どういうチームを作りたいか、自分に問うたことがない

質問者3:貴重なお話、ありがとうございます。お三方は、今までの人生経験で、いろんなプロジェクトや会社をみてこられていると思います。そこで質問なんですが、結論から言うと、現時点で「どういうチームや組織をつくりたいのか?」についてお聞きしたいです。

背景をお伝えすると、さっきの図でお話があったように「無理難題について、私とあなたで解決していく」となったとき、それをチームで難題を解決していくこととしてとらえると、トップに立つ人や難題を解決したいと思っている人が「どういうチームをつくって解決したいと思っているか」かが人によって違うのではないかと思っていまして。その点について、お三方の視点からお聞きできるとすごくうれしく思います。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):すごいですね。僕の本(「1分で話せ」)のパターンで質問してくださいましたね。

質問者3:読みました。

(一同笑)

篠田真貴子氏(以下、篠田):まず、どういうチームをつくりたいかについてですが、課題の状況に最適なチームであるべきで、それは私の趣味とは関係ないです。それが第一です。それこそ尾原さんや(伊藤)羊一さんが経験された震災のような非常時は、「みんなでちょっとアイスブレイクしよう」なんて状況ではないんですよ。超トップダウンでバシバシいかないと、人命がかかっていますから。

それと、クロスカルチャーの人たちで集まってクリエイティブな問題を解決しなければならないときとは、やるべきことがまったく違うんです。「どういうチームが作りたいですか」という質問にたいして、私からすれば「それを自分にあまり問うたことがない」というのがこたえです。   過去にいろんなチームで仕事をしてきて、「このチームでよかったな」と思うことはたくさんあるんですけれども、ほぼ日でいっしょに上場に取り組んだチームは、とくに私のなかで大きいですね。

僕はいろんな人の「ポケモン」でありたい

篠田:わりと最近、ある媒体がチームを取材してくれていたので、もしご興味のある方はぜひ読んでいただきたいです。上場ってわりと大きなプロジェクトで、課題が多いんですよ。それぞれが自分の課題をちゃんと担当して、重なることはお互いに相手をフォローし合いながらも、一人ひとりが課題解決のために輝いていて。

私は手を動かさず、ただ口を動かしているだけという立ち位置でした。このチームのありようは、私の理想に近いですね。

尾原和啓氏(以下、尾原):そもそも組織はもういらないですよね。みんな「チームビルディング」が大好きなんですけれど、チームミーティングがいつでもできる時代って、チームビルディングはいらないと思っていて。

ひとことでいうと、僕はいろんな人のポケモンになりたいんですよ。羊一さんが「Yahoo!アカデミアで、変わった働き方をしている人を呼びたい。ポケモーン!」と呼ばれたら行ってくるし。

(会場笑)

僕はポケモンみたいなものだから、どこかが炎上事故を起こしたら「チームに入れておいたらトラブルの切り分けをしてくれるポケモン」として呼ばれるときもあるし。だから僕は、「この人にポケモンとして呼ばれたらぜったいにいく!」と決めている人の数がどれだけ多いかが、自分の人生の財産だと思っていて。

僕はそう思っているから、別に押し付けではなくて。僕も伊藤羊一という、人を熱湯に巻き込む松崎しげるのようなポケモンを手に入れたと思っていて(笑)。「伊藤羊一、行けーーー!」と言ったら、火がどわっと出るみたいな。

伊藤:(笑)。なるほど、「とりあえず伊藤かー」みたいな。

「有事はフォローミー、平時はアフターユー」の精神

尾原:そういう関係でいいと思うんですね。仕事をプロジェクトごとに、一番得意で、楽しくやってくれる人が呼びだされて、問題解決したら解散し、じゃあまた会おうね、と。そうしてまた別の場所で集まるように変わっていくだろうと言われていて。僕はお互いのポケモンになれたらいいなと思っています。

伊藤:ビジネススクールの先生として、みなさんに1つ伝えておくと、まず「前提によって違うよね」というところで。非常時にはトップダウン。そうではないときにはエンパワーメントということですね。リーダーとしてのあり方のようなところで言うと「有事はフォローミー。平時はアフターユー」と言っていて。

篠田:覚えた! 覚えました。

伊藤:「有事はフォローミー、平時はアフターユー」。リーダーシップも局面によって違うし、そういう意味ではつくるチームもぜんぜん違うということですね。

僕が今、どんなチームをつくりたいと思っているかと言うと、自分がなにも言わなくても、みんなが「これ、オレがリーダーやるわ」って勝手にやっているようなもので。ある意味で尾原さんがおっしゃったことと近いのかもしれないけれど、そういった構成員がいるなかで、勝手にプロジェクト的に起きて、勝手にプロジェクトが解散してというような。ティール組織ですね。

それで、僕は「うんうん。いいねぇ」と言っているだけのようなチームが理想かなと。もちろん僕は働かないわけではなくて、必要なときはちゃんと動きます。「勝手に動いている」という、ヒエラルキーではない世界でチームが動いてる。こんな面白いことはないですよ。みんながワクワクしているから。こういう感じが理想ではありますね。

質問者3:ありがとうございます。

尾原:イエーイ。次行こう。

(会場拍手)

ロールモデルへの憧れと、自分だけの価値観と両立

質問者4:今日はありがとうございました。質問は、「自分の人生におけるロールモデルのみつけ方や掘り出し方」というのが近くて。今までの自分の人生の中で「この人、いいな」「素敵だな」と思ったことがたくさんあるんですが、具体的に「こうなりたい」と思い浮かべるようなものが、まとめられていないような気がしていて。

それを目指すに当たって、自分の中でも具体化したいと思うことが多々あります。かつ、思うこととしては、尾原さんがおっしゃっていたように「人と違ったところに自分の価値がある」とおっしゃっていたことと相反するのではということで。

ロールモデルとして糸井重里さんを目指したときに、人と違う自分としての価値はどう見い出せばいいんだろうかが気になっています。

伊藤:「ロールモデル」をどう考えるということですね。

尾原:先にこたえると、別に唯一無二の存在にならなくてもいいですよね。糸井重里さんは呼べないけれど、あなたを呼べる友だちがたくさんいればいいので。だから「おらが村の糸井重里」でもあなたはぜんぜんステキだよ、というのが1つ。

もう1つは、「ロールモデル」は1人にしなくてもいいので。場が詰まったときに、日常と視点を変えるようなことを言いたいときは、あなたという糸井重里を呼びだして。それを実行するときは伊藤羊一を呼びだして「うぉー」と。

伊藤:どんだけですか(笑)。

尾原:(それ)でもいいんです。パッチワークの仕方がオリジナルになるかもしれないから。

ロールモデルがいることで得られるものは

篠田:もし言葉尻をとらえただけだったら申し訳ないのですが、ロールモデルと呼べる具体的な人が「いたほうがいい」と思っているように見えました。それはなぜかについて、ご自身への問いかけをしたいと思います。その先に何があるのかなと。

尾原:(質問者4に対して)なんでだと思う? それはあなたのエネルギー源かもしれない。

質問者4:たぶん、具体的にロールモデルをもったほうが自分の中でモチベーションをもちやすいからかなと。

尾原:それならたぶん、さっきの伊藤羊一さん的な、駆動車的なエネルギーがあなたの中にあるということだから。それをつきつめると、もしかしたらすごいブレイクスルーになるかもしれない。

僕はそういう駆動的なことが好きではないので(笑)。僕が言いたいのは、ラクをしたかったらパッチワークでいいじゃんと言っているだけだから。

伊藤:僕にはロールモデルではないけれども、すごく感謝しているという恩人が3人いて。まずはソフトバンクの孫さんですね。なぜかと言うと、「ソフトバンクアカデミア」というところで僕を目覚めさせてくれたからなんですね。「おまえ、面白いなあ」と言われて、その瞬間に「ピーッ!」ときたことがある。だから、その瞬間のことは絶対に忘れないです。ということで、それを与えてくれた孫さんが1人目。

2人目はグロービスの堀(義人)さんですね。グロービスという学校をつくってくれて、リーダーシップの先生ができるようになったのは堀さんのおかげ。性格とか雰囲気は堀さんとぜんぜん似ても似つかなくて、水と油みたいなものなんですけれど、僕は堀さんのことがすごく好きですね。だから、堀さんのやっていることが気になります。

3人目はプラス(株)の今泉さんですね。自分を拾ってくれて、育ててくれた。ヤフーへ行ってからも今泉さんとは仲良くさせてもらっています。みんなロールモデルというものではないけれど、「今泉さんになりたい」という気持ちはちょっとありますね。

その3人はそういう恩人です。

「愛しあってるかい?」という魅惑のフレーズ

伊藤:あと、ロールモデルというのはぜんぜん違う観点でもうひとりいまして。笑われるかもしれないですが、それは忌野清志郎なんです。

尾原:わかる!

(会場笑)

伊藤:彼はアツく「愛しあってるかい?」と観客に呼びかけるわけですね。かつてBOOWYの氷室京介が、バンドでプロデビューしたけれど失敗し、夢破れて群馬に帰ろうとしたときに、日比谷野音でRCサクセションのライブに行ったそうなんですね。

「みんな、愛しあってるかーい?」と言った瞬間に、(会場が)「イエーイ!」と叫んでスタジアムが一体感に満ち溢れたのを目の当たりにして、「オレもそういう存在になりたい」と思ってBOOWYを結成したと。その話を聞いて以来、僕は忌野清志郎になりたいんですよね。僕は常に(イベントを)「ライブ」と言っています。ライブのほかにも「今日のセットリストはなに?」とか。だから、僕のロールモデルは忌野清志郎なんです(笑)。

(一同笑)

忌野清志郎なんですよ。ミック・ジャガーではなく、デビッド・ボウイでもなく。

篠田:どうやって見つけたんですか? そういうのにどうやって出会ったらいいんだろう?

伊藤:そのフレーズが残っているだけなんです。「愛しあってるかい?」と清志郎が言って、そこに氷室がいて、「愛しあってるかい?」は僕もなんども経験していて。

一方で、僕はミュージシャンではないし、(普通なら)忌野清志郎は思い浮かばないんだけれど。「僕はなにをやっているんだっけ?」と振り返ると(あのフレーズが浮かぶんです)。僕には、がんばっても報われなかった人に「『大丈夫だよ』って言ってやるという仕事をしている」という気持ちがあるんですね。それと「ピキーン!」ってつながったのが、清志郎なんです。

尾原:たぶん、今の羊一さんの姿が正解で。あれだけプレゼンのうまい羊一さんが、1分でしゃべり足らず、こんなに長く、しかもかわいくしゃべれる。それって、それだけ好きなものに出会えたから。そういうものに出会えるといいよね。たぶん、それが望みなんだよね。

伊藤:自分で見つけに行くというより、天から降りきてつながる感じ。待っていても勝手に降りてはこないわけで、ファクトを積みあげていく。これに尽きるなと。

尾原:そういえばバリでは、「I found Bali.」ではなく「Bali found me.」という言い方をするんですよ。

「バリが私をみつけてくれたからバリに来た」という人が多くて。たぶんそういう感覚なんですよ。

篠田:ツイートしていますよね。

尾原:はい(笑)。だから、だれかにみつけてもらうには、ひたすらうろつくしかないよね。

伊藤:そうですよね。質問ありがとうございます。拍手。

(会場拍手)

明日の日本に立つべきリーダーの姿

伊藤:そろそろ最後ですね。トリなので、会場が引き締まる質問をぜひ。

尾原:けっこうプレッシャーをかける(笑)。 

質問者5:急にきますね。よろしくお願いします。……締まる質問……。 

伊藤:別に大丈夫だから。

質問者5:一番はじめに戻ります。「明日の日本のリーダーをつくる」という。

尾原:そうだったね。エライ。

質問者5:「明日の日本のリーダー」とは、どういうリーダーなんだろうか、イメージができていなくて。今の日本に必要なリーダーはどんな人なんだろう。スキルではなく、マインドや信念の部分でどういったリーダーが必要なのか。それぞれたくさんあると思いますが、お三方に「こういうリーダーではないか」というものがあれば教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

伊藤:相当、真正面の質問ですね。これは3人が真正面からこたえないといけないぞと。

尾原:オレは変わらないよ。ノリでこたえるのが得意だから。

(会場笑)

尾原:次のリーダーをつくるというのがなにかと言うと、たぶん「Lead the self」のできるリーダーが増えることだと思う。いい方が悪いですが、「今こっちの方向に行けば勝ち!」なんてものはないんだから、結局みんながそれぞれの行きたい方向に行く、ということを増やすしかないよね。

でも、さっき言ったようにお互いがポケモンになれば、お互いの行きたい方向がたまたまいっしょになったときに、仲間として一緒に戦える時代だから。そうなるとやっぱり、「Lead the self」を増やせる人がリーダーになると思うんですよね。結局はパッションと共感なので、その2つを磨いていくことが大事です。

パッションは羊一さんに習うのがよくて、コンパッションは石川善樹に習うのがいいかな。ゲストに石川善樹を呼んだほうがいい。

伊藤:実は呼ぼうとしていたんですよ。

(会場笑)

ちょっとだけヒントを言っておくと、コンパッションは「a company with passion」なんですよ。パッションがないとコンパッションをつくれないから、あとはウィキペディアで仕上げて(笑)。

伊藤:ありがとうございます。

斜に構えなければ、人は成長できるし信頼もされる

篠田:「これからの日本に」という枕詞には、まじめにこたえる力がないので変えさせてもらいますね。事実その答えを見つけている人や、実際には制約があってみんなが無理と思っていることも、わりと平気で「そんなことないですよ」と言い切っている人は、意外にちゃんといる。

でも、それを「だよね」と言って、「いっしょにやる」「広げる」「仲間になる」ことができる人はすごく稀少だというのが、私の問題意識としてあります。

いわゆる「リーダーシップ」にもいろんなスタイルがあると思いますが、私が「素敵だな」「こういうことが増えたらいいな」と思ってお話ししているリーダーシップは、「賛成して一緒にやる」かたちなんですね。それは、今のパッション・コンパッションのところと近い。パッションもコンパッションも、その根っこに人を信頼する力がないと、ただの迷惑な人ですよ。

羊一さんは大丈夫よ、信頼しているから(笑)。大事なのは信頼される力ではなくて、自分で信頼しに行く力だと思うんです。それをリーダーと呼ぶのかどうかわからないけれど、こういう人が身近に1人でも2人でもいると、確実に物事が動くし、変わるし、今よりもよくなるんですよ。

尾原:では、全員が締まる質問の、全員が締まる答えを最後いこうか、羊一さん。

(会場笑)

プレッシャーブーメラン。

伊藤:(笑)。それはね、ポジティブである人です。ポジティブといっても、ネガティブ・かポジティブという話ではなく、人に対してポジティブである、世界に対してポジティブであるというような、信頼関係とちょっと近いものだと思います。

質問者5:それは自分の幸せを追求するということにもポジティブなんでしょうか。自分のWillに対してもポジティブなんでしょうか。

伊藤:そのあたりは斜に構えさえしなければ、人は絶対に成長できると思うし、信頼されると思います。「ポジティブである」を言い換えると、「斜に構えない」。そういうことかなと思います。

質問者5:ありがとうございました。

(会場拍手)

グラフィックレコーダー・タムラカイ氏のまとめ

伊藤:では、グラフィックレコーディングにいきましょう。

尾原:時間と(紙の)分量までぴったり合わせていてすごいですね。

伊藤:ぴったりね。じゃあまとめのコメントをタムラカイさんに(お願いしましょう)。

(会場拍手)

タムラカイ:ぼくがまとめのコメントを!?

伊藤:まさかの、「最後の僕が」みたいな。どこからいきましょうか。 

タムラカイ:書いていた身の僕から感想をひとこと言わせていただくと、今日一番心に残ったのは「今までそうじゃなかったんだけれども、ある1枚の写真をみて、言行一致して変わったんだ」ということを、今この場で言えている伊藤羊一さんがスゴイなと思いました。

今までYahoo!アカデミアでずっと学長として話し続けているのに。「イヤ、でもオレ、まだまだなんだよね」とパッと言える。「探しに行ってみつかった、おわり」ではないということが、今日のテーマを一番体現しているなと思いました。それが、聞いていてすごく心に残ったことです。

あと、最後の質問で出てきた、自分の得意なことだったり強みだったりというものは、たぶん人に聞いたところでこたえはなくて。回答にあったように、動いていく内に「あっ、そうだよね!」と言われるものだと思います。

ありがたいことに今日僕が呼んでもらっているのも、僕自身がペンと紙を持っていろんなところへ行って、いろんな人と知り合って、「お前、(グラレコ)できるでしょ?」と言われたのがスタートで。自分でやっているときにはだれも強みだとは言ってくれなかったんです。そもそも自分では強みだと思っていなかったですから。

「打ち合わせに行ったらノート書くよね」ぐらいのことだったのが、今はこうなっていると思うと、ただ聞くよりも、自分でいろいろやってみて、言ってくれた人に「なんか意図があったのかな」と聞くほうが、そういう強みについてこたえられるのかなと聞いていて思いました。

たぶんまだ「Lead the self」の状態のことを言っているけれど、最初の話と同じで、「まだ考えているところなんだよね」と羊一さんなら言ってくださいそうで。なので、まずは自分が信じることをやるのが役目なのかなと思いました。

(会場拍手)

伊藤:すごいなあ。

尾原:まとめていただいてしまいましたね。このままでいいのではないですか。

伊藤氏が「学長」を名乗ったのは、仲山進也氏の影響だった

尾原:次回のゲストは(楽天大学の)仲山進也さんですね。

伊藤:そうです、8月16日にやります。

尾原:仲山さんは楽天のフェローなんですけれども、楽天に自分の机がないという。

篠田:楽天の社員なのにね。

尾原:そうそう。非常に自由に生きている方で。

伊藤:ちなみに僕はYahoo!アカデミアの学長と言っていますよね。あれは仲山さんからとったんです。

尾原:え?。

伊藤:「『学長』っていいねえ。オレも名乗る!」と思って、学長という名前をつけて。

尾原:でも学長を名乗るのは、すごく覚悟が要りますよね。自分が一番楽天らしくないと、学長なんて言えないんですね。ほとんど会社に出社しないけれども、一番楽天らしいのが仲山進也。

伊藤:なるほどね。「組織にいながら自由に働く極意」という彼の本も出たばかりなので、その本の内容的なところも含めもろもろお話します。

本日は、尾原さんと篠田さん、グラフィックレコーダーのタムラカイさんにお越しいただきました。ありがとうございました。

(会場拍手)