インハウスエディターに向いているのはどんな人?

大島悠氏(以下、大島):次のテーマに移ってお話の続きを伺いたいと思います。

おもしろいと思っているのが、2人とも出版社で編集をやっていたわけではなくて、それぞれぜんぜん違うご経歴をお持ちです。

今、編集やライティングをやっている方も、それ以外の方もいると思うんですけど、3人で「どういう人がインハウスエディターに向いているのか?」を考えたいと思います。

津田氏(以下、津田):私は新卒でコンサルティングファームに入って、業務改善などのコンサルティングを丸6年やっていました。

大島:編集とぜんぜん違いますよね(笑)。

津田:ぜんぜん違くて(笑)……ここにいることを本当にすいませんと思うんですけど。(社会人)7年目の時にクラシコムに転職したんですけど、そのときも別に編集職として入っていなくて、「お客様係」という問い合わせや受注対応がメインの業務で、チームの名前は「コミュニケーショングループ」と呼ばれていました。

私は転職した当時、問い合わせや受注対応をやることがミッションのチームだとは考えていなくて、お客さんとのコミュニケーションを担うチームだと考えて入りました。

うちの会社は「フィットする暮らし、つくろう」ということがタグラインになっているんですけど、他人のものさしではなく自分のものさしで、居心地良く生きるということについて考えていこうとしていました。

それをお買い物していただく中でどう感じてもらうかということもあるし、SNS(運用)ももともとは全部コミュニケーショングループにあった仕事です。

(その中で)入社して1年ぐらい経ったときに、バイヤーが1人辞めることになりました。編集チームからバイヤーチームに2人異動することになって、私は編集チームの人が足りないから、「津田さん異動して」ということになりました。

大島:玉突き人事みたいな(笑)。

津田:完全に玉突き人事で異動しているので、特別すごいスキルがあったということではないと思います。

コンサルティングと編集職の共通点

大島:コンサルティングでやっていた仕事と編集の仕事が「すごく似ている」と即答されていて、すごくおもしろいと思ったんですけど、そのあたりをお話しいただいてもいいですか?

津田:最初に話したように、編集をすごく狭義で捉えると、(もともと)コンテンツを作っていないとできない仕事になってしまうと思うんですけど。

大島:どうしても専門職というイメージがありますよね。

津田:そうですね。自分は良くも悪くも経験がないから、もう少し(編集を)幅広く捉えているというか、文章を書いて、写真を撮って、記事にするだけがエディターの仕事ではないと思っています。

会社が伝えたいメッセージやそのメッセージに乗せて取り上げたい事柄、感じてほしいことをどうしたら伝えられるかということだったり、それを伝えるのに一番いいお話の展開の仕方・見せ方という手段は、Webの記事だけではなくていいと思うんです。

「それってどういうものなんだろう?」と考えることは、コンサルタント時代に「お客さんの本当の課題は何? 本当にやりたいことは何? それをやるための実現するための案は何?」と考えて、現場のお客さんと一緒にやっていたので、自分的には本当に一緒だなと理解しています。

大島:企業の中で編集をすることになると、そういう経験がすごく生きるのかもしれないですね。

津田:そうですね、本質的な問題を深堀りするというか、「伝えたいこと、やりたいことはどこにあるのか」ということを考え続ける力が大事だなと思います。

大島:考え続けて問い続ける。藤村さんはWebの記者をやってらっしゃったと思うんですけど。

編集記者としての「書き方」が通用しない!?

藤村能光氏(以下、藤村):Webメディアの編集記者をやっていました。記事を書くこと、企画を作ることが主の業務ですね。

そのあとサイボウズに転職して、編集の仕事ではなく製品のマーケティングコミュニケーションをやっていまして、津田さんのお話にもあったお客様サポートもやっていました。

大島:そうなんですね。

藤村:事例取材に行ったり、プレスリリースを書いたり、いわゆるマーケット(お客様)と製品のコミュニケーションをしていくところの全体をやるみたいな。

それで、いったん編集は外れていたんですけど、サイボウズ式ができて、編集長の仕事をやって、ここでまた編集っぽいキャリアが出てきたなという感じです。

大島:今のサイボウズ式の編集と記者さんの仕事はまたぜんぜん違うと思うんですけど。

藤村:事実を伝えるものと、伝えるべきものをお客様・読者の方が知りたいかたちで届けるという、ここがぜんぜん違いますかね。

大島:最初の頃はそのあたりのギャップに悩んだり?

藤村:めちゃくちゃありましたよ。記事がぜんぜん書けなくて。

大島:そうなんですね。

藤村:記者の記事の書き方をしていて、大事なところから端的に事実を書くということをやっていたんですね。これはやっぱり、Webではぜんぜん読まれないんです。読まれないということは、すなわち伝わっていない。

大島:うんうん。

藤村:なので、これまでやってきた記者や編集者としての記事の作り方はいったん全部捨てました。

いわゆる記者的な書き方から、編集の視点というか、「インハウスエディターとして伝えていくにはどうすればいいのか?」と問い直して、それが今、「サイボウズ式」の記事にも出ています。

大島:模索の時期があったということですね。ありがとうございます。

マネージャー視点と読者視点の使い分け

大島:もう1つ津田さんにお伺いしたかったんですけど、今の流れで、「今までの思考を捨てる」ということがあると思います。

もともとはコンサルティングで、論理で考えるところから、「北欧、暮らしの道具店」さんのコンテンツは感性が求められると思うんですけど、どのように切り替えられましたか?

津田:切り替えてはいないかもしれないですね。スイッチでオン・オフするというよりかは、ものさしみたいな感じで、「今はロジックと感情の間のどこにいて、自分は編集者としてこれをチェックしよう」という感じだと思います。

大島:「自分のモードがどこにあるか」みたいなことですよね?

津田:企画や記事を確認するときは読者として見ます。オフィスのデスクで見ていると、みんなががんばって書いてくれてる記事だから読めるんですよね。でも、それは読者の視点じゃないというか……。

大島:編集マネージャーの視点なんですね。

津田:最後までがんばって読めちゃうんですけど、通勤電車の中やカフェで読者の気持ちになって、すごくエモに寄って読むと、「ぜんぜん頭に入ってこない」とか、「企画書はすごく良さそうだったけど、心に引っかからない」みたいなことがあります。

だからと言って「おもしろくなかったよ」と返されても、スタッフは意味がわからないじゃないですか。自分も「どう直していいか教えてください」と思うし、やっぱりそれを伝えなければいけないので、そのときは脳をロジック寄りにします。

わかりやすいというのは、ある程度要素分解ができると思うんですよね。

どこにどういう仕掛けがあると、どのような読みやすさになるか、という自分なりのチェックポイントがいくつかあるので、その視点で見ているときに、「たぶんこことずれてる気がするな」とか、「変えてみたらうまくいくかもしれないな」という感じで、修正点を具体的に洗い出していきます。

(そのように)何をどう変えたら目指したいところに行けるかということはロジックで考えているんですけど、最初の動機というか、ピンとくるみたいなやつは、第6感でやるみたいな感じです。

大島:すごい(笑)。

主観と客観を行き来する

津田:コンサルの仕事をしている人が全員ロジカルなわけじゃなくて、業務的に必要だからロジカルな説明をしたり、訓練で身につけると思うんですけど、もともとはコンテンツのいち消費者だと思います。

私も毎日家に帰ってドラマを観るのがすごく好きでしたし、楽しみにしている雑誌が何冊もありました。

そういうのを見ていた時の感覚、うれしかった気持ちは自然と蓄積されているから、ロジックを求められる仕事をやっていると「エモみ」がなくなるということは、実はぜんぜん心配しなくてもいいと思います。本当に、生きてる人全員がそうだと思うんですけど。

大島:おもしろいですね。

藤村:僕たちが企画を作るときでも、何かメッセージを考えるときでも、やっぱり主観と客観の行き来がありますね。

主観としては伝えるべきメッセージがあって、ただそれはそのままだと伝わらないから、伝える側の立場に立って、「どういうメッセージだったら伝わるんだ?」という、ここはやっぱりめちゃくちゃ行き来するんですよね。

それは「考える」ということでもあるし、「体験しに行く」ということでもあります。机上で記事だけ編集していても、肌感みたいなものはわからないので。

だから、インハウスエディターというか、企業内で編集をするときに、そういう考え方ができるといいんだなと、今、気づきました(笑)。

大島:企業側としての立場とユーザー、ステークホルダー立場の行き来ということなんですかね?

津田:いっぱいあると思います。「作り手と読み手」「主観・客観」もあると思います。「ロジックと実際に感じる感覚・エモ」「ビジュアルとテキスト」、「会社とお客さま」もあるかもしれないですし、タイアップだったら「会社と読者」「アイテムと自分」「出演者とアイテム」ということも考えます。

大島:なるほど。

藤村:いわゆる狭義の編集でいうと、コンテンツを見ていって、読者の立場になって「こう読めるから」といって書き手の方にフィードバックする。ここまでは一般的だと思うんですけど、やっぱり最近、いろいろなパートナーさんであったり、届けるべき対象が読者だけではないですよね。

いろいろな関係者、ステークホルダーの立場に立って、その時々の手段によって、伝え方を変えていく必要があります。

けっこう広い目線を持って、その人たちに憑依するじゃないですけど(笑)、そんな感覚で客観的に見ることが、インハウスエディターっぽい素養として必要なのかなと思いました。

それを紐解くと、事業に対する理解や会社に対する共感がないと見れないですよね。客観的な立場にはなれるんですけど、事業を提供する主体としての気持ちもやっぱり大事なんだと思います。

大島:おっしゃるとおりだと思います。主体も客観も大事ということですよね。

津田:あっちをとればこっちがなくなるものではないと信じていて、きっとバランスのよいところがあるはずだと思っています。

例えば、書いてくれる記事に対して、自分が思うこととか、クライアントの気持ちとか、会社としての方向性があったときに、やっぱりちょっと調整したいなということがあったとしても、ライターが「わかりました」と言って自分を消して、無でやることもできると思うんですけど、それはちょっと違うなと。

いろんな立場の人の意見を踏まえた上で、編集を担当するスタッフ本人も納得できるとか、「これでやりたい」と思える着地点がどこかに絶対あると信じているから、そこを見つけるとめっちゃアガりませんか? 仕事しているときに。

藤村:あります(笑)。

クラシコムが目指すチーム運営のかたち

大島:まだまだお伺いしたいことがあるんですけど、時間が押してきてしまっているので、最後の質問に移りたいと思います。

サイボウズさんはリアルなイベントやコミュニティなど、いろいろなことをやっていて、クラシコムさんは最近話題になったメディア、短編ドラマなど、いろいろなことにチャレンジしているので、そのあたりを簡単にご紹介いただいて締めたいと思います。

津田:会社として取り組んでいくものは、オリジナル短編ドラマだったり、イベント企画などがあるんですけど、基本的にはそういうものは全部手法の話だと思っています。

最初に「動機ドリブンで」という話もあったと思うんですけど、会社として「フィットする暮らし、つくろう」というメッセージを伝えていきたい、それに共感してくれるお客さんに対して、もっと提供できるものはないかを考えていきたいので。

1個1個の取り組みは、おもしろかったり、注目していただけるものがあると、うれしいはうれしいんですけど、そういうものは淡々とやっていくといいのかなと。自分としては1個の目的のためにやる手段というかたちで捉えています。

「北欧、暮らしの道具店」っぽい「らしさ」が感じられるコンテンツを、すでに読者には浴びてもらうように、吸収してもらっているのかなと思っていて。

それを自分だけではなくて、他のスタッフが自主的に考えて自走できるようにしていくためには、編集マネージャーとしていろいろ伝えていかなきゃいけないことがあるかなと思っています。

そういう意味だと、チーム運営がすごく大事かなと思っていて、自分の編集マネージャーとしての大きな仕事の1つになっています。

大島:ありがとうございます。

読者との関係性をより深めたい

大島:藤村さん、お願いします。

藤村:読者の方ともっと仲良くなりたいですね。

大島:なるほど。

藤村:サイボウズ式を6年やってきて、ある程度記事を読んでいただけるようになりましたし、知っていただく機会も増えたんですけど、やっぱりそこで終わることが圧倒的に多くて。

例えば、「サイボウズ式の読者はこの人やで」ということを、バイネームで挙げまくりたいという感じ。すなわち、関係性をより深くしたいんですよね。

大島:個人の方との関係性?

藤村:そうですね。ファンと言うとちょっとおこがましいかもしれないですけど、サイボウズの考え方に共感してくれて、同じ方向性を目指したいと思ってくれて、それでサイボウズ式の記事を読んでくれている方ともっと仲良くなりたい。読者の方と直接会えるのって、クッソ楽しいんですよ。クッソとか言っちゃった(笑)。

大島:(笑)。

(会場笑)

津田:超わかります、イベント大好きです、私も。

藤村:そうそう。

津田:すごく楽しいですよね。

藤村:その人たちと何か新しいことをやっていきたいんですよね。ただ、それを「やってくれ」というと、プロジェクトというか、変な関係じゃないですか。一緒に目標に向かっていこうぜと言ってくれるような関係性を作りたくて。

そのための手段としてイベントやミートアップをやってみたり、流行りのコミュニティを考えてみたりしています。

大島:そこの対象がお客さんではないというのが、またちょっと新しいところですよね。

藤村:そうですね。実際に製品を使っていただいているお客様との関係をつくる部署は、実は別にあるんです。僕たちはやっぱり、サイボウズをまったく知らない人との関係性をつくると。

大島:位置づけが違う、ポジションが違うということですよね?

藤村:要するに、製品にあまり関連しないところをやっていくという感じなので、それは株主になってもいいですし、読者みたいな方でもいいですね。

大島:はい。

藤村:イベントとかテンションアガりますよね。

津田:超楽しい。最近の中では一番好きです。

大島:先週もやってましたもんね?

津田:そうですね。うちはお客様からうれしいお便りをいただくことが多いんですよ。お買い物してくださった方から写真が送られてきたりとか。あとは記事に対して「共感しました」みたいな感想もいただくのですが。

それを通じて「きっとこんなお客さまだろうな」と想像していた人と実際に会ったときに、本当にイメージどおりなんです。

自分は編集チームに来て5年ぐらいなんですけど、その中で培って来たものの100倍ぐらいの濃度で、どういう人たちが私たちのサイトを楽しんでくれているのかを知るというのは……。

大島:なるほど。

津田:たぶん編集のインプットとして、めちゃめちゃ楽しいですよね。

藤村:僕たちが届けたい、伝えたいと思っていた人がその場にいるんですよ。

津田:「生きてた〜!」みたいな。

(会場笑)

大島:私は今日、まさにそういう感じでみなさんにお会いしてるんですけど、これから楽しみな取り組みがたくさん出てくるような感じですね。ありがとうございます。

インハウスエディターとして見るべき指標

大島:この後は時間の許す限り、会場の質問を受け付けたいと思います。お二人に質問したい方はいらっしゃいますか?

質問者1:「現代ビジネス」というWebメディアで仕事をしています。2人とも普段の仕事を「らしさ」という軸で評価するところがあると思うんですけど、それを何か数字的なことで捉えるとしたら、どういうことがあるのかというのが1つ目の質問です。

もう1つの質問は、いわゆるメディア企業の編集者の「上がり」というのは編集長だったり、そこからもう少し人を管理する立場になるところがあると思います。

僕からするとインハウスエディターというのはなかなか遠い世界で、そういう人たちが自分のキャリアの中で、これからどういうポジションになって、何をしていきたいのかということを、語れる範囲でお聞きできたらと思います。

藤村:評価の指標とキャリアみたいな感じですかね。数字のところは、うちはあんまりなくて、ちょっと(津田さんに)聞いてみたいんですけど。

津田:数字はKPIにはなっていないけれども、売上だったり、PVだったり、予測値はありますという感じです。

「こういう記事だったらこれくらいいくかな?」とか、「こういう商品の展開をしたら、積んでいた商品これぐらい動くはずだろう」ということが経験値からいくつかあって、それに合っているかどうかを確認します。

ちょっとゲーム感覚というか、クリアできていないといけないわけではないけれども、確認して合わせていく、すり合わせしていくということはあるんですけど……「らしさ」を数字でっていうことですよね?

質問者1:評価するときに、「らしさ」というのは共有していくのが難しいじゃないですか。

普通のWebメディアだとPVだったり、広告が生み出すお金などをわかりやすい指標として置いていると思うんですけど、そういうものを見ているのか、別に数字にこだわらなくてもいいんですけど、何か独特な指標があるのかなと思って聞いてみました。

藤村:サイボウズ式のメディアの数字は、確認するぐらいでKPIにはなっていないですね。やっぱりブランド活動というのは、実はメディア以外のいろいろなプロジェクトやチームがあって、それを元に成立するというか、ブランド価値が高まっていくという状態を定義することができます。

なので、実際に大きく見ているのは、会社の認知度や好感度をもって、どれだけ会社に対するブランドイメージが上がったかということを1年ごとに比較する。このあたりを大枠でやっています。

ただ、それを構成する要素がめちゃくちゃあるので、例えば「メディアだったらこうやりましょう」とか、「イベントだったらこの数字」ということはあまり取らないようにしています。

メディア単体で言うと、本当に年間のユニークユーザーぐらいしか見ていないですね。会社のことを知ってもらえる母数がどれだけ増えるかということだけを見ているので。

なので、記事単体のページビューもあまり見ていないです。PVが出ればめちゃくちゃハッピーなんですけど、「それを達成してね」というコミュニケーションはしません。そこはあまりインハウスエディターの中では見なくてもいいのかなと思っています。

将来のキャリアをどう捉えるか

津田:うちも1記事ずつのPV数はあまり見ていません。青木がよく言っているのは、「過去20回以上訪問しているユーザーが伸びているかどうか」ということは、経営指標で1個あります。

大島:わかりやすい。

津田:あとはそこの流入がどういうチャネルにあるのかということは、アナリティクスを入れて見ています。私は業務的にあまり見ていないんですけど、そこで異常値になる前に気づくというか、「このままいくと、ぜんぜん検索から流入しないんじゃない?」ということになると、「SEO勉強しようか」みたいになるということは、テクニック論としてあります。

ただ、20回以上訪問しているファンが伸びてるかということは大きいかなと思いました。だから、記事1個1個のPVはけっこうどうでもいいと言ったらあれですけど、そういうことでファンが作れるかどうかというと、会社としてはもっと注目したいところがあると思っているのかなと。あとは、インハウスエディターのキャリア?

藤村:難しいですね。今の自分のポジションで言うと、ざっくり言うと中間管理職です。一応メディアの責任者であり、マネジメントクラスではなくて、そこと現場を接着するみたいな立ち位置です。

このときに、どのようなキャリアを築いていきたいかというと、やっぱりマネジメントというか、チームを作っていくということはすごく重要だなと思っています。

とくに事業会社でブランディングとか、(会社の)価値を伝えていくというときに、競争優位を生み出す源泉は人なんですよね。

やっぱり人が育たないとメディアはぜんぜん育っていかないですし、短期的にガンガン成果を出せるという施策でもないので、そこにコミットしてくれる人を増やすとか育てるということは、キャリアとしての1つの方向性かなと。

個人的なキャリアとしては、やっぱり長期的に何かを伝えるとか、資産を構築していく仕事をやってきたというか、それが向いている気がします。

私自身、短期でいきなり成果を出すのは超苦手ですし、競争も苦手ですし、それよりも「共につくろう」というほうが、ほのぼのしていていいなと思ったりするタイプなので。

それは例えば、事業会社で言う広報とか、ブランドをつくる人との親和性は悪くないとは思っているので、キャリアとしてはそのあたりを見据えています。

キャリアの掛け算でいうと、今までは記者をやってきました、製品のマーケもやりました、会社のブランド(作りを)やっています、次は読者との関係を作りたいですという感じの進み方ですね。でも、これもぜんぜん想定していなかったです。

昔はWebで編集記者をやっていたので、まさかこんなことになるとは思っていなかったんですけど、インハウスエディターというか、このような(役割の)ニーズが出てきていると思うので、こういうキャリアやポジションもありかなと実感として、ようやく思えるようになったというかたちです。

質問者1:記事は手段であって、それ自体は目的ではないということに気づいたのっていつですか?

藤村:いつ気づいたかな。いつだ? ごめんなさい、ちょっとパッと思い浮かばない。

津田:クラシコムについて言うと、成り立ちが商品ページの編集からやっているので、最初からという感じだと思います。

商品ページの編集はそれなりでいいと思っているページは1個もなくて、1個1個ホームランを打つつもりで作っているんですけど、1個が死んだら会社が死ぬかというと、死にはしないということがあるから、思想的に1個1個めっちゃ本気でやるけど、それが全部手段であるということが最初からあったかなと思います。

キャリアの話で言うと、私は直接存じ上げている訳ではないのですが、元『POPEYE』編集長の木下さんがファーストリテイリングに入ったということがありましたよね。

私はぜんぜん編集畑で来ていないので、この後どうなるかということは自分も本当によくわからなくて、ユニークな経歴かなとは思うんですけど、何か(インハウスエディター の役割が)求められているのかなというのはすごく思います。

だけど、どういう人を採用したらインハウスエディター的な役割をしてくれるのか、単にコンテンツを作るだけではなくて、会社の伝えたいことや本質的な業務の方向性に向かって、手探りで一緒にやってもらえるかということは、すごくおこがましいですけど、企業側も悩んでいるんじゃないかなと思っています。

それはたぶん、そういう人にジョインしてもらったことがないからだと思うんですよね。だから木下さんの例がすごくうまくいったりすると、少し見方が変わるのかなと思っていて、スキルセットとしてはめちゃくちゃ求められていると思います。

編集的な視点で、コンテンツ作るだけではなくていろいろやれますとか。会社に共感しているから、コンテンツ作るだけではなくてもいいからやれることがあったらやりたいということは、すごくいいと思うんですけど……難しいですよね。

「企業側は、経験がある人ほどジョインしてもらうことに構えたりするのかな?」と勝手に想像したりするというか。知らない人のほうが、何か洗脳しやすいですよね(笑)。

(会場笑)

津田:「編集とは!」みたいな。「なんでもやるんだよ!」みたいな(笑)。

大島:ゼロから。

津田:そうそう。でもやっぱり編集の経験があると、先ほど藤村さんも「(これまでのやり方を)捨てた」みたいな話があったと思うんですけど、良くも悪くも「こういうものが編集だ」というのがあると、「もしかしてフィットしないのかな?」みたいに思われたりするのかなとか。

あと先ほどの数字の話で1個思い出したんですけど、SNSのユーザーの伸びはすごく見ていました。

大島:SNSなんですね。

津田:Instagramのファンが順調に伸びているか、LINE@のユーザーは伸びているかということで、仲間が増えているかどうかを見ていると思います。

大島:リピートユーザーと一緒のような感じですかね?

津田:似ていますね。ユーザー数については経営(側)からも、伸びているのか、順調なのか、お金をもっとかけていいのか、みたいなことはすごく聞かれます。

大島:ありがとうございます。他に質問ある方はいらっしゃいませんか? 

鳴かず飛ばずだった「サイボウズ式」のブレイクスルー

質問者2:2点お聞きしたいことがあります。企業側でサイトを立ち上げるときに、一般のメディアと違ってなかなか存在が知られないと思うんです。

まず「どうやったら見に来てもらえるのか」という問題をどうクリアされたのかということが1つです。

その次に、企業側が伝えたいメッセージと受け取る側の読者の間に乖離があるというお話がありましたけど、そこを実際にどう乗り越えてきたのかというところです。

サイボウズさんは「問題提起」という方向性でやっていると伺いましたけど、そこに行き着くまでにいろいろな経緯や紆余曲折があったのかと思うので、そのあたりを詳しく聞かせていただきたいと思います。

藤村:やっぱりメディアを作ってすごく実感したのは、記事を出すだけでは読まれないということです。ただ、おもしろいものはめっちゃ読まれるということもわかりました。

サイボウズ式を立ち上げたとき、1年ぐらいブレイクスルーがなくてどうしようかと思っていたんですけど、1つのコンテンツがめっちゃ読まれて、10万ページビューいったやつがあったんです。

津田:すごい。

藤村:これがもうブレイクスルーですね。それまではなんとなく読まれているぐらいの感じだったんですけど、グラフで一気にドカーンという日があって、ここを境に変わりました。

やっぱり読者の方の記憶にしっかり残って、かつその当時はソーシャルで口コミしやすいとか、自分がそのコンテンツを受け取って、自分なりに解釈して、何か意見を投げるブランド体験をしているんですよね。そういうものが口コミになって、広がっていく状態が作れて、ここからメディアの格が1個上がりました。

なので、「おもしろいコンテンツを作る」という、身も蓋もない話なんですけど(笑)、やっぱりここが重要ですかね。

大きなブランドを持っているからといって、ブランディングが成功するかというと、ぜんぜんそうでもない気がするんです。

逆に今は、本当に1つのコンテンツ、1つのTwitterのつぶやき、すごく粒度が小さいものでもコンテンツでドカンと広がる可能性があるんですよね。ここを諦めずにやり続けることが大事かなとすごく感じます。

なので、僕たちもいきなりコンテンツを当てたわけでもなく、1年ぐらい我慢しています。また当たってから、それを継続し続けることが大事ですね。

あとはやっぱり、発信のサイクルをあげるということも1つかな。ブランドに対する接触頻度をより細かい状態で増やしていく重ね合わせがブランドにつながるかなという感じはすごくします。

それでいうと、2点目のブレイクスルーもやっぱりコンテンツでした。メディアを作って記事を出して、それが社会に対する問題提起をしっかりしていて、僕たちの伝えたいメッセージにもなっていたという感じです。

大島:ちなみに、その跳ねたコンテンツはどういう記事だったんですか?

藤村:うーん、なんだったかなー。確か「少子化が止まらない理由はおっさんにある」みたいなコンテンツがめちゃくちゃ跳ねましたね。質問の回答になっていないかもしれないんですけど、そういう紆余曲折がありました。

質問者2:ありがとうございます。その問題提起というところは、最初から意識されていたんですか?

藤村:そこは意識しています。なぜかというと、サイボウズという会社の理念は「チームワークあふれる社会をつくる」です。あらゆる事業活動はそこに向かっていて、対象が社会なんですよね。

なので、サイボウズが社会との関係性を持っておかないと、そこに行かないと思うんですよ。そこの問題提起をすることによって、「その問題を考えているサイボウズのことをこう思う」というブランドがつくられていくと思っています。

あとはマーケティング的な観点で言うと、競争優位をつくるというときに、社会に対してしっかり価値を出している会社が選ばれる時代になってきているのかなと思います。

コトラーの『マーケティング3.0』じゃないですけど、やっぱりそういった社会との関係を密接に持って、「社会のために」とか「社会に向けて」というような事業活動をする会社が選ばれるというか、そういう流れが来ている感じがすごくするので、やっぱりそこに対して意識を持っていて、たまたま僕たちの手段としては問題を提起していくということにつながったという感じです。なので、そこだけはぶらさずにやっています。

質問者2:ありがとうございます。

大島:ありがとうございます。ちょっと時間が迫ってきてしまったので、あと2人。

社内を巻き込むコミュニーケーション方法

質問者3:ありがとうございます。福岡といいます。発信という意味で、読み手に対しても主観と客観だったり、距離を縮めていくことがすごく大事だと思うんですけれども。

一方で、サイボウズ式さんが当てはまるかもしれないんですけど、別事業がありながらメディアをやっているところに関しては、発信元としての社内理解という意味で、社内のメンバーをファンにする必要もあると思います。そういう意味で、社内に向けての発信とか、何かしていることがあればお伺いしたいと思います。

藤村:基本的には読者のほうを向いているので、社内を向いているということはないですね。

ただ、やっぱりめっちゃ読まれるコンテンツができたら、社内の人も見てくれるんですよ。

僕たちが社内に「いいものを作ったから見てね」と言ってもなかなか届かないんですけど、「第三者が読んでるぜ」という実績とか、「ソーシャルでめっちゃ盛り上がってるやん」という状態が、社員がその記事を読むモチベーションになると思っているんですね。すなわち口コミです。

自分たちで何かを伝えたいというより、自分たちの先にいる第三者からの評判とか、認知形成が社員をそのコンテンツに向かわせるきっかけになるみたいな、そんな感じのことが多いですね。

あとは出したコンテンツを「読んでね」というコミュニケーションよりも、「こんな企画があるんですけど、どうですか?」と企画の段階で社内を巻き込むことが多いです。

例えば昨日も、営業の中途採用のイベントをやって、「そこでサイボウズの営業中途社員が転職した理由を話すので、記事にしてください」みたいな話が来たときに、僕がパクッと食いついて「いいですね、どうしたら企画になりますかね?」みたいな感じで巻き込んじゃう。

やっぱりコンテンツって、完成したものをそのまま受け取って、いきなり認識してくれるというのはけっこう難しくて、その合間でコンテンツにたどり着くまでのプロセスをしっかりと共有し合うことで、コンテンツに対する関係性がめっちゃ深まるみたいな。

今っぽく言うと、アップデート主義ですね。納品したコンテンツをみんなに見てもらうのではなくて、納品されるまでの過程をいろいろなところで出しながら、共感者を集めていく。

それで、コンテンツに対する深度が深ければ深いほど、その人は出た時に気になってくれるみたいな感じです。

すごく概念的な話をしちゃったんですけど、そういうところを考えてやっています。

質問者3:オウンドメディアを立ち上げるところまでは、どの企業もいけるなという流れはあると思うんですけど、問題はそれを継続するところにあると思っていて、そのような意味で「社内理解」という質問をさせていただきました。

藤村:クラシコムさんはあります?  インナーコミュニケーションの領域。

津田:どうですかね? やっぱり会社の成り立ちとか、メディアの立ち上がり方がぜんぜん違うと思うんですよね。(クラシコムは)「もともとやっていたWebでの商品紹介を雑誌っぽくするにはどうしたらいいかな?」みたいな感じでやっていて、社員が理解しているので、そこはあまり苦労していません。代表の青木と取締役の2人が、いかにこれが重要かということを常にコミュニケーションを取っている感じかなと。

参加者(クラシコム 広報/筒井):みなさん、コンテンツにけっこう社員を巻き込んだりしているじゃないですか。そういうことも、社員の理解促進になっているなという気がします。

大島:あ、クラシコムの広報の筒井さんです。

津田:たしかに社員に出てもらったりはしていますね。でもそれ以前に、そもそもスタッフが顔と名前を出すことが、お客さんとお店との関係性構築に重要な要素のひとつだとか、お店の「っぽさ」と「らしさ」を出していく一環だと捉えてもらっている気がします。

だからスタッフがコンテンツに出ることに関してはすごく理解があって、そういう意味では超やりやすいです。「すいません、30分取材させてください」「撮影協力してください」というと、基本的に全員来てくれるという感じです。

大島:「社内に効いている」というお話もありましたけど、「採用に効いている」というところもありますよね?

津田:そうですね。効いていると思います。

大島:ありがとうございます。じゃあもうお一方。

採用時に見ているポイント

質問者4:採用するときに「この人はノリが合うな」という部分をどれぐらい重視しているのか。スキルとノリの部分はどれぐらいの比率で、どちらを大事にしているのか、ということがあればお伺いしたいと思います。

津田:ノリ……めちゃめちゃ大事ですよね。やっぱり「っぽい」とか「らしい」というところに共感してもらえてるかどうかは話しているとわかるというか、どういう視点でうちのサイトを見てもらっているかということを質問していくと、すごく伝わってくるものがあって、採用では大事にしています。

その人が本当に持っているものだと思うので、あまり染めていけるとは思っていないんですけど、そのような意味で「らしさ」に共感できるノリはめっちゃ大事です。

逆に、スキルについてはほぼ見ていないです。私も別に編集の仕事をやっていたわけではないですし、たぶんスキルは教えればある程度できたり、本人のやる気とか、「ここでコンテンツを作っていきたい!!」って本気で思っていたら、たぶんカメラとかめちゃくちゃ勉強すると思いますし、文章も本などを読み込んだりすると思うんですよね。

例えばですけど、「メルマガの最後にコラムを入れようよ」という提案って、たぶん教えてやれることじゃないというか。本人のエンターテイメント性だったり、「見てくれている人を楽しませたい」とか、「うちっぽくやるにはこういう味付けをしたほうがいいと思う」ということは、たぶん教えられない提案なので、そのようなところをものすごく大事に見ています。

藤村:ノリ自体は正直あんまり見ていないというか、どちらでもいいなという感じですね。

というのも、サイボウズというのが「チーム」の会社で、多様な個性を生かすというか、100人いれば100通りの人がいて、まず個人として違うから、個性がある人が同居するような会社なんですね。なので、ノリが別に悪くてもぜんぜんいいですと。

じゃあ、そういうときに何を見ているかというと、もう端的に「サイボウズという会社の理想への共感」です。サイボウズは、社会を良くする、チームワークを作ることに向かっている会社なので、その人がそれをどれだけ「自分ごと」として話せるか。それに対して何ができるか、というところを見ていきます。

人を見るってやっぱりめちゃくちゃ難しくて、わからないところもいっぱいあるじゃないですか。なので、そこを1人で判断しようとしていないです。うちではいくつか選考があって、いろいろな方に見てもらいながら、というところをすごく意識します。

中途採用的なところでいくと、僕もスキルは正直あまり見ていないです。もちろんあればいいなとは思うんですけど、本当にサイボウズという会社のビジョンに沿って、伝えていく気持ちがあるか。ここだけを見るかな。

あと1つ付け加えるとすると、うちが大事にしているのは「公明正大」です。ウソをつかないこと、人間として正直であること。ここをすごく見るようにしているので、いろいろな話ぶりを質問して聞きながら、「そういう人なのかな?」ということを見るようにしています。

津田:少し付け足してもいいですか? 私も同じく「ノリ」というのは、「ウェーイ!!」という意味でのノリではなくて、共感ということでして。そこが一緒だと、多様性があることがすごく生きるというか。

それによってメディアの、「多面的で、おもしろくて、いつも一緒なんだけど、いつも新鮮」というものが作られるのかなという気がします。

大島:大丈夫でしょうか? ありがとうございます。まだまだお伺いしたいこともたくさんあるのですが、このあたりで締めさせていただきたいと思います。お二人ともありがとうございます。最後に大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)