世界を見てきた3人の登壇者

司会者:まずは最初に、お三方から簡単な自己紹介をしていただいて、それでパネルに入っていきたいと思います。それでは高野さんのほうから。

高野真氏(以下、高野):みなさんこんばんは。『Forbes』という雑誌のCEO兼オーナー兼編集長というタイトルをもらってます。実際にそれを私が全部やってはいるんですが、時間的にはすごく少なくて、10パーセントくらいで。ほかにIDEOという非常に有名な、世界的なデザインコンサルティング会社と一緒にVCを作って、そこのCEOをやってます。

あと、WiLという非常に大きなファンドがあって、そこの伊佐山君(CEOの伊佐山元 氏)と一緒にインドのインキュベーションファンドをやっています。

それ以外にもいくつか、NPO・NGOの代表とか、あるいは理事をやっています。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

田所雅之氏(以下、田所):田所です。よろしくお願いします。僕は名刺が何枚かある怪しい人間なんですけど、本職は何かと聞かれると、「シリアルアントレプレナー」として、これまで日本で2社をやって、シリコンバレーで1社をやって、4社目を日本でやって、今5社目を立ち上げたところです。4社目はバイアウトしました、と。

あとは、僕もそんなに活動してないんですけど、バイアウトしてそこのPMIと言いますか。来年上場するので、その活動が20パーセントぐらいです。あとは、シリコンバレーのVCのベンチャーパートナーをやっていて、今年に入ってぜんぜん活動してないんですけれども、2014年から2年間ぐらいは、日本と東南アジア、あとアメリカの投資担当もしていました。

あとは今、スタートアップをシリコンバレーで2社、日本で7社ぐらいですかね。アドバイザーやボードメンバーをやってます。たぶん僕のユニークなところとしては、投資家側と起業家側をやってきて、これまで200社ぐらい……デューデリしたのは1,500社ぐらいなんですけど、アドバイザーやメンターをしたのが200社ぐらいあってですね。

その知見を活かして、こちら(『起業の科学 スタートアップサイエンス』日経BP社)を先月、発刊させていただきました。これのベースになったのが『Startup Science』という1,750ページのスライドなんですけど。2018年の1月に、その2,550ページ版を出したいと思います。またそれで爆発したら良いかなと思います。よろしくお願いします。

『起業の科学 スタートアップサイエンス』

(会場拍手)

各務太郎氏(以下、各務):はじめまして、各務太郎と申します。よろしくお願いいたします。

大学で建築を学んだあとに、電通でコピーライターをやっていたんですが、その後に一度辞めまして、あらためてアメリカのハーバードで建築を学んでおりました。私自身は今、旅館業で起業をしている最中なんですけれども、日本において起業をするときのデザイナーの役割、立ち位置が海外と比べてすごく低いと感じることが多くありまして。

今日はその点に関して、お話のなかでサポートさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

グローバルな目線を持つということ

司会者:今日ご登壇の3名は、それぞれみなさん、ハーバード、フェノックス、ゴールドマン・サックスなどで、世界で戦う会社を見てきた方々なので、まずは「世界で勝てるベンチャー」というお話を頂ければと。日本のなかで閉じているベンチャーと世界で戦うベンチャーでは、どういうところで違いがあるか、簡単にお話をいただければと思います。

田所:ちょっとその前に、みなさんのデモグラっていうか、この中でスタートアップをやってる方はどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

ほかの方は……投資家の方っているんですか?

(会場挙手)

企業の方で新規事業をやってる方?

(会場挙手)

スタートアップをやってる方で、海外市場も今やろうとしてる方もやっぱりいるんですか?

(会場挙手)

一般企業で働いてる方で、外資系とか、日本以外の企業で働いてる方はいるんですか? 

(会場挙手)

あんまりいない(笑)。わかりました。

ちょっとデモグラを聞きたかったので。でも3分の1ぐらいがもうすでに起業されてるっていう感じですね。

司会者:それでは、世界と戦えるスタートアップはどこが違うのか、という本題に。

田所:じゃあ、それはちょっと、高野さん。

高野:あ、僕ですか(笑)。いきなり「世界と戦える」……(笑)。

田所:いきなり本題ですね。

高野:いきなり「世界で戦えるスタートアップ」というよりは、やっぱり「世界的目線を持つ」というところからはじめましょうか。僕はずっとゴールドマンで5年やって、その後ピムコという会社、たぶん知らないかもしれませんけど、世界最大の債券ファンドで、そこで最後は、本体のボードを8年ぐらいやっていたんですね。

だからどっちかというと外から日本を見ている、というのがずっとあって、その意味では、常にそういう視点で見てるんですけど、日本の場合だと言語の問題があります。

例えば、日経新聞とFT(Financial Times)で見ると、ぜんぜん違うじゃないですか。FTって、どこの会社か知ってる人は多いかもしれませんけど、イギリスの会社なのにそんなにイギリスのことが一面に出てこないんですよ。いきなりグローバル。グローバルというか、まあアメリカのこととか、本当にグローバルな話が出てくる。

日経新聞は、まず最初にどこかの日本の会社が何かした、というのが非常に大きいわけですね。まずみなさんがそういうメディアに接してるときの、メディアそのものがぜんぜん違っているということはやっぱり非常に大きいですね。

だから僕は、常にFTと日経の両方を見るわけですけど、FTは英語だから読みづらいんですよね。でもやっぱりそのタイトル見るだけで、ぜんぜん違うところがあって。そういう意味では言語の問題もあるんですけど、目に見ているものがぜんぜん違うということは、僕は非常に大きいかなと。まずそこからはじめたいなと僕は思っています。

はじめから海外を狙わない日本企業

田所:質問があるんでしたっけ、世界で戦えるスタートアップの……。

司会者:そうですね、何が違うか。

田所:まず最初にみなさんに挙手していただいて、スタートアップの方が10名ぐらいいらっしゃったのに、1人ぐらいの方しかグローバルを目指していなかったと思います。日本は今、世界で3番目になりましたけど、やっぱりそこそこ大きな国ですし、よく言われるのは、世界で一番上場しやすい市場かなと思うんですよね。

この前も数字が出てたんですけど、マザーズ新興市場って売上が平均22億円で、かつ、いわゆる営業利益とかが1.4億円で上場できます。そういったときに、通常シリーズAというラウンドを受けたら、グローバルに行くよりもとりあえず……VCとしても商売をやっているので、投資家からウケたら、とりあえず5年後にIPOをして、自分が出したお金のだいたい15倍~20倍ぐらいキャピタルゲインを求める、みたいな。

そういう絵を描いたときに、やっぱり海外に行くとなると、いきなりそこを絵に描いてしまうと、「リスクが高い」という感じになって、なかなかそういう意思決定ができない。なかには上場して、一部上場に鞍替えして、そこから海外を目指すところもいるんですけど。

初期段階として、組織の最適化の仕方というところで、メルカリは別格というか、元Facebookの常務でしたっけ? そういう方が入ったりして。わりとグローバルなユニコーンのレベルになってようやく入った感じがするんですけれども。

普通の経歴で来た人がいきなり1億円を調達して、「とりあえず国内でやれ」という感じになってしまうのが、日本のスタートアップエコシステムの良いところでもあり、逆に不利な部分でもあるんじゃないかなという感じはしています。

だから、そうじゃない、本当に技術ドリブンのスタートアップであったり、僕と仲が良いテラモーターズの徳重さんという方(徳重徹氏)は、いきなり2010年ごろに、いわゆる“3K”というか、三重苦状態ではじめたんですね。ハードウェアで、かつEVで、かつ新興国でやったんですよ。日本ではやらずに、バングラデシュと、まあフィリピンはダメだったんですけど、あとはベトナムでやって。

それである程度、売上を立ててから、次はドローンにいったんですね。ドローンの、ハードじゃなくてソフトにいったんです。というのも、ハードは基本的にすごく在庫リスクも高いし、かつ、やっぱりDJIと3D RoboticsとParrotが非常に強いというのがあって。ただそこで、ソフトウェアエリアを取ってる日本人がいないというのがあったんです。

さらに、今年かな、5億円くらいでドイツの会社を買収した感じだったんですけど、某銀行系のVCからすごく反対されたらしいんですね。でも、テラモーターズだったらいつでも、おそらく上場しようと思ったらできたけれども、そうじゃなくてとりあえず「このエリアで世界を取るためにやるんだ」と。

その辺のCEOの気概と言いますか、そもそも見ている視点というか、高野さんもおっしゃったんですけれども。初期の段階での、そもそものマイルストーンの建て方が、やっぱり日本の場合だとどうしても「国内の市場をとりあえず取る」というかたちなのかなと思います。ちょっと話がまとまってないですけど。

日本人と外国人のマインドセットの違い

各務:私も初期のマインドセットの部分で感じたのは、例えばアメリカで起業する際、とくに大学の学生、大学院から起業する場合は、プロポーションが中国人30パーセント、イスラム30パーセント、みたいな状況ではじめるんですが、日本ではじめる場合は無意識的に日本人をターゲットというか、同じ言葉を使っているということが当然の中でアイデアを練っていくことが多いと思うんです。

例えば、アメリカで「オフィスの建築を設計してください」というのをグループでやったときに、当然イスラムの人が「祈りの空間はどこなんですか?」と聞いてくるんですけど、日本で設計をする際はそのデザインをやることはまずないんですね。

スタートアップでも同じ状況が起こっていて、UI・UXを作る際に、言葉が通じないということが前提で作っているのと、日本語が通じる前提で作るデザインとではぜんぜん変わってくる。というなかで、一番初っ端のダイレクションというか、そのデザインを含めた全体のブランディングや、マーケティングの部分においてのグローバル戦略が違ってくるのかなと感じました。

高野:1つ例があって。さっき(田所氏と)ちょっと話しましたけど、「ブルーボトルコーヒー」ってみなさん知ってますよね? 今シリコンバレーから来てすごいんですよね。ブルーボトルコーヒーのCEOと話していたときに、知ってるかもしれませんが、「これは日本の喫茶店文化だ」と。あそこ(喫茶店)に行って、「これいけるじゃないか、スタートアップより良いんじゃないか」と言って、やってるわけですよ。

つまり日本のアイデアなんですね。彼らは日本のアイデアを使ってビジネス化しているということです。

世界で最もクリエイティブな国はどこか?

高野:IDEOっていう会社、知ってますかね? 実は、IDEOっていう世界的に有名な会社とやってるのが僕のVCで、IDEOにとって世界で初めてやったVCで、デザインフォーベンチャーズ、D4Vっていう。

そこで僕はCEOもやってるんですけど、IDEOがよく言うのは、Adobeってあるじゃないですか。Adobe社がサーベイをしていて、世界中の主要国で「世界で最もクリエイティブな国はどこか」というアンケートを各国で5,000人くらいにやったわけです。

そしたら、日本人を除いて、全部「日本」って言ったらしいんですよね。全部、日本。日本が一番。日本の中では日本は一番じゃないんですよ、かなり低いんです。つまり、世界中の人が「日本はクリエイティブだ」と言っている、でも、日本だけが「クリエイティブじゃない」と。

つまり、実はアイデアはたくさんあるんです。それで、世界中の新しいアイデアの50パーセントはアメリカらしいんですが、日本は30パーセントあるんですよ。

ところがベンチャーというのは、アメリカのベンチャー市場が当初は年間9兆円。日本は2,000億円。「この差は何なんだ」と。つまり、一番重要なのはマインドセットだと思います。(各務に)これはお得意なんじゃないですか?

日本と世界の価値の判断基準

各務:今のマインドセットのお話で、例えば日本人は、喫茶店が当たり前になってしまっていて、他者から見たときの喫茶店の価値というものが認識できてないという点では、その点でグローバルじゃないということはあると思います。

それは例えば日本人が日本の建築の美を意識してないのと一緒で、もう海外の建築のほうが、よほど日本建築に精通していることもよくあると思うんです。

そこの部分を含めて、価値の判断基準が日本と世界とで違ってしまっているというのが、けっこう問題なのかなと。そこで捨てられてしまっているアイデアがいっぱいあるなと思います。

高野:僕はね、目線が低いんだと思うんだ、目線が。実は日本人はすごいんです。でも「すごい」という観点自体が出ていかないんです。最初から日本だけで終わっちゃう。IPOだってせいぜい、100~200億円でしょ? アメリカに行ったら200億円なんてはっきり言って相手になんかできないですよね、小さすぎちゃって。

あの、マツオカ・ヨーキーって知ってます? 松岡陽子さんっていう日本人なんですけど、田園調布雙葉中学高校を出てから、海外に行って。ウィンブルドンの選手になろうとしたけどできなくて、それでMITやハーバードへ行って、今はAIとかのオーソリティなんです。

実は彼女、Google Xの創業者になったんです。Google Xですよ、知ってます? Googleの秘密基地って言われていて、ロボットとか自動運転とか、全部そこでやってるんです。その創業者なんです。日本人ですよ?

それで、来月号『Forbes』の表紙になりますけど、ヨーキーが言ってたんですが、やっぱりまず、高校のときに向こうへ行ってるから、ぜんぜんマインドセットが違うんですね。つまり、もともと能力はあるんですよ。

日本人がGoogle Xの創業者って言うと「おぉ」って言うけど、インド人だったら言わないわけです。それじゃあ、日本人とインド人、どっちがクリエイティブか、さっきの話だと、日本人のほうがクリエイティブですから、マインドセットを変えないといけないってことなんですよ。

シリコンバレーへ流れる優秀な人材

田所:僕もシリコンバレーで起業していて、今でもシリコンバレーのVCで毎週、投資会に出てるんですけど、日本にいたらなんか、「Google、Apple、Facebook、すげぇ!」みたいな情報が入って来るんですが、毎回シリコンバレーに帰るたびに、元Facebookにいたやつとか、Googleにいたやつがいて、基本的に辞めてるんですよね。

当然シリコンバレー内はクールなんですけど、辞めて「別にそこまでクールじゃない」と。それで、みんなスタートアップをはじめちゃってるんですよ。よく考えていただきたいんですけど、Uberって今時価総額が、ちょっとゴタゴタがあっても5兆円なんですよ。

マザーズ全体の200~300社くらいの全体の時価総額が、6兆4,000億円なんですね。Uberってまだぜんぜん赤字を持っていて、実際にそれが6兆円とか7兆円とかなんですが、昨年1回バッと上がったときは、日産の時価総額を超えたんですよ。

そこで、考えていただきたいんですが。Facebookで、例えばシニアアーキテクト、すごいエンジニアとして年収3,000万円もらってる人の生涯年収が、Facebookにずっといて6億円だとします。でも、そのエンジニアにUberから声が掛かって、「ウチのVP of Engineeringをやらない?」と言われて、そのストックオプションを0.01パーセント貰ったとしたら、Uberが上場した瞬間に6億円、7億円入るわけです。

それは良い意味も悪い意味でもそうなんですけど、結果としてサンフランシスコやシリコンバレーの家賃が上がったりもしてます。あとは僕もそうなんですけど、LinkedInをやってたら、もうひたすら、いわゆるスカウトメールが来まくるんですね。

やっぱりそういうところは、デメリットの面もあるんですけど、基本的に人の動く理由には当然お金があって、いわゆるストックオプションを武器にしたり、キャピタルゲインを武器にして、いろんな才能のある人がどんどん移っていく。健全かどうかはわからないですけど、非常に高いターンオーバーがあるんです。