画を巻き戻してそのコーヒーを遡っていくことで、どんな製造工程があったのかを考えます。

安いTシャツがあって、それを遡ってみたら、バングラデシュとかパキスタンの工場にたどり着いて、その工場の中で働いていたのは子どもだった、なんてことがあってはいけないと思います。この国から、世界から、そういったことをなくしていきたいと思います。

買い物一つひとつが未来を変えていくんです。人間一人ひとりの生き方を変えていかないと、明るい未来はやってきません。20数年かけて、この国に存在しなかった「インターネットショッピング」というビジネスやライフスタイルを作り上げてきた楽天だからこそ、あえてまた新しいことに挑戦したいと思っています。

決して今を否定するつもりはなく、変えられる未来に向けて、我々は動きたいと考えています。そのために、あえて「未来を変える買い物を。」というスローガンを立てました。

ベースになる考え方の1つとして、ご存知のとおり「SDGs」(持続可能な開発目標)と呼ばれる、2015年に国連が策定した17個の目標があります。いろいろな人たちが、いろいろな思いで一つひとつのゴールを達成していけばいいと思いますが、我々楽天は、この目標12に書かれています「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」ということに今回取り組みます。

シンプルに言うと「作る責任・使う責任」ということですが、「EARTH MALL with Rakuten」はこの目標をベースとしたサービスだと考えています。

17個のゴールは、実は全てがつながっています。「消費が変わる」だけ見てもしかたがないと考えていまして、やはり環境が変わっていかなければ、社会は変わらない。そして、社会が変わらなければ、経済も変わらない。でも、経済を変えていくことの1つが消費活動だと思っていますので、我々は「楽天市場」というインターネット上の売場から、この消費を見直していくことに挑戦したいと考えています。

先ほども申しましたように、「未来を変える買い物を。」と題しまして、サステナブルな国際認証を受けた商品をはじめ、環境や社会に優しい商品を取り扱っていくことで、お客さまに「未来を変える買い物」をしていただける商品をたくさん揃えていきたいと考えています。

また、国際認証を受けていなくても、この日本という国にはすばらしい商品がまだまだ多く眠っています。そんな商品をキュレーターのみなさまとともに見つけ出して、お客さまに分かりやすくご案内したいと考えています。

さらには、売場としてだけではなく、メディアとしての力も持ちたいと思っています。サステナブルな商品やライフスタイルを、いろいろご提案していきたいと考えています。「教育」というとおこがましいですが、「こんなものもあるんですよ」という提案をしていきたいと考えていますので、ぜひともみなさまと連携をとらせていただければと考えています。

「伝える」ことも大事なアクション

「EARTH MALL with Rakuten」は、まず「買えるようにする」ことを目指します。今の状況は、1997年の「楽天市場」と状況が似ているんです。今現在、「EARTH MALL」の売り場にはまだあまり商品が並んでいません。ただ、スタート時の「楽天市場」もそうで、インターネット上で物が買えるとは、ほとんどの方が思ってらっしゃらなかったので、ほとんど物が並んでいなかったんです。

たぶん今も、「別にみんなが未来のことを考えていないよね」「地球に優しいなんて考えて買い物しなくてもいいじゃん、安い物でいいじゃん」「そういう消費者が多いんだから、そういう商売をやった方がもうかるよ」なんて考え方をされている事業者さまがいらっしゃるかもしれませんが、一つひとつ「EARTH MALL with Rakuten」で取り扱える商品を増やし、一人ひとり買い物で未来を変えていこうというお客さまを、増やしていきたいと考えています。

売場を作り、売場があることをお客さまにも知っていただいて、まずは買えるようにしていきます。さらには、そういったライフスタイルをもっと多くの方々に知っていただくために、「伝える」ことも大事なアクションだと、我々は考えています。

最終的に掲げているビジョンは、「サステナブルな消費が当たり前の社会を実現する」こと。我々が声高に言うでも、お偉いさんが何かを言うでもなく、国民一人ひとりがそんな消費を当たり前にできる社会を作っていくことです。「EARTH MALL with Rakuten」は、そのビジョンに向けた一歩になると考えています。

「人々の生き方は変わる」と確信している

当然、我々だけではなかなかこんなことを実現できないかもしれないので、そこに助っ人としまして、慶應義塾大学のSFC研究所でxSDG・ラボの代表としてSDGsの研究をリードされている蟹江先生に、アドバイザーになっていただきました。蟹江先生とともに、新しい認証のあり方や、もっと多くの商品を消費者のみなさまにご紹介できる仕組み作りをしていきたいと考えています。

また、本日ご来場いただいているエシカル協会の代表理事を務められている末吉里花さんや、松浦さん、山崎さん、森さんにもキュレーターとしてご参加いただき、商品をご案内していきたいと考えています。

ご存知の認証は多々あると思いますが、水産系のMSC(海洋管理協議会)認証、ASC(水産養殖管理協議会)認証や、森・木材のFSC(森林管理協議会)認証などがあります。

国際フェアトレードの認証の商品や、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証、そしてGOTS(オーガニック・テキスタイル世界基準)認証もご紹介していきます。本日みなさまにお持ち帰りいただくためのアイテムとして、このGOTS認証のTシャツもご用意しています。

さて、この「EARTH MALL with Rakuten」ですが、そのベースとなるコンセプトを考えてくださった仲間が博報堂さんです。現在、博報堂さんと共に分科会を立ち上げ、「EARTH MALL」を通じてこの国にサステナブルな消費をする社会を作り上げようといったことに取り組んでいます。

なかなかブレイクしないだろうと思われているかもしれませんが、先ほど申し上げましたように、1997年には、この国にはインターネットのお店は、ほぼなかったんです。インターネットで買い物をする人もいなかったんです。

でも、20年かければ、これだけ多くの事業者さまが集まり、これだけ多くの商品が集まります。私は「まだまだサステナブルな商品なんて早いよ。そんなの誰が買うんだよ」と言われても、まったく動じずに、前を向いていきたい。22年前にまったく同じ経験をしたからです。この国の消費は変わる。人々の生き方は変わる。そう確信しています。

「未来を変える買い物を。」。そんな「EARTH MALL with Rakuten」を、みなさまとともにもっと広げていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございます。