唾液に含まれる「オピオルフィン」

ハンク・グリーン氏:人体の痛みにはいろいろなパターンがあります。研究者たちは、大きなケガや慢性的な痛みに対して、中毒性のない治療法を考えてきました。

2006年、研究者たちは、モルヒネ以上の効果が期待できる「オピオルフィン」という化合物を発見しました。この化合物は私たちの鼻の下に潜んでいました。それは人間の唾液です。

2003年、科学者たちがネズミの唾液から痛みなどのストレスに反応する化合物を発見しました。そこで科学チームが同様に人間の唾液も調査し、オピオルフィンを発見したのでした。

オピオルフィンは、絶えず人間の口や体を無感覚にしてしまうわけではありません。オピオルフィンは我々の消化器内で分解されてしまうので、鎮痛効果は延々とは続かないのです。

それにあなたが指を切ってしまい、負傷箇所を舐めたとしても、唾による効果が期待できるか、またはそれが効果を発揮する十分な量なのかわかっていません。

研究者たちは、実験を行って、オピオルフィンの働き方を解明しました。その鎮痛効果は、さまざまな組み合わせで生じるようです。具体的にいうと、まずオピオルフィンは、「エンケファリン」という別種の鎮痛性化合物と結びつきます。

エンドルフィンのように、オピオルフィンとエンケファリンは、中枢神経系のオピオイド受容体と結びついて、脳への信号を抑制します。これによって人は、痛みを知覚できなくなります。

こうして痛みから逃れられますが、エンケファリンはずっと作用するわけではありません。私たちの体にはプロテアーゼという酵素があって、これがタンパク質とペプチドを分解し、神経の信号を正しく送受信する働きをするからです。

これに対して、オピオルフィンは、エンケファリンを分解するペプチドをブロックすることで、鎮痛効果を長続きさせられるというわけです。研究たちは、オピオルフィンのような化合物は、人間が危機に陥ったときのために存在すると考えています。痛みの感覚をブロックし、危険な状況から逃げる助けをするというわけです。

オピオルフィンの働きについてさらに調べるため、科学者たちはいくつかの実験を行いました。一つは、ネズミの足にホルマリンという刺激剤を注射するものです。すると、オピオルフィンはモルヒネ以上の効果を発揮しました。

もう一つは、針の痛みを使った実験です。ネズミに針の山の上を歩かせるもので、人間でいえば釘の刺さったベッドで寝るような実験です。針はびっしりと並んでいるので、ネズミに刺さることはありませんが、それでも多少の痛みはあるでしょう。ここでもオピオルフィンは、モルヒネと同等に痛みを和らげる効果を発揮したのです。

ネズミの実験からわかったのは、オピオルフィンが、モルヒネのような麻薬様物質よりも中毒性が少ないことです。忍耐強くならなくても、あるいは常時ドラッグを使用せずとも、オピオルフィンが痛みを和らげてくれるのです。

残念ながら、オピオルフィンがブロックするのは、エンケファリンを分解するプロテアーゼのみではないようです。このため、望まざる副作用が存在するかもしれません。この鎮痛物質が唾の中でどんな働きをしているのか、また、どのように医薬品に転用できるかをさらに詳しく調査する必要があります。

いずれにしても、これは素晴らしい発見ですし、将来的には実用化が期待できるかもしれないのです。ただ、今はまだカミソリ負けの痛みを和らげようと、顔を舐めたりはしないでくださいね。

舌が短いからと、友達に顔を舐めてもらうわけにはいきませんし、ワキを剃った後に自分の舌で舐めるなんてしたくないですよね(笑)。