なぜか「活気がある」と言われるオフィス

小宮明子氏(以下、小宮):続きまして、スマイルズの蓑毛さん、お願いいたします。

蓑毛萌奈美氏(以下、蓑毛):こんばんは。株式会社スマイルズ広報の蓑毛と申します。スマイルズの説明をかなり端折ってしまっていて、何の資料も用意していないんですけれども。

みなさんご存じかもしれませんが、「スープストックトーキョー」をはじめとして、他にネクタイ専門店の「ジラフ」というブランドだったり、セレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON」、ファミリーレストランの「100本のスプーン」なども展開している会社になります。

この並びの中で、オフィスについて「ぜひ見てください」と言えることはあまりないんですけれども、なぜか最近、オフィスの取材や「見学させてください」というお声をいただくことが非常に増えてきていて、説明しながら、「何でだろうな?」というのを毎回ひも解いている感じです。

小宮:そうですね。まさにスマイルズさんのファンが、すごくいっぱいいらっしゃって。私もそれが謎で、どうしてなんだろう、中身はどうなってるんだろう? ということを、ぜひお聞きしたいですね。

蓑毛:論理的に説明できることは、あまりないですが、「すごく活気がありますね!」とよく言われます。商談、打ち合わせ、取材に来ていただくと、その活気みたいなもの(を感じていただいたり)、「楽しそうですね、みなさん」と言っていただくことが多くて。その1つが、仕切りのないオープンなオフィスで、働いている社員の顔が見えるということはあるのかなと思っています。

あまり全景を撮れるようなかたちのオフィスになっていないので、うちの代表の遠山が一番好きだというカットを持ってきました。ここはファミリーレストランのソファ席のようになっているミーティングスペースが3つという感じですね。

この横にガラステーブルがあったり、執務スペースも(外から)本当に見えるような状態でありまして。これは中目黒のオフィスです。株式会社スープストックトーキョーは、2年前にスマイルズより分社化をしているんですが、同じオフィスで本社機能を持っております。

約70~80人ぐらいの社員が中目黒に出勤してくる感じです。スープストックトーキョーの本社メンバーとスマイルズの私(広報)含めて、クリエイティブや経営企画本部などのスタッフが勤めています。

ここでわりと、みんなが打ち合わせだったり、社内ミーティングも隣り合わせ、背中合わせでやっているような状況なので、本当によくも悪くも隣の声が笑い声も含めて聞こえてくるのが、うちのオフィスの特徴です。それが、すごく「生きたオフィスですね」「活気がありますね」と言われる所以かなと思っています。

おいしそうな匂いに釣られて人が集まる「テストキッチン」

蓑毛:(スライドを指して)これはお酒を出していてあれですけれども、「テストキッチン」と呼んでいるキッチンがありまして、ここでスープストックトーキョーのスープを開発しています。まずは手鍋を使ってここで商品開発をして、商品決定会議でみんなで議論しながら「じゃあ、これを出そう」となったら、実際に工場でそれを実現するためのレシピ開発をしています。

このテストキッチンは、常に誰かが料理をしている状況で、(商品開発の対象は)スープストックトーキョーのスープだけではありません。例えば去年、弊社はGINZA SIXに、海苔の専門店「刷毛じょうゆ海苔弁山登り」というブランドを新しい業態としてスタートしました。

それが始まる3ヶ月前ぐらいから毎日のように、ここで海苔弁の試作をしていたので、海苔のすごくいい香りとしょうゆの香りに、みんなが釣られて入ってくるという感じで、なんとなく、ここが自然と人が集まる場になったり。

あとは、こういったかたちで、就業時間のあとに19時ぐらいから月に1回ぐらいのペースでお酒を交えながら、けっこう真面目に勉強する会をやっています。こんな使い方もしています。

こちらは、一般のお客様に参加していただいて、料理教室というか料理ワークショップのようなことをやったりしています。社員だけではなくて社外の方にも、ここに来ていただいて、ワークショップをやったり。

あとは、以前、スープストックトーキョーの経営メンバーと、会議室で打ち合わせをしていてもおもしろくないので、ここで全員がエプロンを着けて、社長も含めて料理しながらブレストしたり。そんなかたちでも使っています。

アートはコストの積み上げから生まれるのではなく「価値そのもの」

蓑毛:このテストキッチンの隣は、ちょっとしたイベントスペースになっています。社員が朝礼をしたり、イベントをやっています。オフィスに現代アートを点在しているのが、うちの特徴の1つかなと思っています。すべての作品にキャプションがついているわけではないので、社員も「これはどの作家で……」と、全員が喋れるわけじゃないんですけれども、写真や絵だったり、いろいろなものがけっこう点在しています。

このスペースで、名和晃平さんの「DIRECTION (ダイレクション)」という作品を屏風代わりに、ちょっと噺家さんに来ていただいて、スープストックトーキョー主催でイベントをやったりもしました。この時は、40~50人ぐらいの一般の方が参加してくださいました。

ちなみに、柳家花緑さんがたまたま、うちのジラフの大ファンで、ネクタイを個人的にも買ってくださっているということを事前に聞いていたので、このイベントの時に、ネクタイのはぎれで座布団のカバーを作ってプレゼントしたら、とっても喜んでくださいました。

実は、ここで同じようなイベントを2回させていただいたんですけど、2回目は(ジラフの座布団カバーを)持参してくださって、まだ使ってくださっています。

(スライドの銅像を指して)これは一番最近、仲間入りした作品です。代表の遠山(正道)が個人でコレクションするものもありますが、スマイルズとしてコレクションしたり、スマイルズが作家として芸術祭に作品を出品するということに、すごく意味を持って取り組んでいるところがあります。この像を見て、どういうふうに受け止めていいか、社員も分かっていないんですが(笑)、とにかく、いろんなお客様が来るたびに、「これは何ですか?」と言われます。

(スライドを指して)すごくリアルなバナナが、(頭に)乗っています。これ実はブロンズでできていて、相当な技術ですごくリアルに作ってある作品になっています。なぜアートをコレクションしているのかと言うと、いくつか考えはあって。「アートは価値そのもの」だと遠山がよく言っているんです。

例えば、キャンバスと絵具を買って絵を描くんだったら、みなさんも描けると思うんですが、画材のコストの積み上げで値段が決まるわけではなくて、1枚の絵が何千万、何億円になったりもするということは、それ自体が価値そのものであるという話をよくしています。

例えばスープストックであれば、われわれ自身が1杯630円のスープをご提供しています。もちろんビジネスなので、コストも計算していますけれども、コストの積み上げとしての金額を提示するんじゃなくて、「この630円は何の価値を提供しているんだっけ?」「お客様に、どんな時間を過ごしていただきたいんだっけ?」ということをちゃんと考えないとだめだよね、と。

社員が時短制度を活用してゲーム作家として起業

蓑毛:そういう点で、アートから学べることがあるんじゃないかなということ。もう1つは、スマイルズが行動指針のように大事にしている言葉がいくつかあって、「五感」と呼んでいます。その中の1つに「作品性」という言葉があります。

「作品性」という言葉はいろいろなところで使われるんですが、盛り付け1つとっても、「作品性が高いか」とか、私であれば広報なのでプレスリリースを書く時も、「作品性の高いリリースになっているか」というかたちで使います。

どういうことかと言うと、アーティストが(作品に)クレジットを入れるように、一つ一つ、自分の署名を入れられるような仕事がちゃんとできているかということを考えたいよね、という話はよく社内でもしています。店長であればお店そのものが顔だし、作品なので、本当にきれいに掃除できているかということも、「作品性」という言葉を使うことがあります。

「活気がある」と言ってくださるのは、すごくいろんな要素があるのかもしれないんですが、私たちはわりと「会社も個人も自分事って大事だよね」ということをよく言っていて、働き方も自分たちで開拓していくことを大事にしています。

今年の4月に、そういうリリースを出させていただきました。働き方を改革するんじゃなくて……スープストックトーキョーの価値観やスマイルズの価値観は、「誰かが旗を振ってくれて、制度を整えて改革していく」というよりは、どちらかと言うと「自分たちで切り拓いていく」ということのほうが、私たちの文化にはフィットするかなということで、「開拓」という言葉を使っています。

ここ(スライド)に並べているのは、株式会社スープストックトーキョーの制度になります。スマイルズの業態はバラバラなので、一律で話せないところがあって、スープストックトーキョーのものを持ってきました。時短制度はけっこう、どの会社さんにもあると思うんですけれども、働くママさん・パパさんのために制度を整えることが多いと思います。

この制度を使って、自分は(勤務時間を)ひと月177時間じゃなくて、130時間だけにして、「残りの時間はゲーム作家として、ゲームを作りたい」という男性社員がいて、実際に(会社で働く時間を)短くした分を、自分の創作活動の時間に使って、いろんなボードゲームなどを開発していました。実はこの(2018)年の年末ぐらいには会社を立ち上げるくらいまで、いろんなことにトライしています。

実際、ママもこの時短を使っていますけれども、他にも「心理学を学びたい」と言って、時短制度を使って、残りの時間を学ぶ時間に使う社員もいたりします。もともと人事が想定していたような使われ方ではなかったんですが、実際に「自分自身がこんな働き方をしたい」「こんなことをキャリアステップとして考えたい」という中で、社員が提案してきてくれて、そういうケースが増えてきたのは、すごくいい動きかなと思っています。

複業解禁の制度を作るより先に、社長自ら複業宣言!?

蓑毛:最後にちょっと1つ。業務外業務という、オンラインショップというかサービスを去年の4月にスタートしました。これは何かと言うと、(自分が)得意だったり、やりたいと思っているけれども誰からも頼まれていないことを商品化して、オンラインで販売するというサービスなんです。

ここには代表の遠山のページを持ってきました。例えば遠山であれば経営者として、もしくは実業家として、よく講演会などのオファーはいただきます。ただ、それ以外に昔奇術部だったので、すごく手品が上手かったり。洋服が好きで、時折、社員の洋服のコーディネートなどを突然やるんです。

あと、ちょっと低めでいい声をしているので、「仕事としてナレーションみたいなことをやってみたいな」というようなことを言っていたり。そういう、誰も遠山にお願いしようと思っていないことを見える化することで、なにか新しい機会になるんじゃないかというので、エイプリルフールネタ的にスタートしてみたサービスです。

この効果がいろいろあって。このサービスをローンチしたことで突然、働き方改革文脈での取材が本当に増えました。遠山もこれをきっかけに、いろんなところへ講演や取材に行って、「人生100年時代だし、1つのところにいるとか、固定化するというのはリスクになりますよね」というような話をするようになりました。

ちなみにプレスリリースも最初に出したときは「社長も複業の時代!?」というタイトルを付けまして。これは遠山と相談して、そういうコピーでいこうという話をしたんですが、その時点で、うちの会社は複業を解禁していなかったんですね。

数年前から人事とは複業兼業解禁についての話はしていたんですが、やっぱり制度を整えていくと上で、店舗社員と本社社員の働き方の違いとか、いろんなことを考えるとなかなか難しいところがあって。

考えてはいたんだけれども、なかなか制度ができないというところがあったので、そこは、もう「えいや!」で、遠山と「この内容で出しましょう」と言ってリリースをしたら、だんだん複業の流れでの取材も増えまして。しまいには、広報チームのもう1人の部下の子は、複業を前提に入社してきてくれました。

それって結局、制度を作るよりも実際に本当にやりたい人だったり、複業を前提にして、それでもスマイルズで働きたいというメンバーが増えたり。そういう事例を作るほうがよっぽど早くて、事例を作りながら整えていく(かたちです)。

もちろん人事とも相談しながらやっていますが、整えるほうはすごく大変だとは思います。小さくてもいいから、そういう事例を積み上げて、「自らがやりたいことと、会社のやるべきことを重ね合わせながら開拓できると、たぶん仕事って楽しいよね」という話をよくしています。そんな感じで、わりと一人ひとりが自由にというところが、我々の会社が「オフィスに活気がある」と言われる所以かなと考えています。

共犯者を作るには、提案よりも相談

小宮:ありがとうございます。私からも、ちょっといろいろお聞きしたいと思います。こういう業務外業務だとか、社長も巻き込んでやっていくって、本当にけっこう大きい仕事だと思うんですよ。

蓑毛さんは広報の立場ですけれども、社内の部署をどうやって巻き込んでこういう事例作りをされているのかとか、そのあたりはどうされていますか?

蓑毛:ケースバイケースなんですが、やっぱりキーパーソンからおさえていくということもあります。私は最短距離を行こうと思ったので、ついつい「社長のOKさえ取り付けておけば」というところもあるかなとも思いつつ、各事業部長もいますので、社長がいいと言っても、事業部的には難しいこともあったりします。

そこは、共犯者を作っていくために、あまり大それた提案はせずに、相談というかたちで、ちょっと横に座って雑談ベースで話をしていくことは、けっこう意識的にやっていますね。

小宮:そうですよね。提案じゃなく相談というやり方ですよね。

蓑毛:そうです。

小宮:あと、私はけっこう、スマイルズさんは飲食店を運営している会社さんというイメージがなくて。実際にオフィスに行ってみたら、クリエーターさんが集まっているオフィスという印象をすごく受けたんですよね。オフィス(設計)の会社さんにお願いして作られているとか、どんなかたちでオフィスの環境を作られているんですか?

蓑毛:先ほど言っていた「五感」という言葉を用いて大事にしている価値観の1つに、「低投資高感度」という言葉があります。お金をかければいいものができるに決まっているから、お金はかけなくとも知恵を絞ってもいいものを作ろうという価値観です。

わりと自分たちで作ることをけっこう大事にしているというか、好きでやっていることが多いですね。

スープストックトーキョーのロゴも遠山が自分でデザインしていたりするもので、墨一色にしているのも、印刷物を作る時に余計なコストがかからないようにということを考えていたり、「Times New Roman」という、もともとどのパソコンにも入っているようなフォントを使っていたりするのも、そういうところから来ています。

オフィスも2008年ぐらいからここに来ていますが、社内にいる店舗設計のメンバーに、「いくらぐらいでやってほしい」ということを伝えて、そこから、あとは手造りモードというか、引っ越しも自分たちでしました。この直前が、代官山のマンションを何部屋か借りていたようなところだったので、近いということもあって、わりとなんでもかんでも手造りしてしまうのが、うちのスタイルですね。

小宮:そうですよね。(オフィスに)伺ったら、お茶が出てきたんですが、すごく美味しい味のお茶で、これが季節ごとに変わったりもするとか。そういうちょっとしたことでも、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」ということもお話しされていたので、そういう(工夫をされる)方が集まっているということをすごく感じました。ありがとうございます。