ヒトの脳はなぜ、ゴリラやチンパンジーよりも大きくなったのか?

Do Animals Appreciate Music?

ヒトがこの地球でこれほど繁栄できた理由の一つは、大きく発達した脳のおかげと言えるでしょう。ゴリラやチンパンジーに比べて、人の脳は3倍も大きいのです。ではなぜ、私たちは大きな脳を手に入れることができたのでしょうか? 今回のScishowでは、長年にわたって研究者たちを悩ませてきた謎について解説します。

脳内の神経細胞の数を増やす遺伝子は人間にしかない

ステファン・チン氏:自慢したいわけではないですが、大きな脳みそが欲しいです。誰だってそうですよね。ゴリラやチンパンジーと人間の脳の大きさを比べると、なんと3倍もの違いがあります。

この並外れた大きさによって、人間は月に向かい、ピアノを弾きこなし、YouTube用の動画を作れるのです。ですが、人間がこうした大きな脳をどのように手に入れたかは、研究者たちを長年にわたって悩ませてきました。

つまり、神経細胞をより多く含む上で、遺伝子的に何が起こったのでしょうか。その手がかりがついに見つかりました。

アメリカとヨーロッパの2つの研究者チームは、昨日Cell誌に、脳内の神経細胞の数を増やす、人間にしかない遺伝子を特定したと発表しました。その遺伝子は「NOTCH2NL」と呼ばれ、ゲノムの中に一度だけではなく三度も現れます。

チームはオルガノイドで実験を行った際に驚愕しました。オルガノイドとは、幹細胞を用いてペトリ皿の上で作られたミニチュアサイズの単純な臓器です。

オルガノイドは立体的な構造を持ちながら成長するため、通常の細胞培養よりも本物に近い状態を調べられます。さらに研究者チームは、脳の成長の初期段階を研究する上でとくに役立つ、小さな脳も手に入れました。その上で、どの遺伝子がオンになったりオフになったりするのかを調査したのです。

するとNOTCH2NLは、人間のオルガノイド上では極めてオンになりやすい遺伝子の1つであることが分かりました。さらに重要な点として、アカゲザルから作られたオルガノイドでは、NOTCH2NLの信号が発生しませんでした。

実際、研究者チームが調べてみると、アカゲザルはNOTCH2NLの遺伝子を持ってさえいなかったのです。人間特有のものですが、無くてはならない働きをしているわけではない遺伝子はたくさんあります。

脳は3~4万年前から大きくなり始めた

ですが、この発見は非常に興味をそそるものです。なぜなら、オランウータンもNOTCH2NHを持っていなかったからです。チンパンジーやゴリラにはNOTCH2NHに似た遺伝子がありましたが、どちらもタンパク質を作り出せませんでした。

こうした遺伝子は偽遺伝子と呼ばれています。通常、機能を持つ3つの複製と、1つの機能しない複製がなされます。遺伝子学者はこうしたDNAを比較することで、8万年前から14万年前の進化の過程において、NOTCH2と呼ばれる遺伝子が部分的に複写されたのではないかと考えています。

NOTCH2は細胞に受容体を作り、これが臓器の成長における鍵のひとつとなったのでしょう。これは、哺乳類においてこうした作用を及ぼす4つのNotch遺伝子のうちの1つです。

当初はこの部分的複写は何の働きもしていませんでした。多くの猿のなかでただそこにあるだけでした。

ですが、何らかの理由によって、私たちの系統樹においてのみNOTCH2のDNAがさらに上書きされたのです。これによって偽遺伝子は、小さなタンパク質を作り出すために必要なコードを得られるように、ある意味で修復されました。そしてNOTCH2NLが誕生したのです。

研究者たちは3万から4万年前に一連のできごとが発生したと考えています。初期の人類であるネアンデルタール人やデニソワ人などにも起こったと思われます。ちょうどその頃に人間の脳も大きくなりはじめたと考えられています。

その直後、私たちにもう少し近い先祖でさらなる上書きが起こりました。タンパク質が実際にどのような働きをしているかははっきり分かっていませんが、NOTCH2NLが脳を大きくする遺伝子として、まさにはたらき出すきっかけとなったのです。

両チームの研究者たちは、これが神経幹細胞の信号ではないか、と考えています。例えば、幹細胞は自身を複製することも、他の細胞に成長できる細胞を作り出すこともできます。

もしくは神経細胞のように、特定の機能に特化した細胞を集中的に生み出すこともできます。この神経細胞が脳に成長してくれればいいわけです。

人間を進化させた遺伝子の1つは疾患の原因でもある

ですが、先走りすぎて、神経細胞を継続的に作り出すだけの幹細胞が無くなってしまえば、結局は小さな脳しかできません。つまりNOTCH2NLは基本的には自己再生を促す役割を担っているのです。

これは、とくに放射グリア細胞という大脳皮質を作り出す幹細胞に見られます。大脳皮質は脳の最も外側の層で、より高度で精神的な運動を司っていると考えられています。このような神経細胞の成長によって、実験室でも実際の人間にも、多くの変化が見られます。

例えば、オルガノイド上でNOTCH2NLを除去すると、成長は早まりますが、大きさは小さくなります。一方で、細胞培養された人間の細胞に添加すると、より多くの神経細胞が作られました。

さらに、2つのNOTCH2NL遺伝子は1番染色体の中にありますが、神経障害や発達障害の人の場合、この染色体に異常が見られます。この遺伝子が除去されていると、通常より小さな頭になってしまう小頭症を引き起こす場合があります。

遺伝子複製が起こるとまったく逆の問題、頭が大きくなりすぎる大頭症を引き起こすかもしれません。私たちをこの惑星において間違いなく覇者たらしめている遺伝子の1つは、同時に特定の疾患の原因でもあるということです。

これは偶然ではありません。生物学的にはNOTCH2NLの複製と、第1染色体の作成が同じ環境で行われるのは極めて危険です。DNAが連続していると、複製を行うのが難しくなるからです。複製を行う場所を飛ばしてしまったり、同じ箇所を2度複製してしまうかもしれません。

こうした点はDNAシーケンスを難しくしてしまいます。これまで研究者たちが脳の大きさの障害にNOTCH2NLが影響しているとは考えていなかった理由の1つは、着目するゲノムが間違っていたからでした。

実際、問題の遺伝子は近くにはありますが、その領域の外側にあったのです。今では必要なピースが揃っています。依然、ほかの遺伝子が関係している可能性はありますが、私たちの脳を大きくしてくれたのは、このNOTCH2NLと、3回の複製のおかげであるのは間違いないですよ。

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