家事代行のマッチングプラットフォーム「タスカジ」

田中潤氏(以下、田中):社員のモチベーションを数値化する。これって、ある意味すごいデータの活用の仕方ですよね。そうやって世の中を変えようとしている。そんな会社をいまご紹介できました。

では、本日2人目(のゲストをお呼びします)。今度は働き方自体を新たに創造しようという取り組みを実際にされている、非常にユニークな会社の方に来ていただいています。お呼びしましょう、タスカジの和田さんです。よろしくお願いします。

(和田氏が登場)

ここにいるみなさんのなかには、タスカジを知っている方も、まだまだ知らない方もたくさんいると思うので、まずはぜひ会社のご紹介をしていただきたいと思います。

和田幸子氏(以下、和田):みなさん、おはようございます。タスカジの和田と申します。

まず、私の自己紹介をさせていただきたいと思います。

前職は富士通という会社で、システムエンジニアの仕事をしていました。珍しいキャリアかもしれませんが、14年間そこでエンジニアとして会社員をしたあと、5年前に起業しております。キャリアの前半はシステムエンジニア、後半はマーケティングや新規事業の立ち上げをして、「タスカジ」というサービスを立ち上げました。

最近ハウスキーパーさん・家政婦さんをテレビでよく取り上げていただいているので、もしかしたら「タスカジ」というサービスをご存じの方もいらっしゃるかもしれません。1時間1,500円という業界最安値で家事代行を利用できる、マッチングプラットフォームのサービスです。

「家事の仕事をしたい個人」と「家事の仕事をお願いしたい個人」がインターネット上で出会って取引することができる場所です。

類似のビジネスモデルで言うと、メルカリやヤフオクなどがあります。メルカリは、自分の不用品を登録しておくと、その不用品が欲しい人に売ることができるサービスです。「タスカジ」は、自分の空き時間を登録しておくと、その時間とスキルが欲しい人に売ることができるサービスです。

ですので、我々はプラットフォーマーであり、家事代行業者さんとはまた違った立ち位置でビジネスを行っています。2014年7月にサービスインして、いま5年目になるサービスです。

72パーセントの女性が「私は仕事で活躍できていない」と答える

田中:すごくおもしろいサービスだと思います。C2C(Consumer to Consumer)は、お客さま同士がお互いにマッチングできるサービスだと思いますが、和田さんご自身は富士通さんでエンジニアをやってマーケティングをやって……というキャリアで、なぜ突然マッチングサービス「タスカジ」で起業しようという感じになったのでしょうか。ぜひお聞きしたいです。

和田:私が2008年に子どもが生まれて、1年の育児休暇から復帰したところから、いろいろ始まっています。我が家は共働きになりました。そうしたら、「家事や育児の担い手が家の中にいない」という問題に直面したのです。

田中:ここにも、そういう方がけっこういるかもしれない。

和田:いらっしゃると思います。幸い、私の夫は比較的家事・育児に時間を割いてくれるタイプで、2人で分担しながらやっていたんですけれども、それでもなかなかやりきれないと。

そんななか、私自身がキャリアに対してなかなか前向きになれない。「家に帰って家事をしないといけない。エネルギーを残しておかないといけない」と思うと、会社でチャレンジできないということに直面しました。

田中:そう考える方は、けっこういそうです。

和田:そうです。実はこの問題って私だけの問題じゃなかったのです。

これは、国政モニターアンケート調査で、子どもがいる女性に「あなたは仕事で活躍できていますか?」と聞いたものです。なんと72パーセントの女性が「私は仕事で活躍できていない」って答えているのです。

田中:子どもがいる女性の72パーセントが「仕事で活躍できていない」と。

和田:そうです。毎日、朝早く来て、夜まで仕事で働いている人たちが、「私、活躍できていないんだよね」って思いながら働いているのです。

田中:その本人にとっては、すごく肩身の狭い感じなのでしょうか。

和田:そうですね。ちなみに、子どものいる男性に同じ質問をすると、なんと80パーセントの人が「活躍できている」という。

田中:「むしろ家族を支えているのは自分だ」という感じなのですかね。

和田:そういう考えもあるかもしれませんね。では「なぜ、(子どもをもつ女性が)なかなか活躍できないのか?」と聞いたら、「家事・育児が負担で、なかなか活躍できない」という回答が多いです。

田中:子どもがいると、フルタイムで働いていても、どうしても気になってしまうし、「あまり残業できないな」といったところは、確かにありますよね。

和田:そうですね。また、その皺寄せがやはり女性側に来ているのが現状なのかなと思います。

家事代行サービスのネックは「価格の高さ」

和田:「家事代行サービスを使えば共働きでも両立できるんじゃないか?」と一般的には言われているのですが、実は当時の利用率は、たったの3パーセントだったのです。

田中:確かに。私も実はそう思っていて。家事代行って、どこか「お手伝いさん」みたいなイメージがあって、「それなりに裕福な方々が使っているんじゃないかな?」という先入観があるので、普通の人が使うサービスだとは、思えなかったのです。

和田:おっしゃるとおりで、「利用しない理由ってなんですか?」と聞くと、6割以上の人が「価格が高いから」と答えています。1時間1,500円ぐらいの予算感だったら普通のサラリーマン家庭でも使えるけれど、実態は1時間3,500円からで、もっと高い企業さんだと1時間6,000円のサービスなんかもあったりします。

田中:イメージの3倍、4倍も高いってことなのですか。

和田:そうです。家事代行って「1回使って終わり」とかではなくて、日々の生活で使うものなので、毎週または隔週と頻度が高いのです。この金額だとなかなか気軽に出せる金額ではないと。

田中:確かに。「毎週この金額を払い続けてください」と言われると、やはり引いちゃいますよね。

和田:そうなのです。「もうちょっと自分でがんばってみようかな」って思って、なかなか使えないという問題があります。

そこで、私たちは「シェアリングエコノミー」というプラットフォームの仕組みを使って、個人間契約をすることによって業者の中抜きを排除し、1時間1,500円を実現しました。

誰もが家事代行を利用して、自由な人生を送れる世界を作りたいと思って、「タスカジ」を立ち上げました。

田中:これまでの経歴から、シェアリングエコノミーというのは唐突感がありますね。目のつけどころがすごいというか。タイミング的にも、こういった話はまだ日本ではそんなにされていなかった頃ではないですか?

和田:そうですね。5年前と言いますと、ちょうどAirbnbやUberが日本に入ってきたようなタイミングですね。

実はインターネットの募集サイトでハウスキーパーさんを募集して、個人契約を始めたという体験を、サービスを立ち上げる前に一度しています。

その時にいい方と巡り会えて、生活が一変して、私の夫も息子も幸せになれたという体験を通して、もっと柔軟に簡単に誰でも取引できるような、直接契約できるような仕組みを作りたいと思い、シェアリングエコノミーという仕組みを参考にしながら立ち上げました。

田中:なるほど。データの活用がすごく重要になってきそうな気がしますね。

和田:そうですね。もう「データが命」のサービスですね。

本当の意味で自由な働き方が実現できる

田中:タスカジさんの業務の中身について、もうちょっとご説明いただきたいです。

和田:では、タスカジが通常の家事代行サービスとなにが違うのかと、タスカジ社が提供したいと思っている価値について、ご紹介したいと思います。

まず、依頼者の方には「あなたにぴったりのハウスキーパーさんを探すことができる」という価値をご提供したいと思っています。

田中:確かに。家に来てもらうのですから、合う人ではないと。これはすごく重要な話ですね。

和田:業者さんに家事代行サービスをお願いすると、業者さんがサービス品質をコントロールしているので、型決めされたサービスが提供されます。しかも、「誰に来て欲しい」というのは選べません。

タスカジでは個人と個人が取引するので、誰に来て欲しいかを自分が選べる。だから、自分にぴったりな人を選ぶことができるし、また来てくれた方も型決めされたサービスをするわけじゃないので、柔軟にこちら側の要望にカスタマイズしてもらえると。そういうぴったりな人を探せるというのが1つの価値だと思っています。

我々は、登録してくれているハウスキーパーさんたちを「タスカジさん」とお呼びしています。タスカジさんはフリーランスで働いている方たちになります。育児、介護といった主婦業をしながらも、経済的自立を果たすことができる。こういったことを実現する方法をご提供したいと思っています。

田中:確かに、空いている時間でうまく仕事ができると、本当にいいですよね。

和田:そうですね。パートだとシフトがありますから、「自由に働けるよ」と言われても、なかなか自分の自由にならないという問題があります。私たちは、この二者間の出会いの場を提供することを通して、家族のかたちを再定義したいと思っています。

タスカジが考える、家族のかたちの再定義

田中:すごいですね。家族のかたちの再定義。かなり大きなお話になりますね。

和田:はい。壮大なコンセプトです。どういうことかと言いますと、家事の問題っていままで家族の中で解決しないといけないと思われてきました。でも家族のかたちが、いまどんどん多様になってきて、家事の問題が家族の中で解決しきれなくなってきています。

では、家族のかたちをちょっと変えてみようと。周りにいるタスカジさんのような家事のパートナーを家の中に招き入れて、チームを作って家族を作っていきましょう。それを私たちは「拡大家族」と呼んでいます。

田中:すごいですね。確かに、家族の考え方が大きく拡大して、本当に1つのコミュニティみたいになっています。

和田:実は、こういう家族のかたちって、昔はあったと思います。地域間のコミュニティがあって、その地域の人が困ったら助け合うという仕組みだったわけですが、核家族化、都市化というかたちで、コミュニティがどんどんなくなってきた。それがインターネット上で再現されているというのが、このタスカジの「拡大家族」の世界観かなと思っています。

こういうかたちで、依頼者とタスカジさん、両方の仕事の仕方・働き方を解決していくことで、一億総活躍社会の両輪を担うサービスにしていきたいなと思っています。

主婦の家事経験をエンパワーメントする

田中:本当にそれができそうな感じがしてきました。タスカジの中で、先ほど「データがすべて」というお話をされていましたが、具体的にどんなデータを使ったエンパワーメントをしているのか、ぜひ教えていただきたいです。

和田:今日は3つご紹介したいと思っています。1つ目は、マッチングプラットフォームの「タスカジ」そのものですね。これは主婦の家事経験などをエンパワーメントしてきたというところです。

2つ目です。レビューというデータが「タスカジ」の中でたくさんトランザクションとして発生しています。そのレビューデータを通して、タスカジさんたちが成長意欲を持って活動しているということ。

そして3つ目は、このタスカジさんたちのやる気や成長意欲を可視化することによって、社員の働き方も変わってきたということです。

田中:なるほど。

和田:1つ目の「タスカジ」について、もう少しご紹介します。いま、依頼者が4万3,000人、ハウスキーパーは1,350人ぐらいの規模になってきて、1年で2.3倍ぐらいの成長を果たしています。

田中:すごいですね。グラフを見ると、最初の頃はほとんどなかったのですね。

和田:そうなのです。サービスイン当初は利用者がなかなか増えなかったのですが、いまは利用したい人が非常に増えてきて、実はハウスキーパーさんが不足しているという問題に直面したり。

田中:需要過多の状態なのですね。

和田:そうです。利用方法を見ていただくと、やっぱり約50パーセントの方が定期契約を利用してくださって、毎週・隔週で利用されています。スポットの契約をしている方も、実は1ヶ月に1回とか2ヶ月に1回というように、基本的にみなさんが繰り返し利用しているようなサービスになっています。

タスカジさんに「ずっと働きたい」と思ってもらうために

和田:このトランザクションデータの中には、取引をしたら、そのタスカジさんがどういう仕事をしてくれたかということをレビューで書く仕組みになっています。

どんなレビューが書かれるかと言うと……「すね肉の煮込みがすごくおいしくて、また絶対お願いしたい」というように、どこが自分の仕事の評価ポイントだったかというのがレビューを通してわかります。

また、「穏やかで優しい方で、子どもがちょろちょろしていても優しく接してくれた」という、技術面だけではない人間性だとか、ほかのサービス面についてもフィードバックされていきます。

そして、「改善点は1点のみ。トイレの細かい部分の水垢など」というかたちで、改善すべきポイントも、やっぱりこのレビューを通して行われていきます。

田中:つまり、ただ自分の技術だけじゃなくて、いろんな評価点がわかると、やはりやる気にすごくつながる気がしますよね。

和田:そうですね。この改善ポイントのとおり改善していくと、また評価をしてもらえるということで、どんどんやる気がアップしていく。そして、もっと学びたいという気持ちが湧いてくる。会社員で言うと、四半期とか半期に1回、評価面談みたいなものがあると思うのですが、これが毎日行われていて、すごいスピードのPDCAが回っているというイメージかなと思います。

田中:なるほど。やはり、これを支える仕組みが必要になりますよね。

和田: はい。タスカジ社の課題をもう一度ご説明しますと、需要と供給のバランスにおいて、供給側が不足しているということです。

じゃあ「供給をどう増やしていくか?」と考えると、まず1つは「タスカジさんの仕事をしたい。こういう仕事をしてみたい」と思う人を増やすこと。もう1つが、タスカジさんになってから「ずっと働き続けたい。そして、もっともっと働きたい」って思ってもらうことです。

「もっと働きたい」と思ってもらうことを、もう少し分解しますと、「1人あたりの設定枠をどうやって増やしていくか?」ということが課題になってきます。

ここはMotionBoardを導入して「稼働率」というKPIを見ています。

家の中の困りごとをすべて解決するプラットフォームへ

田中:ありがとうございます。ぜひどんな感じで使っているか、画面などでお見せいただけると、うれしいです。

和田:はい。今日持ってまいりました。

田中:ありがとうございます。

和田:「1人あたりの設定枠」「1人あたりの稼動件数」、そして「稼働率」などを表にして、毎日見ています。朝に定例会があって、社員がみんなで集まって数字を確認してから仕事が始まる、というかたちにしています。

田中:これを見て、どんどん「タスカジさん」のやる気を向上させるということを、社員の方がやっているということなのですね。

和田:そうです。これで自分がやった施策が当たって、1人あたりの設定枠がグーンと増えたりすると、やっぱりみんなやる気が出るんですよね。そして、自分がやった施策が当たらなかった場合、落ち込むのですけれども、「じゃあ次はまた何をやればいいかな?」というふうに、気持ちがすぐ切り替わると。

田中:なるほど。では最後に、タスカジ社としてのこれからの新しい取り組みやビジョンを、ぜひ教えていただきたいです。

和田:はい。タスカジはいま、家事代行のマッチングプラットフォームです。これを家事代行だけに限らず、依頼者であるお客さまの家の中のお困りごとすべてを解決するプラットフォームにしていきたいと思っています。

田中:そうなってくると、もっとデータ活用のいろんな仕組みが必要になると思いますが、そこは我々もお手伝いできる領域ではないかと思っていたのです(笑)。

和田:ありがとうございます。ぜひお願いしたいところです。

田中:ぜひタスカジさんの壮大なビジョンを達成できるように、お手伝いさせていただきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

和田:どうもありがとうございました。

田中:今日はありがとうございました。

(会場拍手)

IoTで日本を変えようとする「ソラコム」

田中:いかがでしたか? いままで働きたくても働けなかった方々が働ける、新しいスタイルというのを確立した、そんなお話が聞けました。

それでは、最後のゲストです。このITの世界において、1つ重要なテーマは「AI」と「IoT」ですよね。この「IoT」というところにフォーカスをして、いまの日本を変えようとしている、そんな会社をぜひ紹介したいと思います。3番目のゲストは、ソラコムの玉川さんです。

玉川さん、よろしくお願いします。

(玉川氏が登場)

玉川憲氏(以下、玉川):よろしくお願いします。

田中:玉川さんには、ウイングアークフォーラムに1回登壇していただいたこともありますね。

玉川:そうですね。

田中:あれからいろいろと変わって、いまはKDDIさんのグループにも入られているということで、ぜひ改めてソラコムさんについてご紹介いただきたいです。

玉川:みなさん、こんにちは。ソラコム代表の玉川と申します。

ソラコムのこれまでの紹介を簡単にさせていただきます。我々はまだ創業して4年弱の会社です。2015年に創業して、シリコンバレーのスタートアップのような、テクノロジーで世界を変えるような会社を作りたいと思いまして、いきなり資金調達をして、そして一気にチームを作って、2015年9月に「SORACOM」というIoT向けの通信サービスを出しました。

お客さんにもたくさん使っていただいたので、今度は一気にグローバルに展開しようということで30億円を調達して、グローバル市場で、この1枚で世界中120ヶ国以上とつながるSIMカードを出させていただきました。

AWSが実現した、コンピューターの民主化

玉川:昨年はKDDIのグループの中に入り、いまやお客さまは1万ユーザー以上です。480以上の会社さまをパートナリングにさせていただいて、アメリカとヨーロッパ、それからシンガポールにオフィスを構えてビジネスをしております。

田中:玉川さんはソラコムを(起業)される前は、AWS(アマゾンウェブサービス)にいらっしゃって、私は存じあげていました。なんで突然AWSからソラコムを作ろうって思われたのか、みなさんもきっと興味があるのではないかと思いましたので、ぜひこのあたりもお話しいただきたいです。

玉川:背景からお話しさせていただきますと、実は私は、2008年にアメリカへ留学していたんですね。たまたまその時にAmazonが「AWS」というクラウドのビジネスを始めたのです。まさにボタンを押したらサーバーが一瞬で立ち上がると。「すごいな」と思って、日本に戻ったあと、2010年にAWSの日本事業立ち上げに参加します。

そこで私が見てきたものは、世界のものすごく大きな変化でした。世界中で新しいWebサービスがどんどん出てきた時に、このAWSというクラウドが果たした役割は非常に大きく、私自身はそれを「コンピューターの民主化(デモクラシー)」だと感じています。

もともとAWSが出る前は、まさにタスカジさんとか、そういった新しいアイデアがあったときに、サービスを立ち上げようと思っても、サーバーやデータセンター、ネットワークを整えるのに6,000万円位かかると言われていました。

それが、クラウドが出てきたことによって、とりあえずボタンを「ポチッ」と押せば数十円から使えるというので、とりあえず作ってみることができるようになりました。実際に大きなサービスになったら、もちろんお金は払うのですが、スモールスタートができるようになったということで、AWSを使って立ち上がった会社はたくさんあります。Dropbox、Netflix、Instagram、Uber、Airbnbは、すべてAWSから立ち上がっているんですね。

この「あらゆる企業・個人にそういった翼を与えるような、そういうプラットフォームビジネスというものが、ものすごくいいものだな」と、もともと思っていたんですね。

IoTとは総合格闘技である

玉川:転機が訪れたのは、「IoT」というトレンドです。だいたい2013年ぐらいに、日本のお客さまもみんな「クラウドにデータを上げよう」ということを始めました。でも、自動車会社さんとか自動販売機、それから家電のお客さまが、クラウドにデータを上げようと思ったときに、「どうやってつなぐんですか?」という問題にぶち当たるんですね。

IoTというのは、実は非常に複雑なテクノロジーの集合体でして、私はよく総合格闘技だって言っています。それくらいやることがいっぱいあります。センサー、デバイス、通信、データ収集、可視化、デバイス管理、省電力、セキュリティ、クラウド連携といった技術を組み合わせる必要があります。

田中:まさしく総合格闘技。なかなかおもしろい言い方ですけど、本当にそうですよね。

玉川:そうですね。IoTをやりたいと思っても、立ち技だけじゃダメで、寝技から投げ技から、全部習得しないといけないと。

これはすごく大変なので、AWSがまさにコンピューターを民主化したように、IoTのテクノロジーを我々が民主化しようと。1つでも多くの会社がいろいろなイノベーションを起こすためのお手伝いができればいいと考えて、この「SORACOM」というサービスを開始しました。

田中:すごいですね。このプラットフォームが提供するサービスの量だけでも、後ろのほうが見えないぐらい、いっぱいありますね。

玉川:そうですね。クラウドをやっている方からすると、「よく似ているな」と思うかもしれないですね。

田中:AWSもこんな感じの書き方をしていますよね(笑)。

玉川:そうですよね。お客さまがなにかIoTのシステムを作りたいときに選んで使っていただいて、スモールスタートできるというようなプラットフォームを作っています。

ソラコムが開発した「なんにでも使えるボタン」

玉川:ちなみに、最新作をちょっと持ってきました。

田中:本当ですか? なんですか、これ?

玉川:これは、最近話題のもので。世間一般では「あのボタン」というふうに言われています。これはソラコムの「LTE-M Button 」と言われるものです。低消費電力の「LTE-M」という無線を使っているので、スマホのような充電は不要、単4電池本で動き持ち歩けます。

田中:すごいですね。

玉川:これを押していただくと、電源が立ち上がって。

田中:なんか光ってきました。

玉川:これからなにが起こるかと言うと……いま、私の携帯にSMSを送ります。

田中:緑になりましたよ。

玉川:緑になりましたか。そうすると、もうすぐSMSが届くと思います。これですね、ピコッと、こんなかたちで。

田中:あれ、(携帯の画面上に)ピコッと出ていますね。

玉川:「ボタンがクリックされました」と出ています。これはなにかと言うと、「なんにでも使えるボタン」なんですね。このボタンを押したときになにができるかというのは、お客さま次第です。例えば、SMSを送る、メールを送る、なにかを発注する、タクシーを呼ぶなど、いろんなお客さまがいろいろな使い方をされています。

例えば、小売店の下にボタンを隠して置いておいて、怪しい人が来たらボタンを押して警備員に来てもらうとかですね。それから、スポーツジムだと、「タオルがないときは押してください」と。そうしたら店員さんが来ます、とかですね。

田中:なるほど、確かにね。

玉川:なんでもカスタマイズできる。しかもネットワーク不要で、日本全国どこでもつながれる。そういうボタンです。

田中:押すだけなのですね。

玉川:はい。我々はこれを、ハードウェア込み・通信料1年分込みで、7,980円で売っています。まさにこれがIoTの民主化の1つのかたちかなと思っています。

田中:なんでもできるボタン。

玉川:そうですね。はじめからハードウェアに通信やクラウド接続などが含まれています。

田中:これはおもしろい取り組みですね。ぜひ「押したらMotionBoardが起動する」みたいなことができると……MotionBoard起動というのは意味がわからないですけど(笑)。

玉川:実際、MotionBoardとは連携しておりまして。こういった通信のSIMカード、もしくはこういったボタンなどをいろいろ出しているのですが、そこからデータを送る先って、いろんなクラウドがありえます。AWS、Microsoft、Googleなど、さまざまなクラウドサービスに簡単につなぐことができる。

Web上でどれかサービスを選んでもらったら、勝手にデータがセキュアに入るという仕組みを持っていまして。我々には「SORACOM Funnel」というサービスがあるのですが、MotionBoardともつながせていただいています。

田中:ありがとうございます。

オフラインのデータ取得を可能にするIoT

田中:こういうサービスの話をされると、どういうところで使われているのか、事例が知りたくなります。

玉川:そうですね。今日のテーマが「データ」ということだと思いますが、私はもともとAmazonにいたこともあって、オンラインのデータは取りやすいことを知っています。Eコマース上でどこのページを開いて、どれを何秒見て、どこをクリックして、こっちと迷った結果これを押したか。これは全部データが取れます。

ただ、オフラインやリアルな世界のデータって、あまり取れていません。それを可能にするのがIoTの事例になります。SORACOMの仕組みを使っていただいて、さまざまなお客さまがいろいろなオフラインデータを収集されています。

よくあるのが「動態管理」と呼ばれる例ですね。これはバスや車といったものの位置情報をSORACOMを使ってクラウドに上げて、それをさまざまかたちで活用する。1つの例はバスの位置情報ですね。位置情報を取得することで停留所のサイネージに「もうすぐ来ますよ」と表示する例です。

それから、遠隔監視、M2M(Machine to Machine)。これは従来から使われてきた用途で、例えば、ダイドードリンコの自販機は、いま5万台以上つながっていて、ログデータ管理ができる。それから、みなさんが成田空港へ行くときに利用する「スカイライナー」を運営する京成電鉄さんでは踏切の遠隔モニタリングにSORACOMを利用いただいています。

田中:こんなところにも使われているのですね。

玉川:そうですね。それから決済端末です。最近、中国からの旅行者が、富士急ハイランドに来たときのために小売店舗にQR決済端末を導入しました。

田中:WeChat Payですね。

玉川:そうですね。まさにそれでやれるように、SIMカードを使ってすぐ実現可能にしました。さまざまなコンシューマデバイス、それから工場の可視化、農業・漁業・畜産といったところでも、たくさん使っていただいています。

田中:そういえば最近、MotionBoardとSORACOM Funnelの組み合わせの事例で、なにかありましたね。

玉川:そうなんですよ。お客さま事例として、東急スポーツオアシスさまで使っていただいておりまして。

スポーツジムで、よく「タオルが切れている」「(タオルが)ちょっと溢れていますよ」というようなことがあるのですが、センサーを使ってどれぐらい量が減っているか、もしくは溢れているかがMotionBoardで可視化されていて、なにかあったら従業員がすぐにかけつけることができる。こういったシステムがもう実際に運用されています。

田中:なるほど。「(タオルが)なくなっていることがないな」と思っていただけるのは、こういう仕組みがあるからなのですね。

玉川:そうですね。こういったこともテクノロジーの民主化によって非常に簡単にできるようになったということですね。

あだ名で呼ばないと罰金

田中:ソラコムさんはいろんな先進的なことをやられているイメージがあるので、やはり社員の働き方もほかと違う先進性がありそうな気がしています。

玉川:そうですね。

田中:それを、ぜひ教えていただきたいたいなと。

玉川:我々はまさにテクノロジーイノベーションを起こそうという会社なので、比較的緩い働き方というか……をやっておりまして。

田中:緩いのですか(笑)。

玉川:ちょっとその特徴をお話しさせていただきます。まず、「満員電車に乗るな」って言っています。

日本の会社だと「オフィスにいる時間が仕事」というようなことになっています。我々の仕事ってイノベーションを作り出す発明家みたいな仕事なので、アイデアをいかに生み出すか、それをかたちにするかというところが大事です。だから、基本的に時間は関係なくて。チームへの貢献、そのアウトプットが大事だという話をしています。

田中:なかなかすごいですね。ここにいる方は、みんなびっくりしています。「満員電車に乗らないでいいんもなら、乗りたくないです」という人は、いっぱいいます。

玉川:はい。ただ、これを実現しようと思うと、それぞれのチームがコミュニケーション豊かにつながって、ビジョンに向かって突き進むことが大事です。

それから、毎日11時に全員集まります。集まると言っても、物理的にじゃないですよ。ビデオカンファレンスで集まって、昨日やったこと、今日やったこと、それからどういう気づきがあったかという話をします。それから、隔週の全体会議や金曜日の夜のハッピーアワーなどで、できるだけみんなが人間的につながって、いいチームとして動けるような工夫はやっています。

田中:なるほどね。さすがですね。

玉川:それからもう1個おもしろいのが、あだ名で呼ばないと罰金という。

インターンの学生も私のことを「Ken」って呼びます。私も最初はちょっと恥ずかしかったです。マーケティング部は現在全員女性ですが、「みゆき」「きょん」などと呼ぶのが恥ずかしかった。ついついさん付けをしてしまうのですけど(笑)、そうするとお菓子箱に100円を入れなきゃいけないということになっています。

田中:本当に罰金を取っているのですか。

玉川:そうです。最初に始めた時は、私はひと月に3,000円ぐらい払っていました(笑)。ただ、いまはもうそれをやる必要もなくて、全員がこういったかたちで呼ぶカルチャーになりました。

田中:なるほどね。すごいですね。

全体会議を10分で終えるために取り組んでいること

玉川:それから、社内では電子メール禁止です。月曜日の朝イチでメールが溜まっていると嫌じゃないですか。そもそもメールって、デキが悪いツールなんですね。

田中:確かに(笑)。

玉川:我々はSlackというコミュニケーションツールを使っていて、基本的に関係のある人にしか通知が飛ばないようになっています。そういったツールを使って、すべてをメトリクス(定量化)にします。「オーダーが来ましたよ」「お客さまに出荷しましたよ」「売上いくらでした」「今日の回転数はいくらです」「お客さんの数は◯です」など、Slack上ですべて透明化して見られるようにしています。

田中:完全にリアルタイムの世界ですね。

玉川:はい。1つおもしろいことがありまして。先ほど毎日11時に集まっているという話をしたのですが、最初は10人ぐらいで「昨日なにやった」「今日なにやった」って1分ぐらい話していたんですね。でも、いまは60人いるので、それはできなくなりました。

どうしているかと言うと、Slack上でAIが毎朝質問をしてきます。「昨日なにやったんですか?」「今日なにやったんですか?」って。みんなそれについてワーッと書きます。書くと会社の中の日記帳みたいなところに溜まっていくので、11時になったらみんなが静かにそれを見ます。その上で、必要なことだけ発言するというやり方に変えて、いま10分程度で全体会議が終わるようになりました。

田中:まさしくロボットとコミュニケーションするような感じですよね。

玉川:そうですね。

田中:これは、誰でも作れそうな仕組みなのですか?

玉川:Slackとかいろいろなツールは使っているのですが、弊社はエンジニアが多い会社なので、「こういうのがいるな」と思ったら、みんな作っちゃうんです(笑)。

田中:「すごい。我々もできそう」と思うかもしれないけど、実はそんなに簡単じゃないということですね。

玉川:そうかもしれないですね。

田中:やはりそのあたりが解決できると、この考え方はもっと普及しますよね。

玉川:確かにそうですね。

データが見えるようになったことが、モチベーションアップの秘訣

田中:こういうことをどんどん進めているソラコムさんは、やっぱり社員みんなのモチベーションがすごく高そうな感じがします。ソラコムさんの中で玉川さんがやっているモチベーションの向上の仕方があったらぜひ教えていただきたいです。

玉川:もともと我々のビジョンをもとにつくった会社なので、基本的にはこのビジョンに共鳴してもらっている人が入っています。

ただ、ここ2年間やってきて、なによりも思うのが、やっぱりデータが見えるかたちになっていることが大事だなということです。

我々はチーム一丸となってお客さまが求めるサービスを作って、世の中に出します。それがどれぐらいオーダー(として)入っているのか? どれぐらい使っていただいているのか? サポートで、なんて言っていただいているのか? これが見えるようになっていることが、社員にとっても一番モチベーションになっていると思います。

田中:確かに、自分の出したものがお客さんからどう反応があって……「それいいよ」と言われると、やはり「もっとやりたい」と思いますよね。

玉川:そうですね。我々の場合、できるだけすべての情報をこのSlackをベースとしたツールに投げ込むことによって、全員がそれにアクセスできるようにしているので、それがやっぱりモチベーションにつながっていると感じています。

田中:IoTのテクノロジーの民主化だけではなくて、人の働き方もまさしくいま変革されている、そんな会社だと思います。ソラコムさんに負けじと、我々も世の中を変えるためにいまがんばろうと思っているので、ぜひこれからも一緒に日本を変えられるように、がんばっていきたいと思います。今後もよろしくお願いします。

玉川:今日はありがとうございました。

田中:ありがとうございました。

(会場拍手)