需要が大きいことが大前提

生徒:最初のカスタマーはどのようにしてDoorDashを知ったのでしょうか?

スタンリー・タン氏(以下、スタンリー):1番最初のカスタマーがどうやって私達を見つけたのか見当もつきません。PaloAltoDelivery.comをつくっただけで、マーケティングは全くしませんでした。

最初のカスタマーはきっとPalo Alto、デリバリーと検索したんだと思います。その後もマーケティングらしいことはしていません。当時住んでいた寮のオフィスにメールをしたことは覚えていますが、それだけです。口コミで広まりました。

これは需要がとても大きかったことを意味します。デザインが悪かろうが、ユーザーエクスペリエンスが悪かろうが、こんなサービスがあるよ、と皆が口コミで広めてくれるのです。

生徒:なぜ誰もこれをやらなかったのか、という疑問に対するあなたの今の答えは?

スタンリー:携帯電話の普及率が1番大きいと思います。今はスマートフォンを誰でも1台持っている時代です。そこで私達は携帯電話を基盤としたデリバリーシステムを作ってはどうかと思ったのです。

携帯だけで何もビジネスの為のインフラが整っていなくても始められるような。配達ドライバーをフルタイムで雇ったり、新しくトラックを買うことなく、独立したコントラクターにオーダーが来た時に、彼らに時間がある時にだけ働いてもらう。全てを携帯電話だけで行う、という方法を思いつきました。

単なる実験だと思ってスタートした

生徒:最初からスタートアップをやるつもりでしたか? それともお金を稼げる方法として始めてそのままスタートアップに?

スタンリー:当時私達はスモールビジネスに対して提供できるテクノロジーをつくろうとしていました。ランディングページをつくって実際にやってみた結果、デリバリーがスモールビジネスのネックになっている、という気づきがありました。

文字通り、最初はただどうなるかやってみる実験でしかありませんでした。何を期待するわけでもなく。でもそれが当たったので、そのまま続けることにしました。私達はロジスティックにも興味がありましたし。運送のロジスティックだとか。なので、私達がやってきたことはスモールビジネスを手助けするというゴールに複合的に繋がっています。

生徒:最初はモバイルでしたか? ウェブサイトでしたか?

スタンリー:私達はこのランディングページから始めました。1時間ほどでローンチしました。

生徒:DoorDashが他の競合と違うところは?

スタンリー:最初……今でもそれは変わりませんが、消費者のこのサービスに対する需要は常にあります。私達がやったことは消費者の需要を見つけてそれを供給したまでです。最初は特別競合のことは気になりませんでした。

自社ビジネスのゴールを決める

生徒:会社として機能するまでにどのくらいの時間がかかりましたか?

スタンリー:2013年の1月にローンチし、同年夏にYCに参加しました。YCを通じてこのアイディアを発展させ、会社設立に至りました。

生徒:フードのデリバリーを超えて目指しているところはありますか?

スタンリー:先ほどもお話した通り、私達がDoorDashを始めたのはスモールビジネスオーナーを手助けし、地域のビジネス発展に協力したいと思ったからです。それがマカロンストアであれ、レストランであれ、家具屋であれ。

それが今後も私達のフォーカスであることは変わらないでしょう。今はスケールする為にレストランのデリバリーサービスだけにフォーカスしていますが、最終的には地域のスモールビジネスを助けることがしたいと思っています。ありがとうございます。

サム・アルトマン:次のスピーカーはTeespringの創設者、ウォーカー・ウィリアムズです。彼は1年と半年くらいYCでやっていますが、最初私は彼を採るかどうか迷いました。彼のアイディアがクレイジーすぎると思ったのです。しかし、彼と一緒に出来て正解でした。彼らは今物凄い収益を上げています。ウォーカーもスケールしないことをやることについて話をしてくれます。

夢のようなソリューションはない

ウォーカー・ウィリアムズ(以下、ウォーカー):皆さん、こんにちは。私はウォーカー、TeespringのCEOで創業者です。Teesptingは起業家たちがプロダクトやアパレルブランドをリスク、コスト、妥協なしでローンチできるようにするEコマースのプラットフォームです。

現在約180の企業が参加、毎日たくさんのプロダクトを配送しています。今日はスタートアップにおける有利なポイントについてお話したいと思います。それはスタートアップであれば、スケールしないことでもできるという点です。

「スケールしないこと」とは継続してやり続けることが出来ないこと、いつかは終わってしまうこと、多くのユーザーを確保できないことであると私は定義します。それが終わってしまう時は、時期が来ただけであることが多いですが、他の原因もあります。しかし、スケールしないことをやるのもグロースの戦略だと言えます。

今日フォーカスしたいのはこの3つです。

まずは最初のユーザーを見つける、次にそのユーザーたちをチャンピオンにする、最後がプロダクトとマーケットフィットを見つけること。

まずは最初のユーザーを見つけることについてです。ユーザーを確保する為の確実な一手などないことをまず理解しましょう。私も含め誰でも最初に始めた時には「夢のようなソリューション」を見つけ出そうとします。

ものすごいROIがあるペイパークリックキャンペーンだとか、急速な成長に繋がるパートナーシップだとか、アフィリエイトだとか、そのような解決策です。

しかし現実には多くの場合それは叶いません。そんな夢のソリューションはユニコーンのようなものです。外から見て物凄く理想的なグロースの曲線を持っている会社であっても、実際彼らにとっても最初のユーザーを確保することはものすごく困難だったのです。

最大の難関は初期のユーザーを確保すること

あり得ないくらいにサステイナブルではなかったビジネスの話をしましょう。

これは2012年のTeespringの様子です。私達がローンチした当初、ビジネスは最悪でした。何度も何度も会議を重ねました。無料デザインをオファーしたり、何度も修正を重ね、自分達でプロダクトをローンチし、ソーシャルメディアをやり。色々やってみても地元のNPOに50枚のTシャツを売ることしか出来ず、収益はたった1000ドル。

皆から、「もう上手くいかないから諦めたほうがいいよ」と言われました。しかし時間とともにユーザー数は増えていきました。会社をローンチしたばかりの時は、新しくはじめたばかりのプロダクトということもありますが、売り方がよくわからないのが当然ですよね。

どんな時にカスタマーがお金を払ってくれるのかもまだよくわかっていない、だってこれまでにやったことがないのですから当然です。まだ成功体験がない。ユーザーをまず確保することが最大の難関です。

創業者としての皆さんの仕事はどんなことをしても、まず最初のユーザーを確保することです。このやり方は会社によってそれぞれ違います。よく言われるのは「創業者たるもの個人的な時間と最大限の労力をつぎ込むこと。これをすればユーザーが集まる」。

プロダクトの無料提供は絶対にやってはならない

これには毎日100通のメールを送ることや、出来るだけ多くの人に電話すること等が含まれます。あるいはネットワーキングする。スタンフォードやYコンビネーターに知り合いがいるのであればそこで。思いつく限りのどんなことでもして最初のユーザーを確保する。

私はこれを巨大な岩を上り坂で押して上がるようなものだと思っています。スムーズな坂道を思い浮かべてください。最初の数インチを押し上げるのが最も困難です。上へ上がれば上がるほど、傾斜は安定し、岩を押し上げるのも楽になっていきます。最終的には頂上へたどり着き、岩はそこから勝手に転げ落ちていきます。

つまり、最初のユーザーを得る為に費やす時間とROIにフォーカスするだけではダメです。1時間かけたからといって、そのリターンに1000ドルが入ってくることを期待してはなりません。スタンリーの話は素晴らしかったですね。

もしかしたら彼のアイディアは稀にみるユニコーン的なものだったかもしれない。しかし多くの場合、最初のユーザーを得る為には多くのことをする必要があります。それで良いのです。それは会社づくりに欠かせない要素です。

絶対にやってはならないこと、それはプロダクトを無料で提供することです。多くの例外もありますが、一般的にはコスト削減やプロダクト無料提供はサステイナブルではない戦略であり、私はおすすめしません。

ユーザーに皆さんのプロダクトの価値を理解してもらうことが大切です。人々は無料のものを有料のものと分けて考えます。多くの場合まず無料でユーザーを集めると、「この勢いなら有料サービスに皆が切り替えてくれるはずだ」と間違った希望を抱いてしまいがちですが、無料で提供しては価値を理解してもらうことは出来ません。

継続的に、長期間ユーザーとコミュニケーションをとる

2番目に、ユーザーを集めた後どうなるか、どのように彼らをチャンピオンにすればよいか、というポイントです。チャンピオンとは皆さんのプロダクトを周囲の人に広め、アドボケイトしてくれるユーザーを指します。

素晴らしいグロースの戦略を持っている会社はどこもチャンピオンユーザーを持っています。ユーザーをチャンピオンに変えるには、彼らの記憶に強く残るユーザー・エクスペリエンスを提供することです。見たこともないもの、他とは違う体験です。

初期の段階でこれをする最も簡単な方法―もう1度いいますが、これは完全にサステイナブルではないですし、永遠に出来ることではありませんよ―はユーザーと話すことです。

これは他でも多く語られていますし、Yコンビネーターでもメインで教えているポイントです。しかし、ユーザーと話すことに多くの時間を費やすことは本当に重要なので何度でも言います。

そしてそれを継続的に、毎日、出来るだけ長い期間続けることです。今日のTeespringでも、私がキャッチオール規制担当です。つまり、誰かがサポートのスペルを間違えたり、メールアドレスを間違えて入力した場合私のところにメールが届きます。

なので今でも10から20ほどの顧客対応を毎日しています。毎晩1時間はツイッターに目を通しています、少し強迫観念を持っている気はありますが、それで良いんです。

Teespringのコミュニティ全てに目を通します。リアルなユーザーの声を聞く以外に、自分のプロダクトの評価を知ることが出来る良い方法はありません。初期ステージでローンチするプロダクトや機能を、近い未来に皆さんがスケールする時が来た時にはそれをスケールの為に使うことはありません。ユーザーの声を聞いて、それを取り入れればどんどん変化していきますから。

3つのコミュニケーション戦略

ユーザーと話して彼らが何を求めているかを知れば知るほど、スケールするポイントにより早く到達することが出来ます。

ユーザーと話す際に3つの効果的な方法があります。まず、カスタマーサービスを自らやってみる。私と共同創業者のエバンは毎月13万ドルから14万ドルに成長するまで、ずっとカスタマーサポートをしていました。

直観的に、多くの人がカスタマーサポートは人からの苦情を受ける辛い仕事だからやりたくない、と思ってしまう気持ちはわかります。今日でも、カスタマーサポートのポータルを開いて彼らの苦情を読むとお腹がキリキリ痛くなってきます。多くのユーザーが自分の一生懸命つくってきたプロダクトで最悪の経験をしていると知ることはとても辛いです。

それでもそれを知ることがとても重要です。そこから何を新たにつくらなくてはならなくて、何を直さなければならないかを学ぶことが出来るからです。

2番目の方法は積極的に既存のカスタマー、そしてチャーンカスタマーと話すことです。チャーンカスタマーとはプロダクトをもう使っていない人々を指します。これが新規カスタマーを得ようとして見落としがちなポイントですが、皆さんの全てのカスタマーが全体として継続的に良い体験ができることを目指すことが大切です。

既存のカスタマーをないがしろにしてはなりません。ユーザーが皆さんのサービスを使うことをやめる時、なぜ彼らは離れていってしまうのかを聞いてみましょう。

これをする理由は、個人的に彼らにコンタクトすることで彼らがサービスを継続してくれる可能性があるということと、人は誰かが自分のことを大切に気にかけてくれていることを知るとうれしくなるもので、間違いを認め今後はこれまでのやり方を改善してくれるとただ言われたいものだからです。

たとえ彼らが皆さんのサービスに戻ってきてくれないとしても、彼らが離れてしまったというそのミスから学び、今後同じ間違いを犯さずに済みます。

1人の悪い体験で10人を失う

最後の方法、これもまた私が強迫観念に囚われすぎているのかもしれませんが、ソーシャルメディアとコミュニティです。人々がどんな風に皆さんのプロダクトについて話をしているかを知り、誰かが皆さんのサービスでの悪い体験を話していたら、それを正すのです。

スタートアップに問題はつきものです。問題は必ず起きます。完全なプロダクトなどありません。必ず壊れたり、間違った方向に行ったりします。それは特に問題ではありません。重要なのはそこから良い方向に直すこと。

なにがなんでもカスタマーをハッピーにすることです。あなたのサービスで悪い体験をした誰か1人がサービスを中傷することは10人のチャンピオンの気持ちを萎えさせることに匹敵します。たった1人の悪い体験で10人を失うのです。「ダメだよ、あのサービスは。これこれこういった理由で」と1人が言いだすと、たくさんの良い機会を失うことになります。

初期のステージで私達はたくさんの失敗をしました。プリントしたTシャツの色が注文と少し違っていたり、サイズが違ったり、それがその月のGMVの半分を占めていたりしました。私達は自分達が失敗したことに気が付きました。カスタマーも不愉快な気分になっています。

そこで「ちょっと間違えてしまっただけ、完全に間違っていないのだから大丈夫でしょう」と言い訳したくなるのですが、そこをぐっと我慢して注文通りに直します。最もイライラする経験をしたカスタマーは、最高のチャンピオン、そして最長の付き合いとなるケースが多くあります。

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