もともとはただのパソコン少年だった
西村賢氏(以下、西村):なるほど、ありがとうございます。じゃあ少し僕も自己紹介を。さっきの「なりたくてなったんじゃない」っていうところで言うと、僕も別に、編集とかライターとかになりたかったわけではなくて。僕は子どもの頃から、書くのは得意だった認識があるんですけど、基本は単なるパソコン少年というか、オタクですね。新しい未来が見えるのが、おもしろいなとか。
そのうち、それがどうもリアルなビジネスに結びついていくぞっていうことで、最初(に興味を持ったところとして)はパソコン雑誌の『月刊アスキー』があったんですけど。当時はもっと趣味とか、ギークのおもちゃだったんですね。本当に世の中の役に立つわけでもないし、あんまり僕は役に立つとは思ってなかった。少なくとも、子どもの頃は思ってなかったですね。
それで、そこでずーっと「ブロードバンドがくるぞ」とか「インターネットがくるぞ」とか、「世の中がすごく変わりそうだな」というので、僕は興奮していて。でも、90年代後半からどんどん法人が(コンピューターを)使い始めたんですね。僕、それにずっと気づいてなくて(笑)。
それであるとき、目の前でパソコン雑誌のマーケットがシュリンクして、当時は競合が45冊とか、50冊近くあったんですね。(それなのに)マーケットが目の前でバーンと消えて、「俺の人生もシュリンクした」という感じになって。傷心で、ちょっとアメリカに行ったりしたんですけど。
そのあと帰ってきたら、「エンタープライズ」っていうものがあると。HPとかIBMとか大きい会社が、コンピューターを使っていると。そこにはすごく大きな10兆円(規模)のマーケットがあるというので、僕はエンタープライズの取材をして、そのうちエンジニアに取材をするようになって。
イベントと原稿を書くことは似ている
僕はオタクだったから、エンタープライズと技術を比べると、技術のほうが向いていたということで、そのうち自分でも個人や会社でサービスを作ってみたり、そういうことをやってきた感じですね。
だからそういう意味では、本当にずーっと、単なるオタクだったっていう感じですかね。Googleとかがすごく好きで、Google I/O(年次開発者向け会議)へ毎年取材に行ったりするときに、その横でシリコンバレーの取材をして。
当時はどんどんスタートアップが出てきていて……実は僕、Airbnbの創業者の2人に、2009年にサンフランシスコでインタビューしてるんですけど。それで、「この人たちは、一体なんなんだ……?」っていう感じになって、スタートアップの取材記事をいっぱい書いてたんですね。
それが元になって、TechCrunchから声がかかって、「今度日本でTechCrunch Japanをちゃんとやるから、編集長やんない?」って言われて、やったっていう感じですかね。前職はアイティメディアっていう会社だったんですけど、アイティメディアとかTechCrunchで、ちょっとイベントビジネスが出てきた。
イベントビジネスの拡大背景には、マネタイズに困ってたっていう文脈があります。広告がうまく回らなくなってきてたりして。いちばん調子がよかった時って、エンタープライズ系の記事だと、2,000文字の広告記事を書くと、200万(円)で、2,000PVみたいな。すごい単価ですよね(笑)。
僕は、文章を書くのがけっこう好きで、自分の中ではライターだとかブロガーだと思ってるんですけど。こういう(今日のような)パネルやイベントをやったりするのは原稿を書くことに似てるなと。先に素材を聞いといて、ポンポンポンと時系列に置いていくことって、原稿を書くことに似ていて、僕はこれも「編集だな」と思ってますね。
コンテンツの予算があることが最大のインセンティブ
実はその頃、2014に、受託事業として1回オウンドメディアの立ち上げも経験しています。事業会社からの受託でオウンドメディアをやると、予算もちゃんとありますよね。ライターに発注してよい仕事ができる、いいかたちですね。そういう意味で言うと、やっぱりコマーシャルメディアが、いろんな意味でけっこう苦境で……よっぽど新しいことをやらないと、苦しくなってるんですよね。TechCrunchは別に黒字だったからよかったんですけど、全体的に苦しくて。TechCrunchは広告記事をやらないので、なおさらでしたね。
何が起こってるかというと、アメリカでもそうなんですけど、例えばCNETで名物の編集者だった人が、ある日気がついたら、インテルでオウンドメディアをやってたみたいなことがあって。それが2011年、2012年ぐらいからわーっとあって、なるほどなと。
僕らがオウンドメディアの仕事をしたのも似たような文脈で、本業だけで食うのが大変だった時期があったんですね。
編集者とかコンテンツを作る側からすると、オウンドメディアにいく最大のインセンティブは、ちゃんとコンテンツの予算があること。経営がトップダウンでやるって決めてるから、例えば年間で1,000万使うって言ったら、1,000万なんですよね。
これは、大赤字を出していいわけじゃないけど、別に「必ずしも、そこで儲けろ」っていうことじゃないよと。もともと本業があるから。「(本業との)シナジーなんだ」っていうのでやってるところがあって。受託で回す「『オウンドメディア事業』っていう、1本柱を立てたほうがいいんじゃないか」という提案を会社にしたこともあるくらいでしたね。
伝える方法はなんだっていい
僕、いまのフリーランスがすごい気に入ってて、いろんな仕事を自由にできるし。ただ、「会社を辞めた」って言ったら事業会社からいっぱいお声がけ、お話をいただいて。僕にコミュニティマネージャーみたいになってほしいっていうのがいちばん多くて。こういうイベントやったり。
要するに、みんな可視化したいんですね。自分たちはいろいろ出すもの持っているのに、真ん中に立って「ここにいるよ」って旗を立ててやってくれる人っていうのがいないっていうことで、僕に「ブログ書いて」「YouTubeやって」とか、そういうお声がけが多くて。
それで、ちょっと今日のエディターの話をすると、僕はずっと文章を書いてましたと。僕だいたい文章長くて、長いと1記事2万字とか3万字なんです。
だけど、別になんでもいいんですね。僕はよくチームメンバーにも言ってたのは、例えばTwitterやソーシャルだと、10秒ぐらい動く無料の動画に文字を載せるのなんかがすごくいいんですよね。そういう新しい表現形式が出てきているときに、「真っ先に取り入れないのってなんでなん?」と。
プロなんだから伝える方法なんて別にどれだっていいと。だから写真も勉強しろよと。「なんでお前、本を買って読んでないの?」みたいなことをいつも言っていて、まぁ一眼レフを買わなくてもいいけど、少なくとも写真の入門書を1冊読めば、それまで30点〜40点だった君の写真が60点になるんだからやろうよとか。
イベントもそうだし、掲示板のサービスを作るのもそう。そういう意味では、なんか編集って言われているものがあったときに、その表現形式やかたちはいろいろあるんだろうなと。
そういう意味では、メディアって、こういうイベント、場もメディアだし、IRとかコワーキングスペースとかもメディアですよね。
コミュニティの形は、ネット時代でも変わっていない
僕、紙の雑誌をずっとやってたので思うんですけれども、昔は読者ハガキという……こんな話は本当おっさん臭くて嫌だなと思うんですけど(笑)、雑誌の下のほうに「読者投稿」がどのページにもあったんです。最後のほうのページにもあったりするじゃないですか。あれって本当にコミュニティで、ネットになってもやっていることが変わってないですね。
僕がいた月刊アスキーだと、インターネットがまだなかった時ですら、「未来ってこっちになんかすごいあるよね」って言ってる人が読んでる姿が紙の向こうに見えたんですよね。そういう共同幻想みたいなものが、僕は媒体の価値なのかなぁと思っていて。
丸山裕貴氏(以下、丸山):僕も大学生の時に、文藝春秋にアルバイトに行っていて、読者ハガキを整理する仕事をやってたんですけど、やっぱりインターネットがない時って、そこしかおそらく接点なかったんですよね、読者と。
西村:そうそう、ハガキね。
丸山:だからインターネットが出てきて、それはなんか、ハガキっていう文化がだんだんネットに入ってきたみたいなところがあるんですか?
西村:そうですよね。だからそもそも、もっともっとすごい古い話をすると(笑)、きっと500年前にできた活版技術っていうのが革命的で。
それまでオーラルコミュニケーションぐらいしかできなくて。それが本で時代や場所を超えてつながった。雑誌って今は市場縮小が激しいですが、日本全国トラックで配送すればつながっちゃったっていうはすごかった。それが今度はTCP/IPっていうか、インターネットでつながって、劇的にもう変わってきたと。
時代のコンテクストを読むのが一番大事
ただやっぱり人間の活動として、コミュニティみたいなものの本質はあんまり変わってなくて。そこでどういう人がいればいいかっていう時に、「編集者」って呼んでた何者か、文章が上手に扱えるのもそうかもしれないけれども、交通整理ができる人がいたんだと思うんですよ。この人が「おもしろい」っていう素材を集めてくる。
そのためにはものすごいコミュニティに入っていって、みんなが共有してる価値や文脈を理解していること。あといちばん大事なのが「時代のコンテキストを読むこと」だと思っていて。この間の島田紳助の伝説の講義、ご覧になりました? いや、見ないとダメですよ、編集者は(笑)。ものすごいバズってたんですけど、みなさん帰ったら検索してぜひ見てください。1時間ぐらいしゃべってるやつで。
彼はお笑いの話なんですけど、僕がまったく同じだと思ったのは、コンテンツで「時代の軸」っていうのと、「その人の味」っていうのがあった時に、時代の軸、Y軸は常に変化してると。
一発屋っていうのはそういうのがわからずに、たまたまその軸がXにバツンと合っちゃった。だけど、ずっと売れ続けている紳助は、時代に今どういうものが求められているかっていうのに合わせて笑いを作っていってるみたいなことを言っていて。
エディターってコンテクストを読むことで、Webで今どういうタイトルでどういう記事を出したら炎上せずに波及するかっていうのを、いちばん肌で感じてる人たちなんですよ。なんでかっていうと毎日出してるから。毎日はてブやソーシャルでのバズり具合を見て「チクショー!」とか思ってる。誰かの記事がバズったら「俺だってこんな記事出せるよ」とか思いながら(笑)、やってる人だから。
素材はあるんですよ。素材をどう料理するかっていうのをいちばん敏感に感じてる人が、僕は編集者かなと……。ちょっと僕の話長くなりましたね、先行きましょう。
「出さない」編集もある
丸山:でも、次の話にもつながりそうですね。
松尾彰大氏(以下、松尾):楽屋での話でも「意味ないですよね」という話がありましたけど、まさに「X軸とY軸の交差点をどう整理するか」「アジャストしていくか」、むしろ編集って「出さない」編集みたいなのもあると思うんで。
今回のインハウスエディターみたいな企業内での情報発信や管理に携わる仕事をやっていると、基本的にやっぱり「このタイミングで出さないほうがいいよね」というものの判断の方が重たかったりするもの。「もしかしたら経営陣が黙ってたら出さないよね」みたいなことに対して、「これって絶対出したほうがいいですよね」というコミュニケーションをするっていうのが、なんかおもしろいポイントだったかなと。
例えば、メルカリグループで初めてクローズしたサービスで「メルカリ アッテ」っていうサービスがあったんですけど、まぁ当然、事前に社内で告知されて、これこれこういう理由でっていうことで。一次リリースとして、メルカンの「メルカリな日々」みたいなところで出したんですけど。
「メルカリ アッテ」は、メルカリの中で「ソウゾウ」っていう、新規事業を手掛ける会社が最初に手がけたサービスだったので、じゃあこれでもう「ソウゾウってやらないようなブランディングにならないかな」とか、これによって社内に対して過剰なネガティブな反応が返ってくるんじゃないか。
これを、せっかくメルカンっていうメディアがあるのになぜ発信しないのかとふと思ってたら、先にオープンチャンネルで「こういった企画をやりたいです」みたいなことをアッテのプロデューサーのメンバーが言ってくれて。
それだったらこういう文脈で、誰々と誰々が話してもらって、でもそれに対しては、ポジティブなメッセージなんだけれども事業会社としてやっている厳しさも当然あるというコミュニケーションをやって記事を出したんですよね。
なので、インハウスエディターっていうところで言うと「出さないものは出さない」「出したくない気持ちもわかるが、こういう文脈だったら出せる」みたいなイエス・ノーを判断して、それに対してケツを持つみたいなところが、けっこうでかい話になっちゃいましたけど……。
言わないことによるリスク
西村:ありますね、これは出すべきだと思う瞬間ってあります。こういうイベントに行って立ち話をすると、「今お話いただいたことを僕が書いたら、これ絶対300はてブですよ」みたいなことをしょっちゅう言ってるんですけど(笑)。編集者の目利きというか。
松尾:そうですね。
西村:素材が眠ってるのを見つけてくるみたいなところがありますよね。
松尾:なんか「言わないことによるリスク」と「言うことによるリスク」みたいな。もちろんポジネガ全部あると思うんですけど、いろんな前提があるなかで、アウトプットベースで考えてみると、オウンドメディア編集者の価値提示のも1つかなと。
西村:その「メルカリ アッテ」の話だと、ちょっと攻めな感じの投稿をしましたよね。
松尾:そうですか。
西村:アッテって1年ぐらい? 2年ぐらいやってたんでしたっけ?
松尾:そうですね、2年。
西村:でも、早い撤退って見えるし、「やっぱりダメだったんだ」みたいないろんなネガティブな反応が想像・予想される中で、自分からメルカリのアッテの担当者がバーンと出てしゃべってるみたいな。ある意味で「コントロールが効きすぎ」っていうのはありますよね(笑)。めんどくさい質問には答えなくていいとか(笑)。
松尾:あれをやってよかったなと思うのが、「なんでやめたんですか?」みたいな理由をやっぱりいろんな角度から聞かれて、それって「なんかこういうことがあったらしいよ」という伝聞のかたちで話さざるを得ないケースって多いと思うんですよね。
そうじゃなくて、会社として、これはこういう理由で嘘偽りない事実として当然全部言えるわけじゃないんですけど、言うべきことと気になることに対して、ちゃんとコミュニケーションをとって、コンテンツとして残しておくっていうことはよかったかなと思いますね。
編集者はひとりではなにもできない
西村:なるほど。ありがとうございます。丸山さん、これ質問が本当にでかいんですけど、今まで出てきたのでもいいですけど、できれば出てきてないところで「こういうのも編集と言えるよね」みたいなものってなんかありますか?
丸山:そうですね。さっき素材っていう話がちょっと出てきましたけど、編集者っていうのはコンテンツを作っている人たちなんですけど何も作れない存在だと思っていて。
編集って、「集める」っていう漢字があるとおり、いい素材をどんだけ集めて、それを整理して、いかにきれいに届けるかっていうことにいちばんこう、力を注いでいる行為だと思っていて。なので、1人じゃ何もできないんですよ、本当に。
自分よりも上手く書ける人はいっぱいいるし、自分よりも上手く写真を撮れる人はいっぱいいるし、デザインなんてできないし、コンテンツを作るっていう意味では基本的に無能な存在とも言えるぐらいだと思っていて(笑)。
でも「いい素材がどこに眠っているか」を見つけるのには長けていると思うし、「この企画を作るためにいい写真を撮れる人」は見つけることができるし、その人に「どうやって撮ってくれればいいか」をいちばん指示できると思っているし、それを「どういうところに届ければ反応が得られるか」の感度がいちばんある人たちだっていう自負はあって。
1人じゃ何もできないけど、そういうものを作る、集めるのにいちばん責任を負っている行為かなと思ってます。
西村:ちょっとプロデューサーっぽいですかね?
丸山:そうですね。プロデューサーにけっこう近いかなとは思いますね。
雑誌的な見方でコンテンツを考える
西村:プロデューサー、そうか。プロデューサーという言い方をすると、やっぱりオウンドメディアは良くて。紙もやられたのでわかると思うんですけど、Webメディアになって単価が10分の1になって、さっき言った「写真はこの人がうまい」とわかりつつも、もう自分でやるしかないみたいな。
僕はそういう波に飲まれて、結局「もう全部1人でやってこいよ」と。写真も撮るし、「通訳なんか付けれるわけないだろ、お前なんで英語今まで勉強しなかったんだ」みたいな(笑)、そういう時代の波にいた感じがするんですけど。
丸山:それは、たぶんいろいろやり方があって。最近「Webエディター」ってよく言うんですけど、それを一括りにするのって、あんまりよくないんじゃないのかなと思っていて。
Webがなかった時代っていうのが、僕は知らないんですけどあって、それってたぶん、雑誌作っている人もいれば、新聞作ってる人もいれば、本作ってる人もいれば、新書作ってる人もいれば、週刊誌やってる人もいればって、いろんなたぶん媒体があって、それぞれたぶん、ぜんぜんスタイルが違ってたと思うんですよ。
その人たちがわりと「Webもやんないと」ってみんなWeb立ち上げて、一緒に見えるんですけど、それはちゃんと注意深く見ていくと、けっこう違うなと思っていて。
例えば、最近のビジネスのメディア、ビジネスインサイダーさんやNewsPicksだと、浜田編集長はAERA出身ですし、佐々木元編集長、初代の編集長は東洋経済出身ですし、なんか見ているとその色はやっぱり見えるし、週刊誌っぽい作り方してるなっていう。
週刊誌っぽいっていうのは、たぶん1週間ごとに話題を拾って、この間ちょっと浜田さんもおっしゃってたんですけど、BNLで取材した時に「半歩先の情報を届ける」っていうのを意識してやってるって言っていて。
それを聞いたときに、WIREDはやっぱり違うなと思ってて。隔月で出してたので、半歩先だとちょっと短すぎて、もうちょっと未来の、何歩も先の情報を届けないと雑誌としては成り立たないなっていう感覚があって。
それはたぶん、Webメディアをその人たちが運営するとそれぞれ違ってきてるなっていう印象があって。
西村:あっ、ありますね。アイティメディアっていう会社にいた時に、新聞系と雑誌系といくつか出身に系統があって、明らかに文化が違って混ざってておもしろかったですけどね。アイティメディアは結果としては新聞文化がいちばん強くて、そういう意味ではまぁうまくいってますけど。
TechCrunchはわりと新聞を明確に意識してたんですね。僕は重たいインタビュー記事はやめようっていう話をよくしてて。雑誌のようなインタビュー記事はいいんだけれども、それはビジネスモデルに合わない。モデルが違うんだっていうことでやらなかったんです。でもいくつかありますよね、そういう意味では。週刊誌的な人が今Webに来たり、そういう流れがあるんですかね?
丸山:でも、週刊誌とビジネスメディアってけっこう相性が良くて、やっぱり「半歩先の情報」をみんな知りたいんですよ、ビジネスの人たちって。なので、NewsPicksやビジネスインサイダーってあれだけ伸びてるなぁって思って。その専門をやってた人たちが入ってやってるのでPVやっぱりすごい上がるし、みんな興味あるもの出せるしっていうところがあるなぁと思っていて。
一方で、僕は今日の話につなげると、オウンドメディアや企業の中でコンテンツを作るっていうのでいくと、わりと雑誌的な見方っていうのも使えるんじゃないのかなと思っていて。
「半歩先の情報を得る」っていうことは、けっこう体力のいるもので、今話題の人を取材するっていうことになってくるので、まず取材を取ること自体がけっこう大変なんですよ。
「今はこれだよ」と提案できる力の価値
西村:取り合いはありますよね。
丸山:それを時流に乗ってる間に出さなくちゃいけないし、しかもWebになると毎日出していかなくちゃいけないので、ベテランの編集者を揃えて、組織も大きくしてやっていかないと作れないかなと思っていて。それを事業会社の中でやるのはけっこう難しくて。
一方で、雑誌的な作り方だったら少人数でもできて、WIREDも5人ぐらいの編チームでやってたんですけど、別に今話題の人を追わなくても良くて、むしろ「あんまりみんな知らないけど実は価値がある」っていうか……。
西村:おもしろいとかね。
丸山:「おもしろい人」を見つけてくる。その人がなんで価値があるかというか、なんでおもしろいかっていうことを世の中に提案するっていうことかなと思ってるので。
そういう意味では、企業に置き換えると、「企業のメッセージ」や「企業が打ち出していきたい思い」みたいなものを世の中に「これが新しい提案なんだよ」って提案するのは、雑誌的な作り方が生きてくるんじゃないのかなと思って、今そういうのをやっています。
西村:なるほど。雑誌的なものが生きてくるっていうと、POPEYEの元編集長がユニクロに行ったみたいな。ここはけっこう大きいのかなという気はしていて、特に事業会社でECをやってるところとかね、編集者が入ると価値がある気がします。
もともとライフスタイルマガジンって、そこに写真があって、値段があって、ブランドがあって、電話番号があってって、これがこれまでネットになかったのがちょっと変なぐらいで。データベースから出した時の写真が時系列とか値段順に並んでるんじゃなくて「編集」的な見せ方をする。そこは流れが来そうな感じはしますけどね。
丸山:ライフスタイル誌ってまさにそれで、今みんながあんまり興味なかったっていうか、あんまり気にしてなかったようなトピックを、「今はこれだよ」っていうふうに提案する力があるなと思って。
西村:トレンドを作るみたいなね。
丸山:トレンドを作るって、まさにそういうものだなと思ってるので。やっぱりそういうことができる人たちがどんどん企業に入っていくと、新しい価値を生み出せるんじゃないのかなと思います。
ガチガチなルールを定めず、プロ感を出さない
西村:OCEANSとかファッション誌を読んでいたら、「OCEANSが広めたボードショーツ」と書いてあって、なるほどなって思いました。自分たちで毎月言うことによって、そういうファッショントレンドすら生んじゃうみたいなこともありますよ。
でも、それを読んでる読者は、自分はその一員で「俺はそれをはいてるぜ」みたいな。なんかそういうのはネットにまだ来てない感じはしますよね。僕の元同僚の編集者は、むっちゃAmazonに行ってますけどね。
丸山:そうですか。
西村:Amazonでカメラの特集ページを作ったりして。今編集者のマーケットが、そっちにある気がしますね。生き残り戦略というか(笑)。
西村:「インハウスエディター」から離れがちなので、次のトピックで。インハウスエディターとして、さっきの「出すタイミング」「出さない」とかありましたけど、他になんか気をつけていること、松尾さんはありますか?
松尾:なるべくプロにならないっていうこと。プロ感を出さないみたいなこと。ちょっと素人感を残すとかいうところは最初に気をつけてましたね。軌道に乗せるタイミングではかなり気をつけてました。
一応ガチガチに編集しようとすると、「メルカンっていうのはこういう温度感で、こういうルールに則って掲載します」みたいなことを決めるのって、けっこう簡単で、それに沿ってやってくれる人を増やせばいいみたいなところは存分にあるんです。とはいえ僕もすべての時間をそこに割けるわけではないし。
あと、自分だけが書かない。「最悪自分でも書けるし作れるからメディアやります」って言ってやったんですけど、とはいえいろんな人に書いてもらいたい。そうなったときに、その人の色みたいなものや、すべて名前が出るわけではないんですけど、色とか、ナチュラルな部分とか。
あんまり気取らないようなメディア、特に最初は採用に特化したようなメディアブランディングだったので、そういったところに気をつけながらやっているっていうのはありましたね。
メルカンに載せるコンテンツの考え方
西村:なるほど。伝統的なメディアだと、例えば文体統一や用語統一、用語用字からガッチリやりますよね。SEO的にも大事だという話がありますし。そのへんはむしろやらずに?
松尾:はい、最初はなるべく書く敷居を下げて、「これでもいい」みたいなことを。逆に僕も汚いかたちで書いちゃったりして出しちゃったりするっていうのは気をつけました。
ただ一方で、コーポレートブランディング的な側面として、例えばメルカリは「ユーザー」っていう言葉は使わないんですね。ワーディングっていうものにはきちんと気をつけて「お客さま」という言葉を基本的には使って、その統一性は担保しつつ、コミュニケーションしたりということを最低限やりつつも、メルカンっていうメディア上で載せるコンテンツとしては、そこまで気をつけない。
西村:なるほど。
松尾:「ガタガタ言わない」みたいなことはけっこうやってましたね。
西村:本当に「編集」なんだと思うんですよ。さっき言った「Y軸」ですけどね、時代の流れからいって、いまネットにかつてのメディアに書いた大上段の文体は合わないんですよ。でも、ビジネス誌って「戦国ものかよ、お前」みたいな芝居がかった大げさな文体で書いたりするわけですよ。合わないですよね。
松尾:それはやっぱり自分でも感じていたっていうのもあるんですよね。僕はけっこう「文章なんて誰でも書けるから」って言っちゃうような人間なんですけど。それはやっぱり企画がちゃんとしてて、伝えたいことがマッチしてたら、今の人たち、特にメルカリに行っちゃっているような人たちって、最低限文字ぐらい書けるだろうみたいな(笑)。
まぁ最低限編集はしますけど、そういうことをやっていってというのが1つ。それと読み手の状況として、多少の汚さみたいなものはぜんぜん許容できる社会になってきてるのかなというのはすごく感じているんですよね。
そこに過剰なコストをかけて、「本数が3分の1になりました、でもガチガチのコンテンツ作れます」みたいなものはあまりメルカンの目的に沿ったものは合わないっていう判断をして。なるべくカジュアルなものに寄って、堅いものは堅いもので書くという温度差をつけるのは徐々にやってたっていう感じですね。
説明できない、感覚的にいいと思えるもの
西村:みなさん、編集者ってこういうことが言える人ですよ。「いや、媒体っていうのはこうじゃなきゃいけないんです」っていう過去20年やってきたことを言う、そういう時代と違うことを言う人とかはまずい(笑)。
松尾:軽いことを書いてたら、逆にプロダクト側のプロフェッショナルな人たちに「なんでこんな汚い日本語のコンテンツをメルカリの名前で出すんだ」って言われたことはあります。
西村:まぁ、いろんな人がいますよね(笑)。理系だと論文みたいな文章が良いという感性もある。
松尾:でも、それは自分のフィールドを持ってるから、「いや、これはこういうメディアなんです」「こういうルールを守って、僕らとしてはこういうかたちでやっていきたいから、一旦言わないでくださいよ」ということで、本当にダメだったらガンガン言ってくださいみたいなことは言いましたけど。そういったことはけっこうありましたね。
西村:丸山さんはいかがですか? なんか気を配ってること。
丸山:これは松尾さんと対立するところだと思うんですけど、僕はやっぱりコンテンツでいちばん気を配っているのは、「いいコンテンツかどうか」っていうところで。
「いい」っていうのは、いろいろな解釈があるんですけど「なんか感覚的にいい」っていうものってあるなと思っていて。別に説明できなくていいかなと思って。
最近読んだ本に『リーチ先生』っていう、原田マハさんっていう方が書いた本があるんですけど、バーナード・リーチっていう陶芸家の人についての本なんです。そのリーチ先生が、器を作るわけですよ。それをみんなが見て、一言「好い(いい)」って言うシーンがあって。それ以上別に言う必要はない、みたいな瞬間があって。
「僕がやりたいのはこれだな」って思いました。なるべく多くの人に「これ、好い」って言ってもらえるようなものをいかに作り続けられるかが、いちばん気を配っているところで。少しでもそれが好いって思わなかったら、それをどう「好いって言えるようにするか」を考えるっていうことですかね。
西村:なるほど。
「これだったら出せる」と思えるまでは出さない
丸山:たぶん「好い」にはいろいろあるなと思っていて、それはさっきの話にもつながるんですけど。例えば、ブログメディア的な作り方ももちろんあって、昔いたGizmodoがまさにそういうところで、「いかに著者の個性を出していくか」「その雰囲気、著者が伝えたいメッセージみたいなものをどんだけ入れ込んだ記事にしていくか」っていう作り方をしていて。逆にWIREDでは、そんなの誰も求めてないから「いかにそれを排除して作るか」っていうところをやったりしたんですけど。
それはメルカリさんの目的や、うちはどちらかというとブランディング寄りのものになるので、もちろん誤字などはなるべくなくすようにしますし、何度も何度も校正して「これだったら出せる」「これだったら好い」って思えるところまで高めてからじゃないと出さないようにしています。
それは目的やそれまでの編集者の経験もいろいろと関わってくるだろうなと思います。
西村:僕よりはるかに若い方が「いいコンテンツはいいんだ」って言うのがすごいなって思います。
時代の流れでいうと、PVに代わる指標がなかなかなくて、Webはある意味では殺伐としたものですし(笑)。
人が辞めても会社は回るようにできている
西村:あ、あと10分ぐらいですかね。質問ある方に手を挙げてもらったほうがいいかな? 何か来てました?
あ、「メディアの引き継ぎ」ですね。いきなり実務的なところ来ましたけれども(笑)。
松尾:引き継ぎって、どういう文脈?
西村:編集長とかチームとかですかね? じゃなくて? あぁ、松尾さんはCAREER HACKを引き継がれたことがあるので、どう引き継いだか?
松尾:そうですね……。会社ってすごいから、人が辞めても回るんですよ。
(会場笑)
西村:すごいところから答えきましたね〜。
松尾:それは上長、編集長が、僕一応、名前的には2人目だったのかな? 2代目だったんですけど、前の編集長が辞めた時も「マジ無理」みたいな感じで思って、代わりの編集長は来ないし、部下も入ってこないし、社内のエースコピーライターが2人ぐらい来て「なんかすごいやばいー」みたいな状態だったんです。
でもメディアは別に「会社の中でやってたら死なない」っていう。俗人的にやってみても死なないっていうところ。
もしくは、メディアにちゃんとコンテキストやコンセプトがあれば、誰がやってもその人なりの色が出ながらやれるので、変な引き継ぎ、僕はしなかったですよね。「こうやれ」「俺はこうやってたんだ」みたいなのは、ほとんど言わなかったです。「あと、よろ」みたいな感じでした。
自分がいなくても回る仕組みを作る
西村:なるほど(笑)。丸山さんいかがですか? 引き継ぎ。
丸山:引き継ぎってあんまりしたことないんですよね。
西村:僕もしたことないですけど(笑)。そんなことないな、引き継ぎドキュメントは書きますけどね。
丸山:最低限のドキュメントは書きますよ。
西村:ただ、おっしゃったみたいに結局「編集部」って、いろんなバックグラウンドや考えの人のハーモニーなのでそれが出れば、別にそれが新しい編集部だから、それはもう「僕がどうこう」じゃないから、っていうのがわりと編集者っぽいですね。事業会社の人はそれじゃ困るっていうかもしれないけど(笑)。
まぁそういう意味で言うと「ドキュメント化して標準化する」のは1つですけどね。僕は標準化してて「記事の書き方」っていうので、けっこう長いドキュメントで作ったりします。入れるべき項目を順番に、それから優先順位とか、わりとそういうのをやって。
丸山:そういうので行くと、僕はWIREDに入った時の引き継ぎが前任者の方にけっこうきれいにしていただいたなと思ってて。のちにハフィントンポストの編集長になる松浦茂樹さんだったんですけど。
立ち上げて1年ぐらいしか経ってない状況だったんですけど、けっこうWIREDって海外の翻訳をメインでやってたんで、その翻訳がシステム的に回るような仕組みを作っていただいていて。
それをレポーティングするようなパワポの資料とかそういうものを全部用意して、そこの数字をちょっと変えればレポートが進むとか、翻訳コンテンツも最後はちょっとチェックするだけで公開できるとか、そういう仕組みづくりをどんどんしていくっていうところがうまかったなと。それがすごい助かったということはありましたね。
なので、引き継ぐっていう意味では「どんどん自分がいなくても回っていくような仕組みをどう作っていくか」を考えるのがいいのかもしれないです。あんまりそういうのうまくないんですけど。
西村:そういう意味でいうと普通のビジネスと同じで、僕はドキュメント化をふだんからどんどんして、フローをちゃんと可視化して、途中からチームに入ってもすぐこれを見てできるようなのを作っとくので、別に引き継ぎとかなくて。WordPressに原稿入れるだけだから、別に(笑)。
Trelloとか最近よく編集で使ってますよね。案件があって「どれを取材するか」「どういう会議でどれぐらいの頻度で回してやるか」、ポリシーのところには「僕らのメディアはこうだ」っていう定義があって。それは別にやってる人たちが変えたかったら変えてもいいしっていう、それぐらいの話なので、そんなに引き継ぎはない。
むしろビジネス的なね、お客さんとかのほうがあるのかもしれないですけどね。
丸山:そうだと思います。
西村:今、編集長ってね、けっこう営業も見てる人が多いので、そこの引き継ぎのほうがむしろ大きいのかもしれないですね。
グーグラーというラベリングの凄み
西村:その他、何かありましたら、質問。特にない? えーっと、そうだな。最後、じゃあこれでいきますかね。「どんなことに取り組んで行く予定ですか?」っていうところですかね。未来に向けた話で。けっこういろいろ話きていますけど。
松尾:今メルペイっていう組織にいて、そもそもメルペイってまだプロダクトも出てないしずーっと秘密のまんま(笑)最後発の利を活かして黙っているような組織にいるんですけど、やっぱりそこでもまずはハイアリングをしないと。
テックカンパニーっていう表現は基本的にメルカリ代表の山田もしてましたけど、それでやっていかなきゃいけないっていうところで。基本的にはまず私自身もそこでやっていくかなぁと。
メルカンの文脈で行けば、もうちょっと体系立てて、例えば「グーグラー」っていう表現って、けっこうすごいじゃないですか。元Googleの人と現Googleの人を「グーグラー」っていう名前でまとめて、「なんかすげぇ」みたいな。Google出身の人はめちゃくちゃ聡明で、なんか頭が良くて、高給取りかもしれないけれども、すごいいい人が多くてキレ者だみたいな。
それはメルカリに当てはめると、「メルカリの人はどういう人になってくるんだろう」みたいなブランディング、ピープルブランディングに携わっていくのも1つのチャレンジかなみたいな話は、あるかなと。単純な仕事の話というよりも「こういうふうな打ち出し方ってどうやったらできるだろうねぇ?」みたいな。
そういうことを考えられるのも、なかなかこういう組織じゃないとできないので基本的には失敗すると思っていて。そういうラベリングから含めてやれるのもおもしろいのかなぁと。
できる人をちゃんとマネジメントして採用していく
西村:編集からマーケティングやコピーライティングの領域までいく感じですかね。
松尾:そうですね。もしくは、インハウスでいうと「会社の文脈」というところをちゃんと理解して、ある程度のところまで持っていくとなると、これはメディアも一緒だと思うんですけど、できる人たちをちゃんとマネジメントして、採用していくというところですよね。
「絶対自分がすべて制作者である必要性はない」と思っているので、そういったチームを社内で作ったり、もしくはパートナーと一緒に作り上げていくみたいなチャレンジは、個人的にはおもしろそうだなと思って。
西村:そのお話をおうかがいすると、例えばコーポレートのブランディングで、外からコンサル、あるいは専門家を連れてきて、電通さんとかにお願いしてやるのも、それはいいけど、中に1年2年3年と居て文脈をわかってる人がやると、よりいいっていうことですね?
松尾:そうですね。まぁ新しい視点や事例は、コンサルやいわゆる「キレッキレの人」を入れたらいいなぁと思うんですけど、ただ僕らが体現してるのって創業者の考え方だったりとかで。
「メルカリは、ミッションとバリュードリブンな組織である」っていうのはもう変わらないことで、それを体現するのは「人」と「作るプロダクト」なんですよね。だから外の人がさくっとコンサルできて簡単に理解したつもりになって、キャッチーな言葉をつけても、周りはなんか……。
西村:社内がシーンとなってね、「これ、なんだっけ?」みたいな(笑)。よくある光景ですね(笑)。
松尾:ですです(笑)。社内ではコケたくないみたいな。社内の温度感っていうのは見てますね。
事業の価値に直結しないことをやる意味
西村:丸山さんはいかがですか? なんかこう、これからの取り組みで。
丸山:さっきの「KPIとか目標の話」につながってくるので、そんな話もしたいんですけど。BNLは立ち上げてもうすぐ2年になるので、「これ、やっぱり価値あるんじゃないか?」と事業的には見られるようになってきていて、それで編集チームもちょっと増えました。そうすると「もっと事業に貢献できるような方法はないか」みたいな感じで言われることも増えてきているんですね。
もちろんそれもやるんですけど、そうだからこそ、編集の視点では僕は違うこともやんなくちゃいけないなと思ってて、今そこから離れたこともやりたいなと思っていて。
具体的に言うと、今「お茶特集」っていうのを企画していて、ビジネスの出会いの現場って、お茶ってだいたいあるんですよ。でも、それを急須で出すみたいなことってあんまりもう最近ないので。水とかペットボトルを出したりはしていて。
そこを、昔はたぶん急須で出してたりしてたわけですし、その価値みたいなものをもう1回見てみようかとか。
西村:もう普通にカフェで会いますよね。「お茶しましょう」って言って。
丸山:そうです、そうです。あとは、「伝統とは何か」みたいなところを考えて、日本の伝統工芸の人たちの話を聞いてみようかなと。一見事業の価値に直結しないみたいに見えるんですけど、それをやることにけっこう意味があるなと思っていて。
そういうコンテンツをどんどん作っていきたいなっていうのが、今考えているところですね。
どんな指標を追っているか
西村:なるほど。そろそろ時間なので、最後1個だけ追加の質問をしたいんですけど、その前に先に質問、はい、どれですかね? あ、これですね。
「メディアのコンセプトを守りながら、どんな指標を見てますか?」っていうお話が来たので。さっきすでにちょっと話も出ていて「そんなに指標見てない」っていう話もありましたけど、そこはやっぱりバランスなので、見てる指標みたいなものがあれば、それぞれ教えていただけますか?
松尾:はい、メルカンに限って……なんかメディアの話ばっかりですね。それで言うと、入社時、入社後1ヶ月面談みたいなのがHRを通して、あとは上長を通してあるんですけど、その時のメルカンの認知既読率みたいなところを見てますね。
それも、どのタイミングで見てたのか。「まったく興味なかった」「働く場所として見てなかったけど見てた」「エントリーする前に見た」「選考中に見た」「内定承諾を決める前後で見た」どういうコンテンツを見ましたか、みたいなところとかの既読率を、確率として100%っていうのを目指していくっていうことはやっていますね。
西村:なるほど。丸山さんはいかがですか?
丸山:僕は平均の滞在時間ですかね。
西村:おぉ〜。
丸山:Eightのフィードに記事を流してるんですよ。なので、どういう記事を流してもそれなりのPVは集まるんです。だけど、うちのメディア見ていただくとわかるんですけど、けっこう記事が長いので普通にがんばって読んでも6分ぐらいかかる記事が多いんです。「それをどれだけみんな読んでくれるか」をいちばん見ていますね。けっこう変わるんですよ。
西村:記事ごとに?
丸山:記事ごとに。やっぱりおもしろい記事は長く読まれたり「これはあんまりかもな」と思ったらやっぱりあんまり読まれなかったり。
でも全部すごい読まれる必要は実はなくて「それをいかに予測できているか」がけっこう大事で。「これはすごい読まれるぞ」っていって出したやつと「これはあんまり読まれないかもしれないけど、出すことに意味があるんだ」とかそういうのはあるので、そこの予想をちゃんと見ていくっていうところですかね。
西村:予想、当たりますか?
丸山:当たります、だいたい。
西村:だいたい当たる?
丸山:やっていくと、だいたい。少しずつ当たりやすくなってますね。
西村:ある精度はあるけど、「当たると思わなかった、この記事がホームランなのか!」とか、驚きあります?
丸山:前職の時はけっこうありましたけど。これはやるべきことだからやってたりとか。
西村:なんかそういうね、「これは当たるぞ」「これはこんなもん」「だけど必要」というのも編集者の判断ですよね。
ただね、僕なんか、さっきの数字の話で言うと、A/Bテストでタイトルやったときに「いや、もう、絶対こっちだよ」と思ってやったら、ぜんぜん結果が逆なんてことがあって。BuzzFeedやハフィントンポストはめちゃくちゃこれをやってて、けっこう編集者が謙虚になってますよね(笑)。
「俺の編集者の勘はこれだ!」とか言ったら、ことごとく打ち砕かれるみたいなところはちょっとありますよね(笑)。
丸山:ニュースメディアはけっこうそれありますよね。
西村:タイトルは特にそうですよね。タイトルは本当にアートで、ちょっと難しいところありますよね。
編集者のスキルセットだけでは限界がくる
西村:というところで、ちょっと時間が本当にあれなので、最後に今後のキャリア、10年ぐらいかな、15年ぐらいかな。なんか「こういう感じの生き方がしたい」「こういうプロになりたい」っていうようなイメージがあれば。あるいは、「こういうマーケットがたぶん出てくるから、こういう生存戦略やっていこうかな」みたいな話をお願いします。
松尾:理想は僕が持ってるSO(ストックオプション)が100倍ぐらいになって、もう引退すること……。今、笑うところだったんですけど(笑)。
(会場笑)
西村:微妙すぎるじゃないですか! 1万倍とか言えばよかったのに(笑)。「メルカリだったらあるわ」とか思っちゃって(笑)。
松尾:いやいや、そんなことないんですけど(笑)。インハウスエディターもそうなんですけど、エディティング、いわゆる編集者のスキルセットだけだと正直そのキャリアも限界があるんじゃないかと思っていて。
僕がラッキーだったのが、採用人事のキャリアをつめたことなんですよね。前職でいわゆるインタビュアー的な側面や文脈を理解した上でソフトウェアエンジニアやプロデューサー、あとはもちろんVPや役員とも、インタビュアーの立場として、4年間で500人ぐらい会ってきたので、人事として社内外でいろんな職種の人が言ってることはある程度わかるし、こっちも話せるみたいな。
そのスキルセットを「メルカンやれますよ」っていうノリで入ったんですけど、実際評価は、採用だったり、人事とそこのリンクをさせることで自分なりのステップをちゃんと踏めたから、今の仕事や、評価や、メルカリがあると思ってるので、その次をやっぱり見つけないとなっていう気はしてます。
なので、たぶん5年後にインハウスエディターとか言ってたら「何も成長してねぇな」みたいなっていう気は、もしかしたらするかもしれないですね。スキルセットを、どんどん軸をずらしてくみたいなことは意識してやろうかなと思ってますね。
西村:なるほど。わかりました。
松尾:すいません、明確な答えじゃなくて。
西村:いえいえ。丸山さん、お願いします。
コンテンツの戦略こそプロが考えなければならない
丸山:そうですね。今、2つ肩書きを一応名刺にはつけてまして「コンテンツストラテジスト」と「BNL編集長」っていう名前をつけてるんですけど。
今日はコンテンツストラテジーの話はできなかったんでちょっとさせていただきますと、今Eightのプロダクトの中のコンテンツもうちのチームで作ってまして、新機能を出す時「その機能をどうユーザーに届けようか」と、プレスリリースを書いたりする時もありますし、プロダクトのLPみたいなものも作ったりしますし、そういったところは編集者が入っていくべきだなと僕は思っていて。
これは調べたんですよ。コンテンツストラテジストを名乗るからには「コンテンツストラテジーとは何か?」をリサーチしてみたんですけど、Facebookが2009年ぐらいに、コンテンツストラテジーのチームを作ったんですよ。初めてコンテンツストラテジーを担当する社員が入社したのは2009年だと思うんですよ。
それで「Facebookのトップページの自社広告の文言を変えた」ことが、最初の彼女の仕事だったらしくて。そうすると、急にクリック率が上がったと。「なんだこれは」っていう話になって、だんだんそれが認知されていったっていう歴史があるらしくてですね。
それまでどうしてたかっていうと、エンジニアやプロダクトマネージャーが文言を考えて作ったんですよ。でもFacebookぐらいのユーザー規模になってくると、ちょっとボタンの文言変えるだけでクリックが変わったりするみたいで。
「それはやっぱりエンジニアが考えるんじゃダメでしょ」と。そんなにインパクトがあるんだったら、ちゃんとプロフェッショナルがそれを考えるべきでしょっていうのがあって始まっていったのが、コンテンツストラテジーっていうもので。
それは編集者だけじゃなくてUIのデザイナーや広報の人たち、いろんな職種の人たちが集まってきてるんですけど、今Facebookもかなりの規模のチームになってるらしくて、基本新サービスの名前まで全部そのチームを通して考えているみたいなんです。
なので、私は1つの目標はEightの中でそれを作るっていうことですね。Eightも今200万人ユーザー超えてきて、ちょっとしたコンテンツの質の違いでぜんぜん効果が変わってくるんで、それをちゃんと組織できるチームを作っていくっていうのが1つ目標としてはあります。
編集者とは、いわば天狗
西村:確かにあれですよね、Eightだと、ツールというよりもコミュニティで、そこにコンテンツもあり、メッセージもあり、流れてくるものもありっていうので、編集者的なものがすごく効いてくるっていうような。
Dropboxもこの間すごいバズった記事があって、やっぱりメッセージとかメニューとか、呼び方を変えるだけでもまったくユーザーが変わってくるっていう。まぁテストはエンジニアたちがやってたけれども、どういうメッセージがいいかっていうそもそものところがなかった。
丸山:あとは、個人的なところでいくと、BNLで取材した人の1人にけっこう影響を受けた人がいて、楽天の仲山進也さんっていう人。最近けっこうメディアに出るようになったんですけど、去年の夏ぐらいにインタビューさせていただきました。
その時に印象に残ったのが「際者でありたい」っていう言葉で。それは仲山さんが作った言葉なんですけど、「際」って、要は……。
西村:エッジですかね?
丸山:エッジのことですね。なんで、「組織の際にいる」っていうところがけっこう大事で。彼は最近『組織にいながら、自由に働く。』っていう本を出版したばっかりで、それもすごいおすすめなんですけど、そういう働き方ってメディアやる人には大事だなと思っていて。
やっぱりメディアをやってるからには、その事業とユーザーなり読者なりの間にいる必要があって、それって組織の際なんですよ。
仲山さんの話は、マネジメントにどんどん入っていって、組織の中心になっていきそうになったんだけど、あるタイミングで「それは俺の仕事じゃない」っていって、マネジメントを放棄して、際のほうに軸足を伸ばしていって。
彼は「出島」って言ってたんですけど、そのうち組織から出て、毎日会社に働かなくてもいい、通勤しなくてもいい、「でも社員だ」みたいな働き方を確立していって。それはすごいかっこいいなと思うし、僕もそういう感じで働けたらなんかいいなぁと、思ったりはします。
西村:もともと編集者って、天狗……天狗っていい言い方すぎるかもしれないけど、あちこち飛び回って、神出鬼没で、おもしろそうな人に会いにいって。社内でもそうですよね。大組織であっても、編集部はちょっとね、なんか、ちょっと違うみたいな。自由な出社ができるみたいな(笑)。
近視眼になってはいけない
松尾:今の話はまさに、振り返ってみると、メルカリ内でもそうだなと思っていて。自分って、コーポレート部門に所属しながら、唯一プロダクトのハイアリングをやっているという、プロダクトにいちばん近い人間だったので、どっちの文脈もわかる。
しかもバックグラウンドもあるので、「これってこういうスピードで進んでて、向こうはこういう理解でいるけど、こっちはたぶんそこまで進んでないよな」ってなった時に、対外的にはこういう発信をしなきゃいけないとか。
例えば「メルカリの日々」みたいな広報が毎日上げるコンテンツがあるんですけど、何回かダメそうになった時があって、それはなんでかっていったら、広報の人間はコーポレートの中にいるので、目の前のコーポレート内のものしか見れなくなっちゃったからなんですよね。
でもメルカリっていう組織は、プロダクトがまずあって、カスタマーサポートポジションがあって、その他いろんな事象が起こっているのに、目の前のことしか見えなくなってて。
要するに、「真ん中に行きすぎると目線がめっちゃ狭くなる」。「なるべく外に出よう」みたいな話をしてから少しずつまたよくなってきたので、編集者って真ん中にいちゃいけねぇな、みたいなところは。
あと「あんまり馴れ馴れしくしちゃいけない」っていうようなのは、もしかしたらあるかもしれないなと思いました。
西村:今ずっと話を聞いていた流れだと、ユーザーとのインターフェイスや「間にいる人」「間をつなぐ人」みたいな、定義は難しいけども汎用的な役割が、いろんな価値を生むのかなという感じですかね、無理やりまとめると(笑)。
丸山:でもやっぱり、その中心の思想みたいなものは、ちゃんと知ってなくちゃいけなくて。経営陣が今何をいちばん大事にしてるのかとか。
西村:文化とかね。
丸山:そうです、そうです。そういうところはいちばんわかってなくちゃいけない。
西村:そういうのがインハウスになると、身を浸して2年とかいれば、もう言わなくてもわかるみたいになってくるのが価値かということでしょうか。
ということで、そろそろお時間なのでこのへんにしたいんですけれども、ちょっとアンケートが、お手元にあるんですかね? ぜひちょっと書いていただいて。あと、Eightを今すぐ入れていただいて、みなさん前に来ていただければと思います。はい、では、松尾さんと丸山さんでした。ありがとうございました。拍手でお願いいたします。
(会場拍手)