PRを大学やアカデミアの世界で教える人は少ない

原隆氏(以下、原):みなさん、こんにちは。ここからはパネルディスカッションで、成長期のPRに求められる社会との向き合い方というテーマで、お話をしていきたいと思います。まず私、モデレーターを務めさせていただきます原です。日経BPの『日経FinTech』という媒体で編集をしています。

FinTechについては今日は関係ないので、あくまでもメディアとしての立ち位置で、みなさんにお話をおうかがいできればなと思っております。最初に、尾上さんから自己紹介をお願いしてもよろしいですか。

尾上玲円奈氏(以下、尾上):こんにちは。井之上パブリックリレーションズの尾上玲円奈と申します。井之上パブリックリレーションズでは執行役員を仰せつかっているんですけれども、会社の事業や仕組みを考えたりするとともに、クライアントのサポートをさせていただいています。

もともとNHKにいまして、あと、国会議員の秘書をやっていたこともありました。そういう経験を活かして、メディア・リレーションズやガバメント・リレーションズ、総合的なパブリック・リレーションズをお手伝いするというのが、今のミッションとなっております。

あと今、パブリック・リレーションズは、特に大学やアカデミアの世界で教える人が少ないということもあって、早稲田大学で、パブリック・リレーションズの授業をやっています。ここにいらっしゃる原さんにもゲスト講師で来ていただいたり、矢嶋さんにも前の会社の時ですけれども、ゲスト講師で来ていただいたりしております。

パブリック・リレーションズについて研究している人もすごく少ないということなので、大学院で研究したいなと思ってパブリック・リレーションズの研究をするために東京大学の大学院にも通っています。今日はよろしくお願いします。

20世紀的な価値観を問い直す

:はい、ありがとうございます。じゃあ次は高木新平さんお願いします。

高木新平氏(以下、高木):はい。高木新平です。よろしくお願いします。僕は今、NEWPEACEという会社をやっております。

これはビジョニングカンパニーといって、ビジョンをつくることを仕事にしています。僕自身はPRの専門家ではなくて、その証拠に尾上さんにゲストスピーカーで呼ばれていないんですよ(笑)。

僕は2010年に博報堂に入りました。そこですごく気合を入れてがんばっていた仕事が原発のPRだったのですが、3.11が起きてしまいました。そこで、自分のいる社会をもうちょっと良くできると信じられることを広げていきたいというか、自分なりの信念で社会を仕掛けていきたいなと思い、(会社を)1年で辞めてしまいました。

その後、コンセプト型シェアハウスを全国で立ち上げたり、ネット選挙の解禁ムーブメントを仕掛けたり、また東京都知事選で家入一真氏の選挙キャンペーンをやりました。最近で言うと、小泉進次郎さんの委員会のコミュニケーションなどをやったりしています。広告というよりも、社会にメッセージングをつくっていく、新しい日本を仕掛けていくというのを生業にしています。それは、企業にとっても社会に対して何か新しいことを、ビジョンを示していくことがすごく重要な時代だと思っているからです。

例えば、DeNAの自動車参入のタイミングで、自動運転を高齢化した過疎地域を救うツールとしてプレゼンテーションしたり、シェアリングエコノミー協会の立ち上げや永田町のど真ん中に「GRID」というシェアビルをつくったりもしています。

また最近ではエシカルなジュエリーを扱うHASUNAさんと一緒に、結婚制度の外側にいるすべての関係性を祝福するリングをつくったり、ゲイツ財団さんと一緒にSDGsという世界の格差是正キャンペーンを行ったりしています。

そうやっていろんなアイデアを通じて、20世紀的な価値観を問いなおすことを生業にしています。よろしくお願いします。

:はい、ありがとうございます。それでは矢嶋さんお願いします。

矢嶋聡氏(以下、矢嶋):はい、こんにちは。メルカリの矢嶋と申します。私は昨年の10月にメルカリに入社しました。それまではLINEという会社で、8年半くらいマーケティングや広報、コミュニケーションの仕事をやっていました。

LINEではサービス立ち上げ時の広報から、グローバルPR、リスク対応、日米同時IPOの広報対応などさまざまな仕事を経験させていただき、一定の成果というか、達成感を得ることができました。

その後、LINEで学ばせていただいた経験をもとに、ネクストベンチャーというか、世界に向けて挑戦していく会社で改めて自分の力を試したいなと思い、メルカリに入社し、今やらせていただいております。よろしくお願いします。

PRの定義は人によって全然違う

:はい、ありがとうございます。今日のテーマは「成長期のPRに求められる社会との向き合い方」となっていますが、我々もメディアで仕事をしていて、対峙する役割の方がPRの方ということは多いです。ですが、PRとは何かという問いに答えると、人によってぜんぜん違うというケースが多々あるんです。

例えば、「PRについてちょっと教えてください」という話で呼ばれて行くと、「プレスリリースはどうやって書けばいいんですか?」という人もいらっしゃれば、「もっとメディアに載るにはどうしたらいいんですか?」「もっとソーシャルメディアを使って、どういうふうにコミュニケーションをとっていけばいいんでしょうか?」という人もいらっしゃいます。

人によってPRの定義であったり、どういうふうに捉えているのかが、かなり違うなというのがメディア側から見た時の個人的な印象です。まず矢嶋さんにお伺いしたいのですが、まずLINEで経験をして、今メルカリでやっていますが、「PRとは何ぞや」と言われたらどう答えますか?

矢嶋:教科書的に答えると「ステークホルダーとの関係構築」ですね。これは「リレーションシップマネジメント」とも呼び、会社やサービスの価値をメディアを介して情報発信し、共感者を増やすことを意味します。その一方で、メディアを「世の中を映す鏡」とするならば、メディアの論調や記者のダイレクトな意見から透けて見える社会からの要請や声に耳を傾け、それを社内に対してフィードバックしていく意味や役割もある。PRとは、そういった双方向のコミュニケーション活動だと思っています。

私のバックグラウンドというか、立ち位置というところで言うと、私自身、LINEとメルカリの2社でPRを経験して思うのは、ベンチャー企業の存在意義は「新しい価値やイノベーションを創造し、社会に問うていく」ということです。当然ながら、世の中に新しいものが登場するときは、社会に摩擦が起こります。

:心がこもってますね。

矢嶋:そうですね(笑)。それでも自分たちが目指している世界を実現するために、PR活動を通じて、社会としっかり対話し、適切に合意形成を図ることが大切です。単に知ってもらうだけでなく、ステークホルダーと中長期的な関係を築き、ファンになってもらうことがPRの本質だと考えています。

企業を取り巻く関係者間の境界線がなくなりつつある

:ありがとうございます。高木さんいかがですか。この前ちょっとお話した時に、PRをかなり広義に捉えていらっしゃるなという印象がありました。

高木:ぼくはPRをこのスライドのように捉えているんです。これまでの企業のコミュニケーションというのは左の図のように、顧客に対しては広告などのマーケティング、社員などに対してはHR、株主などに対してはIR、といった具合にはっきりと分かれており、個別に最適化されていた。でもいまは、企業を取り巻く関係者間のコミュニケーションが透明化しているから、境界線がなくなりつつあると思うんです。それをビジョンベースで広げていくのがPRだと捉えています。

例えば、広告でユーザーに対してものすごく良いことを言っても、もしそれが嘘だった場合に、社員からすると「嘘じゃん」みたいなことがSNSで出てたりするんですね。

:表面に対してはすごく良いメッセージを出しているけれど、中はちょっと違う。

高木:そう。そのほかに、すごく(境界線が)溶けているなと思うのは、例えば僕もそうなんですけれど、これまで株価をぜんぜん気にしなかったのに、ネットとかで株価をすごく見るようになったりしていて、気が付くと、クラウドファンディングもそうですが、顧客と株主の間みたいな存在が出てきて、そこにコミュニケーションが発生している。

あと、顧客と社員の間もそうですね。ツイッターで応援することも含めて、社員的な活動だったりするじゃないですか。あと、株主と社員の間もある種、いろんな業務提携があったり、大きい会社がベンチャーを、株を買ったりする時には、株交換もあったりしますよね。

そういうことを考えると、その境目が溶けてきている中で、その1個1個に個別のコミュニケーションをするというのでは、ぜんぜんダメだと思うんです。企業の真ん中のもの、それを僕はビジョンと言っているんですが、そこから同心円状に広がる必要があると思っています。どこから見ても、「この会社はこうだよね」というものが伝わっていて、それが良いサイクルに回り始めると強いですよね。

今ZOZOとか、まさにそういう無双状態に入っていると思いますが、だからこそこのタイミングで「Be unique, Be equal.」というビジョンをちゃんと打ち出していく。それは新規事業のzozo suitも体現しているし、以前より取り組んできた6時間労働、ボーナス均一にも通じている。さらにアートやスポーツなんかもまさにこのビジョンを体現したPRになっている。

「社会全体をどう循環させていくか」をデザインするのがPRの役割

高木:(スライドを指して)事例で、一番最後のページ出せますか? これはみなさんもちょっと知っていると思いますが、1つだけ。REIというアウトドアメーカーがあります。これはアメリカのアウトドアメーカーで、アメリカではブラックフライデーという、みんなが大好きな超安売りセールがあります。

これは2年前くらいの事例ですが、70%、80%オフという看板やポスターが街を埋め尽くすタイミングで、「#OPT OUTSIDE」(アウトサイド)、私たちはセールしません、むしろ休みます。という宣伝をした。

これは要は「休みましょう」という話なので、社員に対してのコミュニケーションなんだけれど、もちろん顧客にも向いていて、アウトドア好きな人たちが、「アウトドアに出ようぜ」という動きになっていくんですね。

それで、この呼びかけをすると、100以上のアウトドア系の施設が無料開放をして、どんどんその流れに乗っていって、ブラックフライデーはみんなでアウトドア行こうよ、みたいな流れになっていったんです。それがどんどんニュースになっていって、市場も反応していくという循環が起きていった。これこそが、本質的なPublic Relationsですよね。

つまり、(PRは)今までは広告の下だったり、または広報と呼ばれるものだったけれど、実はもうちょっと企業の真ん中に立って、社会全体をどう循環させていくかをデザインする人なんじゃないかなと思っています。そういうものが今、どんどん出てきているなという印象はありますね。

:ありがとうございます。先ほど矢嶋さんがおっしゃっていたステークホルダーが、今のお話だと、溶けていくというか、いわゆる社員と株主といった境目がなくなっていく。そういう捉え方をされていらっしゃるということですよね。

高木:そういうことです。