起業のきっかけは、「父のリストラ」と「起業家との出会い」

アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):まず、鬼頭さんが起業しようと思ったきっかけについて、教えて下さい。

鬼頭政人氏(以下、鬼頭):起業しようと思った原体験のようなものが、2つあります。1つは、小6の時に親父がリストラされたことでした。

「政人、ちょっといい?」と呼ばれて、親から状況を伝えられ、その翌日から親父が家にいるようになったのがけっこう衝撃でした。「会社員、キツイなぁ…」と思いました。

そして、もう1つは、メルカリ創業者で、当時はウノウ株式会社代表をしていた山田(進太郎)さんと会ったことです。産業革新機構時代に投資先のデューデリジェンス(注:投資先評価のための調査)のためのヒアリングでお会いしたのですが、「凄く格好いい!」「自分もこうなりたい」と思いました。

「上手くいかなくても、折れない心の源泉がアントレプレナーシップ」

藤岡:その思いから、サイトビジット起業にいたるまでの道のりについて、教えて下さい。

鬼頭:最初は「好きなことをやろう」と考えていました。当初、一緒に起業しようと考えていたメンバーと話し、共通の趣味だった読書や旅行関連のサービスを検討していました。「本の作者に会えるサービス」とか、「現地の日本人が海外旅行を案内してくれるサービス」といったものです。

でも、こういうサービスを考えていると、必ず何かボトルネック――例えば、村上春樹さんとどう知り合うのか? 海外日本人のネットワークはあるのか?といったことが生じてきて、挫けてしまう…。所詮、趣味レベルなので、ハードルを超える気力が湧いてこないのです。「自分がやるべきこと」と思えていないところが違うのかなぁ…と感じていました。

そんな時、東京大学の各務教授(東京大学教授、産学協創推進本部イノベーション推進部長)にお話を聞く機会がありました。その時に「事業なんて上手くいかない。上手く行く事業も上手く行かない場面が多い。それでも心が折れないか。折れない心の源泉がアントレプレナーシップだ」と言われました。

好き、得意、ニーズが重なる「法律」「勉強・学習」分野での起業を模索

鬼頭:そこから「自分がアントレプレナーシップを持てる事業は何か?」と考え始めました。そして、起業には「好き」に加えて、「得意」と「ニーズ」という3つの軸が必要だと思い至りました。

自分にとって、この3つが重なる領域は「法律」と「勉強・学習」の2つだと考え、これを深掘りすることにしました。

最初は「キャリア教育」をしようと考えました。これは、自らのキャリア選びでの模索経験からです。通っていた高校の偏差値が高く、「難関攻略が可能」という意味で医学部に進学する人が多くいました。

僕も当初医学部志望でしたが、医学部=医者という職業にほぼ決まることを疑問に感じ、外交官志望に変更しました。しかし、これも当時の外務大臣の揉め事をきっかけにやめてしまいました。そして、「とりあえず法律勉強しておくか」といった感じで弁護士になったのです。

法律は結果として肌に合ったと思いますが、それを知る機会はありませんでした。「自分に向いていることを知り、選ぶのは難しい」という経験から、キャリア教育をやりたいと思ったのです。

2013年頃、女子校の先生にヒアリングしたり、伝統芸能のお店に行ったりして職業体験コンテンツを集めようとしました。

ちなみに社名の「サイトビジット」は、「sight(視点)」と「sitevisit(工場見学)」という意味を込めたものです。キャリア教育に取り組んでいた名残です。

でも、いろいろ検討した結果、「この分野はビジネスにならない」と思いました。NPOにはなりたくなかったので、他のビジネスを探すことにしました。

藤岡:そして、資格スクエアに向かったのですか?

鬼頭:いいえ。もう一段階あって、次は弁護士業に行きました。僕がいた弁護士事務所はとても良い事務所だったのですが、知名度が高くなくて「もったいない」と感じていました。いい仕事をしている弁護士=客の多い弁護士とは限らないので、弁護士と企業のマッチングビジネスを検討しました。

しかし、弁護士法72条(注:非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)に抵触する可能性があり、断念したのです。今だったらこの分野でもいろいろと考えられると思うのですが、当時はなかなか難しいかな、と感じていました。

「資格スクエア」の誕生

鬼頭:そして、資格スクエアのアイデアに至りました。僕が司法試験を受けようとしていた頃、多くの人は塾に通っていました。しかし、僕は奨学金生活で100万円もの塾費用は払えない…と悩んでいたことを思い出しました。

また、資格を取得しやすくすることは、優秀層が医者ばかり目指す歪みの解決に繋がるのではないか、という思いもありました。

藤岡:どのように「資格スクエア」を形にしていったのですか?

鬼頭:僕はウェブ業界の出身ではないですし、塾に行った経験もなく、相談できる知り合いが全くいなかったのですが、当時、産業革新機構に付き合いのあった弁理士の先生がいて、その方が偶然、資格試験学校の人気講師だということがわかりました。

僕が「資格スクエア」のアイデアの話をすると、二つ返事で「やろう」と言われ、背中を押していただくこととなりました。

もともとは3人で始める予定だったのですが、1人は家族の反対があり、もう1人は仕事が辞められず、僕1人になってしまいました。しかし、産業革新機構にはすでに辞意を伝えていたので、1人で起業することとなりました。

そうして立ち上げた当初のサイトにはロゴもなく、論文の過去問などを見放題にするというモデルでした。弁理士事務所にファックスを送って営業すると、問い合わせもありましたが、クレームの電話やメール、内容証明まで届いて大変な思いもしました。

それでも、申込みもあり、最初の有料ユーザーの方が弁理士試験に合格し、「これはいける!」と手応えを感じました。本当にうれしかったです。売上は大きなものではありませんでしたが、順調に増えていきました。

「安すぎて不安」と解約が続く危機も、テッククランチ掲載で流れが変わる

鬼頭:ところが、塾に比べると破格の料金設定が「安すぎて不安」と解約が多く、説明の為に広告を入れたものの売上に繋がらない状況に2014年頃陥りました。

そして、資本金や借入等による数千万円の資金が、あっという間になくなっていきました。いろいろなベンチャーキャピタルに資金調達依頼に行くものの、資格試験教育のマーケットサイズの小ささから断られていました。

僕自身1年間役員報酬ゼロで、預金通帳を見ては「あと何ヶ月もつか…」と戦々恐々としていました。

藤岡:資金が底を着くような状況から、どのように立て直していったのですか?

鬼頭:2015年2月、初めてテッククランチに掲載され、たくさんの方々に知っていただけるようになり、一気に売上が上がりました。

苦しんでいた資金についても援助して下さる方が次々現れ、大手パソコン教室のアビバ等との提携話も出てきました。そして、順調に業績が伸びていきました。