人がコンテンツを観るときは“確認”

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):今は、人がコンテンツを観るときって、「確認」だと思うんですよ。

中野信子氏(以下、中野):うんうん。

佐渡島:「すごくおもしろいらしい」「こういう内容らしい」ということを知っていて、「本当にそうかな?」と。それで「予想以上だった」「予想以下だった」とかって感想を言うんですよ。だから、その見込みがないものに対しては感想を言えないんですよ。

中野:確かに。そうですね。

佐渡島:だから、さっきの(本の)帯の話も、先に感想を持てるんですよね。

中野:なるほど。

佐渡島:だから、「本当に読む手が止まるかな?」とか。

中野:確かめるんですね。

佐渡島:「ページをめくる手が止まらないかな?」ということを確かめるなかで……『君の名は。』って、ほとんどの人がタイトルは知ってるけど、中身は知らないじゃないですか。

中野:確かに。

佐渡島:それで「これはめぐり逢いの話だ」というところは知っていて。『シン・ゴジラ』についても、「ゴジラだ」ということは知っていて、「でも『シン』だからなんか新しいんだろうな」と。

『君たちはどう生きるか』も、「名作と呼ばれてるらしい」ということは知ってるんだけど、どう名作かは知らない。そこで、漫画だと小説よりも確認しやすい。だから例えば、今ちょうど『ポーの一族』をまたやったりだとか。

君たちはどう生きるか

中野:確かに(笑)。

佐渡島:過去のものを宝塚でもう1回やったりだとか、リバイバルがすごい多くて。

中野:『ブレードランナー』とかね。

佐渡島:そうですね。それで僕が思うのは、平均年齢が上がってるということもあって、高年齢層の人もコンテンツの消費者に入っていけるということと、おもしろいかどうかの確認をするときに情報量が多すぎて、ヒットするのを待つのも大変だから、リメイクで……。

中野:とりあえず知ってるお店に入っちゃう、みたいなことに近いですよね。

佐渡島:そうですね、知ってるお店のリメイクのほうが。

中野:うんうん。

佐渡島:だから、例えば星乃珈琲も、ドトールが持っている技術力の高価版とかじゃないですか。

中野:確かに(笑)。上位互換みたいな感じですね。

佐渡島:そう。上島珈琲店とかもそうですけど。

中野:そうですね。なにか、ある程度保証をされていて、それにちょっと新奇性が加わったものであれば、それを好ましく思うというのは、そのまま脳の性質として、一番安全な選び方なんですよね。

その一番安全な選び方をさせるように物をつくれば、それは必ずヒットすると思います。

タグ付けしやすい作品、しにくい作品

中野:例えば『この世界の片隅に』もすごく話題になったと思うんですけど、あれもみんな、ストーリーを言えないですよね。なんか一言で言えないストーリーなんだけど、「のんが声優をやってる映画」っていう。

この世界の片隅に

佐渡島:そうですね。あと「クラウドファンディングで成功したらしい」というのと、「広島の話」とかね。

中野:そういうわかりやすいタグがいくつかあって、みんなそれを確認しに行ったんだと思います。これ、彼女が声優をやっていなくて、クラウドファンディングでもなくて、舞台が広島ほど世界的に有名ではない、戦争をアイコニックに表現できる土地ではない場所だったら、こんなに大ヒットはしなかったでしょう。

佐渡島:一言で言えるタグ付けがいっぱいあるということが、脳の認知負荷を下げている。

中野:そうですね。

佐渡島:本当そのとおりだと思います。『宇宙兄弟』って、タイトルから想像できるストーリー以外のタグ付けが、すごくしづらいんですよ。

宇宙兄弟

中野:ああ、なるほど。

佐渡島:「どんな話?」「兄弟で宇宙に行く話」、だと『宇宙兄弟』と一緒じゃないですか。

(会場笑)

中野:それはタイトルを見ればわかる(笑)。

佐渡島:そう(笑)。じゃあ、それ以上を言おうとすると、「なんかめっちゃ泣く」とかで、「じゃあ、どこで?」って言うと、意外と泣くシーンの説明が難しいんですよ『宇宙兄弟』って。

中野:ああ、そうかも。

佐渡島:「弟が助かって泣くんだよ」と言っても、「いや、そりゃそうじゃない?」みたいな。

(会場笑)

中野:家族だしね(笑)。

佐渡島:そう。そんな感じで、すごく説明しづらいんですね。

中野:なるほど。

佐渡島:それに比べて『テルマエ・ロマエ』って、映画が大ヒットしたときに、みんなの感想がすごくコントロールされていて、「阿部寛の顔がまじローマ人」。

テルマエ・ロマエ

(会場笑)

中野:確かに(笑)。

佐渡島:「阿部寛以外の役者もみんなローマ人」。

中野:ああ、市村さんも言われてみれば。

佐渡島:そうなんですよ。

(会場笑)

佐渡島:あと「上戸彩のおっぱい、意外と大きい」。

中野:ああ、そこへ行くんですね(笑)。

佐渡島:この3つをみんな言っていて。

(会場笑)

佐渡島:「これ、めっちゃわかりやすいタグ付けだな」と思って(笑)。

中野:一言で言えるかって、やはりすごく大事ですね。

佐渡島:うん。

コンテンツにはどれだけ新奇性が必要か

(スクリーン上のコメントを読んで)

中野:これ、コメントにもありますけど、「陳腐化しないためには?」という視点がすごく大事ですよね。陳腐化しないための、新しさの割合をどれぐらいにするかという調整は、佐渡島さんなり、プロデュースする人のさじ加減のよさだと思うんですけど。

日本だと、意外と不安遺伝子の持ち主が多いので、あまり新しさを多くしないほうがいいんじゃないか、という仮説を私は持っています。言うなれば、新しい要素が例えば1割を超えたら、ものすごく新しいと思われて、感度が高いと言われるような人しか付いていかないんじゃないか。

もしかしたら、違う国だったら違う割合なのかもしれない。これはどうですか? 

佐渡島:でも、僕は国が違っても……。

中野:あんまり変わらないですか?

佐渡島:結局、アメリカでも、ハリウッドでシリーズものになってるじゃないですか。10パーセントとか15パーセントとか、それぐらいだけな気がしますね。

中野:なるほど。そんなにオーダーとして大きく……。

佐渡島:なっちゃダメで。

中野:国によって左右されることはない。

佐渡島:そう。ただ、ドワンゴの川上さん(川上量生氏)も、コンテンツをすごく脳の仕組みで考えようとしていて。『コンテンツの秘密』という本の中で「脳から見てコンテンツは何がおもしろいか?」ということを考えてるんですよ。そのなかで、「人間は新奇性をおもしろいと思う」と。

コンテンツの秘密

中野:そうですね。

佐渡島:だから、新奇性がないと、逆にそのコンテンツはダメなんですよ。

中野:確かにそのとおりですね(笑)。

佐渡島:新奇性が……適当な数字で言うと、たぶん5パーセント以下だとおもしろいとは思わない。

中野:体感値としてそれくらいなんですね。

佐渡島:そうなんですよね。だから、料理なんかでも、創作料理の受け入れられる幅ってあるじゃないですか。

中野:うんうん。

佐渡島:結局、「○○料理」ってタグ付けされてないと、創作料理ってしんどいから。

中野:そうですね。例えば、和食なんだけど、ちょっと新しいと思わせるぐらいが、ちょうどよかったりするわけですよね。

佐渡島:うん。

新奇性を際立たせるための「定番」

中野:スキナー箱っていう、実験に使う箱があるんですよ。動物を中に入れておいて、ボタンを押すとエサ箱のふたが開く箱です。

実験者は、このスキナー箱のエサ箱のふたが開く割合を決めることができるんですが、ボタンを押すと毎回開く箱だと、動物はお腹が空いたときにしかボタンを押さない。

だけど、この割合を調整していって、「5回に1回は開きません」というふうにすると、ずっと押すようになるんですよ。間欠強化って言うんですけど。中毒にさせるぐらいの新しさを加えればよいと考えると、20パーセントっていうことになりますね(笑)。

20パーセントが人間にとって適切かどうかはわからないけれども、まあ多く見積もっても半分以上ではないんでしょう。

(スクリーン上のコメントを読んで)

佐渡島:この「定番を買わせるために、季節性のある味を出す」っていうのも、例えば定番があるなかで……僕は今「雪見だいふく、違う味を出し過ぎじゃないか」って思うんですよ。

中野:確かに!

佐渡島:そうすると、はじめは違う味が出たら買っていたのに、今はもう違う味はほとんど無視するようになって。

中野:うんうん。

佐渡島:なんか毎月のように違う味が出ると、ダメな気がするんですよね。

中野:定番は80パーセントあって、そのなかの20パーセントの新奇だからおもしろいのに、その新奇性をわざわざ薄めちゃってるわけですよね。定番がなくなって、コントラストを出せない。新奇であることをアピールできない構造にしていて、そこはすごくもったいないですよね。

例えばピノだったら、オリジナルのピノがあって、たまにパンプキンが出て……パンプキンあったっけ?(笑)。

(会場笑)

中野:そうなると「これは新しい!」ってなりますよね。

佐渡島:バランスですよね。

中野:私の考えでは、スタンダード感というのは失ってはいけないんだと思っています。あまり新しくし過ぎちゃいけない。

佐渡島:そのバランスをどういうふうにしてやるのか、脳の仕組みから調整する割合がわかってくるので、仕組み化されるとすごくおもしろいですね。

日本人は新奇探索性が低い

中野:「同じコンテンツを何度も楽しむ人の脳の構造は?」というコメントが見えました。新奇性は、ドーパミンの動態で決まるんですけれども、同じコンテンツを何度も楽しむというのは、新奇探索性があまり高くない人かもしれないですね。

日本だと、新奇探索性が高いとされる人は、1パーセントから5パーセントぐらい。少ないですね。ドーパミンD4受容体のある部分の繰り返し回数が長いか短いかによるんですが、ある一定の数よりも短い人の割合が95パーセント以上なんです。

なので、できれば同じコンテンツでほんのちょっとだけ変えるというほうが、おそらく日本人には合ってるんだろうなとは思います。新奇探索性が高い国はどこかというと、南米諸国ですね。

佐渡島:ああ、なるほど。

中野:南米だと4分の1ぐらいの人が新奇探索性が高いタイプですね。それでもマジョリティではないです。

佐渡島:なるほど。でもやっぱり、普通に守破離というか、型を学んでから破ったほうがいいというときに、型を学ぶのにすごく時間がかかるから、破っても1~2割になるじゃないですか。

中野:そうですね。でも、それでちょうどいいっていうことなんだと思います。

佐渡島:そういうことなんでしょうね。だから脳の研究では、いろいろ言われてる格言みたいなものが脳と一致していることを確認する作業が起きているんでしょうね。

中野:ああ、そうかも。経験的に知られている法則のようなものが、意外と正しいということを再確認する感じはありますね。