ビーバーブレッド代表の割田氏が登壇

司会者:では続きまして、アトヒャク様(※注:=「後の100年」。ベンチャー企業やクリエーターなど、日本橋に新たな息吹を吹き込む企業)にご登壇いただきたいと思います。私からまた簡単にご紹介をさせていただきます。

本日アトヒャクとしてご登壇いただくのは、ビーバーブレッドの割田健一様です。埼玉県のご出身で、高校卒業後、プランタン銀座の「ビゴの店」にて修行されたということです。2007年にはモンディアル・デュ・パンという世界大会の日本代表にも選抜されたとおうかがいしております。

2017年に銀座をあとにして、同年11月からビーバーブレッドをオープンされて、日本橋にお越しいただいたということになっております。簡単ですが、それでは割田様、お願いいたします。

(会場拍手)

割田健一氏:おはようございます。非常にこの……喋りにくい中(笑)。

(会場笑)

15分ってけっこう長いんですよね。一人で喋るのはけっこう怖いんですが、ちょっと喋らせてもらいます。

去年の11月21日に東日本橋に(店舗を)オープンさせてもらいました。東日本橋3丁目で、こういう佇まいのお店をやらせてもらっています。

なんとなくフリートークは苦手なので、フリップ式にできたらいいなと思って。ちょっとお題を挙げさせてもらいました(笑)。

「ビーバーブレッド」の店名の由来

店名の「ビーバーブレッド」は、なんでビーバーブレッドなんだ、とよく言われるんですが、もう響きです。パンは「ベーカリー」「ブーランジェリー」「ベイク」というように、頭文字に「B」がつく言葉をけっこう使われるので。なんとなく「Bなんとか」というお店にしたら、パンのイメージがつくかなという。

お酒を飲んでいるときになんとなく言ったことがそのまま残ってしまったんです。包材の発注が1番時間がかかるんですよ。だから、結局オープン前にもう決めなきゃいけないというところで、まったく決まらず。

うちで一緒にやっていたメンバーの子どもが、「ビーバーの歌」というのをYouTubeで見ていたらしくて、「ビーバーいいじゃん!」という話になって。B.B.キングとか、こういう響きがちょうどいいのかな……なんて勝手に思っていたんですが、なぜか「ビーバーブレッド、いいんじゃない?」と言われて。

自分は、お店をやるのに「動物の名前はないだろう」と。しかもビーバーって……というところがあったんですけれど、名前でどうこうなるんじゃないのかなとは思ったので、もうなんでもいいだろうと(笑)。

ただ、この店名は、うちの4年生と2年生の子どもが一発で覚えましたね。前職は「ブーランジェリーレカン」というお店を立ち上げたんですが、ひと言も言ったことがないですね……。

(会場笑)

なので、なんとなく響きというか、覚えやすい名前で。濁音をつける名前はなかなかないらしいんですが、今となっては「ビーバーブレッド」で良かったかなぁ、と思いながら。なんとなく「BB」と呼ばれていたり、いろいろと「ビーバーが……」ということがあって、おもしろいかなと。

ラジオでジャスティン・ビーバーが流れたら、ビーバーブレッドをちょっと思い出して、うちにパンを買いに来(てくれ)たらちょっと良いかなと思いながら、たまに店内でも、ジャスティン・ビーバーをかけたりしています(笑)。

(会場笑)

なんとなくついてしまった名前なので、これで一生懸命やっていこうかなという感じの名前の由来です。

大人が食べたくなる、昔ながらの日本のパン

「なぜ東日本橋でパン屋さんを始めたのか」。僕はこの界隈を7~8年くらい前から知っていたんですけれど、パン屋さんがないんですよね。あるのはこのマンダリン(オリエンタル東京)というか、この建物の1階にはもちろんあるんですが。「この街にパン屋さんがない」というところから、「やりたい」と言う友人がいたんです。

だったら、「街づくりの一環としてパン屋さんを出したらどうだ」というところから始めました。だからやっぱり、ないところに必要なものを作る。あとはパン屋さんが街にできることで、どういう感じで人の流れが変わったりするのかなという目線から意外と考えたので、良かったのかなと。

僕は18歳からずっと働いていますけれど、僕らのパン屋さんは「最終的にどうなりたい」「どうしたい」といったものが、いろいろあります。その中で、自分が技術や経験……良い思いも悪い思いもしてくるんですが、それを街の人たちのために技術を提供すると言うか。

(パンに)技術を落とし込んで、食べてもらうというところを考えていたときに……銀座だと自分の想いがヒットしなかったんですよね。なので、この(東日本橋の)人たちのために20年やってきたことを落とし込めたらいいな、という。カッコ良く言うとそういう感じですかね(笑)。次行きます。

「看板メニュー」。もともと僕は街のパン屋さんで働いてきたことがまったくありませんでした。クリームパンやあんパンのような、みなさんが知っているパンでも、大人になるとなかなか食べませんよね。

僕は今年41歳なんですが、クリームパン、あんパン、メロンパン、カレーパンというものは、なかなか僕の年齢になってくると食べないと思うんです。でも、「僕らの胃袋が食べたくなるようなものをまず作ろう」と思っています。意外とうちは日本の昔ながらのパンを作っているんですが、全部大人味ですね。

なんとなく、自分が食べたくないものは(お客様も)食べたくないのかなと思って、やっています。だから基本、看板メニューは、そういう昔ながらの日本にあるもの。あとはちょっと、今時は「スーパーフード」と呼ばれているような、カカオニブやマカンボなど、なかなか出回っていない食材を、日本のパンと一緒に合わせて。それで、ちょっとオシャレっぽく見せてやっていっています。

誰もが知っている懐かしいパンをリノベーションする

「日本の懐かしパンのリノベーションの思い」。これもさっきと話は一緒で、クリームパンをもうちょっと食べやすくしたり、人にあげられるものにしたり、オシャレにしたり。1番(ネックなの)は、クリームパンは300円で売れないんですよ。

やっぱり200円くらいが無難なのかなぁと思うんですが、それを300円で売りたいな、というところもあるんです。やっぱり良い食材を使いながらリノベーションすることで、もともとあるパンにもうちょっと付加価値をつけられないかな、といったことをやっています。

日本のパンは、今までなかなかリノベーションさせてこなかったことに気づいて。フランス人だって、もともと昔からあるお菓子などをもっとリノベーションしているんです。だけど、メロンパンとかそういうパンをリノベーションする人が、今までいなかったことに気づきました。それをやったら、少し良い仕事ができるかなと思ってやっています。

これは、クリームパンの中にリコッタチーズが入っているので、お酒を飲みながらいけます。あとは、生地の中に少しフランスのスパイスを入れています。お酒を飲むときにも良いような隠し味を入れてやっています。これは250円ですが、こんな感じで(パンを)リノベーションしています。

あとは「いろんな人とコラボレーションする理由」というところで。結局、自分一人で生きていないということと、いろんな人たち……例えば僕は、「肉シェフ」と呼ばれている、銀座のマルディグラの和知(徹)さんに食材を作ってもらって、うちで1,000円のホットドッグとして売っているんです。

結局、自分たちで一生懸命考えて、最高のホットドッグを作ろうと思っても、限度があるんです。そういうおいしい食材を作れる人にお願いしてやることで、時間の短縮・作業の短縮もできるんです。やっぱり、おいしいものを出したいというところで、いろんな人たちとコラボレーションしたり。

あとは、宣伝を自分のお店の手でやるよりも、コラボレーションしたり関わった人たちがいろいろと、勝手に宣伝してくれるんです。お金をかけずに宣伝することは、なかなか難しいんですよ。

いかに口コミをさせていくかも考えた上でコラボレーションすると、いろんな人たちがいろんな角度でお客さんを呼んでくれます。いろいろと関わりながら仕事をしたほうがおもしろいかなと思ってやっています。

このコラボレーションの話は、本当に(話そうと)すると1時間くらい喋りますが(笑)。

(会場笑)

600円のパスタパン、1,000円の究極のホットドッグ

次に行きます。「si.si.煮干啖」というお店で、高山さんという肉シェフの方が、煮干しパスタのお店をやっています。彼の煮干しパスタをうちで焼きそばパンのように挟んで、「Si.Si.ニボパン」という名前で出しています。これは600円します(笑)。

いい値段を取られるんですけれども、パスタはすごくおいしいんです。si.si.煮干啖もお客さん(がたくさんいるので)、昼間80食くらいでもう完売してしまいます。そこと一緒にやることで、(パスタが)なくなってしまったら今度はうちに来て、これ(Si.Si.ニボパン)が残っているとラッキー、という感じで買っていただいたりしています。

これは、さっきのマルディグラの「MGドッグ」で、定規を当てると、17~18センチくらいのホットドッグです。これは、シェフ自ら作ってもらっているので、1,000円でも安かったかなと。

これも今は予約でいっぱいで、まだ入荷待ちです。しばらく食べられない状態のものですが……(笑)。どうせホットドッグを食べるならおいしいものが食べたいかなと思って、究極のホットドッグを2人で作りました。

(表示されたスライドを見て)「本気、真剣勝負」です。チャラチャラ・ふわふわと、毎日お客さんと接していますが、一応僕、このビーバーブレッドがコケたら、仕事がなくなるんですよ。

(会場笑)

だから、東日本橋だろうが銀座だろうが、けっこう一生懸命にやっているという話が「本気」というところですよね。

僕は今のところ、いろいろと食べ物の仕事やメディアにも取り上げてもらって、偉そうに喋ったりしていますが、ビーバーブレッドがコケたら、僕は仕事がなくなるので。

そうならないように、100年先の想像をして仕事をするのはなかなか難しいんですが、なんとなく5年、10年くらいの先々、今の自分がどうやっていけばいいだろう、という種まきはすごく一生懸命しています。

それをいかに、「やっています!」というところを出さずに(やれるか)……パン屋さんなので(笑)。ちょっとナチュラルにやっていかなきゃいけないので。

(会場笑)

そこの温度差がなかなか難しいなと。僕は意外と強面に思われるので(笑)、そういうのもナチュラルにうまく出していかないとなかなか難しいかなと思って。でも、これは本当にコケたら……ヤバイので。

(会場笑)

一生懸命やっています(笑)。

おいしさと生き残りを両立する価格

「一つひとつの価格は決して高くはないのですが……値段に込められた思い」。昨日も背広を着た方2人が、うちのお店(について)、「まぁまぁいい値段取るんだよ」という話をしながらすれ違いまして(笑)。

(会場笑)

でも、生き残るために価格はちゃんとつけています。銀座レカンというところは、たぶん日本でも良い食材を使っているお店の1つだと思います。だけど、僕もパンにすごくおいしい材料しか使わないので、値段はすごく高いんです。だから、それをちゃんと計算した適正価格をつけているので、この値段になってます。

「高い」と言われるんですが、食べたら違うと思います、というところなので。あとは手作業で作っているので、コンビニのおにぎりとは違うんです。もっと値段を上げてもいいのかもしれないんですが、生き残るために、そのバランスは必要なんです。

「価格が高い」と言われても、そのぶん良い材料を使っています。そう言われてもしょうがないかなと思いますけれど、手作りのパン屋さんは、なんとなくコンビニとは比べていただきたくないんです。まったく別物だと考えてもらって、買っていただきたいなと思ってやってます。ありがとうございました。

(会場拍手)