日本の高齢者は幸せなのか

大石佳能子氏(以下、大石):みなさんこんばんは、大石です。よろしくお願いします。今、安宅さんから「日本は高齢者に社会保障のお金をいっぱい突っ込んで、未来に投資できていない」というお話を聞きました。じゃあ、そのお金は有効に活用されているのか、また高齢者はそれによって幸せになっているのか、ということを私からお話したいと思います。

(スライドを指して)これが医療費と介護費ですね。それらを足し合わせた金額を見せています。ご覧のとおり、右肩上がりに上がっていて、だいたい毎年1兆円ずつ増えています。平均すると、年9パーセントくらい増えているという状況です。

これは誰に使われているのか、ということなんですけど、健康の問題ということを考えると、実は75歳というのは健康の大きなターニングポイントなんです。

(スライドを)ご覧いただくとわかるように、75歳を越えると、介護が必要になってくる人、認知症の人、入院しなくちゃいけない人は、加速的に増加するという状況があります。

75歳以上の人は今、国民の13パーセントくらいしかいないんですが、こういうことを背景に、だいたい医療費の1/3を使っていると。また、介護費は9割方が75歳以上の人が使っているという状況があります。

じゃあこれが、どういうふうに有効に使われているのかということと、ご本人にとって幸せなのかということをお話したいと思います。例えば、認知症の話。日本は年齢を補正しても、諸外国に比べて認知症の患者さんが多いと言われています。これはなぜなのか、ということは後でご説明します。

その(原因の話の)前に、日本で認知症になるとどこで過ごすのか、ということをお話したいと思います。

これ(スライド)をご覧いただきますと、実は日本の認知症の患者さんの15パーセントくらいは、精神病院に入れられてるんですね。イギリスやフランスなど、ほかの国では、認知症の患者さんを精神病院に入れる国はほとんどないわけなんですよ。

もちろん、自分や親が認知症になって精神病院に入れられるのって、イヤじゃないですか。でも、もう1つの問題は、精神病院をはじめとした病院に入ることは、非常にお金がかかります。

これは1人の方が入院した場合と、家で過ごした場合(を比較したグラフです)。家にいたときには、当然、医療と介護を家で受けられます。

治療だけではなく、予防や病後のケアが重視されている

これで(入院と自宅療養を)比較したときに、どの程度のコストの差があるのかということを見ると、だいたい3:1なんですね。要は入院は、家で療養するのときの3倍のお金がかかるということです。ですから、1人が入院するお金で、3人が在宅で医療・介護を受けながら療養できるわけなんです。

しかも、もう1つの問題は、高齢者の場合入院自体が非常に大きな健康上のリスクになってくるということです。みなさんの中でも入院されたことがある人はおわかりになると思いますけど、長い間入院すると、時間の感覚がわからなくなったり、立ち上がりにくくなる。そういうことを経験されたことがあると思うんですけど。

高齢者の場合は、それがもっとひどく出るんですね。とくに認知症の場合は、入院が1週間以上続くと、歩けなくなったり食べられなくなる。ということで、全身状態がどんどん衰弱していきます。ですから、入院をするということは、「コストをかけて高齢者の生活能力を奪っている」ということでもあるわけなんです。

ちょっと引いて見たときに、日本だけじゃなくて世界的に、今、疾病構造というものが大きく変わっています。昔は結核のような、要は薬で治療ができるものが中心でした。ですが、最近の大きな疾病は、認知症であったり、もしくは糖尿病のような生活習慣病というものが中心になってきます。

そうなってくると、単に治療だけではなくて、どうやって予防するのか。なってしまったあとに、どうやって悪化を防止するのか。また、病気を抱えて生きるためにどういうふうに環境を整備するのか、ケアをするのか、というところが重点になってきています。

じゃあ、どういうふうに予防すればいいのか。なにをすればいいのか、ということで1つ例を申し上げます。例えば認知症の場合、アルツハイマー病は食事で予防することはできません。だけど、認知症の中には、脳血管障害であったりアルコール性の認知症だったりという、食事で予防することができるものもあります。

また、アルツハイマー病であったとしても、食事にちゃんと気を付けることによって悪化を防止することはできるわけです。例えば、高齢者の食事ということを考えたときに、こんなお写真。日野原(重明)先生は、105歳までほぼ元気で生きられました。日野原先生は週に2回くらいステーキを食べて、野菜をたっぷり食べて。そういう生活を送っておられたわけなんですね。

なので、やっぱり、高齢者にとって栄養がきっちり摂れることは大事です。例えば、コレステロールを気にして卵や肉を食べなかったり、さっぱりとしたものを食べてあとは青汁を飲んで、というのは結果として血管を弱くし、筋肉を弱くし、認知症を悪化させる。こういう問題があります。

「社会参加」がアルツハイマーの予防や悪化防止につながる

もう1つ、予防や悪化防止に大事だと言われているのが、社会参加です。この左側のチャートは、アルツハイマーになった方を数千名、亡くなったあとに死亡解剖をして、脳の状態を見て、それとちゃんと生活能力が保たれていたかどうかということを調べたというものです。これは海外の論文なんですけれど、(そんな研究が)あります。

その結果わかったことは、目的を持って社会参加をしていた人は、アルツハイマー病が悪化していたとしても、かなり生活能力が保たれていたということがわかりました。しかしながら日本の場合は、社会参加というのは圧倒的にほかの国に比べて少ない、という状況があります。

海外では、この社会参加によって、予防や悪化防止を非常に重視しています。例えばイギリスでは認知症になったらまずなにをするかと言うと、iPadを配って使い方を覚えるんですね。それで、教えるのも認知症の人。

ということで、iPadがあると、出歩かなくなったとしても、そこで社会と繋がることもできる。自分のニーズも伝えられる。ということで、こういう取り組みもしています。

また、家の中などの環境を整備することによって、例えば引きこもりを減らすこともできるということがわかってきました。例えば、廊下と自分の部屋の色が、廊下のほうが暗いと、そこが穴に見えて怖いから、外に出られないんですね。

それを変えることによって、どんどん外に出られたり、ふつうの社会生活を送ることができる、ということがイギリスで研究されています。またそういう研究をもとに、街も作られています。

世界は介護人材不足にどう対応しているか

今までコストの話をしましたが、コストだけではなくてもう1つの大きな問題は、介護の手が足らないという問題です。介護人材が、これからどれだけ足らなくなってくるのか、というのを控えめな試算をした厚労省のデータがあるんですが。それでも、郵便局と警察に勤めている人を全員動員してもまだ足らない、という状況があります。

海外ではこれ(介護人材不足)にどう対応しているのかというと、例えばセンサーを使っています。これはオランダの例なんですけれど、センサーで夜間の見守りをする。それによって50人の高齢者を、1人の人が見守っている。日本では制度的な問題もあって、だいたい15人を1人が見守っているので、3倍の生産性の差があります。

いろいろな実際の経験上でも、先ほどの日野原先生みたいに最期まで元気な人もいますし、要介護になったとしても、この絵のようにちゃんとしたリハビリ的なことをすると元気になって、また自分で自立できるということもわかってきました。

要は、今使っている医療費や介護費をそのまま(使っていく)というのではなく、病気になってから治すのではなくて(予防するとか)、むやみに入院させないであるとか。

高齢者の自立を奪う過度なお世話介護ではなくて、しかもそれを人海戦術でやるのではなくて、予防や悪化防止に力を入れるとか。または、自宅や高齢者施設で自分らしく自立して過ごせるように、テクノロジーや環境を使っていく。

これが元気な高齢者を作って増やして、その結果、コスト効率を上げて、より必要な、もっと重たい(症状で困っている人の)ところに介護費・医療費を掛けられるように。(そうすれば)若者にとっても高齢者にとっても幸せな社会作りができるんじゃないか、と思っています。ありがとうございました。

小泉:ありがとうございました。

落合:ありがとうございましたー。

小泉:とうとう2回目の(終了の)チャイムまで鳴るという。

落合:いやもうこれは、5分で語る内容をみなさん、20分ぶんくらい用意してますからね。

小泉:次の3人目は、とうとう落合くんが。

落合:え? 僕はたぶん1分くらいで終わったほうがいいですよ。

小泉:だけど今、大石さんはもうすでにアクションプランにつながるようなことも含めて投げてくれましたね。