東京ディズニーリゾートはITの国か、夢の国か 「効率化とおもてなし」を叶えた施策

「「働き方改革」時代にサービス業界に求められる変化~テクノロジーと現場の実態~」

HR Intelligence Forum 2018
に開催
2018年5月23日に、リクルートジョブズが提供する、企業の枠組みを超えた人事主導の「働き方改革」を牽引していくためのフォーラム「HR Intelligence Forum Showcase Conference」が開催されました。イベント後半に行われたパネルディスカッションでは、「「働き方改革」時代にサービス業界に求められる変化~テクノロジーと現場の実態~」をテーマに、東京ディズニーリゾート®︎を運営する株式会社オリエンタルランドと創業100年の老舗旅館・株式会社陣屋の成功事例を紹介します。
提供:株式会社リクルート

「働き方改革」時代にサービス業界に求められる変化

仲川薫氏(以下、仲川):みなさん、こんにちは。リクルートジョブズの仲川と申します。どうぞよろしくお願いします。本日モデレーターを務めさせていただきます。

2つのセッションを大変おもしろいなと思って拝見していたのですけれども、マクドナルド様のビデオを見ていたときに泣きそうになってしまったり(笑)、曽山さんの「シラケ」のイメトレのお話も非常におもしろくて、いろいろと参考になる部分があったと思っております。

こちらのセッションでも負けずに盛り上がっていけたらなと思っておりますので、みなさんよろしくお願いします。

実はこの前に準備運動といいますか、(スピーカーの3人と)ディスカッションをさせていただきました。御三方のお話が非常におもしろくて、「これは時間内に終わるのかな?」ということで緊張しているのですけれども、何とか終わらせたいと思います。

まずは改めて、「HR Intelligence Forumとは何なのか」ということをお話しさせていただきたいと思います。

HR Intelligenceの定義と現場の課題

HR Intelligenceとは、「組織が①戦略目標を達成するために、②テクノロジーを駆使して、人・組織に関する③様々なデータを収集・分析することにより、④科学的な人材マネジメントを効率的に行う⑤体系的なプロセス」と定義させていただいております。

先ほどスライドが出ましたが、弊社のリクルートワークス研究所の大久保(幸夫)が2017年9月に定義させていただきました。

なぜ私たちが改めてこの定義をさせていただいたのかというと、昨今の「働き方改革」もそうなのですけれども、HRテクノロジーの活用については、人事部のみなさまにおいて、「導入するのかしないのか」「何を導入すればいいのか」「どう導入するのか」「どのくらいのコストでやるのか」というさまざまな議論があるかと思います。

ただ実際に、「テクノロジーを導入することが目的化してしまって、そもそも何がやりたかったのかわからない」「テクノロジーを導入するのはすごく大変なんだけれども、結果的に何がよかったのかよくわからない」というお声やご相談をいただくことが多かったです。

ですので私たちは、戦略目標を達成するため、経営課題を解決するためのテクノロジーであるということを1つ重要な定義とさせていただいています。

そして、⑤体系的なプロセスであるということ。今日もテクノロジーの話をたくさんしていただきますけれども、必殺技みたいなHRテクノロジーというものではなくて、実は導入したあとのPDCAサイクルであるとか、続けていく胆力が重要であるというお話がこのあとも出てくるのかなと思います。

そして働き方改革についても、2017年は「働き方改革元年」と言われて、デロイトトーマツさんの調査によると、2015年〜2016年までは「働き方改革を実施されていますか?」と企業さんにお伺いしたところ、だいたい30パーセント強くらいの企業様が働き方改革を実施しています。

ただ、2017年はなんと73パーセントということですので、みなさまが働き方改革については何らかの実施をされています。

しかしながら、先ほどのHRテクノロジー(の課題)と同じで、「何のために働き方改革を推進するのか」という目的の議論が少し後手に回り、働き方改革を推進しているけれども、結果、従業員の満足度が上がらなかったり、「実際に経営としての効果は何なんだ?」という議論が今年くらいからみなさまの中で始まっているのかなと思います。

今日お話しいただく事例は、先ほどのテクノロジーの話も働き方改革の話もそうですけれども、両方ともそもそもの経営課題に照らし合わせて進められている事例であるというところが、みなさまのお役に立つポイントなのかなと思っておりますので、さっそく話を伺って参りたいと思います。まず最初に、山田様から自己紹介をお願いいたします。

オリエンタルランドの使命と人事部長の役割

山田恭嗣氏(以下、山田):改めまして、みなさんこんにちは。オリエンタルランド人事本部キャストディベロップメント部の山田と申します。よろしくお願いします。

「キャストディベロップメント部」は聞きなれない部門名だと思いますが、オリエンタルランドは東京ディズニーリゾートを経営している会社で、人事部長が2人いると思っていただけるとわかりやすいと思います。

1人は、社員を見ている人事部長。もう1人は、パート・アルバイトを見ている人事部長で、それが私です。キャストディベロップメント部では、採用から人事制度、教育までを一貫して担当しています。

オリエンタルランドは、「自由でみずみずしい発想を原動力に、すばらしい夢と感動、ひととしての喜び、そしてやすらぎを提供します」を企業使命としており、会社は1960年にスタートし、埋立からはじめています。今年、東京ディズニーランドは35周年、東京ディズニーシーもすでに17周年を迎えております。

オリエンタルランドでは東京ディズニーリゾートにおける2つのパークを運営しており、周りにあるホテルやリゾートライン、イクスピアリという商業施設は100パーセント出資のグループ会社が運営しております。

今日は2つのパークで働いている従業員であるキャストの、さらに準社員と呼んでいるパート・アルバイトの制度等についてお話をさせていただきます。

キャストには、グレードという資格制度があり、ディズニーらしく、(各グレードの頭文字に)「M・A・G・I・C(マジック)」という文字をつけています。試雇期間(Mキャスト)から始まり、リーダー(Cキャスト)まで、約1万9000名が在籍しております。

それに対して、管理者であるスーパーバイザーから、営業や人事も含めて約3300名の社員が在籍しており、全体で2万2000名くらいの従業員で2つのパークを運営しているとご理解いただければと思います。

職種もさまざまあり、アトラクションキャストから掃除をするカストーディアルキャスト、警備を担当するセキュリティキャスト。また、フードサービスキャストや調理をするカリナリーキャスト。商品を販売するマーチャンダイズキャストなど、全部で28種類の職種があります。なお、エンターテイメント本部に所属するダンスを踊っている出演者は別契約になっております。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

仲川:では宮崎様、お願いします。

IT企業の側面を持つ、老舗温泉旅館の事業

宮崎知子氏(以下、宮崎):神奈川にある鶴巻温泉という温泉旅館の代表取締役と女将をしている宮崎と申します。

私どもの旅館のご紹介を少しさせていただきたいと思います。

こちらは神奈川の秦野という場所にありまして、新宿から小田急線で約1時間程度。そして実は駅近でございまして、徒歩でも3分という距離でございます。創業は大正7年でして、今年100周年を迎えております。

そのほかの特徴としては、明治時代からある客室が1つありまして、そちらを使って囲碁や将棋のタイトル戦をさせていただいています。

昭和の初期から計300局以上は対局をお任せいただいており、最近は「AbemaTV」さんにも将棋中継をしていただいたり、度々メディアに取り上げていただいております。

敷地が約1万坪ございますが、客室は18部屋となっておりまして、レストラン、宴会場が6つあります。

事業としては、宿泊、日帰り、婚礼、そして「陣屋EXPO」という新しい事業があります。今、旅館同士の相互の交換ネットワークを立ち上げているのですが、そちらが旅館本体の事業です。

そしてもう1つ、実は私どももIT企業の側面がございまして、自分たちで「陣屋コネクト」というホテルのシステムを構築いたしまして、アプリケーション販売を行っております。今、5つの事業をまとめて陣屋グループの事業とさせていただいております。

(会場拍手)

仲川:城倉さん、お願いします。

城倉亮氏(以下、城倉):リクルートワークス研究所の城倉と申します。よろしくお願いいたします。

リクルートワークス研究所は、リクルートの中にある、人と組織に関する「新しいコンセプト」を提起する研究機関です。

さまざまな予測や「世の中がこのような動きになっていく」というような提言をさせていただいております。

昨年度、「サービス産業の新しい働き方」というテーマでレポートを出させていただいておりまして、このレポートではとくに宿泊業に特化しているのですが、今後、労働力人口が減っていく中で、サービス業はどのような働き方に変化していかなければいけないのか、ということを我々なりにまとめて提言させていただいております。

このレポートもありまして、今日はこちらに来させていただいております。よろしくお願いします。

(会場拍手)

サービス産業のマクロ環境の変化

仲川:今日お話しいただくのが、まさに働き方改革時代に、とくにサービス業に求められる変化ということで、御三方にディスカッションをしていただきたいなと思っています。

城倉からもありましたけれども、サービス業においてどのようなマクロ的な変化があるのか、そしてどのような変化を求められるのかということについて、少しお話をさせていただきたいと思います。お願いします。

城倉:今日いらっしゃっている皆様に、改めてお伝えするところではない部分もありますが、少しデータのご紹介ができればと思っております。

ご覧いただいているスライドですが、こちらはもう様々なメディアを通じてご存知だと思いますが、有効求人倍率がどんどん右肩上がりに上がっている状況です。

こちらはサービス業の職業のデータですが、平成25年度に(有効求人倍率)1.81倍だったものが、昨年度の平成29年度は3.32倍ということで、他の職種と比べてもかなり高い水準に上がってきています。

わずかな期間での急激な上昇になっておりますので、気づいたら人が採れない状況になっているということがあるのかなと考えています。

また、こちらはリクルートワークス研究所が2018年2月に発表した「中途採用実態調査」のサービス・情報業に関するデータですが、中途採用で人材が確保できなかったことによる影響を聞いた質問で、赤く色付けをさせていただいている部分は、すでに何らかの影響がある。もしくはこの状況が継続すれば影響が出てくると回答いただいている割合になっております。

全体で600社ほどですが、「今後影響が出てくる可能性がある」という回答も含めると、影響を懸念する企業が9割を超えている状況でございます。

人材不足に対する、IT化・機械化の浸透率

ではその中で、具体的にどのような対応をしているのかという状況ですが、スライド一番下が今日のメインテーマである、「IT化や機械化による業務の効率化」を進めているのか聞いておりまして、「すでに何か取り組んでいる」と回答いただいた割合は4割程度にとどまっています。

6割近い企業は「これから検討する」もしくは「IT化や機械化はとくに検討していない」と回答いただいておりまして、我々としてはまだまだここにはに取り組む余地があるのではないかなと考えております。

サービス産業の特徴としましては、従業員数がかなり多い業界ですが、その中で、一人あたり付加価値額を見ると、ほかの産業と比べて低い水準にあります。

言い換えると、まだまだ一人あたり付加価値額を上げることで、生産性を高める余地がある。IT化・機械化を進めることによって、もっと生産性を高めていくことができるのではないかと考えております。

働き方改革を進めていくときに、やはり「生産性」という言葉が出てきます。

先ほど仲川さんからもありましたが、働き方改革で生産性を高めることが目指されているはずなのに、どうしても労働時間削減にばかり目がいってしまって、「結局、インプットの部分は労働時間削減だけなのだろうか?」という疑問が出てきます。

生産性を考えたときには、インプットをさまざまな手段で効率化する一方、アウトプットもいかに付加価値がある業務にシフトしていくのか、ということがポイントだと考えていまして、今日お越しいただいてる2社のみなさんには、このようなところを存分にお話しいただけるのではないかなと考えております。

オリエンタルランドが目指す「ハードの強化」と「ソフトの強化」

仲川:ありがとうございます。付加価値とコストのところがすごく重要だという話だったのですけれども、まずは事例として、オリエンタルランドの山田様より、生産性の向上にどのように取り組まれているのかということを、経営課題の観点、あるいはテクノロジーを利用した観点からお話を伺っていきたいと思います。山田様お願いします。

山田:「経営課題」という観点では、当社では今、2020年に向けた「2020中期経営計画」を実行中です。この2020中計では、ハードとソフトの強化という2本柱で考えております。

ここで言うハードは、みなさんのご想像どおり、アトラクションやエンターテインメント含めたものです。

もう1つのソフトの強化が、人の部分です。こちらはキャストのサービスをより上げていくことに取り組んでいますが、2020中計を考える以前から、「サービス」とは何か、「おもてなし」とは何か、をもっと具体的に解明し、サービス向上につなげていこう」と取り組んでいました。

その分析の中で見つけた言葉ですが、一般的にも言われている用語として、「機能的サービス」と「情緒的サービス」という言葉があります。

機能的サービスは、お客様の求めるものを正確で迅速に提供していくことだと定義付けました。一方で、情緒的サービスは、どちらかと言うと感情・気持ちみたいなところに寄り添ったサービスであり、これには何が正しいかという答えはなく、お客様と対面するその場その場で生まれるものだと定義付けました。

ディズニーパークで使う「ホスピタリティ」と呼んでいるものは、この情緒的サービスです。これはマニュアル化できないものであり、機械化もするべきではないと思っています。

一方、機能的サービスについて、我々はこれを中期経営計画の中で「オペレーション力」と呼び、ホスピタリティとは分けて考えています。そして、機能的サービスはマニュアル化や省力化・IT化が可能です。

東京ディズニーリゾートに導入された、キャスト配置システム

仲川:具体的にはどのようなIT化をされているのでしょうか?

山田:例えば、ゲストへの新たな施策としてまもなく導入予定ですが、パークへ来園されたときに、いろいろな情報をゲストご自身のスマートフォンへ直接提供することをより強化していこうと考えています。

また、人事施策の一例として、2年前から「ワークフォース・マネジメント」というシステムを導入しています。

実は導入までに3年以上かけて作り上げたシステムなのですが、パークで遊ばれるゲストのみなさんのサービスの需要を、我々のキャストがより過不足なく提供していくためのサポートシステムです。

いろいろな変数を駆使して仕事量を自動で予測・算出し、一方で従業員の希望シフトをデータに組み込み、この2つを組み合わせて自動でキャストを配置していくというシステムです。これを各施設ごとに、毎日15分単位で行っています。

仲川:そちらは御社の中で作られたサービスですか?

山田:そうです。テーマパークという非常に特殊な世界ですので、そのような既存のシステムががなく、独自で作りました。

仲川:実際に入れてみて、どのような効果があったか少し教えてください。

山田:目的は効率化ではなく、ゲストのみなさんによりストレスなく楽しんでいただくための(キャスト)配置でしたので、そちらの精度を上げてきています。

以前は現場社員それぞれの経験値で行っていましたが、今は精度が上がり、見える化されていますので、例えば、「このレストランには、この時間帯にこれくらいの人が欲しい」という仕事量や労働力の過不足の状況が事前に確認し、共有できるようになりました。

仲川:実際にそれを使ってみて、従業員の方々はどのように思われているんですか? ネガティブな反応もありましたか?

山田:今までは準社員(パート・アルバイト)に対して社員が「このポジションについて」と指示を出していて、そこにヒューマンなコミュニケーションがあったのですが、ワークフォース・マネジメント導入後、最初のうちは機械に指示されることに非常に抵抗を感じるといった場面もありました。

仲川:一方で、実は従業員満足度が上がったというお話もあるのでしょうか?

山田:そうですね。通常の勤務に加え、本人が働きたい時間に他の施設でも働けるといった多様な働き方を受け入れることがしやすくなったと思います。

2万人いるので、人間の手でやろうとすると非常に大変だったのですが、システム化することでより従業員のニーズにあった働く時間を提供できつつあります。

仲川:どの企業様も従業員が増えていき、かつ多様な働き方となると、それをどのようにマネジメントしていくのかが非常に大きな課題であるというところで、ITが役に立った事例なのかなと思います。

仲川:従業員の満足度が上がっていくと、さらに顧客の満足度も上がっていくこともあるのかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

山田:「過不足なく」という目標に対して、その精度が上がってきていることはITならではの効果だと感じています。

仲川:中期経営計画の中で、どのように経営課題を解決していくのかということを決定して、それを進めていった事例でした。ありがとうございました。

宮崎様からもぜひ、陣屋さんの事例をご紹介いただきたいと思います。

「借金10億円の旅館」の打開策

宮崎:私どもは創業して100年ですけれども、私と主人が事業を継承したのは2009年です。2009年当時の陣屋は、営業的に大ピンチなときでした。

いつ倒産してもおかしくない、売上2億9000万円に対してEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)がマイナス6000万。毎年6000〜7000万の赤字を垂れ流しつつ、借入金が10億円あるという異常数値を出している会社でした。

母が1人で借金をこさえたわけではないのですけれども、バブルが崩壊したあと20年間、右肩下がりのものをずっと続けてきてしまったことが一番の原因でした。

昨年、テレビ局に取材に入っていただいたこともありまして、今「借金10億円の旅館」と検索すると陣屋がヒットするという(笑)。

(会場笑)

宮崎:SEO対策はしていないのですが、そんな冠まで付けていただいて(笑)、そのようなかたちでした。

とりあえず素人がいきなりやらなくてはいけないという事業継承が行われまして、短期間で売上を上げて、経費を削減しなくてはいけないという窮地に立たされました。

そのときに私たちがやっていたことというのは、1泊2食付き、本来1万4,000円くらいで販売したかったものを、稼働率を維持するために9,800円まで安売りを行なってしまっておりました。

忙しいのにまったく儲からないというスパイラルに陥っており、これを何とか打開したいということで、「6年後くらいには1泊2食付き3万円くらいいただける宿になりたい」と考えました。

シンプルに考えたときに、キャッシュが回れば会社は何とか存続させることができますので、私たちは稼働率ではなく利益が欲しい。

本当に欲しいものに注力しようという方針に変えまして、まず付加価値を高めて、高単価にして、稼働率が低くなってしまっても構わないという経営判断をしようと決めました。

そのために、当時の陣屋には社是がありませんでしたので、社是を決めるというかたちで、コンセプトを「物語に、息吹を。」というものに設定しました。これに向かって、物事を進めていこうと。

このコンセプトを決めるときにも条件がありまして、3日前に入社した私と主人がいきなり「これにします」と言っても、長年働いてくださっている方の心に響くわけがありませんので、第三者の方にお願いをしました。

当時はアルバイト・社員問わず全員で120名いました。内訳は社員20名、アルバイト100名です。これに対して全員にインタビューを行なって、会社の強みと弱み、好きなところと嫌いなところの回答を得て、導き出したものがこちらのコンセプトです。

時間とお金はかかったのですけれども、何をしたかったかと言うと、上から言われてやるのではなくて、「みなさんから出てきた意見の総意に向かって物事を決定していくので、従ってください」というスタンスを取りたくて行いました。そして、ブライダル事業をスタートさせたり、おもてなしの実験場(F1)としての貴賓室活用(改装)をしてきました。

アナログな老舗旅館を変えた、4つの経営方針

宮崎:また、そのときに経営方針を4つ定めました。1つ目は、情報の「見える化」をしたい。ずっと勘と度胸で営業してきたものですから、それを何とかやめたいと。

2つ目は、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の高速化ということで、月次管理から日次管理に変えていきたいと。ずっとアナログでやっていて、アルバイトさんの月が締まらないと人事の集計が始まらないという状況になっていましたので、何をするにも時間がかかっていました。

そして3つ目は、情報を持つだけではなく活用させる。昔「余計なことをして」と叱られたことがあったのか、お客様の情報を知っていても動いてくれない方がいたりして、「言われたこと以外はやらない、そのほうが吉である」という社風になってしまっていて、主体的に動いてはくれないという現状がありました。

4つ目は、仕事を効率化し、お客様との会話と接点を増やす。私と主人はこの陣屋にきたときに、接客業だと思って入ってきたのですが、やってみたら1日の8割くらいの時間をバックヤードの業務に費やされていて、お客様と向き合っている時間が非常に少なかったという驚きの事実がありました。

これを何とか変えたくて、ただ「変えましょう!」「がんばりましょう!」と声をかけて鼓舞するだけでは変わらないので、「がんばる環境を整えるためにシステム化が必要だ」という判断をして、ITを導入するに至りました。

ITを導入するところにも一悶着がありました。当時、欲しいサービスが世の中になかったので、「じゃあ自分たちで作ろう」という判断で自社開発に踏み切りました。

こちらはクラウドで運用することにしており、9年間ずっと開発を続けて、今できることを書き出しています。

何を目指したかというと、一元管理です。

「お客様の情報を、いただいた予約から最後の会計が終わって、経理・財務にデータが移るところまで、もう1回入力し直すことなく、一度の入力で最後まで決算書が作れるところまでいきたい!」ということが私たちの目標で、今でもずっと開発を続けています。

現在はお客様からいただいた予約情報を管理して、当日を迎えます。翌日チェックアウトをして、お会計を済ませて、現金合わせをこの陣屋コネクトまでします。

そこまでで業務がいったん終了しまして、会計士さんにID・パスワードを持っていただいているので、そこからはアウトソーシングをしています。ですので、現在陣屋の中には経理部が存在しません。

経理業務は従来の4分の1まで圧縮されています。まったくないわけではなく、社会保険のことなどは細々とやっていますが、それだけ圧縮できました。

宮崎:私たちは働き方改革をやろうと思ってスタートしたのではなくて、まずは会社を倒産させないために業務を改善するといったところからのスタートです。

ただ経営を改革するにあたっては、IT(陣屋コネクト)の活用だけではなく、(スライドに)「料理の改革」とありますが、こちらは単価を上げるために着手しました。

資金的に乏しかったので、「施設・設備の改革」は後からしたのですが、それと一緒に「サービス・オペレーションの改革」「働き方改革」の5つのプロジェクトが9年間ずっと並走している状況になります。

物事はすべて連動しておりますので、ここだけ抜き取るということができないので、とりあえずやるべきものはすべて一緒にやってしまう、やらないことだけ決めようということにしました。

私たちは1つだけやらないと決めたことがありまして、(それは)「社内外に公表できないことはやらない」。これ以外であれば全部やるというスタンスで進めてきました。

3年目で赤字脱却、次なる課題は「従業員満足度」

宮崎:少し先までいきます。「サービス・オペレーションの改革」をやってみて思ったことは、情報共有ができれば、指示待ちからの脱却ができるということです。

どうしても予約係に情報が集約されてしまうので、そこから指示が出てくると、接客係や清掃係がだんだん卑屈になってくるんですね。

会社的には組織をフラットにしたくて、優越を付けていないのに、働いている方たちが勝手に業務の中に優越をつけていくんです。

私は接客係だから清掃よりも少し偉そうとか、フロントだからといって「これをやって、あれをやって」と指示を出すと、接客係としては、言われた通りに動くだけではどうしてもおもしろくないんです。

ここに主体性を持たせたいということでやってきて、情報が一律に公開されることはとても有効だと痛感しています。

そして「働き方改革」ですけれども、現在、私どもの旅館は定休日を設けています。

3年目で赤字を脱却して、黒字転換できましたので、顧客満足度は感じることはできたのですが、どうしても従業員満足度を感じられずに、ずっと離職率30パーセントを切れずにいました。

辞めていく方が多いと、残ってくださる従業員の方が疲弊していって、どんどん心が折れていく現場を見るのがすごく辛くて、これを何とかしたいと思いました。

そこで2014年に定休日を設けて、2016年からは月曜日も定休日にして、木曜日から日曜日の営業にしました。

こちらをやってよかったこととして、常にフルメンバーでお客様をお迎えすることができるので、かなりチームワークが上がってきたということがありました。

申し送り事項をしなくて済むので、ヒューマンエラーもだいぶ減りました。お休みが取れて、リズムの良い生活を送るようになれたので、昨年は離職率が3パーセントまで下がったという実績が残りました。

オリエンタルランド・陣屋の成功事例に共通するもの

仲川:ありがとうございます。御二方の事例に共通することは、まず「経営課題が何なのか」ということを特定して、従業員のみなさまと共有すること。勘と経験からの脱却、見える化、テクノロジーの活用、PDCA、従業員満足度などがキーワードとして出ていたかと思います。

あとは「やることとやらないことを決める」ということが重要かと思うのですけれども、やらないことを決めるのは難しくなかったですか?

宮崎:必要なものはたくさんあって、挙げればきりがないのですけれども、やらないことさえ決めてしまえば指針が出てきますので、そちらのほうが有効でした。

仲川:2つの事例はすごく成功した事例だと思うのですけれども、ほかにも経営課題と現場の推進で一気通貫した事例はありますか?

城倉:サービス業のいろいろな企業を見させていただいている中で、我々のレポートにも陣屋での経営改革はまとめさせていただいているのですが、ここまでやられている事例はなかなかないと思います。

ただ、今日は飲食業界の方々が多くいらっしゃっていると伺ったので、飲食業の事例を一つご紹介させて頂きますと、ある企業では、店長の方々の労働時間がどうしても長くなっていて、その業務を分解してみると本来店長の方々にやってもらいたいマネジメントや接客ではない、PCでのデータ入力などといった仕事が非常に多くなってしまっていることが分かりました。

このPC作業に時間が取られていることが課題だととらえ、そこに新たなシステムを導入することでPC作業の時間を大幅に減らし、マネジメントや接客など付加価値が高い業務の時間を増やした結果、社員の働きがいが高まり、離職率も下がったと聞いています。

やはり「会社として何が一番の付加価値なのか」「何を目指しているのか」を明確にしたうえで取り組むことが必要なのかなと思います。

例えば、店長の仕事として1日の売上や利益を入力することが当たり前のように考えている企業も多いと思いますが、それが本来店長にやってもらいたいことなのか。付随業務のはずなのですが、そこが業務のほとんどを占めていることも多く、そこを変えていくことで満足度も上がるし、定着にも繋がるということかなと思います。

仲川:先ほどのオリエンタルランドさんの「ワークフォース・マネジメント」はまさにそのようなことだと思うのですけれども、実際に導入していく過程で非常に難しいところもあったのかなと思います。

今日会場にいらっしゃるみなさまにも、「システムを導入するときにこういう苦労があった」とか、「それをどのように乗り越えられた」というヒントがあればぜひ共有していただければと思いうのですが。

経営陣は“現場の抵抗”とどう向き合うべきか

山田:確かに新しいシステムを導入した現場はそのシステムを使うにあたって、最初は習得するまでに時間がかかります。そのため、一斉に導入するのではなく、2年間かけ、PDCAを繰り返しながら全部のお店に広げていきました。

(具体的には)まずはトライアルとして、部門別に1施設ずつ導入して、そこでうまくいったこと・うまくいかなかったことを反省して、次につなげていくということを徐々に展開していったということがありました。

また、導入目的をきちんと共有することは重要だと思います。「ワークフォース・マネジメント」に例えて言うと、「現場の負担を軽くする目的でやっている」ということを言い続け、丁寧にコミュニケーションを取っていったという経緯があります。

仲川:御社のビジョンというか、「ハピネスをクリエイトする」ということを実現していくためにも重要だったというお話もあったと思いますけれども。

山田:そうですね、「ワークフォース・マネジメント」もハピネス創造にとって重要な役割を果たしています。

お話しした「オペレーション力」と「ホスピタリティ力」の2つをきちんと分けて、社内で役員も含めて議論していくということを丁寧に行ってきました。

我々は今まで、社内では「ハピネスを提供する」と言っていましたが、35周年を機に「ハピネスをクリエイトする」「We create happiness」という言葉に変えました。みなさんにとってはあまり変わらないかもしれないですけど(笑)、「ハピネスを提供する」だと、我々がハピネスを持っていて、何か仕掛けを持っていて、上から目線ではないですけど、「差し上げる」みたいに聞こえてしまう。そういう気持ちではないよねと。

もう一度、ゲストのみなさんと同じ目線に立って、一緒にハピネスを生み出して行こう。我々は舞浜で、そういう場を提供したかったんだよね、ということをメッセージとして出しました。それがホスピタリティだったんです。

一方で、同じ労働時間の中で、プラスアルファでホスピタリティを向上させていくということは、なかなか難しいですよね。それも現場の抵抗の1つだと思います。

そこで、オペレーション力はどんどんIT化・省力化していき、空いた時間を本来我々がやりたかったことであるゲストのみなさんと接する時間を増やしていこうと考えました。この2つをセットで、現場に話していきました。

仲川:まさに「クリエイトハピネス」が付加価値になって、オペレーションはどんどんIT化していくという切り分けができているということですね。

高齢の従業員のIT化は難しい?

仲川:宮崎さんはご苦労ありましたでしょうか? まあ、ありましたよね(笑)。

宮崎:そうですね。みなさまご想像されてらっしゃると思いますが、やはり働いている方が高齢化していることもありました。今は社員の平均年齢が30歳になっておりますが、2009年当時は社員の平均年齢が45歳でした。

パートさんは圧倒的に年配の方が多くて、50代、60代、70代の方がほぼ占めている。現在も最高齢は80歳のおじいちゃまがいますけれども、その方たちにも全員に使っていただかないと情報の共有ができないので、全員を取り込むことが私たちの一番の課題でした。

結論から言うと、開発から3年後に勤怠管理の機能が構築できました。ログインして出勤ボタンを押さないとお給料が発生しなくなったので、70代の方もがんばってログインしてくれるようになりました。

最初はログインするのに20分くらいかかる方が本当にいらっしゃるんですけれども、毎日やるとできるようになったり、「銀行のATMでお金を下ろしたことがある方は絶対に使えるようになるから大丈夫!」という励ましをして(笑)、何とか全員ログインすることに成功しました。

ログインすると社内SNSが読めるようになって、そこで自分の投稿や自分に来たメッセージを受け取って、仕事に入っていただく、というのが毎日のルーチンワークになっています。

仲川:一方で、最初に120名くらいいらっしゃった従業員の方が今は40名強ということで、効率化が推進されたと思うのですが、その過程でやはり同意せず退職された方もいらっしゃると思うのですけれども、そのあたりはどのように乗り越えられましたか?

宮崎:女性が多いので、どうしても感情的になる方が多くて、「パソコンで仕事をしなさいということは、私に辞めろということですか?」と言ってさめざめと泣かれたこともあったりしたのですけれども(笑)。

「IT化をしなければ会社を存続することがきないので、これは絶対にやっていただきます。ただし、自分たちで開発したので、いずれ改善できることもあると思うので、その改善要望を聞かせてください」というスタンスを取りました。

中にはやはり、単体タスクからマルチタスクにどんどん切り替えていて、自分のやりたくない仕事も振られてくるので、「辞めます」という方も残念ながらいらっしゃるんですけれども、残ってくださった方と去って行った方のマインドの違いの1つとして、去って行った方は「どうして私がそこまでやらなくちゃいけないの!?」という気持ちを最後まで捨てられなかったということがあります。

実は今、40名強のアルバイト・社員がいますけれども、残ってくださっている方が10名ちょっといらっしゃいまして、4分の1くらい続けてくださっている方が多いです。

その方たちのマインドとしては、新しく覚える仕事に対してやりがいや楽しみを見出してくださって、「それもやってもいいんですか!」という気持ちでいてくださっています。

その方たちが残ってくださると、新しく入社してきてくださった方がそのマインドに侵食されていくので、「新しいことを覚えることは楽しいんだ」ということを社内で共有できるようになって、歯車がうまく回りだしたということがあります。

仲川:結果、従業員の方のお給料も非常に上がったと。

宮崎:非常に上がりました。宿泊業は残念ながら、業界の中でも平均年収がかなり低いかたちで、前年で250〜260万円というのが全国平均です。

陣屋は首都圏ということもあって、280万だったところが現在は400万円にすることができまして、従業員の満足度も徐々に上がってきたということもあります。

仲川:まさに従業員の満足度も上がり、価値を提供することでお客様の満足度も上がっていくということだと思います。

御二方の事例は、やはり非常に大変なこともあるけれども、経営課題をはっきりさせて、経営のゴールを決めて、それを継続して続けていくということがIT化・生産性向上にも重要なのかなと思うのですが、最後にそのあたりをまとめていただいてもよろしいですか?

城倉:まとめたスライドを用意させていただいているので、そちらを見ながらご説明させて頂きますが、まず取り組むべきは経営戦略に基づくタスクマネジメントです。業務をどう分類するのか。

先ほどお話があったように、オペレーションとホスピタリティに分けるように、タスクの効率化と付加価値化に分解していくと、それが直接売り上げやコストダウンにつながる一方で、働きがいや働きやすさにつながります。

結局、働きがいと働きやすさが上がるとESが高まって、そのESがCSや定着率につながることによって、CSが上がればまた売上につながっていきますし、定着率が上がればコストが下がるというところで、これがまた売上、コストにもつながるという好循環が生まれます。

2社はこのような観点でタスクを見直して、生産性を高めていくということができているのかなと思っています。

日本のサービスを「主客一体」で見直そう

仲川:もっとお話をお伺いしたいところなのですが、残念ながらお時間が来てしまいました。最後に山田様、宮崎様から会場の人事の方々に向けた応援のメッセージ一言ずついただけたらと思います。お願いします。

山田:今日はありがとうございました。オリンピックで「おもてなし」という言葉が注目されましたが、「おもてなしって何だろう?」という研究を社内で2年くらいしまして、いろいろとキーワードはあるのですが、「主客一体」という言葉が自分には一番重要だと思っています。

今、サービス業の現場で起こっているのは、どちらかと言うと、お金を介してサービスを提供する側と受ける側が明確になりすぎているような気がします。

一般的にサービス業で働きたくないという人の気持ちとして、「お客様にクレームを言われる」事を嫌ったり、違和感を感じていることが上げられると思っています。

サービスを受ける側であるお客様の立場になった時に、ただ受け身になるのではなく、サービスが生まれる場、我々で言うとハピネスが生まれる場になりますが、その場の1人として役割を演じてくれると、お互いにもっと幸せになれるのではないかと議論してきました。これが主客一体であり、日本が誇るおもてなしだと思います。

先ほどもお話した「We create happiness」のWeには、実はゲストのみなさんも入っています。私が思う最終ゴールは、我々キャストがいなくても、ゲストとゲストの間にハピネスが生まれるような素敵な場所を提供することです。

今日はサービス業のみなさんがいっぱいいらっしゃると思うのですが、日本の本来持っていた良い文化、おもてなしの文化をもう一度見直し、提供できるような仕事をしていきたいと思っています。

そして、サービス業で働く従業員の働きがいやESを向上させ、CSに繋げていきたいと思っています。ぜひ皆さんと一緒に、日本のサービスをもっと良くしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

人事担当者がIT化を成功させるカギ

宮崎:今日は人事関係の方が多いということですので、経営層からいろいろなミッションが上がって、現場からはいろいろな意見が上がって、板挟みのポジションで辛いことが多いのではないかと推察します。

IT化を進める中で、私どもは同業他社の方にアプリケーション販売させていただいていますが、経営陣の方が旗を振ってくださる会社は、IT化がものすごく早く立ち上がるということがあります。

経営者の方が半年もログインしてないということがありがちなので、「ぜひログインしてください」「ぜひそのシステムを使って社内にメッセージをだしてください」と言っていただけるとよろしいのではないかなと思います。

現場で働いている方たちは経営層からのメッセージが欲しいんですね。この会社はどこに向かって進んでいるのか、自分たちのやっていることがちゃんと合っているのか、答えが欲しいと思ってらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。

「がんばってるね」でもいいですし、「方向性合ってるよ。まだ実を結んでいない事業もあるけれども間違ってないんだよ」ということを、ぜひ伝えていただけるポジションの方から情報を発信していただけるといいなと思います。

あとはやはり、情報を開示するということ。お客様の情報でもなんでもいいのですけれども、組織の透明度とほぼ比例することにもなりますので、透明度の高い組織はチームワークが上がってきて、社員が活き活きとして、スタッフさん主導で主体的に動いてくださいます。

その主体的に動いてくださるスタッフの仲の良さというのは、そのスタッフのサービスを通して付加価値をお客様が受け取ってくださるので、そこをぜひ私たちも続けていきたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)

仲川:それではこのセッションを終了とさせていただきたいと思います。御三方のゲストの方にもう一度拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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