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東京大学 五月祭シンポジウム(全1記事)

機械学習は干し柿の不足問題を救う 東大教授らが描く、人工知能を応用した農業の理想像

2018年5月20日、東京大学・五月祭内でシンポジウム「人工知能を用いた応用研究の射程と社会実装の課題」が開催されました。機械学習の基礎理論研究の魅力や、AIを他分野の研究に応用することの重要性を、東京大学の杉山将教授、羽藤英二教授、海津裕准教授、DEEPCORE仁木勝雅氏が議論。また、AIを社会に実装することの意義などを語りました。

人工知能実装への課題を議論

須田英太郎氏(以下、須田):今日は「人工知能を用いた応用研究の射程と社会実装の課題」というテーマで、100人程度の方に集まっていただきました。

さっそくなんですけど、登壇者のみなさまにお聞きします。最近、機械学習を中心に人工知能が注目されています。

そのような中で、機械学習を用いる前と用いた後で、自分の研究あるいは普段のプロジェクトにどのような変化があったのか。では順番に、海津先生から。

海津裕氏(以下、海津):どのような変化があったかというと、まず私は大学教授ということで、農学部の教員をやっています。農学部は工学部と違って、プログラミングの授業も少ないですし、電子工学の知識がけっこう少ないんです。

最近この機械学習を始めて、何が一番よかったかというと、学生が自主的に興味を持って、スイスイ始めるところだと思います。

例えば、今まではプログラミングにしても、我々教員側がいろいろな機械工作など、ある程度の施設を準備してやらなければいけなかったんですけど、AIの場合、ネットにいろいろな先生方の情報が載っているので、それをダウンロードして、みなさんはよくご存じだと思うんですけど、自分たちで「Python」などの簡単な言語で進めることができる。そのような効果があるということがまず1点。

それから、我々の農学分野では、機械学習を応用できる場面が多いということで、わりとすぐに成果が出やすいということが大きな点かなと思っています。

須田:農業機械の分野はすぐに成果が出やすいとのことでしたが、都市計画はそうでもないんじゃないですか? 羽藤先生はいかがでしょうか?

(会場笑)

羽藤英二氏(以下、羽藤):僕自身は、都市や社会基盤の研究をやっています。わかりやすい例で言うと、首都圏の鉄道はどこからどこに行くと一番人が乗るか。あるいはそれが事業的に成り立つかどうか。あるいは駅前にビルを建てるとどれくらいの人がどのように来るか。あるいはその人はこのような経路で中を通るから、周辺の街が衰退するとかしないとか。

そのようなことを、スマートフォンの位置データに基づいてデータを収集して、そのデータに基づいて、どのような因果要因が効いて、どのように人が動いているかをモデリングして、計画するということをやっています。

杉山先生は基礎研究をやられているのでおわかりだと思いますが、そのような研究は時々、非線形で変化することがあります。

なので、我々の分野においても、鉄道を整備をする、ビルを建てるということは、もう50年100年くらいずっとやり続けている仕事なわけです。

そして、その計画作りはどのように行われていたかというと、紙のアンケートとか、それから目で見た感じとか(笑)。

(会場笑)

AIの計画論のほうが強くなる可能性がある

羽藤:100年くらい前にどうやって道路を作っていたかというと、道路の脇に立って、牛や馬がどのくらい通るかを数えて、量が多いから道路を作る、ということをやっていたわけです。

そして、大正時代に「道路交通センサス(道路交通情勢調査)」ができてから、道路はものすごく計画的に作られるようになりました。「測る」という行為そのものが、ものすごく非線形な変化だったわけです。

最近起こっている変化は、この50年くらいでコンピューターの性能がだいたい10億倍くらい速くなっているので、ものすごく大規模な計算をできるようになりました。

以前は、首都圏レベルで一人ひとりの位置データをベースにしたシミュレーションは難しかったのですが、スパコンを使って、技術計算である程度できるようになってきています。

2つ目の変化は、人の位置データをダイレクトに扱えるようになりました。ただし、これを機械学習を使ってモデリングして、都市空間を評価するところまでは届いていないように思います。

現在は、相変わらず古いモデルでアンケートに合うように位置データを置き換えて分析するようにしているのですが、AIあるいは機械学習の理論が展開していった時に、おそらくAIが解けるように問題を考えていって、そこから改めて計画論を組み立てることができるのではないかと思います。

人間が判断しているから投資の目が曇るとか、リスクをかなり強く認識したり、ゲインすることと非対称な関係があります。

AIはそのようなことに対して恐れがないので、AIが組み立てた計画論のほうが強くなる可能性がある。まだそのような非線形の変化は起きていませんが、僕は次の変化として期待できるのではないかと思います。

須田:ありがとうございます。今、仁木さんが頷いていらっしゃいましたけれども。

仁木勝雅氏(以下、仁木):私が今頷いたところは、「人間が判断しているから投資の目が曇る」というところです。

我々DEEPCOREは、起業家を育成して、スタートアップに投資し、社会を変えていきたいと思っています。

羽藤さんがおっしゃられたように、(投資には)実際に人の目でしか見られないところと、感覚値があると思います。そこの部分を(機械学習によって)一緒に変えられたと、すごく同感させていただきました。

羽藤:発見のところが、機械学習はめちゃくちゃ強い。データマイニングを人が勘でやると、確かに鋭いところがあるんだけれども、やっぱりデータから直接知識を引っ張り上げるというのは膨大な手間です。都市空間の中で動いている行動を解析するというのは、やっぱり機械学習の大きな可能性だし、まだ届ききれていないと思います。

機械学習が組み込まれるまでの歴史

須田:そういった意味では投資と都市計画と似たところがあるということでしょうか。杉山先生いかがでしょうか?

杉山将氏(以下、杉山):私はもともと修士の頃からずっと機械学習の研究をやっていますので、最初からしかなく前とかないんですが。我々自身は基礎研究をやっているので、パートナーがどう変わったかちょっと考えてみます。大学院に入ったのが1997年ですので、その頃は研究生でパートナーなんていない、基本的に誰も機械学習なんて興味がなかったので無視されていたんですね。

それがしばらく続いていて、2003年か2004年になって、日本でもいわゆる家電メーカーとか大手の会社が機械学習をやるようになりました。そういった会社と共同研究が始まったりしましたので、当時は直接実際のサービスを作るというレイヤーにはまだまだ遠くて。

機械学習を使って文字を認識しようとか、画像を認識しようとか、音声を認識させようとか、言語を理解しようとか、そういう応用でも基礎のほうです。そういう研究をいろんな会社でやっていた状況で、そのあとそういう技術が徐々に進んでいって。

2010年代になったぐらいですかね。都市計画とか工学とか、本当に社会に近いところとかで本当に機械学習の技術を使って実際に使うという話になって、我々もそういったところからなので、そういった意味では試験でもちろん技術は進んでいるんですが、社会の浸透的にはじわじわときているのかなという気はしますね。

須田:パートナーが基礎研究をやるパートナーだったのが、応用の分野になっていったのはどういう理由があるんですか?

杉山:使えるようになったからというのは間違いないですよね。90年代後半はまだまだ理論が少ない、遊びでやっているだけと思われている節はあったんですね。それが実際の問題になってきて、やっぱりアメリカでその頃、GoogleとかMicrosoftの研究とかいろいろやっていましたので、それが日本にもじわじわと届いてきたんですよね。

都市交通シミュレーションに見る、機械学習の問題

須田:都市計画のジャンルは90年代はぜんぜん機械学習みたいな話はなかったんでしょうか?

羽藤:そうですね。僕らの分野だと、都市を計画する際にコンピューターを使うという概念はあったんですね。それが最初に起こった変化というのは冷戦が終結して、ようするに原爆や水爆のシミュレーションをやっていた連中が、ビジネスコンバージョンで民間に転換していく過程で、計算技術を使って一番ニーズがありそうな、解決したらいい社会問題ってなんだとなった時に、都市交通シミュレーションというのがありましたね。

ということで、連中が帰ってきて計算をまわすようになるんだけれども、さっきの投資の話でいくと、現実の市長であるとか、投資家レベルでみた時にその計算は充分な結果を出すことが90年代はできなかったんですね。それによって、ある種計算はできるんだけれど、撤退していくという現象があの時点では起きた。

今起きている変化。一方、自動運転みたいな技術は画像処理系の技術で、問題をかなり絞っているわけですよね。レベル1・2・3・4……って。その絞った問題に対して適応させるようなアルゴリズムというか、そういうものがマッチしたところは技術的に伸びていく。

だから、その都度その都度、時代時代で解くべき問題があるんだけれど、それに技術がマッチしているか・してないかというのが、機械学習の時でもあるんじゃないかなと思います。

須田:解くべき問題に対して、技術とマッチしているというのは、具体的にはどういうところですか?

羽藤:全体の東京都市圏の人の動きって計算できたら「すげーおもしれぇ」「見てぇ」と思うじゃないですか。計算のスケールだけ合わせればできると思う。だけどやってみたんだけど、ぜんぜん合わない。計算はできるんだけど合わない。ということがたぶんミスマッチ。

でも画像処理で、ようするに例えば自動運転の信号機があるとか白線があるとか、前の車との車間がどうだという問題に限定すれば、画像処理でディープラーニングで距離までは検知できる。それは問題がちゃんとセットできている。

その都市シミュレーション全体をいきなりやるのは、規模が大き過ぎる問題の設定だったんだけれど、自動運転の画像処理そのものは、ある程度は問題はちゃんとセットできている例なんじゃないかなと。

杉山:問題がちゃんと解ける形になっているかどうかが大事ですね。さっきの信号とかの認識であれば、学習でちゃんと問題が書けるわけですよね。シミュレーションの方はゴールがよくわからないままシミュレーションしないといけない状況ですので。それはある意味機械学習の問題ではないわけですよね。

羽藤:確かに機械学習の問題になってないんです。何を学習すべきか、学習すべき教師データとは何か。それは十分機械が学べるにあたるようなかたちで正規化されたデータとして蓄積されているかという、そのもろもろのところがセットされていなかった。

機械学習の応用で訪れる未来

杉山:今シミュレーションするのが大変なので、シミュレーションの結果を機械学習が予測するのが逆にやられているんですね。そうするとサーバーでがんがんデータを入れなくても、最初にちょっとやっておけば、間は全部俯瞰できてしまうというのが可能になってきてるんですね。

(会場挙手)

須田:どうぞ。

質問者1:今パッと思いついたのが、どこをAIにすればいいのかがちょっとわからないんですけど、例えば交通量調査みたいなことで、その駅を使う人数はデータとしてすぐ出ると思うんです。じゃあ年代別でもっと細かくいったらどういう層が使っているか、もっと年齢別にしてデータを出すことはAIでできますか。

羽藤:それはたぶんデータの問題な気がしますよね。だからデータ、ようするに教師データの話があったんですけど、ちゃんと年齢付きの教師データが、ある都市空間の中でどういうふうに動くかがセットされていれば、そこから学習できるので、日々上がってきている年齢が付いていないデータから、人がどういうふうに動いているか推論して得ることができる。

杉山:もう1段先を考えないといけなくて、画像があって、例えば男性が何人女性が何人か認識する問題がでてきますよね。認識できたからといって、都市計画の問題が解けるわけではないですよね。認識した結果がやっと、実際の問題を解くためのスタートとなるデータが集まるわけですよね。

羽藤:ここね、たぶん何ステップもあるから、僕はそれを端折って言っちゃっているんだけど。

杉山:プロの応用の方はちゃんとやっていて、我々基礎の人は認識して終わりなんですね。あとは応用の人、お願いします。

羽藤:だんだんAIにできることが増えてきているけど、それが完全じゃないから、人間が関わるところがある。だから年齢が上がったとして、20年後に高齢化が進むと、高齢者の人がそこの町に来るようになるのか。「その人は脚が弱くて回遊範囲が狭いから」となって、道路の信号のステップ数を減らすと回遊距離が延びて、こっちのビルに来るようになるな。ということです。

質問者1:僕はけっこうそこらへんをイメージして今質問をしていて、その年代別とか年齢層の細かいところまでわかれば、ビジネスにもっと活かせるのかなという気がして、1個思いついたのがそれだったんですけど。

羽藤:そういう関数をつくれば、関数の説明変数を都市計画的に変えることで、来る人がどれくらい変わるのかというのは予想できます。では、その計画をするのに必要なお金は、そのビルあるいはプログラム、あるいは空間を作れることで得られる収益にたいしてバランスがとれるか、とれるのであればそれは投資に値する。

という判断ができるようになってくる。そういうふうに流れていくのは単純な言いかたですけど、そういう可能性はあると思います。

都市計画的な施策を評価する動き

杉山:それが研究としてはホットなところで、現実世界に介入して良くなるかどうかを知りたいわけなんです。具体的にはA・Bテストがあってグループをランダムに2つに分けて、片方にはなにかをしてあげて、片方にはなにもしない。結果がどうなったかをみれば、本当に効果があったかわかるわけですが、都市計画で介入するには1回しかできないので両方のデータがとれないんですよね。

そういう状況でやるから、介入した結果こうなりましたとなるけど、しなかったらどうなるかわからない。逆にしなかった時はこうなるというのを、介入したらどうなるかわからないという状況で介入効果をちゃんと予測できる。実はけっこう流行っているんですね。

羽藤:チェンジのデータをとるのが難しいんだよね。世界中にいろんな都市があるから、例えば駅から街が非常に近いところと、伝統的に中心市街地から遠いところに鉄道が外装された街では都市の構造が違うから、その都市構造が違うところで位置データをとると、人の動きかたが違うから。

じゃあ駅と街を近づけるようなことをすればどうするとか言えるんだけれど、それはあくまで差異に基づいたものなんですよ。だから杉山先生が言われたように、A群B群で違うことをやると行動がどう変化するかという行動データじゃないので、そこがまたもうワンクッションあると。

質問者1:最初の壁がけっこうでかい……。

羽藤:そう。最近はそういうの実験的な社会施策がけっこう流行っています。例えば、今中心市街地の道路空間がものすごくダメになってきているから、車なんも走らなくなっているので、歩行者のための空間に全部切り替えますということをやっている。でもそれをいきなりやると怒られるから、とりあえず社会実験をやってみる。

車を止めてみる。そうすると人がどう動くのかが変わるわけですよ。そうすると、その時のデータを使って、それを本格的にやったらどうなるだろうとか、周辺部の裏道にもどういう効果があるか、でも車の影響は出ないのか、みたいな関数が作れることになってくる。

そういう社会実験とデータ、学習で都市計画的な施策を評価する動きが今進み始めている。それはこういうデータが、かなりリアルタイムでとれるようになってきているのが大きいと思います。

自動運転の社会実験は進められるのか

仁木:そういう社会実験を大々的に行っている日本の公共団体はまだないんですか?

羽藤:どうですかね。例えば自動運転の社会実験は、みなさんご存じかもしれませんけど、昨年度だと13個の地方のどちらかと言うと農村の道の駅を中心にしてやられていますよね。だから……関係者がいるとちょっと面倒くさいんですけど……。

(会場笑)

羽藤:情報技術とか通信の技術は、空間とはある種切り離されているんだけど、実際に都市にインストールしようとすると、それはまあお年寄りはめちゃめちゃ不安なわけですよね。それを説得して、どぶ板でまわらないとその社会実験はできないんです。

だからそこのところをやれると、そういう社会実験はできてきます。自治体でもそういう健康医療福祉だとか、あるいはそういう自動運転の社会実験だったり、あるいは都市空間の使い方を変えるみたいなことに関心があるところがけっこう増えてきていますので、そういうどぶ板的な合意形成も含めてやっていこうと。

それでデータをちゃんととって都市計画的なことをやろう。というような空気感は今けっこう出てきているように思います。

杉山:今政府の中にもそういうのやろうという動きが出てきて、経産省とかもサンドボックス制度と言って、この場所ではこういうことやっていいですよというのを許可しようとしていますね。お台場で自動運転やっていいとか、すでにそういうのありますよね。

須田:実験ができるようにするために、規制の砂場は大事だということはいいますよね。

羽藤:エビデンスベースドで施策が行われていない。だから補助金とかいろんな制度はやられているんだけれど、その結果としてどういう効果があったのか、やられてないところは効果がなかったのかが、エビデンスとしてメタなデータが貯まっていない。どの施策をすればどういう効果があるのかが、専門家のレベルになればなんとなくはわかるんだれど、それが定量的なレベルには落とし込めていない。

それが今は教育だったらヘックマン効果という、幼少期に教育していたほうが結局効果が高いから、同じお金なら大学以上の教育よりも幼児教育にお金を入れたほうが効果があるよ、みたいなことがあるんだけど。ヘックマン効果というアメリカでそういうことをやっていて、体系的にデータをとってわかってきてるから、そうしましょうとなっている。

体系的なデータを積み重ねていって関数を組んで、どういう施策が社会施策、都市計画として効果的なのかをやっていくような、政府レベルの空気感はあるんじゃないかな。

須田:私も思います。

日本の強い部分は「探せばちゃんとある」

質問者2:データをとるところがなかなか難しい業界全体の課題があって。とくに中国は、データもとりやすく、解析し放題で、1,500人のPHPがいて6,000枚のGPU学習データが20億円もの開発資金も兆単位でやっている中で、その中で日本は規制があったり、個人情報保護法があったりして、非常に今後厳しい状況になってくると思うんですけど、杉山先生はそこをどう打開していこうと思っていますか。

杉山:私が1人でやるみたいですね?

(会場笑)

「教えてください」という感じがするんですが、中国とがっつり組んでやるのはもう大変ですよね。そもそも人口もぜんぜん違いますし。おっしゃるとおり予算も違います。そういう意味では我々基礎技術に関しては、いわゆる教師付きのビックデータがなくても、ちゃんと学習できるような技術を作ることを、ここしばらくやっているんですね。

それは実はかなりのところまでできていて、けっこう実用的になっているので期待しているんですね。そういうのを使えば、全部教師付きでなくても1部だけ情報が付いているようなデータさえたくさんとれれば同じくらい学習できる。理論的には保障できるんですね。

そういう技術をもってくれば、データがあんまりとれない分野でも、もしかしたらこれから機械学習の技術が活用できるかもしれないという気はしますね。

質問者2:アメリカとか中国のようにデータがないなかで……。

杉山:いや、ないことはないと思いますね。

質問者2:量的に……。

杉山:分野によりけりですよね。購買情報とかは中国が全部とってしまっているので、それは世界のどの国もかなわないですよね。日本は例えば医療の情報とか、病院がずっとため込んできているものがありますし、良いデータはあるところにはあるんですよね。全ての面において中国やアメリカと勝負するのは、ちょっとナンセンスな気がしますが。

やっぱり日本が強い部分は探せばちゃんとあるわけですよ。我々としてはそういうところをしっかり見抜いて重点化していくことが大事かと思います。

須田:今、医療の話がでましたけれど、実際機械学習をなんのデータに当てはめて活用していくのかが重要だと思ってます。今ここで海津先生には農業分野ではどういった活用があるのか、どういったデータがとれるのかをお話しいただいてよろしいでしょうか。

海津:機械学習の基礎的な話とはだいぶずれてくるんですけど、私がやっているのは農業工学という分野でございます。ここで1つだけ宣伝させていただくと、東大前の近くにハチ公の像が何年か前にできたんですけれども。

あのハチ公は、『ハチ公と上野英三郎博士像』という像で、我々農業工学のずーっとずーっと昔の始祖、始められた明治時代の先生の像でございます。それ以来農業工学というのは……。これ宣伝です。すいません。

(会場笑)

農業工学は、例えば水田の圃場整備といって、今水田というのはかなり四角くなっているんですね。きちんと整備されて用水路があって、そういうきちんとした形に整備されていますね。そういったことをずっとやってきた。

農業機械の機械学習はどこまで進んでいるか

海津:それから私がやっている部門は、農業機械という分野です。農業機械という分野はみなさんあまりご存じないかと思います。かなりニッチな部分なんですけど、みなさんの食べるお米であったり、野菜だったりを作るのに非常に重要なところでございます。すいませんなんでしたっけ?

(会場笑)

須田:とくにどういったデータが集まるか。

海津:そうですね(笑)。我々の分野で進んでいるのは、トラクター、農業機械の自動運転とか。これは20年ほど前からもうすでに、トラクターには自動車でいうカーナビのように実装されています。

農業機械は進んでるのかと思われるかもしれませんが、これはまた違う話でございまして、農業の場合は上が開けているのでGPSがいつでも使えるんですね。GPSが使える状況で、さらにGPSのなかでも、RTK-GPS(リアルタイムキネマティックGPS)といって、数センチの単位で計測ができるものがございまして、そういったものを使うと、正確に自動運転をすることができる。

自動運転している間、農家の方は夏の売り上げの計画について考えたり、そういうことをするわけなんですけど、それがアメリカ、欧米でけっこう進んでいると。

ただ、日本に置き換えてみるとどうか。日本は中山間地と呼ばれる山間のところとか、かなり圃場(ほじょう)が小さいようなところですと、GPSが入らない、正確じゃないところもございます。そういったところで、人の目に変わる画像の認識というツールの応用として、AIがかなり期待されていると考えています。

須田:走行のための画像認識。

海津:そうですね。それからもう1つは、これは伝統的にやられているんですけど、リモートセンシングという分野がございます。リモートセンシングというのは、人工衛星がグルグル回って農地の画像を撮ったり、普通の画像だけではなくいろんな周波数の情報をとったり、そういう技術が確立されています。

今まではずっと、昔からある統計的解析方法を使って、この部分が農地でよく熟れた麦の圃場であるとか、ここはまだ収穫できないなとか、ここはあんまり出来がよくないといったことを一生懸命分類していたんです。それも今後、収量調査とか収穫のピッチ判断とか、そういったことをAIの入力としてのデータとなってくると考えております。

須田:例えば畑やトラクターにセンサーを付けて、実り具合を見るということも行われているんですか?

海津:そうですね。いろいろ考え方があります。どれが効率的かということですね。もちろん人がいちいちそこに行って、データをパッととればそれが一番正確で、なおかつ確実なデータなんですけど、畑の中にずーっと行って、とるというのはなかなか難しいですし。効率的にとるということで、昔は人工衛星だったんですけど、そのあと飛行機になりまして、今はドローンですね。

ドローンだと各家庭、各農家で1台持って、それをバーッととらせるわけですよ。自分の畑の状況が一目瞭然にわかるということです。あとはドローンに付けたセンサーからデータをとることで、データがどんどんあがってくるようなものになってくると思っています。

須田:もしかしたらなんらかのプロジェクトで、機械学習を使ってますってかたいるんじゃないかと思うんですけど、実際にどういうところで集めたデータで、他にこういう例を知っている方はいらっしゃいますか?

干し柿の生産問題を機械学習が解決?

海津:言い忘れた。もう1つやっているのがあって(笑)。これは柿なんですけど、普通の柿と違って、干し柿を作るための柿なんです。これは塩ビの見本なんですけど(笑)。みなさんにも考えていただきたいんですけど、実際にこれでどうやって干し柿を作るかといいますと、まず皮の部分を全部クルクルクルッと剥いて、ヘタの部分をフックで引っ掛けて干すんです。

よく田舎の風景で、干し柿がたくさんつながっている風景ってありますね。ああいうものを作るわけです。ただ、おじいちゃんおばあちゃんの食べ物と思いきや、実は「干し柿って美味しい」と非常にプレミアムが付いております。

柿って、他の国にはあんまりないみたいなんです。中国韓国だとあると思うんですけど、ヨーロッパにはあまりない食べ物で、なおかつ干し柿の形にすると、生鮮食料品ではないので輸出もしやすいと。だから作れば作るほど、本当は売れるらしいんです。

でもあんまり作れない。なんでかというと人手が足りないから。我々は長野で共同でやっているのが、この干し柿をさっき剥くと言ったんですけど、剥く機械はすでにあるんです。ですけど、剥く機械に正確にセットしないと、機械がクルクルクルッと剥いてくれない。

ということで何をやっているかというと、機械学習を応用して、この柿の三次元形状を認識し、適正な場所にしっかり置くという研究をやっております。ただこれかなりコロコロしてますので、だいたい機械屋さんに言うと「そんなの簡単だろう」と言うんですよ。「水に浮かべるとプカプカ浮いて、ちゃんと揃う」ってそんなことないんですよ。

(会場笑)

あとは「コロコロ転がせばいいだろう」とか。よく機械の部品の工場なんかに行くと、振動させると部品がパッパッと揃っていく機械があるんですけど、それも無理なんです。やはり人間というのはなかなかたいしたもので、正確にこの柿の形とヘタの位置を認識して置くことができる。という入力データとして、こんなものを使っています。

私が考えたわけではないんですが、学生さんがよく考えてくれて、このヘタの4つの切れ目の部分を特徴量として入力してやる。そのあとに、いろんな形のヘタを入力させて、強化学習データを使ってやるとみごとに切れ目の部分を認識してくれると。

問題は柿のヘタは、曲がっていたり、大きかったり小さかったり、ちょっと黒目だったりします。そういったものについても解析結果を出してくれるので、非常にありがたく使わせていただいております。

機械学習を応用すべき分野とは

須田:おー。今機械学習を実際にどういうところで活用しているか、とくに画像認識のお話しをうかがいました。海津先生ばかりで恐縮なんですけど、むしろ機械学習を活用したいのにできていないのは、どういったものですか。

海津:先ほど人の動きとかもありましたけれども、農家のかたは自分が明日なにをしたらいいのか、この作物についてはどういった処理をしたらいいのか、どんな栄養を与えたらよいのか、いつ水をやったらいいのかをたぶん知りたい。

それがAIが一番求められているところじゃないかと思うんですけど、いかんせん農作物というのはトマト、きゅうり、みかんなど、いろいろありますけど、それぞれがさっき言ったように、人間の行動みたいなものなんです。たぶん人間、火星人、金星人みたいな感じで、いろんな人間がいるものに対して対処しないといけないということですね。

入力と出力の関係を見るのが、たぶん難しいんじゃないかと思うんです。ですので将来的にはそういった各作物、自分がみている作物に関して適正な処理をする、作業をするということ、それをサポートすることが非常に必要だと思うんですけど、現状をみたらまだ難しいんじゃないかと考えております。

杉山:あと1つだけ興味があるのが、我々のところにいろんな案件が持ち込まれて、トマト屋さんが来たり、きゅうり屋さんが来たり、りんご屋さんが来たり、みんな悩んでるんですね。それがなかなかスケールしないわけです。それぞれ研究室があって、そこに学生さんがいるのでちゃんと卒業できるようにテーマをつくらないといけない事情もあるので、あんまりまとめるところにならないんですよね。

我々は現場を知らないので、それぞれどんなことに悩んでいるのか、抽象化してみようとしているので、それらに共通して使えるものを考えるという癖は大事です。今のところ残念ながら、それはうまくできていないと思うんです。農業工学の世界であればいろんなものをまとめて全部に使える技術というのを今後作るようにしないと、やっぱりスケールしないかと思うんですよね。

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