日本の心と幸福経営学

前野隆司氏(以下、前野):はい、こんにちは。前野です。今日は「日本の心」というテーマでお話しします。

(このイベントの主催者の)櫻井さんに「幸福学×経営学」など、もっと妥当そうなPowerPointも送って、4つぐらいの中で「どれがいい?」と聞いたら、これがいいとおっしゃるので、「いや、ちょっと違うんじゃないかな」と思ったんですけど、櫻井さんがいいと言うから持ってきたんですよね。

でも、今お話していて、日本がどうあるべきかという話は、会社がどうあるべきかという話とも通じるところはあると思います。基本的には、やっぱり日本の和の精神、日本人が本来持っているものが、実は幸福経営に繋がるのではないかと思っているので、一見ぜんぜん違う話をするようですが、(2つのテーマは)実は繋がっているなと思っていただけるといいと思います。

櫻井さんもそういうつもりで選んだのだと思ってお話ししたいと思います。これを40分で話すには、ものすごいスライド数なので、たぶん最後のほうまでいきません。でも、この資料は、あとで見られるよう、ダウンロードができるようにお願いしますので、必死にメモをとらなくても大丈夫です。

もちろん写真を撮ったりするのも自由ですし、お配りしたものを使っていただくのも自由なので、どんどん「日本の幸せのありかた」というものを広めていただければと思います。

自己紹介を一言で言うと、もともとロボットの研究をしていました。ロボットの心から人間の心、人間の心といえば幸せという感じで。幸せとイノベーションや幸せの研究、協力して創造するといった研究をするようになって10年ぐらいですかね。

SDM(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)という大学院ができて10年なんですよ。それまでは機械工学科というところでロボットを作ってたんですけど、最近は幸福経営学です。

日本とはなにか、システムとは何か

(スライドに)宣伝みたいに(本の写真が)載ってますけど、これが先月出した幸せな経営についての本です。こっちは今月出した本で、幸せな子育てということで、ワークとライフ。やっぱり両方合わせて幸せじゃないといけない。

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える

「幸福学」が明らかにした 幸せな人生を送る子どもの育て方

今月出した方は子育てですけど、(要は)教育ですよね。教育は、やっぱり人を幸せにすべきだと思うので、教育について(書いています)。それから先月出した方では、企業内教育というものもあると。そういった幸せに関するいろいろな分野との連携や研究をしています。

最近経営といえば、日本論ではなくて、やっぱり経営論になってますね。「ホラクラシー経営」や「ティール組織」をご存知ですかね? 

ダイヤモンドメディアのホラクラシー経営、それからティール組織。こういうものがすごく騒がれているんですけど、「いや、俺だって昔そういうの書いてたのにな」という。すごく売れなかったんですよ。

この『幸せの日本論』と『思考脳力のつくり方―仕事と人生を革新する四つの思考法』という本を出して、ぜんぜん売れなかったんですけど、この『ティール組織』はすごく売れているんですよね。だからタイトルは『ティール組織』にしておけばよかったと思うんです(笑)。

(会場笑)

幸せの日本論

思考脳力のつくり方 仕事と人生を革新する四つの思考法

でも、すごく考えて書いた本なんですよ。「日本とは何か」、システムデザイン・マネジメントというところにいくときに、「システムとは何か」を考えた本なので、そのへんを参照しながら、幸福学よりも、ちょっと前にやってたベースの話をしながら、今に繋げていくかたちにしたいなと思っています。

スライドが一杯あるので、全部はしゃべれないかもしれないですけど。まず、これはお勉強みたいですけど、「東洋は集団主義的社会で、西洋は個人主義的社会だ」という言葉はご存知ですかね?

文化心理学という分野があって、「コレクティビスト(集産主義者)」と「インディビジュアリスト(個人主義者)」という言葉があります。これをちょっとご説明しようと思います。

集団主義社会か、個人主義社会か

(スライドを指して)ここを見てわかるようにインディビジュアリズム(というのは)、要するに個人主義。個人がしっかりすべきだというのは、実はこの(地図に)黄色で示したところで、面積にすると意外と小さいですよね。欧米、しかもラテンはちょっと違うかなという。

それ以外の広い面積は、コレクティビズム。コレクトだから集団主義ですね。個人の権利よりも、集団でともにあることを重視するという考え方をしています。

これは(スライドが)英語で申し訳ないですけど、後で読んでおいてください。一言で言うと、「I conscious(私は~)」という意識の集中をする人と、「We conscious(私たちは~)」ということを重視する人たち。東洋やラテンは実はこっち(右側)なんですよね。

最近はちょっと違うかもしれませんが、日本はやっぱり会社。私の父や祖父の世代は、会社の組織におけるありかたとして、自分を捨ててでも会社を大事にする滅私奉公というような考え方がありました。

中国はすごく友だちを大事にしますよね。「法律よりも友だちのほうが大事だ」というような。「法治国家としていかがなものか」という人がいますけど、日本とはちょっと違ったコレクティビズムの1つのかたちです。

でも、友だちはものすごく大事で、(中国で)結婚したいと思ったら「結婚したいんだよね」と友だちに言うと、友だちの友だちの友だちの……と一気に広がって、すぐ(結婚相手が)見つかるぐらい、友だち関係を重視します。だから、「中国の人と付き合うには友だちになるに限る」と言いますけど。

実は世界には、こういう家族や会社、友だちを大事にする考え方と、そういうことは全部法律で決めて、個人の権利を大事にしようという2つの考え方があります。日本の教育は後者なので個人主義的のような気がしますが、実はこういう考え方が世界にはたくさんあるというわけです。

日本はどの辺だと思いますか? 日本は集団主義社会だと思われますかね。これも研究に詳しい方はご存知だと思いますけど、このページは話し出すとおもしろいので、興味がある方は、後でじっくり見てください。

日本人は先天的に心配性な民族

(次のスライドに移って)このページもまたおもしろいです。これは『ポジティブサイコロジー』という本に書いたんですけど、横軸がセロトニンの出やすさです。脳の遺伝子のかたちによって、セロトニンがブォーっと出る人と出にくい人がいるんですよ。

横軸の右側がセロトニンが出にくい心配性の人。左側があまり心配せず、リスクをとってどんどん進んでいける人。お気づきでしょうか。日本は、この調査の中で最も心配性な民族なんです。みなさんは平均値で言うと、めちゃくちゃ心配性な人たち。

私もそうなんですけど、先天的にそういう民族なんですよ。じゃあ後天的にどうしようもないかと言うと、性格というのは、おおざっぱに言うと、先天(的な要因)が半分、後天(的な要因)が半分と言われています。

先天的に心配性だったら、後天的に何か心配せずに生きていく工夫をしていくべきだと思うんですね。それが集団主義だと思うんです。南アフリカの人は、自分であそこに助けに行けとか言われたら「おーっ!」と1人で行けるわけですよ。

日本人は心配性なので、「いや、できるかどうかわからない」と思ったときにどうしたかと言うと、みんなで助け合って「1人で行かなくても、みんながちゃんとフォローするから大丈夫」という社会をつくったんじゃないかと思っているんです。

それがこの縦軸です。縦軸の上に行くほど集団主義、下に行くほど個人主義です。アメリカ、イギリス、オーストラリアは、すごく個人主義的ですね。

上の中国、韓国、シンガポール、台湾という(日本の)隣国たちは、非常に集団主義的です。日本を見てください。思ったより真ん中ですよね。けっこう中間ぐらいなんですよ。だから日本は東洋にありながらも、明治維新以降は、うちの大学の福沢諭吉先生などが「西洋からどんどん取り入れろ」と言ったのも影響してか、東洋の中で最も西洋化が進んでいる。

だから、たぶんもっと(縦軸が)上だったのがぐっと下がってきたんだと思うんですね。一方で、やっぱり和の国日本ですとか、友だちを大事にするとか。教育とは別に、文化という意味で非常に東洋的で集団主義的なものも残っている。

燃え尽き症候群になりやすい日本人

だから、分布を見ると、日本は意外とダイバーシティが広いんですよ。これは中央値、平均値が書いてありますけど、分布にしてみると日本人は単一民族で均一な人だという意見もあると思います。

これに限って言うと、ものすごく上から下までばらついているんですね。(日本は)そういう国です。でも、やっぱり、この図のおもしろさは心配性の人たちは集団主義で、心配性ではない人たちが個人主義的な思想になったのではないか、ということが見て取れるところです。イデオロギーや政治体制のようなものが、実は進化的な脳の構造に依存しているんじゃないかということがわかると。

日本はちょっとおもしろいんですよ。本来はもっと上で、集団(主義)でやってなきゃいけなかったのに、西洋的な教育をしているせいで、個人主義的になってきているんですね。「心配性なくせに個人主義的になってきている」ということは、つまり、バーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいということですよ。みなさんの会社ではどうでしょう。

個人の能力を評価して、能力のある人は活かし、そして(個人が)自立して、自分で働くような会社を作らなければいけないという欧米型の会社を作り過ぎると、こういう心配性の人は実は不安になるわけですね。

そうすると心の病になったり、バーンアウトになったりする。残念ながら、日本の自殺率は、先進国の中でも非常に高いです。もしかしたら、社会がもっと「みんなでやろうよ」と言っておくべきだったのに、「個人を強くしろよ」というふうに、無理やりにやり過ぎたのではないかとも見て取れます。

(スライドを切り替えて)他にもおもしろい結果があるんですけど、これは横軸が「パワーディスタンス」。パワーディスタンスは権力格差に対する許容度です。右側に行くほど、権力格差を許す。フィリピンは一番許して、デンマークは「権力による格差は嫌だ」と許さないです。

上がコレクティビズム、下がインディビジュアリズムですね。個人主義は、権力格差のような強大な権力を嫌って、「人類はみんな平等だ」というふうになる。日本人は、お上がすごく威張って「この御紋が見えんのか!」というのは好きですよね。集団主義の人は、「そういう権力というのはいてもいいじゃん」「そういう人たちに守ってもらうのもいいじゃん」というふうになりがちである、ということを表しています。

いろいろおもしろいんですけど、キリがないですから、ちょっとこれぐらいにしますか。幸せについての話に戻りますけど、これは私の本を読んでいる方はよく知っていることかもしれませんが、とりあえずインディビジュアリズムとコレクティビズムの話は置いといて、幸せのメカニズムの話をしたいと思います。