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著者と語る朝渋『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(全5記事)

デジタルを理解しない経営者をどう説得するか? オムニチャネル戦略を進める上での問題点

2018年3月14日、会員制朝活コミュニティの朝渋で、「著者と語る朝渋『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』」が行われました。今回は「世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略」を上梓したオイシックスドット大地COCO奥谷孝司氏と CMT西井敏恭氏がゲストとして登場。本パートでは、奥谷氏がオイシックスドット大地が展開していく、これからのチャネルシフト戦略について詳らかにしました。

チャネルシフトの必要性をどう広めるか

井手桂司氏(以下、井手):次のご質問が、社内でチャネルシフトの必要性を啓蒙していくのに苦戦されている方もいらっしゃるんじゃないかと思いまして、社内やとくに決裁者層の理解を得るために何かアドバイスや、いいアイディアとかがあったりしますかね。

西井さんの本に「上が理解できないんだったら、そんな会社辞めちゃえ」みたいなことが書いてありましたが(笑)。

西井敏恭氏(以下、西井):今日、ログミーさんとか入っているんですよね。下手なことをしゃべると編集できなくなるんですけど大丈夫ですか?(笑)。

デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

書籍に書いたことは、「経営者がデジタルを理解しない会社なんていても無駄だから辞めろ」と書いているんですけど、もう少し深掘りをして真面目な話をすると、1つは経営層が若返ってくる必要があると思っています。とくに大きな今の企業って、もう50代後半から60代にならないとなかなか経営層になれない。

でも、その人たちが理解できるわけがない。僕はオイシックスにすら危機感を持っているんですけど、僕らですら経営陣の年代がだいぶ高くなってきている。本当はもっと若い人たちをしっかり理解した人が進めるべきなのかなと思います。

ただ、例えば理解が低いということって、僕も奥谷さんもそうだって実は思っているんですけど、実は体験から変わると思っています。

僕は旅行に行くことで、いろんな世界を見ることで、いろんな考えが変わったりする部分もあるし、奥谷さんも実際にAmazonの向こうに行って、いろいろ体験をされることとかで、変わってきているということだと思います。

なので、何か言葉で言っても、やっぱりわからないわけですよ。だけど、実際に上海などに行って、タクシーに乗ると誰も現金を受け付けてくれないですよ。上海のタクシーは今、もう全部QR決済なんですね。QR決済じゃなかったら「お前そこでプリペイド買ってこい」と言われるわけですよ。

この世界観を見た時に、そこで初めてヤバイと思わない会社は辞めたほうがいいんじゃないかなって思います。結局は辞めるということなんですけど(笑)。

奥谷孝司氏(以下、奥谷):オイシックスドット大地に来て。

西井:そう。その時はうちに(笑)。

オムニチャネルのオンとオフを活用するやり方

西井:言葉で言うのは、やっぱり難しい部分があると思います。よくあるのが、上の方って「俺、スマホよくわからない」と、結局デバイスの話をします。

デバイスの話ではなく、体験の話をしたいです。サンフランシスコや上海など、普段の生活で体験できるところが増えてきているので、体験スペース以上に、本当に店舗でやっているところで味わうと、少しは理解が得られるんじゃないかなと思いますけどね。

井手:そうですよね。体験してみると。奥谷さん何かありますか?

奥谷:まさに体験はすごい大事で、もうちょっと現場レイヤーに話を落とすとすると、僕と西井さんの領域で言うと、例えば、まずはオンラインの売上を上げてみるのも大事です。その次に例えば僕のように、オムニチャネルのオンとオフを活用するやり方があって、どっちからやってもいいです。

自分自身の身内でいきなりMUJIパスポートを作ったわけじゃなくて、最初はよくわからないECを一応勉強して、ECの売上をずっと上げ続けて、要するにマーケターだと晩年はコストセンター(注:コストだけが集計され、収益は集計されない部門)だと思われちゃう。

デジタルはよくわからないし、クリックするレートやCVRなど、いろいろ言っても何だか意味がわからないとなって、とにかくお店の売上を上げる。でも、デジタルでECだけに留まらないで、次のステップにいくって言って、会社はどちらがやりたいですかと聞く。

逆にデジタルマーケティングばかりやっているところが、むしろちゃんとECもやって、自社ECじゃなくてもいいので、プラットフォームでECの売上も上げる。

売りというKPIもちゃんと上げる。でも、そっちばかりやっていると今度刈り取り型になっていって、さっきいった通販企業のブランドに危機感を覚えるのと一緒になるので、やっぱりデジタルでおもしろいことをやっているバランスが大事です。

その両方の小さな成功体験をして、しかも、その説明責任を果たす。説明は別に、僕らからしたら外にいたっていいんですよ。理解できるように説明すればいいので、その会社ごとの説明の仕方があると思っています。

社内にいかにWeb広告を浸透させるか

奥谷:例えば、僕はFacebookなどのSNSのマーケティングを最初始めた頃は、アナロジーとして会社で使ったのはとにかくチラシですよ。意味なく週末にチラシづくりに何千万も使うのに、僕のWeb広告の時にはボロカス言われる。

「チラシはどうやって測るんですか?」「なぜ金土日のコミュニケーションに3日間しかもたないものに、2,000万かけて良くて、アプリ作ったら何でダメなんですか?」と思いました。

例えばそれをFacebookでまだ単価とかいろいろありましたが「(チラシにかかる予算を)これだけまいたら、1クリック頭約数円で計算しても、タダメディアでこれだけ稼げますよ」というようなことを言いました。

要するにデジタルのターミノロジー(専門用語)はあまり使わないで理解させたら、もう意思決定してくれればいい。「じゃあ、それで行こう」と(上司が)言ってくれたら、あとはやりたい放題。そういうことにも啓蒙する時にも、「こうだから」と言っても向こうはわからないので、なるべくその会社の言語に合わせるという。

そこから勝ちパターンを見つければいい。実際には、みなさん大事だなと思っていて、「俺もそう思う」という人をいかに増やすかですね。Me tooだと思っている人はいっぱいいるんですけど、誰も言ってくれないので、何回かはボコボコにされるんですけど、Me tooという人を増やすということ。

西井:例えば、社外の人にそういうのを言ってもらうのがいいと思います。奥谷さんを連れて行って、「奥谷さんが他の会社の社長によくやってますけど」と社内の人に言うと、「お前生意気だ」って言われる。

だから、社外からちょっと偉い人を借りてきて、社長の前で「いや世界ではこうだよ」「お宅の会社はどうですか?」と言われると、「ヤバイね」になるので、そこに眼をつけるのは意外にありです。

コアなファンがどの程度いるか

井手:じゃあ、そろそろ時間がきてしまったので、会場から質問を募りたいと思うのですが、質問したいという方はいらっしゃいますか?

質問者1:今日はありがとうございました。めっちゃ楽しかったです。ブランドという言葉が何回も出てきたと思うんですけど、けっこうロングタームなことなのかなとは思うのですが。

今感じているのが、便利さだけではなくて、熱く心情的に共感できるブランドなどにぐっときて、何か店舗で話しかけるのもすごいうれしかったりするんですね。

例えば、ファクトリエさんもそうですし、つい最近本で読んだ「SHOE DOG」も、NIKEのストアに行って店舗の人と話して共感するだけでも、何か「萌え」となったりみたいな。

お2人がそういうようなブランドを作っていきたいのかなと勝手に想像しているのですが。どれぐらいコアなファンがオイシックスにいらっしゃったりするのかと。ファンづくりを、どうデジタルを含めて考えていらっしゃるのかを教えてください。

奥谷:そこは正直オイシックスで厳しめにいうと、まだまだ獲得至上主義なところがありすぎて、正直僕もオウンドメディアみたいなものを作ってみたんですけど、そもそも時間がかかる。

さっき言ったようにすぐにはKPIなんて見えないので、「やっぱり止めよう」みたいな話になっちゃうんですよね。なのでオイシックスにおいても、まだまだできてないところはそういうところかなと思っていて。

ただ今「大地を守る会」などと一緒に仕事をしていると、大地を守る会にはすごいファンがいて、僕らの統合マーケティング部というイベント室があって、彼らのイベントとかも一緒にやるんですけど、お客さんに「何だよあのクソババア」とか言いながら、かなり仲良くやっているんですね。それはそれですごいなと思うんですよ。

ただ、そこに対してもう少し厳しく言うと、ファンと繋がっているからじゃあ売上が上がっているのかもすごく大事です。だからバランスがすごい大事で、まだまだ今だと10のうち2ぐらい。まだ(買収した)「らでぃっしゅぼーや」さんとのことは詳しく僕はわかってないですけど、やっぱり「(サービスを)作ればいいか」ということと、バランスがすごい大事だと思うんですね。

売上もブランド力もしっかり作る

奥谷:売上もちゃんと取る、ブランド力もしっかり作る。大きな会社にお勤めの方は、半分アドバンテージがあって、もうブランドができています。ただ、ブランド性だと、西井さんがおっしゃった、買わせるまでのブランドにしていくんだとしたら、それは早く止めたほうが良くて、一番見たくない真実は、「買った後」にあるんですよね。

そこを見続けるようなことをオイシックスはもっとやらなければいけないんですけど、それをやり続けるのは実はデジタルでも何でもなくて、単なる人間力だと思うんですよね。やっぱりCSとかの人のほうがそういうのをよほど知っているという、その不都合な真実と向き合える会社はブランド力が強くなると思って、そこって別に戦略ではない。

実は昔からあることで、それを見ていないことをどうカバーしていくか、僕はオイシックスでもそれは何とかしていかないといけないと思いますし、企業全体、他の会社さんも含めてそうですけど、主要商品を見ることが大事なんじゃないかなと思います。

西井:たぶん僕も奥谷さんも、僕も(前は)ドクターシーラボだし、奥谷さんも(前は)MUJIだし、どっちもすごい熱狂的なお客さんがいた経験を持っているので、今、僕らがオイシックスでやっていることがまだまだ足りてないなということは、すごく思っています。大地を守る会など、「熱狂的なお客さんがいても実は……」という、今言っている通りなんだけど、そこを上手くちゃんと作っていく。

いわゆる時代的に機能の差別化とか、そこだけじゃぜんぜんもうできない時代なので、そこはお客様とお客様とどう繋がって、また新しい風を作っていくかなどをしっかり作らなければ長期的な付き合いはできないと僕は思います。

パーソナライズ化に期待している

質問者2:生産者と消費者の間をエンドエンドでちゃんと繋げて見ていくというようなモデルにだんだん変わっていくと思うんですけど。

例えば、オイシックスで言うと、買った野菜がどう最終的に使われたかとか、そういったところまできちんとトレースして、生産者へまたフィードバックしていく世界でどんどんがんばっていく。

そこの作り方とか、Amazonみたいな大きなプラットフォーマーじゃないところで、どこまで最終的な指標のデータを作っていくか、例えばクックパッドさんと連携するか。それぞれのブランドとか利用者みたいなところが、そういうところで深くとっていくようになれるのか。そういったところで考えるところはありますか?

奥谷:僕の一方で、西井さんがやっている、パーソナライズ化にすごく期待している部分もあるんですけど、まだまだ広大なデータしかとれてないんですよね。実際にオイシックスが届いて冷蔵庫に入れていただいて、何日後に消費されたということを知ろうとすると、フード業界のNPOのようなものを作っていかないといけないと思っていて。

例えば、キュウリは何日以内に食べたほうがいいということに対して、「ちゃんと食べましたか」と聞くのがいいのかわからないけども。何らかのレコメンデーションレシピを提供することだったり。

「何食べよう」というゴールセッティング

奥谷:例えば、ミールキットはゴールセッティングはできているので、料理業界のイノベーションプロダクトだとすごく思っているんですけども。

「今日何作ろう」ではなくて、「何食べよう」ということをテンダーにしようとオイシックスさんが言っています。「何食べよう」というのは楽しい料理だと思うんですよね。昨日、ぐるなびがデータ分析しているのを見たり、飯を食ってたので、例えばの僕の妄想なんですけど。

もう作るものはわかっているので、ああいうミールキットが何も考えないでものすごい増えると、すごい大変なのは料理1個ずつに使う食材がいっぱいなんですよね。例えば、キャベツをなるべく上手く使って、和食・洋食・中華ができたら、ものすごい量の野菜をバァーっとキャベツ農家さんからいっぱい仕入れて。

でも、みんな味が違って、ちゃんと「これアラガミなんとかさんとコラボしたXXメニューと、次はこれで、これで」とやると。ものすごいSKU(注:受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位)が増えて、実はロスも出ちゃう。

そういう意味では何をどう、メニューを作るかという意味でも、もしかしたらおっしゃるような分析をしっかりして、どんな野菜で、どのぐらいのメニューが作れるか。実はAIやパーソナライズ化などをやるとできるんじゃないかと思います。

奥谷:例えば、ぐるなびさんのルールのお話でおもしろいなと思ったのが、メニューの見せ方とか、ネットっぽいんですよね。昨日も話したんですけど、気仙沼という言葉に僕は惹かれるのか、昨日中華に行ったんですけど、例えばスープに惹かれているのか。でも、ぜんぜんまともなメニューは読んでぜんぜん理解できないですよ。

フランス語のカタカナで「ふわふわーん」っと書かれたら、はっきり言って「ふわふわーん」がよくわかりませんやん。白身魚で白身魚っていったら、食べない人はわからないですよ。

例えばネットなんかだと写真を見て、「これいいな」となるじゃないですか。ここって複雑な意思決定が出てると思っています。でも、そこら辺ほど、分析的なスーパーはいろんな競合の多種を組み合わせている。これからオイシックスには可能性がありますよね。

お客さんの体験設計を先にする

西井:そうですね。奥谷さんの本に書いてあって、すごくおしゃれだと思ったのは、お客さんは自分の情報を売って、自分の生活に役に立つと思うと出してくる。そうじゃないと出さない。

僕なんだから個人情報保護とか、僕個人の話だけでいうと、別に僕の個人情報はいくらでも使われてもいい。変な不動産屋からよく電話がかかってきますけど、それぐらいが嫌なことです。

もっと自分の生活の上になると、Amazonがまさにそうだと思いますけど、閲覧や講義を持って、自分の買いやすい本がレコメンドされていたり、自分のお気に入りのZOZOみたいにブランドが値下げした時に通知がくるのは、すごくうれしいことなので。

どちらかというと、お客さんの体験設計を先にして、この体験を作るために、この情報をくださいというと、素直にくれる場合もあるし、もらえない場合はどのデータを使うかなどがけっこう大事かなとか。

エリア的にいうと、多分オイシックスで言うと、生産のところに関しては多分僕らがそこをやるというよりは、そこはあくまでタッグを組んで、今のパートナーさんとしてやるほうが多いと思うんですよ。

僕ら外食にも基本いかないと思うんですよね。外食や生産のところとか、行かないとなると怖いんですけど。行かないと思うので、そこはいい会社さんとちゃんと組んで、僕らの一番の強みはお客さんと繋がっていることなんで、お客さんにいいサービスを提供するためのデータは、何らかそういったところと組んで採っていけばいいかなと。

何でもかんでもとってくればいいことではないのは、すごく思いますね。

井手:お時間が来てしまいましたので、今回のイベントに関しては、終了とさせていただきたいと思うのですが、繰り返しになりますけど、こちらの本ですね。あちらのカウンターで販売しておりますので、ぜひよかったら買っていってもらいたいです。

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

2人からオイシックスについていろいろお話しいただいたのですが、マーケティングとしてもすごい学べることが多いなと思ったので、2人の手腕に掛かっているかと思うのですけど、ぜひ、使ってみてもらいたいなと思っています。

最後に今日朝早くからいらっしゃった、拍手で感謝を伝えたいなと思います。じゃあ、みなさんよろしくお願いします。

奥谷:ありがとうございます。

西井:ありがとうございます。

(会場拍手)

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