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ファンベース視点から考えるブランドコミュニケーション戦略(全3記事)

『ファンベース』の佐藤尚之氏とクラシコム青木氏が語る、ファンの支持を強くする3つのアプローチ

2018年5月17日、クラシコムサロンVol.4「ファンベース視点から考えるブランドコミュニケーション戦略」が開催されました。今回は、株式会社ツナグ代表の佐藤尚之氏と株式会社クラシコム代表の青木耕平氏が登壇。佐藤氏の提唱する「ファンベース」視点に基づいて、これからの企業やブランドのコミュニケーションについてトークセッションを行いました。本パートでは、そもそもの「ファン」の定義や、ファンの共感の土台となる「価値」の見つけかたについて語りました。

現場で深掘ってやっている人 × ちゃんと俯瞰して見ている人

高山達哉氏(以下、高山):本日はお忙しいなか会場にお越しいただきまして、ありがとうございます。私、株式会社クラシコムの高山達哉と申します。本日の司会進行を務めさせていただきますので、よろしくお願いします。

最初に、みなさんのお席にございます配布物をご確認させていただきたいんですけれども、アンケート用紙1枚、ボールペン1本と、「BRAND NOTE BOOK」という小冊子はお手元にございますでしょうか?

弊社で運営している「クラシコム ジャーナル」というWebメディアがございまして、そこでメディアや広告のことを、業界の著名な方と弊社代表の青木との対談記事などを掲載しており、その内容の一部を冊子にまとめさせていただいています

すごい手前味噌なんですけど、おもしろくてすごく濃厚な内容になっていますので、ぜひお帰りの際にでも読んでいただければなと思います。

ちょっと宣伝なんですけど、一番最後のページに、弊社が今展開している広告事業のご案内もしておりますので、ぜひぜひこちらも目を通していただければと思います。ではさっそく、本日登壇していただくお二人に入ってきてもらいたいと思います。みなさん拍手でお迎えください。

(会場拍手)

高山:では、お二人に話していただく前に、まずは会場のみなさんももしかしたら若干緊張されている方もいらっしゃるのかなというところがあるので。

ぜひお隣の方や前後の方と軽い自己紹介でしたり、本日のイベントで聞いてみたいことだったり、ちょっと期待していることなんかを、本当に3分程度でけっこうですので、ぜひぜひお話しいただければうれしいなと思います。今から3分ほど、どうぞお隣・前後の方とお話しください。よろしくお願いします。

青木耕平氏(以下、青木):これはぜひ積極的にお願いします。お隣に余っている人がいたら、絶対に混ぜてあげてください(笑)。

(自己紹介タイム)

高山:はい、ありがとうございます。すごいなんかあっという間に場が盛り上がった感じで、すごい良いイベントになる気配がさっそくしているんですけれども(笑)。

青木:いや、みんなの顔がやっぱりニコニコしてきてて、こっちもだいぶしゃべりやすい。やっぱり始まる前にこっちから見ると、みんな顔が怖いんですよ。

なので、みんなで話してもらったのは、実は僕のためというか、みんなにニコニコしてもらうとしゃべりやすくなるので話してもらったということなんですね。ありがとうございました。

高山:お二人の自己紹介を含めてトークセッションのほうに入っていきたいなと思いますので、まずは青木さんからよろしくお願いします。

青木:今日は本当にこんなたくさんの人に集まっていただいて、ありがとうございます。

佐藤尚之氏(以下、佐藤):ありがとうございます。

「ファンベース」とは何か

青木:なんか、おじさん2人が話をするってことになるわけですけれども、できるだけ楽しい話や役に立つ話が聞けるように、佐藤尚之さんからいろいろ聞き出せたらと、がんばろうと思っておりますので、よろしくお願いします。

佐藤:もう打ち合わせの時に盛り上がっちゃったから、難しいですよね。

青木:いや、そうなんですよね。打ち合わせはやっぱり長くしちゃダメだという。

佐藤:そうそう(笑)。

青木:そういうルールはわかってるんですけど、わーっと盛り上がっちゃったという感じですね。だいぶいろいろ話してしまったので。

今日、実は、この中で佐藤さんが最近出された『ファンベース:支持され、愛され、長く売れ続けるために』を読んだことがある人、どのぐらいいらっしゃいますか?

ファンベース:支持され、愛され、長く売れ続けるために

(会場挙手)

おおー。すばらしい。申し訳ないですけど、読んだことがない人は、中に書いてあることが知りたい場合は(本を)読んでください(笑)。

今日は(この本の)中のことについてガッツリ話すというよりも、前提を共有した時点で、なんとなく僕のほうで気になったところを、ちょっと深掘って議論すると。そういうところを中心に時間を使いたいな、と思っています。

今日の議論を聞いて「あのへんもうちょっと知りたいな」と思って、まだ読んでない人がいたら、ぜひAmazonなどで買ってお読みいただければと思います。

自己紹介と言ってたんですけど、僕は株式会社クラシコムの青木と申します。よろしくお願いします。で、株式会社ツナグの佐藤尚之さんです。

佐藤:よろしくお願いします。

(会場拍手)

佐藤さんに自己紹介をしていただいてもいいんですけど、ただ、端的に自己紹介しても、どうせ正体がわからないし、ここにおられる方の大半は佐藤さんがいかにこれまで多岐にわたってご活躍されてきた方かは重々ご承知のことと思います。なので、知らない人はあとでググってください。さっそく本論に時間を使いたいなと思います。

ファンを大事にすることをベースにして売上や価値を上げていく

まずは、今日はなんで「クラシコムサロン」で佐藤さんと対談させていただきたいと思ったか、という動機のところだけ簡単にご説明したいと思います。

僕も、もうみなさんがお読みになっている『ファンベース』を読んだことがきっかけなんですけれども、この本を読ませていただいて、「自分がやってることと通じることを、こんなにもちゃんと整理して書けるんだ」みたいな感動がけっこうありました。それと同時に、同じなんだけど、目線というか役割立ては違う。

つまり、僕はクラシコムで「北欧、暮らしの道具店」というビジネスをやっていますので、このビジネスに特化した特殊解の1つを深掘っています。なので、非常にドメスティックな解を1個持っているにすぎないと思っています。それが同じやり方で、いろんな人がやっても役に立つやり方なのかどうかに関しては、検証もしていないし見識もないんですね。

佐藤さんは「そういうやり方を複数社でやったときにどうなるか?」みたいな観点をお持ちで、それを汎用的に使えるかたちを探っているということで。

すごく現場で深掘ってやっている人と、ちゃんと俯瞰して見ている人がこのテーマについて話したら、たぶん『ファンベース』のやり方をやりたいんだけど、「具体的にどういうふうにやっていいんだっけ?」とか「どういうところに気をつけてるポイントがあるんだっけ?」みたいなことで、僕自身もより理解が深まるんじゃないかなと思って、今日はお願いをしたということでございます。

佐藤:よろしくお願いします。

青木:とはいえ、いろいろ議論をする前に、「本を読んだことない」という人もいらっしゃると思うので、「ファンベースとは何か?」とか、そういう定義的なところだけをさらっと触っていただいてから始めたほうがいいかな、と思っているんですけど。

ひと言では言えないのはわかりつつ、端的に「ファンベースっていう取り組みというのは一体いかなるものなのか?」ということを、まずは佐藤さんのほうから(お願いします)。

佐藤:そうですね。すごく単純に簡単にいうと、いわゆるファンを大切にしようとなったら、ファンマーケティングとか、ファンビジネスとか、ファンコミュニケーションとかでいいと思うんですよね。ファンベースの場合、とくに大事なのは「ベース」という考え方で、そのファンを大事にすることをベースにして売上とか価値とかを上げていこうって。いわゆる幸せになっていこうみたいなことですよね。

コミュニケーションとベースの違い

佐藤:もうちょっというと、例えば「奥さんベース」とするじゃないですか? ……なんの話だ? ってなるけど。

青木:(笑)。

佐藤:いや、「奥さんコミュニケーション」だとすると、奥さんとのコミュニケーションを上手にしましょうって話になるけど、「奥さんベース」って考えると、奥さんがいて、奥さんと暮らしていることをベースにして幸せを作っていこうという話なんですよね。奥さんとのコミュニケーションを考えるんじゃなくて。奥さんとどうせ付き合うじゃないですか。どうせ付き合うというか……まぁ。

青木:まぁまぁ、多少語弊がありますけど、まずは続けましょうか(笑)。

佐藤:ですから、そこらへんをちゃんとベースにして考えていくときに、人生とか生活の中でどういうふうに奥さんを位置づけるか? どういうふうに奥さんを大切にしながらいろいろやっていくか? ……もう比喩を出せば出すほどわかりにくくなっていく(笑)。

青木:いえいえ(笑)。

佐藤:僕も今、「奥さん」を例にしたのはまったく初めてなんですけども。

青木:でも、「奥さんベース」という言い方を、今後こういうことで使っていくのに少し確認すると、要するに、家庭生活みたいなところのベースラインがしっかりしていれば、その上に、例えば仕事で活躍するとか……。

佐藤:幸せが乗っかってくるじゃないですか。

青木:乗っかっていくってことですよね。

佐藤:それで全体の人生が構築できる、ということを考えるのが「ファンベース」で。

青木:そういうことですよね。

佐藤:ええ、そうです。だから、1個1個の奥さんとの付き合いじゃないよ、という。

青木:だからこれ、(ファンベースの)「ベース」っていうのは「土台」。もうまさに土台という意味ですよね。

佐藤:「土台」にしましょうよ、という。

青木:ファンとのお取引とかお付き合いを土台にして、その上にわりと多様なあり方を作っていきましょう、みたいなイメージですか。

佐藤:乗っけていこうね、という。そうですね。だから、例えばバブル時代だったら、奥さんベースにしなくても幸せはあったと思う。

青木:なるほど(笑)。インカムが大きいから?

佐藤:インカムが大きいから。今の時代は、やっぱり奥さんベースに地道に考えていくところに幸せがあるんじゃないかなって。

青木:なるほど、なるほど。

佐藤:大丈夫かな、 本当に。

(会場笑)

ファンベースを作ることの利点

青木:いや、でも僕はすごくわかりますけどね。でも、まぁ今、なんとなく「ファンベース」がどういうものなのかがわかったと思います。たぶん、よりわかるためには、さっきもちょこっとは出てましたけど、「なにとは違う」みたいなことを明確にするとわかりやすいのかな。

つまり、「ファン」っていう言葉とか「ファンといい関係を築きましょう」みたいな話って、わりあいもうポピュラーな話だと思うんですよ。でも、僕けっこう、これ(この本)を読んだ時に、「とはいえ、なんかいろいろ言われていることと、ここで言われてるファンベースということの間に、けっこう違いってあるよね」と。

そう思うと、「隣接したりかぶってると思われているけど、実はぜんぜん違うもの」っていうお題でパッと振られたら、思いつくものって何かあります?

佐藤:いや、さっき言ったように、ファン相手だけとか、ファンとの幸せだけとかじゃないっていうところなんですけどね。

青木:はいはいはい。だからファン……さっき例に出されたファンビジネスとか、ファンマーケティング。

佐藤:ええ。「ファンコミュニティをちゃんとやろうね」とかっていう、テクニックでもないし。

青木:そうですよね。

佐藤:いや、ファンたちっていうことをちゃんとやっていくと、売上がそのままバンバン上がってくるとかっていう、そんな夢みたいな話でもないし。僕自身は、いわゆるマーケティング的にいうと、キャンペーンとか新規のお客さんたちを取るのもぜんぜん否定しないし。なんですけど、「ベースを作らないと、これもう無理だよね」っていう。

しかも、そのベースをちゃんと作ると、すごい味方になってくれるし、その人たちがいろんなところで、いい意味で作用してくれる。そういうことを、ちょっと1回ロジカルに見てみようというのが、この本だったんですよね。

ファンとの関係性を土台にビジネスを構築する

青木:つまり、「ファンを土台にビジネスを構築しよう」って。いろんな土台って、本当はあったと思うんですよ。例えば、技術を土台にとか、あるいはマーケティングテクニックを土台にとか、商品力を土台にとか、いろんな土台があった中で、ファンとの関係性を土台にビジネスを作るという考え方みたいな感じ?

佐藤:そうですね。ファンとの関係性というのをもう少し読み解くと、たぶん感情とか情緒価値だったりすると思うんですけど。機能がウケる時代というのは、機能やスペックの差を中心にいろんな商品が出てくる。そういう時代は、そういう機能の差がやっぱり幸せにつながったりするんですけど、今はもうそういったのは全部行き着いちゃってる。

青木:なるほど。

佐藤:ほぼ行き着いちゃってるとすると、情緒価値のほう、ファンとの感情的な関係性みたいなものを土台にしていくことがすごく大事なんじゃないかという感じですね。

青木:そう考えると、けっこう企業とか事業の土台にそれを置くという考え方って、やっぱりけっこう新規性があるんだと思うんですよね。

佐藤:「まぁ、昔から言われていることだよね」ということを言うのは簡単なんですけど、機能価値が大事な時代とかがあった上で、一周回ってここをベースにするというのはわりと大事で。

青木:そうなんですよね。なので、ファンベースという言葉が、なにか「ファンを大事にすればよい」とか「ファンとの関係性でビジネスしよう」ってことよりは、ファンとの情緒的な関係性やつながり、共有するみたいなことを土台にビジネスを構築することなんだっていう。

毎年100万人ずつ人口が減っていく社会で、なにが大事になっていくか

佐藤:そうですね。それが時代的にも社会的にも、今は必要となってきているというか、今こそ作用する時代になっている。

青木:その「今こそ」というのは、いわゆる事業環境とか世の中の流れを意識して、「今こそ」って思われるんですか?

佐藤:もう本当に一般的な話になっちゃいますけど、いわゆる人口が毎年100万人ずつ減りますよね。毎年日本は、千葉市が1個ずつ減っていくわけですよね。

青木:怖いっすよね(笑)。

佐藤:そういうなかでいうと、新規のお客さんを取っていくと(勝てるような)、新規のお客さんを取る競争とかが通じた時代ではもうない。

青木:なるほど。

佐藤:あとは、老人ばっかりになるわけじゃないですか。2024年には人口の1/3が65歳以上になるんですよ。そういうふうになってくる時代には、やっぱりお母さんとかお父さんを見るとわかるけど、もうみなさん、新規の商品にぽんぽん手を出すという感じじゃなくて、やっぱりずっと使い慣れてる商品とか、ずっと買い慣れているお店で買っていったりする。

そういう「文脈」とか「つながり」のほうが、やっぱり大事になってくるし、新しいお客さんをどんどん呼び込むということもなかなか老人に対してはしにくくなる。そういういろんな社会の流れとして、日本はどんどんネガティブになっていく。他にも、若者がものを買わなくなっているし、若者の数も減っていく。2035年には、人口の5割が独身になるんですよね。

青木:おおっ、なるほど……。

佐藤:そうすると「結婚したら買うぞ」とか、「子どもができたら買うぞ」という動機はなくなってくる。なくなってくるというか、少なくなってくる。どう考えても、少しずつ減りますよね。

青木:そうですよね。

佐藤:新しい需要が減ってくる。ずっと独身でいる人が増えてくると、価値観が変わりにくいですから。そのようなことをすべて鑑みると、今(商品やサービスを)好きで使っている人をちゃんと見る必要があるなっていう。

いろんな意味で「新規、新規」というのは、伸びてる時代も含めて大事だったし、今でもまったく否定はしませんけど、そろそろそれをやるにしてもベースは必要。今買ってくださってる方々が必要な上に、「パレートの法則」ですかね。

「2割のファンたちが8割の売上を支えている」という法則性、経験則から考えても、まぁ本筋はそっちちゃいますかね? という。

青木:要するにすっごい本質的な話として、「インカムが減ったんだから、ちゃんと今のお金を大事にしよう」みたいな、イメージとしてはそういう感じですよね。

佐藤:そうですね。イメージとしてはそうですね。

ビジネスは一周まわって江戸時代の商いに戻る

青木:だから、なんかやっぱりこの本を読ませていただいて、僕が印象感として思ったのは、単に「道徳的なことしよ?」みたいな空気感というよりは、「今の環境を合理的に判断したときに、こうするしかないよね?」みたいな、けっこう切実な感じというのも受け取ったんですけど、それは感じられているというイメージですか?

佐藤:もともとは、本当に根本的にいうと「きれいごと」なんです、僕の中では。「いや、ビジネスって、ちゃんとそれを認めてくれる人に売りたいし、喜んでくれる人に売るのは当たり前じゃん? 無理やり押しつけて使ってもらって、なにがおもしろいんだろう?」とか。元電通(株式会社電通)にいながら、言っちゃいけないことなんだけど(笑)。

青木:(笑)。

佐藤:でも、そういうふうには思っていて、「そこらへんが基本でしょ」って。

本当にもっと基本でいうと、やっぱりサザエさんにおける三河屋さんみたいに、サザエさんの家のことをよくわかってて、毎日のように御用聞きに行って、冷蔵庫の中身も知っていて、「もうそろそろニンジンが足りないんじゃないですか?」とかっていうような関係性のほうが、絶対商いって幸せだよねっていうのは、根本的にはあったんです。

青木:なるほど。

佐藤:でも、そんなこと会社的には通用しないし、経営者なんかにぜんぜん通用しない。ただ、今の時代的によくよくこうやって見直して見ると、「でもやっぱり、流れは一周回ってそっちだよね」って。

それはSNSが出てきた時に「あ、これは絶対江戸時代に戻るな」とかっていう。「江戸時代の長屋みたいに、隣の人との壁が薄くて全部聞こえちゃうってことでしょ?」って。「そういう関係性に戻っていくのであれば……」みたいなことをずっと考えていたんですけど。

それと同じ流れで、「あ、時代的にもそうなんだ」っていうふうに、きれいごとと時代的必然性が両側からきて、それをがっちゃんこするみたいな。

青木:なるほど。むしろ、「時代が来た」みたいな?

佐藤:むしろ。

青木:むしろそういう。

佐藤:「クチコミとかファンとかって古いよね」ということを言う人もいるけれども、「いやいや、今時代はようやく来た」。

青木:やっと時代が来た。きれいごとこそが、ある意味、合理性をまとう時代が。

佐藤:合理性をまとうし、きれいごとというのはある種の情緒価値なので、30数年やってきて、やっぱり時代はそっち側の方向に行ってると思いますね。

乏しくなることにもいい側面がある

青木:なるほど。でもなんかそういう意味で、なにかが乏しくなると、例えば家庭とかもそうですけど、なんかお父さんの仕事の調子が悪くなって、外で遊び歩いてたお父さんが最近一緒にごはん食べてるみたいな。

乏しくなることのいい側面って、ある意味ではそういうきれいごとが合理性をまとうことによって、なんていうか、案外幸せになることってあるじゃないですか。

佐藤:まぁ下り坂じゃないですか。「下り坂をどういうふうに降りていくか」という命題があるとすると、もちろん下り坂と思わずにいく手もあるんですけれども、でも、下り坂を降りるときの幸せ感に、我々は脱皮する必要はあるし。

青木:はいはい。まぁ、大きな話になってきましたけど。

佐藤:でも、そこらへんにやっぱりファンベースはすごい合致はしてるってことですね。

青木:ハマるってことですね。なるほどなるほど。

佐藤:でも、北欧……いわゆるクラシコムさんがやっていることなんかも、どっちかというと。

青木:はい。いや、そうですよ。

佐藤:完全にそっち側の幸せですよね。

青木:そうだし、きっと僕もなんか両面あって。もともとそういうきれいごとが好きっていう側面もあったし、同時に、乏しく(事業を)始めているので、それしかなかったというところもあるんですよね。なので、たぶん、やっぱりその乏しさが(事業を)生んだということも事実だし。

佐藤:バブルの時を知らない。

青木:そうです。そういうのは知らないので。なので、たぶん両面というのは、僕らも本当にめちゃめちゃ同じだなと今思いました。

スペックに惚れる人はファンではない

青木:「ファンベースってどんなもの?」ということと「なぜ今ファンベースなのか?」というお話を佐藤さんから聞くことができて。ここから、この『ファンベース』の本の中で僕がちょっと気になった部分を深掘りする感じにしたいと思うんですけど。まずちょっと一発目がこれですね。

佐藤:はい。

青木:これでございます。この本の一番最初のほうに出てくる、そもそも「ファン」という言葉って、いろんな定義で理解ができる言葉なので、ごく最初の8ページぐらいのところで、定義を明確にしていただいているんです。

そこで「ファンとは、企業やブランド、商品や大切にしている『価値』を支持している人である」と書いてあって、「商品を支持している」とか「サービスを支持している」って書いてないんですよね。それらが大事にしている価値に共感したり支持したりすると書かれていて、「あれ、これはちょっとおもしろいなぁ」と。そのファンということをもうちょっと狭めて定義してくれていて。

この言葉からたぶん、我々がファンベースという取り組みをするためにやらねばならぬ、1丁目1番地みたいなことも、なんかこの言葉からだけでも想像がつくような気もしたり。この「価値を支持している」ということを、もうちょっと肉付けしてわかりやすく説明すると、どういう意味で書かれているんですか?

佐藤:そうですねぇ。あの、奥さんでいうと……。

(会場笑)

青木:奥さんでけっこう引っぱりますね(笑)。

佐藤:いやいや、なんとなくさっきも奥さんだったんで(笑)。

青木:いや、いいですよ、いいですよ。奥さん。

佐藤:今日、奥さん来てないよね?(笑)。

青木:奥さん縛りで。

佐藤:いや、いわゆるスペックでファンになってる時代もきっとあったのかもしれませんけど。「三高」的な。

青木:三高的なね。

佐藤:でも、スペックじゃない……。そこで惚れた人っていうのは、もっと高いスペックの人が出てきたらそっちにいっちゃったりする。そうじゃなくて、やっぱりその人が持っているお人柄だったり、もしくは背景的な考え方とか人生観とか。そこらへんが大事なわけです。

そこらへんが一致しないと、彼女が例えばもうぜんぜん違う趣味を急に持ったりとか、ぜんぜん違うことをやっていくと、もう僕は「なに? そんなやつと結婚した覚えはない」って感じになっちゃうかもしれませんけど、そこらへんの芯が大きく一緒であるならば、ずっと支持できる。

青木:そうですね。

佐藤:だからこれ、ある種、中長期的な見方なんですよね。機能価値とか、差別化されているポイントとか、そういった表面的なことで好きになると、次に同じようなものが出てくると……。

青木:そうですよね。追いつかれてしまって。

佐藤:(テーブル上の水を手に取って)そういう人は、これよりもちょっとおいしいものが出ると、そっちに移るじゃないですか。それじゃあファンじゃない。もっと感情的に、この人が考えている方向性、目指してる方向性、考えている哲学とか、芯からそういったところを支持している、愛してるという感覚ですかね。

青木:なるほど。要するに、さっきもちょっとお話ししてましたけど、仮になにかタオルのメーカーさんだとして、そのタオルのブランドのファンを増やそうと思っているときに、このタオルをもっとフカフカにしようとする努力よりは、フカフカにしようとする努力の動機になっている、価値観みたいなものに共感してもらおうとするってこと?

佐藤:いわゆるタオルというのは、もともと、なんのためにそのタオルで起業したかっていう想いがあるはずじゃないですか。

青木:はいはい。

佐藤:たぶん生活者の課題を解決しようとしてるんですけど、もともと商品とかサービスって、気持ちよく水を拭くとか身体を拭うとか、お風呂のあとにすごい心地よくなってもらうとかっていうような、課題解決のためにできた。

そこの部分が一番の価値で、そこを支持してくれてる人じゃないと、たぶん一緒になれないというか。例えば……「一緒になれない」っておかしいですね。さっき、ちょっと奥さん(を例に)引いて。

青木:(笑)。

佐藤:例えばランニングシューズであるなら、シューズの持っているスペックとかに「これすげえな!」ってなってる人は、僕の中ではファンじゃない。

ランニングというものをどういう方向から解決しようとするか? ランニングに対してどういう貢献をしようとしているのか? そこの部分に価値とか考え方がある。メーカーのNIKEとかadidasとかPUMAとか。そこらへんの考え方を支持していないと(ファンじゃない)。

「リピーターを増やせばいいのね」の落とし穴

青木:なるほど。だから例えば、めっちゃ新機能を追加している会社があるとするじゃないですか。だけど、その背景にある考えが「うちはもう常にイノベーティブであり続けて、アウトプットすること自体が大好きな会社なんだ!」みたいなことの価値があったら、むしろそれはそれで機能価値というかたちで。

佐藤:それはそれでいいと思います。

青木:いいっていうことなんですよね。でも、そういうのはないんだけど、「とりあえず選ばれるために機能価値をいっぱいつけよう」とかっていう取り組みをいくらしても、ファンはできないかもしれないよ、みたいな。

佐藤:えっと、買う人はいる。

青木:買う人はいるだろうけど、それはこの定義でいうとファンとは呼べない。

佐藤:だからファンを増やすときに、リテンション視点に立って、「リピーターを増やせばいいのね」という人はいるんですよ。

青木:確かに、似た言葉として……。

佐藤:リピーターは必ずしもファンじゃないですね。ファンでリピーターはいっぱいいますよ、もちろん。でも、よく言うんですけど、例えば、僕はあるヨーグルト飲料をすごくよく飲むんです。

青木:飲んでます。僕も。

佐藤:飲みますか?

青木:はい。あれ、なんか免疫力が高まるので。

佐藤:やっぱり年齢の問題ですかね ? (笑) 

青木:やっぱりね、40代後半になると免疫のことをけっこう考え出す。

(会場笑)

佐藤:でも、要するに、僕はそのヨーグルトのヘビーリピーター。コンビニに入ったら意外と買うんですね。でも、ファンじゃないんですよ。

青木:ああ、それわかる。

佐藤:だから、同じような機能のもっとおいしいものが出てきたら、フッてすぐそっちにいっちゃう。

青木:確かに。

佐藤:僕がもし、そのヨーグルトのファンになっているとすると、たぶん多少違う商品が出てきても動かないです。スペックがいい商品が他社から出ても。そこはもう感情とか背景とか、いろんなそういう価値ですね。

価値はある、見つけよう。そこにファンが乗っかる

青木:そうですよね。待つというか、「いずれは最新技術に追いつくんだろ」ぐらいの感じで。これ、Appleのパソコンとかそうじゃないですか?

佐藤:Appleなんか僕は(スティーブ)ジョブズがいなかったら買ってません。(パソコンの中に)入っていて、MacBookを開くときとか、その背景にうっすらジョブズの顔が見えるんですよ。

(会場笑)

青木:だから、僕もファンって言えるかどうかわからないですけど、今はもう最高スペックじゃないじゃないですか。

佐藤:ぜんぜん違います。

青木:だけど、(Appleのパソコンが)ちょっと最高スペックに追いつくのを待つぐらいの感覚ってありますよね。

佐藤:そうですね。最高じゃなくてもぜんぜん(大丈夫)。でも、車なんかでも別に最高スペックじゃなくても、みんな好きな車に乗ってるじゃないですか。

青木:そうですよね。

佐藤:古い車とか。あれはやっぱりその価値を支持(している)。

青木:価値を支持しているってことなんですね。なるほど。

そうするとですよ、この『ファンベース』を読んで「よし、我が社もファンベースを作ろう」となったときに、ここで言われている元となる価値がはっきりと認識できている、ないしは、それが認識はちゃんとできていなくてもあるという状況がなければ、そもそもファンベースの取り組みが始まらないという。

佐藤:そうですね。ある種、自分たちが支持してもらえるど真ん中のぶっとい芯がないと、なかなか支持されにくいですよね。

青木:そうですよね。

佐藤:いや、ちょっとは買ってくれるんですよ。さっきのヨーグルトみたいに。だけど、ど真ん中がないとやっぱりファンにならないですよね。

青木:そうなんですね。だから、最初の1丁目1番地としては、価値づくり・価値探しみたいな。

佐藤:本当はそこです。

青木:そうなりますよね。

佐藤:それをやると、じゃあ2年ぐらいサービス始められないよって話になっちゃうので、「いやいや、もっと手軽に始めましょう」って話をするんですけど。

青木:なるほど。本来は……。

佐藤:本来は「いや、ミッションから決めませんか」という話。ど真ん中の正攻法からいくとそうですね。

青木:いや、僕はうちの会社で広告のビジネスをやり始めるときに、3ヶ月ぐらい、クライアントさんになりうる会社の担当者の方に、もう1日3件ずつぐらいアポを入れて、会いまくって、ヒアリングしまくってた時期があって。

佐藤:なるほど。

青木:体力ないので、3ヶ月で体壊してやめたんですね。

佐藤:(笑)。

青木:その時にすごく感じたのは、みなさんが「いや、うち本当にそういうネタないんですよ」って言うんですけど、話を聞くとすっごいコンテンツあるんですよ。

佐藤:本当そう。

青木:いや、そうですよね?

佐藤:本当にそうです。

青木:だから、価値づくりというより、価値はだいたいほぼあるケースが多くて。

佐藤:発見するものですよね。

青木:そうですよね。ほぼ価値探しでしかないし、探すまでもなく、「今、言ったこと いいんじゃないですか?」みたいな話だったりするので。

佐藤:だから、今おっしゃったように本当に見えていないので、そういうときは、本当はファンに聞くと意外と一番(いい)。

青木:ああ。

佐藤:「いや、ここなのに。ここが好きなのに」みたいな。

ど真ん中の価値は意外と一般的なもの

青木:そっか。(本を見ながら)それでこの「傾聴」ということなんですね。

佐藤:そうです、そうです。発見は外部の人がやっぱり発見しやすいですし。「えー、そこが好きなのに……」みたいな。

青木:それ、わかります。「言ってること自体、全部、異常っすよ」みたいな話あるじゃないですか、良い意味で。

佐藤:そうですね。

青木:なんだけど、その会社の中では当たり前のことなので、「外に向かってこれが価値です、って言えるほどのことじゃないっすよ」みたいに、すごく謙遜されるケースが多いじゃないですか。

佐藤:みなさん謙遜するし、さっきの課題解決でいうと、「タオルはちゃんと気持ちよく水を拭おうよ」という価値は、全部のタオル屋さんが持っているわけですよね。

青木:なるほど。

佐藤:つまり、ざっくり言うと、全部の人が同じような価値なんです。なのに、好きだ嫌いがあるっていう。

青木:なるほど、なるほど。

佐藤:だからその価値は、みなさん謙遜するけど、ど真ん中の価値というのは、意外と一般的なもので。

青木:そうですよね。

佐藤:飲み物って、基本的には全部、「のどをおいしく潤す」という目的じゃないですか。

青木:そうですよね。

佐藤:なんだけど、好き嫌いがある。「コカコーラが好きで、こっちは嫌い」とか思ってるわけですよね。それは味以外にも、なんかそういう背景が見えたりするわけですけど。そこらへんは本当に謙虚にならず、ちゃんとど真ん中を、まぁ宣伝するというか、もうアピールしていったほうがいいところですよね。

青木:なるほど。だからやっぱり、その価値というものをどう捉えるかでいうと、根本論でいえば、実は価値ベースの上にファンベースがあるような構造で。でも、価値はだいたい普通はあるものだから、探そうっていうことが。

佐藤:価値はあります。探そう。もしくは……。

青木:見つけよう、か。

佐藤:見つけようとかですかね。

青木:はい。ということがあるんですね。

佐藤:そこにファンが乗っかる。そのファンと一緒にその価値を伸ばしていきましょうという。

機能価値よりも情緒価値のほうが大事な理由

青木:それでたぶん僕、今の話でだいぶ(スライドを指しながら)これの意味がわかりました。「ファンの支持を強くする3つのアプローチ」って、この『ファンベース』の本でいいますと、99ページのところに出ている図を、ちょっとこっちで書き換えさせてもらったものなんですけど。

たぶん、この「共感・愛着・信頼を強くする」という取り組みが書いてあると思うんですけど、この中で「傾聴する」とか「自信を持ってもらう」みたいなところだったりとか、なんか「本業を細部まで見せて、丁寧に紹介する」みたいなことって、さっき言った価値をどう扱うかにけっこう通じてるってことですよね。

佐藤:そのとおりです。あとは、この「共感・愛着・信頼」というのは、全部感情なんですよね。

青木:ああ、そうだ。

佐藤:つまり、その価値をそのまま「アップさせる」とか、「価値をほかに代えがたいものにする」というのに全部言い換えてるんですけど。これは「機能価値」じゃなくて、感情のほうの「情緒価値」が大事だって。ファンって全部情緒なので。そこじゃないと結局、「全部、のどをおいしく潤すんだろ」って話で、味の違いになっちゃうんですけど、味の違いじゃないんですよね。

青木:はいはい。そっかぁ。だから、「共感してるから買う、愛着があるから買う、信頼してるから買う」っていう……。

佐藤:状況を作らないと長持ちしない。

青木:なるほど。

佐藤:他社にすぐに追いつかれちゃうんですね。

青木:そうですよね。

佐藤:だって、これ(水)がすっごい画期的においしいものを出すとするじゃないですか。(その後に)絶対に研究されて、半年後には同じものが。

青木:そうですよね。速いですからね(笑)。

佐藤:そう。であれば、味の違いを訴求するよりも、まず感情で商品やメーカーを好きになってもらうことが大事だという。

青木:確かに、感情で好きになったのをスペックで比較して、まぁそれも、もうあまりに差がついたらまた別ですけど、微細の差って正直関係ないですもんね。

佐藤:関係ないです。それはMacが少しダメでも大好きなように。

青木:そうですよね。なるほど。ここにA〜Iまで、計9つぐらい、たぶんわかりやすく整理していただいて出していただいているんだと思うんですけど。

「とはいえ、けっこうやることいっぱいあるな」とも思ったし、実は僕らもこれを見た時に「ここはすっごい意識してやっているんだけど、ここぜんぜんやってないよな」っていうのも、だいぶあったんですよ。

正直な感想としては、僕らがけっこう重視しているのって、このうちの3分の1ぐらいで。それ以外のところは、ぽっかりやれていないところってけっこうあるなと思っていて。具体的にいうと、僕らはたぶん「信頼を強くする」の1本足打法みたいな感じでやっているんですよ。

佐藤:そうなんですね。ふーん。

青木:この「ストーリー」っていうところは多少あるにしても、「D」のところですね。それ以外のところって、けっこうあんまり意識して、自然とやってたりするのかもしれないんですけど、あんまり意識的にはやっていなくてですね。

「信頼」から「応援」に過熱する

佐藤:ほぼ自然とやってるんじゃないですかね。ただ基本的に、「この9個をやってフルコースですよ」っていうことはまったく思っていないので。これはどっちかといったらチェックポイントです。ぜんぜん全部やる必要なんかないです。しかも、たぶん商品ジャンルによって、愛着系とか信頼系とか分かれてくると思いますよ。

青木:なるほど。たぶん1個、僕らのブランドの特徴として、卒業がないブランドなんですよね。入学年齢はそれぞれ違います。20代の前半で入学される方もいれば、50代で入ってくる方もいるんだけれども。「何歳になったら対象外になっちゃうよね」というのがないタイプのブランドだと思うんですよね。だからお客さんには60代、70代の方もいらっしゃれば、20代ぐらいの方もいらっしゃってということなので。

そうすると僕らの観点って、けっこうどうしても商品とかブランドの中でかなり超長期を意識せざるを得ない。そうなってきたときに、この「共感・愛着・信頼」というもののなかで、過熱すると困るやつってあるじゃないですか。例えば、「共感」の過熱とか、「愛着」の過熱はあるけど、「信頼」の過熱ってないなと思って。

佐藤:いや、いわゆる「コアファン」のほうになると、「信頼から応援」という方向に過熱するんですけど。

青木:応援か。そっかそっか、なるほど。

佐藤:信頼してるけど、もう完全に消費として投票するような消費ですよね。もう「ここで買いたい」「ここで買うのである、私は」みたいな。

青木:むしろ「一員だ」みたいな感じですか。

佐藤:「一員だ」みたいな。もう「買い支えるのである」ぐらいの人のところまでいく過熱はあると思いますよ。

青木:なるほど。なので、けっこうたぶん商品ジャンルによって……。だから僕がその話をしたのは、けっこう長期を意識すると、なんか重視するポイントがけっこう「信頼」側に重くなるのかなとか。

佐藤:ああ、どうなんでしょうね?

青木:あれはより、なんて言うんですか。このブランドって、例えば「赤ちゃん向けの商品売ってます」みたいな話だと、だいたいその前後5年間ぐらいで入学と退学があるとするとなんだろうとか。なんかちょっとわからないですけど、そういうことによって「ここが重み付けとしてある」みたいなことって、なにか創造しうるのかなぁ。

佐藤:信頼だけでは厳しくないですかね。

青木:そうですかね。

佐藤:奥さんベースでいうと……(笑)。

(会場笑)

青木:奥さんベースで?

佐藤:いや、奥さんの信頼もですけど、何年も10年もとか暮らしてると、やっぱりそのバックストーリーも含めて愛着が出てきたりとか。彼女の行動の信頼感は確かにベースに必要なんですけど、でも愛着があればあるほど別れなくなったりとか。

やっぱり共感として、行動が共感できないことばっかり続くと、だんだんやっぱり「いやー、まいったな、これ」ってなるじゃないですか。

青木:「この人『ギャンブルやったりしてすごい借金することはない』という信頼はあるんだけど、なんか最近、向き合うのがとことんつまらないんだよね」みたいな。

佐藤:そうです、そういう。なので、それぞれ少しずつやっぱり必要な部分だとは思います。全部完璧にがーっとやる必要はないと思いますけど。あとは共感アプローチで好きになる人とか。

青木:そうですね。人によって、相手によっても変わってくる。

佐藤:「もう本当ギャンブルばっかりで信頼できないけど、こいつの愛嬌だけはすげえな」っていうのも、きっと腐れ縁的にあったりすると思うので、それは場合とジャンルにもよるし。

青木:やる人の側にもよるし。

佐藤:だと思います。

最も欠かしてはいけないことは傾聴

青木:そうするとこれ、なんかこの中で特に、例えば1丁目1番地はこれとか、とりあえず9個あるなかで「これを欠かしたら、ほかのやってもしょうがないよ」とかって。そういう考え方はあんまりない……?

佐藤:いや、あります、あります。

青木:ありますか?

佐藤:(スライドを指しながら)この中でいうと、わざわざ分けてはいますけど、やっぱり「A」ですかね。

青木:なるほど。「傾聴」。

佐藤:相手は僕のどこを気に入って暮らしてるか。……奥さんからちょっと離れよう。

(会場笑)

青木:(笑)。

佐藤:奥さんから離れる。

佐藤:ええと、要するに、「相手がどこを愛してくれているか」っていうこと、情緒価値の部分をちゃんと知らないと間違えちゃうんですよね。間違えた施策を打って、相手がすごく愛してくれてる部分を捨てていっちゃうというか。

青木:そうか、変えちゃいけないことをまず知る。

佐藤:変えちゃいけない。もちろん、相手が好いてくれるところを伸ばすべきだし、そこらへんはちゃんとやらないと愛着も信頼も作れなかったり、もしくはここらへんを好いてくれているのであれば、逆に信頼いらねえやっていうのも見えてくるので。

青木:なるほど。設計がどうしたらいいかがわかるためのAという感じ。これ僕、ちょっと話ずれちゃってたら違うよって言ってほしいんですけど。すごく仕事できる人がうちで仕事してくれるかとなって、ワクワクする瞬間ってあるじゃないですか。なんかしゃべってたら、うちに入ってくれる子が、「なんかこんないろんな仕事できてる人がうちに来てくれるんだ」みたいにワクワクしてて。

佐藤:いや、というか、今いる社員の人たち聞いてますけど、大丈夫ですか?

青木:いやいや、そういう人も含めてなんですけどね。

(会場笑)

問題点を「傾聴」や「観察」に留める時間

青木:ただ、これが出るとテンションが下がるという一言があって。いろいろ盛り上がった挙句、「わかりました。じゃあ御社さんの問題点はなんですか?」というのを1丁目1番地にけっこう聞いてくる人がいて。いや、問題点なんて山ほどあるんですよ(うちの会社だって)。山ほどあるんですけど、「ああ、そういう系の考えか……」って思っちゃう。

これはなんでかというと、問題点を解決したら卓越するという考えって、けっこう機能性をどうにかしようって話と一緒じゃないですか。

佐藤:そうです。

青木:1丁目1番地で僕が問いとしてほしいのは、「なんで今まで生き残れたんですか?」とか「なんで今までうまくいったんですかね? 仮にもこのぐらいとはいえ」みたいな質問をしてくれる人って「おっ?」みたいな。「なんか余計ワクワクするんだけど」って、すごい思うんですよ。

なんでかというと、けっこう僕、卓越したものを作るときって、「すでに卓越の土壌は最初からあるはずである」というのがあって。それはよく「干潟」ってあるじゃないですか。わかりますかね? なんつったらいいのかな。海の岸に近い部分。岩とか砂とかあるような。そこに生態系がすごい豊かにあるようなところですね。

この干潟の生態系をより良くしていこうみたいなときに、「問題点はなにか?」と問うてしまった瞬間に、「変えちゃいけないもの」と「(変えちゃ)いけなくないもの」の区別がつかないから、思いつくことをやってPDCA(plan, do, check, act)だとかって言って、いろいろやっちゃうんだけど、ダメだったみたいなことを繰り返してる間に、干潟の環境がもう最悪になっちゃうみたいな。

だけど、これはいろいろ問題あるんだろうけど、「とはいえ、今もなんとか機能している理由はなんだろうか?」みたいに、ここでいうとたぶん「傾聴」ということを「観察」と捉えて、なんか生物学者の人がしばらくは干潟を観察するに留めるような時間をしっかり持ってから取り組むほうが、卓越したものを作るためのアプローチとしてはすごくいいんじゃないか、ってけっこう思っていて。

なので、この1丁目1番地が「A(傾聴)」だというのって、僕としてはずっと自分が勝手に思ってたことと、卓越したブランドがファンベースを作るということを考えたときに、そこが1丁目1番地だということと同じだって思ったら、僕の中ですごい「あがるな」と思ったんですけど。

佐藤:同じことじゃないですかね。

青木:そうですか。

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