「永遠のパソコン少年」の異名を持つ中島聡氏

小谷俊介氏(以下、小谷):みなさん、こんばんは。さっそく最初のアウトプットですね。挨拶も立派なアウトプットですからね。本日はお忙しい中お運びくださり、ありがとうございます。

こちらが9月22日に発売され、この1ヶ月でちょうど2万部に到達した新刊『結局、人生はアウトプットで決まる』です。この発売を記念しまして、著者である中島聡さんの講演会を開催させていただきます。

結局、人生はアウトプットで決まる 自分の価値を最大化する武器としての勉強術

「アウトプットで、AIに負けない自分ブランドをつくる!」ということで、タイトルだけ見ると何やらハードルが高そうだとも思うのですが、実際に中島さんも、今までアウトプットを続けることで、AIとまた別の土俵で戦えるブランドを作っていらっしゃる第一人者でもありますので、本当に今日は貴重な機会になります。

実は中島さんは、2つの名前をお持ちでいらっしゃいます。1つはもちろん中島聡なのですが、もう1つは「永遠のパソコン少年」というキャッチフレーズなんですね。というのも、中島さんは17歳の高校2年生の頃にパソコンに出会い、それから40年以上プログラミング一筋にやられてこられた方だからです。

80年代の終わりに、時価総額世界一だったNTT研究所。日本一じゃなくて世界一ですよ。そういうところに入社するも、1年半で退社。単身でみなさんもご存知のMicrosoftに転職されて、その3年後にはもう早々とアメリカに渡米しています。

みなさんもご存知のインターネットエクスプローラーといった、まさにインターネットの世界を切り開いた「Windows 95」の生みの親として、チーフプログラマーのポジションで活躍された後に独立。

今はトヨタ、パナソニック、パイオニアといった本当に一流メーカーの会社に向けて、車を中心としたモバイル技術を提供するXevoという株式会社の代表として、日本とシアトルを往復しながら活躍されていらっしゃいます。

また、講演のテーマである本のブログ(『Life is beautiful〜永遠のパソコン少年の理科系うんちく』)を14年間、メルマガも5年間も続けていらっしゃいます。まさに、日本一アウトプットするプログラマー、エンジニアと言っても過言ではありません。

本のテーマを「アウトプット」にした理由

小谷:中島さんは、お住まいのシアトルから来日してくださっているのですが、本当にもう今回のためだけと言っても良いほどです。繰り返しますが、とても貴重な機会ですので、一言一句逃さず聴いていただき、ぜひアウトプット、質問などもドシドシしていただきたいと思います。

なお、今回は、担当編集者であるわたくし小谷と、今回の取材をしてまとめていただいた、そこにいらっしゃるライターの加藤純平さんと一緒に、インタビュー形式で進めさせていただきます。それでは中島さんをお呼びしますので、拍手でお迎えください。

(会場拍手)

中島聡氏(以下、中島):中島です。

小谷:では改めまして、よろしくおねがいします。書店での講演は久々ということで、本当に今回は機会をいただいて、ありがとうございます。このたびの本は中身がアウトプットということで、最初のきっかけについてお話したいと思います。

やっぱり私自身が編集者という職業柄、基本的には著者の才能というカクテルをインプットしたものを、本というかたちでアウトプットすることが多かったのですが、やはり編集者として、自分の考えや本の作り方などをアウトプットすることも必要だなと考えていたときに、とあるご縁で中島さんをご紹介いただくことができて、ぜひにということで、アウトプットの本につながりました。 

お読みになった方もいらっしゃると思いますが、前回は時間術の本でしたね。そこで有効に残った時間を、今度どうアウトプットに使うかという流れとしても非常に良いのではないかということで書いていただいた次第です。

ただいま2万部ということで、またどんどん10万部に向けてスピードアップしていきますので、よろしくお願いいたします。

スムーズにアウトプットするためのマインドセット

小谷:それはさておき、今回みなさんへの参加条件として、本を買っていただいた方が対象となっておりますので、お持ちでない方はいらっしゃらないですよね。大丈夫ですよね? ですから、まずは本をベースにして本を読み解いていきます。

キーワードを中島さんに質問して、その答えをアウトプットしていただきます。ページを追っていく読書会のように進めますので、まだお読みでない方も安心して読み進めてください。まずは手元の本のページをめくっていただけますでしょうか。

今回のインタビューの目的は、今日お越しいただいてる方で、もう私はアウトプットをしているという方はいらっしゃいますか? ブログやリアルでも……自信を持ってやっていると言える方はいらっしゃらない……。Twitterやブログを毎日やっているレベルでも良いですよ。

(会場挙手)

5人くらいですかね、2分の1くらい。他の方々はやっぱりこれからやっていきたい、やりたいと思っているけど、おそらくなかなかアウトプットができていないということですね。

いわゆる表現はちょっと下品ですが、アウトプットの便秘状態のようなかたちだと思います。出したいものはあるのだけど、たぶんいろんな障害があって、中々スムーズに出てこないということだと思うのですが。

今回は1時間半のお話を聞く中で、その方々のお通じをスムーズにしてあげることが目的です。今日は本当に帰り道の電車なり、お車の中なりでも、すぐになにかしらのアウトプットをする、発信をするということを促すマインドセットを身に着けてもらえれば。そこをゴールにしたいので、ぜひ意識していただければと思います。

時間もないので、さっそくインタビューに移らせていただきます。まず最初ですが、そのものズバリ、このタイトル『結局、人生はアウトプットで決まる』。いろいろと時間ぎりぎりまで考えて案を出した上で決定したタイトルでしたが、このタイトルに関してはいかがですか? 伝わっている感じがしますか?

出版業界への幻滅を払拭した編集者との出会い

中島:本当のところ僕としては、あんまり本を出したくなかったんですよ。ひとつ前のもの、前の前のものくらいからなんとなく、出版社による出版の仕方に疑問を感じていまして。

先ほどの雑談でも出たんだけど、だいたい5千部、1万部くらいの本を出して、返品が戻ってくるとお金を返さないといけないから、その前にまた次に5千部、1万部ほど出せば、なんとなく自転車操業で回っていくというので、とにかく本を数多く出せばいいような出版社が多いんですね。でもそれに乗っちゃうと、せっかく手間をかけて作っても、たかだか5千部、1万部で終わる。

だからといって、たいしてプロモーションもしてくれないし、編集の人も下手すると年間10冊ほども抱えているから、こちらのために時間を作ってくれないわけですよ。それもあって出版業界に幻滅していて、もう本を出すことはやめようと。

メルマガの方がやっぱり楽しいわけですよ、読者からフィードバックも返ってきやすいし、一度入ってくれた方はだいたい次の月も残ってくれるので、僕のアウトプットとしてはメルマガが1番良いと感じていたときに、1冊前の本で……前の本の宣伝をしても仕方がないのですが。

小谷:この本ですね。

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

中島:この本を編集してくれた編集者が、ものすごく熱心に僕のことを説得してくれて、必ずベストセラーにするからという話で、しょうがないなと言って出したら本当に10万部売れたわけです。それが2年くらい前かな。

小谷:そうですね。

中島:これが売れて、いろんな出版社から話が来たわけですよ。出してください、出してください。でも、それでやっぱり話を聞いていると、みんな似たような感じなんですね。10万部いった人だから、次も出せば何を書いても2万部くらいは売れるんじゃないかというような、甘い気持ちで来ている人ばかりで。

ずっと断っていたら、知り合いのエンジニアから、彼(小谷氏)を紹介されました。でも、僕は1回断ったんですよ。いや、やらないよと。ところが、彼はすごく熱意があって、ある意味僕を説得してくれたんです。5千部、1万部を自転車操業で回すんじゃなくて、そういった作り方からうちの会社も脱出したいのだと。

「きちんと力を入れて作るから」と言ってくれたからやることにしたのであって、実に2年ぶりの本になったというのはそれも理由のひとつなのですが、僕が書いたと言いながら、かなりこの本はチームワークの結果なので。どう言えばいいのかな、僕の名前がついていますが、これはチーム作品なのです。題名に関して言うと、これは僕が選んだものではないよね? 君が決めたんじゃ……。

(会場笑)

これで良いですかという話は来たけど。

小谷:そうですね(笑)、いろいろ社内で検討しまして。「中身を一言でいうとこういったメッセージ」として提案させていただきました。

アウトプットこそが一番の勉強法

中島:まあ、タイトルについて僕はわりとまあまあかなと。カタカナはちょっとあれかなとは思ったけど、まあ良いんじゃないかと。あとから考えてみるといかにもな感じはあるけど、題名決めもマーケティングなので、僕がいろいろ言ってもしょうがないから。だから、メインのタイトルはわりとすんなりオーケーしたんですよ。

小谷:そうでしたね、サブタイトルの方が……。

中島:サブタイトルの方にすごくこだわりました。申し訳ないことに、いろいろと意見を言って、結局持ち帰って会社でオーケーをとって来たものにさらに僕がダメ出しをして……というような、すごく意地悪なことをしてしまったのですが。タイトルは見た目のものだから、どうでもいいと言えばどうでもよくて。というか売れるものであれば良いのですが。

僕としては、サブタイトルにすごくこだわっていて、要はアウトプット(発信)がゴールだと言っているのだけど、実は「アウトプットすることが1番勉強する方法になるんだよ」というメッセージを込めたかったんですよ。

小谷:「この本は勉強法の本だ」ということを伝えたかったのですよね。

中島:そこがタイトルと矛盾しているせいか、おそらく会社では通しにくかったのかもしれないけど。アウトプットですよ。自分のことを宣伝しようよ。セルフマーケティングですよ、と表向きは言っているのだけど、本当は僕自身、じゃあどうしてアウトプットしているのかと聞くと、それは勉強のためだったりするわけです。

その勉強をしているからこそ、アウトプットもできるのかもしれないけど、アウトプットしようと思わないかぎり、勉強をしなくなっちゃう。だから、ますます歳を重ねるごとに思うのは、やっぱり「勉強をし続けないと人間はダメになる」ということです。

ダメになるというのは、世の中で通用しなくなるとかいうことではなくて、重い言葉だけど「生きてる価値」がなくなっちゃうという意味です。とくに僕なんかエンジニアだから。ソフトウェア業界というのは、どんどん毎年のように変わっていくわけですよ。

小谷:ですよね。

中島:だから例えば、5年前に優秀だったプログラマーでも5年間勉強しなかったら、もう浦島太郎ですよ。

小谷:「ドッグイヤー」どころか「マウスイヤー」と言われているくらいですもんね。

充実した人生を実現するのは勉強し続けること

中島:その中で結局、勉強するしかないんだけど、勉強自体を目的にして勉強することはすごく難しい。僕はそれができないタイプで、やっぱりなにか作りたいものがある、なにかアウトプットしたい物があるからこそ勉強できるというタイプ。それでしか僕は勉強することができないし、その姿勢の話をやっぱり込めたかったから、サブタイトルには「勉強術」という言葉を入れさせてもらいました。

ですから、アウトプット本として、アウトプットの模範のようなこともいろいろと書いてありますが、本当に一番大事なところは、実はアウトプットをすることによって、初めて勉強ができますよ、という部分。学校を卒業したら終わりではなくて、「勉強し続けることそのものが人生を充実させる」ということをすごく言いたかったんです。

小谷:なるほど。やっぱりそれも帯にありますが、「AIが職を奪う時代」というかたちで。単純なインプットや発信であれば、今はAIが記事を書くくらいですから、やっぱりAIに負けてしまう、追い越されてしまうというか、そういったところも危惧されてのこともあったと思いますが。

そういった意味で、「自分の価値を最大化する」という表現と、勉強術というものがうまくつながったので、良いサブタイトルになったのだと私も納得しています。

本当にそれがみなさんに伝わって、AIに負けないというか、日々勉強をすることで意識を高めていくことが大事だということですよね。

中島:AIについては、ここは売るためのセリフのようなものにしていますね。AIに限らず、これはこの本の話とは違うんだけど、やっぱり技術革新が起こると社会の生産性は上がるわけですよ。

いろんな物が自動化されて、作業が楽になる。要は一人あたりの生産性が上がるということだから。その中で、かつ社会全体が伸びている。社会の売上全体がもし決まっているとすると、一人の生産性が上がれば、働く人数は減るわけですね。

それはもうしょうがない話で、それは良い、悪いは別として起こるものなんですよ。でも……これは別の本に書こうかな……。日本では、実は生産性の向上があまり起こっていません。一人あたりのGNP(Gross National Product/国民総生産)などがここ10年、20年間なぜか伸びていないんですよ。それに対して、アメリカはものすごい勢いで伸びている。

従来の日本の労働環境が激変する時代

中島:良い悪いの話に変わるけど、アメリカはその結果として失業者も増えています。要は貧富の差が広がっているんです。ただ、上の方にある会社、例えばAmazon、Google。「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をつないだ呼称)」などと言われるところがものすごく伸びているわけですよ。

それと比べると、やっぱり日本はバブルの真っ最中には、世界の株価総額トップテンのうち7社が日本だった時代もあったくらいなのに、今ではもう影も形もありませんから。

一人あたりのGNPも上がっていないのは、実はせっかくのテクノロジーが、AIに限らずコンピューターやスマホ、インターネットで出てきているのに、それが生産性に反映されていないんですよ。

反映されていないのは、つまり経営者が技術を理解していないから。もしくは日本には雇用規制があって、簡単に人を切れないから生産性が上がっても人は減らないという、実につまらない事情があるわけです。

それはそれで、例えば人を切れなかった経営者が偉いのかというと、そこだけ見ると確かに人道的には良いのかもしれませんが、でもその結果、日本企業は国際競争力が明らかに落ちている。

一人あたりのGNPが他の国は伸びているのに、日本は伸びていないという問題もあるんだから、それはどこかでやっぱりガラガラッとくるだろうと僕は思うんですよ。失われた20年、30年と言われていたものが、もうすぐ30年を超えて40年目に入ろうとしているんだけど。

果たしてそれでズルズルいけるのか、もしくはその時点で、どこかでやっぱりどうしようもない状況に陥っているから生産性を上げざるを得ないのか、もしくは少子高齢化と国の赤字国債のバランスを考えると、本当に円が暴落するといったことが、ひょっとするとここから10年くらいの間で起こるかもしれない。

そうした時代に備えてという言い方ではないけれど、日本の労働者は甘やかされている部分があったはずです。歳をとった人たちはそれでも良いわけですよ、もう逃げ切っちゃうような。今、50歳を超えているくらいの人はなんとかなるかもしれませんが、今の若い20代、30代の人たちは、そのこれから来る大きなタイミングに飲み込まれていくわけですよ。

そうすると、自分の社会の中での立ち位置についてすごく考えなくてはいけなくて、「終身雇用制が崩れますよ」「実力主義になりますよ」とは言うけれど、その意味はなにかということと、そうした激動の時代に、もしくはアメリカのように終身雇用制がなく、かつ実力主義の社会で生き残るためにはどうしたら良いかというと、結局は「信頼し合える人をどのくらい知っているか」が勝負なんです。

小谷:信頼し合える人、はい。

信頼関係をどれだけ築いているかが生き延びるための必須条件

中島:日本の人たちはやっぱり、そこは終身雇用制であったから、会社の中で立場を築いて、誰についていくかで決まっていた。

小谷:社内派閥のようなものですね。

中島:そう。それはそれで終身雇用制の中における処世術ですから良いのですが、アメリカのような社会ではやっぱり通用しませんから。

小谷:アメリカではダメですよね(笑)。

中島:会社がダメになっていくだけなので。会社をまたいで、別に会社の中でも良いのですが。会社の中にいた上司で、気に入っていた上司が辞めて自分で会社をスタートするというときに誘ってもらえるかどうか。

もしくは、仕事でビジネスをした相手、例えば営業のときに出会った人から誘われる関係になるといったように、信頼関係があって、人的なネットワークを持っている人は強いんですよ。

というのは、会社は潰れたり部署が壊されたり、ついていった上司がクビになったりということが、必ず起こるわけです。一生の間ずっと同じ会社にいることはできないのだから、そのときの波を乗り切るためには、結局そうした人と人のコネクションを作っておく必要がある。

信頼できる人、この人だったら雇いたい、もしくはこの人であれば雇ってくれるという関係を、いかに数多く築いているかが、アメリカでは生き延びるための必須条件なんですよ。

当然だけど、そのためにはスキルなり経験なりがいるのですが、それはわかりきったこととして、やっぱり「信頼関係」を築かないとダメなんです。その一番の良い方法は、なんらかの方法で自分自身をアウトプットすること。

別にそれは表に出たりするブログではなくてもいろんなアウトプットの方法がありますよね。社内のものでも良いし、もしくは学会や勉強会などでも。

もしくは、本当にある意味アウトプットではなくて、ビジネスミーティングの席で、たまたま上司について行った若い営業の子がしばしばずっと黙っていたりすることがあるじゃないですか。

小谷:ありますね(笑)。

アメリカ人は常に「自分の売り出し方」を考えている

中島:それがもったいないわけですよ。やっぱりなにか気の利いたことを言って、「こいつ面白いな」と相手に思ってもらうべき。それはもちろん会社の営業のプラスになるし、プラスアルファ、ひょっとしたらその人が将来目をかけてくれるかもしれないチャンスなんだから、黙っていたらもったいないわけですよ。

そういうことを意識して生きていかないといけない。僕はアメリカで働いている人と日本で働いてる人の一番の違いはそこにあると思うんです。アメリカ人は、「自分の売り出し方」を常に考えているんですよ。

僕も最初の頃、マイクロソフトで働いていて驚いたんだけど、働いて2年目くらいで上司が僕のところに来て「お前できるな」と。給料でも上げてくれるのかと思ったら「俺はあと3年くらいしたら辞める気でいるから、そのときはお前も来いよ」と、そういうことを平気で言うんですよ。会社で、ですよ(笑)。

あとは、仕事をして出会った人と、接待で食事している最中。「実は俺、ここを辞めようと思っているんだけど、お前のところで雇ってくれないか」なんて話もあったり。逆に、「うちに来てくれないか」というような話があったり。

両方とも、それはもう堂々と行われる。それが終身雇用制のない社会のリアルなんですよ。日本人はそのことを知らなさすぎるから、終身雇用制が壊れつつあると言いながら、実はまだまだ終身雇用に甘んじている。

かつ、上の人たちはやっぱり逃げ切り体制なんですよ。日経新聞に出ていたけど、経団連の重鎮たちは全員新入社員で入って、一度も転職したことがない男ばっかりで65歳以上だという、これはもうどうしようもないですよ。ここの人たちの中にいないですよね?

(会場笑)

小谷:一度も転職していない、65歳以上の男性。

中島:でも、そんな人たちが今、日本の大きな会社を形成しているわけです。

小谷:そうですよね。

中島:彼らにしてみれば、もうどうでもいいことなわけですよ。終身雇用制が壊れようが何しようが、なんとか自分たちが引退するまで保ってくれればいい。

小谷:もう、自分のことではないと。

日本は生産性が上がらない社会構造になっている

中島:日本の社会が作ってきたものは、結局そういう人たちが一生働くと、引退するときに取締役になれる人は良いけれど、なれない人は早めに引退しなきゃいけないから、「その人たち用」の子会社を作って、そこに天下りさせるようなことをえんえんと作ってきた。

当然だけど、そんなことをしていたら、生産性が上がるわけないんですよ。銀行もそうだし、自動車会社もそう。星の数ほども子会社がある。天下りする人は、天下りしてもあまりそこで働かないんですよ。下手するとお抱え運転手付きの役員として降りてきて、一応会社には来ているんだけど、仕事は若手にやらせて、親会社と接待ばかりしている。

でも、その人がものすごい給料をもらっているようなことが平気で行われているんです。そんなことをしていたら、やっぱり生産性が上がるわけないですよ。そうした社会になってしまっている。そんな連中のことは放っておいて、やっぱり社内、社外に信頼できる人間関係を作りましょうよ。

小谷:人間関係を作る、そのためにはやっぱりアウトプット、発信して気付いてもらう、知ってもらうことが大事ですよね。

中島:アウトプットというと、やっぱりブログやYouTubeというイメージがわかりやすいのですが。さっき言ったように営業の席で上司について行っていたんだけど、ちょっと気の利いたことを言ってみるようなことも立派なアウトプットのひとつなので、それはぜひやってほしいですね。

小谷:本の中にはありませんが、中島さんご自身が、若い頃にそういった中で引き立てられたような、この一言が効いたという経験があったりしました? アメリカでも良いのですが。

予定調和をぶち壊す「ちゃぶ台返し」もやっていい

中島:あります。マイクロソフトでは最初は支社に入ったのだけど、そのときにスティーブ・バルマーというナンバー2の人が来ていて。ちょうどそのときにIBMとマイクロソフトが新しいOS、そのときはOS/2と言っていたのですが、一緒にOSを作ることになったと、みんなに説明してくれたんですよ。

偉い連中は、「IBMと協力するんだったら、これからこうやって働きます」「今まで作っていたWindowsはどうなるんですか」などといった質問をするなか、僕はすごく疑問があって。ぺーぺーのエンジニアだったんだけど、手を挙げて「その提携はIBMにとって損じゃないんですか」と質問をしたんですよ。

小谷:はい、逆にIBM側の視点に立ったわけですね。

中島:それを僕の上司は「お前、なんでそんな場違いな質問をするんだ」と。せっかくIBMを説得したのに。

小谷:そうですよね(笑)。

中島:そういった感じで。それからシアトルの本社に移った時、バルマーが「あの時、いい質問していたな」と覚えていてくれたんですよ。

小谷:それは嬉しいですね。

中島:実際、その2年後くらいに破談になりましたからね。だから、ちゃぶ台返しみたいなものも、実はしていいんですよ。僕はそういうことをよくやっちゃうタイプです。でも、怒られたり迷惑かけたりするときもあります。「せっかく社内でOK取ったサブタイトルにダメ出しするんじゃない」とか言われます。

小谷:それ、例に出しますか(笑)。

中島:でもそういうことは、実はしてもいいと思うんですよ。なんていうか、仕事をしていると、なんとなくこれは大前提で決まっていて、その中の個別の問題を解決しよう、みたいな予定調和の状況になって、誰も大きな質問はしなかったりするじゃないですか。

小谷:「もう他は決まっちゃってるから」みたいになりますよね。