孫正義氏が考える、これからの日本がとるべきエネルギー政策とは?

孫正義氏:はい、よろしくお願いします。今先生方から話がありましたように、原発の大いなる恐ろしさや問題点は、もう国民が十分知っておるということでございます。

その原発への依存度をこれから徐々に下げていかざるを得ない、できるだけ早く下げていかなくてはいけない中で、代わりに何のエネルギーでこの国民生活、あるいは産業を維持することができるのか? ということで、私なりに拙い知恵を少し絞ってみました。

事故前は原発による電気の供給が約30%、水力発電を入れた自然エネルギーが約10%、その他火力、ということですが、10年後のイメージとして、原発への依存度は事故後の現在の半分近くぐらいまでは、少なくとも下げていかざるを得ないだろうと。

「40年以上過ぎた原発は使うわけにはいかないね」「断層の真上とかヒビの入っているものは減らさなきゃ、止めなきゃいけないね」という風に、当然安全運転を強いられる。それをじゃあ何で賄うのか?

CO2を増やすわけにもいかない。従って「省エネ」と「自然エネルギー」、ここしか結局答えはないのだろうと。省エネにはもちろん限界がありますので、エネルギーを供給するという意味で行くと、自然エネルギーしか答えはないのだろうと思います。

現在の自然エネルギーが水力含めて約10%として、これを10年後には例えば20%ぐらい増加させて、構成比を上げるというミックスにならざるを得ないでしょうと。

もし20%増やすとしたら、何の自然エネルギーで賄うのか?例えば、太陽光を7割、風力を2割、その他を1割。この10年間で増加させるものとして、こんな風に仮で置いてみました。

ヨーロッパでは、10年後にはもう30%、40%にするという国が続々と出てきておりますが、仮に日本も30%ぐらいにまでは持って行くとするならば、どういうことが自然エネルギーを普及させるために必要なのか考えました。

ヨーロッパにおける実例

7ページめは例えばですが、ドイツは固定買取制度、全量買取制度がちょうど10年前の2000年に始まりました。61円でしたが、その後もっと加速しなければいけないということで改定されて、1kWあたり65円で全量買取をしました。そこから急激にドイツでは太陽光発電ブームが起きました。

このように1回どんどん拍車がかかってきますと、自然とその産業界のエコシステムが回るようになるという例でございます。従って、日本でもできるだけ早く、できることであれば後送りすることなく、今国会でヨーロッパ並みの全量買取制度の法律をぜひ決めていただきたい。

この時においては党派を超えて、国難における日本の政治の決断として、ぜひ今国会で決めていただきたいなと思いますが、当然送電網への電力会社による接続義務、あるいは用地の規制緩和の問題がございます。

この全量買取の制度に、今現在の素案では「住宅用」は入らないことになっておるようですが、ヨーロッパなどでは住宅用もこの枠に確か入っていると僕は記憶しております。事業用の多目的発電、メガソーラーに加えて、住宅用もこういうもので促進してはどうかと思います。

送電網への接続義務、結局いくら太陽光あるいは風で発電しても、電力会社が送電網につながないと意味がない。この下半分のところに「ただし電気の円滑な供給に支障が生ずるおそれがある時を除く」とありますが、こういう「ただし書き」がいつも曲者でありまして……。

私どもは電気通信でこのただし書きでいつもやられてまいりましたので、ぜひこういうただし書きをやたら連発せずに、発電したらちゃんとつながるということを、きっちりと担保していただきたいと思います。

休耕地に太陽光パネルを敷き詰める「電田プロジェクト」

そこで今日、新たに奇妙な名前のプロジェクトを提案します。「電田プロジェクト」、第二電電ではございません。電気の田んぼという意味でございます。

どうしてかといいますと、太陽発電をするのには膨大な土地が要ります。日本に膨大な土地はあまり余っておりません。しかし、休耕田、それから耕作放棄地、これが合わせて50万ha以上あるということでございます。もしここに太陽光発電のパネルを敷き詰めると、どのくらいの発電ができるか?

全部に敷き詰めて、そのうちの全部じゃなくて2割だけ、ここに敷き詰めたとすると、50GWの発電能力があります。これはピーク時間における原発50基分。

現在日本では20基の原発が動いておりますが、だいたい昼間のピーク時間にいちばん電気が食うので、ピークマネジメントが大切なわけですけれども、そのぐらいの威力のある太陽光発電が場合によってはできる。もちろん夜とか雨の日は使えませんけれども、少なくともピーク対策には多いに役立つであろうということでございます。

しかし今までですと、「農地では農地以外のことをやってはいけない」という日本のルールがあります。「原則不許可」となっておりますが、「ただし公益性の高い事業に使用する場合は可」という風になっております。

今は国難の時で、電気が足りないという国難ですから、まさに公益性の高い発電は、農地であったとしても仮設置できる、という法解釈をぜひすべきではないか。

法は人を守るためにある。人が国難でいちばん苦しんでいる時に、人を守るための法解釈として、今の法を変えることなく、単に法をしっかりと解釈することによってこの国難がもしかしたら救われるかもしれないということでございます。

つまり、農地は農地のままで、農地の上に「仮設置」として、ボルトで止めて斜めに置いただけの太陽光パネルというのは、そこに人が住むわけではない、工場を建てるわけでもない。いざ日本の農業の自給率の問題で「農地が足りない」という時にはいつでも取り外してまた耕すことができる。

電気の田んぼ、どちらも太陽の恵みで成り立っているということで「電田プロジェクト」と勝手に名付けましたが、畑の上にビニールハウスを立てたりするぐらいですから、仮設置のものは農地のまま建てても良い、一時的設置のものは認めるという風にすべきだと思います。

2番めは屋根。これはすでに総理を中心に真剣に検討しておられるようでございますのでぜひがんばっていただきたいということです。例えば屋根で10年間で20GW、電田プロジェクトで50GW、その他で30GW。合計100GWの太陽熱発電を実施したと仮定します。

これはピーク時間における原発100基分に相当します。もちろん夜とか雨の日は使えるわけではないので、均して考えるともちろんそれよりは低いわけですけれども、太陽に加えて風、地熱、その他で50GW、合計150GWの発電容量を持ったとすると、自然エネルギーだけで日本の昼も夜も雨の日も含めたオールトータルの年間の発電量の約20%を賄うことができるということになります。

簡単に諦めず、今こそ大局的な判断を

「自然エネルギーは必要だけども力弱し」「頼りに足らず」というのが今までのイメージでしたが、「20%やるんだ」という覚悟を持って、そういうビジョンを持って、そこから逆算すれば、実は日本には使われていない休耕田だとか、その他がたくさんあるわけです。使われていない土地を国難の時に活かしましょうということです。

これを先ほど言いましたように、2009年度の年間の雨の日も夜も含めたトータルの発電量、1112TWhということでありますけれども、それの約20%を今申し上げた太陽・風力・地熱その他で賄うことができるということでございます。

諦めるのはまだ早い。国難においては建設的な、プロダクティブな代替案というものをぜひ後送りすることなく、しかも柔軟な発想でやってみてはいかがかということでございます。

従来のエネルギー基本計画では「2030年までに原子力発電を50%以上にする」という、今思うと恐ろしい計画をしていたことになりますが、少なくともこれを「そのまま突き進むべきだ」と言う日本人はあまりいないのではないかということです。

これを白紙から見直すということですが、見直すのであれば、ぜひ後で後悔しないで済むような見直し方を、しかも大局から物を見て、まず大括りのビジョンを持って、そしてそれを着実に実現するための知恵を出してはどうかと。子どもたちに安全な未来を提供するために、ということでございます。以上です。ありがとうございました。