角川ドワンゴ学園のN高は「毎日、Slackでホームルームする」
リアルとネットをつなぐ“体験”の必要性を考える

「体験」って必要ですか? #1/2

SOCIAL INNOVATION FORUM
に開催
2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。今回は「『体験』って必要ですか?」と題し、情報学研究者ドミニク・チェン氏、海の学校・内野加奈子氏、角川ドワンゴ学園 N高等学校副校長の上木原孝伸氏が登壇。Whole Universe代表理事・塚田有那氏をモデレーターに、ネット社会における「体験」の必要性を語ります。

「体験」の意義をディスカッション

塚田有那氏(以下、塚田):はじめまして、塚田有那と申します。簡単に自己紹介をさせていただくと、私はフリーランスの編集者かつブレンダーという肩書きで……説明があっているのかちょっと個人的にも思っているところです。

アートとサイエンスといったすごく異なる領域をどうされていくか。またはその活動をしている人を支えたり、その活動の場を作ることを目標として活動している、「Bound Baw」というアートサイトを伝えるメディアの編集長などをさせていただいております。

「『体験』って必要ですか」という、何を聞かれているのかわからない禅問答な問いのテーマのセッションにお越しいただいみなさまをご紹介させていただきます。私に近いほうから海の学校・主宰の内野加奈子さんです。よろしくお願いします。拍手をお願いします。

(会場拍手)

続いては、学校法人角川ドワンゴ学園のN高等学校の副校長先生の上木原さんです。

(会場拍手)

続いては、情報学研究者でいらっしゃって、最近早稲田で教鞭をとられているドミニク・チェンさんです。

(会場拍手)

今日この場にお集まりいただいたお三方は、みなさまたぶんWebサイトなどでプロフィールなどを簡単にご覧になっているかもしれませんけれども、なかなかふだん一緒の席になることがなさそうな、多岐にわたる活動をされている方々です。

今回、さきほどもお話にあったテクノロジーの時代に、バーチャルでいろいろな体験ができるかもしれない。旅に出るようなすごくフィジカルな体験というものは、すべて私たちの中で相関になっているんじゃないか。そうしたときにやっぱり、「フィジカルが大事だよね」ということだけでなく、意向対立を超えた、これからの体験、経験のあり方をすくっていければなと思っております。

この話は、後半にご登壇いただいたみなさまでできればと思います。まずはお三方がどんなことをされているかということを、それぞれ10分ずつお話しいただこうかなと思います。

そのあとにディスカッションに入るんですが、その合間に時折、今日お集まりいただいた参加者のみなさまにも、率直に思われた疑問だとか、登壇者にもうちょっと聞きたいことをお聞きしますので、まずどんなことを聞いてみようかなということを考えながら、お話を聞いていただければなと思います。ではさっそく、内野さんからお願いいたします。

カヌーで日本からハワイを航海

内野加奈子氏(以下、内野):今日は体験というテーマをいただいて。私は2011年まで11年間ハワイに住んでいました。そのときに、なぜハワイに行ったのかというきっかけになったのが、今ここに映っている「ホクレア」という伝統航海カヌーです。このカヌーを通じて、ハワイから日本まで5ヶ月かけて実際に航海してきました。そのときのお話を10分でお話ししたいなと思っております(笑)。頑張って話します。

(スライドを指して)このカヌーを初めて見た方もたくさんいらっしゃると思いますが、「カヌー」というと、だいたい細長いものをイメージすると思います。この片方が20メートルぐらいあるカヌーです。このカヌーが2つ並んで、その間に大きなデッキが張られて、そこに2つのマストがあるという、とてもシンプルな構造です。エンジンはついていなくて、動力は風だけですね。それを使って航海する船です。

みなさんご存知のように、太平洋がすごく広大にあって、その真ん中にぽつんと、おへそのようにある島々のことをハワイ諸島といいます。ここに最初に人がたどり着いたのが今から1300年ぐらい前と言われているんですね。その1300年ぐらい前に、もちろん海図もコンパスもない時代にどうやって人がこれだけの海原の中でぽつんとしたここにたどり着いたのかということを再現したカヌーです。

ハワイとニュージーランドとイースター島を結んで、この三角形の広大なエリアをポリネシアといいます。この中で文化や言葉など、いろんなものがすごく共通しているんだけれども、これだけ地理的に離れている。ここをどういうふうにして人が渡っていったんだろうかということ(について)、たくさんの伝説とか伝承とかは残っていたんですけれども、実践した人はハワイには完全にいなかったんですね。

今はDNAとかいろんなものを調べて人の流れを見ることができて、こういう感じで人が移動していったことはわかっているんですけれども、当時は完全に証明はされていなくて、実践、伝承を実際に形にするために始まったのが、「ホクレア」という取り組みです。

さらに言ってしまうと、15万年ぐらい前に東アフリカのほうでホモ・サピエンスという種が始まって、それが何十万年もかけて人類が世界中に移動した最後のチャプター、最終章をこの海の大移動が担ったと言われています。

上野にある科学博物館の特別室にホクレアの4分の1の模型が飾ってあって、それは海洋文化というよりは、人類の移動の最後の部分、人がどういうふうに知を使って、体を使って、移動していったということの形をした、一つの働き。

当時、ハワイには伝承はまだ残っていたんですが、形としてカヌーはなかったので。たまたまハーブ・カネさんという絵のとっても上手な歴史家の方がいて、こういうふうに人々が渡ってきたんじゃないか、というたくさんのビジョンを絵にたくさん描いて。

タヒチのほうに、こういうカヌーの形が残っていたので、それをベースに1975年にこのカヌーが建造されました。1976年に最初の航海があって、実は実験航海で1回で終わる予定の航海でしたが、この航海を通じて星や波のように自然が与えてくれる情報だけを頼りに大海原を渡っていくことが、今の私たち人間の持っている力として可能なんだということが、すごくたくさんの人々の気持ちを呼び覚まして。それ以来、42年ぐらいになりますけれども、航海を続けています。

スターコンパスが道標になった

内野:私が参加したのは、ハワイからミクロネシアの島々を伝って、そこからずっとパラオ、沖縄のほうへ北上して日本全国13ヶ所を巡るかんじで、ぜんぶで5ヶ月に渡った航海をしました。こんな感じのカヌーですね。

さきほどちょっとお話ししたとおり動力がないので、基本的に使うのは自然の力だけで、風を使ってこんなふうに大きな2つの帆で風を捉えて、そこで得た前に進む推進力を、大きな櫂を使って、右に左に分けて。帆を工夫することで風に向かって進むこともできるので、基本的に360度どこにも行きたいところには行けるというような機能を持ったカヌーになっています。

一番大事なのが、どうやってどこに向かうのをどう見出していくかです。現代の計器は何一つ使わないので、乗るときに時計も外して、もちろん携帯も置いて、方位磁石とか海図とか、そういう計器的なものをすべて置いて行きます。そのかわりに何を使うかと言うと、自分たちの身の回りにある自然現象です。自分たちのなかでそれを翻訳をして、先に進む力に変えていくプロセスが大事です。

スターコンパスと言って、これは星を使って……今青山でビルに囲まれていますが、これがぜんぶ海だと想像してもらって、自分は海の中にいて、この鳥の形をしたカヌーの上に乗って、海の上に浮かんでいると想像していただいたら、水平線が見えますよね。ずっと(笑)。この水平線がコンパスの端です。この自分を中心にした巨大なコンパスが自分の周りにあって、その目盛を教えてくれるのは、星が持ってくる位置なんですね。

そして、1日1回こういうたくさんの星が上って戻ってくるという、自分を中心にした巨大なコンパスが船と一緒に動き続けているイメージです(笑)。そういう感じで星を使ってこの目盛を常に確認しながら先に進んでいくというのが、スターコンパスの基本です。

ただ、星は一日に夜の間にしか見えないですし、曇っていたり嵐のときは見えないので、それ以外のサインをどうやって使っていくのかが、すごく大きなポイントの1つです。例えば太陽、月、それからもっと大きい惑星ですね。(それらの)動きだとか、風の変化とか雲の動きだとか。

一番よく使うのが、波のうねりのパターンです。今波があるんですが、そこに太陽が今上っているところです。太陽が上っているということは、ここが東なので、東というサインがあるときに波の表情を読みます。この波が今どういう表情で、うねりがどういうふうにどっちから来ているかということを記憶する。

そのことによって、それがどういうふうにこのカヌーに当たっているか、カヌーがこのうねりによってどういう動きをしているかを覚えておくことで、次に確実なサインが来るまで、そのうねりを使って航海をするということをしています。

うねりももちろん向きを変えるんですが、例えば1時間で大きく変わったりしないので、夜の間何も見えないときなどに、次のサインが見えるまでこのうねりを使って航海したりということをします。

今回のことをいろいろお話ししたいんですけれども、たくさん紹介する時間があまりないので、写真だけちょっと見ていただきたいと思います。こんな感じで、動力を風にしているので、風がないときは、こういう鏡のような海になったり。このときは本当に綺麗で、夕暮れになると空がそのまま鏡のように海に映るような感じなので、水平線の先……さっき想像していただいたとおり、ここがぜんぶ海だということで、ぜんぶが鏡のような感じで雲が海の上に映って。

夜になると、星がそのまま鏡のように海の上に映って360度星に囲まれて、自分が宇宙の中にぽっかり浮いているような、世界の中にこういう風景が誰のためにでもなく、いつもあるんだなと思いながら、航海していました。そんな感じです。

海での日々で生きていることを実感した

内野:もちろんいろいろ嵐にあったり、さまざまなドラマや物語が生まれたんですが、それはちょっと割愛しつつ(笑)。

最後に、水平線の向こうに沖縄の島が見えます。パラオや屋久島のあたりから2週間近くかけて航海したあとに見えてきた島影で。海と空だけずっと見て、何十日もしたあとに、こうやってうっすら島影が見えてきたときに、自分たちが生きている大地があって水がある、そこに緑があって人の暮らしがあること自体が奇跡みたいな気持ちになるような気分でしたね。

ハワイでは州の宝を「州宝」と言うのですが、さきほどお話ししたとおり、このホクレアは40年近く、ハワイの人たちでこのカヌーの存在を知らない人は誰一人としていないぐらい、州宝として、すごく大事なシンボルとして、今も航海を続けていて。

日本の航海が2007年だったんですが、その後、世界一周をする航海を計画をして、3年かけて、世界をめぐる航海を去年ちょうど終えたところです。今も引き続き、いろんな航海を続けています。日本の航海の様子は書籍になっていて、2008年に出版しました。

2007年の航海当時は、まだホクレアの知名度はそんなになかったんですが、この本といろんな(ところで)取り上げられたことをきっかけに、3つか4つぐらいの高校の英語の教科書にこのホクレアの物語が取り上げられていたりします。

あと、去年、日本でもこういう感じで絵本を出していて、ちょっとストーリーがどんどん続いていくような(作品です)。お手元にあるのはこの絵本のチラシなので、よかったらご覧になってみてください。

塚田:ちょっとお聞きしたいんですが、5ヶ月間、一切機器を持たずということは、完全に連絡も途絶えた状態?

内野:そんなことはないです。5ヶ月というのはずっと海の上というわけじゃなくて、たくさんの島に泊まっていくので。

塚田:なるほど。

内野:そうなんです。本当に、数限りないいろんな島に泊まって、そこでまた調整して、また次に行って。一応このホクレア衛星を使ってこちらから発信することはできたので。

塚田:なるほど。

内野:例えば、「今日何が起こっているよ」ということを発信したり。あと、朝晩自分たちが無事を確認するコールをしたり、ということはしていました。

塚田:一切途絶えた5ヶ月かと思って(笑)。あと、何人ぐらいの航海だったんですか?

内野:このカヌーで1回に乗れるのは11名なんですが、100名以上のクルーがトレーニングを受けていて、その島々でチェンジしながらという。

塚田:そうなんですね。ずっと同じというわけではなく。

内野:そうですね。ずっと同じく乗っていた人もいたんですが、人によって……私もぜんぶじゃなく3ヶ月ぐらいだったので。

塚田:さきほどの世界一周という話をおうかがいしましたけれど、そういった経験を経て、今の活動は海の学校というのを主宰しておられる。

内野:そうですね。海を入り口に自然の仕組みをいろいろ学ぶ機会を作ったり、そういう絵本を作ったり、ということを今やっています。

塚田:今、高知県でやっているということで、ちょっとそのあたりを後半でお聞きできればなと思います。ありがとうございます。

内野:ありがとうございます。

リアルとネットを組み合わせる新しい高校

塚田:続いて、すごく壮大な海の水平線が見えた次にネットの学校という(笑)。また、すごくいいイメージがあるのかなと思いますが(笑)。上木原さんお願いします。

上木原孝伸氏(以下、上木原):よろしくお願いします。場違いじゃないでしょうか、大丈夫ですか?

塚田:大丈夫です。

上木原:(内野氏は)本当に素敵な体験をされていて、ぜひうちの高校生たちに体験させたいなと思いました。我々はN高等学校と申しまして、ご存知の方はいらっしゃいますか、N高を。

(会場挙手)

半分くらい知っていただけている。ありがとうございます。ふつうこれを聞くと、ご存知ない方が多いんですが。学校法人角川ドワンゴ学園と申しまして。角川と言えば映画の角川、あとは「ニコニコ動画」を応援しているIT企業であるドワンゴ、この2つが基本となって作られた通信制の高校ということになります。

ただし、我々は通信制高校を作ろうと思って作ったわけではまったくありません。通信制高校の仕組みを活用すれば、これから生きる社会の多様な教育を子どもたちにもっともっと提供できるんじゃないかということで作ったのがN高等学校ということになります。リアルとネットを組み合わせることで、もっともっと多様な学びを提供できるんじゃないかというかたちで作らせていただきました。

次のスライドは、2年前にけっこうニュースになったので、見覚えのある方がきっと多いんじゃないかと思います。VR入学式ということで、かなり取り上げていただいたんですね。私は運営側に入っていたので、とても真面目にこの入学式を企画した側です。マスコミなんかには「これ、大丈夫か?」というようなことでけっこう騒がれたんですね。「日本、大丈夫か」と。

(会場笑)

これをどういったことのためにやったかと言うと、本校が沖縄県伊計島というところにありまして、そこで校長が入学式をやっている。そこには校長がいるんだけれど、グランドには誰もいないんです。それで、六本木にあったこの入学式の会場でVRを見て、沖縄にいる校長先生の式辞を聞くという、沖縄の体験をVRを使ってなんとか東京にいながら体験させてあげられないかなということで、非常に少ない人数ですが集まっていただきました。

実は今年から、2,000名ほどの入学者全員にVRキットを送りまして、ご自宅で入学式を受けていただいて、沖縄を体験していただく。それから六本木で体験していただくということを実施して、1,482名でスタートしまして、現在7,041名という生徒がN高校に通ってくれています。計算してみたところ、日本の高校生の460人に1人がN高生です。なんだか微妙ですか(笑)。

(会場笑)

多様な生き方を支援するN高

上木原:私は責任が重いなと思っているんです。500人いれば1人はN高です。高校は2つ同時に在籍できないですから、生粋のN高生ということで、460人に1人が在籍しているということです。じゃあ、なぜこのN高校に来てくれたのかということですが、こんな理由の子がいます。中3のときに株式会社を作っちゃった。その会社を大きくするために時間がもったいない。だからN高に来ました。

この通信制の仕組みを活用すると、昼間の時間はどんなことをしていてもいいですから、航海5ヶ月していても大丈夫なんです。そのあと、勉強などを1年やってくれたら大丈夫ということで、本当に自分の時間を活用していっています。ある子はプログラミングの理想があって、今は3年生ですが、1年生から入ってきて、先日茨城で行われた国際情報オリンピックで銅メダルを取りました。

ただ、こういう子たちばかりではなくて、ほとんどの子が「将来何がしたいかわからないです。だからN高に入って、ゆっくり時間をとって見つけていきたいです」(と言う)。そういう子たちが実はN高には多く来てくれている。組織は小さいですが、進路選択に対する高校生の気がかりということで、自分に合っているものとか、やりたいこととか、そういうものが見つからない子がすごく多いんですね。

それで、N高でそういうことで立ち止まって、ゆっくりと考える時間を提供しました。それからプロの授業をネットで受けてもらおうと考えています。ネットでの双方向性学習ということで、こういう授業を実はニコニコ動画の仕組みを活用しながら、生放送で毎晩N高生には届けています。

プログラミングなんかも、いわゆる高校の情報の先生というわけじゃなくて、ドワンゴのトップエンジニアがカリキュラムを組んで、高校生にわかるようにエンジニアのスキルをつけていくというような講座を設けています。これも学費の中にすべてインプットされているので、N高生は無料ですべて受けられるというかたちです。

今年の10月からはAdobeさんと提携しまして、Creative CloudをN高生全員無料で使えるようにしました。一緒にHDMAやCSSといったデザインのコースも作るようにしまして。イラスト好きな子が多いんですが、なかなかそれを職業につなげるということが難しいところがありますから、フォトショップやイラストレーターを使えるようになってもらおうかなと思って意識しています。

それから大学受験講座も中学の復習講座から上はハイレベルのところまで取り揃えていて。転校生の実績になりますが、今年の卒業生はまあまあ頑張ってくれたかなと思っています。それからN高に来る子はこういう志望動機なんです。さきほどからお見せしているのは全部志望動機を書いていただいたものなんですが、この子は起立性調節障害という病気で、なかなか自分の学校に通うということができなくて。こういう子に居場所とそれから勉強できる機会をしっかり確保しようということもN高の1つの目標になります。

毎日Slackでホームルーム

上木原:ということで、ネットでのコミュニティ形成についてです。実はN高生全員がSlackというビジネス用のチャットツールのアカウントを持っています。毎日ここでホームルームをしているんです。(スライドを指して)こんな感じでSlackのチャンネルがあります。

クラスがあって、先生の名前があって、全員クラスに入っているんですね。先生が「起立、礼、よろしくお願いします」と言うと、子どもたちが「ガタガタ」「ペコペコ」と起立礼をするんです。

我々が、「ガタガタ」「ペコペコ」と書きなさいと言ったことはないんです。子どもたちにこういうチャットツールを与えれば、思った以上に、いくらでも活用してくるんですね。子どもたちが勝手に「絵描き」というチャンネルを作りました。「チャンネルも自由に作っていいよ」と言うと、作るんですね。

「ヘッドフォンをつけた男の子」というお題をある子が出すと、ここにざわざわと絵が並んでいく。これは面白いなということで、実は美術部に昇格しまして、今もう部員が150人を超えているんです。ふつうの高校で美術部員150人というのは聞いたことがないと思うんです。

逆に言うと、マイノリティーだなと思っていた自分がN高ではマジョリティーになれる。そういう感覚を持てる。今は2週間に1回プロの先生から添削を受けられるという企画もしていて、すでにプロ並みの技術を持っている子も多いということです。それからこれもネットで言われましたが、ネット部活というので、サッカー部があるんですが、サッカー部はウィニングイレブンを使ってやっていく。

(会場笑)

顧問には元日本代表の秋田(豊)さんがついている。将棋もネットでやる。ということで、ネット部活というのを本気でやっています。実はこの成果も出ておりまして、1期生で入ってくれた子が、eスポーツ日本代表、ウィニングイレブン代表2人のうち1人がうちのN高生の相原翼くんで、実は先日のアジア大会で日本優勝しているんです。

金メダリストがN高生から出たということで、秋田さん、ものすごく指導が厳しいんですよ。ネットなのに、始めるときにあいさつの声が小さいとやり直させるんです。

(会場笑)

本当に真剣にやっていてくれまして、相原くんも今は非常に元気になって。ただのゲーム好きだった子が、今はもう金メダリストですから、そういう意味ではここで非常に未来が開けれるかな……プロのオファーがたくさん来たりという感じです。

リアルな体験をネットにどう繋げるか

上木原:リアルな取り組みということで、スクーリングは沖縄の伊計島にあるN高等学校本校で行っております。こういう素敵な校舎があったんですね。実は、うるま市と市町村合併したタイミングで、この伊計小中学校が廃校になってしまいました。できたばかりで非常に綺麗な学校だったので、そこをお借りして今本校としてやっております。こういうリアルな体験をしながら、五日間沖縄県でスクーリングの授業をしていくということです。

それから文化祭は「ニコニコ超会議」というドワンゴが主催しているイベントがあります。こちらをN高のさまざまな取り組みを発表する場面として設けています。ここで初めて出会うクラスメイトがいたりして、会うと友達と抱き合うことから始まるんです。「本当にいたー!」って。当たり前なんですが。

(会場笑)

ネットでできた友達とリアルにここで会うという機会が年に何回かあるということですね。それから地方自治体と連携して、実は職業体験というのも活発に行っております。イカ釣り業なんかもあって。中には起立性調節障害という病気で、朝どうしても起きられない子が少し元気になったので、イカ釣りに行きたいと。

お母さんは「大丈夫かな」とすごく心配されたんですが、実はイカ釣りは夜中に船が出て、朝出て行くので、この子の生活リズムと一緒だったんですよ。なので、「あ、僕これだったらできる」と。別にイカ釣り漁師になるわけじゃないですよ。

でも、自分にもできる仕事(があって)、世の中にはたくさん仕事があるんだなということを体感してもらって、自己肯定感を高めて欲しい。そんな取り組みとしてやっています。

お遊びで行くというわけじゃなくて……これもSlackですね。こういうネットを使って事前学習をした上で、初日に事前学習した内容を発表し……このときは刀鍛冶ですね。それを実習させてもらって。

最終日のプレゼンに向けて、僭越ながらこういう刀鍛冶の後継者問題などをどう解消させていくかというようなことについて、N高生なりのアイデアをプレゼンさせていただくような取り組みもしています。

ある男の子は、こんな感想を持ってくれました。これは雑誌に紹介していただいたものです。この子はプログラマになりたいんですが、酪農体験に行ってくれて。この子が言っているのは、酪農世界で機械化が進んでいるけれど、牛を追い込むことのように、まだ機械化とプログラミングで楽にできることは多いと。だから、農業×ITみたいな仕事がここで出来るんじゃないかということにここで気付いてくれたり。

リアルな体験をすることで、そのバーチャルなネットの世界とどう繋げていって、仕事にしていくのかということは、高校生ぐらいの子のほうが非常に感度が高いな、というのを見ていて感じます。この職業体験では、スタディツアー、ワークショップというのを非常に積極的に行っていまして、こういう満足度も非常に高い結果になっているということです。駆け足ですが、以上です。ありがとうございました。

塚田:ありがとうございます。

UXに見る、「体験」の重要性

塚田:いろいろなことにすごく興味があるんですけれども、そこはグッとこらえて。エコノミストの社会の中で取り組まれていることとも近いんじゃないかと推測しますが、ドミニクさん続いてお願いします。

ドミニク・チェン氏(以下、ドミニク):よろしくお願いします。ドミニク・チェンと申します。今、大海原からネットの海まで取り扱うお2人の話に圧倒されてしまいました。すべての高校がN高になったほうがいいなと思うぐらいで(笑)。

(会場笑)

ドミニク:いや、本当に。私は大学で教えはじめて2年目なんですが、これだけ幅広い体験を大学で提供できていないと率直に思ってしまったんですね。その中でも、どういうことを大学の場でできるかということを自分なりに考えていることとして、ここに映している体験というものはとにかくデザインできるものだったんだということです。非常にシンプルに、そこだけに絞っていろいろやっていくと。

今日はN高さんのご紹介もあるということで、自分がやっている教育プログラムについてはほとんど話しません。自分の起業体験や個人的な開発の体験を通して、どういうふうにこんな考えに至ったかという話を少しさせていただきたいと思います。

とにかく今回、「『体験』ってなんだろう」「『体験』って必要ですか?」という(テーマは)、非常に単純に見えて、非常に奥深い問いだなと思っていて。これだけで1期の授業が構成できるんじゃないかなとすら思ってスライドをまとめていたら、150枚ぐらいになりました(笑)。

(会場笑)

ドミニク:それをグッとこらえて、12、13枚にしたという感じですね。私はもともと会社を自分で立ち上げていまして……いわゆるIT系のスタートアップですね。起業を行って、一般の方たちがアクセスできるスマートフォン用のアプリケーションなどを開発しておりました。そのなかで体験のド真ん中にあるところで、UXという言葉があります。

さきほどN高さんでもAdobeのソフトを使ってデザインをされているという話がありましたが、これ(UX)はユーザー・エクスペリエンスという言葉の略になっていて、ユーザーの体験ということなんですね。つまり、情報技術を使うとユーザーの体験というものをデザインする。それは会社用の体験であったり、一般の個人の方たちの体験であったり、どんなサービスを使っていても。

このことをご存知の方も多いと思いますが、このユーザー・エクスペリエンスについての非常に素晴らしい本などがたくさん出ているということで、左に映しています。

塚田:ありがとうございます。実はあの本を編集しておりまして。

ドミニク:知らなかったです(笑)。

(会場笑)

塚田:第2冊を作っています。

ドミニク:私も第2冊の原稿を書いております(笑)。今年中には出ると思います。とにかく、そこのユーザー体験というものをどう作るかという話があるわけで、ふつうの企業の感覚で言うと、ユーザー体験を良くする目的は、当たり前のことですが、ふつうにお金を儲けるためですね。

そのアプリケーションなりサービスを提供することによって、ユーザーの方たちに気持ちよく使っていただいて、その上で企業にお金が入ってくると。そういうバランスを取るのが現代の情報技術の設計の、非常に重要な点だと思います。

「体験をデザインする」ということ

ドミニク:そういうお金儲けの点というところで、今どんどんいろんな問題が起こっていて、お金儲けをしようという力がちょっと強すぎるというところがあって。この「体験をデザインする」ということについて、ちょっと別のほうからも考えなければいけない。そういう議論が、実は今沸き起こっています。

ただ、その話を始めると長くなるので、自分の体験の中で一番やってきたことは、ネットを通してであっても、その画面の向こう側にいる人間と一緒に存在しているという「共になる感覚」をデザインによってどう増やすことができるのか。そういうことを自分はやってきたと思います。

ちょっと事例をいくつかお見せしていきます。(スライドを指して)これはちょうど10年前、2008年9月に作った、PCとガラケーですね。スマホが出る前の時代に作っていた匿名の掲示板で。少し可愛らしい匿名掲示板にしていて。これに自分が最近凹んだことや辛かったことをメッセージにして託すと、他のユーザーの方たちが匿名で励ましの言葉を送ってくれる、非常に他愛のないと言えば他愛のないものです。

これが実際に動いているところをお見せすると、いろんな人の悩みとかが並んでいて、本当にどうでもいいようなことに対しても、けっこう長文で励ましのメッセージを書いてくれるんですね。共感とか同意のメッセージですね。それに対して今何をしているかと言うと、「ありがとう」を送るボタンというのがついていて、それをひたすら連打すると、相手に「ありがとう」を送ることができ、送ると自分の後悔の念が成仏してしまうという。

(会場笑)

そういう、ちょっとおもしろ要素を入れた設計にしたんですね(笑)。これを1週間ほど、夏休みの自由課題みたいな感覚で会社で作っていたんですが、公開してみたら初日で1万人ほどのユーザーさんが殺到してしまったので、3、4年間実はこの開発に専念してやっていくということになります。

本当に見た目はすごく他愛ないものなんですが、この場でどうやってより気持ちのいい体験をしてもらえるかということをけっこう真面目に考えて。こういう研究に発展して、いろいろ数式やプログラミングを使って、この場におけるコミュニケーションの成功率をとにかく上げる施策をやって。

どういうことかと言うと、「慰め率」というものを指標に入れて、ちゃんと凹んだ人に対して慰めがつくかという率を数値的に定量化して、それを上昇させる施策などをしっかり真面目にやって、それを検証すると。あとは「成仏率」という、ちゃんと後悔の念が成仏できるかということも指標化してやってみる。

そうすると、ちゃんとそれが、20パーセント(だったもの)がそれぞれ10パーセント上がることができて。こういうことをやると、ちゃんとユーザーの体験を全体として良くすることができるんだということに気づきました。コミュニティ形成としては非常に成功体験だと思っているのですが、事業としては残念ながらお金儲けに失敗しまして。去年、一時的に閉鎖して、いつか復活したいと思っているところです。

こんな感じでですね、ほかにもたくさんいろんなアプリを作ってきて。これは何故かAppleさんに好評で、2015年の「Best of App Store」というのをいただいたり、2016年も連続で受賞させていただいたりしています。とにかくうちは、コミュニケーションをネットで通すやり方というのを提供するんですが、人間の気配や人間の感情みたいなものをどうやって増幅するかということをやってきた。

「タイプトレース」とは何か

ドミニク:もう1個、リアルタイムでやっているものをお見せします。(スライドを指して)これはタイプトレースという、実はアート作品として作り始めたソフトで、キーボードで書いた文章のプロセスを全部記録して再生できるんですね。なので、このプロジェクターに映しているのは動画じゃなくて、テキストがキーボードでどう叩かれたかを一字一句再生していると。

これをプロの小説家の舞城王太郎さんという方に3ヶ月間かけて新作の小説を書いていただいた。それをこの展示の場所で再生するということをやっていたんですけれども、新しい現代の小説が一字一句どうやって打たれたかというデータは、おそらくこれしか存在しないんですね。これによって、文学の研究というもののいろんな論文が書かれたりもして、ものすごくおもしろい結果になって。

これを展示したときに、カタカタと動くテキストを見ていると、まるで作家の舞城さんの気配を感じるようだということを、みなさん異口同音でおっしゃったんですね。たしかに自分たちも作っているうちにそんな感覚があることに気付いたんですけれども、それは意図していたものではなくて、作ってみて初めて気が付いた。

これはおもしろいということで、今実はこのタイプレースを誰でも使えるように準備をしているところです。これはチャットをタイプトレースを使ってやっています。ちょっとわかりづらいんですが……。僕と池上さんという人が、これを使ってチャットをしているんですが、それぞれの投稿は別の時間なんですね。

ふだんはぜんぶ静止しているテキストで、これを使うとそれぞれのメッセージがどうやって打たれたかを、お互いに見ることができる。そうすると、ちょっと不思議な感覚が起こってくると。この不思議な感覚は一体何なんだということを最近ずっと追求していたら、ちょっと聞きなれない言葉ですが「協和」という概念に辿り着いた。

文化人類学とかそういう方向の概念にも近くなってくるんですが、これは実は日本語をしゃべる人は日常的にやっていることなんです。しゃべっている人同士が、主語を共有しながら一緒にフレーズを構築していく会話のことで、例えばAの人が「今日の天気さー」と言うと、Bの人が「ああ、気持ちいいよね」と(言う)。つまり、この人(A)が途中で放り出しているフレーズをBが受け止めて、感じさせる。

当たり前じゃないかとみなさんはお思いかもしれませんが、実はこれを英語やフランス語でやって見たところ、非常に難しいし、筋が通らない。これは日本語という1つのツールの中で非常に発現するおもしろい効果なんですね。

実はこれを調べていくと、アフリカのいろんな人たちを調査している文化人類学者の人たちの概念などに辿り着いて、共在感覚とか協和ということですね。日本的な感覚が、実はアフリカにも通じるということがわかってきたりして。

対話ということについては、僕たちが今まさにここでやっているような対話と違っていて。一人ひとり順番にしゃべっていくわけですが、協和というのはもうちょっと井戸端会議みたいな感じで、同時に一斉にしゃべると。そうすると、誰が何を言ったかよく覚えているんだけれども、そのお互いの考えというものがどんどん融合していくというような効果が出てくるんじゃないかと。

さきほどのタイプトレースを使ってチャットをすると、この協和的な効果を発していくということについて、今実は科学的な研究として進めているということです。

デバイスで生死の共在感覚を考えられる?

ドミニク:こういう考えをもとに、体験は情報技術を使うことによって、新しい感覚を生み出すことに使うことができる。それはいい結果を生むかもしれないし、悪い結果を生むかもしれない。そこはいろんなリスクがある。それをちゃんと検証していければ、今までにないコミュニケーションが可能になってくると。

1つだけ最後にお見せするのが、僕の研究室ですね。修士の学生がトライアルで作っているもので、ちょっとわかりづらいかもしれないんですが、こういうお椀型の装置で。これは何かというと、心臓の脈動を記録することができる機械なんです。

これを使って、家族の心音を記録しておいて、大事な家族の方が亡くなったあとにその方を弔ったり、悼んだり、追悼するときに、例えばこの亡くなったひいおじいちゃんの心音を手の平で感じ取りながら、さらに自分の心音をそこに重ねあわせることができる機械で。

そうすると、亡くなった方を思い出すために、例えば今まで遺影などの写真を使っていたのが、もっと触覚を使ってその人の存在を感じることができる。そのような新しい生者と死者の共在感覚というものを考えるきっかけのようなデバイスを作って欲しい。

だから、これは今すぐに起業するとか、会社を作ることにはぜんぜんならないんですが、社会の中でこういうコミュニケーションのあり方があってもいいんじゃないかと思いますね。どんどん提案しながら考えていく、そういう研究を大学で今やっているところです。簡単ですが、以上です。

塚田:ドミニク様、ありがとうございました。ではみなさま、いったん拍手でお応えください。

(会場拍手)

<続きは近日公開>

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