人だけでなく、動物すら惑わすプラセボの力

オリビア・ゴードン氏:もしあなたが「ココナッツオイルは全ての治療薬だ」と誓う生き証人を知っていたら、プラセボ効果について知っているかもしれません。それは実際には医薬的な力のない、例えば糖衣のようなもので、ただそれが効くと信じている人には実際に効果があるというものです。

ところが、奇妙なことに動物もまたプラセボに惑わされているようです。彼らは薬が何か知らないのですが、それは間違いないことのように思われます。

なぜこういった効果が発生するのかについて、科学者はいくつかの考えを持っています。そして彼らの存在が、科学的な研究において、特に薬の試験において、深刻な影響を及ぼす可能性があります。

プラセボ効果が我々の内部で実際にどのように働いているのか、多くのことは知りません。しかし服用するものが、自分を苦しめるものを治療する力がおおいにあると信じています。

犬やラットや他の動物がプラセボに反応するように思われることが奇妙なのです。犬はピルが壊れたものを治すということはもちろん、そもそもピルが何か知りません。それでも、その効果は複数の研究で記録されています。

モルヒネの効果が切れても、痛みに立ち向かうラット

例えば2012年の研究では、19匹のラットのグループが、ご褒美をもらうために痛みを伴う熱源に顔を近づけるよう訓練されました。

それからモルヒネを注射され、ご褒美を再び与えられました。モルヒネは痛みを鈍くするので、彼らの熱による苦しみは普通よりは少なかったのです。鎮痛剤の代わりに生理的食塩水を投与された8匹は、理解できることですが美味しいご褒美にあまり興味を示さなかったのです。

数回これを繰り返したのち、研究者たちはどちらのラットのグループにも生理的食塩水を注射することに切り替えました。元からモルヒネを与えられていたグループは、もう鎮痛剤の効果がないにもかかわらず未だ熱に勇敢に立ち向かう姿勢を見せました。

彼らにとって生理的食塩水はプラセボの役割だったのです。おそらくそれは条件づけによるもので、個人が特定の合図に対してある方法で反応するよう訓練されることです。

条件付けだけでは説明できないプラセボ効果

これは有名なロシアの生理学者のIvan Pavlovにより、ジューシーなステーキとベルの音を関連付けるよう訓練された犬での実験を通して作られた現象です。結局、この音のみで犬がよだれを垂らし始めるのに十分でした。

条件付けはある特別な種類のプラセボ効果へと導く可能性があり、薬に対する反応がプラセボを与えられた経験ととても強く結びついているとき、本物の薬の投与が中止された後でさえ体が反応し続けるのです。

2012年の研究で、ラットで見られたように。彼らは注射と痛みの和らぎを関連付けるよう条件づけされており、注射の中身が変わっていても痛みは鈍くなったのです。

しかし、かといってすべての動物のプラセボ効果が条件付けで説明できるわけではありません。

注意を引くために良い反応を返す動物

例えば2010年のメタ解析では、てんかん治療を検査した3期は3つの研究が調査されました。研究者たちは、プラセボのグループの28匹の犬のうち79%が、発作が少なかったことを発見しました。このことは、これらの研究では条件付けが効果があったという可能性が低いということになります。

とはいえ科学者たちは、本当のプラセボ効果で物事の説明がつくということに100%納得しているわけではありません。「Hawthorne効果」と呼ばれるものが代わりの犯人かもしれません。

それは誰かが、もしくは動物が、研究に関与するだけで改善するというものです。なぜなら、研究対象は密にモニターされ、ケアされているからです。基本的に彼らはより多くの注意を引くためにより良い反応をするのです。

それは本当にプラセボ効果かもしれません。犬ではなく、研究に関わる人たちのほうが。

研究者側に起こりうるプラセボ効果とは

お世話をする人のプラセボ効果は、研究者たち、もしくは動物の所有者が「この治療は効果的だ」と期待しているならば起こりえます。それは彼らが改善の報告をする可能性をより高くするからです。

例えば2017年の文献調査では、関節痛をもつ猫に関する5つの研究を再分析し、「プラセボを投じられた、およそ半数から4分の3の猫が改善した」と飼い主に分類されていたことが分かりました。

しかし、より客観的な方法を用いると、10%から63%のみが実際に改善したということで、改善されたと思われたもののいくらか、そうでないならほとんどは、飼い主の頭の中でのことだということを示唆しています。

この種のプラセボ、もしくはそれに似た効果が動物に起こることは、本当に大きなことです。なぜなら、我々は動物の研究をたくさんしているからです。

プラセボは根本的な原因を治療するわけではない

薬は獣医によって処方される前に、我々の薬に対して行うことと似た臨床試験を受けます。そして多くの我々の医薬品は、人間で試験される前にしばしば動物で試験されます。

プラセボ効果は、「魔法の薬」のようなだめなものを作ってしまう可能性があり、特に危険をはらんでいます。なぜならプラセボは、根本的な原因を治療するというより、通常症状を改善するだけだからです。

がんに冒された動物はプラセボによって病気が弱まったようにふるまうかもしれませんが、それでも腫瘍は成長しているかもしれません。もしくはその対照グループが過度に回復した場合、良い薬が効果がないように思わせてしまう可能性もあります。

動物におけるプラセボ効果。それが臨床試験にどのように干渉する可能性があるのか。それは、思わぬ危険を最小限にするような研究を計画する助けとなるでしょう。なぜならその現象は、そうあるべきでないと思われたとしても間違いなく存在するからです。

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