電通・博報堂の経歴から有名CMプランナーに

笠松良彦氏(以下、笠松):今日はお2人にいろんな話を聞きたいと思っています。まず、こちらの質問(「どのようにしてCMプランナーの道に入ったか」)を最初に澤本さんからお願いします。

澤本嘉光氏(以下、澤本):(大学卒業後に)電通に入ったんですが、僕は大学に入るときから「どうやったらCM作れるのかな?」とは考えていました。

話がずれちゃいますけど、なにかモノを作ることをしたかったんです。高校時代に「何になりたいか?」と書く欄に「文化人」と書いたんです。

(会場笑)

たぶん、目立ちたくて嫌な奴だったんですね。そのときに映画を作りたかったんですけど、映画ってけっこう勉強すると思うし、集中力も必要です。本当にバカなんですけど、短い集中力で制作できる映画っていったらCMだと思いました。

笠松:なるほど。

澤本:それでCMプランナーになりたいと思いました。それはいきなり難しいので、制作会社に行くとCM作れると思って、アルバイトでいろんな展示会などの警備員やって、CM制作会社のことを学びました。

(就職活動時に)代理店に入るとCM作れるかなと思って、代理店に入りました。この答えが長くなってしまったんですけど、CMプランナーにはなりたかったんです。

笠松:なりたくてなりたくて、しょうがなくて入った。

澤本:そうですね。

笠松:ありがとうございます。そういう意味では入社のときに自分の希望通りに配属された。

澤本:そうですね。はい。

笠松:篠原さんはいかがですか?

篠原誠氏(以下、篠原):僕はまったく逆で、すごく田舎育ちなんですよ。同級生6人くらいしかいない田舎で育ちました。

東京に行きたくて大学選んで、それまでやりたいことがなかったので、マーケティングに大学のときに出会って、「これはおもしろい!」と思った。

いろんなことを考えてモノを売る。みんなが知らないバックボーンみたいなものを大事にする。それがおもしろいと思って、商売みたいなことは合ってると思って「マーケティングがやりたい」と思いました。

博報堂は当初、マーケティングプラナーという職種で募集してたんですよ。プランナーじゃなくて「プラナー」なんです(笑)。

(会場笑)

営業をやりたいと思って博報堂に入ったら、配属がクリエイティブだったんですよ。入社して配属されてみたらクリエイターになった。

笠松:そうなんですね、わかりました。そういう意味では2人の望む道はぜんぜん別だったんですね。

失敗すること自体のチャンスが減っている

笠松:そんなお2人なんですけど、当然入社していきなり有名になるとか、いきなりトップ取れるとかはないと思うので、いわゆるご自身が今に至るまでの過程をお聞かせください。「あの人はトップクリエイターだよね」と言われるまでの話です。

いわゆる有名になる前に、毎日何をされていたのか。つまり売れてないとき、いわゆる下積みだったと思うんですけど。そのへんは何をされていたのかが聞きたいです。これも澤本さんから。

澤本:時間がないので短く言うと、ずっと失敗し続けたんです。失敗を永遠に続けているうちに失敗しない方法を学んでいった。

笠松:その失敗というのは?

澤本:つまりすべてです。表現においても、コピー書いたらダメだしされて。ラジオCMの需要が多かったので、すごくいっぱい作ったんですよ。そうすると良いモノ・悪いモノって全部わかるし、結局良いモノしか採用されない。「これをやったらダメなんだな」「ちょっと実験してみよう」と実験していました。

その失敗を相当積み重ねてきて、なにかあふれ出したら、そのときに蓄積してきた「こうしたら失敗する」「こうしたら成功する」というものを自分の中で出していた。

大きいのは、そのときに失敗したおかげで自分が今いると思っています。むしろ今の若い人たちはかわいいそうですよね。

大きくは広告というものが、現場が含めて失敗しちゃいけないと思っていて、失敗をすること自体のチャンスが減っていると思います。こと表現することについては、とても不幸なことだと思います。

笠松:ごめんなさい、ちょっと質問です。その失敗というのは企画としての失敗もあれば、コピーライティングの失敗とか、いろんなパターンがあるわけですけど、それはあらゆるパターンでということですか?

澤本:ベースとして、企画はただ企画しているということではなくて、言葉が重要だと思っています。企画しているときに、言葉を出すならいっぱい失敗する。そんな感じですかね。

毎日、毎日「違うな」「これじゃないな」みたいなことばかり、ずっと繰り返していると、「これじゃないな」ということがたくさんわかってきました。(上司などには)基本的に怒られてはいないんですけどね。

笠松:なるほど、のちほどまたね。篠原さんいかがですか?

吐くまで企画を考え続ける日々

篠原:僕は今もスタンスはぜんぜん変わらないんですけど。ずっと企画してます。企画してるか、競馬してるか。

(会場笑)

笠松:企画か競馬(笑)。

篠原:努力をしてるか、企画してるかという感じで。これまでたぶん失敗してたと思います。若いころは、本当に問題漢だったんです。

マーケティングプランナーという職種に憧れて、営業志望で会社に入って、クリエイティブと言われたときに、クリエイティブってもっと崇高な、自分がいるような場所じゃない(と感じました)。もう少し下積みをした、特別な人ができている場所だと思っていました。

そこにポーンと放り込まれたときに、自分がやることはたくさん考えることです。いつまでと言われると、締め切りまでたくさん考える。そういうことしかできなかったので、とにかく吐くまで企画して、おもしろい・おもしろくないモノをたくさん作りました。

その中で自分では一番おもしろいと思うものをもう1回企画して考えたり、頭の中で勝負させて、買ったほうを残す。誰かにそれを見せるけど反応はぜんぜんでした。(考えたモノを)無視されて、(考えたものの)切れ端を「これちょっとおもしろいから、やってみて」とか言われたんですよね。

「わからないな」と思いながらずっとやってました。毎日何をしてたかって、本当に企画してたという。今もそんなに変わらないですけどね。

ヒット作が出るまでに経験した苦労

笠松:質問なんですけど、いわゆるヒット作が出るまでの間はある種、一般的には辛い時期じゃないですか。

それでも企画を考えて仕事をされているんですけど、そのときに辛い感覚はありましたか? 「仕事辛いな」なのか、「ぶっちゃけ楽しいな」か。どうでしたか?

篠原:正直、僕は辛くなかったです。そんなになかったです(笑)。

(会場笑)

文字校って、みなさんわかりますか? 文字は間違えちゃいけないから。昔で言うとすごく文字数の多い広告だとか。(文字の間違いを見つけて)「なんやこれ」って、直す作業をしていました。今はダメですけど、朝まで文字を直して、終わってから眠る。自分の時間はなかったですね。

今考えたら、当時もそんなに辛くはなかったですね。良くも悪くも門外漢でなにもわからない人間だったので「こういうもんなのかな」みたいな。

当時、先輩からは「どんな仕事にも意味がある。もし意味がないんだったら、作ればいい」と。この文字校をグラフィックの広告を作るプロセスだと考えて、プロセスも勉強だと考えたら、この仕事は意味があるとおっしゃってたんです。

「なるほどな」と思って。意味づけすればモチベーションがぜんぜん変わる。その言葉のおかげもありました。

笠松:いい言葉ですね。

篠原:あんまり辛くはなかったですね。

有名になったから「楽しい」ではない

笠松:澤本さんは辛いと思ったことあります?

澤本:「ない」と言うと嘘ですけど、基本たぶん篠原さんと一緒で、企画マニアなんですよね。自分はこの会社に入れてモノを考えて、そのモノがもしかしたらカタチになる状況で考えられているのはすごく……。

笠松:ワクワクするなという。

澤本:そうですね。もちろん辛いこともあったんですけど。とにかく僕、人と違うモノを考えることばかり考えていました。そういうものが考えられたときは、やっぱりうれしい。実現しなくてもうれしいですし。

逆にさっき笠松さんがおっしゃっていた中で、有名になると楽しいイメージだけど、有名になってから楽しいかというと、逆かなと思います。

それまでの間、カタチにならなかったけど考えた企画で「これいいのに、誰も認めてくれない」というモノでも考えついたときは、すごくうれしかった。むしろ今はどっちかと言うと、失敗しないことを期待されちゃってるから。

笠松:そうですよね。「外さないよね?」という。

澤本:そうですね。

笠松:ありがとうございます。

今、一番インパクトのあるCMは?

笠松:今日は、おもしろいことをたくさん聞きたいんですけど、今お2人が一番気に入っているCMは何ですか? それぞれ出身の代理店がある中で聞きづらい質問なんですけど、2人ともサクッと答えてくれました。

まず澤本さんが、ハズキルーペ?

澤本:ぜんぜん、ハズキルーペの一人勝ち。

(会場笑)

笠松:篠原さんが、ビズリーチ。あとは……。

篠原:けっこう前からあるSansanです。

笠松:みなさんご存知だと思いますけど、流して見ていただきましょう。

(CM流れる)

笠原:どれもこれもいいですね。

ビズリーチCMの「圧」

笠原:まず最初にビズリーチなんですけど、どこが一番いいんですか?

篠原:厳密に言うと、気に入ってるじゃなくて、気になってるなんですけども(笑)。

僕はもともとマーケティングが好きでやってるので、「これ、あの社長だったら喜ぶだろうな」と思いました。「これたぶんビズリーチの電話が鳴るな」「効果あるな」という感じを、感じるものがあるんですよ。これとか、トリバゴのCMとか(笑)。

作りたいか・作りたくないかと言うと、別に作りたくはないんですけど。

(会場笑)

このビズリーチを見たときに、実は企画はちゃんとしてるんだけど、普通だったら演出上、最後カメラ目線で「ビズリーチ!」って自分だったら言わないだろうなと思います。「(「ビズリーチ!」と)言わないと、ああいうふうに残ってないだろうな」とか。すごく見てて気になる。

CMを見てて、「圧」があるCMと、心地よくて好きな感じなんだけど、「圧」がないCMだったら、「圧」があるCMをすごく尊敬するというか。

そういう意味で言うとビズリーチは初見のときに、そこまで有名な俳優さんを使ってるわけでもないのに、「圧」があると思うんですよ。

Sansanは(CM中の)「早く言ってよ~」という言葉1つで、けっこう世の中にマッチしていること。かつ、これもSansan使う人が増えただろうと思ったので選びました。

笠松:ということは、いかにも効果がありそうだし、売上にすごく貢献しそうだけど自分では作らない?

篠原:自分ではもうちょっと違うかたちで作る。「目立つのはないな」とか、あるブランドが行くべき場所に行くというのに、どれだけの最大価値を置くか。それで言うと、達成はしてるけど、自分だったら(ビズリーチやSansanのように)ああできないし、思いつかないだろうなと。だからオンエア見て、「ああ、すごい」と思いました。

笠松:やられたなって感じ?

篠原:「誰が作ってるんやろ?」って普通に思いました。

ハズキルーペCMの巧妙さ

笠松:ハズキルーペが好き?

澤本:家でテレビを見ていて「提供はハズキルーペです」とあった瞬間にものすごく喜びましたもん。

(会場笑)

笠松:早く見たい?

澤本:そのために『サンデーモーニング』見てます。

すごくリアルに言うと、良い点がいくつかあって。全部60秒なんですよ。この話をすると長くなるんですけど、CMは15秒で伝えられること、30秒で伝えられること、60秒で伝えられることがある。役割として15秒、30秒、60秒で、どれくらいの情報をしっかり伝えるか、わかって作っています。

CM60秒スポット、スポットじゃないのかな。60秒をけっこう大量に打っていて、(テレビのCMの)いい場所で放送されている。とすると、たぶん業績が上がっているから、ずっと続いていると思うんですけど。

60秒のCMの使い方として、「こういうのがあるよ」ということをちゃんと提示してくれているなと感じました。

笠原:最近あまりないですよね?

澤本:ないですね。でも60秒でも、ああいうふうな話し方や訴求をすると、みんな覚えてくれるようになる。というのが大きいところです。

もう1個ハズキルーペのCMで、僕たまに気になったCMのセリフを書くんですけど。あのCMのを書くと、ほとんど字が読み言葉なんですよ。

笠松:セールストーク。

澤本:セールストークなんです。つまりオリエンシートまんま書いてるみたいな。「字が見えなーい」とか言って。

(会場笑)

クライアントが言ってほしいことを全部文字化すると、ほぼストレートトークになるんですよ。それをストレートトークして、あそこまで過剰にやっていて、CMの最後で「大好き!」とまで言ってる。

つまりクライアントからすると、言ってほしいことを全部有名タレントが言ってくれて、ちゃんとエンターテイメントになっているのはすごく頭がいいと実は思っています。

とはいえ、自分で作れって言ったら作る自信はない。どっかでちょっと照れとか入っちゃうんですよね。素晴らしいのが、照れが1ミリもないということですね。

(会場笑)

笠松:確かにそうですね。

澤本:あの人(CMに登場する渡辺謙)は怒って紙投げてますからね。

笠松:(笑)。ありがとうございます。この話題50分くらいしゃべれるんですけど(笑)。次行きましょう。