時価総額1兆円ベンチャーを育てるために

水野弘道氏(以下、水野):みなさんこんにちは。GPIFのCIOをしております、水野と申します。

本日のテーマは「時価総額1兆円ベンチャーを育てるための金融資本市場の役割とは」ということでしたので、最初にこのお話をいただいたときに、私からGLOBISの事務局に「パネリストは投資家側から1人、バンカーサイド、証券会社サイドから1人、あと取引所から1人を出していただきたいとお願いしました。

それはなぜかというと、この前新橋を歩いていましたら、となりのサラリーマンが「だいたいGPIFがベンチャーに投資しないから悪いんだよ!」と言っていまして(笑)。

(会場笑)

「え、俺のせいですか?」と思ったわけです。だいたい、取引所に聞くと「いや、あれは実は証券会社がいけないんです」となりますし、投資家に聞くと「いや、ベンチャー企業が頼りないんです」と言って、お互いのせいにしているのです。

ここに対象者を出して、それぞれがお互いの責任にしているところを明確にして、「G1ベンチャーらしく、どうしたら改善するのか?」という方策を探っていきたいということで、この3人にお集まりいただきました。

ちょっとテーマが大きいのですが、かなりシンプルな質問で、あとはインタラクティブにやっていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。まず最初に全員にお伺いしますので、回答の前に簡単に自己紹介を加えてお答えいただければと思います。

1兆円企業というのは、みなさんの立場から見るとどういう意味があるのでしょうか? 1兆円企業といったらどういうことを考えますか? まずはそのあたりを聞かせていただきたいと思います。じゃあ最初は清水さん、よろしくお願いします。

1兆円企業を作ることが意味するもの

清水時彦氏(以下、清水):どうも、はじめまして。JPインベストメントの清水と申します。

私はゆうちょ銀行で3年ぐらい、プライベート(エクイティ)投資を行ってきました。

そして、企業への直接投資を行おうということで(2018年)2月にこの会社が設立されたのですが、4月には1号ファンドを、まず900億円規模で立ち上げまして、最終的には1,200億円くらいの規模にしたいと思っています。そのうちの3割くらいはベンチャーに投資するということで、規模としては現在の日本のベンチャーキャピタルのなかではけっこう大きな部類になると思っています。

我々が投資にあたってのフォーカスは、いわゆるアーリーステージではなく、グロースエクイティというか、レイトステージにあるベンチャー、ここにフォーカスを当てるということです。これはまさに先ほど水野さんからありました「1兆円企業とは何か?」ということにもつながると思います。やはり日本の上場企業は上場時のサイズがかなり小さく、これがその後のきちんとした企業の成長につながっていないのではないかと思います。

こういうことを念頭に、我々としては少なくとも1ビリオン (1,000億円)くらいまではプライベートのまま企業が成長できるようなパスを投資家として作ろうと考えています。

実はそこの部分は、日本においてかなりホワイトスペースになっているので、それを実際に投資家としてお手伝いすることによって、1ビリオン、10ビリオン、1兆円と、こういうところまで手伝うことができたら、ということです。

そして質問の「1兆円」という話なのですが、これはいわゆるベンチャーで、上場後まもなく時価総額1兆円になった企業となるとソフトバンクが筆頭だと思うんですよね。いまやソフトバンクは完全にグローバル企業になり、今では10兆円という数字になっているわけです。

こうした企業が日本から出てきているというのが非常に大切なことで、一方で、これからもいろんな企業が出てくると思いますが、そうした企業になることが一体どういうことなのかを考えると、まず、そういう企業がなかなか出てきていないということを考える必要があります。

そうした企業が生まれていないことは、結論から言えば日本が変わっていないということを示唆してるわけです。それはまさに1兆円企業を作るということは、逆に言えば、日本が変わることを目指しているということと、ある意味では同義なのかなという感じがします。以上です。

水野:ありがとうございます。それでは武田さん、お願いします。

あるべき「1兆円」の定義

武田純人氏(以下、武田):みなさん、こんにちは。UBS証券でインターネット・テクノロジー企業のアナリストをしています、武田と申します。

資本市場、とくにセカンダリーのマーケットで企業の価値を決めるという役割をいろいろな方たちと担っています。今日はその観点でお話ができたらなと思います。

さきほど水野さんからご質問いただいた「1兆円企業とは?」というところですが、これはなかなか確定した答えがあるとは思わないので、僕自身がこうあってほしいなと思うところを2つ、お話ししたいと思います。

まず1つが、時価総額1兆円は本当に意味がありますか? というところです。自分はやはり企業価値の部分、利益とバリュエーションで考えています。そういう意味では、ファクターが2つ、3つといろいろあるなかで、時価総額はそのできあがりのかたちなんですよね。

ですので、やはり僕は、時価総額1兆円の先には利益1兆円というところを目指していけるような会社があってほしいと思っています。それを踏まえると、時価総額1兆円、その先には利益1兆円を目指す姿がなければいけないと思っています。これが自分の中での「1兆円」のあるべき姿です。

もう1つが、さきほどのランチセッションでも同じようなことをお話ししたのですが、日本という市場でたくさんの企業を見ているなかで、とくに最近、ベンチャーマーケット、テクノロジーマーケットの議論において、ディスラプト、ディスラプションという単語がよく出てきます。僕自身はこのディスラプト、ディスラプションという言葉は大嫌いです。

おそらくこれから、1兆円企業というものがたくさん出てくるだろうし、出てきてほしいと思います。ただし、1兆円企業が1つ生まれたとしても、その結果として、例えば時価総額3兆円あるトラディショナルな会社の時価総額が1兆円になってしまったということであれば、これはマイナスサムなんですね。

これは本当の意味での豊かさなのでしょうか。そうではなく、日本全体の時価総額を大きくできるような1兆円企業が出てきてほしいと思います。そのためには、ベンチャーが1兆円企業になるのではなく、トラディショナルな3兆円企業が4兆円のバリューを出すほうが、実は現実的なのかもしれません。そうしたところをみなさんと議論していきたいとずっと思っています。

あともう1つ、日本に市場がなければ海外に市場を取りに行かなければなりません。海外にないのであれば、市場を作らなければならないのです。こういったかたちで、総額としての○兆円というところをどれだけ積み上げていけるのかを自分のなかでのテーマにしていますし、(今回の質問である)1兆円の答えにしたいと思います。

水野:ありがとうございます。それでは小沼さん、お願いします。

小さく産んで大きく育てる重要性

小沼泰之氏(以下、小沼):こんにちは。今日はよろしくお願いします。

取引所に入ってもう30年ぐらいが経過しまして、ぬくぬくと終身雇用をエンジョイしているという感じになってしまっています。

(会場笑)

朝(第2部全体会)のレノバの千本さんの話を聞いてどうしようかなと思いましたが(笑)。最初の10年くらいはいろいろな現場で勉強し、その後の10年くらいは海外担当になり、海外取引所と国内取引所、海外市場と日本市場の比較や調査などをやってきました。

そしてここ10年は上場分野で、現在は主に新興企業のIPO支援や、上場企業、とくに大企業のガバナンス強化などを担当しています。最近大企業の問題が多くて、少しプレッシャーを感じています。

さて、「1兆円企業をどう作っていくか?」というのはいろいろなやり方がありますが、全体的にはなんとなく「IPOのときに、みんなサイズが小さいじゃないか」といったことや「なんででっかいベンチャー企業がドーンと上場しないんだ」というような議論があると思います。

そのために何が足りないのか、今日もいろいろディスカッションできればなと思います。私の立場でいえば、小さく産んで大きく育てるという機能もあると思っています。一定の期間を経て1兆円企業ができあがればいいなという気持ちで見ています。

例えばマザーズに上場したあとで(東証)一部に上場したりするわけですが、果たして今の証券市場に、良い新興企業を大きく育てていくといった機能がどれだけあるのかという点については、きっと足りないところもあるんだろうなと思っています。今日のディスカッションでは、そのあたりについてもいくつかお話しできたらいいなと思います。

水野:ありがとうございました。

上場する際のシナリオをどうするか

水野:自己紹介がてら、いくつかテーマを出してもらったので、思いついたところから掘り下げていこうと思います。

まず清水さんのところで、今回新しいファンドを作って、そのファンドが日本ではある程度サイザブル(大規模)なほうに入るということでしたが、実はGPIFで日本のベンチャーキャピタルへの投資を検討したときに、ほぼすべてのコンサルタントから「時間の無駄だ」と言われました(笑)。「(どのベンチャーキャピタルも)小さすぎて話にならないから、そこにエネルギーを注ぐ意味がない」と言われてしまったんです。

現実としてそういうことがあるんです。海外の投資家の場合、アロケーション(資産配分)から入ってくるため、ある程度のサイズがないと、そもそもベンチャーキャピタルそのものが投資の対象にはならないと思います。

まず「ベンチャーキャピタル産業」について、あるいは、時価総額1兆円企業が出ないという問題とベンチャーキャピタルとの関係性について少し掘り下げたいと思います。私は以前から、今の日本のベンチャーキャピタルのサイズ感や投資のステージングの考え方が、1兆円企業が育たない原因の1つになっているのではないかと思っているのですが、清水さんはそのあたりをどうお考えですか?

清水:「卵が先か、ニワトリが先か」という話もあると思いますが、やはりマザーズが小さすぎますよね。ベンチャーキャピタルのイグジットが実質的に、まずはマザーズへの上場となっているため、そこをなんとかしないといけません。別に小沼さんに振ってるわけではありません(笑)。また、小沼さんのせいにしてるわけではないのですが、そこは問題の1つだと思います。

一方で、先ほど申し上げましたが、最近では上場する際にPSR(株価売上高倍率)を評価するという感じになってきましたが、それでも結局は、トップラインを犠牲にしてボトムラインを作っていかざるを得ないということで、その瞬間に成長が止まってしまうわけです。

それを考えると、市場も投資家も含めて、なんらかのかたちでトップラインを伸ばしていく、そしてそれを大切にするという価値観を共有しなければ、そういう方向にはいかないのだろうと思いますね。

水野:今の話は、いわゆる赤字上場の話だと思うのですが、東証一部はできないとして、マザーズは赤字上場できます。一方で、上場のときのシナリオとしてはボトムラインの話になりがちだということです。NASDAQだったら、多くのメガベンチャーがNASDAQに上場してそのままずっとNASDAQにいたりしますが、日本だとどこかに「東証一部に上がらなければいけない」といった感じがあると思います。

もともとマザーズを作ったときは、機関投資家向けのマーケットを作るということだったと思うのですが、この現状、そして現状打破の見込みという部分で、東証の小沼さんはどうお考えでしょう? オフレコって言ってもらえば、SNSへの投稿はNGにしますし、あとでカットします(笑)。

小沼:ま、いいか。

(会場笑)