『豊洲の港から』はこうやって誕生した
福井崇博氏(以下、福井):(NTTデータさんのオープンイノベーションフォーラムの)『豊洲の港から』はどんなプログラムなんでしたっけ?
残間光太朗氏(以下、残間):マンスリーフォーラムですか。アクセラレーションというのは、DCAPというコンサルプログラムのことを言ってるんですよ。Digital Corporate Accelerate Program(デジタルコーポレートアクセルプログラム)でDCAPと言うんですけど、これで大企業さん向けにオープンイノベーションを進めるコンサルをやると。それはアクセラレーションというかたちですね。
マンスリーフォーラムのほうは、ベンチャーさんもピッチしてもらって、お客さんが今300人ほど聞いてるんですけど、そこでぐちゃぐちゃってなって意見交換してもらってすぐにPOCに繋げてもらう、そんな感じですね。
福井:なるほど。
富樫憲之氏(以下、富樫):大枠としては、「NTTデータオープンイノベーション」というのがプログラム全体の名前ですよね。その中でビジネスコンテストや、フォーラムに分かれている。
残間:まあ『豊洲の港から』というのが、オープンイノベーションのキャッチみたいな感じにはなってるんですけどね。先ほどお話にありましたけど、『ローマの市場にて』という外部組織があったんですね。
我々が独自にやるんじゃなく、それの兄弟イベントとして立ち上げることをしたんです。その兄弟イベントがちょうどNPO 法人になって社団法人になって、そこにいろんな有識者の理事の人が入ったんですよ。
なのでその形を使って、「安心なところの兄弟イベントだからちっちゃくやります」となったんです。それで『ローマの市場にて』の言葉をもじって『豊洲の港から』という名前をつくったんですよ。
富樫:ああ、そういう名付けの由来なんですね。
残間:後付けでいろんな、「イノベーションの舟を漕ぎ出そう」とか言ってるんですけど、そのときはとにかく社内を通して、なんとかうまいことちっちゃく始めようという感じにもがいてたんです。
企業の枠を越えて、自由に世界と混ざり合う
富樫:ちなみに最後に、これは個人的な質問ですが、オープンイノベーションの未来、将来的にどうなっていくのかをお伺いできれば。VC と言う立場でぜひお伺いしたいのが、スタートアップに対して、例えばアクセラレーターやビジネスプランコンテスト、そういったところに出ないかという話がどんどん増えて来ています。
それは、オープンイノベーションをやりたい企業がどんどん増えてきているからこそ、スタートアップの取り合いが今後増えてくのかなと思うんです。こういったイノベーション環境とか、今後どうなっていきそうだなというイメージはありますか? 3年後とか5年後とか、世界というような観点でも大丈夫です。
残間:そうですね、世界で混ざり合うのがたぶん当たり前になるんだろうな、と思ってるんですよね。しかも今我々、一生懸命リアルで(現地に)行ってやってますけど、それはリアルじゃなくても信頼関係が生まれるような環境ができれば、ものすごい進むと思うんですよね。
でも、我々はあえてリアルで、今は3日置きに海外を飛び回る状況で。あれはすごく大事で、こうやって握手したりハグしたり、肌の感覚を持てる。ポルトガルとかサンパウロとか行ったときに「日本ってすごく遠い」と言われたんですよ。まあ、本当に遠いんですけど。
富樫:物理的にも(笑)。
残間:だからこそ、ものすごい喜んでくれたんですよね。するとそこに強い信頼関係が生まれて、ものすごい案内してくれたりしたんです。だから、バーチャルになるのがいいのかどうかの答えは出てないんです。
でも、肌と肌の触れ合う信頼関係を残して世界にもっと混ざるかたちになると、それぞれの国の課題感はぜんぶ違うので、それがかけ合わさるとものすごいアイディエーションが生まれると思うんですよね。
そういう関係づくりを、ツールを使わなくてもうまくできるとすごくおもしろくなるな、というのが一つと、もう一つは先ほど言った、個人と個人の信頼関係が結局は大事になるような気がしています。
企業と企業というよりも、企業のなかにいる個人とベンチャーの個人のやり合いというんですかね、これがもっと企業の枠を越えて自由になるような気がするんです。
そうするとものすごいオープンイノベーションで、オープンイノベーションという言葉もなくなってるかもしれませんけど、イノベーションのやり方自体がすごく変わってくる、そんな世界になればいいなと思います。
あとはさっきちょっと言いましたが、SDGs みたいなかたちで「世界の課題をみんなで解決しよう」みたいな方向に向かうと、いい世界をつくる原動力みたいなものというか、企業の枠も国の枠も越えてみんなでイノベーションで良い世界をつくるようになるといいなと、妄想ですけど、そんなふうに思います。
新たな事業開発、日本郵便が世界へ目を向けた
富樫:なるほど。ありがとうございます。福井さんはどうですか。
福井:そうですね、未来って何年後くらいでしたっけ。
富樫:例えば3年、5年後。もっと先でもいいですけど。
福井:うちは駆け出しなので、まだまだなんですけど、でも、この日本郵便が今、シリコンバレーに技術ベンチャーを見つけに行ったりとか始めようとしてるんですよね。なので、おっしゃる通りそれくらい世界が混ざり合うというか、日本だけじゃなくてより広い草原へとか、ここはシリコンバレーに、ここはどこどこに、みたいな世界になってくと思います。
もうひとつ言うと、オープンイノベーション担当とか事業開発推進室とか、究極的には5年後10年後くらいにいくと、たぶんなくてもいい状態になっているのが理想なのかなと思います。
各事業部がどんなところを見つけに行くのかとか、自分で見つけに行ってとか、ネットワークがいろいろつながっていて、自分たちで引っ張ってきたりかたちにするのが当たり前みたいな状態になっているのが理想かなと思っています。実はうちはけっこうそれができているっていうのも感じたりもしますけど。
ただ、そこに登ってくためのステップが必要で、この5年間、2~3年とか、数年間はたぶん日本でもアメリカでも、そういうことを当たり前にしていくための仕組みや仕掛けが必要だと思います。
オープンイノベーションで日本企業を世界に打って出させる
富樫:じゃあ最後に私からも(笑)。私もオープンイノベーションは、日本経済や事業創造のありかたを変えていくものになるんじゃないか、そう思っているんです。つまり、新規事業ってもともとは社内で自前主義で当たり前、というのと同じくらいに、オープンイノベーションも当たり前、両方大事。そのくらいの二大巨頭になればいいと思います。
社内で創れるような人や仲間同士で創っていくんだという気持ちや組織も大事だし、かといって先ほどのスピードに遅れないようなアンテナや、ちゃんと丁々発止して外部と一緒につくれるような人も大事というような、そんな組織が当たり前になっていくんだろうなと思います。
そういったオープンイノベーションの形として、関与するプレイヤーがどんどん増えていって複雑化していくと思っています。そして、それを回せる人がどんどん必要になっていくと思いますし、今は主催者は会社としてやってますけど、さらに一事業部単位ずつでやってくようになっていくと。
なので、大なり小なり、オープンイノベーションというのはよりいろんな会社に浸透して、日本経済に浸透していく、という個人的なイメージがあります。
そして、日本企業さんがより業績を上げることや、新規事業の種を見つけてより業績を拡大して世界に打って出られること、そういったところに大きく寄与できると思っていて、その思いを形にするために僕らはオープンイノベーションをやっています。
残間:そうですね、そう思いますね。
福井:自ら主張してまとめる(笑)。
残間:ありがとうございます。
富樫:すみません(笑)。
新しい世代の企業のかたち、これからのオープンイノベーションマインド
残間:今、小学生や中学生がSNSを使って海外の人とつながってますよね。そこでプロジェクトみたいなのを立ち上げてる子もたくさんいます。だから、ああいう子が主役になってくると、我々の企業人という感覚がもう古い(笑)。
富樫:それすらもう古いと。
残間:気がしますよね。
富樫:さっきの(オープンイノベーション)がより細かくなって個人単位に、みたいなことありましたけど、会社って技術とアセットが紐付いてると思うんですが、人も同様で「こういう能力のある人、福井さんにこのプロジェクトに入ってもらいたいです」となるんじゃないかと思います。
それはスタートアップ側かもしれないし、それこそ広報だとかそういった能力がある人でジョインしてくれないかというような会社の垣根が取っ払われるのも有り得るというか、そうなっていくんだろうなと。
残間:そういう仕事のやり方になりそうな気がしますね。企業はなくならないと思います。
富樫:その属し方がちょっとずつ変わっていくと思います。
残間:違う感じになってくるかもしれないですね。
富樫:働き方にまで話が及ぶとは(笑)。
福井:教育にまで話がおよぶともう1時間くらいいっちゃいますよね。
富樫:教育は確かに一大トピックスですね。
おもしろいと感じたものが自分を伸ばす
残間:(オープンイノベーションに取り組んでいる人のなかでも)「すごく辛い」と言っている人はたくさんいるんですよ。そのなかでもタイプがあるじゃないですか。自分は決められたことをしっかりやるのが得意とか、参謀タイプが得意とか、そうじゃなくて福井さんみたいにわーっと自分でやらないと無理、みたいな人もいるわけです。それって、自分の心に聞くしかないかもしれないですよね。
そのうえで自信を持ってやりたい、自分でキックオフしたいと思ったら、そういう人は、自分で声をあげるべきなんですよね。もしくは、もうそこから出てもいいのかなという気はします。それで自分のやりたいことをやっていく。
私はもう53歳になっちゃったんですけど、やってきて思うのは、大企業のなかでローテーションがあって、「お前のために役に立つから、辛いものこそが仕事だ」と(笑)。仕事は辛いもんだと教え込まれてる世代ですよね。
でも、やってるなかで一番自分が伸びたのは、「おもしろいな」と思ったことなんです。(辛いことが)役に立たないとは言わないですよ。「あれも役に立ったな、あの苦労もよかったな」と思うんですけど、伸び加減がぜんぜん違う。
やっぱり自分がおもしろいと思ったことになったときに、ものすごい自分が伸びてる。それって好きこそものの上手なれじゃないですけど、真実なのかもしれないなと今になって思います。だから、もっと好きなことをガッとやっていれば、もっとすごいことになったかもしれないと思ったりもしますけどね。
富樫:そういう機会があれば伸びる方はたくさんいらっしゃると思いますね。
残間:その人はやっぱり、自分の心に正直に声をあげたほうがいいかなと思います。また、「そういうこともやりたいんだけど、出世したいんだよな」と思う人もいるわけです。出世したい人は、やっぱりそっちのレールに乗ったほうが出世しやすかったりするんですよね。
なのでそのへんは自分に正直になって。でも、こういう新しいことを変えていきたいという人はたくさんいると思います。