デザインの見立ては常に更新されている

柴田:ロングライフデザインに選ばれるものは古いんですが、その見立ては日々変わっていて、ここ数年はそういう「オロナミンCもロングデザインだよね」といった視点も増えてくるんですね。

さっき永井さんがおっしゃったホカロン、デザイン的には微妙な部分もあるんですけど。絨毯に乗ってる魔法使いが(笑)。

川口:後ほど私の一品で......(笑)。

柴田:(笑)。なんですけども、もしかすると5年前だとロングライフデザインには選ばれてなかったかもしれないんですね。私はこれがおもしろいなと思って。古いものなんだけれども、デザインの見立てというのは常に新しくなってる。この賞の難しくもありおもしろいところですね。

永井:でも、審査委員の中だとやっぱり柴田さんはプロダクトデザイナーだし。デザイン原理主義みたいなところがあってさ(笑)。

(会場笑)

僕たちは「いいと思うよ」って言ってるときに「いや、私それ許せない」みたいなときけっこうあったよね。

柴田:永井さんはすぐ私をね(笑)。そういう役目だったの。

永井:役目だね。でもそういうのはやっぱり大事なんだよね。

柴田:そうですね。でも、オロナミンCはいい例で。そういう意味では、あれをデザインで褒めるとしたらすごく強いんですよね。やっぱり強さっていうのは、美しさを凌駕することがあるので、それはデザイン原理主義に基づいてもロングライフデザインだったなと思ったりしますね。

永井:うん、うん。でもあのグッドデザイン賞も、ロングライフに先立つ背景とか、そこが生み出したもうちょっと広い領域で審査しようということが、やっぱりベースであって。

そういう意味だと、オロナミンCというのは、さっき文化だとか、がんばるみたいなこともあったし、もうあれ自体がかなり日常的な、キヨスクで売ってたり、昔だったら看板があったり。あれを起点に日常の風景が形作られた、その圧倒的なすごさっていうか。

そんな商品が世の中にたくさんあるかというと実はやっぱりなくて、そういうことを見つけられるのも、やっぱりロングライフ視点のおもしろさなのかなって気はするよね。

柴田:そうですね。

グッドの概念には強さも含まれる

齋藤:たぶんその瓶だけではなくて、広告。オロナミンCの広告ありますよね、あれもやっぱりかなりインパクトを与えてるんだと思うんですね。だから、ものの価値みたいなところでいくと、かたちだけではなくてそういうところまでどの程度含まれるのかなって。

頭の中で醸成されたイメージがあると、ものを見たときになんか懐かしいとか(笑)。ホカロンじゃないけど、温かさでいいものだって感じる。そんなところもあるんじゃないかなと思いますね。

福光:もうひとつ、あのオロナミンCがかつてどのような流通状況の中で戦ってきたか。昔の方がまだ楽だったと思うんです。強さもないと流通で続かなくなるという現象がありますよね。とくに食品とかお菓子はすごく短いサイクルで終えてますから。

だから、グッドデザインっていう感じと、その生き残る強さの話。本当に生活の場に持ち込んだ場合「ちょっとえげつないよね」っていうものもある。でも、その強さがないと販売の棚になくなるわけですから、生活に入らない。そのジレンマというのはずっとある。

流通はどんどん厳しくなっていってますから、デザインはグッドという概念の中に、強いというのも入っています。どのくらい入れるかっていうのはたびたび変わっていってるんだと思うんですよね。そこがすごくおもしろい。

ロングライフデザイン賞の特徴

川口:ありがとうございます。ロングライフデザイン賞の特徴的なところには、まずユーザーからの推薦から始まるというところがあります。

あとは、今お話しいただいたような文化的な背景や、みなさまの生活にどれぐらい密着しているか、その生活の中に溶け込んでいるものなのか。それから、流通もお話がありましたけども。

業界の方々がどれだけそのものに対して信頼を持ち、力を感じて日々お仕事されているかも含めて、推薦をいただいて審査をしていく、という流れになっています。

このかたちになったのも2008年以降に制度を変更してからなんですが、よりいっそうみなさまにお話しいただいたような傾向が強くなってきてるんじゃないかなと思います。

去年からは、二次審査前に一次選考を通過したものをノミネートデザイン展というかたちで一般公開をしています。

(こちらのスライドに)写真がございますけども、展示会形式でみなさま一般の方々にご来場いただいて、そこに対する推薦コメントや応援コメントみたいなものもいただいています。4,300を超える投票や応援コメントをいただきまして、ロングライフデザイン賞は本当にみなさんの生活とか暮らしにすごく密着しているデザインなんだなというのを主催者としても感じております。

ということで、こういう審査を経て、今日は展示もさせていただいてます。

2017年度のロングライフデザイン賞の審査結果、このようになりました。みなさまから推薦いただいた総数は256件です。その中から、一次選考を4名の審査委員の方々にしていただき、36件が選ばれました。二次審査をいたしまして、最終的に25件がグッドデザイン賞・ロングライフデザイン賞を受賞したというかたちになっております。

今年の審査はいかがでしたか、というのはかなりお聞きしてしまったので、今年の受賞デザインの中で、審査委員のみなさまがとくに印象に残ったデザインをあらかじめおうかがいしていますので、そのデザインについてそれぞれお話をおうかがいできればと思います。

それでは柴田さん。お話ありましたけど(笑)。

「ホカロン」もロングライフデザイン

柴田:(笑)。先にしゃべられてしまったというのは、みなさんにとって印象的だったからだと思うんですね。

私は、もちろんこのホカロンを本当に愛用しているし、海外に行くと「やっぱりこういうものがあるって素晴らしい国だな」と思ったりするんですけれども。

それよりなによりこれをデザインということで評価する、この年はおもしろいなって思ったので、このホカロンを選びました。まあちょっと、ホカロンについては話し過ぎちゃったんで(笑)。

川口:はい(笑)。じゃあ次もありますので。

柴田:これは言い方は変ですけれども、比較的新しいロングライフデザイン。時計も昔からあるなかで、掛け時計って、けっこう選ぶとなるとスタンダードなものがないと思っていたんです。これは2007年からのもので、ギリギリ、ロングライフデザインに選ばれるものなんです。

さっき永井さんもおっしゃっていただいたんですが、私も自分がデザインをする立場なので、こういう新しいものでこれから20年、30年とずっと売り続けてあり続けてほしいなというものも、ロングライフで可能性を感じられたらなと思っていたので、これが取ったのはちょっとうれしいと思いました。新しいほうのロングライフデザインですね。

川口:そうですね。ちょっとご説明しますと、こちらセイコーウオッチ、セイコーエプソン、セイコークロックのインハウスデザイナーが2002年にスタートしたワークショップ形式のプロジェクトの2006年のテーマが「スタンダード」ということで、そこで発表されたものを2007年に製品化したというものです。デザイン監修はプロダクトデザイナーの深澤直人さんがやっていらっしゃいます。

柴田:私、人生で5個くらい買ってますよ(笑)。

川口:事務所にも(笑)。

柴田:事務所にも。カプセルホテル(註:柴田さんがクリエイティブディレクションされている「9h」)もこれ(笑)。

ハードだけでなく、ソフトにもロングライフデザイン賞を

川口:(笑)。ありがとうございます。それでは永井さんの今年の一品ということで。

永井:はい。そうですね。ディスカッションした記憶も含めてとくに印象度強かったですね。今まで基本的にはハードというか。製品だけしかなかったので。今まで受賞、何年間やってたんでしたっけ。ロングライフって。

川口:えっと、1980……。

永井:あっ、ずっと昔から。

川口:ずっと昔から、1980年代くらいから(笑)。

(会場笑)

永井:まあそれくらい前からやってるんだと思うんですけども、たぶん初めての受賞なんですね。実は受賞するまでには、「本当にこういうソフトみたいなことにあげていいのか」っていう話もあったんです。

先ほどのオロナミンCの話と近いんですが、やっぱり「銀座イコール歩行者天国」、しかも週末にそうやって楽しくみんなで散策するという文化が完全に定着してるという、その成果はものすごく大きいんじゃないかってことで、初めてこういうソフトもロングライフに選定しようということになりました。

少し加えて言うと、もちろんこの仕組み自体は、たぶん銀座通連合会の方とか警察署の方々とか多くの方の協力、実はそういう支えがものすごくあるなって。ふだんあんまり僕たちはそういうことを気にしないんですけども。

歩行者天国に垣間見える日本人の国民性

永井:審査のときにすごく印象的だったのが、齋藤さんが言われたんだと思うんですけど「海外の方々がお客さんで来られたときに、ちょうど歩行者天国が終わって一般的な通常の道路に切り替わるときを見せるんだ」ってお話をされてて、そのときにものすごいスムーズにオンの状態からオフの状態に切り替わって、それがやっぱり......あっどうぞ。

齋藤:手品みたいでしょ。人が歩いてるところ、人で溢れているのが一瞬にしてどんでん返しみたいになって(笑)。ふっとこう目を逸らして、こうやって見たらもう車がいっぱいだっていう(笑)。それがすごいなって思う。

永井:みなさんの支えがありつつも、やっぱりこう習慣やメンタリティとかそういうところにもあるんですかね。一致協力するじゃないですけど。

齋藤:そう思いますね。去年、改めて歩行者天国が始まる時間に行ったんですよね。そしたら、車はどんどんどんどん通ってるじゃないですか。あと15分くらいだからそろそろ準備を始めるのかな、なんて見ていたら、なんにも起こらないんですよ。本当に2〜3分前に突然車がパッといなくなって、お客さんたちも別に普通にワッとこう、ね。できすぎてるなっていうくらい(笑)。

上手にできちゃってるのがすごいなって。日本人の国民性だなって。景色がまったく変わってしまうっていうのに、日常の中に非日常性があるのが、とくに銀座みたいなすごいところなのに。見ると感激しますよね。

永井:うん。

川口:福光さんは始まったときのご記憶があるというお話をされてらっしゃいましたが...…。

「人間らしくしようぜ」という時代へ

福光:1970年は(私は)大学生でしたね。とにかく東京に出てきてまだ1年のときですから。銀座大通りの車道を歩くというのはまあ誇らしくて(笑)。今では伝播して、地方の大通りも夏休みのころに歩行者天国になる所も多いですけど。

歩道というのは、車と人間の取り合いをもういい加減にしようという方向であって、実際、今では地域のまちづくりではなるべく歩道を大きくしようという方向へ行ってます。歩道がすごく広くて立派だというのが都市の格が高いと、とくに欧米からはそう見られるわけですから。こういう臨時の体験はそういうことを教えてくれる、いい基礎教育だったと思います。

永井:1970年はちょうど、モーレツからビューティフルじゃないですけど、戦後のすごい経済成長から少し価値観が変わって、もうちょっとゆっくり「人間らしくしようぜ」という時代ですよね。

その仕組みが、やっぱり今の感覚にすごい共通化している。やっと今、時代が追いついてきたっていうのもあるかもしれないんですけど。そういうことの、なんか象徴的なケースとしてもふさわしいロングライフデザインです。

齋藤:銀座から始まったのがすごいですね。一番難しいところからね(笑)。どこかもっと閑散としてるところから始まってるんじゃなく、銀座から始まったっていうのがすごい。