孫正義氏が自ら解説する「孫の二乗の兵法」

孫正義氏(以下、孫):じゃあこの戦いのための戦略編、

:戦略編が、三行目指す最初の一文字「一」という字。

:はい、これについて。

参加者:はい、○○です。昨日ホークスが首位になったように、一番にこだわること。

:一番にこだわる。はい次君。

参加者:一つの得意分野に絞って仕事をする。

:一つの得意分野に絞って仕事する。はい。

参加者:○○と言います。中途半端が一番ではなくて圧倒的なナンバーワンになる。

:圧倒的なナンバーワンになる。はいその隣。

参加者:圧倒的なナンバーワンでシェア一番になる。

:シェア一番圧倒的ナンバーワン。はいじゃあ、その女性の。

参加者:一番最初に現場に行くこと。

:一番最初に現場に行くこと。はい。

参加者:唯一無二の存在であることだと思います。

:唯一無二オンリーワン

参加者:一つのことを突き詰めて一途に頑張る。

:一つのことを突き詰めて一途に。はい。

参加者:どの分野で一番なるかっていうことを見定める。

:どの分野で一番か。はい。

参加者:○○と申します。一つになること。

負け癖がついていたボーダフォンに植えつけた、勝者のマインド

:一つになること。みんな素晴らしい答えだけど、僕がここで言っているのは「ナンバーワン戦略」。圧倒的ナンバーワンになること。圧倒的ナンバーワンでないと、そのビジネスモデルっていうのは大抵時間の問題でもう利益が出なくなります。大した利益が出なくなります。

プラットフォームを作るというのは、圧倒的ナンバーワンになって初めてプラットホームを作れる。業界標準を作るデファクトスタンダードを作る。圧倒的ナンバーワンになって初めて意味をなす。

マイクロソフトのWindowsだ、インテルのCPUだ、Googleだ、アマゾンだ、Yahoo! だ。それぞれ圧倒的ナンバーワンになって初めて、その本質的な存在意義を長く享受できるということです。

このナンバーワン戦略というのは、孫子の兵法の中にもランチェスターの中にも共通して出てくる「勝てる戦いしかしない」。「戦ったら絶対に勝つ」。勝てる戦いしかしない、しかもやったらその分野で圧倒的ナンバーワンになれる、という自信のある分野しか、そもそも手をつけない。

手をつけたら、時間の早いか遅いがあるとしても、圧倒的ナンバーワンになるという戦略が見えた、その分野だけ手をつけると。圧倒的ナンバーワンになれる道筋が見えて初めて、そこに手をつける。やる以上は圧倒的ナンバーワンになる、そしてプラットホームをとる。デファクトスタンダードを作る。

特に情報産業においては、圧倒的ナンバーワンじゃないとそのポジションが非常に危うい、ということであります。ナンバーワンにこだわるという強いこだわり。

ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収しましたね。ボーダフォンジャパンは一番を経験してない。ずっとドンベ。負け癖がついてる。

買収して乗り込んでいって、僕が話をして、その当時のボーダフォンジャパンの幹部の連中と話をして、こらあかんと。自信を持っていない、負け癖がついとる、目が死んどるわいと。もうざっくばらんに、お前負け癖がついてるんじゃないか、どうやれば勝てるか何をすればいいか、話を聞いても、今日はバンバン手が上がってるけど、ほとんど自分から意見を言わない。

負け癖がついて、どうせダメだった、諦める、と。だけど僕は彼らに言いました。見とれよと、1回は必ず純増ナンバーワンをとるぞと1ヶ月でもいいから。累積ナンバーワン取るのは時間かかる。1ヶ月勝負で1ヶ月で良いから純増ナンバーを取ると「なんだ一番なれるじゃないか」と。一番になれるということを体験したら勝ち癖がつくんですね。

この一番にこだわると、1回我々が純増ナンバーワンを取った。ほとんど毎月それからは純増ナンバーワン続けてるでしょ。ほんの何ヶ月か例外があったけど、それ以外は一番取っている。そのポジションがホームポジションになると、一番でないと気がすまない、気持ちが悪い。そういうふうになってくる。

自分が決めた分野では圧倒的ナンバーワンになれ

:僕は言っちゃ悪いけど、小学校1年ぐらいの時からほとんど一番しか経験していない。大抵何やっても一番しか経験していない。一番でないと気持ちが悪い。一番になれるように頑張る自分を追い込む。腹をくくる、へこたれない、ということですね。やると決めたら、その分野でナンバーワンになる。

何でもかんでもやると腹に決めたわけじゃないよ。音楽でナンバーワンになる、なんて俺は決めたこと一度もない。ちょっと音痴だからね。バレーボールでナンバーワンになるとか思った事ないよ。背が低いし。

でも、自分がやれると、やれるはずだと思える分野では絶対一番になると決めて、決めたらとことんやり抜く。勝ち癖を付ける。勝ちにこだわる。一番にこだわる。圧倒的ナンバーワンにこだわる。これは社風として大切です。

先程「戦う」という一文字があったね。事を成すというのに、2番3番でうろちょろしていて、ましてや4番5番をうろちょろしていて事をなせる、なんて世の中はそんなに甘くはない。大きな事を成す、志を高く持って、高く保ってやり遂げていくと、そういう気概が起きなくなる。負け癖がついていると。

どうせナンバーツーだし、いつもどうせナンバースリーだし。そういう奴ほど事を成せない、高い志を持てない。ただついていくということです。

間違っても皆さんがリーダーになった時には2番に甘んじる2番でよしとする。よく頑張ったと2番になったと絶対に口にしてはいけない。2番は敗北だと思え。5位から2位なってちょっと自分の頭を撫でる。馬鹿を言えと。もうその時点で失格。

5番から2番になったら「もうちょっとだ、行くぞ、絶対一番になってやる」、そういう腹を据えて根性持って、まだ終わってない、途中だ、ということでやり抜くと。そういう社風を作らないと事はなせない。300年生き残れないということですね。

皆さんの部下に対して深い愛情があるなら、我々のお客さんに対して強い責任感があるならば、一番にならなきゃいけないと。一番になればそこからゆとりが生まれて、お客さんに対してより優しくなれる。新しい技術開発によりチャレンジできる。より責任を持った事業をできる。

本当の責任を持ちたいと、高い志を持ちたいと言うならば、2番に甘んじていけない。それはもうただ焦ってるだけという、しょぼい存在だということであります。

時代の流れに逆らう人は事業者失格

:次。

参加者:○○です。時代の流れを得るのではなくて作る、ということだと思います。

:時代の流れを作る。

参加者:○○です。常に流れを読む。

:常に流れを読む。

参加者:川の流れのように淀まず流れ続ける。

:淀まず流れ続ける。

参加者:流れを乗るためにしっかりと基盤を作る。

:流れを乗るため基盤を作る。

参加者:一流と組む。

:一流と組む。

参加者:流れを大切にする。

:流れを大切にする。皆さん言っていることほとんど大体合ってます。「時代の流れ」、流れに逆らっちゃいけない。

僕はまだ子供のとき、うちの親父が、造船業の再建王の来島ドックの坪内さんということ大変尊敬している、いろんな雑誌とか新聞とか再建王と言われ、道後温泉やいろんな観光施設とか作ったし。いろんな雑誌とかドラマとか、いろんなになった人です。大変尊敬していました。

「すごい」と。あの難しい造船の業界で再建したと、コストダウンしていろいろな工夫をして再建して立派だと、盛んに褒めておりました。

当時、僕はまだ中学生ぐらいだったと思うんだけど、親父に言いました。「お父さんを尊敬してるけど、親父が尊敬してるそのおじさんは、俺は尊敬できない。馬鹿だと思う」と、はっきり親父に言いました。「経営者として失格だと思う」という風に言いました。その考えは今も変わってません。

何故か。私が親父に言ったのは「何で沈みゆく産業に自分の人生を掛けるんだ」と、もうその時点で経営者として事業家として失格だと。流れに逆流する、逆らうと。

仕方なくやらなきゃいけないないなら、しょうがないよ。もし僕がその立場にいたら、造船業務で培った製造するという力、マネージするという力、営業力、そういう規則的力を使って、造船以外をやる。あるいは、日本で来島ドックなんてやらなくて、中国でそのノウハウを持って中国の賃金でやるとか、ロシアでやるとかインドでやるとか、それならまだ話は分かる。

時代の流れに逆らう、退却戦に失敗した武田勝頼と一緒ですよ。いち早く方向性を読んで、流れを読んで。流れに逆流する、それはもう事業家として経営者としてそもそも失格。再建? ちゃんちゃらおかしい。無駄な努力だ。仕方ないからやるのはしょうがない。でもかわいそう、悪いけど。我々グループは間違っても、そういう斜陽産業に自ら飛び込むということを選んではいけない。

親を受け継いで仕方なしにやる。それは同情する。同情するけど、僕はそこで受け継いだらいち早く変える、業態転換すると。先祖代々、意地でも守って絶対しない。もうそれは少なくとも、僕の後継者になるのなら失格。流れに絶対に逆らってはいけない。

ニッチを狙え、というコンサルタントは馬鹿

:農耕社会に戻りましょう。ありえない。組み立て産業に戻りましょう。ありえない。時代の流れの先を読んで半歩先、一歩先、三歩先流れの先を読んで仕掛けて待つ。これならいいということですね。

水泳、皆さんやった事あるね。この中で、川で泳いだことある人手を上げて……大半あるね。川で自分が泳ぐ速度、泳ぐ能力、川に逆流して泳いだ時にどのくらいの速度で進むか、流れに沿って泳いだ時にどのぐらい楽チンで素早く泳げるか。それだけで答えはシンプルだろう。物事難しく考えてはいけない、ということですね。

だから我々は流れとして、例えばデジタル情報産業。この情報産業の中でどのOSを選ぶか、ものすごく重要なんです。ただ情報産業を選んだから流れに正しい、っていうだけじゃダメなんです。富士通がCPMを選んだ。その時点で僕はもう、当時の富士通のパソコン担当役員に「馬鹿じゃないか」とはっきり言ったんです。

なんでCPM選ぶの、なんでデジタルリサーチ選ぶの、どうしてMS-DOS選ばないの。馬鹿だとはっきり言った。

食ってかかって僕に文句を言ってくる「孫さんあんた技術詳しいこと知らないだろ」って、技術部長は技術的な内容を一生懸命、一生懸命言っている。僕は、あんたも馬鹿だと。そういうのはもう技術馬鹿だっていうんだ。

一時的にその部分が半年ぐらい優れているとか、そんな隅っこの話を言ったって全く意味がないだろうと。一時的に枝葉で優れてるところを挙げて、他の大きな流れのところの弱点を、重箱の隅っこをあげつらって、だからあっちよりこっちの方がそういう点で優れてるんだ、そう言いたがるへそ曲がりな人がいる。へそ曲がりは事業家に大体向いていない。

王道というのは、オーソドックスに一番大きな流れのところでチャンピオンになる。ニッチの枝葉で成功するというのは事業家として失格。

「ニッチ戦略を取れ」よくコンサルタントの人たちが言いますね。「ベンチャーの会社が成功するためにはニッチを選べ」「孫さんはソフトバンクの当時、ニッチの産業選んだからうまくいってラッキーだったね」、そうやって言う人が時々いました。最近でもそういう人いるけど、馬鹿だと。

俺はニッチの産業を選んだことは一度もない。そんなつもりで、ニッチの隙間だからチャンスありなんて、思った事は一瞬すらない。

そうではなくて今、その産業、そのセグメントが小さくても、隙間のような小さなセグメントでも5年10年後30年後にそこがメインになる。それを常に選んできた。その隙間が後々一番大きな流れになって、一番大きな幹になって、本流になると、一番大きなマスマーケットになっていくと。

そこを早い段階、ちっちゃい段階で選んだというのが、いつもそうですよと、大体。だけど、10年経っても隙間って、30年経ったら隙間がそもそもなくなると。それを馬鹿が選ぶ。

一時的に隙間で成功しても、一時的な成功でしかない。そういう浮き草を追うようなそれは、事業家と言わない。単なるはやりの追っかけやさん。早とちり、そういうことですね。あるいはメインのところで、将来メインになるところで戦うのが怖くて、勝てる自信がなくて、隙間を隙間を選んだと。それではしょせん負け犬、子犬。大きな将来の成功は望めない、ということですね。

ですからOSを選ぶときも、それから例えば通信で言えば、どの通信方式を選ぶか。CDMA2000 1X、WINとか選んだ人がいるように、悲しいばかりの失敗だ。ニッチなんですよ。最後までメインのストリームになれないところを選んじゃった。そりゃ戦略の失敗。

一時的にそのマーケットが開けた、一時的に有利だった。一時的にマーケットシェアとった、一時的にブランドイメージも上がった。そういう失敗をしてはいかん。

これ、ustream流れてない時がよかった(笑)。もう言っちゃったよ。しゃあないね、本音やからね。ということでそれは、彼らもまた手ごわいですから、何回でも別の角度でよみがえるとということがあるかもしれない。フォローしとこう……フォローになってないね。

ということで、間違ってもOSだ、通信方式だ、その産業だ、沈みゆくもの、枝葉になってしまうものは、選んじゃいけない。後々メインストリームになる、というものを選ばなければいけない、ということですね。安く買える、組みやすいからその相手と組みました、安く買えるからその相手を買いました。それは、ニッチの枝葉に自らがグループを追いやる危険性がある。

たまたま一時期にそこが小っちゃくても、後々にメインになる。後々にそれを追い払って剥ぎ取って自分がひっくり返して、ダントツのメインストリームでやれるという自信があるときはいいよ。

我々が買取したボーダフォンジャパン、負け犬で沈みゆくという状況でも、ひっくり返してナンバーワンになる、最後は一番になると自信があって、その腹をくくってというなら、それは一時的な枝葉。一時的などん尻ならば、それはまだ許せると。でも、安いから買う組みやすいから組む、これではいかんということであります。

制作協力:VoXT