20代のパワフルな時間は二度と戻ってこない

クリスティア・フリーランド氏(以下、クリスティア):この本を読んでいる女性に生まれる影響力のお話、わかりました。この本を読んだ女性が「よし、前に出てチャンスを掴むわ。もっと良い仕事に移るわ。違う道を行く時が来た」などと思ったとする。女性にとって、どんな道が生きやすいんでしょうか?

シェリル・サンドバーグ氏(以下、シェリル):人は皆それぞれ違います。私は皆のロールモデルにはなれません。皆が私のように生きるべき、とは思っていません。でも、どんな女性も選択が出来る余地を持っていて欲しい、と強く願います。

仕事を辞めて家庭に入る選択をする女性も、素晴らしいと思います。家庭での仕事はとても重要で、大変なものです。しかし、子供が生まれるまでは仕事を全力でこなし、上を目指して欲しいです。こうすることで、その後の人生により多くのオプションが生まれるからです。

将来的に仕事量を減らす選択は出来ても、20代のパワフルな時代は二度と戻ってこないのです。将来仕事と家庭の選択を迫られたとしても、それまでに組織にあなたの能力を示しておけば、組織はあなたの為に融通を利かせてくれることでしょう。

Facebookに有名なエンジニアがいます。でも彼には滅多に会いません。彼はオフィスで仕事をしていないからです。有能な彼は、どこで仕事をしていようとも、とやかく言われることはありません。頼むから残ってくれ、と言われる人材でいれば、組織の方からあらゆる手段であなたを引き留めようとするでしょう。

家庭と仕事の選択肢がない20代のうちに、やれるだけやるのです。オプションが多くなればなるほど、良い選択が出来るでしょうから。

"女性の問題"を話す覚悟を決めた理由

クリスティア:世界でもよりすぐりのエリート集団の中に属していますよね。そしてあなたはハーバード卒で、マッキンゼーにもいた。エリートの中の問題点を浮き彫りにする本を書くことは、怖くなかったですか?

シェリル:はい。Facebookで働き始めて半年くらい経った頃に、マーク(・ザッカーバーグ)に言われました「あなたの最大の問題は、皆に良い顔をしようとすること、皆に好かれようとすることだ。それをやめた方が良い」と言われました。当時彼は23歳です。

このように良い顔ばかりして本当の自分を出さないと、真の意味で周囲に影響を与えられません。『LEAN IN』は、誰にでも愛される本ではないと自覚しています。ひとつの意見に全員が賛成することが無い、ということと同じことですね。

それでいいんです。この本が、この問題について良くする為の議論を展開する、ひとつのキッカケになれば。でも、そうですね、エリート集団の集まる業界にいて、エリート集団に挑戦状をたたきつけるというのは、難しいことでした。

でもシリコンバレーに対してそう感じたというよりも、その周辺の製品開発だとか、ユーザーに対してだとか。私たちは誰もが、このような性差のステレオタイプを持っていて、そのステレオタイプを通じて物事を見ます。これが女性を傷つけているのです。

この問題について話し続けなければ、この問題が確かに存在する、ということを認める必要があります。どんどん前に出ていくことの大切さのひとつには、このような女性が抱える問題をどんどん前に出て、話していくことが挙げられます。

2年半前までは「女性」という言葉を口にしませんでした。なぜなら、ひとまず「女性」という言葉を口にしようものなら、それを聞いている相手は、私が何かを特別なことを要求しようとしているんだ、とか、訴えられる、などど思うだろうと考えたからです。

男性が女性が抱える問題について話すことは、もっとハードルが高いです。友人の男性で、「女性が抱える問題について話すくらいなら、自分の性生活について話すほうがまだマシだ」と言う人がいます。

もしも男性がこの問題についてTEDトークで話すことになったら。想像してみてください。もしも彼が、「女性が抱える問題について理解したいんだ。これはとても重要なことなんだ」と話したら。状況を変える為には、まず問題があることを認め、そしてそれについて話すこと。男性、女性とはどういうものか、性差の偏見は私たち皆に多大な影響を与えるのですから。

女性活動家とビジネスパーソンの両立は出来ない?

クリスティア:あなたの同僚たち、シリコンバレーのエリート社会で働く人々は、あなたがこんな動きを始めたことに驚いていると思いますか? 彼らはこんな風に思ったんじゃないですか、「ちょっと待て。何も不足はないじゃないか。賢くて働き者なら、必ず成功するだろう?」。

シェリル:はい、私自身にとっても驚きでしたから。そしてとても怖かったですね、このことについてTEDで話す時は。言われました、「こんなことを話したら、あーやっぱりシェリルは女性なんだ、と思われるよ!」または、「世間はシェリルを、女性活動家としてみなすようになってしまうよ」と。

何人もの人から電話を受けました、「ちょっと、これからはこういう方向でいくの?」。なぜなら、人は活動家である私とビジネスパーソンとしての私、両立できると見なさなかったからです。どちらかひとつだけ。そしてこれまでやってきて、今も両立させています。両方できますし、両方やることが必須なのです。

クリスティア:女性の本当の恐れは、「この仕事をもらえたのは、私が女性だから、これだけ女性の権利を声高に叫んだからか」という状況に陥ることなんでしょうか?

シェリル:そうですね。私もそれには悩みました。「あなたは女性だから得したんじゃない?」とよく言われたものです。その時は怒りが湧きました、私は一生懸命仕事をしていたのですから。

それでも、女性のことについては話をし続けなければなりません。たくさんの要因が女性をトップリーダーの地位から退けています。男性は女性を恐れています、女性に地位を奪われる、仕事を取られると思っています。

クリスティア:だってそうですよね。数字的に考えても、マジョリティのグループにあなたが属していたとする。そこにマイノリティで被差別対象のグループが入ってくれば、あなたが充分な資源や仕事を得るチャンスが、それだけ減るということですよね。まぁまぁ出来るレベルの男性は、とても優れた女性に驚異を感じてもおかしくない。

シェリル:私もあなたも経済学を学んでいますよね。私たち皆の生産性が上がれば、私たち皆の為に充分な仕事が生まれていきます。そして経済が活性化するのです。つまり、女性も含めた労働力をすべて経済活動に投入すれば、より多くの仕事口が皆に生まれるということです。これを世に訴えたい。

でも法的には完全なる勘違いが起きています。妊娠、性・ジェンダー、年齢、その他特徴で差別をすることは、法律で禁止されています。

次のことをするのは合法です。私の弟が2週間前にこれをしたのですが。私の弟は外科医で、最近ヒューストンに移って、新しいチームを結成しています。彼はある女性にポジションをオファーしました。彼女は20代後半。つい最近、婚約したとのこと。

彼は彼女に言いました、「是非一緒に仕事をしましょう。もし子供を持つことを考えているんであれば、そのことについての相談は一切しなくていいですから。妻も姉も、子供を産む時には大変苦労していました。勤め先に妊娠したいという意思がバレてしまったら、クビになるかもしれない。誰かに自分のポジションを取られてしまうかもしれないと。

そして一旦休職すれば、職場復帰することは難しいだろうと。もし一緒に仕事が出来るのであれば、是非あなたを迎え入れたい。必要があればいつでも相談してください。私はあなたが妊娠しているからといって、チャンスになるオペを他の外科医に回したりはしません。妊娠休暇を取ることについても、その後の復帰についても全力でサポートしますから。」

これが全てのアメリカの企業のトップがすべての従業員に言うべきことなのです。こうすれば、どの業界でも女性トップは全体の14%、なんてことになりません。こんな風に言ってくれるボスがいたら、私は妊娠中、子供を産むことを考えていた時に、あんなにストレスを感じず済みました。

妊娠出産によって仕事を失うのでは、と怯えていました。どんなマネージャーだって、女性の妊娠出産もサポートしたいと思っているはずです。

この問題に注目が集まるなら、炎上もいとわない

クリスティア:でも、妊娠出産については何も言わないほうが賢明だ、と経験から信じている女性も多いんじゃない? その方が賢明じゃないかしら?

シェリル:でもその文化を変えたらどうかしら?

クリスティア:でも、あなたは本の中で、「この世界をありのままに捉えることが大切」と言っているじゃない?

シェリル:それは個人の給与交渉の時だけに限るわ。例えば、もしもすべての企業が「妊娠出産によって、優秀な女性たちを逃しています。私たちは彼女たちを食い止めたい。皆さんのニーズに合わせます。休暇を取って、そして戻ってこれるように手配します」と言ったら?

私の本とleanin.orgを通じて、3つのことをしています。まず、皆がこのことについて話すことが出来る、グローバルコミュニティをつくること。皆の素晴らしい前向きな姿勢をシェアすること、主に女性のライフストーリーをシェアすることです。

次にスタンフォード大学のクレイマン・インスティテュート・フォー・ジェンダー・リサーチの協力で、エグゼキュティブ・エデュケーション・プログラムをやっています。これはこの教育プログラムの講義を20分以内に抑え、オンラインでビデオを無料で公開するという試みです。いつでも見ることが出来ます。

三つ目、リーン・イン・サークルをやっています。女性のサポートグループです。シリコンバレーのルーツを使い、私たち自身をプラットフォームにしています。120,000以上のパートナーがおり、これには企業、NPO、女性団体が含まれます。彼らが私たちの活動を引き継いで広めてくれています。この活動を通じてマネージャーに女性支援のやり方をレクチャー出来るのではないかと思っています。

現時点では、女性はマネージャーに相談することをとても恐れていますので、女性は彼女たち自身で身の振り方を考え、備えなければなりません。これではいけません。こうであるからいつまでも女性トップは14%なのです。

クリスティア:本の中でもあなたは、人に良く思われたいと思うタイプだと書いていますが、今回の本に対する批判についてどう思いますか?

シェリル:私はとっても個人的な理由でこの活動をしています。この本は小さな頃に「偉そうに威張るんじゃない」と言われた、すべての女性の為に書きました。私が書いたことでメディア・社会・議論が炎上することは、とてもいいことだと思います。

私がこれを書いたのは、女性トップの数が一向に増えないことについて、誰も語らないからです。つまり、これが気に入らない人やヒートアップした議論が行われることで、社会がこの問題に目を向けてくれれば、素晴らしいことだと思います。これからも続けていかねば、と思いますね。

シェリル・サンドバーグ氏の成功が、発言力にマイナスの影響?

クリスティア:あるところでは、「こんなに成功している彼女がこんなアドバイスをする立場にいない。このアドバイスをする資格がない」と言われています。これはある意味、興味深いです。

男性が仕事で成功する為には、というテーマで本を書く場合、社会は彼ならその資格がある、彼は成功しているから、と肯定的に捉えます。どうすれば成功出来るか、について書くのに、すでに成功を収めていることが邪魔になる、という現象についてどう思いますか?

シェリル:人は何とでも言えますから。確かに私は、他の人が持っていないかもしれない資源や良い状況・環境に恵まれていました。自分でも良くわかっています。すべての女性が私とまったく同じことが出来るとも思わないし、また、する必要もないと思っています。

そして、皆に当てはまる成功の法則も知りません。皆が同じゴールや情熱を持っているわけではありません。人はそれぞれが自分だけのゴール・夢を持つべきだと思っています。しかし、役員室でもPTA会議室でも、男性に比べて私たちの意見が通ることが少ない、という事実があることは確かです。重大な決定を下す場に女性がいない。

例えば、ボランティア活動を実際にするのは女性が多いにも関わらず、あまり実際のボランティア活動をしていない男性の意見が、会議では通ってしまう。または、女性が話そうとすると彼女たちの意見は遮られることが多い。男性が1ドル稼ぐ間に女性は77セントしか稼ぐことが出来ない。こういったことが問題なのです。

自分を信じて、自信を持って、前に出ていって、会議の場に参加して、欲しいものを手にし、そして皆にも皆が欲しいものを与えましょう。これが私のメッセージです。

私のTEDトークを見てくれた主婦から、こんな声が届きました。

「子供の先生を変えて欲しいと思っていました。この教師は、とてもいい教育者とは思えなかったからです。しかし今までの経験から、私なんかの力では状況を変えることは出来ない、と思っていました。

しかし、あなたのトークを見てから校長室に出向き、私の子供と公立学校の為にもっと良い先生を迎え入れてください、と直談判しました。ありがとうございます」。

どんどん前に出ていくことは、結果として皆の為になるのです。自分が信じるものの為に、欲しいものの為に、自分が受けるに値すると思うことの為に、やりたいことの為に一歩前に出て、行動を起こすことです。この彼女は、それをやりました。

LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲