「このまま着れば正解」を求めている

稲着達也氏(以下、稲着):次が、これもお二人がすごく大事にしているということです。実際にすごく伸びているメディアで、その理由が、初めて買ったファッション誌が『mini』だという方が多いとか、『ローリエプレス』の最初の媒体の説明で「かわいいの第一歩」というような言葉があったので、確かにみんな考え悩んでいるんだなということですね。

中村ゆい氏(以下、中村):身近な人のアドバイスが参考になるというのも、自分の選択に決定的な自身が持てない中で身近な人に「いいね」と言われると「ああ、そうなんだ」と安心するということがあるのでしょう。

稲着:なにか基本の「き」の例もありますか?

中村:tipsとか、やりかたにこだわっていらっしゃるというのが、お二人とも合致しているなと思いました。

見澤夢美氏(見澤):そうですね。コテ巻き髪の基本の「キ」で、これもけっこう後ろのほうでやった地味な企画ではあるんです。だけど、これが巻頭のファッションの次に人気でした。

けっこう丁寧に教えたものになるんですけど、さっきあったみたいに、昔のファッション誌って「かわいいコーディネートとカタログ、以上!」というもので成立していたと思うんです。

だけど、今は教科書みたいな作りで、「何と何を合わせれば正解です」という(ものを)、失敗したくない人たちに向けて作らなければいけない。すごく丁寧な作り方で、ぱっと見てすぐわかるように、目立つべきものが目立っているとか、頭を使わなくてもぱっと見てわかる。「このまま着れば正解」というものを意識して作らなければいけなくなっているのは、すごく感じます。

遠藤優華子氏(以下、遠藤):すごくびっくりしたんですけど、(『mini』さんと)似ている記事を最近出しまして。これもめちゃめちゃ反応が良かったんですね。同じような内容なんですけど、サイズのお話から、ヘアアレンジ別でこういうパーマ風の強いカールだったら重点は右だよとか、丸い形状をしたコテとか、本当にみんなが知っていると思うんですけど。そういうことを教えてあげたものだったんですけど、やっぱり基本に沿ったものは需要が高くて、企画としてすごく似ていたので(スライドに)写してみました。

稲着:最近では、メンズ向けのコンテンツというのもその傾向はあるかもしれないですね。

中村:そうですね。

稲着:雑誌はもちろんですけど、とくに男性って論理的に消費をするとかよく言われますよね。本当に方程式のように服の着こなし方を説明する本が、今すごく売れている傾向がありますね。

中村:情報がどんどん変わっていく中で、安心できる材料というところで「基本」というものがすごく刺さるのかなと思うんですけど。

見出しなみレベルのこともファッションの領域

稲着:もう1点、「昔のおしゃれはやっぱり服オタクだった」というのに通じるかもしれないですけど。ある種、服装のファッションが民主化(した)というのに近いですけど、普通の人にやっぱり基本は必要じゃないですか。いきなり超個性的な髪型やファッションを見せられても、というのがあると思うので、ファッションがターゲットとする人が変わってきているのかもしれないですね。

昔のファッション業界はちょっとスノッブだったというか、作り手側もやっぱり(昔の人のほうが)基本よりもより教養主義的な部分がちょっと強かったのが、今は変わりつつあるのかもしれないですし。

中村:身だしなみレベル(のこと)からファッションということになっている。昔だったらまったく頓着してないか頓着しているか、というところだったと思うんです。(今は)ちゃんとした人に見られるためには、ちゃんとトレンドを押さえていなければいけないという。

稲着:そこのレベルは実は上がっているということかもしれないですね。

中村:だから、細かいテクニックが、メイクも含めてすごい大事になっているんだろうなと。

稲着:はい。もう1点重要なのが「見え感が命」というのがあります。これはどういうことかというと、先ほどの韓国のラグジュアリーストリートみたいなものもたぶんそうだと思いますし、それ以外のもっと身近なところにもあります。これはすごく最近の紙面ですかね?

見澤:そうですね。

稲着:派手カラー。ロゴが大きい。

中村:昔のスニーカーの特集がこれだったけど、今が……これは昔のですよね?

見澤:そうですね。さっきの話とかぶるんですけど、物しかないようなスニーカー特集。こういうページはあまり今のものではなくて……。このようにコーディネートをとにかくいっぱい見せるという。物だけだったら検索すればいい話なので、いかにストリート(誌である)、『mini』のフィルターを通したコーディネートで、スニーカースタイルを見せるか。

そういう「物だけじゃない」、『mini』が今情報として出すべきものを『mini』らしいコーディネートで見せることを大切にしていますね。

中村:そうですよね。昔と今を比較して見せてくださっているんですけど、印象としては、コーディネートの見せ方も、昔はすごく人単体に寄っていたと思います。今は空間の中にコーディネートがあって全体の雰囲気が重視されていて、写真がアトモスフェリックですよね。

情報は与えられるもので、自ら探すスキルが不足

見澤:このページでけっこう特徴的なのが、ノド(見開きの中央)を渡して、すごく大きい写真をパーンと載せています。スマホのサイズに慣れている人からすると、雑誌のこの大きさはすごく新鮮なものだと思うので、意識的にこういう大きい写真も入れるようにしているんです。あまり雑誌に親しんでこなかった人が、例えばK-POPとかLDHの好きな人が出ていたから初めて買いました、だったり。

もしくは、付録が欲しかったから初めて『mini』を買いました、という人だったり。そういう初めての人に手に取ってもらった時に、スマホなどで見るものとはぜんぜん違うものとして捉えてもらいたくて、さっきもSNSで「見れない特集」「見れないものを提供する」と言ったんですけど、こういうサイズ感もその中には含まれるなと思ってます。

稲着:サイズ感は確かに大事かもしれないですね。スマホでは味わえないというのもありますけど、スマホの世界でも、なんだかんだWebデザインのUIのデザインのトレンドって、ここ数年どんどん画像を大きくしているなと思っています。今ちょうどローリエさんの(アプリの)画面が出ていますが、やっぱり記事に占める画像の割合が大きいですよね。

遠藤:見え方としてそうですね。やっぱり、(ユーザーが普段)インスタを見ているので、言葉というよりは本当にビジュアルで選んでもらうということは、けっこう意識的にやっています。例えば検索する時なども、今の子たちは「靴が欲しい」とか「服が欲しい」と決まっていないけど、「なにかが欲しい」時ってあると思うんですよね。その時に、例えば靴が欲しいと決まっていれば、靴って検索できるんですけど。

「なにも決まってないけどなにか欲しい時」って、どうもできないというのがあって。そうしたら写真を見て、なにか自分が気になるものを選んでもらう感じにできないか、というので、キーワード検索の画面をあえて言葉ではなくて写真で羅列するという(工夫をしています)。

それで、もっとヘアカタログを見たければ、ここにいってもらって、たくさん(写真が)見られて、その中から自分の好きなヘアカタログを探せるよ、とか。今まではずっとWebでの展開だったので、そういう感じにしたのが、アプリにしてからこだわり始めたところです。

この世代は、けっこうレコメンドされることに慣れていると思うので、教えてもらうことに慣れ過ぎていて受動的。情報を受け取ることにはすごい敏感なんですけど、自分で探すことのスキルがそこまで長けてない子たちも多いので、そういう時のきっかけとして、楽をさせてあげよう、ということでビジュアルを使ったというのはあるかもしれないです。

確かにかわいいネイルを探しているんだけど、言葉に言えない、なにかかわいいものを探したいという時に、やっぱりけっこう難しかったりします。そういう時用に写真を見せるということは、ポイントとしてはやっています。

共感できない、トンマナに合わない写真は見られない

中村:『mini』さんを見た時も、『ローリエ』さんを見た時も感じたのは、見せているものが、この「物」というよりは、やっぱり雰囲気だなと思っています。パッと開いた時になにかを見せる。10年前の表紙がすごい象徴的だなと思うんですけど、人やトレンドのモノがバーンと全部強く出ていたと思うんですけど、(今は)すごく繊細な空気感を伝えている感じがあるなと思って。

さっきのスポーツブランド切りの紙面も、本当に余白がすごくたくさんあって、全体的に空気感を伝える感じになっていたなと(思います)。『ローリエ』さんも全体的に世界観があって、そこにぱっと雰囲気が伝わるビジュアルが、やっぱり選ばれるんだろうなと思っています。

稲着:単純にこの左側の画像でいうと、そのさらに左ページのあそこだけを見て「このスニーカーが欲しい」とは、やっぱりならないですよ。大きい写真を見て「ああ、この雰囲気憧れるな」「このスニーカーが欲しい」というのが、たぶん『ローリエ』さんも、メディア全体としてかわいい世界観作りをすごく気にされている、すごく真剣にやっているんだろうなという印象があります。

中村:写真が良くないと、見てもらえないんですよね。

遠藤:そうですね。やっぱり、もう昔(のもの)というイメージになるのが、Webメディアの場合、外国人の「wow!」みたいな写真。フリー素材を使われているのがけっこう主流だったと思います。そういうものも、いまだにあるといえばあるんですけど、あまり時代的に見かけなくなってきています。さっきも顔が見えるというお話があったんですけど、やっぱりリアル感というのもあるので。

例えばECサイトの商品の紹介とかでも、外国人着用のブランドイメージもあるので一概には言えないですけど、慣れ親しんだ日本人や韓国の子が着ていると、なにかちょっと自分に近いと思ってくれるみたいで、けっこう見られやすかったり、購買に繋がったりもします。

すごく内容が良くても、写真がちょっとマッチしていなくて、全然『ローリエプレス』のトンマナ(トーン&マナー)と違う時は、案の定、全然見られないので、写真だけ再撮影したり、ピックアップには載せないようにしています。ピックアップは、アプリの中で1番見られやすいところなので、そこにトンマナの違うものを載せてしまったりすると、すぐに離脱されて、アプリをアンインストールされることもあります。そこはけっこう気をつけているかなというのはありますね。

稲着:はい。ありがとうございます。最後のポイントで、アレンジの余地、余白を残すというのがあります。これはまさに雰囲気をつくる上で、アイテム1個で完結するのではなくて、それをどう使って自分なりの雰囲気をつくっていくかという話だと思うのですけども。

バズるのは読者がアレンジできる余白があるもの

中村:「これは広告だよね」「これは一方的に何か言っているよね」ということに敏感な人たちなので、むしろ自分たちでアレンジして楽しむことにリアリティを感じているようです。そういう楽しみ方がトレンドになっていたりして、1番大事。

今はインスタ映えみたいなものが独り歩きしてしまって、逆にインスタ映えと言われると「えっ?」と引いちゃう部分があると遠藤さんとかもおっしゃってたのですけども。

稲着:インスタ映えについてありますか?

遠藤:インスタ映えのためになにかしているのではないかと言われることが多いと思うのですけども、別にそうではなくて、もともとやりたかったことが、結果的にインスタに載せたらかわいいという感じなんです。

「おしゃれなカフェに行くのも、かわいい服を買ったり、コスメを買ったりするのも、インスタ映えしたいからなんでしょ」と言われちゃうと、「そうじゃないのにな」と思う子も多いのかなと思っていて。いろいろかわいいものを知りたい、やりたい、持ちたいというのが、結果的にインスタに載せたいという欲求に繋がっているのかなと思いました。

中村:だから、行動してもらうことのほうが、けっこう大事なのかなと思います。

遠藤:がっつり「インスタ映えでしょ。どうぞ」という感じのものを提供しても、実はそれってあまりウケは良くないんです。例えば、なにかしらのすごくかわいいテーマを与えてあげて、それを自分たちなりに咀嚼してこういうふうにメイクに使おうとか、こういうふうに物撮りしようとか、こういうふうにコーデに取り入れよう、という。

自分が考えられるアレンジの余白を持っているもののほうが、けっこう拡散されやすかったり。私たちも知らない使い方をそこで学ばせてもらったりすることはありますね。結局、付録とかもそうです。

稲着:これは何の画像でしょうか?

見澤:これは『mini』の付録画像なんですけど、例えばネイルの付録でも自分で塗ってみた爪を上げてくれる人もいれば、ネイル瓶を11本並べてかわいく物撮りしてくれたり。付録を考える時にも、買ってくれた人がどういうふうに楽しんでくれるかを考えています。このミッキーのトートバッグの付録を持ってディズニーランドに行く人が本当に続出したんですよ。

この空いているスペースにミッキーにサインしてもらうのが流行ったんです。「この付録バッグを持って、この場所に行ってくれたらいいよね」なんて思って作っていたり、購入いただいたその先を考えながら付録の開発を行っている部分があります。

今ちょうど発売中の号も、ミニリップを5本付けています。それも小さいサイズのリップが出ていたので、「これ(ミニリップ)が流行ってくる」と編集部の子が言い出したのをきっかけに、付録にしたんですけど、それも塗ってももちろんかわいくてトレンドの色なんだけど、プラスこれを物で撮ってもかわいくて……とか、その先を考えることは、わりと意識しているなと思っています。

若い世代は「インスタ映えに必死」は誤解

中村:結局、今までだと「このブランドのこれが欲しいでしょう」だと思うんですけど、ここから先をどう行動してもらうかというふうに考えたほうが、逆に欲しがってもらえるのかなという。この付録でメイクのグッズが人気になるというのが、そこをすごく端的に表わしている気がしました。

見澤:「このブランドの服を着ている私」という話ではなくて、かわいい服を着ていても、そこで仲のいい友だちと一緒にどこどこに出かけて、なになにを食べて、楽しんでいて……。リア充という言葉が一時期流行りましたけど、楽しく生きている生き方のようなところに繋がってきているのかなと思っています。

だから、インスタ映えを狙っていると言われると、ちょっとなにか違うというのはそこかなという気もしています。結局「楽しそうでいいなあ」と思われたいだけ。それが「インスタ映えに必死」だと思われると、ちょっと気分的に違うと思うんです。

稲着:なるほど。人って基本的に程度の差はあれ、他人に良くみられたいものじゃないですか。その時にたぶん昔ってもっと金とかブランドの競争をしていたのが、今はやっぱりライフスタイルの競争に変わってきているのだなと思いました。まとめに入るんですけど、そうなると当然ライフスタイルってあまりにも多様なので、今みたいにアレンジの必要があります。

ライフスタイルが問われる時代ということと、あとそれはどう問われるのか。ライフスタイルを見せる場としては、やっぱりSNSというものを僕らは手にしてしまったこの時代において、他者に見せるためのシーンをつくらなければいけないというのがあるのかなと。もう1つは中村さんの言葉でしょうか。

中村:そうですね。これは本当にみなさんにシェアしたいエピソードなんですけど。自己編集って2000年代から言われてますけど、その頃ってリアルの場所がメディアだったので、自分がどんな服を着ているかが、自分の人間性を表すメッセージだったと思うんですけど。今は、もう1つネットの世界が入っているので、物の編集だけじゃないんですね。

さらに、モノも含めた画像イメージをどうやって編集するかにまで行き着いているなと思っています。さっき遠藤さんがトンマナと言いましたけど、そういう編集者側の視点のトンマナみたいなものが、インスタのフィルターなども含めて、見る側にすごく入り込んでいて。今までだったら、Photoshopなどを使う人じゃないと気にしなかったようなことですよね。

自分らしいかわいいビジュアルをつくるために意識していることが、専門的なリテラシーに及んでいる。それが世界観の編集だと思います。

Instagramは自分の世界観を伝える場所

遠藤:ユーザー向けにInstagramに関して調査をしたところ、「すごいかわいかったんだけど、自分のインスタには合わないから投稿しなかった」と答えた人が7割以上いたんです。例えば『ローリエプレス』の中でも、あまりクールなものって、中にはなかったりしますが、それが女の子のインスタの中でも自分のものとしてあります。

「私はピンクでかわいい系で投稿している」など、やっぱりちゃんと(自分の世界観を)持っています。だから、そこにすごく和風のかわいいものであっても、融合できないと上げたくても上げられなかった子がけっこういるのは、そういう自分なりの視点を持ってチョイスしているんだなと思いましたね。

中村:今までは「自分はこういうテイスト」というのは結果としてなんとなく立ち上がってくるものでしたけど、今は「こういうフィルターの気分だから」とフィルターに合わせて消費していくということが起きていますね。

遠藤:気分でやっぱり変わっちゃうので、全部投稿を消してやり直す子もすごく多いです。ローリエガールズちゃんたちにはアカウントを教えてもらっていて、そこでコミュニケーションをとったりもするんですけど、けっこう頻繁に「ID変えました」「全部消しちゃいました」「ピンクで統一してたんですけど、今は白いフェードっぽいのに変えてます」とか(連絡が)くるので、すごいこだわりだなと思って。そういうのも今の子っぽいなというか、おもしろいなと思ってます。

稲着:確かにInstagramというのが、自分の持つ世界観というものを編集して伝える場所なのかもしれないですね。

中村:だからそういうのに取り入れてもらうとなると、「うちの世界観はこれやで」と言っているのもちょっと難しくて。今回お呼びしたお二人に共通していることって、行動ののきっかけを与えていることだなと思っています。

すごくTipsにこだわって提供されていたり、付録を逆にいじって広めてもらうようにしていたりするところが、すごく人気で、ちゃんとその世代の人たちに支持してもらえるポイントになっているのかなと思いました。

稲着:はい。ありがとうございます。では一旦、質疑応答の時間にしたいと思います。

中村:はい。そうですね。

稲着:せっかくなので手を挙げていただければ。はい。ありがとうございます。

質問者A:たぶんインスタというかスマホによる(変化だ)と思いますけど、服全体が街からSNSへという話もありました。服よりもうちょっと顔とかフォーカスが小さくなってて、それでたぶんセルフィーでとか、あとはヌードみたいなものがあって。インカムとアウトカムで撮るようなものに関心が移っているのかなという。自分の全身を撮ることってあまりないじゃないですか。

それは、自己表現をするフォーカスの大きさが変わったということなのか、そもそも個性みたいな表現があまりなくなっていて、ムードに合わせるというか、個性の表現がそもそもあまりもう流行らないのか。個性を表現する場やフォーカスが変わったのか、個性というもの自体、あまり意味がなくなっているのか。

周りと違いすぎるのも同じなのもイヤな20代

遠藤:とはいえ個性はあるのかなと思っています。切り取り方をとっても、同じ題材なんですけど、みんなそれを自分なりに料理している感じはあるので、その中でも自分なりのかわいいポイントなどを広めたいと思っているのは、変わらずあるんじゃないかなとは思います。逆に、そのこだわりは年々強まっているようなイメージはあると思います。

例えば、今ってこうやって持って写真を撮ることがシーンとしてすごく多いんですけど、それにすらハッシュタグとかが付くんですよ。「#ドリンクを持って撮って」というハッシュタグとか、こうやって撮ることで親指がすごく主張されるので、親指のネイルのデザインを一番凝ったものにするとか、サムリング(親指につける指輪)が流行ったり。やっぱりそこにすごく工夫が出るんですよね。

リップ1つの写真を撮るのも、並べるのも個性だし、リップにリングをつけちゃう子もいたりとか。やっぱりそのリップはみんなが好きなもので、もしかすると万人受けするものなんだけど、その中でも、どう自分のアレンジでかわいくするかという個性は極めているというか。視点がおもしろくて、自分も勉強させられることが多いなと思います。答えになっているかどうか(笑)。

見澤:ファッション誌を作っていて思うのは、服で見せる個性のようなものは確かにそんなにないような気はしてます。なぜならば、教科書みたいなつくりが人気があるのも、人と差をつけたいというよりは、人から外れたくないというか、失敗したくない意識のほうが強いと思うので。そういう意味では、昔のファッションモンスターみたいなちょっと尖った人は減ってきているような感覚があります。

ファッション誌をつくる意味として、確かに個性は昔ほど重要視されていないような気はしています。

稲着:外見の個性は昔ほど求められなくなったけど、もっと広い意味での個性はやっぱり相変わらずありますよ、というお話ですね。

中村:ちょうど、20代の前半から半ば頃の人たちの特徴ではあると思います。今の20代前半から半ばのLINE世代。違い過ぎても同じ過ぎてもダメというさじ加減なんですよね。それぞれ違っているのも違い過ぎだし、なにか同じものを押さえた上で、でも「ここはちょっと違う」というさじ加減が、今の20代の個性なんだろうなと思っています。

30代だと「それぞれ違うって素晴らしい」というぐらい大味なんですけど、LINE世代の個性の見せ方は繊細なさじ加減が意識されています。もう少し下の世代になると、またその気分も変わるのではないでしょうか。

ゼロからつくるよりアレンジがしたい

質問者A:個性の話を聞いたのは、(私は)オリジナルでグッズを作るサービスをやっているんです。本当に30代とかは自分の好きなものを作るんですけど、20代の若い層にまったく刺さらない。まったくというか、今のところ刺さらないんですよね。最近、自己表現としてオリジナルのものを作るという欲求が、そもそもあまりないんじゃないかという気がし始めていて。

中村:ゼロからオリジナル(をつくる)みたいなものにアイデンティティを感じているかどうかですね。

稲着:創作カルチャーから編集カルチャーへというようなものが、もしかしたらあるかもしれない。

中村:そうですね。

遠藤:お手本があって、それを自分流にカスタマイズするようなもののほうが、私たち世代はけっこうピンとくるかも。Netflixなどを見ていても、自分で見たいものを選ぶよりは、今の20代はレコメンドされたものから見る傾向がけっこう強いみたいです。やっぱり慣れちゃってるんですよね。

おすすめされたり、こういうお手本があるものをどういうふうに、みんなの中での個性を出すかという感じだったりするので、0→1より1→100みたいな子たちが多いのかなとは思います。

稲着:ありがとうございます。他にありますでしょうか?

質問者B:先ほどお話しされていた時に、新しいものを韓国に行ってよくご覧になったりとか、普通にSNSでおしゃれな子をフォローしてみたりというのはあると思うんですけど、そういう感じで0.5歩先のトレンドや1歩先のトレンドを集めたり、それが自然に入ってくるようにしていることで、なにか特別に自分でされていることがあれば教えていただきたいなと思います。

見澤:私の場合は韓国に関しては本当に自分が行っているので、自分の肌感でこれが流行りそうだとか、これが日本に入ってきそうだなと思うものを、わりと早く『mini』に取り入れた感覚があるんですけど、それだけではなくストリートなので、街の子たちを見るようにしています。

あとはスタイリストさんに聞いたり、わりと地味に足を使ってじゃないですけど……もちろんSNSなども見ますが、自分の中では肌感のようなものがけっこう重要かなと思います。

若者に支持されるメディアの情報源とは

遠藤:私はけっこう(ターゲットが)生息する場所を追いかけたほうがいいのかなと思っています。今、見澤さんの話でストリートにいるとありましたけど、やっぱりファッションだったり、その場所を肌で感じることが1番の情報収集源なのかなと。

私の場合はSNSを活用する女の子たちがターゲット層だったりするので、自分自身もSNSをずっと見ています。インスタも見ますし、Pinterestとかも使いますし。

全然違う情報源のとり方として、Twitterの有名な子、例えばインフルエンサーさんが何か投げかけていることに対するリプライも見ます。どういうことを投げかけてユーザーさんはこういう答えをするのかとか。こういうやり取りをしているのね、というのが、けっこう参考になります。あとは、普通に友だち感覚でみんながそこでコメントし合っていたりするのが、けっこうおもしろかったりするので、そういうものはよく使っています。

たぶん私がストリートに行って見ても、得られるものの見方が違うのかなと思っています。SNSで流行ったことを、実際に自分ごと化したい読者が多いので、もちろん大学生の子と会ったり、お店を回ったりもするんですけど、比較的私はSNSなどがけっこう多いかなというところはあります。

中村:トレンドの速さが関係していると思うんですけど、やっぱり今って1番速いのはネットだと思いますか? リアルの街であるストリートと、ネットとどっちが速いと思いますか?

稲着:トレンド自体のニュアンスが、けっこう変わってきていると思うんですよね。今の若者たちにとって、トレンドは局地的に生まれるもので、日本全国を巻き込むようなトレンドはないのかなと思っています。局地的なトレンドでいうと、自分は正直、街のほうが速いのかなと今は思っています。でも、領域にもよりますよね。

そもそもネットから生まれるトレンドもあります。ストリートって、例えば原宿にストリートというとしっくりくるじゃないですか。秋葉原×ストリートと言っても、そこになにかファッションに関係するようなカルチャーがある気はたぶんしなかったと思うんです。だけど、今の時代はインターネットでデジタル系にすごい親和性の高いアニメや原画などの感性が入ってきているクリエイターなどがいる。

すごく独特でおもしろいファッションアイテムを作ってECで売ってたり、そういう人たちのハッシュタグを追いかけてみると、そこにも1種のストリートがあったりします。その人たちは、もう街にはいないんですよ。秋葉原に行けばいるというわけではない。

いずれにしても、(ネットとストリートの)どっちが速いというわけではなくて、局地的にいろんなところにそういうものがあって、今はそれをいかに追いかけられるかなんじゃないかなと思ってます。

中村:そういう意味でもどちらにおいても、肌感が必要だということですね。

稲着:もう1名。はい。

ガチスポーツよりもスケボーやダンスが人気

質問者C:スポーツブランド特集がわりと効くという話だったんですけど、『mini』さんの話を聞いていたら、アウトドアとかフィールドに出る層が多くて、『ローリエプレス』さんはわりと色が白くてインドアな感じのイメージを受けたんですけど、両者ともスポーツはするんですかね? LINE世代はスポーツをやるのかなと思って、聞きたいなと思いました。

見澤:ランニングが流行っているので特集をしますが、正直なところ走っている世代って、ちょっと上の世代だと思っています。ただスケボーとかだと若い子たちが今始めていたりするんですよね。その子たちが育ってきたらいいなと思っています。今はまだスポーツブランドをあくまでファッションとして取り入れているという話なので。

『mini』はアクティブなイメージをつけたいというのも実はあるので、本当のところはスポーツをしていて欲しいんですよね。アメリカとかでもスケボーをしている女の子から人気の子たちが出てきたり、ソウルにもおしゃれなスケーターのユーチューバーみたいな子がいたり。そういうストリートのスポーツは、今後育ってくる可能性があるんじゃないかとは感じてます。

遠藤:恐らくなんですけど、たぶん(スポーツは)してなさそう(笑)。なぜなら、「運動音痴でも大丈夫なランの仕方」とか、「3日坊主にならないダイエット」とかがすごく人気なので、きっとしてないんだろうなというのはありますね。ただダンスはけっこうしている子が多いイメージです。今、Tik Tok(ティックトック)とかも流行っていると思うんですけど、そういうもので体を動かしたりとか、ヨガとかは毎回すごく人気です。

ガチ走りはしてなさそうなんですけど、運動自体にはまったく興味はないかなというような。あまり(アンケートを)とったことがなかったので、いつか機会があったらアンケートしてみようと思います。

質問者C:ダンスってK-POPからくるダンスですよね?

遠藤:そう。それもあると思いますし、『ローリエプレス』の特性として、かわいいものがシンプルにかわいく好きなことが多いので、アイドルの乃木坂とか坂道系とか、AKBとかわいい女の子もいまだにそういう対象なんですよね。そこにジェラシーを感じるというよりは「ああ、この人、本当にかわいい。こうなりたい!」というのを素直に呟いちゃうタイプの子たちがすごく多いので、話題になったMVをやってみたとか、比較的見受けられるかなというのはあります。

質問者C:ありがとうございます。

リラックスしつつおしゃれな雰囲気を出したい

稲着:メンズのほうでもアウトドアブランドはすごく流行っていて、自分の周りでもそういうのを好んで着る人は、けっこういます。だけど、身近なところを見る限り、別にみんな登山やキャンプはしてないですよね(笑)。そういうのと切り離されてブランドとして成立するというのはおもしろい現象ですね。

中村:最初のほうに遠藤さんがおっしゃってましたけど、すごくヘルシーですよね。だから、ちょっとセクシーな腹見せみたいなものは最近ありますけど、やっぱりヘルシーだからぜんぜん昔のセクシーギャルみたいにはならないというか、そういうところがスポーツのムードと合致しているんだと思います。

見澤:いやらしさとか、がんばっている感は、あまり出したくないというのがあります。そういう意味だと、良い意味でリラックスしているけど、すごくおしゃれな雰囲気などをスポーツブランドは出しやすいので、人気なのかなと思います。

稲着:最後に1人ぐらい、もしいらっしゃれば。

中村:もしいらっしゃれば。

稲着:なにかぐっと飲み込んだものがある方。今ぜひ。

中村:せっかくなので。

稲着:懇親会中はみなさんいらっしゃいます?

中村:はい。

稲着:自分もいるので、そこでなにか直で聞きたいことがあれば、ぜひお話しできたらと思います。最後に、このイベントは連載発信中です。

中村:お手元にチラシをお配りしてますのでぜひ。最後は弊社の小原から締めさせていただきたいと思います。

小原:こういったレポートも読めるような、ifsのライブラリーが伊藤忠ビルの17階にありますので、ぜひご一報いただいてから見に来ていただきたいなと思います。

稲着:外苑前駅徒歩1分。

小原:よろしくお願いします。今日は本当に見澤さん、遠藤さんありがとうございました。

(一同拍手)