LNGトレーディングビジネス本格化に向けて

宮本常雄氏:今日お話しすることはLNGトレーディングが本格化する中でのオペレーションの最適化モデルの話です。これはあえて「日本ユーティリティ型」と言っています。というのは、欧州とは環境面での相違点もあるからです。

例えば、日本のガス事業は国境をまたいでパイプラインもつながっていませんし、インターコネクタもありませんので、そういった地理的な制約のなかで、「グローバル化するガストレーディングに対応した日本独自の最適化モデルとは何なのか?」というのが我々の議論の出発点になっています。

(スライドを指して)まずエネルギー構造です。これはよく見かけると思います。日本は縮小し、日本以外のアジアでは需要が増えています。再生可能エネルギーも増えています。

実際問題、日本のエネルギー電力需要がどうなるかは、正直なところ、EVのお話とか、それから世の中のこのイノベーションですね。さまざまなイノベーションのかたちがどうなるのかが正直見えていないなかで予測されていますので、なんとなくそう思うところもある一方で、落ち幅などはみなさんコメントがいろいろあるんじゃないのかなとは思います。

今まさに何が日本で起きているかは、これも釈迦に説法なので、さっとキーワードだけ拾いたいと思います。もともと長期的な計画に基づく計画遵守型のマーケット、それからコストアプローチなどから、大規模電源、電力やエネルギーの構造、市場経済。先ほど冒頭のプレゼンテーションでもありましたが、このあたりが一番キーワードなのかなと思います。

従来の日本ユーティリティ型のモデルはなんなのか。どうして必要なのか。みなさんがご存じのとおり、日本では安定供給、安全性などが非常に大きなキーワードだったように思います。これらは引き続き重要であり、大前提であるかと思うんですが、一方で、先ほどもあったとおりですが、各ファンクション、燃料や電力はガス会社においては、原料の調達からデリバリーまで、それぞれが経済性を追求するモデルに変わっていくと考えられます。

一方で、その手段として柔軟性・機動性の重要性が上がってくる。それを可能にするファンクションがトレーディングやオプティマイゼーションなどだと感じていますし、またこれらに付随するリスクをどう可視化し、マネージするかが、今後のキーワードになってくると思っています。

アンバンドルがキーポイント

このあたりから少し説明させていただきたいと思うのですが、電力のアンバンドリング(注:発電、送電、配電/小売りの垂直統合型オペレーションをそれぞれの機能で独立採算性とすること)と言っていますが、なにがアンバンドルされるのかが問題です。まさに所有、すなわち発電所やLNGターミナル、パイプライン、導管といったアセットの「所有」と、それをオペレートする、「運営」の分離。

みなさんにとって一番わかりやすい例は、2000年代の前半で日本の経済のバブル崩壊後に不動産業界で起きたアンバンドルですね。ここで「アセットマネジメント」「プロパティマネジメント」というような言葉が出てきました。まさに「所有」と「運営」が分離し、はじめてお互いが適正な利益を追求する体制になり、証券化が進みました。

投資されている方がいらっしゃるかもしれないですけど、「J-REIT」が現れ、新しい投資ビークルができ、結果として、アセットや不動産を運営する最適化ができるようになったことが実はあったと思うんです。

これと似た理論・発想で、このユーティリティの業界においても、アセットの所有者は、アセットへの投資を行い、一方でアセット全体を運営して、そこからのリターンを最大化、すなわちオプティマイズする。このアセットの中には、例えばLNGの長期契約などのソフトアセットも含まれます。

「運営」は、そこから実際に、例えば火力発電所をどう効率化して運営するかや、それからLNGターミナルも同様ですね。稼働率を上げ、利益を極大化する。そういった活動がこの運営の最適化につながっていきます。

「CAO」の重要性

こちらなのですが、それをもう少し噛み砕くと、オペレーションをする部署はこの「O(=Operator)」のところですね。

「所有者から委託された」というワーディングを使っていますが、すなわち、火力発電所やLNGターミナルの実際の安定供給・安全性を守りつつ、その利益は安定供給・安全性も引き続き最適化の目的の1つですので、こういったことに気を配りながら最大化していく。

一方で、これらの所有者は、当然その中には長期契約なども含まれますが、今度は例えば火力発電所の構成や、どういった長期契約の構成かを考えながら最適化していく。これがオーナーサイド、アセットサイドでの最適化になろうかと考えられます。

(スライドを指して)「CAO」とありますけど、「Commercial Asset Optimization」です。最適化を判断するところ、それからTradingで実際に、industrial salesですので、これは卸売という機能がここにあります。こういったかたちで所有と運営をアンバンドルし、各々が最適化を担っていく構造に日本のオペレーションも自ずと変化していくと考えています。

こういう状況は、欧州が先行していまして、皆さんも良くご存知だと理解しています。必ずしも欧州型は万国共通というわけではないと思いますし、実際、その市場環境や、パイプライン網やインフラの状況が異なりますので、それぞれがその中で最適化を追求していきます。

それを考えるときの構造、イメージ図として、上記2.3.を示します。外部環境としての社会インフラ。これは地上整備でありインフラ整備ですので、各々の企業レベルの話ではなく、国の制度や国家インフラ計画などの話になります。

内部環境としてはプラットフォームがあります。例えばリスクマネジメントの仕組み・構造、それからどういった組織を作り、どういった企業風土・企業文化を育成し、最終的には人事やITをどうするかという課題になります。

それからもう少し進むと、実際には、トレーディングをどうやっていくのか、それからリスクをどう見える化するのかといった、よりディテールの話になっていきます。しかしながら、企業としてもっとも重要なのはこのプラットフォームなんじゃないかと思います。

外部環境であるインフラ、内部環境であるプラットフォームとアプリケーションは相互に密接に結びついているものですから、この変革の時期には、一番舵取りが難しいのではないかと思いますが、現状の例えば火力発電所、LNGターミナルは引き続き安全性などを重視しなければならないなかで、どういうバランスを取っていくのかが一番難しい課題かと思います。

プラットフォームは分権型へ

プラットフォームを噛み砕いてみますと、例えば組織構造・権限ですね。今後はミドルに権限が寄っていきますので、例えば、今までだったら中央集権型で稟議を上げるタイプから分権型になるだろうと思いますし、企業風土も、計画を遵守する長期計画に基づくものではなくて、より市場経済に根付いた臨機応変な動き方をしなければいけなくなります。

ここは一番、企業風土や組織構造が色濃く出る部分で、これを変えるのは難しいですが、いずれにせよウォッチしなければならない市場の範囲が格段に広がります。極端に言えば、欧州の電力市場の動きにも目を向け、それによってLNG市場がグローバルでどう動くかを見ていなければならない。

同時に、そんなに難しいことではないと思うんですが、組織単位、すなわちファンクションごとでどういったリスクマネージをするのかをきちっと定義し、その上で自分たちの財務体力のなかでどういうマネージをしていくか、どういうリスクを許容できるのかを測っていく必要があります。

こういったことを追求していく際に、一定の規模感が必要になります。残念ながらシステム投資、さまざまな投資という点で、なんらかのアライアンスも含めて、クリティカルマスがある。

そのためには、規模が必要で、場合によっては、M&Aや大型のアライアンスなどが必要になっていくと我々なりに見ているところです。

企業文化を変えて一定の規模感をもってリスクリターンを追求することが求められます。さまざまな課題を考慮した上で自社独自のリスクリターンの配分を設計し、新しい組織を作っていかなければいけない。このように考えています。

欧州での事例

実際、欧州ではどんな状況だったのか?

例えばEDFさんですが、状況を見てみますと、売上、総資産、EBITDAなど、コモディティトレーディングの開始前後ですべてのデータが3倍になっています。いろいろ事情があったようには聞いていますが、いずれにしても買収などを通じて売上の規模を上げ、トレーティング機能を拡大していった歴史があります。

次にEngieを見てみましょう。Engieの場合はそのあと大きな買収を行っている関係もあって、非常に大きな伸びを示していますが、概ね売上その他すべて3倍になる規模の拡大を行いました。

E.ON、これも同様の動きを示しています。現在「Uniper」になって、彼らが火力に特化するような方向に振れていますので、若干比較が難しいんですが、このあたりの傾向値を見ていただくと、規模の拡大をし、そして合併・買収を続けてきた歴史があり、これが結局のところ競争力の源泉になっていると見受けられます。

最後にRWEも同様に、規模を拡大し、再編の中で国際競争力の拡大・増強に努めて、(売上が)2〜3倍です。

社会インフラに目を向けてみますと、小売の自由化が進みますと、当然、顧客網も拡大します。こういうなかで広域な顧客にどんな価値を提供しなければいけないのか。これも重要な点です。

当然、この顧客には、今後は海外も含まれるかもしれません。それには大きなインフラ投資も必要ですし、そのためには自分の手元資金だけではなかなかできませんから、資金供給をどう受けるかという仕組みづくり、これも重要だと感じています。

インフラ投資のスパンと、よく言われるんですけど、例えば25年、30年、こういったスパンだと思うんですね。年金などの資金は当然25年、30年という長いスパンでのお金です。足元のビジネスで、燃料市場で短期、すなわちスポットでものを考えている一方で、同時に長期アセットの最適化やポートフォリオも考えて、所有権に適切なリターンを提供しなければならない。

したがって、リスクを明確化して、所有する上でのリスクと、その運営のリスクはもちろん異なるわけですから、例えばそういった年金ファンド、年金の運用者にどうattractiveに映るのかという環境整備なども今後重要になってくるんじゃないかなと見ています。

「Mark to Market会計」が難しい

取引が増えてボリュームが出てくると、価格指標への信頼性は高まります。一方で、その価格指標は、当然ボリュームが出ないといけないわけですので、「鶏が先か・卵が先か」ということになります。

日本のユーティリティのみなさんにとって、一番難しいのがこの「Mark to Market会計」です。これはLNGがまだコモディティとして認められていないので、会計上の処理はあくまでも取得原価主義になっていると思いますが、時価主義会計に変えていかないといけない。

どういう意味かというと、昨日例えば1,000円だったガスがありますと。しかしながらこのガスはもともと1,500円で仕入れてました。そうすると1,000円で売ると500円損するわけなんですね。

しかしながら、「Mark to Market会計」を採用すれば、この1,000円をその次の瞬間から1,000円より高ければ売っていいんだという判断ができる。それぐらい大きな変化を今後しなければいけなくなると考えています。

これがまさに本格的なコモディティトレーディングです。これはもう金融の世界ではごくごく当たり前のことです。こういった組織・カルチャーの変化を伴って、今後こういった透明性のある価格指標がどんどん形成されていくと思っています。

スライド2.5.1はLNGのトレードフローです。2006年からの数年間だけを見ても、これだけトレードのフローが増えています。これはなにを意味するかというと、当然、市場はより複雑化していますということを示しています。

したがって、いろいろな検討をしなければいけない事項、それから複雑性が増している分、正しい判断をするのはよりいっそうの難しさが出てくると。

日本は今後なにをしなければいけないのか。欧州を参考にしてみますと、欧州、1995年の状況から見てもガスのパイプライン網の拡充がトレーディング環境の向上に寄与しています。これは送電網も同様です。

よく言われているのですが、日本は将来的に、ガスや電力の需要も含めて、減少・シュリンクすると言われています。「シュリンクするんだから、追加のインフラ投資は必要ないんじゃないのか?」というご意見を聞くことが時々あります。しかしながら、おそらく欧州も別に劇的にガスの需要が増加したことなどではないはずなんですが、こういったかたちで着々とパイプライン網を増やしています。

これはなにを意味しているかというと、インフラの拡充なくしてトレードのボリュームの上昇はありませんので、引き続き我々も声を大にしてインフラが重要だと申し上げていきたいなと思っています。

日本でも少しずつ増えていますので、これからのさらなるパイプライン網の増設に期待しています。かなり個人的な意見ですが、例えば日本海側とこういう太平洋側を分けて、パイプライン網がどんどんつながっていけばおもしろいと思っています。

価格指標の形成について

次に価格指標の形成なんですけど、スライド2.5.2は欧州の電力市場なんですが、だんだんとアンバンドルされ、所有権が完全に分離されたのが2009年。2009年に同時に先物市場も増設をされています。それと同時にスポット取引の比率がぐっと上がっています。

極めてわかりやすい例ですが、よく日本では国内電力市場は閉じている、インターコネクタのないマーケットなので、アンバンドルされてもそこまで変わらないんじゃないかとも言われています。

一方で、燃料市場、石炭はもうすでにグローバルになっていますし、LNGがこれからどんどんグローバルになれば、自ずと出口としての電力市場もなんらかのかたちでそういった市場経済の流れに身を任せざるをえなくなるんじゃないか。自ずと変革していくんじゃないかと見ています。

こういったレギュレーション、それから市場の整備が1つ大きなきっかけになることは、まさに日本市場の先行きを占う上で参考になるんじゃないかなと思います。

鉄鉱石の市場でも同様のことが起こりました。アナザーコモディという感じですが。実は2009年に鉄鉱石は、SGX、シンガポールでスワップ市場が上場しました。これをきっかけに一気に流れが変わって、こういった非常にボラティリティの高いマーケットに変わっていきました。

経済性の考え方がまったく変わった。要は「時々価格が動きます」というようなモデルから「もう日々刻々と動きがあります」という極めてわかりやすい、市場のダイナミックな動きを誘発するようになりました。

どうなるかというと、通常こういったスポットが拡大すると続いて起きることは、おそらくこれが価格指標として信頼性が増して、そうするとMark to Marketできるようになり、結果として金融プレイヤーも参入し、市場が拡大していく。

こういったところから、その一方でデメリットとしては価格のブレが大きくなることはあります。ここにいらっしゃるみなさまは鉄鉱石とはとくに関係のないビジネスをされているかとは思うのですが、市場変動を考える軸がこの2009年を境に変わったという極めてわかりやすい事例ですので、ここで採用させていただいています。

最適化で一番大事なのはリスクマネジメント

最後に、先ほどのモデルの中では一番上にあるアプリケーション。ときどき最適化のお話をすると、みなさん「トレーディングの話だよね?」と言われます。トレーディングは確かにその要素の1つで、ある意味このアプリケーションと我々が呼んでいる機能の一部になります。

すなわち、一定のプラットフォームに乗って、ユーティリティのみなさまがプレイヤーとしてプレイするわけなんですけど、その「プレイする内容が何か」がこの「アプリケーション」だと考えています。

一番大事なのは言うまでもなくリスクマネジメントです。これまではたぶん予算管理とか過去に基づくリスクヘッジだったと思うのですが、これが将来の予測を含むリスクマネジメントに変わっていくことが一番大きいと思います。

最後に、そのリスクマネジメントを反映したオペレーティングモデルが重要です。

オペレーションの現場現場での意思決定が、今後、ミドルマネジメント以下が自分に与えられた裁量の範囲内においてリスクを取っていくというアクティビティです。取っていく必要性がありますので、これはオペレーション自体をできるだけ標準化して、重要なリスク判断に関わるようにする必要があります。

これは再掲になるんですが、この仮説の中で我々勝手に色付けをして、「短期的にできること」「長期的に時間をかけてやるべきこと」を示しました。もちろん社会インフラの整備は1つの企業、民間企業ができる話だけではありませんので、当然なんですが、それ以外のこともこのようなかたちで整理してみました。

当然各社ごとに優先順位は異なると思います。優先順位が異なれば、短期・中期での取り組みの順番も変わってくると思います。

でも、今、世の中で起きようとしている事象のなかで、これこそが経営課題であり経営戦略として最大の取り組むべき事項だと考えています。恐縮ですが、我々のような外部の者もこういったことを日々考えていますので、ぜひ一緒に考える機会を頂戴できれば、少しでもみなさんのお力添えになるんじゃないかと勝手に思っています。

今日はあくまでも概論ですし、もう少し一つひとつ細かい論点というのはあるのだろうと思いますが、日本の企業が、日本のユーティリティが、海外にも出て国際的な競争力を維持し進めていくためには、こういった今日お話ししたようなことを、優先順位をきちっと各企業が作って取り組んでいく地道な取り組みが必要なんだろうと考えています。

もうすでに取り組まれていると理解していますが、ぜひみなさんと一緒に今後も考えていきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)