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ほぼ日のビジネスモデル(全3記事)

株主総会の出席率が通常の約10倍 ほぼ日上場に見る、会社と株主の新しい関係

2018年5月23日、EDGEof にてビジネスモデル学会が主催する、第14回Evening Sessionが開催されました。今回は、「 ほぼ日の目指すもの – 次なる資本主義を見据えて 」と題して、株式会社ほぼ日の取締役兼CFOの篠田真貴子氏が登壇。ほぼ日という会社のビジネスモデルや社会との関わり、ほぼ日の組織や人材、上場の理由などを語ります。本パートでは、初開催にして大盛況となった株主総会のエピソードのほか、参加者から寄せられた質問に答えました。

スタッフ全員で株主総会を運営

篠田真貴子氏(以下、篠田):最後に、ちょっと株主ミーティングの様子をお見せして終わります。

一般的な株主総会は、出席率が1~3パーセントだそうですけど、1回目の上場後の株主総会には20パーセント近くの方に来ていただきました。

こんなかわいいくまの(イラストの)ついた案内状を出しまして。イベントは、丸1日ですよ? 法定の総会は1時間くらいだったんですけど、いろんなイベントをご用意してお迎えしました。

あの……株主の方いらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

あっ、すごい! 2人もありがとうございます。総会ではこんな感じでみなさんをご案内し、ほぼ日の商品の試食や紹介があったり。一番混んでる時間帯には本社の中をこのぐらい人が見に来られたんです。

岩井克人先生に「会社はこれからどうなるのか」をテーマに講演していただきました。冒頭がこのメッセージです。「株主総会に最も不適切なことを話しています。なぜならば私は、株主様は会社の主人ではない! ということを話したいからです」。と、株主さんたちに1時間、熱量の高い講演をしていただき……。コンテンツについての鼎談があり、最後は自由な質問会というかたちです。

開催日は、先ほどの「アースボール」の発売直前だったので、お土産に差し上げました。なんでここまでやったかというと、会社としてのほぼ日を知っていただきたい、と考えたから。上場の動機と一緒です。それは、会社としてのほぼ日は、売り上げとか利益とか株価だけではなくて、乗組員やチームのことを知っていただきたいから、全員総出でスタッフとして運営にあたりました。

やっぱり、我々の提供する価値のことを知っていただきたいので、コンテンツをたっぷり紹介しようと企画をしました。ほぼ日の考え方も知っていただきたいので、「会社とは何か」というテーマでの講演があったり、「コンテンツとは何か」というテーマで座談会を行いました。こういう意図だったんですね。

締めくくりになりますけど、繰り返しです。「ほぼ日が目指すもの」。ほぼ日が目指すものは「人は、なにがうれしいか」。はい、私が申し上げるのはここまでにします。ありがとうございました。

(会場拍手)

「ほぼ日」はコンテンツビジネス

西田治子氏(以下、西田):篠田さんどうもありがとうございました。

篠田:すみません、ちょっと押してしまって。

西田:いえいえいえいえ。私が締めくくるのもなんですけれども。まずあの……締めくくりとして。株主になりました。

篠田:ありがとうございます!

西田:これ、株主優待のお土産をいろいろいただけるんですけど、中身はなにか。

篠田・西田:ジャーン!

西田:いろいろ書いてあるんですけど、中身は、5年間全部書けるという「ほぼ日」の5年手帳。私もちょっとパラパラ書いております。

篠田:ありがとうございます。

西田:これはおもしろいのは、やっぱりほぼ日がコンテンツビジネスであるということを、手帳自体が語っている。

篠田:はい。

西田:これがよくわかるのが、(手帳の下の方に)1ページずつ、これまでほぼ日関連で出てきた、いろんな人の出版物とかWebとか、いろんなところへ出てきたインタビューとか、いい言葉が全部載ってるんです。この1冊にいろんな人の知恵が集まってるんですよね。だから、商品として、そういうものを作って、その意図を株主に送ってくれたという。

篠田:ふふふふふ(笑)。ありがとうございます。

西田:これは大変興味深いものでございました。

篠田:さっきの「人は、なにがうれしいか」。これは創刊日6月6日の言葉になっております。

西田:なので、やっぱり私が(このイベントのタイトルを)「これからの次なる資本主義」としたのは、ビジネスモデル的に考えると、(ほぼ日が)今の資本主義のシステムでもこういうことができるんだ、という例を示したんじゃないかと思っているんですね。

なぜならば、(普通の会社は)いわゆる成長を求めて株式公開する。株主というのは当然、株主利益を求める上でも、当然のことながら、「どのぐらい伸びて、どのぐらい利益が上がって、それをどのぐらい株主に還元するのか?」ということを目標にして株を買うわけですよ。

篠田:はい。

ファンとして会社を支えたいから株を買う

西田:ところが実は、私が株を買った動機は、ほぼ日の会社を支えてあげたい。

篠田:ありがとうございます。

西田:ファンとして買ったっていうことが大きいんです。そういうことができるんだと思わせたというのが、今までにない驚きでした。おそらく機関投資家とかいっぱい買うということだってあったと思うんですけど。

篠田:はい、大量保有報告書を出されてる投資家さんもいらっしゃいました。

西田:ですよね。そういう方たちのマインドセットと、こういう私みたいな個人のマインドセットってかなり違うと思うんですけども、そういう個人投資家がけっこう多いんじゃないの? 

篠田:うーん。

西田:予想しているんです、私はね。

篠田:はい。

西田:そういう投資家がいる限り、きっと、ほぼ日は生き続けるんじゃないかなと思ってるんです。

篠田:まだ(上場して)1年ですのでね(笑)。

西田:ビジネスということでいくと、ほぼ日は、ビジネス的にモデル的にはコンテンツプラットフォームなんですけれども、Googleなどとは明らかに違いますよね。同じインターネットから発生してるんですけど、極めて人間臭い。それも、実際に手に取れるとか、目に見えるとか、実感的なものをコンテンツとして提供するという、極めておもしろいコンテンツビジネスモデル。

だから、プラットフォームにしても、Googleのように広くわーっと伝播して、大量にいろんなものを提供することによってお金を得ようというモデルとは明らかに違う。そういうところで、これは大変おもしろいモデル。

これはそういう意味では、今までの資本主義のやり方のオルタナティブを提供しているんじゃないかと私は思っています。ちょっと他のところでオルタナティブ経済の話などをすることがあるので、そういうところで(ほぼ日はオルタナティブのモデルに)はまっています。

ですので、ほぼ日的生活感を共有するファン層が、株主として支えるという。こういう、会社を支えたいという新しい人たちが、ほぼ日の生活感をみんなで共有しているということになるんです。コミュニティではない。あえてコミュニティと言わなかったんですが、たぶん、根底にはみんな同じような「こういう世界がいいなぁ」みたいな、生活感とか共感があると思うんです。

その共感をベースにして、株主までいったということだと思うので、これがあると、実はものすごく強いんではないか。

複雑なシステムの中で光る本質

西田:普通だったら、会社が多少業績が下がりますと、株というのはどんどん売られるわけですよ。だけど、おそらくほぼ日の株は売られないんだろうな。現実、今上がってますよね?

篠田:おかげさまで、そんなに……。下がってはいない。

西田:私も上場した最初の時に買ったんですよ。

篠田:あ、ありがとうございます。

西田:おかげさまで、儲かっております(笑)。

(会場笑)

西田:それは逆にいうと、そういう価値観を提供したことによって、みんなが株主になって支えるという方法もあるし、「あの株主総会のあり方はやっぱり違うな、革命だな」と思いました。本当に私は株主総会にたまたま用事があって行けなかったんですけど、とても残念だったんですけれども。

篠田:今年もがんばります(笑)。

西田:私もTEDxShibuya(注:TEDのフォーマットで行われるトークコンファレンスで渋谷コミュニティを対象にしたもの。TEDからライセンスを供与された西田氏が主催)で、いろんな人がいろんなことを考えて提供する場を作っているんですけれども、それって、そういうのと同じで。

ほぼ日が何を提供してくるのか、どういう話題をやってくれるのか。ある意味では、株主として出資しているんだけど、それ以上に劇団四季のファンみたいな。そういう劇場的空間を楽しむようなことになっているんじゃないかなと思っております。

もう一つ、そこには信頼というのがものすごくあると思うんです。これは社会学者のニコラス・ルーマンが言っているんですが、システムというのは複雑になればなるほど、そこに信頼というものが一つ置かれて、タンッとハマるといろんなものが単純化されていく。

篠田:ほー。

西田:そうすると、余計なものが削ぎ落とされて、本質だけがきちんとあって、その本質の関係性によって、いろんなことがうまく回る。だから、システムがあればあるほど信用できないから……

篠田:難しい契約書みたいなものですね?

西田:余計なものがどんどん入ってくるわけです。そうすると、その余計なものを(信頼があれば)縮小できる、うまいメカニズムができてくるということなんですよね。だから(ほぼ日は)株主もうまくそういう意味で引き上げて、みんなを束ねていくという。

篠田:ありがたいですね。

本当にやりたいことを会社でやる

西田:あともう一つ、アメリカに最近出てきた「B Corps」というのがあります。ビーコーポレーションっていう(認証制度です)。

篠田:知らないです。

西田:Patagoniaとかそういう宣言をしてますけれども。Patagoniaって、イヴォン・シュイナードという創設者が作った会社で、ここは従業員がお天気が良かったらサーフィンに行ったりしちゃう会社なんですけど。

やっぱり、ほぼ日と一緒で、従業員がみんな楽しみながら、社会に良いことを(している)。自分たちが会社を作って製品を提供する目的は、みんなと一緒に喜びを分かち合うこと。それからやっぱり、本当に良いものを出したいのはなぜかっていったら、それをやることが自分にとっての生きがい(になるから)。

篠田:はい。

西田:つまり、人生の目的は、幸せというのは何かというと「よく生きる」ということ。これは実は、アリストテレスの時代から言われている哲学であって、人間の究極の目的は何かをするときに「よく生きる」「よくやった!」ということを自分で感じられたとき。

篠田:うんうん。

西田:やっぱり会社も、自分が行ってそこで仕事をして、「よくやった! 楽しんだ!」というのがないとおかしいんだよねと言っているような。B Corps(ベネフィットコープス)、パブリックベネフィット、要するに、「株主のためじゃなくて公益を考えた会社を作りたい」という概念がアメリカで出てきて、ヨーロッパとかアジアでも宣言する人がどんどん出てきています。

その流れの中で言っているのが「Redefine Success In Business」と「Compete for the World」。つまり、今までの目的……お金とかじゃなくて、もっとソーシャルとか、社会に影響のある環境とか、そういったすべてのものを考えて、自分たちが何をやっているかを明確に示して、本当にやりたいと思うものをやっていきましょう。だけど、それが全部社会につながるから、社会のためにやりましょう。こういう目的の会社です、ということなんです。

これは通奏低音かもしれないけど、全世界で、たぶんこういうことを次の会社として目指したいなっていう人は、実は、ほぼ日だけではなく増えているから。どんどんその後につく人がいるかもしれないと。今は尖兵だからがんばって欲しい。

篠田:はい(笑)。

やりがいを感じながら経済を回すのが理想

西田:あともう一つが、やっぱり働き方。そういう意味でいくと、人間中心の仕事、事業のあり方。今までの産業社会でいきますと、よくある例が、自分たちの歩き方のぺースというのがあります。目的地に行きたいときに、ある一定の時間に行くということであれ、どんな速さで行っても、そこにたどり着く時間が同じだったらいい、とかありますよね。ところが、エスカレーターに乗ると、エスカレーターにはエスカレーターの速度があって、そこに人間が合わせられている。

これが巨大なシステムになればなるほど、そういうものに全部乗っけられて、いつの間にか自分自身が、仕事はしているんだけれども動かされているとすると、そうじゃない仕事を探すのが今のほぼ日なんじゃないのかな。

さっきの普遍性とか土鍋の話もそうですけれども、基本的に人間の生活の中で何が大事かということをみんなで考えながら、そういう仕事や事業のあり方を考えるということでいいんじゃないかと思います。

あと、そういうことでいくと、身の丈の経済。必ずしも成長するのがいいんではなくて、仕事をするとかそういう生き方、生きがい、やりがい、やっていくことの嬉しさを生活の中で感じられるもので、経済が回るものがあったら、もっといいんじゃないか。

これは、ずいぶん前から言っています。アリストテレスの「身体感覚があって実践知が大事」というのは、常に自分の上のもの……例えばお金を生むものよりも、実感があってその中から得られる経験によって、生きている証拠(が得られる)のが大事だと言っています。E.F.シューマッハーの『スモールイズビューティフル』という本がありますけれども、そこでいくとあんまり大きなシステムよりも、自分の背丈に合わせられる、自分たちで扱える技術というのが必要。

スモールイズビューティフル

その技術はどんどん変わっているわけですね。昔はそれこそ手押し車だったかもしれないけれど、今はいろんな進歩がありますからね。そういうものが自分たちでコントロールできる範囲の身の丈でできればいい。インターネットも、そういう使い方ができるということだと思う。さっきの「アースボール」の話もそうだけど、自分たちの身の丈でできることで、でも世界につながっている。こういうものが必要じゃないかな、と。

ほぼ日は海外のユーザーとどう向き合っていくのか

西田:同じようなことを言っているのが、イヴァン・イリイチという人。このコンヴィヴィアリティーというのは共生生活って、すごく難しい概念なんですけれども、みんなが、それぞれが持っている能力を発揮してお互いに楽しく生きられる。そういう素晴らしい自己の能力を発揮できる、楽しい状態をコンヴィヴィアリティー(と呼びます)。

その時に必要なものが、システムとか制度に隷属するものではなくて、人間がそれぞれ自分のクリエイティビティーを生かして、これで働くんだよ、っていう自主性があるもの。そういうものに役立つ技術や制度が必要だと言っています。

篠田:すごい勉強になります。

西田:はい(笑)。こういうのたまにちょっと言ってみました。

(会場笑)

あと5分は篠田さんにご質問になりたい方、たくさんいらっしゃると思うんですけれども……。

(会場挙手)

質問者1:お久しぶりです。

篠田:お久しぶりです。

質問者1:すごく楽しく気持ちよく話されてて、聞いてるほうもすごく幸せな気持ちになりました。良い時間だったと思います。

篠田:ありがとうございます。

質問者1:2つだけ具体的な質問があります。1つ目は、やはり最初に言われた日本以外で20パーセント(の売り上げが)あるというのにすごく興味があります。それはなんでだろう? っていう。

そうすると、ほぼ日という会社の日本語の世界があります。日本の魅力を感じるコンテンツ、要するに日本文化がありますよね。だから普遍性っていうの求めると、当然世界化してくるんですよね。その時に日本文化とか、日本の言葉を使ったものがわかる人が、海外でも買っているのかどうか。その辺の言語、文化をどういうふうに扱っていくのか。

日本の文化にこだわり続けるべきなのか、もうちょっと普遍性を(目指すべきなのか)。商品になると言語を超えるので、そっちへ向かっていくのかというのが第一番目の質問です。もう一つはやっぱり、仲間のメンバーシップみたいなものがすごく大事で。採用の時に何を考えたり、どういう考え方で採用するのか。あるいは、たぶん中計(中期経営計画)を作ったりはしないと思うので、そうすると何人採用していいのか、いけないのか。その辺のコントロールとか、採用に関しての実態を教えてください。この二つです。

ほぼ日で活躍している姿がイメージできる人がほしい

篠田:ご質問ありがとうございます。まずは一つ目の日本らしさ、あるいは日本の言語、文化と普遍性のバランスをどう考えてますか、というところなんですけれど。ここは「今こうしてます!」という、決め打ちはちょっとしてないんですよね。もともと、自分たちから見えている景色、まさにその日本語と日本で通用するものに暗黙の前提を置いて、商品を作っていったんです。

「ほぼ日手帳」は、やっぱり日本の文房具なので、日本に観光に来られる方もすごく喜んで買われるというのがLOFTを見ててもわかります。そんなこともあって、「英語版にチャレンジしてみよう!」と2013年に出したんですよ。でも結果、英語が公用語ではない中国が一番(購買数)トップになったという(笑)。

とにかく「えーっ、こんなに買ってくださるんだ!?」という驚きからスタートだったんです。「なんで?」と、お客さんに教えてもらう感じなんですね。聞けば、そこにはさまざまな背景があるんですけど、まずは日本語というよりも、日本というものに対する信頼が、やっぱりあると思っています。

今お話しした、日本の文具がデザインも良くて、高品質であること。あるいは、中国やアジアのほうでは、文具に限らずやっぱり日本のライフスタイルに憧れがあって、それを取り入れたいという気持ち。文具に限らず、さまざまな日本の消費財が、世界の消費者の方たちに支持されているのと同じような心理構造があると思います。

なので、そこは「こうしてます!」と決めているというよりも、今は、(現状は)こうです、と。自分たちとしては、この普遍性がどこまで通じるのかをもうちょっと研究したいなという時期ですね。

2つ目の採用なんですけれども。採用は、今までは一度も定期採用というかたちではしたことがなくて、社内にニーズがある都度、いわば職種別の採用をしています。特徴としては、基本、我々のWebサイト、メディアで呼びかけていること。「ほぼ日 採用」とかで検索していただくと、過去の採用の呼びかけのページがいくつか出てくると思います。

採用コンテンツは、かなり濃く、いっぱい書いてあります。基本、実際その採用が必要だ、というチームが、採用コンテンツを書くんですね。自分たちはどういう仕事をしていて、どうなりたいと思っていて、だから、こういう人に来て欲しいんです、と。

例えば応募書類だとか、選考方法も、都度、その目的に合わせて手作りします。経理のようなものですと、書類に「こういうのやったことありますか」「売上計上したことありますか」「原価計算したことありますか」みたいなことを書いていただくケースもあれば、商品企画のようなクリエイティブ色(が強い部署だと)、合宿形式で最終選考をやったこともあります。

篠田:すべてに共通する点がたぶん一つあります。大事にしてるのは、言葉で説明しづらいんですが「ほぼ日の乗組員となって生き生きと活躍している姿がイメージできるか」と。

もうそこは総合的な判断なんですよね。なので、船と乗組員のメタファーのお話をしたように、極論すれば、仮にすごくスキルが優れた方でも、イメージがフィットしなかったら、やっぱり採用には至らない。こういうかたちでここまではやってきました。

採用計画は本当に難しくて。でも、やっぱり有機的にそのチームを中心に、何年か先のやりたいことが具体的なイメージになって、話を聞いた我々も、ほぼ日の次の成長やドライブするな、ということがイメージとして共有できた時は、採用に動きますね。

質問者1:どうもありがとうございます。

乗組員に受け継がれているほぼ日の文化

質問者2:本日はありがとうございます。

篠田:こちらこそ、ありがとうござます。

質問者2:先ほど、組織としての一体感の醸成のところで、「水曜ミーティング」のお話をされていたと思うんですね。会社の継続という点では、糸井さんがいなくなってもという話をされた一方で「水曜ミーティング」を含め、文化を作っていく要の中にもまだ糸井さんがいらっしゃる印象を強く受けました。その中で今後、文化の醸成であったり、その文化の継続という観点でどんなことを考えていらっしゃるのか、ぜひお聞ききしたいなと思ってます。

篠田:現に本人もバリバリに元気で活躍しているので、どうしてもあくまで仮定の話にはなっちゃうんですね。ただ、現実、今どうなってるかっていうと、糸井の話は、毎週水曜日になされるんですけれども、やっぱり、聞いている我々社員75人いるんですが、理解は人によってさまざまなわけです。たとえば、社歴15年の、弊社のコンテンツを中核となって育ててきた者と、去年入ったばっかりの人とは、当然、理解に差があるんですね。

日々の仕事の様子を見ていると、やっぱり、ディスカッションしながら、とくにそこの理解度が高い仲間が「これ、この間、糸井さんが水曜ミーティングで言ったあれだよ」みたいな話をして、言われたほうははっとしたりする。「だから、こういう意味よ」と噛み砕いて説明してくれるような、言ってみれば(糸井の考えが)血肉となった人たちが中核にいる。実は現場ではそうやって、文化醸成というのが確かに起きているな、と思っています。

これは今起きてる話です。それを見てると糸井重里という個人が会社から引退した時、当然、今のかたちで「水曜ミーティング」は続かないわけなんですけれども、おそらく、その時のメンバー、その時の組織の状況に適切な継続の仕方を、きっと我々は、編み出すと思うんですよね。

質問者2:ありがとうございました

西田:じゃあ、あともうお一方。

ほぼ日のビジネスモデルは他社に転用できるのか

質問者3:大変素晴らしい話ありがとうございました。お伺いした中で確信したのが、ほぼ日さんの最高にして最大のコンテンツ、売り物は、会社自身の普遍性であるかと思われました。普遍性というのは、いつでも誰にでも適用できるものと考えたときに、今日語られたビジネスモデルを、他の組織とか、会社にもし転用するとするならば、どのようにすればできるとお考えでしょうか。

篠田:考えたことがないですね……。ただ、ほぼ日が上場してから、知り合いの会社さん、知り合いを通して、「上場を検討しているんだけど」というところからご質問をいただく機会があります。さっき途中でちょっとお話ししたように、一般に上場準備って、組織や事業の継続性を重視するために、これこれができなきゃダメだ、と。

わりと、ある種の価値観に基づいたものが要求される、少なくともそのように見えるのに対して、質問してくださる会社さんは、自分たちはやっぱりそういう価値観とは異なるんです、と。自分たちの価値観を大事にして上場企業になっていきたいんだけど、ほぼ日がやってきたことをちょっと聞かせてくれないか、と。そういう問い合わせが少なくないんですね。

まったく同じモデルかどうかは、本当にそれぞれの会社の個性ですし、ほぼ日は、今お話ししきれなかったとこを含めて、さまざまな要素でできあがっているので、ほぼ日の何らかを他に転用してというのはちょっとわからないです。もうちょっと幅を広めにとらえて、いわゆる伝統的な、官僚的な組織形態で、規模と経済性を追うだけではないタイプの取り組みをしたい、という志を持ってらっしゃる会社さんは少なくないなぁという感じがしています。

そこはお互い頑張ろうねって、励まし合う気持ちです。というのは、そういうことを通して、いずれ世の中のみなさんから見た時に「なんとなくいい感じの会社、最近けっこうあるよね」と見えるようになったら、それは個人的にはものすごく嬉しいことだと思っています。

余計なことかもしれませんけど、今の状態のままだと、どうしても「『ほぼ日』だからできたんだ」とか「糸井さんだからできたんだ」って言われかねない。褒めていただいているんだと思うんですけど、やっぱりそれって、煎じ詰めれば「ラッキーでしたよね」ということにしかならない。

そういう意味ではなんとなく、さっきのB corpsみたいなものかもしれませんが、旧来のイメージの会社とは異なる、魅力的な会社が多く活躍する世の中になるのだったら、それはものすごく励みになるなと思っています。

西田:篠田さん、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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