ミッションは「人類にオドロキと感動を! 人生にもっと熱狂を!!」

高橋遼氏(以下、高橋):皆さんこんにちは、トライバルメディアハウスの高橋と申します。今日はお越しいただいてありがとうございます。本当に暑かったですね。今日はそれに負けない熱い話をできればなと思っています。

今日のテーマは「顧客の熱狂」ということで、20時半まで約1時間半、ちょっと長いんですけれどもお付き合いいただけたらなと思います。

今年2月に「熱狂顧客戦略」という本を翔泳社から出版させていただきました。「これからの企業のブランドのファンの人たちとどうマーケティングをつくっていけるのか」をテーマに書かせていただきまして、今日そのお話をメインでしていきたいなと思っております。

さっそく始めさせていただきます。

まず、「トライバルメディアハウス」という会社なんですけども、2007年に創業している会社です。主にはTwitterやFacebookが日本に上陸して来たぐらいからずっと、ソーシャルメディアの支援を中心にビジネスを成長させてきました。

私自身、この会社に入って7年ぐらい経つんですけども、ずっとソーシャルメディアを見てきていまして、そのなかで「どうやったらソーシャルメディアのなかで話題になっていくのか」をテーマにプロモーションの支援をしたり、ソーシャルメディアを中心としたマーケティング戦略の支援をやってきた人間です。

会社としては「人類にオドロキと感動を! 人生にもっと熱狂を!!」ということで 、ミッションにも「熱狂」という言葉を入れてまして、会社自体も人が人生に熱中していくためにはどういうことが必要なのかということを、会社として掲げて事業推進をしているような会社です。

まず、私の自己紹介をさせていただき、本題に入っていきたいと思います。私は1983年生まれ、今年35歳なんですね。小学校のころって「ミニ四駆」ってめちゃくちゃ流行ってたんですね。

「ダッシュ四駆郎」がコロコロコミックでずっと連載されていて、親に言ってミニ四駆を買ってもらってずっと遊んでました。あとは小学校高学年ぐらいになっていくと、誕生日でSONYのWalkmanを買ってもらって、僕の父親世代ってものすごくSONYが大好きだったりするんですよね。

日本のメーカーの代表みたいな感じで捉えているふしがあって、Walkmanを買ってもらってずっとカセットテープで熱中したりして過ごしてました。

社会的なブームがなくなる、これからの時代

だんだん中学校ぐらいになってくると、少し色気が出てくるというか、お洒落にも気をつかったりファッションにも興味を持ってきて。僕の時代は、今から20年近く前なんですけれども、LEVI'S501XXがむちゃくちゃ流行って、とにかくこれをはいてるのがお洒落みたいな風潮があったんですね。

それから代表的なのが、今まさにリバイバルでブームになってきてますけど、NIKEのエアマックス95がすごい流行ってたんですよ。

出身が鳥取県なんですけれども、鳥取県の片田舎でも「エアマックス狩り」っていう事件が起こっていたりして、そんな片田舎でも事件が起こってしまうぐらい、要は東西南北あらゆるところで一つのトレンドがつくられていたような時代に青春時代を送ってきました。

では、ここからマーケティングの話にはいっていくんですけれども、今この感じで「東西南北すべてのエリアで同時的に流行ってること」みたいなのがなかなか生まれづらい世の中になってきてるかなと思ってます。

局所的に流行ってるみたいなことってのは当然あるんですけれども、みんながみんな同じトレンドに向かって突っ走って、その流行りを呼びかけてるみたいな時代ってこれから減っていくんじゃないかなと思ってまして。

個人的には、本の中にも書いてるんですけれども、僕自身が社会的なブームが成立した最後の世代にいるんじゃないかなと思ってます。この世代の流れとともにマーケティングの問われ方っていうのを変えてかなきゃいけないというところが、本日の主題です。

「狩猟」「農耕」「宗教」 3つのマーケティング分類

(スライドを指して)これは僕自身が言った言葉ではなく、日産自動車のコーポレート市場情報統括本部のエキスパートリーダーの、同じ名前なんですけど高橋(直樹)さんという方がおっしゃっていた言葉なんですが。マーケティングというのは「狩猟の時代」と「農耕の時代」と「宗教の時代」があります、というお話をされていました。「狩猟の時代」ってなにかというと、人口がまさに右肩上がりで増えていった時代のことです。

1970年代ぐらいを中心としたお話でして、なにもしなくても人口が勝手に増えていますので、市場のポテンシャルがどんどん高まってきているというような時代です。新しいお客様がどんどん市場に増えていくような世の中において、どういうふうに空に飛んいる鳥たちを撃ち落とすかということがマーケティングの重要なポイントであると。その時代を、高橋さんは「狩猟の時代」とおっしゃってました。

それが徐々に人口が頭打ちになってきて、1990年代ぐらいには「農耕の時代」になりました。新しい人たちに売ればいいと、モノを作れば売れるという時代が終わっていきましたので、1回買ってくれた人たちにもう1回買ってくれるにはどうすればいいか、ということを考えなきゃいけなくなってきていて。

今すぐに買ってもらうためにはどうすればいいかということであって、今買ってくれた人 に来年ももう1回買ってもらうためにどういう市場を耕していけばいいのか、その土壌を肥やしていけばいいのか、ということが考えられてた時代ということで「農耕の時代」と例えていらっしゃいました。

そして、今どういう時代なのかというと、「宗教の時代」とおっしゃられてまして、どういうブランドと生活をともにしたいか、どういう商品と生活を一緒にすれば自分が心地いいと感じるのか、自分は幸せになるのか、ということで商品が選ばれている時代です、とおっしゃっていました。

当然人口も減っていきますし、どんな製品でもどんどんコモディティ化していって製品とか機能の差別化ができなくなった時代において、どういう商品と生活をともにすれば幸せになれるのか、ということがマーケティングのポイントになっていきました、ということで「宗教の時代」と語っていらっしゃいました。

まさにそういう「宗教の時代」のなかで、我々はどういうマーケティングをしていけばいいのか、ということが本日のお話です。

差別化できずにコモディティ化している製品

だいたい4部構成でお話を進めていけたらと思っています。まず1つめに、なぜ今「熱狂顧客」、つまり「ブランドを好きで好きでしょうがない」方々に注目すべきなのかということ。

2つめに「熱狂顧客」とはどんな人なのかということを知ろう、というお話です。

3つめ、最近そのコミュニティみたいな話って、アイドルもそうですしいろんなブランドだったり、プラットフォームだったり、いろんなところでコミュニティって語られてると思うんですけれども。「熱狂顧客戦略」という視点から考えたときのコミュニティの在り方、という話をできたらなと思ってます。

最後は、ちょっとマーケティングを超えた話です。「熱狂顧客戦略」はマーケティング戦略を超える、ということで、マーケティング戦略の先にあるお話として、「熱狂」という視点でみたときにどんな風景がみえるのか、ということをお話しできればなと思ってます。1時間超、長いですが、よろしくおねがいいたします。

まず、なぜ今「熱狂顧客」に注目すべきなのかということからお話ししたいと思います。

先ほど言いましたが、やっぱり製品が差別化できなくなってきた時代において、製品を中心としたコミュニケーションの限界がすごく語られていると思います。これは、いろんなところで言われてるかなと思っています。

それを少しわかりやすいデータといいますか、客観的に見えるもので解説をしていきます。

(スライドを指して)「主要デジタル家電機器の価格推移」と書いてるんですけれども、「家電」というカテゴリーの商品が店頭に並んだときに、どれぐらいの期間をかけてその商品が半額になっていくのか、という推移を調べたデータになっています。

例えばノートPCでいきますと、だいたい8年ぐらいで半値になるねと。それからDVDプレイヤーだと2.8年、プラズマテレビだと6年、液晶テレビも2.8年。3年未満で価格が半値になっているというデータなんですね。

これってなにかというと、製品での差別化が難しくなってきたので、どんどん市場に新製品を投下しても価格競争に陥ってしまうということで、コモディティ化しています、というお話のグラフです。

「スタバなう」と「ドトールなう」のクチコミ数が異なる理由

今、モノだけでは徐々に差別化がつくりづらくなってきたというお話ですね。「じゃあ、今の人たちってどういうところでモノを買う意思決定をしていたり感情が動いたりするのか」というところが、ずっとソーシャルメディアを10年間見てきたなかで、やはりソーシャルメディアの営みのなかにあるんじゃないかな、と思っています。

日本のソーシャルメディアで特徴的なのは、例えばTwitterが上陸してTwitterの利用が増えて、そのあとFacebookの利用が増えてという大きなトレンドはあるものの、Twitter、Facebookに限らずYahoo!知恵袋に頻繁にアクセスしたり、ずっとmixiを使い続けているユーザーもいらっしゃるわけです。

そういうプラットフォームを見ていくとよくわかるんですが、日本のソーシャルメディアはいろんなところにいろんな人が分散的に住み続けているんですよね。こういったところでモノを買ったり好きになったりすることも、意思決定に影響を与えている、というのが今の世の中の流れなんじゃないかなと思っています。

1つ例をご覧いただきます。

スターバックスやドトールにいるときに、「スタバなう」って呟く人と、「ドトールなう」って呟く人がいらっしゃると思うんですね。、実はどちらも日本国内でだいたい1,000店くらいあって、店舗数ってそんなに変わらないんです。それなのに「スタバなう」って呟く人がいる一方で、「ドトールなう」とはなかなかみんな呟かないような気がしませんか?

「ユーザーにとっての存在感」によって意味付けが変わる

弊社が提供しているクチコミを分析するツール「ブームリサーチ」で調べてみると、(スライドを指して)この緑のグラフってのが「スタバなう」って呟いてる件数なんですね。黒いところが「ドトールなう」と呟いてる件数で、一定数なんですけどいます。

なにが言いたいかというと、別に呟いている数が多い(から良い)・少ない(から悪い)というお話ではなくて、ブランドの体験というのがスターバックスとドトールでは全然違いますよね、というお話なんです。

先ほど「宗教の時代」に入りましたというお話をしましたけれども、そのブランドがその人にとってどんな存在なのかということによって、売れるときの意思決定や影響というのが変わってきています、というお話です。

例えば、この前、私このWalkman買ったんですね。買ったんですけれども、Walkman一つとっても、やっぱりいろんな使われ方、いろんな存在のあり方というのがあるかなと思ってまして。

勉強中だったり通勤中だったり、こういったプレゼン前だったり、家でくつろいでいる時間とか、Walkmanの意味付けといいますか、Walkmanがその人にとってどんな存在なのかってそれぞれ異なると思うんですね。

通勤中の人は満員電車の空間をとにかく脱出したいということで「どこでもドア」みたいな存在かもしれませんし、プレゼン前の人にとってはなにか心の支えになるようなお守りのような存在かもしれませんし、勉強中の人だと寝ないようにするためのBGMみたいなことでレッドブルみたいな存在かもしれませんし、くつろぎタイムで聴いていらっしゃる人にとっては自分をリラックスさせるアロマのような存在かもしれません。

ということで製品一つとっても、同じ製品ですけれど人によってその製品に対する存在感といいますか、どういう存在なのかということも変わるんですよね。言われてみれば当たり前なんですけど、いろんな見る角度によってそのブランド自身の意味付けというのが変わってきますというお話です。

マスのメッセージで人が動くということは非常にレアケースだったりしますので、やっぱりこういった顧客の個別の「経験」のなかでブランド体験というのがどんどん更新されているというのが今なんじゃないかなと思ってます。

高級外車と鉄道の意外な楽しまれ方

「熱狂顧客戦略」にも書いてるんですけれども、ブランドの経験のなかで獲得される感情を「文脈価値」と呼んでいます。これは一般的にも学術的にも言われる言葉です。

わかりづらいかなと思って例を交えて説明をしますと、例えばInstagramでメルセデス・ベンツやBMWと検索をしてみていただくと、わりと車が主人公の画像が多いといいますか、ちょっとやんちゃ風な画像が多めに出てくるんです。車を中心に置いてその周りに人がいる、みたいな。車はとにかくかっこよく撮ろう(撮った)というような画像が非常に多く出てくるんです。

一方、フォルクスワーゲンと検索をして画像を見ていただくと分かるんですが、明らかに違うんですよね。車が中心にある画像っていうのはもちろんありますけれど、そんなに多くはなくて、どちらかというとある一つの一定の文脈に沿ったライフスタイルのなかで車が存在している、という感じの画像が多く出てきます。

これに至っては車すら出てこない画像なんですけれども、でもフォルクスワーゲンというハッシュタグを付けて投稿されていらっしゃるんです。これがまさに「文脈価値」の違いだったりするんですね。ベンツとかBMとフォルクスワーゲンっていうのは明らかにそこで獲得される感情だったりっていうのが違うということで、これが「文脈価値」の違いと説明をしています。

もう少し身近な例で、nanapiさんの調べで過去の記事から引っ張ってきてるんですけれども、「鉄オタ」って36種類いるらしいんですよ。乗り鉄だったり降り鉄だったり収集鉄だったり撮り鉄だったり、いろんな鉄がいらっしゃるんですね。

鉄道ってなんでこんなに人気なのかな?と思ったときに、やっぱりいろんな人たちがいろんな文脈で楽しめるポテンシャルがあるというところが理由なんじゃないかなと思ってまして、いろんな人たちがいろんな角度で楽しめるというとこから、鉄オタの世界が深い1つの理由になってるんじゃないかなと思ってます。

ブランドと顧客がどう信頼関係を結べるかが大事

ちょっと前に、Instagramのハッシュタグをフォローする機能ができたんですけれども、まさにハッシュタグをフォローする機能って、人がどうそれを楽しんでいるのか、ということを皆さんがフォローしていくことができるようになったということかなと思ってます。

ソーシャルメディアって、誰が投稿したのかが大事ってよく言われるんですけれども、それに加えてInstagramのハッシュタグフォローっていうことを考えると、どういうふうにその人がそのものを楽しんでいるのか、その体験を楽しんでいるかの、Howのところがこれからすごく重要になってきているというお話です。

今なんの話をしているのかというところを立ち返ってご説明します。製品の機能による差別化がどんどん難しくなってきたという話を冒頭させていただいたんですけれども、ブランドの熱狂がいったいなにによって作られているのかということを、根本的に見直していかなきゃいけない時代になったんじゃないかなと我々は思っています。

ブランドをつくるための要素ってのはいろんなことが考えられるんですけれども、1980年代ぐらいにおいてはブランドのCIブームみたいなことが起こって、とにかくブランドのアイデンティティをつくりなさい、ということがよく言われてたんですね。

当然それもやっぱり重要です。アイデンティティをしっかりつくってロゴをしっかり定めてデザインをつくって戦略とかマーケティングに落としていくみたいなことが、重要だということは変わらないんです。

ただ、今ソーシャルメディアでいろんなブランドの影響だったり意思決定がされているなかで、ブランドと顧客がどんな信頼によって結びついているのか、ということがより一層重要になる時代に入りましたということです。

ここが、ソーシャルメディアが出てきてから最も根本的にブランドの輪郭を変えていかなきゃいけない考え方、ポイントかなと思ってまして。やっぱりどんな価値を提供できているのかとか、どういう信頼でブランドと顧客が結びついているのかってある種、企業がコントロールできないところだったりするんですよね。

顧客があってこそのブランドということで、ただ単にロゴをつくっていけばブランドができる時代ではなくなったというお話です。

買ってもらった後、もう一度買ってもらうためには

「農耕の時代」のお話のなかでは、ひとりでも多くの顧客を囲い込んで、そのなかで多くの利益を得るといいますか、そのブランドの柵のなかに顧客を囲い込みながら、そのなかでモノを売っていくということがよく行われました。

やっぱりみなさん実感されてると思うんですけれども、飛行機に乗るときにANAに乗るかJALに乗るかみたいなお話だったり、あとは家電を買う、たとえば冷蔵庫を買うときにビックカメラに行くのかヤマダ電機に行くのかヨドバシカメラに行くのかって、そんなに気にされてないと思うんですね。

ポイントカードって持たれてると思うんですけれども、家に近いところに行きますし、自分の都合のいいところに行くかなと思います。

ポイントカードを作ることによって、お客さんを囲い込んでいくということを90年代以降ずっと企業はやってきたわけなんですけれども、もうスマホの時代でどんどん情報が入っていく世の中においては、お客様を囲い込もうとしてもぜんぜん囲い込めなくて、その柵を乗り越えてしまうんですよね。なので、お客様を囲うという発想から我々脱却していかなきゃいけないんじゃないかなと思ってます。

囲い込もうとしてもその囲い込みに限界があるなかで、熱狂という話が出てくるんですけれども、そういう時代においてはやっぱり熱狂的なファンの人たち、自分のブランドが好きで好きでしょうがないと言ってくれるお客様と手に手を取り合って、どういうふうに未来をつくっていくことができるのかということに、考え方を変えていかなきゃいけないんじゃないかと思ってます。

ちょっと理論的なお話で整理させていただきますと、「マーケティングファネル」というものをベースに考えたときに、どういうふうに認知してもらってどういうふうに興味を持ってもらってどんなふうに比較検討してもらって買ってもらうか、みたいなことが今までのマーケティングの主戦場だったわけですね。

どう買ってもらうか、買うまでをどう設計するか、ということが重要だったんですけれども、これからの時代というのは、買ったあとにもう1回買ってもらうためにはどうするか、もう1回買ってもらって、さらに熱狂してもらうためにはどうすればいいのか、さらには熱狂してもらって人にお勧めしてもらう状態になるためにはどうすればいいのか、ということを考えていかなければいけない。

いわゆる購入後のマーケティングファネルということで、買ってからの顧客体験というのを考えていく時代に入ってるんじゃないかなと思っています。