ビジネスシーンで理解と共感を得るためにはどうしたらいいのか?

吉田哲氏(以下、吉田):みなさま、本日はプログラムがたくさんある中で、私たちのセミナーにお集まりいただきましてありがとうございます。実は私の会社の社員も、今まさにAdvertising Week Asia でセミナーをしています。絶対に負けられない戦いになっております(笑)。こんなに大勢集まっていただいて、たぶん大丈夫かなと思っております、ありがとうございます。

まず、今日のセミナーの背景と趣旨なんですけれども、激動の社会、ビジネスシーンにおいて、「理解」や「共感」をどう得ればよいのか。脳科学や認知科学など、中野先生の見地から、コミュニケーションのヒントを探ります。

ということで、私が本日モデレーターを務めさせていただきます、simpleshowの吉田と申します。よろしくお願いいたします。動画制作会社なので、まずは会社の紹介を1分でさせていただければと思います。

https://youtu.be/npUIG9W6fvg

吉田:simpleshowは、「解説動画」というジャンルの動画だけを専門に作っている、ドイツの制作会社です。今日本を含めて、世界の9ヶ国で事業展開しております。

人間はできれば脳を使わずに「休ませたい」

吉田:続きまして、中野先生ですね。もう私の説明はいらないかとは思います。みなさん、テレビとか書籍とかでよくご存知かと思います。さっそく中野さんに質問なんですが……(スライドを指して)「Do you 脳?」ということで、ダジャレですけども。今日は同時通訳の方が入ってるので、これをどう訳してるのか、ちょっと興味あります(笑)。

そもそも脳は、コミュニケーションにおいてどういう存在なのかを、まず中野さんにご紹介いただければと思います。

中野信子氏(以下、中野):そうですね。コミュニケーションの中で、例えば、お店に行ったときなどに、最初は「何になさいますか?」と聞いてもらえることがそう不快ではないと思うんですけれども、だんだんその質問が増えると、なぜ自分で決めなきゃいけないのか? それくらい適当にお店の人が決めてくれないかな? などといら立ちを感じてくると思うんですね。

カップルや夫婦間でも「どこに行きたい?」と言われて、「どこでもいいよ」、「今晩のご飯は何にする?」「なんでもいいよ」。それで、「なんでもいいよ」と言うわりにはあとで文句を言う(笑)。

そうなると、すごくいら立ってきますね。そのいら立ちはなぜ感じるのか。これは自分の脳が疲れを感じているんです。「決めること」自体が負荷が高いので、疲れを感じていら立ちを感じるんです。

このことをまず、意識していただきたいなと思うんですよ。このいら立ちの部分、「認知負荷」と言います。「認知負荷」という言葉、もしかしたら(登壇者の)お二人は聞いたことがあるかもしれません。みなさんも聞いたことがあるかもしれない。人間は脳を使わずに、できれば「休ませたい」と思っています。

吉田:はい。今日は、これをまず大前提として、みなさんに覚えておいていただければと思います。

富士通のSDGsとエネルギー問題への取り組み

吉田:続きまして、富士通の金光さんをご紹介したいと思います。みなさん富士通さん、よくご存知かと思います。今180ヶ国以上で、500を超えるグループ会社があって、グループ社員は16万人以上いらっしゃるそうです。売上規模で言うと、グループで4兆円。

そして、ICT(Information and Communication Technology)の領域だけに関して言っても、日本で1位、世界でも5位という、本当にグローバル企業です。その環境・CSR部門の責任者をされています。

環境・CSRということで、今金光さんがやられているプロジェクトの中では、CDP(旧Carbon Disclosure Project)というESG投資の格付け機関の格付けをいかに上げるのか、というプロジェクトもあります。富士通さんは、CDPの格付けでAランクを2つ取られていて、これはすごいことなんです。

そのCDPの会長が、こういう話をされました。これはNHKにインタビューをされてるんですけれど、 「脱炭素経済レースに勝ち残るためには、気候変動が自分の未来の一部であるという事実を、どう今受け入れることができるのかにかかっている」。

ということを踏まえて、実際、どういう活動を富士通さんでやられているのかを、初めに金光さんにご紹介いただければと思います。

金光英之氏(以下、金光):はい。富士通は、今大きな柱として2つ活動しています。1つはみなさんもご存知のように、SDGs(Sustainable Development Goals)ということで、国連が定めた17のゴールに向かって、169の指標を持ってやりましょう、ということです。

その活動は、ジェンダーイシューから気候変動まで、非常に幅広いです。そういうゴールに向けて、弊社から言えばICTをフル活用して、どう貢献していくのか。

また環境面では、エネルギー。今1番問題なのが、再生可能エネルギーをどうやって使っていくかなんです。そういうエネルギー問題に対して、やはりICTを使ってどういうふうにやっていくか。我々は排出量をゼロにしていこう、ということで取り組んでいます。

最近、2050年のビジョンということで、「Climate and Energy Vision」というものを出しました。その中で、再生可能エネルギーを使って、CO2エミッションを減らしていこうということです。そのために技術開発をし、それを社会貢献に使っていこうという活動もしています。

吉田:今お話を聞かれていて、ふだんCSRとか環境関連の仕事をされている方はわかったと思うんですけど、そうじゃない方は「何言ってるのかぜんぜんわからない!」という人も、けっこういるんじゃないかと思うんです。

中野:初めて聞きました(笑)。

吉田:そうですね(笑)。もちろん富士通グループさんの中でも、新社員の方々も含めて、いろんなレベルの社員の方がいらっしゃるので、金光さんは「どうやってこの会社のミッションを社員の人に自分ごと化してもらうのか」という難しいコミュニケーションの課題に取り組まれているということです。

その中でsimpleshowとも出会っていただいた、ということなんです。富士通さんが取り組んでいるSDGsの活動を、社員の方及び社内の方にわかりやすく説明するために、解説動画を採用していただきました。

解説動画のストーリー性と遊び心が人を動かす

吉田:まずはその動画、約4分なんですけれども、みなさんにご覧いただければと思います。

はい、今ご覧いただいた解説動画は、富士通さんとしては1作品目だったんですけれども、どういう背景でこちらに取り組まれたのかも、ご説明いただければと思います。

金光:多分みなさんは、ご経験があると思うんですけれど、例えば会社から年末になると「eラーニングをやりましょう」と言って、弊社ですと、全社員にメールが届いて、その進捗をチェックするというかたちなんですね。それで1つのコンテンツが20分くらいかかって、一生懸命やって、終わったと思ったら「これを受けてください」とまた新しいコンテンツが来ます。

そういう非常に非効率的なことがeラーニングに関して回ってるかな、と思っています。自分は昔からちょっと遊び心がある人間なんですけれども、やっぱり通常のやり方だと、どうしても環境とか社会貢献というのは難しく捉えやすい。それをもっと気楽に、シンプルに受けてもらって、腹落ちした活動を展開したいと思いました。

そういう中で、メッセージを伝えるツールとして何が良いかをいろいろ探していたところ、simpleshowさんに出会いました。simpleshowさんと出会ったときにすごく感じたのは、1つは、私の中ではやっぱりコミュニケーションが人を動かすことということが非常に大事だなと思っていまして、そのために何が必要かと言うと、遊び心だったりストーリー性なんです。

それで、社員の人が腹落ちして、実際にアクションを起こす。そういう意味で、このツールが素晴らしいなと思っていました。そういうかたちで2回ほど、simpleshowさんのお力を借りて、社員にうまく伝わる動画を制作することができました。

遊び心と不謹慎の境目はどこにあるのか?

吉田:中野さん、「遊び心」は、脳科学的に言うとどういう解釈になるんでしょう?

中野:遊び心というのは、「ステレオタイプにはまらない」ものを楽しむ心、ということですよね。そう定義するなら「これまで見た刺激と違うよ」ということを脳が判断して快感を得ている状態と言えますが、これもよくみなさんも失敗した経験がおそらくあるだろうと思うんですけれども……(笑)。

Twitterで遊び心を出そうとして炎上しちゃったとか、不謹慎なことを言っちゃったとか。ご自身ではないにしても、周りでそういうことが1回や2回は起きた経験をお持ちだと思うんですよね。

じゃあ、「“遊び心”と“不謹慎”の差とはいったい何だろう」と考えてみると、「配慮」とのバランスに尽きると思うんですね。炎上をしない人はなぜしないのか。注意深く見てみると「相手にオキシトシンを出させる」ということを心がけているようなんですね。

オキシトシンはどういうときに出るか。まず親しみを感じさせるということ、「あなたの側に立っているよ」ということ。それから感動させるとか、温かい心を起こさせる。これを念頭に置いていくと、毒舌と思われはしても、そこに「愛がある」などと感じてもらいやすくなり、「不謹慎」とは思われにくくなります。

吉田:ありがとうございます。オキシトシン、キーワードです。赤ちゃんを見ると出ると言われてるやつですよね。

中野:そうですね。非常にわかりやすい使われ方をするものでは動物の画像だったりとか、母と子の感動物語を添えてみたりなどしていると、大きく「不謹慎だ」という感情は起きにくいようです。

シンプルでリラックス効果のあるものは相手を引き付ける

吉田:「遊び心」「オキシトシン」というキーワードが出ましたけれど、富士通さんの動画の中にも、実はsimpleshowの遊び心がふんだんに入っています。ちょっと今日いくつかご紹介したいと思うんですけれども。

先ほど中野先生からもありましたが、「親しみを覚える」。simpleshowは、一見、子どもが描くようなこの一筆書きの手書きイラストを使うんです。

中野:やわらかいイラストですよね。

吉田:そうですね。これはリラックス効果を出すという狙いでやっています。同時に、複雑じゃないので瞬時に理解できる、という効果もあります。あとは紙工作です。

初めてご覧になった方は、気づかない方も多いんですけれども、実はイラストを紙で印刷してそれを切り抜いて、手で動かしています。ハンドモデルが動かしてるのを天カメから撮影してるんです。なので紙工作です。

縁のエッジが出たりとか裏返したりとかというのが、デジタルデバイスの中でCGだけのモーショングラフィックなどと並べて見たときに、とても遊び心があって、これも親しみが湧く。

中野:ちょっと補足させていただくと、オキシトシンの分泌には、実は触覚が重要なんです。だから、親しくなりたい人にはスキンシップをとるのもすごく大事です。ちょっとセクハラにならないように気をつける必要はあるものの(笑)、例えば女性で、二の腕に軽く触れられた触れられないで、そのあとのナンパが成功するかしないかという調査もあります。

吉田:まぁ、勇気ある人は試してみてください(笑)。

(会場笑)

私はできません……(笑)。

あとモノクロ、これも遊び心ですね。「色を使わなくて大丈夫なんですか?」とけっこう心配されるんですが、これは逆転の発想で、潔いまでに白と黒だけ。シンプルにすることによって、逆にそれっておもしろい、意外性がある、と思ってもらえる。

中野:これは、認知負荷の低減ということに役に立ちます。認知をさせる上では、情報が少ないほうが好ましいと思ってもらえる。その効果を狙っているということですね。

吉田:そうですね。スマートフォンの小さい画面で見ると、逆に白黒のほうが目立つんです。地上波のCM……まぁ私も広告会社とテレビ局に勤めていたので、CM自体は非常に肯定派なんですけど、やっぱり小さい画面で見るとちょっと目立たない。けれども、白黒のイラストというのは非常に目立ちます。