21世紀は見えない経済要素が増える

大前研一氏(以下、大前):こんにちは。今日はサイボウズの力を入れているクラウドについて、話をするようにと言われております。私の最近の考えを伝えられればと思います。

21世紀になってもう14、5年経つというところですけれども、実は、1999年に私は『The Invisible Continent』 という本を書きました。

日本名では東洋経済新報から『新・資本論』という題ででていますけれども「見えない大陸」、21世紀の特徴というのは、従来のリアルエコノミー、見える経済に対して、見えない要素というのが、3つ加わる。経済要素ですね。

サイバー、これは見えません。これの特徴は、見えてる人と見えていない人がいる。会社の事業戦略を考える人は、今まで見えているもので、作っていたという場合に、このサイバーは非常に苦手で、ある人によってはサイバーの方が考えやすい、こういう人もいます。

サイバー空間。私も今、オールサイバーでネットの大学院、経営者の勉強会、そういうのを経営していますけれども、最初にやり始めた頃は、文科省も「なんじゃこれは」というようなことで、説明するのにだいぶ苦労しましたけれども、「図書館がないじゃないか」と言われても、「その辺はちょっとグーグルで」と言っても「うーん」という感じで、大変苦労しました。

(会場笑)

しかしながら、今はサイバーの大学、大学院は珍しくなくなっています。今ではiPod、iPhone、iPadなどを使いながら、iじゃなくてもアンドロイド系でも同じですけれども、それでMBAまで取れてしまうという時代になっています。

国境をまたぐ「3つの産業」

このようなものを構想してつくり出していく時に、1番困るのは規制当局がいろいろな規制を、20世紀型、時として19世紀型のものを持っているのでこれと戦っていくというか、説得していくかというのは非常に苦労します。

それからもうひとつは、これまた私も20年以上前に書きました、89年にボーダレスワールド、基本的にグローバル経済。これは今までの国内経済に対して、国境がない。お金も今、国境をすぐにまたぎますし、通信も国境をまたぐ。

少なくとも、インターネットのルーターというのは、要するに市内通話とか遠距離とかそういうのがなくて、いきなり世界に繋がっていく、そういうルーターの構造になっていますけれども。

グローバル経済、これは特にレーガンのときに通信、金融、運輸というものを規制緩和しました。

その結果、国境をまたぐもの、この3つの産業が特にまたぐのですけれども、アメリカがグーンとそこで世界をリードしたということがあります。

アベノミクスは20世紀経済の象徴

私も学校で教えていて、1番皆さんわかりにくいというのが、マルチプル経済です。マルチプル経済というのは株式市場なんかでいうと、プライス・アーニング・レシオ、PER(パー)と言われていますけれども、株価収益率みたいなものです。

これは将来性が非常にある会社、産業、そしてまた凄いM&Aとかそういうものが、うまい経営者がいるとこのマルチプルが上がります。

株主の方ですね。皆さんの会社の方に実弾を送ろうというのがマルチプルですから、その実弾を高くすると、ドンと打てるわけです。何も打っていないとマルチプルは下がってきます。PERが、例えば、6とか7に下がってくる。

非常に射撃の名手のいる会社の場合には、このPERというのは20、30、40といきまして、小さい会社でも、大きい会社を飲み込むことができるということになります。

今の21世紀の経済というのは、これら4つの要素を自在に使える、そういう経営者というのが要求されてるわけです。考えてみれば当たり前なのですけれども、今のアベノミクスは典型的な20世紀経済です。

金融と財政と成長戦略といっていますが、こういうサイバーの「サ」の字もない。グローバル経済の「グ」の字もないと。マルチプルにいたっては、株価を上げましょうといっていますけれども、しかしながら、そういう新しい経済に関心を持っている人は、アベノミクスみたいなものには関心を持たない。

3つのクラウドが働き方を変える

もうひとつ皆さんが使える道具というのは実は、3つあります。

今日のテーマであるところのクラウドコンピューティング。このクラウドは雲の方のクラウドです。しかしながら、最近はクラウドソーシング。

このクラウドソーシングというのは皆さんの会社で、私が言っているような「21世紀型の人間はいないわ」と言って、そういう人材をどうやってリクルートしたらいいのかと言った途端に、もう遅いです。

リクルートしなくてもクラウドソーシングでしたら、世界のどこかに皆さんの求めているタレントがいればその時だけ時間を貸し、才能貸しで、雇うことができる。

今日いくつか事例を申し上げますけれども、そういう人にうちのフル社員になってくれというのは非常に難しい。アベノミクスですとフルタイムの社員です。

正規社員を増やしてくれと言っていますけれども、20世紀型の考え方ということがわかります。一方、クラウドファンディング、今銀行は新しい会社を作ろうとしたときに、資産も何もない、抵当に入れるものがないというと、お金を貸しません。

しかしながら、いいアイディアをインターネット上に掲示しておくと、それならば、私がお金を出しましょうといっても、一口50万くらい。これがずっと集まってくると最近は、数億円集まるようになっています。

こういう形で世界中の人が、皆さんがスタートする時に銀行に行かなくても、アイディアそのもので、ファンドを集められるようになっている。クラウドファンディング。

この2つのクラウド、2番目3番目のクラウドの方は、群衆という意味のクラウドです。従って、最初のクラウドは、日本語では両方ともクラウドですけれども、こっちはクラウドコンピューティングで、コンピューターが従来のような大きな箱ではなくて、インターネットという雲の向こうにあると、そういうものです。

この3つのクラウドをうまく使うことによって、実は1人でも会社が経営できるし、スタートできる。金がなくても会社が経営できるし、スタートできる。

こういう素晴らしい時代になっているし、大企業にチャレンジをして、一瞬にして大企業の方が―産業の突然死というものを、日経BPで書いているのですが―産業の突然死に追い込まれる。こういうことですね。

スティーブ・ジョブスに続く天才たち

こういうことをやる人というのは、連続起業家、シリアルアントレプレナーといいます。要するに一発成功すると、その会社を売って、2発目をやると。2発目をやると3発目は、うんとやりやすいです。

2回成功したのだからと、お金がすぐに集まってくる。こういうことです。それから、マーク・アンドリーセンのような成功した人がお金を持っていて、嗅覚がすごいですから、この人たちはいいなと思ったら、パーンとお金を入れると。

こういうふうになっています。ですから、スーパーエンジェルという人たちと、シリアルアントレプレナーと。このアントレプレナーというのは、うまく成功して2つ3つやるとその次は自分が投資側に回ります。

それで、若い人を助けるということです。スティーブ・ジョブス、これはすごい天才と言われて、亡くなったらああいう人は二度と現れないんじゃないのかと言っていたら、今はそういう関係の人が結構たくさん出てきています。

ジャック・ドーシーとか、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾスもそうです。こういう人たちが、次から次に現れてきている。グーグルの創業者、ラリー・ペイジとか、セルゲイ・ブリンとか、そういう人たちもお金をいっぱい持っていますし、まだまだ会社を大きくする力を持っていると思います。

電子決済「Square」のすごさ

ツイッター共同創業者の1人、ジャック・ドーシーは、スクエアという会社を作っています。いわゆる決済系、クレジットカードを使う決済系で、スクエアチップというものを、日本ではローソンで800円で売っていますけれども。

こういったもので、従来のようなキャッシュレジスターとかPOSというものをいらない方向に、まさにクラウドの権化というようなシステムを立ち上げようとしています。

もう1人は最近、青山に直営店ができました、テスラなんかの創業者イーロン・マスクです。

ジャック・ドーシーのスクエアですけれども、これはスクエアリーダー、800円ぐらいのリーダーをスマホに刺して、クレジットーカードで決済しますが、これの良い点というのは、いわゆる、クレジットオーソリゼーションターミナル、CATとかそういうものがなくても、個人2人の間で決済できると。

こういうメリットもありますし、小さい商店でキャッシュレジスターを買ってやらなければいけない時に、だんだんと高級なものが欲しくなってくる。

仕入れとかそういうものは受動的にやってくれるようなものが欲しくなる。それから、売掛金なんかを管理するものも欲しくなる。こういうふうにするとちょっとその辺の安いECR(エレクトリック・キャッシュ・レジスター)では間に合わない時には、パッドで、スクエアスタンドとか、それから、こういうシステムでというように。

これは、まさにさっき言ったようにクラウドの権化で、企業経営で、お店の経営に必要な商品管理とか、在庫管理とか、発注とか、支払いとか、それから請求というものを全部クラウド側でやります。

しかも安いところというのは、月々3000円とか、4000円とかいうことですから、どんとした箱を買わないでいいとかいうことです。この人は、ツイッターの共同創業者の1人ですけれど、あっち側の経営には興味がなくなってこれを始めています。

スマホをもつ孫からの質問攻め

ですから、モバイル環境とクラウド。これは非常に、実は相性がいいと。今私は、孫がいますけれど、13歳です。ほとんど私と話をしていても、スマホをいじくりまわしますので、人の話をよく聞けと普通は思いますが、そうではなくて私の話が正しいかどうかを必ずチェックしてるんです。

この私に対してそれをチェックしながら、「おじいちゃんそこのところ違うよ。」こういうことを言い始めます。室町時代に南朝と北朝とに別れた時の話を中学校2年生が聞くわけです。

私の記憶もその辺がちょっと確かじゃないですから(笑)、瞬時に、スマホを取り出しますのでかなわないです。

(会場笑)

この前は、プロテスタントの歴史ということで、カルヴァン派とルター派の違いと、その後どのように別れていったか、というのは、ちょっと私の記憶も定かでないというようなことを、話しながらリアルタイムでアクセスしてます。

私は最近ある雑誌に、「我々電話世代はだいたい司馬遼太郎が電話の向こうで、フルタイムのコンサルタントをしているようなものだ」と書きましたが、そんな感じです。スマホを持ってこういうふうにやられると司馬遼太郎が向こうについていて、13歳というのですから、かなわないです。

(会場笑)

ということで、染色体にもスマホが入ってしまっているような、そういう人が今、出てきています。皆さんも今日私が話すようなことは、どうも俺には時代にあってないと思うのでしたら、娘さん、息子さん、お孫さん、こういう人を会社の中に早く入れたほうがいいです。

アマゾンがザッポスを900億円で買収したワケ

インターンの時代というふうに私は呼んでいますが、要するに会社の中は、20世紀でじっと苦労してきたような人が、ずっと今日まで我慢していたような人に革命を起こせといっても無理です。

ということで、中学、高校生をインターンに使うというのが、実は流行っています。私の方も学生へのインターンを会社にお願いしているのですが、22か23まで、卒業まで待ってしまうとちょっと遅い、ということになります。ましては会社に入ってきた時に、もっと古い人が仕事のやり方を教えているようではだめです。

入ってきた人に古い人に仕事のやり方を教えさすというような発想の転換がないといけない、というぐらい今は、破壊型の人材といいますか、こういった人たちが世の中を大きく変えていくと思います。

アマゾンはですね、本屋さんだと思っていたら、いつの間にか変わりましたね。本というのはもっともインターネットと相性が良い商品です。インターネットと相性が良い商品というのは、私も10数年前にいろんなものを売っていましたけれども、発注した時に間違いのないもの。ということは、私の今年出した『日本の論点』という本になると、プレジデント社。

これは、1対1の対応です。ところが、これは左脳型商品と言いますけれども、飛行機の券なんかも最初にこれにいくんですね。JAL何便の席というと、もうこれ1個しかない、とこのようになります。

これは、インターネットの初期が、ダーっと来たのですけれども、何しろ難しかったのは、実は、右脳型商品。例えば、靴とか、ドレスとかカーテンとかベッドカバーとか、注文してみたら、「私感覚が違うんです」というと、返品の山になります。

ということでアマゾンは本で確立して皆さんへの帳合を取っておいて。それから次第に、家具とか、靴、あとザッポスという会社を買収して靴をやりました。このザッポスの良い点は、アマゾンはそのために900億ぐらい払ったのですが、返品自由です。

合わないときは何着注文しても返していただいて結構です。ところが、そうすると安心して注文してくれて返す。2回目はサイズとかわかっていますから、返す率が減ります。3回目はもっと減る、ということで、これは、先行した人が勝つんですね。

本屋ではなく、世界一の小売を目指す

ドレスもそうです。自分のサイズが違ったということがだんだん減ってきます。だから、ここを躊躇して返品やだな、ということをやっていると、ガサっとやられちゃいます。

気が付いてみると、アマゾンはいつの間にか、そういう商売、世界最大の小売店になっている。ベゾスは自分の会社を創業した当時にシアトルでそう言いました。

私は本屋になるつもりはない。世界最大の小売店になるということを言ったわけですが、今そうなりつつあります。

このアマゾンが今クラウドの世界チャンピオンなのですけれども、そうやって大風呂敷を広げて、コンピューターをドンと買って、すごいキャパシティーを持っている。

日本の場合には、シンガポールにあるやつからやっていると思いますけれども、そういったようなことで、今だんだんと、国境越えると通関業務にもなりますし、基本的には、世界中の商品がうちの品揃えですというから、リアルの店舗というのはかなわないですよ。

ネット時代の「三種の神器」

決済はいろんなところに皆さんがクレジットの情報を入れたくないので、1ヶ所に集まる傾向があるんですね。それがまさにアマゾンの狙い目であります。

本で狙っておいて、日本の場合には、本は定価売りです。アメリカは2割3割引いて売っていますが、日本は定価です。これは、トーハン・日販のおかげです。

定価で売るためにマージンがでかいので、このマージンを使って巨大な物流システムを作っちゃったわけです。アマゾンは、物流と帳合、そして商品をおさえている。この3つがインターネットで成功するための三種の神器なのです。

帳合を持っていないとだめです。帳合、つまり勘定ですね。かつ物流。今はちょっとお金を会員として払うと郵送代がタダになるし、東京なんかの場合でしたら、午前中に頼むと午後には着くということになっちゃいましたので。

特に今、他の競争相手が、苦労しているのは物流系のところで、お金がかかるということです。ということで全世界を、マーケットに。24時間から48時間で商品を届ける、国境も超える、通関サービスまでやってくれると、こういうことです。

制作協力:VoXT