睡眠障害は世界的な事故の被害拡大に関わっている

司会者:では、続きまして白濱先生よりお話いただきます。

白濱龍太郎氏(以下、白濱):みなさま、こんにちは。

会場:こんにちは。

白濱:今、(ニューロスペース代表の)小林さんから、非常にわかりやすい(ご説明があって)、現代のいろいろな会社における睡眠の取り組みの有効性を実感しました。私からは、今の日本の睡眠事情をお話しします。不眠症や睡眠時無呼吸といった少し重苦しい話も入ってきてしまうと思うんですけど、みなさまのなかで、興味がある内容をピックアップしていただければと思います。

さっそくなんですけれども、(スライドを指して)こちらに載っているいろいろな病気があります。これは日本人の死亡原因で、平成26年に厚労省から発表されておりますけれども、その中でもやっぱりガンですよね。あと心筋梗塞や脳梗塞、自殺などが出てきています。

我々からすると、実はこのような病気は多因子、いろいろな原因が集まって起きるというのは、みなさまもよくご存知のとおりだと思うんですけれども。

例えば心臓の病気があれば、コレステロールや糖尿病、喫煙など、いろいろと原因になりうるものを除外したうえで、じゃあ「睡眠というものが病気の発生に関わるか?」というと、これは「イエス」という答えが、結果的に出てきています。

我々にとって非常に大事な言葉で、「Wake up America」というものがあります。実は1980年代に、アメリカで睡眠というものが非常に大事な位置づけをされて、国家レベルの取り組みが始まりました。

これは何を意味しているかといいますと、例えば東北の地震からの津波というところで、福島の原発事故に対比されるようにピックアップされました。(スライドを指して)実は、このあたりの世界的な事故(1979年スリーマイル島原発事故、1983年チェルノブイリ原発事故、1986年スペースシャトルチャレンジャー爆発事故)の被害拡大に、睡眠障害が関係するというデータが出てきている状況なんですね。

ただ、我々(日本人)は睡眠というものを重要視していたのかというと、そうではないのが、我々の文化だったと思います。諸事情が集まって、(居眠りしている国会議員のスライドを指して)このような状況になってしまったと。いろいろな問題がありますので、目を閉じて考えなければいけないんでしょうけれども……。

ある国の人文学者が「INEMURI(居眠り)」という言葉をそのまま使った本を出しています。これは日本が非常に安全な国であるということも踏まえているんだと思いますけれども、一方で睡眠というものが軽視され続けてきたのではないかという状況でございます。

睡眠は本来の機能として、ちゃんと寝ることがパフォーマンスアップにつながる。逆にいうと、(そういう)何らかの機能を持っているということなんですね。決してただの無駄な時間ではない。例えば最近では、認知症と睡眠とのデータの関係が出ているんですけども、そういうものにもいわゆるこのレム睡眠というものがあります。

年齢ごとに必要とされる睡眠時間は異なる

みなさまも疲れがたまっているときに、しっかり休むことが、次の日の活力になることはよくご存じの通りかと思います。実は睡眠というのはいろいろとメカニズムがあります。どういうふうにコントロールされているかというと、例えば1つは時間帯によって、ホルモンが分泌されています。

例えば、メラトニンとか、コルチゾールとかいろいろなホルモンがあります。細かい分はけっこうなんですけれども、結果として、実はずっと深く寝ているわけではないということですね。(スライドを指して)こちらは我々が企業の睡眠障害の調査をしているときの脳波です。

(スライドを指して)脳波を整理するとこのような形で、いわゆる深い睡眠で入って戻ってくるということですね。90分間に1回繰り返している状況になります。ですので(スライドの)上を見ていただいて、実はこれは気づかれたかもしれないですけど、ナイキのマークみたいな形で、(睡眠の)前半戦で深く出ていて、後半戦ではレム睡眠の波が増えていくということでございます。

これが年齢とともにどう変わっていくのかというと、(スライドの)ちょうど8時間のところに赤いラインが引いてありますけれども、薄い部分と濃い部分のちょうど上の部分が、年齢に対して必要であろうと考えられている時間になります。

我々は8時間ぐらい寝なきゃいけないんじゃないかという、潜在的な意識を持つことがあります。これは例えば、ご両親から、だいたい8時間ぐらい寝なさいと。実は10代の中学生・高校生ぐらいのときに必要な睡眠時間というのが、それ(約8時間)なんですね。

一方で、昨年から「睡眠負債」という言葉が出てきました。自称不眠症という言葉もありますけども。このあたりの年齢(年配)の方は本来、睡眠時間はそこまで必要ではないだろう、ということも言えたりします。

次は(睡眠の)質の話でございます。さきほどナイキのマークと申し上げたのは、このぐらいの生産年齢よりちょっと下のいわゆるヤングアダルトの状態ですね。少し歳をとってくるにつれて、眠りがだんだん浅くなって、覚醒が増えてきます。年齢に応じて、睡眠時間や質がどんどん変わってきてしまうのも事実なんですね。

実は最近、「現代型不眠」という言葉がございます。「いつも元気いっぱいで仕事もできるし、僕は不眠になんてならないよ」という方が多いんですけれども、実はそこにいわゆる昔からの精神科だったり、心療内科的な背景が関係しています。

現代型不眠の一つに光というものが関係してきます。メラトニンというホルモンが、我々の睡眠の覚醒に非常に大事なんですけれども、ブルーライトによって、このメラトニンの働きが非常に不安定になってしまっています。

それとともに不眠の状態が起こってしまうと、本来よく眠っているときに、血行が豊富である必要がない覚醒システムに関わるところに血流が上がってしまう。要するに、そういうパターンができあがってしまうんですね。

ですので、毎回そのような状況にならないようにすることが大事です。では、睡眠負債によって何が起こるか。「負債」という言葉を使わせていただいておりますけれども、厳密ではないところはお察しいただきたいところではあります。

睡眠不足でガンのリスクが高まる

例えば、がんのリスクが増加するということで、いわゆるオッズ比でいうと、どれくらい高くなるかというところなんですけれども、前立腺がんや乳がんでもリスクが高まるということがわかっています。あと高血圧ですね。

(スライドを指して)これは3時間半ぐらいの睡眠時間の短いパターンと、通常の睡眠を比較したときに、(睡眠時間の短いほうが)血圧が上がると。それだけではなくて、神経関係の病気の危険率が増えるとか、糖尿病にしても関係があるといろいろわかってきています。

ですので、睡眠障害と病気のリスクのあたりに関しては、どうやら気のせいではなくて、実際に、睡眠時間不足ということも含めて、病気に関係する可能性が十分にあると考えられている状況があります。

あと睡眠時無呼吸症候群。SAS(Sleep Apnea Syndrome)シンドロームですね。これは最近少しずつ市民権を得てきたと思いますけれども、簡単にお話しさせていただければと思います。

この睡眠時無呼吸症候群は、いびきを伴うというのが非常に有名な症状なんですね。他にいくつかの症状がありますけれども、なかなか自分では気づかないということがございます。無呼吸のパターンになりますと、眠りがすごく浅くなる。

先ほどのナイキのマークを思い出していただくと、上(健康成人)がナイキのマークだとすると、下(SASの方)はもう全然深い眠りがない状態ですね。それだけではなくて覚醒型。要するに中高年以上の睡眠パターンです。こちらはそういう例を出させていただいているグラフになっております。

実は原因はいろいろあるんですけれども、我々アジア人は、残念ながら(睡眠時無呼吸症候群に)なりやすい。これは、顎の形や鼻の形が要因としてあります。最近でもお相撲さんがなっていたり、いろいろ出てきますけれども。

(スライドを指して)こういう(縄文人タイプの)人がなんとなくいびきをかきそうだな、というイメージがあるかもしれませんけれども、実は右側(純系モンゴロイド)のタイプでもなると。

女性だと閉経後になることもありますし、鼻がつまって口呼吸になっているだけでなってしまうことがある。いろいろなことが原因で(睡眠時無呼吸症候群に)なってしまうと。憂慮率としては、だいたい気管支喘息に近いぐらいの、100人いたら10人ぐらいが無呼吸に陥っている可能性があると、最近は考えられています。

睡眠時無呼吸症候群の危険性

無呼吸は2つほど問題がございます。これは、車を運転しない方は関係ないだろうと思われるかもしれないんですけど、(シチュエーションを)置き換えていただくと、例えば悲惨な交通事故、平成28年に起きた高速のバスの交通事故ですけれども。

また、ある外資系の金融ウーマンが、最後の決済ボタンを押すか押さないか。そのワンプッシュが大きな影響をしてしまうことは、想像しやすかと思いますけれども。それぞれの領域において、(睡眠時呼吸症候群が)非常に大きな影響を与えてしまうのは明らかだと思います。

無呼吸に関しては、実はもっともっと深い話があります。睡眠不足が血圧や神経疾患のリスクを増やすというところですが、そもそも睡眠時無呼吸は、1980年代にアメリカで生存率が低下すると発表されました。

それ以降も、突然死などいろいろなリスクが浮かび上がることがわかってきております。これはいくつか理由がありまして、実は医者の中でも、いろいろな会が睡眠時無呼吸に取り組んでいます。中には循環器の心臓の先生も取り組んでいます。

それはなぜかというと、結局いびきをかいて、無呼吸になっている状況があったとして、それによってドミノ倒しのように、体にいろいろなことが起きていってしまう。結果として、心臓の病気ですとか、いろんな病気が起きてしまいます。

ですので、(スライドを指して)こちらに記載していますが、ナステント(という医療機器)があります。まだまだいろいろなデータを蓄積していくことが必要かと思いますけれども、実は我々医師としても、いびきの軽減効果だけではなくて、睡眠時無呼吸も含めて、改善できる可能性があるんじゃないかと期待を持っております。

(スライドを指して)これは無呼吸の治療方法です。内科的なシーパップといわれるものや、歯科領域のマウスピース、外科領域の手術ですとか、いろんなものがあります。

これはやはり、先ほどの「病気のリスクが上がりますよ」ということだけではなくて、きちんと治療すると。例えば、交通事故のリスクであれば2.5倍にまで上がったものが、4分の1まで下がったというデータがあったりですとか。血圧に関しても改善するなど、いろいろと提言されていることがあります。

睡眠改善で事故を予防

睡眠そのものからちょっと逸れてしまいましたが、ホワイトカラーと言われるような、さきほどの保健師さんなどではないところでも、睡眠時無呼吸症候群に取り組む必要があると、この数年は本当に話題になってきております。

昨年も例えば、ローソンにおいて睡眠障害や無呼吸障害などのさまざまな治療をさせていただいておりますけれども、そのあたりは本当に大事になってくるだろうと思います。例えば、日の丸交通さんと無呼吸症候群の対策を実際にやっております。具体的にタクシー、バス、トラックなどは、非常に睡眠障害や睡眠無呼吸障害の対策が必要になってくる領域です。

日の丸交通さんでは、社長の富田さんという方が、しっかり取り組みたいと(対策を取られています)。その背景として、やっぱり事故が起こるんですね。いろいろな事故が起きたときに、その原因として明らかに睡眠障害、睡眠時無呼吸障害が関わっているものが散見される。

3分の2ぐらいがそうじゃないか、という話になっています。そこで検査や治療をしたことによって、どういう変化があったかというと、これはタクシー会社さんなので、今はデジタルプログラムのようなものを使って、急発進が8.7パーセント低くなったとか。急加速が34.7パーセント減った、急減速が14.1パーセント減った。要するに、事故を回避できる可能性が高い運転パターンに変わってきたという結果が出てきています。

さらに、個々の運転手さんの売上自体も上がってきました。これは考えていただければ、例えば、睡眠障害とか睡眠時無呼吸障害のある運転手さんはきちんと寝ているタイミングに、なかなかリフレッシュできていない可能性があると。

(そうすると)仮眠するタイミングも増えたりするかもしれませんし、しっかりお客さんがいる時間帯でも、そのへんに停まって、一発長い睡眠を狙ったりですとか。これは社長さんのお話ですけれども、実際になるほどなと思わせるようないろいろなことがありました。

ですので、こういった取り組みもされているという状況でございます。さきほど小林さんがお話しされたことは、実際にいろいろな医学的根拠がございます。

誰もが思わぬ悲劇の当事者になる可能性がある

話が一気に変わってしまって申し訳ございませんけれども、例えば仮眠ですね。「仮眠がいいですよ」ということに関しても、結果論ですが、例えばアメリカのバスケットボール選手でゴール率の改善があったとか、いろいろあります。

ただ、我々の世界でもエビデンスとされるものがいろいろあります。睡眠時無呼吸症候群は怖いんだよとか、睡眠障害は怖いんだよというお話をしましたけれども。そもそもそこまで行かなくても、しっかりと日々の生活の中で意識できることがいろいろとあるのが事実だと思います。

私が睡眠について、さらにしっかりやっていこうと思ったきっかけがあります。実は私は、交通事故の居眠り運転などの鑑定を行うことがございます。その中でいろいろなケースがございますけれども、誰でも(事故を)起こしうるんです。何を起こしうるかというと、中学教師が通学中の小学生をはねて、2人亡くなってしまったと。

ブレーキ痕がなくて、「気がついたらぶつかっていた」と。この画像は加工してあって別の交通事故のものなんですけれども、これは実際にあった事故です。この事故を起こした人は29歳の中学校の先生で、(事故を起こす前に比べて)通勤時間が少し増えたんですね。

通勤時間が増えた上に、お子様が産まれてまだ3〜4ヶ月ぐらいのタイミングで、お子さんが夜泣きをしていると。そういう、なかなか睡眠もしっかり取れていない状態で疲れもたまっていました。実はこの方は、睡眠時無呼吸(の症状)もありました。

あとで検査をしたら、無呼吸が発生していました。結局これは非常に凶悪な犯人が、ハンドルを握って小学生2人をはねたというわけではなくて、実は我々の人生の中のあるステージで、重なってしまう可能性のあることなんです。それが一人の人生、また会社を含めて集団責任というものがございますので、かなり悲惨な状況になってしまう可能性があるということです。

明日の(仕事などの)パフォーマンスに関しても関係しますし、このような悲惨な事故を減らすという観点でも、睡眠に関して多くの方々がしっかりと知識を持っていただくことが、すごく大事だと考えている次第でございます。

私からの発言はこれで終わります。ありがとうございました。

(会場拍手)