進展するキャッシュレス化

谷本有香氏(以下、谷本):それ以外で、2018年、何か大きな変化であるとか、新しい……AIとかああいうのを使って、など何かお考えなどはありませんか? シンさんはどうですか?

シン・ジュノ氏(以下、シン):TencentもAI、ブロックチェーンをやってますし、アメリカとヨーロッパにそれぞれAIセンターを作ってやってはいますね。

2018年の変化としては、Tencentが今非常に注力しているのはグローバル化です。Tencentの時価総額が60兆円になって、それからアリババがだいたい今50兆円。Baiduが今10兆円。

中国のネット企業は今けっこう最先端を走ってまして、すべてが携帯でできちゃうので、中国だと現金が本当にいらないんですよね。僕も実は現金を持ち歩いていないです。逆にいうと、クレジットカードを飛ばしたので全プラットフォームで使えるようになったんですけど。

要は、中国企業がすでに今もう最先端の技術を作り始めています。これをグローバルに持っていっている状況です。WeChat Payも、アリババのAlipayもそうですし。2018年は、中国企業のグローバル化が資本の面でも製品の面でも(進みます)。これは逆らえないと思います。

僕らが今日本の企業さんに提案してるのは、怖がらず、やっぱりギブアンドテイクしながら、中国と成長していく方法を探さないと、結果、どこかのタイミングで、逆に中国の企業が日本に来て一番いいサービスを作っちゃうかもしれないというのもあると思います。

広告市場も労働力市場も海外との競争が激化

堀江裕介氏(以下、堀江):メディアだともうすでに起きているので、怖いです。

シン:僕はゲームだけなんですけれども。

堀江:もう数倍の資本投下をされるのはわかっているので……。

小泉:そのへん見てると、いろんなニュース系の広告もね、本当に中国の会社が増えてるなと思います。

堀江:これは恐ろしいですよ。日本って日本企業には厳しいわけですよ。例えば上場とかこういうフェーズって、僕らはかなりコンプライアンスを重視しなきゃいけないんですけれども、やりたい放題好きにやれるというのはある意味海外企業の強みで。

広告については、日本企業の僕らには厳しいけど、海外企業はなんか意外とエロいのとかOKだったりして、けっこう(インパクトが)強いんですよね。数倍の資本投下されると勝ちようがない。どうやって数字を持っていけばいいのかわからない。

シン:たぶん上場すべきじゃないですね。

堀江:(笑)。

小泉:やりたいようにやっていったほうがいいよ。

堀江:上場は……。

シン:ネット企業は上場しない!(笑)

堀江:そうですね。がんばって逃げます。

小泉:でも、AIとかいろいろ話が出てますけれども、テクノロジーも結局は人の勝負だなと思ってて。僕らの会社でいうと、この秋にインドのIIT(Indian Institutes of Technology)という理系トップの大学から、30数人のエンジニアが新卒で入社するんですけど、日本で普通に採用していても、やっぱり優秀なタレントは数が限られる。限界があるので、僕らは最近日本人じゃないエンジニアを採用し始めていて。

(メルカリUSでは)FacebookのVPをやっていたJohn Lagerlingが来てから、アメリカでかなりメンバーの現地化が進んでいまして。元Googleとかそういうメンバーも入ってきいます。

タレントの取り合いというところで、グローバルで勝負していくことになります。そもそもサービスを作る前のところで、タレントに対してどんだけ張れるのかというのも、ものすごく大事だなと思いますよね。

海外企業との攻防とそのバランスの取り方

渋谷修太氏(以下、渋谷):さっきのお話を聞いてると、日本でやってると中国とかから攻めて来られちゃうので、ディフェンスもすごく大事にやりながら、でもメルカリさんみたいにグローバルもやっていかなきゃいけない。このバランスマネジメントってどうやってるんですか?

小泉:バランス……もう社内はアンバランスすぎるよね(笑)。けっこうバランス取ろうとしてないです。してない。結局、全部(中途半端に)終わっちゃいけないので。大事なことは、いろんなoppotunityがあるときに、やっぱりそれに1回チャレンジすること。

例えば「メルペイ」みたいなFintechの事業って、基本的には規制産業なので、やっぱり守るところは守らなきゃいけないんですけれども、「大変だからやらない」って言っちゃうと、もう簡単にoppotunityを失ってしまう。

WeChat PayとかAlipayとかが大きくなっているのを中国で目の当たりにしているわけで、そこはやっぱりベンチャーながらしっかりと「攻めるところは攻める 」ということをやっていく必要があるなって思います。

渋谷:ペイメントみたいなところでいうと、「コンビニ行くとき絶対スマホじゃないと払いたくない」「楽なほうに流れる」みたいな流れに絶対になるなかで、今この資料のデータを見てると、日本って世界で一番ってぐらい決済系のアプリのユーザーが少ないんですね。ここをどこからやっていくのかなというのが、やっぱりメルカリがぶち抜いていってもらうと、みんな続くみたいな感じになると……(笑)。

小泉:元グリーの青柳さんを中心に、今、必死にいろんな仕込みをしてる最中です。

熱しやすく冷めやすい人々を飽きさせないために

渋谷:(笑)。堀江さんも、最近、新規事業をやってるとお話されてましたけれども、いわゆる「2018はここのジャンルが……」みたいなものって、どんな感じですか?

堀江:僕はどちらかというと、直感で「これがおもしろい・おもしろくない」というのを自分の中でパッとすぐに決めるタイプなんです。

それでいうと、金融とかそういう難しいところは、もうメルカリさんだとかみなさんがやってくれると思っているので、僕は隙間産業の小さいところをやっていきたいですね。

僕が常に気にしているのは、ここ数年のトレンドとして感じている「人間が熱しやすく冷めやすくなった」ということです。スマホの中で、ものすごい刺激物がたくさん動いていて、その刺激がでかければでかいほど、熱も冷めやすいということが起きてるんですね。つまり、一発屋の芸人がテレビに出過ぎると一瞬で(人気が)落ちるのと同じで。

「刺激」という観点からいうと、「クラシル」は今すごくベストな状態です。食というのは刺激が強すぎず弱すぎもしない、そこそこの刺激なんですよね。だからずっとそこまで落ちていかないとか、飽きられにくいジャンルではあるんです。

そういったいろんな刺激を、いかに早く「ここに来るな」と感じて、どうプロダクトとして作っていくか。サービスとして刺激が出すぎないようにうろうろしていくというのが、僕が最近考えてることです。

僕がやっている事業はメディア系なので、刺激的なプロダクトを考えるときには、一発屋にならないように、刺激のコントロールみたいなところをすごくよく考えます。やっぱり勝つのはそのまま10年残るようなプロダクトなので、刺激をコントロールすることが大事です。

渋谷:おもしろい。

資金力で圧倒する中国ネット企業

谷本:未来のことになりますので、まさに今回のセッションのタイトル「Go Global」じゃないですか。なので、海外展開のところもおうかがいしていきたいんですけれども。

「日本国内での展開と海外で違うところ」「こんなことを気をつけているというところ」「こういったところはすごく重視してる」、そんなことをお聞かせいただきたいんですけど、シンさんいかがですか?

シン:中国から日本? 日本から……? 

渋谷:日本はどうやってやったら、うまく中国に近いようなところで(競争できるか)。

シン:スピードしかないですね。やっぱり。よく「ローカライズ」「なんちゃらライズ」って言うんですけど、もういらないと思いました。なるべくスピードで。

理由としては、資本が集中しているので、中国の大企業は現金が(豊富で)、僕らも純利益が年間で8,000億円ですから、やろうとすればすぐにできちゃうんですね。エンジニアも1万6,000人ぐらいいるから、「じゃあ、作るぞ」で数週間、数か月間で作れるんですよ。

小泉:10人ぐらいちょうだいよ(笑)。

シン:スピードで勝負する。やるって言ったら、数十億円をその日に動かす。そういったことを考えると、とくに中国ではネット業界って資本集中型・労働集中型の投資をしないと勝てないと思いますね。グローバルという意味でいうと、日本は日本のやり方で戦いをしていますが、中国で勝つためにはスピードが必要です。

渋谷:なんかこれ聞いてるとすごい絶望的に……。

小泉:でもそれね、たぶん一番日本でやってるの孫(正義)さんじゃない? 孫さんやってるよね。一番資本張ってるし、一番速いし。結局、それは世界中の投資家、起業家が孫さんをリスペクトしていることだと思います。

速さでいうとやっぱり、孫さんのところのような、オーナー企業が強いのかなって。オーナーシップを持ってる経営陣がやっぱり本気でやった会社って強いと思っていて。大企業みたいなサラリーマン経営者がやってるような仕事のやり方じゃ、追いつかないんですよ。

グローバルで勝ち抜くためのプロダクトデザイン

小泉:グローバルでやっていくという話でいくと、やっぱりアメリカは人種がすごく多様なので、日本だと感覚でほぼ8割の人が満足する日本的なデザインというのがあると思うんですけど、アメリカだとぜんぜん通じないんですよね。

USではよりシンプルにして、それこそAI使って、よりパーソナライズするほうにシフトしていかないといけない。

あとはInstagramもそうですけれども、最近では若い子を見てると、言葉を使わないコミュニケーションが圧倒的に増えてきている。アメリカの若い子の間でも、絵文字めちゃめちゃ使ってますし。

世界中でだいたい同じように、子どもの頃からデジタル、非言語のコミュニケーションにすごい慣れているので。

そういう意味で、これから言葉がいらないコミュニケーションの方向にどんどん振れていくんだろうなと感じています。メルカリもなるべく言葉とかもなるべくなくすような、「言葉、邪魔だよね」みたいなことになっていくんじゃないかなと思っております。

動画はグローバル対応が容易

渋谷:「クラシル」はけっこう言葉が少ない動画メディアですけれども、グローバル対応はどうするんですか?

堀江:もともとそこは考えていました。テキストと画像の弱みというのが1個あります。それはなにかというと、グローバル対応しづらいということです。既存のレシピサービスがやっていたCGMモデルでは、ユーザーが自由記述で書いてるテキストがコンテンツなんですね。そうなると、翻訳の難易度が一気に上がる。

ただし、僕らはオリジナルコンテンツで、全部フォーマットに沿った文章の書き方をします。食材の部分はちゃんとデータベースになってるんです。なんでそれをやっているかというと、いずれほかの国に行こうを思ったときに、一気にそのデータベースを書き換えるだけで、全部翻訳できるからです。

だから、僕らは今は国内でやっているフェーズですけど、グローバル対応しやすいのは明らかに動画なので、最初からグローバルに行くために動画をやってるというのもあります。

渋谷:おもしろい。

堀江:僕らはある意味で、Netflixのモデルを参考にしています。コンテンツメーカーで、かつ、そこにメディアがくっついているという感じなので、グローバル展開のスピードが速い。例えば、2ちゃんを翻訳するのはむずかしいけど、自分たちが作ったコンテンツを翻訳するのはスピードが速い。そういった違いを意識しています。