「まずは馬鹿になれ」 歌舞伎に学ぶ、イノベーション人材の育て方

Learn, detach, transcend #1/1

変化が激しく未来が読みづらい現代社会では、先々の未来を自ら切り開いていく力が必要です。そんななか北海道大学教授・山本強氏が、ひとつの分野を本当に極めると見えてくる「可能性」について語りました。(TEDxSapporo 2013より)

可能性を見つけ出せれば、未来は明るい

山本強氏:こんにちは。今日はTEDというイベントで、私はいつもいろんな講演とかやるんだけども、それと全く違うシチュエーションなの。これ自身が私のひとつのチャレンジなんですね。今日はテーマがある。今日、皆さんが集まったのはひとりひとりの人を見たいからじゃなくて、テーマでしょう。今日のテーマはこれなんですね。

「Creating possibility」

こういうテーマで話をしてくれと言われました。技術の話をするのはわりと楽なんだけれども、こういう話をするっていうのは、実はあまりないんですよ。で、私も真剣に考えた。私はクリエイティブなことをしてきたのだろうか。

あんまり僕はね、クリエイティブだったっていう気持ちはないんですよ。ひたすら好きな事、あるいは面白いと思っていることを、ずっとやってきた。ただ、可能性は何度か見たし、実際にトライもした。で、可能性ってのは、本当に作るものなのかなって思ったことがあるんですよね。

私は今年還暦で60なんだけども、今までをずーっと見たときにですね、可能性ってある日突然見えてくるんです、フッとね。あるんだなーとは思うんですよね。

「よくこんな面白い事やりますね」とか、あるいは「どうしてそんな面白い事が思いつくんですか」ってよく言われることもあるんだけども、大抵は僕が思いついたというよりはですね、何か「見えて」くる。可能性ってのは、どこでもあるんだ。

ただ、それがよく見える人と見えない人がいるんだろう、ということを最近考えてる。皆が可能性が見えるようになれば、おそらく、未来は明るいんですよ。何となく今、閉塞感あるじゃないですか。何か暗いですよね。少子高齢化で俺の年金どうなるの、って。皆さん払うんですよ、僕の年金をね(笑)。私もうそろそろ年金なんでね。皆さんに頑張ってもらわないと、私の人生明るくならない。

なんとかして、明るい未来っていうかな、そういうものを作っていきたい。私が若かったとき、10代、20代かな。その頃どういうことを考えていたのか。その辺から話をしようと思うんですね。

「最先端」を追うだけでいいの?

今日はあんまりスライドを使わないようにって話があったんで、あまり用意をして来なかったんだけれども、じゃ、私が学生だった時に、どんな可能性があったのかな、それをちょっと話をしたい。

その前にね、最初、タイトルちょっと変だったと思いませんか? この「守・破・離」っていう。

私が10年くらい前からかな、学生に、研究室にいた時に必ず言うんです。学生さんってね、やっぱり、今話題の事をやりたいんですよ。例えば今だったら何かな。もう、今携帯電話とか古いんですよね。その辺はもう学生さんには興味無い。今だったら何なんだろう。ゲームでもないし。本音で言うと、おまえら一体何に興味があるの? ってのが私の最大の疑問なんですよね。

新しい事をやりたいって、みんな言うんですよ。だから学生の学部人気は時代とともに変わります。今だったら、獣医だとかそっちが人気なんですね。

一昔前、私が学生だった時に、電子工学科がすごい人気だったんですよ。さっき話をしていた石井(裕)先生は、同じ大学の電子工学科で、私が彼の2年くらい先輩だと思う。彼が僕の2年後輩くらいで。その時の電子工学科の学生はみんな優秀だった。過去形ですね(笑)。過去形なんだ、これが。今は、残念じゃないんだけれども、皆さんの興味が変わっていったんですね。

そういった、皆がやりたいことをやるというのは、気持ちはわかるよね。だってすぐにでも、皆さんだってクリエーター系の方多いし、あるいは新しいものを考えてる人が多いけども、そんな細かなことを言わないで、一刻も早く役に立つ事、あるいは今の最先端をやりたいと思うじゃないですか。だけども、それじゃダメなんじゃないかって話を今日はしたい。

セミナーに行くだけではわからないこと

これは私が学生だったころの話なんですが、そこに小さなICがありますね。あのIC、Z80っていうICで、私はこれにハマってた。学生のころ、うちの研究室の大先生がいて、「山本君、このICで何かできないかい?」って、聞いてくるんですね。

生意気な学生だった私は、そのとき何て言ったか今でも覚えているんですが、「そんなICを使うんだったら、私がそれを作ったほうが早い」って言ったんですよ。この辺がだいたい飛んでますよね。そのくらい自信はありました。

ただ、その時に時代を変えるテクノロジーとしてマイクロプロセッサーが出てきて、そこのあるようなのをシコシコ作ってて、その時の人たちが今、札幌のITベンチャー、ベンチャーじゃないですね。もう30数年前ですから、老舗ですよね。そうなってる。

その時にふと思ったんだけれども、コンピューターを作るというのは、まあ、いい話だろうと。研究ではないけども、道具としては面白い。それを使って何をしようと考えた時に、当時、これは大学を一回出た後の、私は出戻りですから、一回会社に行って、戻って、博士課程に入った時に、ディズニーが『トロン』というコンピュータグラフィックスの映画を作った。

これのインパクトが僕にはすごく大きかったんですね。そこでは映像として仮想空間が作られて、しかもそれが映画になってる。見る物が全て新鮮で、映画のストーリーじゃなくて、画像を見てたんですよね。すごいですよね。今大変ですよ、CG業界。どんだけすごい絵を作っても感動してくれないんです(笑)。こりゃ大変ですよね。

あの頃はすごかったです。これ(画像右)、私が初めてCGの画像を作ったときに、これは簡単だろうと思ってプログラムして作った絵なんだけれども、これを見て「すごい」と言ってくれたんですよ。いい時代です。

(会場笑)

今、皆さんは、クリエイティブポシビリティってことで、何を期待されるかっていうとね、だいたいこんな感じですよね。

なんちゃらセミナーに行くと、世界を変える研究をしなきゃいけないとか、世界を変えるビジネスを創ろう、世界で一番になろうとか。最近流行はイノベーションですよね。何かみんな、イノベーションを起こせって言うんですけど、誰も「起こし方」を教えてくれないんですよね。

ビジョンの話もそうなのね。ビジョン、それを教えてくれないんですよ。ビジョンを持て。ね、大きな話をしろ。でも、それで何か出てくるのかなって。無い所からは何も出てこない。誰でもいいから、そのイノベーションの起こし方、すごいビジョンの持ち方、あるいはとりあえず何をするか、これを教えてくれって言いたくなりません?

多分ね、今日のトピックスで私が言いたいこと。あなた方は若そうだね。この(会場の)中で、僕が一番年上かもしれない。還暦ってのは俺くらいだと思うんだけど。ともかく、可能性がある、あるいは、これが将来のビジョンだ、ってのが見えるような人になりたくありません? なりたいでしょ? そうならないとダメなんですよ。「だから何からやればいいのさ」って話なんですよね。

専門しか語れない専門家はニセモノだ

私がこんな話をするなんて、やっぱり年を取ったせいだと思いますけど、そういうことを考えるようになったっていうのは、若い人たちと話をしていてね、わかります。迷ってることがね。何か知らないけど、何やってもうまくいかないし、まあ本当は「努力が足りない」って一言で言いたいんだけれども、それを言ったら元も子もないんで、大変だなとは言うんですけどね(笑)。

ある時にちょっと本を読んでて、こういう話を聞きつけたんですよ。

これ、歌舞伎だとか、あるいは伝統芸能の世界で、この「守・破・離」という言い方があると。この「守・破・離」って何かというと、そういった日本古来の伝統芸能の修行のかたち、あるいは教育のかたちなんですね。

これを私、一生懸命がんばって英語に訳した。訳したというよりは、Googleで検索したんですけども(笑)。これ大事なの。私が考えたってね、英語は出来ないんですよ。それは英語の人に聞くしかない(笑)。で、これが正しいんだろうというやつですね。

まず、「守」というのは"学ぶ"だからlearnですよね。「破」というのは、breakthroughで、"タッチがいいね"と、次の「離」ってのが好きなんだけれど、transcendってのは、"超越"ですね。こういうことをやるらしい。

そしてまず、3段階で行きましょう。僕はここがすごくインパクトがあって、「守」というのは、馬鹿になれと言っているんですよ。馬鹿になって、師匠がやったことを全部フォローしなさいと。真似でいい、考えなくていいって言ってるんですよ。へえ、そんなんでいいのかねって思いますよね。

だけど僕はそこが大事だと思っているのは、その中で何がわかるかっていうと、その道、私だったら物理とか電気の世界なんだけれども、その道の思想とか、基本原理がわかるようになる。ここ、大事なんです。

それが出来ると何ができると思います? 自分の専門分野、自分の理解した分野のことで、他のことが語れるようになるんですよ。

ここ、僕はすごい面白いと思っていて、私も仕事柄いろんな人と会います。全く違う畑の人とも会うんだけども、結局ですね、全く知らない世界の人と会ったときにあなたはどんな話をしますか、なんですよ。

ここ、例えて言えばですね、よく専門家の方がいらっしゃる。私は何とかの専門ですって言って、専門だからそれ以外のことはわかりませんって方がいるんだけれども、その方はだいたい「ニセモノ」。本当にすごい人は、たぶん、例えば量子力学とかそういうものでも、高校生にも小学生にもわかるように伝えるんですよ。

アイデアが生まれた瞬間の快感

私がCGをやった時に今でも鮮明に覚えてるんだけど、こんなことがありました。昔こんなことをやろうと思った時に、どうやったら出来るかなって一生懸命考えたら、何とそれは高校の算数だけで全部終わったんです。

ちなみにあそこにある(画像の)絵は後で作り直したんだけれども、全部2次関数までの方程式で全部できちゃう。美しいと思いましたよね。この瞬間ですよ。

「Beautiful Moment of Understanding」

皆さん勉強していて、あるいは何か仕事をしていて、この瞬間を味わった事がありますか。「ああ、これだ」と。それがどれだけあなた方は経験しましたか。これからするかもしれない。その経験、その快感を忘れないで欲しい。これが快感だという。

その話で面白い話をしたいんだけれども、そのCGの話で、CGで表面の金属表面だとかね、透明だとか、やりたいと思ったんですよ。だけどわからないんですよね。本を見ると、あるいは論文見ると書いてある。数式が。

皆さん思いません? 大学の先生って数式をいじくって、美しい式が出来たって言って喜んでるって。あれは嘘ですからね。あれは逆なんですよ。

数式は言語なんで、数式というのは、最初自分がこうに違いないと思ったことを、説明する手段にすぎない。だから、数式をいくら変形していっても、たいてい何も起きない。必ず最初に、これとこれは等しい、あるいはこれはこうなるはずだっていう、直感があっての話なんですね。

これ、スライドを作るときにやったんだけれども、艶ってあるじゃないですか。左側ちゃんとピントが合ってる。そうすると艶が出てる、つやつやしてるね、色っぽいねと思うわけですよ。

私はこれが何かってことを、今だったら当たり前だろって言われるんですよ。だけども、当時30年くらい前ですか、わからなかったんですよ。その時に、ある時ボケッと電話を見てたの。黒電話ね。目の焦点がパッとズレたの。その時に一瞬閃いたんですね。あっと思ったのは、我々が艶だと思ってたのは、何てことはない、天井にあった蛍光灯だったんですよ。

これ、当たり前ですよね。ツヤツヤしているのは、表面が綺麗なんで、ある意味"鏡"なんですよね。それが映り込んで来て、光沢感になるんですよ。その時に私、ふと思った。

ここからが面白いんですね。そう思った瞬間にですね、少女マンガのキャラクターの目ってあるじゃないですか。昔、十字星キラリだったですよね。あれが四角になったの、知ってます? 最近四角とか多いんですよ。あれは私が思うに、蛍光灯化ですよ。

(会場笑)

つまり、あれはまさしく艶、光沢なんですよね。そういう風に来るわけですよ。理由がわかった瞬間に、漫画家の方っていうのは抽象化するんだけども、おそらくかなり見てらっしゃると思う。あれね、それだけで何か書けると思いますよ。少女マンガに出てくる十字星キラリがそのように変わっていったか。実はそれは、CGで光沢を計算するのと全く同じように、実は環境が変わっていったんですね。

きっと将来LEDになりますから、また何か変わったのが出てくるかもしれない。

ひとつのジャンルを極めたあとにすべきこと

こういうことですね。ちゃんとしっかり基礎がわかっていれば出来るんですよ。非常に簡単な話。こういったひとつの分野を極めると、次が待ってます。

私もいろんなことをやりました。CGを使って。面白いのは、CGを使って何かをやるってことなんだけれども、ただ単にCGをやってるわけじゃないんですよ。自分が持っているネイティブな言語、こういった言語を使って、無礼講をしてるんですよね。違う分野に持っていく。これを重ねることによって、新しい分野が出来てくるんです。それが多分ね、可能性を作るということだという。

さて、それだ。それからだ。ブレークスルーが終わった後。これからが大変ですよね。離ですよ。離ってのは、既にあるものから外れなきゃいけない。

離になると、これは師を超えるわけですから、学ぶ物はもうない。学ぶものは全部身に付けた。自分流も作った。それから次をやろうという話ですね。これはもう過去にとらわれちゃいけない、ひとりでやるにはビジョンが大きすぎることもある。やっぱり、同じような夢を見る人をたくさん作らなきゃいけない。

でも、全ては、始まりはここなんですよね。

学ぶところから始まる。可能性はどこにでもあるんですね。見えないだけなんですよ。ぜひ可能性が見える人になってください。

その為に何をしなくちゃいけないか。簡単ですね。どんな分野でもいいから、自分がそれで語れる、新しい未来を語れる、あるいは、人が言っていることを自分の言葉で理解して、共に新しいビジョンを作れる。そういうポテンシャルを持った人が出てくる。それがおそらく「Creating possibility」ということだと、私は思います。

今私も、次何をするかってことを考えていて。

さっきのこの写真はですね、空からうちのキャンパスを眺めているんだけれども、今、北海道を次の新しい情報ネットワークの拠点にするという、大きな野望をもって、何人かの仲間と動いてます。是非、そういった大きな夢を持ってですね、これからも頑張っていきたい。

ということで、クリエイティングポッシビリティ。守・破・離ですよ。まず、守です。いきなり離は行けません。まず守をやりましょう。がんばっていこうよ、ね。ということで、私の今日の話はこれでおしまい。や、どうもありがとう。

<続きは近日公開>

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