アベンジャーズ俳優が祝辞

チャドウィック・ボーズマン氏:まず創造主を讃え、先人たちの偉業を讃えようと思います。私の母には、「母の日おめでとう」と伝えます。今日はこの場に出席してはいませんが、明日になればこの様子を見るでしょうからね。

(会場笑)

さらに、亡くなった教授のみなさんにも、この場をお借りして感謝の言葉を述べたいと思います。ここ近年は仕事が忙しく、追悼の会に出席することが叶いませんでした。

アル・フリーマンJr.教授、マイク・マローン教授、レジー・レイ教授、ヒラタ・エドマンズ博士、ジョー・シルマン教授、ジョンソン博士、シングルトン博士、ジョージ・エプティーン総長、トーニー・スタームス、デニース・サンダース、ロバーツ・ウィリアムズ教授、ベラ・キャッツ教授。

みなさんの教えと指導は、今日にいたるまで私を導き続けています。ウェイン・フレデリック学長と評議員会のみなさん。この学び舎の名誉ある場に招待いただいたことに、感謝します。他の高名なみなさんとともにここにいられるのは、大変な喜びです。

『ブラックパンサー』『アベンジャーズ』のキャンペーン直後に来ることができる場所として、この大学以上の場は考えられません。卒業生のみなさんとともに、この卒業式に出席させていただき、みなさんの人生でもっとも重要な偉業が達成されるこの日、卒業生のみなさんの前でスピーチをさせていただくことは、この上ない名誉です。

「ヒルトップ」での数多くの思い出

この大学は、魔法で満ちあふれています。ポジティブとネガティブの力学が、両極端のかたちで存在しています。ある日、中庭を歩いていたことを思い出します。多くのみなさんの日常と同様に、私も世界に対し、悩みをたくさん抱え、うなだれていました。

中庭の中央まで来て、ふと見上げると、モハメド・アリが私に向かって歩いてきました。彼は目を見開いて、私の目をじっと見つめ、時間がゆっくりと流れていきました。

アリは拳をガードスタイルにしました。私は、あたかも好敵手であるかのように、彼に合わせ、ふざけて振る舞いました。ごく短い時間とはいえ、史上最高の相手に挑戦を受けるとは、なんと光栄なことでしょう。

(会場笑)

アリの表情は真剣で、まるで私が「スリラー・イン・マニラ」(注:マニラにおけるアリの伝説的マッチ)における対戦相手、ジョー・フレージャーであるかのようでした。彼の動きは素早く、私の想像をはるかに超えた素晴らしいものでした。

アリのボディーガードたちは、この冗談を少し続けさせた後、アリを連れて去って行きました。私も、蝶のようにふわふわと歩み去りました。誰も信じてくれないようなその瞬間、私は、モハメド・アリに、自分自身に、人生に対し、なんだか楽しい気分を抱いていたのです。

世界に立ち向かって行こうという気概にあふれ、足取りは軽くなりました。これが、この大学の魔法なのです。この場所では、何でも起こりえます。

ハワード大学のみなさん、執筆をしている時にラジオを聞いていたら、この大学が「ワカンダ大学」と呼ばれているのを聞きました。他にも「メッカ」「ヒルトップ」など、さまざまな呼び名がありますね。「ヒルトップ」に関して言えば、一回この大学に来てみれば、身体でわかります。毎日、脚の運動ができます。

(会場笑)

だから、車を持っている人も大勢いますよね。

学業の成績は真の指標ではない

私が1、2年生の時には、キャンパス外の、ブライアント通りにある家から通っていました。そう、あの通りです。ご存じない方にお話ししますと、この通りは丘のふもとにあって、坂が一番急な所です。

そこまで下宿が遠いと、ほぼ毎日、クラスメートが本を全部持ってくれました。徒歩だと家に帰ることは不可能だからです。ずっと家にいるのであれば、話は別ですが。

しかし体力以外にも、このキャンパスで得られるものはあります。ここ「ヒルトップ」は、みなさんが在学中に極めた、知的で高邁な精神の旅の象徴です。この大学においてみなさんは、アカデミックな急坂を、少なくとも3、4年登りました。人によってはもう少し長い間、登り続けましたね。

(会場笑)

古来、学舎は丘の上に作られてきました。啓蒙の証を得るには、それだけ大きな労を要求されたのです。この丘においては、みなさん一人ひとりに、それぞれ異なる困難があったことでしょう。

学業に苦労した人もいることでしょう。「首席」という言葉は知っていても、自分には関係がないと考えているあなた。

(会場笑)

一生懸命勉強して努力したことでしょうけれども、AはもらえずオールB、ひょっとしてCもあったかもしれません。オールDはなかったかもしれませんが、この丘の上の卒業式に出席することができたのですから、気にすることなどありません。

(会場拍手)

みなさんもお気づきかとは思いますが、学業の成績はみなさんの素晴らしさの真の指標ではありません。ですから気にすることはありません。

別の人にとっての困難は、金銭面であったかもしれません。みなさんご自身やご家族が、毎学期、資金を工面するために奮闘されたのかもしれません。あちこち駆け回り、苦労して支援を探しまわったかもしれません。いくつものアルバイトを掛け持ちしたかもしれません。

これからの人生も、さらなる高みへ

でも、みなさんはここにいます。全員がそうではありませんが、みなさんのうち大勢の人にとって、一番の苦労は社交的なものだったかもしれません。まったく友達ができなかった人がいるかもしれません。思い描いていたような、クールで友達がたくさんいる学生生活を送れなかったかもしれません。悩んだ人もいることでしょう。精神的に追い詰められてしまった人もいるでしょう。

丘の頂上のこの大学に、重荷を背負って、登ってきたのかもしれません。それでもいいのです。みなさんはこの式に出ているのですから。

何がしかのトラウマを背負ってきた人もいるかもしれません。多くの傷跡やあざを負って、丘の頂上の、この大学まで来た人もいるかもしれません。学生生活を楽しみすぎた人もいるかもしれません。

(会場笑)

授業を抜け出して、中庭でラップを歌っていたり、踊っていた人もいるかもしれません。DCパーティ人生をまっしぐらに進んだ人もいたことでしょう。私もよく知っています。大都会の真ん中なのですから、当然です。

学生の本分を忘れてしまった人もいることでしょう。素晴らしい学業成績を修めて式に臨んでいる人もいるでしょうが、ぎりぎりのところをなんとか卒業できた人もいることでしょう。授業、レポート、卒論は「ダルかった」かもしれません。

そんな人たちは、文字通り「学校に通うにはクール過ぎる」(too cool for school)みなさんです。ベストの実力を発揮するにはギリギリまで待ちます。多すぎる称賛を背負っているのですから、丘の上まで登ってくることができたのは驚異的です。

今日、卒業するみなさんのうち大勢が、私が話した苦労を背負ってこの丘に登ってきたでしょう。

今、私たちは、長い時間の末、初めてこの眼のくらむような丘の単独登頂を達成しようとしています。これはさらなる高みを目指すための短いオリエンテーションです。しかし、このような登り道に慣れてしまえば、みなさんの心は勝利の静けさに開かれるでしょう。

まだ低地にいる時には、なぜか人は、高みに登るのは難しいという意識に押し流されそうになります。この瞬間は、ほとんどのみなさんには覚悟が必要です。これから大きな決断を下す必要があるためです。

ハワード大での抗議活動について

私はみなさんに、意識の底から、この瞬間の重要性を、同輩とともに感じるようお願いします。昨晩、パーティをして過ごした人も大勢いることでしょう。もちろん、祝うべきではありますが、この瞬間もまた祝うべきなのです。

今日の勝利を味わってください。ここで起きていることを、消化もせずに丸のみにしてはいけません。自分が獲得したものを眺め渡して、神がみなさんを導いて来てくれたことに感謝してください。

大学に対し闘ってきた人もいることでしょう。今年、学生たちは、8つの学舎を占拠して抗議活動を行い、要求のリストを学長と大学当局につきつけ、交渉しました。私は、これには感銘を受けました。

私の在学中にも、同じように学生たちは抗議運動を行い、同様に8つの学舎を占拠し、国会からの単年間予算を増額させるよう訴えました。パトリック・スワガー学長が、大学の学部数を縮小することを決定したからです。

学長の決定によると、工学部は建築学部と合併することになっていました。保育学部は衛生学部と合併し、私の出身である美術学部は、人文学部に吸収されることになっていました。そう、学生からしてみれば「吸収」される憂き目を見たわけです。

(会場笑)

これは美術学部の多くの学生にとっては、自分たちや後輩たちのカリキュラムが薄められる可能性のある事態でした。私たちが誇りとし、受け継いでいた伝統を冒涜するものでした。

美術学部の出身者はフェリシア・ラサード、デビー・アレン、イザイア・ワシントン、リチャード・ウェスリー、ダニー・ハサウェイ、ロバータ・フラックが挙げられ、しかも彼らはほんの一部に過ぎません。そうです。私たちは歩み続けるのです。歩み続けるべきなのです。