ALS患者とロボットクリエイターのコラボ

樋口聡氏(以下、樋口):今日は武藤さんの『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』の出版記念イベントです。私は誠文堂新光社で武藤さんの本の編集を担当した樋口と申します。今回は司会として入らせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

では、お2人を呼び込みますので、ウェルカムな雰囲気を出していただけますと幸いです(笑)。では、武藤将胤さんと、吉藤オリィさん。どうぞ、こちらに。

(会場拍手)

樋口:はい、今日は(2018FIFAロシア)ワールドカップの日本代表第3戦の前ということですけれども。その前のワールドカップというぐらいにアツい、おふたりのお話を聞かせていただきたいと思います(笑)。じゃあ、まずは簡単な自己紹介からですね。武藤さんからお願いできますか?

武藤将胤氏(以下、武藤):今日はみなさんお忙しい中、お越しいただいて本当にありがとうございます。WITH ALSという会社の代表をやっております、武藤将胤と申します。

僕はコミュニケーションとテクノロジーの力を駆使して、ALSという難病と闘病をしながら、クリエイターとして活動しています。この度、『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が自分にとって初めての著書となります。みなさん、お読みいただいて本当にありがとうございます。

今日は短い時間ではありますが、みなさんとこの場でコミュニケーションができればと思っておりますので、ぜひよろしくお願いします。

(会場拍手)

樋口:はい、ありがとうございます。ではじゃあオリィさんも。

吉藤オリィ氏(以下、吉藤):はい、みなさんこんにちは。オリィ研究所のオリィです。よろしくお願いします。今回武藤さんが主役なんですけれどもね、私が何者かということだけ、はじめに少し時間もらってもいいですか?(笑) たぶん「こいつ、なんでここにいるんだ?」って思われると思いますので。

武藤:本当によく一緒にプロジェクトをやっている仲間、ロボットクリエイターの吉藤オリィくんです。今日もよろしくお願いします。

吉藤:今日もよろしくお願いします。

「うらやましがられる車椅子」があってもいい

吉藤:今、ロボットクリエイターと紹介を受けたんですけど、どういうものを作っているかっていうことを、ちょっとこのスライドで紹介したいと思います。えっと、この「OriHime(オリヒメ)」というロボットを作っています。

(スライドの自身の写真を指しながら)はい、オリィです。ちょっと若い写真なんですけれども。でもね、最近は……いや、今日はこの話はするのはやめよう(笑)。その後、いろいろとやっていて、昔からそんなに体が強くなくて、私も実は小学生の頃、車椅子に乗っていたんですよね。

その時に思ったのは、なんか車椅子ってそんなにかっこよくないってことで。「車」と「椅子」って、いろいろかっこいい椅子だってあるし、車だってだいたいかっこいいじゃないですか。「その2つが組み合わさって、なんでこんな形になるのかな」ってずっと思っていて。だってこれ、全身見えるし、オープンカーじゃないですか。

「もっとかっこいいのがあってもいいのに」っていうことで、(スライドを指しながら)今から10年前はこんな車椅子を作ったりしていました。傾かないようにしたりとか、最近もGoogleとアプリを作るという、車椅子関系の仕事をしています。

最近は武藤さんと組んで(スライドを指しながら)これもやったんですけど。ALSで手も動かなくなってくるとなかなか車椅子のハンドルを操作できないんだけど、眼球の動きを取るのはけっこう得意なので、「眼球の動きを使ったら車椅子を動かせるよね」と。「後ろにバックモニターがあったほうがいいよね」とか、このへんとかも武藤くんに体育館で走り回ってもらって(笑)、意見をもらったりしながらやっています。

こんな車椅子ってなんかおもしろそうだし、みんな乗ればいいじゃないかと。「車椅子は障害者しか乗っちゃいけない」じゃなくて、かっこいいものを作って、みんなが乗ったほうが絶対バリアフリー進むと思う。じゃあ「うらやましくなる車椅子ってどんなのかな」と思って作ったのが、(スライドを指しながら)うらやましい車椅子、コタツがついた車椅子ですね。

(会場笑)

吉藤:これを作ってみました。あと、『Nintendo Labo』で走る車椅子を作ってみたりとかやっています。車椅子だけじゃなくて、何人かALSの友人がいまして、ALSっていう病気は車椅子に乗ることもできないので、体を運ぶことがちょっと難しいんですね。

もちろん車椅子でスッと来られるのが1番いいんですけれども、まずは「心を運ぶ車椅子」を作れないかっていう発想で作っているのが(スライドを指しながら)この「OriHime」というものですね。

筋力が失われても、できることがある

吉藤:バッと説明しますけど、遠隔操作できるロボットになっていて。まずはこちらをご覧ください。

(映像を再生)

ナレーション:この日訪問したのは、ALS患者の自宅。ALSとは、意識がはっきりしたまま、全身の筋力が奪われ、最終的に人工呼吸器が必要になる難病だ。この岡部さんも、眼球以外はほとんど動かせない。そのため、意思の伝達は、透明の文字盤を使って行う。

介助者が眼球の動きを読み取り、それを別の人がメモする。吉藤は、彼らの孤独を解消する方法はないかと、70人以上のALS患者に話を聞いて回った。それを元に、デジタル透明文字盤のシステムを開発し、眼球しか動かない患者の意思伝達を可能にした。

この日、岡部さんのベッドに、OriHimeが設置された。

「このあたりを見ていただくと、画面がスライドして……」

OriHimeを操作すれば、ベッドにいながらにして、部屋の中を見渡すこともできる。

OriHimeが、思い通りに動いてくれた。そして岡部さんは、OriHimeを通して、こう言った。

「みんなが見えます」

(映像終了)

吉藤:こんなことをやっています。例えば最近は、視線入力でコンピュータを操作できるようにしたりとかしています。武藤くんにも使ってもらって、フィードバックをもらいながら開発しています。

最近、目だけで絵を描く人が現れました。目だけで絵を描いたりしています。

あとは買い物やセミナーですね。松岡修造さんとテニスに行ったALS患者さんのタカノさんは我々の仲間です。あとね、結婚式とか式典参加もできるんですけど、これができるっていうことは、本当にいろいろパソコンも操作できるし、仕事もできるよねっていうことです。

つまり、ALSになった後、将来の不安だとか、どうやってこれから生活していこうって思うかもしれないけれども「働いているいろんな事例を、たくさん作ろうよ」っていうことで、1年前から武藤くんと、実はこういうプロジェクトをやっています。題しまして、「働くTECH LAB」。

ロボットテレワークがALS患者にもたらす「可能性」

吉藤:「このOriHimeを使って、いろんな人が働けるようにしようよ」「距離っていう障害もあるけれど、いろんな障害を乗り越えて、一緒に仲間たちと働ける世界を作りたいよね」っていうことで、ちょっとムービーを作ったので見てください。

(映像を再生)

ナレーション:病気、育児、介護、物理的距離などのさまざまな制限、限界を超え、すべての自分の意思で働く人たちを応援します。

「仕事をしたいと思っても、通勤の時間がかかったり、通勤の時間がかからない近くで探そうと思っても自分のやりたい職種っていうのが限られてきますので、それが自分の希望する仕事の内容で、自宅にいながら、子どもは自分の目の届くところで遊んでいてくれて、それで仕事ができるっていうのはとてもありがたいです。」

「ALSの進行で仕事ができなくなってしまうんじゃないかと思った瞬間もあります。でも、このOriHimeを通じてであれば、僕がどんな状態になったとしても、いろんな可能性、働く可能性っていうのは自分自身で、また新たに作っていけるなっていうのを強く感じました。」

ロボットテレワークで世界を変える仕事が生まれる社会へ。

(映像終了)

吉藤:ということで、WITH ALSとオリィ研究所はこういうかたちでコラボしております。私の自己紹介でした。

樋口:詳しいところまで言っていただいて、ありがとうございます。まさに、このお2人が絡んでいるのがOriHimeを通じたロボットテレワークなんだけれども、その前に、お2人の出会いのところに戻りましょう。いきなり飛んじゃいましたから。これは僕も知りたいんでね、じゃあ武藤さんから教えてください。

武藤:僕とオリィくんには共通の友人がいまして、彼が「絶対、気が合うから1回ごはんを食べに行こうよ」って言ってくれて、それで会ったのが初めてです。それでお互い、1回のごはんでだいぶ意気投合しました。

「テクノロジーの力で、ALSの患者さんをはじめ、さまざまなハンディキャップを抱えた方の可能性をもっと広げていけるよね」っていう同じビジョンがあったので、一緒にプロジェクトをやるようになりました。初めて会った時も、今と変わらず、全身黒ずくめでした。

(会場笑)

想像できるものは実現できるはず

吉藤:そうそう、これは私が作っているんです。私と武藤はいい共通点があって、お互い自分が着たい服は自分で作る仲間なんですよね。

樋口:まさにそうですね。似ているね。

吉藤:「自分の服は自分で作る系男子」なんですよ。

(会場笑)

樋口:あと武藤さん、印象は? 黒ずくめだし、会場のみなさんにも「なんかちょっと、ただならぬ雰囲気出しているぞ」っていうのは伝わったと思うんですけど、このままでしたか?

武藤:もう、印象は本当にこのままです。でも、1番印象的だったのは、お互いSF映画が大好きで「SFで実現できている世界は、絶対この現代にも作ることができる」「人間に想像できるものであれば、不可能なんてないよね」っていうところがお互いの共通点で、そこから「こういうプロダクトがあったらいいんじゃないか」とか、初対面でそんな話をしたのをすごく覚えています。

樋口:じゃあ逆にオリィさんのほうはどうでしたか? たぶん武藤さんとの出会いは、OriHimeで動きつつ、ALSっていうところもあってですよね。

吉藤:そうですね。2年ぐらい前でしたっけ? たぶん共通の友人がきっかけだったんですけど、「会ってみたらいいよ」っていうことでミーティングをした時に、さっきの動画にあった視線入力のものをまさに開発中だったので、「こういうのを作っているんですよね」ってことをいろいろ体験してもらったりしました。それがすごく盛り上がってね。2時間……もっとか。3時間ぐらい。

武藤:けっこう長かったですね。

吉藤:長かったですよね(笑)。それで、「こんなのあったらいいね」とか、「そんなのあったらいいね、じゃあこうやって実現しようか」みたいな。だからたぶん、SFなんだけど、なんかSF作家でありつつそれをどう実現していくかみたいなところ、パッションとテクノロジーが合わさって「これ、できるな」っていうのをすごく感じたおもしろい食事会だったのを覚えていますね。

武藤:そこがたぶん1番の共通点でしたね。実現するまでやり抜くっていう性格も似ていたと思う。

「寝たきり」になっても働く

樋口聡氏(以下、樋口):その3時間で、いきなりOriHimeを使ってロポットテレワークを、っていうところまで行っちゃったんですか?

武藤将胤氏(以下、武藤):ロボットテレワークは、何回もミーティングを重ねるうちに「OriHimeを使って、働くという領域もいける」「仮に寝たきりの状態になっても、みなさんもっと社会に参加していけるよね」っていうところだったので、構想までは出会ってから1年ぐらい。時間をかけましたね。

吉藤オリィ氏(以下、吉藤):おもしろかったのが、「OriHimeを使って武藤くんに答えてもらうんだぜ」みたいなことを仲間たちに言うと、「えっ? 病気になって寝たきりになってまで働かせるのかよ!」みたいなことを言われたんだよね(笑)。それで、「働くってなんだろう?」みたいなことを考えました。

樋口:そのへんって本当に、オリィさんは垣根がなくっておもしろいところですよね。(吉藤氏の著書を手に取って)僕もこの本を読んで思いました。この本もね、すばらしい本なので読んでほしいんです。

吉藤:ありがとうございます。

樋口:本当にすばらしいですよ。さっきのオリィさんの紹介なんかも全部入っているんですけど、オリィさんは、一切、色眼鏡とかないんです。

吉藤:私も昔、3年半ぐらい、入院とか引きこもりをやっていたんですよ。入院をきっかけに学校に行けなくなっちゃって、居場所を失って。学校から居場所を失うと、近くの子ども会からも居場所を失って、申し訳なくて世間体もなくなるから、家でも居場所がなくなってくる。そうすると、もうこの世に居場所ないじゃんっていう話になってきて、本当につらい状況になったんですよね。

だから、誰にも必要とされていないことがつらいというか、人にお世話をかけてばっかりのことがすごくつらくて。そういう部分で私は「自分ってすごく孤独だなぁ」というのがあったんですよね。これを解消したいっていうのが私のテーマでもありました。

「できないこと」よりも「できること」にフォーカスして生きる

樋口:僕は武藤さんと会ったのが、去年の秋ですがそこからずっとしつこく取材をしている中で、武藤さんは武藤さんで、挫折じゃないけどね、そういうのを経ているじゃないですか。そこもなんかすごく(武藤氏と吉藤氏は)似ているなと思ったところがありまして、そこのところを武藤さんお話しいただけます?

武藤:みなさんも、先ほどの動画でも説明がありましたが、ALSという難病については、約4年前に「アイスバケツチャレンジ」っていうのがSNSのキャンペーンであって、聞いたことがある方も多いかと思うんですね。それで、僕自身も、ALSの宣告を受けたのが、まさに「アイスバケツチャレンジ」の2014年だったんですね。

病気を発症してから日に日に、手足を動かすような、こうやってみなさんと声を出してお話しするシーンで、身体的な制約っていうのがどんどん増えていったんですね。そのハンディキャップ、またはバリアっていうのは、正直言うと自分も挫折やショックだったことっていうのは、もう毎日のように目の当たりにしたんです。

どうやったらその壁を乗り越えられるかって考えた日々でした。でも、考えて乗り越える過程の中、挑戦を続けていくために、オリィくんのようなすばらしい開発者と出会えたり、テクノロジーのパートナーと出会えたりして、今まで「不可能だ」と言われていたことを、今は「どうやって可能にしていけるか」っていうチャレンジを繰り返すようになりました。

樋口:だから武藤さんって、ALSの方だっていうのを忘れちゃうんですよね(笑)。常にジョギング、マラソンをしているような?

武藤:今日もお医者さんから言われたんですが、毎日マラソンをして生活しているような体の状態です。でも、もうチャレンジをせずにはいられない自分のモチベーション量があって、今は「できないこと」よりも、「できること」にフォーカスを当てて、毎日やるようにしています。

樋口:オリィさんからすると、武藤さんってどういう男ですか?

吉藤:私にとっては、単純に友人としてもすごくおもしろいし、今私がやっている研究という点からしてもすごくありがたい人なんですよね。

モノを作るにはイメージ化が必要

吉藤:何がありがたいかっていうと、モノって技術を積み重ねていくと何かが見えてくるみたいなイメージつくかもしれないですけど、私はけっこう「イメージできるもの」って作れるんですけど、「イメージできないと絶対に作れない」タイプの人間なんですよ。

だから、自分の頭の中で「あっ、なるほどなるほど。こうなったらこうなるな」っていうことがわかったら、それはだいたい作れます。少し……1年ぐらいかかるかもしれないけれど、作れるんですよね。だから、自分の中でイメージできなくて「これって本当にできるんだろうか?」っていうところを、武藤くんとしゃべっているとイメージできます。

この間のDJのイベントも、私は本格的なDJのイベントを初めて見たんだけど「これが武藤くんのイメージしていた世界なのか!」みたいな部分ですごく「あっ、なんかこれは今までイメージできてなかったけど、これもできるなぁ」ってなります。

だから私の中である限界というか、イメージできなかった部分が見えてくる。そうすると、「よし、作れる」ってなっていく。そういう意味ですごくありがたいし、パートナーとして最高ですよね。

樋口:じゃあ、インスパイアさせてくれるというか、アイデアの起点になるような存在であるということですね。

吉藤:そうですね。アイデアというか、世界観を与えてくれます。ちなみにこの中で、武藤さんのDJのイベントに行かれた方、いらっしゃいますか?

(会場挙手)

吉藤:あっ。けっこういらっしゃる。

樋口:6月19日ですね。豊洲ピットで「MOVE FES. 2018」というイベントでね。ものすごいことになりましたけどね。

吉藤:何人ぐらい来ましたっけ?

武藤:のべ700名の方にお越しいただきました。今僕が頭につけているメガネで、普段は、目の動きだけでDJ・VJパフォーマンスを行っています。

でもこのプロジェクトを立ち上げたのも、もう約2年前。2016年6月21日、「世界ALSデー」でプロジェクトを発表してから、約2年間、いろんなところでパフォーマンスをさせていただいて、改良を繰り返した毎日でした。

最初にパフォーマンスさせてもらった時は、1音目を出すのに、30分以上無音でみなさんをお待たせするというアクシデントがあったんですが、2年間改良をし続けて、ようやく今は自分が伝えたいメッセージっていうのを、音楽というツールで表現できるようになりました。

それも結局、あきらめずにやり抜く、やり続けたからこそ生まれた世界だったんじゃないかなと今は感じています。

ALS患者の「呼吸器をつける」という決断の意味

吉藤:そこはあきらめと決めつけがない世界なんですよね。これってすごく重要で、ALSの患者さんって実は日本に今わかっているだけでも9,500人ぐらいいるんですよね。さっき映像に映っていた方って人工呼吸器をつけて、ここから気管切開されていたと思うんですけど、ALSの病気が進行すると、ほとんどの方は呼吸器をつけないと生きていられなくなっちゃうんです。

でも実はこれ、1回つけるとその後、法律的に外せないんですね。安楽死になっちゃうから、日本じゃ外せない。家族が外したら、それは殺人になっちゃう。それをつけるかどうかって、すごく覚悟がいるじゃないですか。でもそこでつけないという選択をすると、間違いなく亡くなってしまうわけですよね。

じゃあ今、みなさんだったらどうか、私だったらどうかって考えてみてください。寝たきりになってしまって、本当に体が徐々に動かなくなっていって、呼吸ができなくて、しかも気管切開すると、しゃべることもできなくなってしまう。それで、最後は目ぐらいしか動かなくなるわけですね。そういう状況で「呼吸器、つけますか?」って。

実は日本で呼吸器をつける人は、3割ぐらいって言われているんです。7割の人は呼吸器をつけていない。そこで私も呼吸器をつけた人とつけなかった人、いろんな人に会ってきてよく話すんですけど、やっぱり呼吸器をつけるっていうことは、決断して「死なない選択」をしているっていうことなんですよね。

じゃあ、なんでそれをするかというと「将来はきっといいことがある」「自分にもできることはあるはずだ」と考えているんですね。寝たきりになってしまうかもしれないけれども、みんな「寝たきりになったとしても、俺はまだまだできることがあるはずだし、発信できることがあるはずだ」「家族にも迷惑かけることがあるかもしれないけど、自分も何かできる」っていうね、まさにあきらめない意思ですよね。

武藤:アメリカや海外では、つける選択をされる方って、0.5割〜1割と言われているんです。9割以上の方は、つける選択をしないんですね。そこで僕とオリィくんがよく話をしているのは、ALS患者さんに明るいニュースを届ける事で、選択が変わる人もいるのではないかということです。

もし生きるか生きないかを悩んでいる方が1人でもいたら僕は、未来に希望が持てる、希望のあるニュースを発信して、みなさんとALSが治るまで辿り着きたいと思っているんですね。実はALSになった時に、インターネットでALSのことを調べると、ネガティブなニュースしかなかったので、それは1つの絶望になりました。

でも、こうやって僕らが明るいニュースを作って発信する。それがみなさんにとってのメッセージになりうるんじゃないかって思って、今は希望あるニュースを作って届けていこうねっていう決意で、プロジェクトを進めているところです。

ALS患者のポジティブさ

樋口:まさに今、武藤さんが言った「明るい」っていうのは武藤さんの中でのキーワードでして、今回のこの本についても、やりましょうとなった時に「2つだけ条件がある」って言われましたね。「とにかく、ただの闘病記にはしたくない」と。あとは「ビジュアルも入れて表現したい」と。ビジュアルって、要は、文字だけじゃなくて、絵柄をちょっと入れていきたいというこの2点ですね。

それで武藤さんはとにかく、「明るい」っていうポジティブな見せ方をするっていうところから、逆にALSの人たち、難病の人たちを照射したいっていう思いがすごく強いですよね。そのへんどうですか? オリィさん。

吉藤:本当にそのとおりです。患者会ってあるじゃないですか。ガンの患者会とか。いろんなところに行く機会があるけど、そこってやっぱり、切実なところもあるんですよ。

そこでは本当に、お互いにすごく悩んでいることを相談し合って「しゃべるだけでもちょっと楽になるから」っていうことで、みんなが言い合っているんですけど、けっこうネガティブなことがすごく蔓延しています。「みんなでがんばっていこうね」っていう励ましの場って、これはこれですごく大事なんだけど……。

我々のWITH ALSもそうだし、ALSの協会とか、私たちが付き合っているALSの人たちって、めちゃくちゃポジティブな人が多いですよね。

武藤:それはたぶんみんなの共通点で、ALSという病気は比較的高齢の患者さんが多いんですが、まぁみなさんポジティブだし、よくお酒をふるまってくれます。

吉藤:ははは(笑)。

武藤:みなさんで「飲み会をやりたい」「今度はバーベキューやろうぜ」って言ってくれていて、本当にポジティブに「みんなで乗り越えて行こう」っていうマインドの患者さんが多いですよね。

吉藤:そうですよね。なんかみんな「寝たきり」っていう言葉だけ聞くと、本当にベッドで寝たきりになっちゃっていて、ぜんぜん相手もしてくれなくって、天井を眺め続けていて、「なんてつらいんだ」みたいなことをすごく思うかもしれないんですよ。確かにそうなっている人もいるんだけど、ALS協会とか、さっき映像に出ていたような人たちも含めて、本当にみんなポジティブです。

(スライドを指しながら)これはね、働くTECH LABイベントのキックオフを去年(2017年)の7月にやったんですよ。やろうよって言って、こんな感じで。

やったらそこに、たまたまFacebookで「あっ。今、武藤と吉藤がイベントやってんじゃん」って気づいたALSの人が、家で酒盛りをしていたんですけど、その酒盛りをやめて「今すぐ行こう」って、呼吸器をつけ替えて、車椅子に乗っけてもらって、それでもう介護タクシーをバーッ呼んで、1時間でイベントに参加してくるみたいな。

武藤:ほろ酔いで現場に来ました。

(会場笑)

KEEP MOVING 限界を作らない生き方: 27歳で難病ALSになった僕が挑戦し続ける理由