火星での「巨大な地底湖」発見が意味すること

ハンク・グリーン氏:周囲に注意を払ってみてください。宇宙科学オタクが、そこらじゅうで喜びの声をあげて跳ね回っている様子がわかることでしょう。さきほど、火星で巨大な地底湖が発見されたと発表があったのです!

火星になんらかの液体が存在する痕跡が明らかになったのは、これが初めてではありません。しかし、それは筋状の跡に過ぎず、現れるのも一定の季節だけで、そもそも正体が何かすら確定できていません。

火星では、恒常的な形態としての液体はいまだ見つかっておらず、液体に近いものすら、一定の場所に存在するものは発見されていないのです。

さて、この発見の一番すばらしい点は、火星に生命が存在する、もしくはかつて存在していたならば、その証拠がこの湖で見つかる可能性があることです。

本日(2018年7月25日)刊行の『サイエンス』誌上に寄稿された論文によりますと、イタリアの研究チームが、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「マーズ・エクスプレス」に搭載された「MARSIS」が収集したデータを精査しました。

「MARSIS」は、火星の表面下を探査する地下探査レーダーです。その性能は、地球上で航空機を検知するレーダーに似ており、対象に電波を照射し、跳ね返って来た反射を調べることで情報を得ることができます。さらにMARSISは、電波が貫通したり跳ね返ったりした物質の特性を判別することもできるのです。

研究チームがこの研究成果を得るには、3年の歳月をかけた火星の南極の観測を経る必要がありました。火星の南極は、水が氷結した層に覆われています。ここに電波を照射すると、火星の表面からおよそ1.5キロメートルほどの深度で、周辺の領域に比べ際立って明るく輝く、広範囲にわたる反射を得ました。

火星に生命が存在する可能性は?

精査してみると、それは氷床と水の層境から得られる反射に酷似していることがわかったのです。研究チームはこの層について、氷結した二酸化炭素などの可能性も考えましたが、複数のデータと比較したところ、液体状の水であることが唯一つじつまが合うとしました。

層の幅は20キロメートルに渡り、水もしくは、何らかの堆積物と水との混合物からできているようです。人類史上、もっとも発見が喜ばれた泥層だと言えるでしょう。いずれにせよ、どのような形態であれ、膨大な量の液体状態の水であることには変わりありません。

通常であれば、マイナス68度にまで下がる火星の極地では、液体の水が存在することは考えられません。水が液体状態で存在するならば、おそらくは塩分を大量に含む塩水であり、氷結点が低いことが考えられます。

ここで、誰しもが持つであろう疑問が浮上します。火星の生命の存在について、この発見からはどのような可能性が導き出されるのでしょうか。

あらかじめはっきりさせておくべきなのは、たとえこの地下湖で生命が生息できるとしても、「生命がいる」ことにはならない、ということです。火星に生命が存在する直接の証拠にはなりえないのです。

一方で、心躍るような新たな可能性が出てきます。我々が関知する限り、液体の水は生命活動に必要不可欠です。そのため、他の天体で生命を探索する場合には、水があるかどうかが重要なポイントとなります。

火星では湖や河などが存在する証拠が発見されてきましたが、何十億年もの昔に消失したと考えられていました。つまり、広大な地底湖が発見されたことで、これまで唱えられてきた多くの説が覆ったのです。

水中には数百万年前の微生物がいるかもしれない

とはいえ、この地下湖は膨大な塩分を含む上に極低温で、きわめて過酷な環境です。地球上にも、極限環境微生物のように、他の生命が耐えられないような過酷な環境に棲む、耐寒性の微生物は存在しますが、この地底湖の環境の過酷さはそれを上回っています。

ミシガン大学の宇宙生物学者ニルトン・レノによりますと、地底湖は低温かつ塩分濃度が高く、人類に既知の生物には生存できない環境ですが、だからといって「生命はいない」と断言できないとしています。

表面下に未知の熱源があった場合、想定よりも水温は高く、塩分濃度は低い可能性があります。ひょっとしたら、生命が活動できる範囲かもしれません。

生命の存在について、もう一つの難しい点は、地底湖の湖水に含有されている塩分の化学成分です。これは、我々の日常で見る食塩とはまったく異なるものです。

塩素を含有する過塩素酸塩という成分で、人間には有害です。火星の土壌にはこれが大量に含まれています。もし皆さんに火星の地底湖を訪れる機会があっても、決して湖水を舐めてはいけませんよ。

人間に有害であっても、他の生物にはそうでない場合もあります。地球上には、過塩素酸塩を養分としている生物が存在するのです。

しかし、地底湖の水温が想定より高く、かつ塩分濃度が低くない限り、生物が生きやすい環境とはとうてい言えません。少なくとも、現時点においては結論は出せません。

火星はかつて、現在よりも気温は高く、水も存在していたと考えられています。レノ博士によりますと、何十億年は無理としても、何百万年か以前に生きていた太古の微生物が、水中に封じ込められている可能性はあるとしています。

つまり、この湖の発見により、火星の生物を探索する場の夢が広がるのです。とはいえ、火星に探査船を送り込み、深度1キロメートル半の地下で生命を探索するのは、言うほど簡単なことではありません。しかし、決して不可能ではないのです。