2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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大島悠氏(以下、大島):では、さっそく始めたいと思います。まず簡単にお二人から自己紹介と会社紹介をしていただければと思います。藤村さんからよろしくお願いします。
藤村能光氏(以下、藤村):みなさん、こんばんは。藤村でございます。今、サイボウズという会社のコーポレートブランディング部に所属していて、「サイボウズ式」というメディアの編集長をやっております。
サイボウズ式を見たことがあるという方? ちょっと聞いてみてもいいですか?
(会場挙手)
津田氏(以下、津田):すごい! 100パーじゃないですか?
藤村:やばいですね。ありがとうございます。挙げさせた感じがすごく……。
(会場笑)
藤村:……すいませんという感じで(笑)、サイボウズ式は立ち上げてから6年ぐらい経つメディアです。
「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトということで運営しておりまして、800記事、月間20万ページビュー、月間10万閲覧者ぐらいの感じのメディアです。
正直、規模はそんなに大きくないんですけど、BtoBの会社が提供しているメディアとしては意外と影響力があるなと思っています。最近はメディアだけではなくて、いろいろな取り組みにも挑戦しています。
(スライドを見て)これはミートアップですね。イベントを運営して、より近い距離を保ちながら、読者の方と知り合いになりたいというか、バイネームで「サイボウズ式を読んでいる読者はこの人だ」と言えるようになりたいと考えながら運営しています。
今日も「インハウスエディターの役割」という、かなりおもしろいテーマになりそうなので、そのあたりの話ができればと思っております。よろしくお願いします。
(会場拍手)
津田:こんばんは。クラシコムの編集チームでマネージャーをしている津田と申します。じゃあ、会社のことを(紹介します)。
クラシコムが運営している「北欧、暮らしの道具店」というWebサイトに掲載する記事を、私たちの編集チームが作っています。
いわゆるWebメディアなんですけど、ECサイトの機能もあったりして、よく代表の青木(耕平)が「カートボタンがついた雑誌のようなメディアを目指している」というふうに、いろいろなイベントで紹介させていただいてます。だいたいのデータなんですけど、サイトのアクセス数は月間1,500万PVぐらいです。
藤村:すごいですね。
津田:本当ですか? ありがとうございます。ユーザー数は月間160万人くらい。そのような数字の他に、週に1回以上(サイトを)訪問しているユーザーが全体の96パーセントという感じで、たくさん訪問していただけるサイトとしても考えられるということが1つの特徴です。
SNSの運用は、FacebookとLINE@とメルマガは編集チーム、Instagramはバイヤーチームがやっています。
大島:そうなんですね。
津田:Twitterはお客様係のコミュニケーショングループがやっているという感じで、けっこうバラバラで(運用を)やっているということも会社の特徴かなと思います。
クラシコムが運営しているメディアは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、ビジネス寄りの話をしている「クラシコムジャーナル」。
2つ目の「北欧、暮らしの道具店」には、ECサイトで商品を売っているので、その紹介をする商品ページと、自分たちで企画、取材、執筆している読み物の2つがあります。読み物の中には、最近自分たちで特集しているもの以外に、タイアップをいただいて記事広告をする「ブランドノート」という商品もあります。以上です。
(会場拍手)
大島:ありがとうございます。今日は「PR視点で企業価値を高めるインハウスエディターの役割」というテーマを設定したんですけど、「PR視点」と「インハウスエディター」がどう結びつくかというところで、今回なぜお二人を呼んだのか、少しだけお話ししたいと思います。
期待を裏切ることになってしまうかもしれないのですが(笑)、今日はあまりオウンドメディアの編集テクニックや運営ノウハウの話はしないつもりです。
インハウスエディターの役割はそれだけではないというところで、もっと俯瞰した役割、ブランドをつくるとか、企業の価値を高めるとか、そのようなところを担える役割として可能性があるのではないかというお話をお二人としていきたいと思います。
なぜPR Tableという会社がそのようなことをやるのかと言いますと、「PR」は日本ではプロモーションとかパブリシティという文脈で捉えられがちなんですけど、本来は「パブリック・リレーションズ」という考え方の略称で、「社会との良好な関係構築」ということなんです。
なので今回は、企業を取り巻くステークホルダーの方たちと関係を構築するために、企業の中で編集を担っていらっしゃるお二人という認識で、お声がけさせていただきました。
サイボウズさんはBtoBの事業で、クラシコムさんはBtoCの事業なのに、共通点がすごくあって、すでにコラボレーションされている事例もあるということで、今日はいろいろとお話をうかがえればと思います。
(参考:「私は長時間働いているのに、あの人は……」とならない理想の立て方──クラシコム青木耕平 ✕ サイボウズ青野慶久)
藤村:(コラボレーションの)いきさつをちょっと説明すると、弊社の青野が『チームのことだけ、考えた。』という、サイボウズがいろいろと考えて実践してきた経営戦略や人事設計の本を出したところ、(クラシコムの)青木社長が読んでくれたんです。
大島:そうだったんですね。
藤村:青木社長が「この本、すごくいいです」とTweetをしていたのを僕が発見して、クラシコムの編集者の方に「何か企画になりませんか?」と言ったら、「ちょうど僕も見てました」とメッセージをもらって、そこからできたんです。
メディアを持っていると、このような連携ができたりするので、インハウスエディターは狭義の編集ではなくて、メディアを使っていろいろと仕掛けることもできるんじゃないかなと思いました。脱線しました(笑)。
大島:いえいえ、ありがとうございます。その流れでさっそく本編に入っていきたいと思います。
1つ目のトピックとして「そもそも編集とは何か?」というところをお話ししたいと思いますが、お二人は社内でどんな役割を担われていて、どんなミッションを背負っているのかお伺いしてもいいですか?
藤村:今は「コーポレートブランディング部」という部署にいるんですけど、会社のブランドをつくることが部署自体のミッションになっています。
僕はメディアの編集長をしているんですけれど、基本的には、会社の価値を「伝えていく」ところが仕事の大枠になっています。
すごくわかりやすいアウトプットでいうと、コンテンツを作りながら、メディア全体を運営していくというところがあるんですけど、実はそれ以外にも部署の中ではいろいろな仕事をやっておりまして、例えばこんな取り組みです。
働き方改革に対して「楽しくないのはなぜ?」というような、社会に対してちょっと問題提起をするようなプロジェクトですね。このようなものを僕たちの部署の中でやっていたり。
あとは「チームワーク経営シンポジウム」と言って、中身は株主総会ですね。
大島:新しいですね。
藤村:株主総会は、これまでずっと株主様向けの場を提供していたんですけど、より会社としての価値観をいろいろなところに伝えていきたくて、イベントをくっつけてシンポジウムにして、株主さんやそれ以外のステークホルダーの方ともコミュニケーションしていくとか。実はこんな仕事もやっています。
なので、会社が持っているブランド自体を、編集というスキルを使って、さまざまなアウトプットにして届けて、会社を取り巻くいろいろなステークホルダーとコミュニケーションしていく。ここがけっこう大きな仕事かなと思っています。
大島:コーポレートブランディング部自体の体制・人数はどうなっていらっしゃるんですか?
藤村:人数は10人ぐらいいます。もともと広報の部署なので、広報由来のキャリアの人がけっこう多いです。
大島:そうなんですね。
藤村:僕はけっこう異端で、メディアをやっていた人がたまたま入ったみたいな感じですかね。
副(複)業をしていて、週2日だけサイボウズで働いていて、基本は新潟にいる人もいます。あとは1回サイボウズを辞めちゃったんですけど、一緒に仕事したいと言って、パリからリモートで参加している方とか、あとは学生のインターンとか、そんな感じの構成です。
大島:藤村さんの役割としては、「サイボウズ式の編集長」というのがみなさんもよく目にする肩書きだと思うんですけど、IRはまたちょっと別の領域じゃないですか。(担当部署が)分かれている会社が多いと思うのですが、コーポレートブランディング部で見ている領域はどこまであるんですか?
藤村:みなさん見えますか? これが、サイボウズのコーポレートブランドのドメインです。
真ん中にサイボウズという法人格があって、そこを取り巻く円は、会社が事業を展開していく上で、関係性が絶対に必要なステークホルダーです。
例えば、お客様であったり、採用であったり、社会に対する働きかけ、あとは株主ですね。このように、いろいろな関係者とコミュニケーションすることでサイボウズという事業が成り立っています。
それで、ここの(サイボウズとステークホルダーの)間にあるのがメディアですね。いろいろなステークホルダーとの関係性を良くしていくための媒介になるということがざっくりとしたイメージです。
ここに対してメディアを使ったり、いろいろな動画を使ったり、手段は何でもいいんですけど、そこは年によってけっこう変わっていきます。
大島:これを見ただけで、ものすごく幅広いということがよくわかります。
藤村:僕も全部は見れないですね。この中のいくつかという感じです。
大島:その時のフェーズに応じて、必要なものを担っているという感じですか?
藤村:おっしゃるとおりです。
大島:なるほど。ありがとうございます。津田さんにも「そもそも編集?」とはというところで、どんなことをやっているのかお伺いしてもいいですか?
津田:私は編集チームのマネージャーなので、編集チームが作っているコンテンツのクオリティ、納期、コストのチェックというところが一番わかりやすい仕事かなと思います。
基本的には、先ほどご覧いただいた「北欧、暮らしの道具店」の商品ページと読み物を見ているんですけど、それ以外にSNSの運用だったり、最近は商品動画も作っているので、「北欧、暮らしの道具店」のメディアと同じ編集方針や感覚で、いろいろと作っているもののクオリティチェックが大きいかなと思います。
あとは先ほど「幅広くて見きれない」というお話があったと思うんですけど、まったく一緒の悩みというか……。
大島:そうなんですね。
津田:自分ひとりだけで、「北欧、暮らしの道具店」のあらゆるコンテンツのクオリティを維持し、「らしさ」を作り続けていくことは、正直限界があるだろうなと思っていて。
自分の限界が、お店だったりメディアだったりの限界にならないように、自分が上司(=店長佐藤:クラシコム取締役)から学んだこと、編集方針やお客様との関係性において大事にしたいことなどを、チームメンバーに伝えていくのも、最近では編集チームのマネージャーの大事な仕事のひとつだなと考えています。
大島:少し補足させていただくと、私が津田さんを知ったのはクラシコムジャーナルの記事なんです。
津田:ありがとうございます。
大島:2017年ぐらいに出ていた記事ですよね。チームのマネジメントについて、入社1年目の方とインタビューされているのがすごく印象的でした。
たぶん(会場に)オウンドメディアの運用をしている方もいらっしゃると思うんですけど、長期的に継続することが一番大変だと思うんですよね。
それをあのクオリティで、あの世界観を維持して運営されているのはけっこうすごいことだと思っていて、それをまさに担っているというところで。
津田:そうですね。でもやっぱり、すごく共感して入社してくれるスタッフが多いので、そいう意味だと教育は楽といえば楽という気もします。
大島:今、チームは何人ぐらいいるんですか?
津田:編集チームは全部で14人います。基本的に編集経験者はゼロです。
大島:それがすごいですよね。
津田:やっていたスタッフもいるんですけど、Webメデイアの編集をやっていたスタッフはいないです。
チームは今、編集第1チームと編集第2チームに分かれていて、私は第1チームのマネージャーをしています。第2チームにもう1人マネージャーがいて、ペアでチームマネジメントをしているような感じです。
大島:編集未経験で入社してくる方を育てるのは、けっこう大変なことだと思うんですけど、そのあたりはどういう体制で育成されているんですか?
津田:一番最初に、商品紹介のページを3ヶ月ぐらいみっちりやっていきます。週に1個とか2週間に1個という感じでやるんですけど、食器もあって、カトラリーもあって、布ものもあって、革もあって、洋服もあって……みたいな感じでやっていて、そこに教育係の先輩スタッフが1人ついて、1on1でずっと教えるという感じでやっています。
大島:その編集体制を維持したり、育成するのも津田さんが担っているということですよね?
津田:そうですね。新人スタッフの教育だけではなくて、ディレクターの教育もやっています。
大島:なるほど。そのあたり、サイボウズさんはどういう体制になっているかお伺いしてもいいですか?
藤村:うちも基本的に、編集経験者はいないですね。ソフトウェアの会社で、基本的には製品がコアコンピタンスになってくるので、それを売っていく・伝えていくというところが事業の中心です。
「ブランドづくり」は、そこではないところになるので、それを伝えたくて、かつ編集のスキルも持っているという人はなかなかいないので、やっぱり入ってきてくれた会社に共感を持ってくれている人を一緒に育てていくしかないかなと思っています。
津田:今のはすごくわかるなと思っていて、なんていうんですかね? 「編集」をすごく狭義に捉えて、コンテンツを作ることとか、写真を撮って、タイトルをつけて、記事を書くことと捉えると、たぶん経験していないとつらいかなと思うんですけど。
たぶんサイボウズさんも、クラシコムも、伝えたいメッセージや「このサイトに訪れた時にこういうふうに感じてほしい」というところがもともとあって、そこに対して共感してくれている人たちが入ってきてくれたりとか。
外部のライターさんもそうだと思うんですけど、読者の立場で「北欧、暮らしの道具店」を見ていたときに「なんかいいな」と感じてくれて、自分もその「なんかいいな」を一緒に作っていきたいと思ってもらえると、そこから先はすごく話が早いというか、技術的なところは後からついてくると思っています。
なので、マネージャーや編集長は、「ここで一緒にやりたい」「仲間になりたい」と思ってもらえるメディアの濃さや空気感を作っていく仕事を、リーディングしてく感じなのかなと思いました。
藤村:すごく共感するのは、やっぱりメディアが目的ではないんですね。みなさんたぶん耳にタコだと思うんですけど、メディアはあくまでも手段で、津田さんがおっしゃったとおり、会社として伝えたいメッセージとかやるべきことは明確で、そのために「どういう手段でやるか?」というところにメディアがフィットしたと。
それを実現するためには「編集」というスキルが必要だけど、それは本当に十分条件であって。必要条件はやっぱり会社への共感とか、それを伝えたいとか、「カルチャーフィット」があって、そこがインハウスエディターの定義とつながってくるんじゃないかなと思います。
大島:事前打ち合わせの時に、津田さんが「動機ドリブンで何でもやるのがインハウスエディターだ」とおっしゃっていたのが、個人的にもすごく腑に落ちました。「コンテンツを編集することだけが編集者の仕事ではない」というか、出版だとまた定義が違ってくると思うんですけど。
津田:やっぱり「伝えたい何かがある」という動機を持っていて、そこに共感していて、それを伝えるために考えられることやベストな手段を取ることが編集かなと思っていて、なのでコンテンツ作るだけではなくて、サイボウズさんがやっているイベントなどもそうだと思いますし。
大島:ありがとうございます。その編集について、「実際にどんなところに気を配って編集していますか?」というトピックを2つ目に持ってきました。
仕事において重視しているポイント、いろいろな動機やカルチャーフィットが大事だという話が出ましたけれども、コンテンツやイベントなど、どういうところに気を配って編集されているのかをお伺いしてもいいですか?
津田:トピック1で言った編集の定義につながってくると思うんですけど、「伝えたいこと」や「読者にメディアやコンテンツを通じて感じてほしいこと」という動機があるから、それに合った編集ができているかという点で、いろいろとチェックや話し合いをするのかなと思っています。
私の元に、みんなが作ってくれた商品ページがチェックに回ってくるんですけど、「一番最初の写真は、なんでこれを選んでるの?」みたいな質問をよくしています。
でもそれって、スタッフがすごく考えてくれてるんですよね。「この商品はお客さんにこのように思ってほしい」「こういう悩みに対してこういう解決ができる」「そういう価値がある商品だと思っているから、一番伝わるのがこの画像だと思う」というかたちで1枚の写真を要素分解して、「これでこのように伝えられる気がする」というように。
後ろは白い布を敷いたほうがいいのか、無いほうがいいのか。布はクシャッとしていたほうがいいのか、板っぽいほうがいいのかということは、現場ですごく模索して持ち帰ってきているものなので、それに対して自分は何もやっていないので、本当に読者と同じ立場から「それは通じないかもね」「もっとこうしたほうが意図が伝わるんじゃないか」という、微調整をしているのかなと思っています。
例えば、革の財布を商品ページにしようというときに、「前は板で撮ってたから、板で撮りました」みたいな感じで言われちゃうと、それはちょっと難しいのかなと思っていて「これが正解」「これをマネしろ」みたいなものは作りたくないんです。
毎回、その商品だったり、伝えたいメッセージに必ず立ち返ってもらって、どうするのがいいのか思考するクセづけをチームに伝播していくところが、自分がやっている編集者の仕事っぽいかなぁ。
大島:クラシコムさんのインタビューで拝見したときに、「金太郎飴のようにコンテンツを作る」という言葉がすごく印象的だったんですけど、それってけっこう難しいことだと思っているんですよね。
津田:そうなんですよね。金太郎飴を目指そうとすると、全部木の天板で(商品写真を)撮るみたいな話にもなりやすいんですけど、そういうことじゃない。
それよりももう少し、できあがったものではなくて、概念のところですごく金太郎飴感を大事にしているのかなと思います。
大島:編集部内に新しい方が入ってきたときに、共有の仕方が2パターンあると思うんですけど、徹底的に言語化して伝えるのか。それとも現場で一緒にやっていって、だんだんわかっていくものなのか。そのあたりはいかがですか?
津田:現場でやっていってという感じかなと思うんですけど、例えば、「『北欧、暮らしの道具店』っぽい写真を撮るための5か条があります」みたいことって、たぶん言えると思うんですよね。
大島:あるんですね?
津田:いくつかあると思うんですよ。スタイリングのコツみたいなものって。だけど、その5個を全部網羅したら「北欧、暮らしの道具店」っぽくなるかというと、ならないみたいな話があって。
大島:最低限のラインということですよね。ポイントとかね。
津田:今日も来ている人事の筒井から聞いたんですけど、Netflixでやっている『ブレイキングバッド』というドラマがあって、みなさん見てます? 人間というものを要素で分解すると、たぶん水とかの要素に分解できる。でも、その要素を化合しても、人間には決してならないみたいな。
大島:深い(笑)。
津田:みたいな話があって(笑)。そういうのに似てるかなと思います。「『っぽい』写真を撮ろうと思ったら、これをおさえればいいよ」ってスタッフもたぶん教えてほしいし、こっちも教えたくて、実際教えるんだけど、じゃあ「そうやって撮りました」というと、「なんかちょっと違和感あるかも…」みたいな感じで。
その違和感を絶対スルーしないように、やっている人たちも、私たちチェックする側もやるという感じです。サイボウズさんはどんな?
藤村:やっぱり僕たちが伝えたいメッセージと、それを受け取る読者やユーザーの間には、めちゃくちゃ乖離があって、そこを忘れちゃいけないということは意識してますね。
大島:乖離? どういう?
藤村:例えば、サイボウズは「チームワークあふれる社会をつくる」ということがビジョンなんですね。すべての活動がそこに向かっていってますと。その中で、ブランドドメインでもやるべきことがありますと。やっぱりチームワークをつないでいきたいんですよ。
でも、普通の人からすると、チームワークって興味がある人もいればそうじゃない人もいるじゃないですか。その状態でいくらチームワークを伝えても響かない。すなわち、ブランドができないということなんですね。
ブランドというのは、その人が何かを受け取ったときに、その人が思い描く印象だったり考えだったりして、企業側が定義すればそのまま伝わるものではありません。
なので、「僕たちは伝えたいメッセージがある。でも、それはそのまま伝えても届かない。じゃあ今、伝えるべき人が知りたいことってなんなの?」という変換とか、文脈づけをけっこう意識しますね。
大島:先日、「PR Table Community」でサイボウズ式の編集者の明石悠佳さんという若手の……。
藤村:売れっ子。今、売れてますよ。
大島:売れに売れている編集者の方をインタビューさせてもらったんですけど、たぶん藤村さんから教わったことだと思うんですけど、同じことをおっしゃっていました。
「自分たちが伝えたいことと、社会との接点を作る」みたいな。プラス、「自分の思いが大事」というお話をされていて、それがすごく印象的だったので。そういうことですよね?
藤村:そこはパブリックリレーションの視点で言うと同じで、やっぱり社会に対する関係性を作るというところも、パブリックリレーションズの一番の根本じゃないですか。そことや似ているなと思うんですよ。
大島:一方通行じゃないということですよね。
藤村:おっしゃるとおりですね。関係性を作るみたいな。そのあたりがすごく重要だなと思っていて、そこを意識しています。例えば「これをやってね」って言っても無理なんですよね。
大島:社内の方に対してですか?
藤村:そうそう。なので、マニュアルは作っているのですが、「ここはこうしてね」と指示することはあまりなくて、「じゃあどう思う?」と考えてもらう。それで、その人が自分で言語化できるまで解釈を広げてもらう。編集のときは、そこのやりとりをけっこうやっています。
大島:津田さん、頷いていらっしゃいますけど。
津田:いや、めちゃめちゃわかります。特集を作ってもらうときに企画書を出してもらったりとか、取材が終わったあとに「骨子」という「こういうことを伝えたいから、この特集にこういう項目を入れます」みたいなものを出してもらうんですけど、自分が伝えたいことって言語化するのがすごく難しいんですよね。一番おもしろかったこととか。
でも、もう1人編集の伴走者がいて、「それってこういうこと?」とか、「もっとこういう切り口なんじゃないの?」みたいな話をしていくうちに、書き手とか編集者が腑に落ちるタイミングがあるなと思っていて、本人が考えて言語化したものじゃないと伝わらない「何か」があるなというのはすごく思います。
大島:自分が腑に落ちていないと、読者にも伝わらないということですよね。
津田:そうですね。うちでよく言っているのは、自分が書きたいものとか、誰かが読みたいものではなくて、「自分が読みたいものを作りましょう」ということが標語というか、スローガンになっています。
うちの場合は世の中の誰かという感じではなくて、スタッフはみんなもともと読者で、うちのサイトの採用ページを見て入ってきているということもあるので、「元・お客さんだった自分、元・読者だった自分だったらそのテーマをどう伝えてほしいか」とか、「そのメッセージをそう言われると、説教くさくてなんか聞けないかも」みたいな。
そういう肌感をすごく大事にしているし、ミーティングしているときにそこをしゃべってほしいなと思います。
大島:BtoCとBtoBで違うと思うんですけど、社会との接点をどう作るかって、サイボウズさんは社会に対する問題提起を積極的にしていると思うんですけど、クラシコムさんの場合はそういうわけではないですもんね。問題提起をしているわけではないというか。
津田:そうですね。なんか、ふんわり仕上げで(笑)
大島:(笑)。
津田:「暮らしがちょっと良くなったらいいな」ぐらいな感じですね。
大島:いやでも、そのふんわりしている裏の話を聞くと、けっこうしびれますけどね。
(会場笑)
大島:そこのダメ出しの話というか(笑)、お二人は「これを世に出していいか」という判断をどこでしているのかというお話を聞いてもいいですか?
津田:「北欧、暮らしの道具店」の商品紹介ページは、クラシコムの編集スタッフが撮影して執筆もしているので、例えばですが「この表現はもしかすると気分を害する人がいるかも」「こういうテイストのものは、お店の世界観と合わないな」と感じたら、率直にNGであることを伝えます。
やっぱりうちのサイトは、忙しい合間に見てホッとしてもらうサイトだと思っていて、その結果としてお買い物があったりするだけだと思うので。
来たときにはやっぱりいい感情で帰ってもらいたいとか、いつ来てもなんとなくいいなと思ってほしいので、気分を害するようなものは入れてほしくないというのは1個あるんですけど、それ以外は本当の意味でダメということはありません。
「伝えたいことが伝わるんだっけ?」「どこを工夫しているんだっけ?」みたいな感じで聞くことは多いですね。(藤村さんは)ダメなところって決めてますか?
藤村:正直あまり決めてないんですけど、僕が企画書を見てジャッジするところはけっこう明確にあります。まず1つは「企画担当者がなぜその企画をやりたいか」という思いです。
大島:個人の思いですね。
藤村:はい。もう1つは「それをなぜサイボウズ式という媒体で出す理由があるのか」という文脈づけ。「コンテクスト」なんて言いますけど、この2つを見るようにしてます。
ここの2つが揃って、かつ企画書の中に入っていると、その人の思いがめちゃくちゃ強くて、伝えたい思いがしっかり出てきます。
ただ、その人の思いをそのまま出してしまうと「趣味」なので、仕事ではなくなってしまうといます。だからサイボウズ式として出す理由、つまり「なぜこれをうちでやる理由があるの?」ということが言えるようになっていないとOKが出ないという感じです。
具体的な原稿とかは、先ほど津田さんがおっしゃっていた「人が見て不快に思わない」かというところは見ますかね。あとはタイトルとか。ここはちょっとノウハウの話になっちゃうのでまた今度。
大島:そうですね。具体的に「これが正解」というものがあるわけではないという感じですよね。
藤村:うちはそのスタンスなんですよね。本当に正解をメディアのほうで定義するのは……しかもオウンドメディアなので難しいかなと思っていて。たぶんウソくさいじゃないですか(笑)。
それこそ企業の伝えたいメッセージであって、読者に寄り添っていない感じがするので、僕たちは正解を伝えるという作り方やブランド伝達の仕方をしないですね。それが社会に対する問題提起というかたちに変わっているという感じです。
問題提起というのは、すなわち答えを言っていないんですよ。「こう思うんだけど、どうですか?」とみなさんに問うんですよね。
問いかけに対してはイエスでもいいし、ノーでもいいし、どちらでもないでもいい。それでいったん考えてもらって、意見を出してもらって、議論が起こって、この枠組み全体が社会に対する問題提起になると思っています。
なので、正解は出さないですね。さっきの「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう?」みたいな。
大島:問いかけになっているという。
藤村:答えはみなさんの中にありますので。それを言語化する手助けはしますよ。そんな働きかけがけっこう多いですかね。
大島:なるほど、ありがとうございます。では、次のトピックにいきたいと思います。
現在の編集をどのようにしているかというお話を伺ったんですけど、そもそも5年前とか、クラシコムさんだったらもっと前に、どこから編集を始めたのか。(参加者の中に)これから編集部を立ち上げる方もいると思うので、最初の1歩のところをお伺いしてもいいですか?
藤村:サイボウズは、経営陣やマーケティング関連部署の中で、事業課題とマーケティング課題が明確にあったことが大きいですね。
というのは、「サイボウズ式」を始める前の5年間ぐらい、単純に売上が横ばいになっていて、それまでの製品マーケティングやプロモーションだと市場のパイが広がらない。これはヤバいんじゃないかと。ここがまず課題としてありました。
そういうときに、具体的に何をすべきかというのは、今アプローチしている市場のパイをちょっとずつ広げるか、まったく未開拓の市場を取りに行くか。この2つだと思うんです。
その中で、(前者の)グループウェアに対するプロモーションはけっこういくところまでいった感覚があったので、「新しい市場を開拓していかないと僕たち死ぬよね?」という認識があったと思います。
大島:そもそもの始まりは。
藤村:そこで、いきなりマーケティングで製品のアプローチをしてもそもそも興味がないとか、興味・関心が喚起されていない状態だと響かないということがあって、「まずは知ってもらうことをやってみないか?」という判断があったのが大きいですね。
大島:認知というのは、サイボウズさんの会社名自体の認知?
藤村:おっしゃるとおりです。いきなり製品の導入というのは、やっぱりBtoBのソフトウェアだと難しくて、1つの製品導入までに、意思決定とか、ネゴシエーションとか、いろいろな段階があります。
その中でまずはサイボウズを思い浮かべてもらうとか、いろいろなツールとの選択の中にサイボウズが上がる状態を作らないといけない。すなわち、サイボウズを知ってもらわなきゃダメだよねという、ここから始まりました。
なので、サイボウズをまったく知らない人に、まずはサイボウズという会社と関係性を持ってもらう。これを目指して、その手段がメディアだったという感じです。
大島:最初の手段がメディアに決まった経緯はどんなお話だったんですか?
藤村:6年前の2011年、2012年ぐらいですと、ソーシャルメディアがすごく流行っていた時期で。
大島:Twitterが急に伸びた時期ですよね。
藤村:おっしゃるとおりです。そのときに、「どのようなアプローチをしたらまったく新しい市場に対してコミュニケーションができるか」となったときに、「ソーシャルメディアを使おう」ということがあったんですね。
大島:そっちが先だったんですね?
藤村:でも、これは人材育成の観点から「ちょっと違うんじゃない?」という話になりました。具体的には、ソーシャルメディアだけをやっていても、その人のマーケティングのキャリアはなかなか磨かれないというか。うちの部署のマーケターを育成するためにも、そのノウハウをしっかり蓄積していく理由があると。
そのときはやっぱり、広告を出稿するとかメディアバイイングをするだけではなくて、自分たちでコンテンツを作って、お客さんと接点を持って、コミュニケーションを持って、関係性を作る。「こういうスキルがあると、マーケターのキャリアとしても何年後かにいい感じじゃない?」という、人材育成の観点がありました。
大島:その時点でめちゃめちゃ長期的な戦略だったんですね。
藤村:後付けとも言えますが(笑)。
(会場笑)
藤村:けっこう成功体験みたいなものを語っちゃいがちなんですけど、そのときにすべきことを実直にやっていたら結果がついてきたので、今、こんな感じで話せるようになっている、というぐらいだと思います。
大島:なるほど。ありがとうございます。クラシコムさんは初期の頃から、最初にご説明いただいた「カート付きの雑誌」みたいなところは実施されていたと思うんですけど。
津田:そうですね。うちのサイトにある商品の紹介ページも編集だと思っているので、そういう意味だと、クラシコムは一番最初から編集をやっていたというか。
北欧のヴィンテージの1点ものの食器を買い付けてきて、1点1ページの紹介ページを作って、お買い上げいただくというのが一番最初の成り立ちです。
大島:本当に最初から編集されていたんですね。
津田:そうですね。商品が入荷する曜日が週に1回とか決まっていて、そのタイミングでメルマガを出して、お客さんにお知らせしていて、そのメルマガもすごく編集視点があったなと思うんですけど、「こういうアイテムが上がります、何時に販売開始です」というメルマガの一番最後に、勤めているスタッフの本当に他愛もないコラムを載せていて。
新商品のアップという情報を、エンターテインメントとしてお届けするというところもすごく編集していたかなと思います。なので、最初からうちの会社はやっている感じだったのかなと思っていて、2010年ぐらいはブログも流行っていましたし。
大島:たしかにそうですね。
津田:「じゃあ、スタッフがブログやるか」みたいなことを代表が思いついて、みんなが全員バイネームで書き始めて、アクセス解析の方に入ってもらったら、ある日、商品ページよりスタッフブログがめちゃくちゃ読まれて、PVが高いということがわかって。
大島:すごいですね。
津田:社長が「全員集合!」みたいな感じで(笑)。
(会場笑)
津田:「やるぞ!」みたいな感じでなって、「みんな週に1回ね」という感じだったのが、「毎日何かしらコンテンツがあるとどうなのかな?」「今の人数しかいない中でやれることあるんだっけ?」みたいなところから始まりました。
サイボウズさんは経営の課題だったり、「こういうふうにやっていきたい」というトップダウンがあったのかなと思うんですけど、クラシコムの場合はそもそも似たようなことをやっていて、お客さんからの反応というか、どこに魅力があるとか、楽しんでもらえているかということが数字に出て、という感じです。
たぶんその時って、スタッフが6人とかしかいないと思うんですよ。
大島:全員でということですよね?
津田:社員数6人で、「メディア運営って何からやれるんだっけ?」みたいなところから始めました。
何年かかけて、それがどんどん雪だるま式に増えていった感じです。自分たちのことをブログに書くだけではなくて、誰かに取材して話を聞こうということで特集をやったり、タイアップの記事広告が始まったり。ものすごくミニマムに始まった感じです。
大島:そこからどんどん手段が広がっていったという感じですね?
津田:そうですね。ちょっとサイボウズさんに質問があるんですけど、社長からトップダウンで「メディアを運営していったらいいんじゃないか」という話が出ることって、(今日のイベントに来ている)みなさんもけっこうあると思います。
「どういう運用体制にしましょう」とか、KPIを上の人に求められるじゃないですか。そういうのはどうしているんですか? 具体的にどう決めていったのか気になります。
藤村:実は「メディアをやって」とは言われていないんですね。あくまでもマーケティング課題、経営課題があって、「これにアプローチするにはどうする?」というコミュニケーションがまずあありました。当時、サイボウズ式を立ち上げた初代編集長の大槻が「手段としてまずサイボウズ式をやろう」と。それで「おもしろいね、いいね」みたいな、本当にそんな感じで決まったらしいです。
津田:へぇ〜。
藤村:それは経営課題がしっかりフィットする手段だったということがわかったからだと思います。
それで、いざメディアをやるとなった時の運営体制ですよね。どうやって作ったのかなと思うんですけど、たまたま藤村がWebメディアの記者や編集者をやっていたキャリアで入って、(サイボウズでは)製品のマーケティングコミュニケーションをやっていたんですけど。
津田:サイボウズ式があって、そこで書きたくて入ったとかではなくて?
藤村:僕は転職して、メディア以外のことをやろうと思っていたら、今メディアやっているみたいな……。
(会場笑)
藤村:謎のキャリアになってますけど(笑)、ぜんぜん想定していなかったですね。そういう経験を積んでいて、メディアの構築や運営のイロハがわかってきたので、そこから体制構築していったんですけど、正直そんなに最初からガチガチにはやっていないですね。
なので、運営体制というよりかは、当時は組織を作ることをやっていって、部長が立ち上げて、僕がサブで入って、1人だけ専任をつける感じで始めました。だから、当時はもう超手探り。まったくわけがわからないという感じでやっていました。
津田:そういう意味だと、ちょっと似ていますね。手探り感というか。「やるぞ!」みたいなことは見つけたけど、どうやるかという部分はやりながらというか。やっぱりスタートはほかの業務と並行してということが多いから、割ける人員がすごく少ないということがあるのかなと。
大島:確かに。おっしゃるとおりですね。
津田:当時、うちの会社では「発信する人たちが楽しくやれることでやろう」みたいなことはよく言われていましたね。
やっぱり会社が小さければ小さいほど、やるべきことがすごくたくさんあると思うんですよ。部門で仕事が決まっているわけではなくて、すごく幅広くやらなきゃいけない。
私は(社員)12人目とかでクラシコムに入っているんですけど、当時は週に1時間掃除の時間もあって。
やっぱりそういうこともやらなきゃいけないことに入っていると、発信するという業務がノッてやれるというか、楽しくやれることがすごく重要だなと思っていて、そういうテーマを見つけられるといいですよね。
そうすると、出た結果に対してもいろいろな意味で振り返りがしやすいというか。「これを続けていくにはどうやればいいんだっけ?」ということも考えやすいのかなと思いました。
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2024.12.12
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2023.03.21
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2024.12.10
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2024.12.12
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2024.12.11
大企業への転職前に感じた、「なんか違うかも」の違和感の正体 「親が喜ぶ」「モテそう」ではない、自分の判断基準を持つカギ